(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127079
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】シール装置および回転機械
(51)【国際特許分類】
F16J 15/447 20060101AFI20240912BHJP
F16J 15/44 20060101ALI20240912BHJP
F01D 11/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F16J15/447
F16J15/44 A
F01D11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035945
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 真人
(72)【発明者】
【氏名】大村 尚登
(72)【発明者】
【氏名】岩津 広大
【テーマコード(参考)】
3G202
3J042
【Fターム(参考)】
3G202KK05
3G202KK06
3G202KK17
3G202KK34
3J042AA03
3J042BA03
3J042CA02
3J042CA10
3J042CA13
3J042CA17
3J042DA01
3J042DA13
(57)【要約】
【課題】シール装置および回転機械において、静止体と回転体との間の流れを抑制することで回転体の不安定振動を抑制してシール性能の向上を図る。
【解決手段】静止体と回転体との間に配置されるシール装置において、静止体に設けられるシールリングと、シールリングの内周面における前記回転体側に開口する複数の凹部と、シールリングと回転体との間を流れる流体を前記凹部に案内する案内部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止体と回転体との間に配置されるシール装置において、
前記静止体に設けられるシールリングと、
前記シールリングの内周面における前記回転体側に開口する複数の凹部と、
前記シールリングと前記回転体との間を流れる流体を前記凹部に案内する案内部と、
を備えるシール装置。
【請求項2】
前記案内部は、前記凹部より流体の流れ方向の上流側に設けられて前記シールリングの内周面における前記回転体側に開口する案内凹部を有する、
請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
前記案内凹部は、前記シールリングにおける径方向の深さが、前記凹部の前記シールリングにおける径方向の深さ以下である、
請求項2に記載のシール装置。
【請求項4】
前記案内凹部は、前記シールリングの周方向に沿って設けられて複数の前記凹部に連通する周方向溝を有する、
請求項2または請求項3に記載のシール装置。
【請求項5】
前記案内凹部は、前記シールリングと前記回転体との隙間から前記回転体の回転により発生する旋回流に沿って前記凹部に連通する傾斜溝を有する、
請求項2または請求項3に記載のシール装置。
【請求項6】
前記案内部は、前記凹部より流体の流れ方向の上流側に設けられて前記シールリングの内周面から前記回転体側に突出する案内部材を有する、
請求項1に記載のシール装置。
【請求項7】
流体の流れ方向の上流側の前記凹部と前記凹部より流体の流れ方向の下流側の前記案内凹部とを連通すると共に前記回転体の回転により発生する旋回流に交差する方向に沿って設けられる連通部を有する、
請求項2に記載のシール装置。
【請求項8】
静止体と、
前記静止体に回転自在に支持される回転体と、
前記静止体と前記回転体との間に配置される請求項1に記載のシール装置と、
を備える回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シール装置および回転機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転機械は、ハウジングの内部に回転体が回転自在に支持される。また、回転機械は、ハウジングと回転体との間における流体の軸方向の漏れ流れを防止するシール装置が設けられる。従来のシール装置として、例えば、特許文献1に記載された技術がある。特許文献1に記載されたシール装置は、ハウジングに回転体側に開口する複数の凹部を設けたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転機械は、ハウジングに対して回転体が回転すると、ハウジングと回転体との間にスワールが発生する。ハウジングに対して回転体が径方向に変位すると、スワールにより不均一な圧力分布が発生する。不均一な圧力分布が発生すると、回転体の振れ回りを助長するようなシール励振力が発生し、回転体は、自励振動を引き起こし、不安定振動が生じるおそれがある。従来のシール装置は、ハウジングと回転体との間のスワールによる流体を複数の凹部に流し込むことで、流体の旋回力を減衰し、シール励振力を低減するものである。