(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127083
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電力変換回路の制御装置および電力変換回路の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H02M3/155 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035958
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一馬
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS04
5H730BB14
5H730BB83
5H730DD04
5H730DD41
5H730FD61
5H730FF09
5H730FG01
5H730FG12
5H730XC14
5H730ZZ07
(57)【要約】
【課題】ソフトスイッチング制御を実行可能な電力変換回路が備える複数の半導体スイッチング素子における発熱の偏りを緩和する。
【解決手段】制御装置40はスイッチング回路30を備える電力変換回路20を制御し、スイッチング回路30は、直列接続された上アーム素子部QH1,Q3と下アーム素子部QL1,Q4とを備える複数のレグ31,32を備え、複数のレグは互いに並列接続され、上アーム素子部と下アーム素子部の少なくとも一方は半導体スイッチング素子であるスイッチおよび逆並列ダイオードを備え、電力変換回路は、主リアクトルLM1と、主リアクトルと各レグの上下アーム素子部間とに接続された副リアクトルLS1、LS2とを備え、制御装置は、各スイッチをオン状態に切り替えるタイミングの位相差を制御するスイッチング制御部41と、切替周期毎に最初にオン状態に切り替えられるスイッチを含むレグを切り替える切替部42と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング回路(30,60,61)を備える電力変換回路(20,50,51)の制御装置(40)であって、
前記スイッチング回路は、上アーム素子部(QH1~QH4)、および前記上アーム素子部の低電位側に直列接続された下アーム素子部(QL1~QL4)を含むレグ(31~34)を複数有し、
複数の前記レグは互いに並列接続され、
前記上アーム素子部および前記下アーム素子部のうち、一方の素子部は、半導体スイッチング素子(SH1~SH4,SL1~SL4)および前記半導体スイッチング素子に逆並列に接続される逆並列ダイオード(DH1~DH4,DL1~DL4)を有し、他方の素子部は、前記半導体スイッチング素子および前記逆並列ダイオード、または、前記逆並列ダイオードと同じ方向で接続されるダイオードを有し、
前記電力変換回路は、主リアクトル(LM1,LM13,LM24)と、副リアクトル(LS1~LS4)と、をさらに備え、
前記副リアクトルは、前記主リアクトルの一端と、複数の前記レグのうち少なくとも1つのレグが有する前記上アーム素子部及び前記下アーム素子部の接続点とを接続し、
前記制御装置は、スイッチング制御部(41)と、切替部(42)と、を備え、
前記スイッチング制御部は、
複数の前記レグに含まれる前記各半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行い、
複数の前記レグのうち、基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングと、前記基準レグ以外の残余レグに含まれる前記半導体スイッチング素子であって、前記基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子と同アームの半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングとの位相差を制御し、
前記切替部は、前記各半導体スイッチング素子の1スイッチング周期よりも長い切替周期(Tc)毎に、最初にオン状態に切り替えられる前記半導体スイッチング素子を含む前記レグを切り替える切替制御を実行する、電力変換回路の制御装置。
【請求項2】
前記レグとして、第1上アーム素子部(QH1)および第1下アーム素子部(QL1)を含む第1レグ(31)と、第2上アーム素子部(QH2)および第2下アーム素子部(QL2)を含む第2レグ(32)と、を備え、
前記副リアクトルとして、第1副リアクトル(LS1)および第2副リアクトル(LS2)を備え、
前記第1副リアクトルは、前記主リアクトルの一端と、前記第1上アーム素子部及び前記第1下アーム素子部の接続点とを接続し、
前記第2副リアクトルは、前記主リアクトルの一端と、前記第2上アーム素子部及び前記第2下アーム素子部の接続点とを接続し、
前記第1下アーム素子部および前記第2下アーム素子部は、前記半導体スイッチング素子(SL1,SL2)および前記逆並列ダイオード(DL1,DL2)を有し、
前記基準レグは、前記第1レグであり、
前記残余レグは、前記第2レグであり、
前記スイッチング制御部は、前記第1レグの前記第1下アーム素子部が有する前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングと、前記第2レグの前記第2下アーム素子部が有する前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングとの位相差を制御する、請求項1に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項3】
前記第1副リアクトル及び前記第2副リアクトルのインダクタンスが等しい請求項2に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項4】
前記第1副リアクトル及び前記第2副リアクトルが互いに磁気的に結合されている請求項2又は3に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項5】
前記切替部は、前記切替周期を、人が音を大きく感じる周波数範囲外に相当する長さに設定する請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項6】
前記切替部は、前記切替周期を、周波数に換算して250Hz以下に相当する長さに設定する請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項7】
前記切替部は、前記切替周期を、周波数に換算して8kHz以上に相当する長さに設定する請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項8】
前記切替部は、前記切替制御を実行する切替周期において、所定の条件を満たす場合には、前記切替制御を実行しない請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項9】
前記レグは、前記半導体スイッチング素子に並列接続されたスナバコンデンサ(CH1~CH4,CL1~CL4)を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項10】
前記副リアクトルは、前記主リアクトルよりインダクタンスが小さい請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項11】
スイッチング回路(30,60,61)を備える電力変換回路(20,50,51)の制御プログラムであって、