ところが、近年の回転機械では、高速化や高出力化が指向されスワールや流量が増加する傾向にあり、シール励振力起因の振動トラブルの発生リスクが増大している。従来のシール装置では、シール励振力を十分に低減することができず、改善が望まれている。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、静止体と回転体との間の流れを抑制することで回転体の不安定振動を抑制してシール性能の向上を図るシール装置および回転機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のシール装置は、静止体と回転体との間に配置されるシール装置において、前記静止体に設けられるシールリングと、前記シールリングの内周面における前記回転体側に開口する複数の凹部と、前記シールリングと前記回転体との間を流れる流体を前記凹部に案内する案内部と、を備える。
【0007】
本開示の回転機械は、静止体と、前記静止体に回転自在に支持される回転体と、前記静止体と前記回転体との間に配置される前記シール装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示のシール装置および回転機械によれば、静止体と回転体との間の流れを抑制することで回転体の不安定振動を抑制してシール性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、蒸気タービンの概略構成を表す概略図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のシール装置を表す断面図である。
【
図3】
図3は、シール装置の断面を表す
図2のIII-III断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態のシール装置の第1変形例を表す要部断面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態のシール装置の第2変形例を表す要部断面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態のシール装置の第3変形例を表す要部断面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態のシール装置を表す断面図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態のシール装置を表す断面図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態のシール装置の第1変形例を表す要部断面図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態のシール装置を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
[第1実施形態]
<蒸気タービン>
図1は、蒸気タービンの概略構成を表す概略図である。
【0012】
第1実施形態では、回転機械として、蒸気タービンを適用して説明する。但し、回転機械は、蒸気タービンに限定されるものではなく、静止体に対して回転体が回転自在に支持される構成であればよい。
【0013】
図1に示すように、蒸気タービン(回転機械)10は、ケーシング(静止体)11と、ロータ(回転体)12と、静翼13と、動翼14と、シール装置15,16とを備える。
【0014】
ケーシング11は、中空形状をなし、内部にロータ12が水平方向に沿って配置される。ロータ12は、ケーシング11に設けられた軸受21,22により軸心O1を中心として回転自在に支持される。静翼13は、ケーシング11の内周部にロータ12の軸方向に間隔を空けて複数固定される。動翼14は、ロータ12の外周部に軸方向に間隔を空けて複数固定される。静翼13は、ロータ12の径方向Rに沿うと共に、ロータ12の周方向に間隔を空けて配置される。動翼14は、ロータ12の径方向Rに沿うと共に、ロータ12の周方向に間隔を空けて配置され、静翼13と動翼14は、軸方向に交互に配置される。
【0015】
ケーシング11は、軸方向の一端部に蒸気供給口23が設けられる。蒸気供給口23は、蒸気通路24を通して静翼13および動翼14が配置される翼列部25に連通される。翼列部25は、排気室26に連通する。ケーシング11は、軸方向の他端部に蒸気排出口27が設けられる。蒸気排出口27は、排気室26に連通する。
【0016】
シール装置15は、軸方向の一端部側で、ケーシング11とロータ12との間に配置される。シール装置15は、ラビリンスシールであって、ケーシング11の内周部に設けられる。シール装置15は、シールフィンとロータ12との間に形成される隙間により圧力損失を発生させ、圧力損失により軸方向における流体の漏れ流れを抑制する。シール装置16も、シール装置15と同様である。
【0017】
高圧の蒸気は、蒸気供給口23から蒸気通路24を通して翼列部25に供給される。蒸気が複数の静翼13および複数の動翼14を通過することで、各動翼14を介してロータ12が駆動回転する。ロータ12は、図示しない発電機が連結されており、ロータ12の駆動力により発電機が駆動する。各動翼14を駆動した蒸気は、排気室26を通して蒸気排出口27から外部に排出される。
【0018】
<シール装置の構成>
図2は、第1実施形態のシール装置を表す断面図、
図3は、シール装置の断面を表す
図2のIII-III断面図である。
【0019】
図1および
図2に示すように、シール装置15は、ケーシング(静止体)とロータ(回転体)12との間に配置される。シール装置15は、ロータ12の軸方向の一方側(
図2の左方側)が高圧空間部HPとなり、ロータ12の軸方向の他方側(
図2の右方側)が低圧空間部LPとなる。シール装置15は、高圧空間部HPから低圧空間部LPへ漏れる流体(蒸気)の流れFの流れを抑制する。
【0020】
シール装置15は、シールリング31と、複数の凹部32と、複数の周方向溝(案内部、案内凹部)33とを備える。
【0021】
シールリング31は、円筒形状をなし、外周面31aがケーシング11の内周面11aに固定される。シールリング31は、内周面31bがロータ12の外周面12aに対向し、内周面31bと外周面12aとの間に径方向に沿う隙間Sが軸方向に沿って形成される。シール装置15は、ケーシング11とロータ12との間、具体的には、シール装置15におけるシールリング31の内周面31bとロータ12の外周面12aとの間の隙間Sを流れる流体の流れFを抑制する。
【0022】
この場合、ケーシング11に対してロータ12が回転方向Aに回転していることから、シール装置15は、シールリング31とロータ12との間の隙間Sに流れる流れFは、回転方向Aの旋回成分を含んだものとなる。すなわち、シールリング31とロータ12との間の隙間Sに流れる流れFは、ロータ12の軸方向の流れ成分と周方向の流れ成分が合成された旋回流となる。すると、旋回流である流れFは、シール装置15で励振力が発生し、ロータ12が不安定振動してしまう。本実施形態のシール装置15は、ロータ12の回転運動により誘起される流体の旋回運動を抑制するものである。
【0023】
複数の凹部32は、シールリング31の内周面31bにおけるロータ12側に開口する。複数の凹部32は、シールリング31の内周面31bに格子状に設けられているが、千鳥格子状に設けてもよい。複数の凹部32は、隣接する凹部32同士が間隔を空けて設けられる。複数の凹部32は、全てが同様の形状をなすが、異なる形状であってもよい。
【0024】
凹部32は、シールリング31の内周面31bからシールリング31の径方向の外方に沿って形成された所定長さ(深さ)の穴である。凹部32は、ロータ12側に開口する円柱形状をなす。但し、凹部32は、円柱形状に限定されるものではなく、例えば、円柱形状に円錐形状を付加した形状としたり、円錐形状や円錐台形状などとしたりしてもよい。
【0025】
周方向溝33は、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体を凹部32に案内する案内部として機能する。周方向溝33は、凹部32より流体の流れ方向の上流側に設けられ、シールリング31の内周面31bにおけるロータ12側に開口する案内凹部として機能する。周方向溝33は、シールリング31の周方向に沿って設けられ、複数の凹部32に連通する。
【0026】
複数の凹部32は、シールリング31の内周面31bに開口し、シールリング31の内周面31bに格子状に設けられる。複数の周方向溝33は、軸方向に対して同様の位置にあり、且つ、周方向に間隔を空けて配置された一群の凹部32に対して、それぞれ流体の上流側に連通するように配置される。つまり、凹部32と周方向溝33をシールリング31の径方向の外側から見たとき(
図3)、周方向溝33は、周方向に間隔を空けて配置された複数の凹部32に対して、下流側の一部が凹部32の上流側の一部に重なるように配置される。
【0027】
凹部32は、中心Oを有し、中心Oの円弧である内壁面32aと、天井面32bとを有する。周方向溝33は、流体の流れ方向の上流側に位置する上流壁面33aと、流体の流れ方向の下流側に位置する下流壁面33bと、天井面33cとを有する。凹部32は、シールリング31の径方向の深さH1を有し、周方向溝33は、シールリング31の径方向の深さH2を有する。周方向溝33の深さH2は、凹部32の深さH1以下である。具体的に、周方向溝33の深さH2は、凹部32の深さH1の1/20倍から1倍の範囲にあることが好ましい。本実施形態では、周方向溝33の深さH2は、凹部32の深さH1と同じ深さとなっている。そのため、凹部32の天井面32bと周方向溝33の天井面33cは、段差なく連続する。
【0028】
また、凹部32と周方向溝33をシールリング31の径方向の外側から見たとき(
図3)、凹部32の中心Oに対して、凹部の内壁面32aと周方向溝33の下流壁面33bとの交点P1,P2をなす角度θは、30度から180度の範囲にあることが好ましい。本実施形態では、角度θは、180度となっている。
【0029】
なお、周方向溝33は、シールリング31に周方向に連続して設けられているが、周方向に断続するように複数設けてもよい。また、周方向溝33は、凹部32ごとに個別に設けてもよい。
【0030】
<シール装置の作用>
ケーシング11およびシール装置15に対してロータ12が回転すると、高圧空間部HPからシールリング31とロータ12との隙間Sを通って低圧空間部LPに漏れる流体の流れFが発生する。流体の流れFは、ロータ12が回転方向Aに回転することから、高圧空間部HPから低圧空間部LPに向けてロータ12の軸方向に沿いながら、徐々にロータ12の回転方向Aに旋回するものとなる。
【0031】
このとき、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、一部が複数の凹部32内に入り込むことで、流れFが有する運動エネルギが減衰される。そのため、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、旋回方向成分が減衰されて速度が低下する。
【0032】
また、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、周方向溝33に案内された流体の流れF1として凹部32に入り込む。流体の流れFは、ロータ12の回転方向Aに旋回する旋回流であり、周方向溝33から凹部32に入り込んだ流体の流れF1は、凹部32の内壁面32aに沿って旋回して周方向溝33に戻される。そのため、周方向溝33は、隙間Sから入り込んだ流体の流れF1と凹部32から戻る流体の流れF2とが衝突して干渉する。流体の流れF1と流体の流れF2が干渉すると、混合損失が発生して流れF1,F2の運動エネルギが低減される。つまり、周方向溝33は、スワールブレーカとして機能する。シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、旋回方向成分が減衰されることで、速度が低下する。
【0033】
その結果、シールリング31とロータ12との隙間Sを漏れて流れる流体の流れFは、速度が低下されることで、ケーシング11とロータ12との間の流体の漏れ流れFの流量を抑制することができ、励振力の発生を抑制してロータ12の不安定振動を抑制してシール性能を向上することができる。
【0034】
<周方向溝の第1変形例>
図4は、第1実施形態のシール装置の第1変形例を表す要部断面図である。
【0035】
図4に示すように、シール装置15Aは、シールリング31と、複数の凹部32と、複数の周方向溝33Aとを備える。シールリング31と複数の凹部32は、第1実施形態と同様である。
【0036】
周方向溝33Aは、凹部32より流体の流れ方向の上流側に設けられ、シールリング31の内周面31bにおけるロータ12側に開口する。周方向溝33Aは、シールリング31の周方向に沿って設けられ、複数の凹部32における流体の流れ方向の上流側に連通する。周方向溝33Aは、周方向に間隔を空けて配置された複数の凹部32に対して、下流側の一部が凹部32の上流側の一部に重なるように配置される。そして、凹部32と周方向溝33をシールリング31の径方向の外側から見たとき(
図4)、凹部32の中心Oに対して、凹部の内壁面32aと周方向溝33Aの下流壁面33bとの交点P1,P2をなす角度θは、180度より小さく角度となっている。
【0037】
<周方向溝の第2変形例>
図5は、第1実施形態のシール装置の第2変形例を表す要部断面図である。
【0038】
図5に示すように、シール装置15Bは、シールリング31と、複数の凹部32と、複数の周方向溝33Bとを備える。シールリング31と複数の凹部32は、第1実施形態と同様である。
【0039】
周方向溝33Bは、凹部32より流体の流れ方向の上流側に設けられ、シールリング31の内周面31bにおけるロータ12側に開口する。周方向溝33Bは、シールリング31の周方向に沿って設けられ、複数の凹部32における流体の流れ方向の上流側に連通する。周方向溝33Bは、周方向に間隔を空けて配置された複数の凹部32に対して、下流側の一部が凹部32の上流側の一部に重なるように配置される。そして、周方向溝33Bの深さH2は、凹部32の深さH1より小さい深さとなっている。そのため、凹部32の天井面32bに対して、周方向溝33の天井面33cが低くなり、段差が設けられる。
【0040】
<周方向溝の第3変形例>
図6は、第1実施形態のシール装置の第3変形例を表す要部断面図である。
【0041】
図6に示すように、シール装置15Cは、シールリング31と、複数の凹部32と、複数の周方向溝33Cとを備える。シールリング31と複数の凹部32は、第1実施形態と同様である。
【0042】
周方向溝33Cは、凹部32より流体の流れ方向の上流側に設けられ、シールリング31の内周面31bにおけるロータ12側に開口する。周方向溝33Cは、シールリング31の周方向に沿って設けられ、複数の凹部32における流体の流れ方向の上流側に連通する。周方向溝33Cは、周方向に間隔を空けて配置された複数の凹部32に対して、下流側の一部が凹部32の上流側の一部に重なるように配置される。そして、周方向溝33Cの深さH2は、凹部32の深さH1と同じ深さとなっている。但し、周方向溝33Cは、上流壁面33aが傾斜面となっている。すなわち、上流壁面33aは、シールリング31とロータ12との間の隙間S側に対して、天井面33c側が流体の流れ方向の下流側に位置する。
【0043】
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態のシール装置を表す断面図である。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0044】
図7に示すように、シール装置15Dは、シールリング31と、複数の凹部32と、複数の周方向溝33と、シールフィン(案内部、案内部材)34とを備える。シールリング31と複数の凹部32と、複数の周方向溝33は、第1実施形態と同様である。
【0045】
シールフィン34は、凹部32より流体の流れ方向の上流側に設けられ、シールリング31の内周面31bからロータ12側に突出する案内部材として機能する。シールフィン34は、シールリング31の周方向に沿って連続するリング形状をなす。シールフィン34は、周方向溝33より流体の流れ方向の上流側に設けられる。シールフィン34は、シールリング31の内周面31bに固定される基端に対して、ロータ12側に延びる先端が流体の流れ方向の上流側に向けて傾斜することが好ましい。
【0046】
なお、シールフィン34は、周方向溝33の上流側に設けられるが、周方向溝33をなくして凹部32の上流側に設けられていてもよい。また、シールフィン34は、リング形状をなし、シールリング31の全周に設けたが、部分的に設けてもよく、複数の凹部32に対応して位置に設けてもよい。
【0047】
ケーシング11およびシール装置15Aに対してロータ12が回転すると、隙間Sを旋回方向に漏れる流体の流れFが発生する。このとき、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、一部が複数の凹部32内に入り込むことで運動エネルギが減衰され、速度が低下する。
【0048】
このとき、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、シールフィン34により案内されて周方向溝33に入り、周方向溝33に案内された流体の流れF1として凹部32に入り込む。ここで、隙間Sから入り込んだ流体の流れF1と凹部32から戻る流体の流れF2(
図3参照)とが衝突して干渉する。流体の流れF1と流体の流れF2が干渉すると、混合損失が発生して流れF1,F2の運動エネルギが低減される。つまり、周方向溝33は、スワールブレーカとして機能する。シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、旋回方向成分が減衰されることで、速度が低下する。
【0049】
その結果、シールリング31とロータ12との隙間Sを漏れて流れる流体の流れFは、速度が低下されることで、ケーシング11とロータ12との間の流体の漏れ流れFの流量を抑制することができ、励振力の発生を抑制してロータ12の不安定振動を抑制してシール性能を向上することができる。
【0050】
[第3実施形態]
図8は、第3実施形態のシール装置を表す断面図である。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0051】
図8に示すように、シール装置15Eは、シールリング31と、複数の凹部32と、複数の周方向溝33と、傾斜溝(案内部材)35とを備える。シールリング31と複数の凹部32と、複数の周方向溝33は、第1実施形態と同様である。
【0052】
傾斜溝35は、シールリング31とロータ12との隙間Sからロータ12の回転により発生する旋回流に沿って凹部32に連通する。すなわち、傾斜溝35は、シールリング31の軸方向に対して、流体の流れ方向の下流側がロータ12の回転方向Aの下流側に向けて所定角度だけ傾斜した方向に沿って設けられる。傾斜溝35は、上流端部が周方向溝33に連通し、下流端部が凹部32に連通する。
【0053】
ケーシング11およびシール装置15Aに対してロータ12が回転すると、隙間S(
図2参照)を旋回方向に漏れる流体の流れFが発生する。このとき、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、一部が複数の凹部32内に入り込むことで運動エネルギが減衰され、速度が低下する。
【0054】
このとき、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、周方向溝33に案内され、傾斜溝35に沿って流れた流体の流れF1として凹部32に入り込む。流体の流れFは、ロータ12の回転方向Aに旋回する旋回流であり、周方向溝33から凹部32に入り込んだ流体の流れF1は、凹部32の内壁面32aに沿って旋回して周方向溝33に戻される。そのため、周方向溝33は、隙間Sから入り込んだ流体の流れF1と凹部32から戻る流体の流れF2とが衝突して干渉する。流体の流れF1と流体の流れF2が干渉すると、混合損失が発生して流れF1,F2の運動エネルギが低減される。つまり、周方向溝33は、スワールブレーカとして機能する。シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、旋回方向成分が減衰されることで、速度が低下する。
【0055】
その結果、シールリング31とロータ12との隙間Sを漏れて流れる流体の流れFは、速度が低下されることで、ケーシング11とロータ12との間の流体の漏れ流れFの流量を抑制することができ、励振力の発生を抑制してロータ12の不安定振動を抑制してシール性能を向上することができる。
【0056】
<傾斜溝の変形例>
図9は、第3実施形態のシール装置の第1変形例を表す要部断面図である。
【0057】
図9に示すように、シール装置15Fは、シールリング31と、複数の凹部32と、複数の周方向溝33と、傾斜溝(案内部材)36とを備える。シールリング31と複数の凹部32と、複数の周方向溝33は、第1実施形態と同様である。
【0058】
傾斜溝36は、シールリング31とロータ12との隙間Sからロータ12の回転により発生する旋回流に沿って凹部32に連通する。すなわち、傾斜溝36は、シールリング31の軸方向に対して、流体の流れ方向の下流側がロータ12の回転方向Aの下流側に向けて所定角度だけ傾斜した方向に沿って設けられる。傾斜溝36は、上流端部が隙間S(
図2参照)に連通し、下流端部が凹部32に連通する。傾斜溝36は、複数の凹部32に対応して設けられる。
【0059】
[第4実施形態]
図10は、第4実施形態のシール装置を表す断面図である。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0060】
図10に示すように、シール装置15Gは、シールリング31と、複数の凹部32と、複数の周方向溝33と、連通溝(連通部)41とを備える。シールリング31と複数の凹部32と、複数の周方向溝33は、第1実施形態と同様である。
【0061】
連通溝41は、流体の流れ方向の上流側の凹部32と、この凹部32より流体の流れ方向の下流側の周方向溝33とを連通する。連通溝41は、ロータ12の回転により発生する旋回流に交差する方向に沿って設けられる。すなわち、連通溝41は、シールリング31の軸方向に対して、流体の流れ方向の下流側がロータ12の回転方向Aの上流側に向けて所定角度だけ傾斜した方向に沿って設けられる。連通溝41は、シールリング31にロータ12側に開口する溝であるが、シールリング31にロータ12側に開口しない連通孔であってもよい。
【0062】
ケーシング11およびシール装置15Aに対してロータ12が回転すると、隙間S(
図2参照)を旋回方向に漏れる流体の流れFが発生する。このとき、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、一部が複数の凹部32内に入り込むことで運動エネルギが減衰され、速度が低下する。
【0063】
このとき、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、周方向溝33に案内された流体の流れF1として凹部32に入り込む。周方向溝33から凹部32に入り込んだ流体の流れF1は、凹部32の内壁面32aに沿って旋回して周方向溝33に戻される。そのため、周方向溝33は、隙間Sから入り込んだ流体の流れF1と凹部32から戻る流体の流れF2とが衝突して干渉する。流体の流れF1と流体の流れF2が干渉すると、混合損失が発生して流れF1,F2の運動エネルギが低減される。シールリング31とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFは、旋回方向成分が減衰されることで、速度が低下する。
【0064】
凹部32で旋回する流体の流れF2は、一部が連通溝41を通って周方向溝33に流れ込む。すると、凹部32から連通溝41を通って周方向溝33に流れ込む流体の流れF3は、シールリング31とロータ12との隙間Sから周方向溝33に入り込む流体の流れF1と干渉する。ここで、流体の流れF3と流体の流れF1が干渉し、混合損失が発生して流れF1,F3の運動エネルギが低減される。凹部32から連通溝41を通って周方向溝33に流れ込む流体の流れF3は、逆スワールであることから、シールリング31とロータ12との隙間Sを流れるスワールが減衰されて速度が低下する。
【0065】
その結果、シールリング31とロータ12との隙間Sを漏れて流れる流体の流れFは、速度が低下されることで、ケーシング11とロータ12との間の流体の漏れ流れFの流量を抑制することができ、励振力の発生を抑制してロータ12の不安定振動を抑制してシール性能を向上することができる。
【0066】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係るシール装置は、ケーシング(静止体)11とロータ(回転体)12との間に配置されるシール装置15,15A,15B,15C,15D,15E,15F,15Gにおいて、ケーシング11に設けられるシールリング31と、シールリング31の内周面におけるロータ12側に開口する複数の凹部32と、シールリング31とロータ12との間を流れる流体を凹部32に案内する案内部(周方向溝33,33A,33B,33C,33D、シールフィン34、傾斜溝35,36)とを備える。
【0067】
第1の態様に係るシール装置によれば、ケーシング11に対してロータ12が回転するとき、両者の間に流れる流体の漏れ流れFは、その一部が案内部に案内されて凹部32に入り込むことで運動エネルギが低減される。ケーシング11とロータ12との隙間Sから案内部に入り込む流体の流れF1は、ここで、旋回成分が減衰されて運動エネルギが低減される。そのため、ケーシング11とロータ12との間に流れる流体の漏れ流れFは、旋回方向成分が減衰されて速度が低下し、その結果、漏れ流れFを抑制することができ、ロータ12の不安定振動を抑制してシール性能を向上することができる。
【0068】
第2の態様に係るシール装置は、第1の態様に係るシール装置であって、さらに、案内部は、凹部32より流体の流れ方向の上流側に設けられてシールリング31の内周面におけるロータ12側に開口する案内凹部(周方向溝33,33A,33B,33C,33D、傾斜溝35,36)を有する。これにより、シール性能を向上することができると共に、スワールを低減することができる。
【0069】
第3の態様に係るシール装置は、第1の態様または第2態様に係るシール装置であって、さらに、案内凹部は、シールリング31における径方向の深さが、凹部32のシールリング31における径方向の深さ以下である。これにより、ケーシング11とロータ12との隙間Sを流れる流体の流れFを適正に凹部32に導入することができる。
【0070】
第4の態様に係るシール装置は、第2の態様または第3の態様に係るシール装置であって、さらに、案内凹部は、シールリング31の周方向に沿って設けられて複数の凹部32に連通する周方向溝33,33A,33B,33C,33Dを有する。これにより、シール性能を向上することができると共に、スワールを低減することができる。
【0071】
第5の態様に係るシール装置は、第2の態様から第4の態様のいずれか一つに係るシール装置であって、さらに、案内凹部は、シールリング31とロータ12との隙間Sからロータ12の回転により発生する旋回流に沿って凹部32に連通する傾斜溝35,36を有する。これにより、傾斜溝35,36により凹部32で容易に旋回流を形成することができ、流体の干渉により適切にスワールを抑制することができる。
【0072】
第6の態様に係るシール装置は、第1の態様から第5の態様のいずれか一つに係るシール装置であって、さらに、案内部は、凹部32より流体の流れ方向の上流側に設けられてシールリング31の内周面31bからロータ12側に突出するシールフィン(案内部材)34を有する。これにより、シールリング31への加工を不要とすることができ、シール性能を向上することができると共に、スワールを低減することができる。
【0073】
第7の態様に係るシール装置は、第2の態様から第6の態様のいずれか一つに係るシール装置であって、さらに、流体の流れ方向の上流側の凹部32と凹部32より流体の流れ方向の下流側の案内凹部とを連通すると共にロータ12の回転により発生する旋回流に交差する方向に沿って設けられる連通溝(連通部)41を有する。これにより、凹部32に導入された流体を連通溝41により案内凹部に導くことで、流体の干渉により適切にスワールを抑制することができる。
【0074】
第8の態様に係る回転機械は、ケーシング(静止体)11と、ケーシング11に回転自在に支持されるロータ(回転体)12と、第1の態様から第7の態様のいずれか一つに係るシール装置15,15A,15B,15C,15D,15E,15F,15Gとを備える。これにより、ケーシング11とロータ12との間に流れる流体の漏れ流れFを抑制することができ、ロータ12の不安定振動を抑制してシール性能を向上することができる。
【0075】
なお、上述した実施形態では、ケーシング11とシールリング31を別部材として構成したが、一体の部材としてもよい。すなわち、ケーシング11にシールリング31の機能を持たせ、ケーシング11に案内部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 蒸気タービン(回転機械)
11 ケーシング(静止体)
12 ロータ(回転体)
13 静翼
14 動翼
15,15A,15B,15C,15D,15E,15F,15G シール装置
31 シールリング
32 凹部
33,33A,33B,33C 周方向溝(案内部、案内凹部)
34 シールフィン(案内部、案内部材)
35,36 傾斜溝(案内部、案内凹部)
41 連通溝(連通部)