前記スイッチング回路は、上アーム素子部(QH1~QH4)、および前記上アーム素子部の低電位側に直列接続された下アーム素子部(QL1~QL4)を含むレグ(31~34)を複数有し、
複数の前記レグは互いに並列接続され、
前記上アーム素子部および前記下アーム素子部のうち、一方の素子部は、半導体スイッチング素子(SH1~SH4,SL1~SL4)および前記半導体スイッチング素子に逆並列に接続される逆並列ダイオード(DH1~DH4,DL1~DL4)を有し、他方の素子部は、前記半導体スイッチング素子および前記逆並列ダイオード、または、前記逆並列ダイオードと同じ方向で接続されるダイオードを有し、
前記電力変換回路は、主リアクトル(LM1,LM13,LM24)と、副リアクトル(LS1~LS4)と、をさらに備え、
前記副リアクトルは、前記主リアクトルの一端と、複数の前記レグのうち少なくとも1つのレグが有する前記上アーム素子部及び前記下アーム素子部の接続点とを接続し、
前記制御プログラムは、コンピュータに、スイッチング制御ステップと、切替ステップとを実行させ、
前記スイッチング制御ステップは、
複数の前記レグに含まれる前記各半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行い、
複数の前記レグのうち、基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングと、前記基準レグ以外の残余レグに含まれる前記半導体スイッチング素子であって、前記基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子と同アームの半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングとの位相差を制御するステップであり、
前記切替ステップは、前記各半導体スイッチング素子の1スイッチング周期よりも長い切替周期(Tc)毎に、最初にオン状態に切り替えられる前記半導体スイッチング素子を含む前記レグを切り替える切替制御を実行するステップである、電力変換回路の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電力変換回路の制御装置および制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、ソフトスイッチングコンバータが記載されている。このコンバータのスイッチング回路は、ダイオードFD1,FD2と、半導体スイッチング素子SW1,SW2およびこれに逆並列に接続された逆並列ダイオードAPD1,APD2と、を直列接続したスイッチングアセンブリPSA1,PSA2を並列接続した状態で備えている。ダイオードFD1,FD2と、半導体スイッチング素子SW1,SW2との間には、それぞれ転流インダクタLC1,LC2の一端が接続されている。2つの転流インダクタLC1,LC2の他端は主インダクタLMに接続されている。半導体スイッチング素子SW1,SW2は、所定の位相差でスイッチング制御される。インダクタLM,LC1,LC2の共振動作によりダイオードFD1,FD2における逆方向電流が抑制されるため、半導体スイッチング素子SW1,SW2のターンオン時にスイッチング損失を低減したソフトスイッチングが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、ソフトスイッチングのために、一方の半導体スイッチング素子を常に先にターンオンし、他方の半導体スイッチング素子を常に後にターンオンすると、先にターンオンする半導体スイッチング素子は、後にターンオンする半導体スイッチング素子と比較して大きな電流が長時間流れ、発熱量が大きくなる。
【0005】
上記に鑑み、本発明は、ソフトスイッチング制御を実行可能な電力変換回路が備える複数の半導体スイッチング素子における発熱の偏りを緩和する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スイッチング回路を備える電力変換回路の制御装置を提供する。前記スイッチング回路は、上アーム素子部、および前記上アーム素子部の低電位側に直列接続された下アーム素子部を含むレグを複数有し、複数の前記レグは互いに並列接続され、前記上アーム素子部および前記下アーム素子部のうち、一方の素子部は、半導体スイッチング素子および前記半導体スイッチング素子に逆並列に接続される逆並列ダイオードを有し、他方の素子部は、前記半導体スイッチング素子および前記逆並列ダイオード、または、前記逆並列ダイオードと同じ方向で接続されるダイオードを有する。前記電力変換回路は、主リアクトルと、副リアクトルと、をさらに備え、前記副リアクトルは、前記主リアクトルの一端と、複数の前記レグのうち少なくとも1つのレグが有する前記上アーム素子部及び前記下アーム素子部の接続点とを接続する。前記制御装置は、スイッチング制御部と、切替部と、を備え、前記スイッチング制御部は、複数の前記レグに含まれる前記各半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行い、複数の前記レグのうち、基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングと、前記基準レグ以外の残余レグに含まれる前記半導体スイッチング素子であって、前記基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子と同アームの半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングとの位相差を制御し、前記切替部は、前記各半導体スイッチング素子の1スイッチング周期よりも長い切替周期毎に、最初にオン状態に切り替えられる前記半導体スイッチング素子を含む前記レグを切り替える切替制御を実行する。
【0007】
上記の制御装置においては、スイッチング制御部は、上記の電力変換回路のスイッチング回路部が備える複数のレグに含まれる各半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行い、複数のレグのうち、基準レグに含まれる半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングと、基準レグ以外の残余レグに含まれる半導体スイッチング素子であって、基準レグに含まれる半導体スイッチング素子と同アームの半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングとの位相差を制御する。このスイッチング制御部が実行する制御により、半導体スイッチング素子のスイッチングがソフトスイッチングとなるように制御できる。最初にオン状態に切り替えられる半導体スイッチング素子を含むレグが固定化されていると、最初にオン状態に切り替えられる半導体スイッチング素子の発熱量が、他の半導体スイッチング素子の発熱量よりも大きい状態が固定化される。これに対し、切替部は、スイッチング制御部によって最初にオン状態に切り替えられる半導体スイッチング素子が含まれるレグを切り替える切替制御を実行する。この切替制御により、複数のレグに含まれる複数の半導体スイッチング素子のいずれかに発熱が偏る状態が固定化されること阻止できる。その結果、ソフトスイッチング制御を実行可能な電力変換回路が備える複数の半導体スイッチング素子における発熱の偏りを緩和できる。
【0008】
本発明は、また、上記の電力変換装置の制御プログラムとして提供することもできる。この制御プログラムは、コンピュータに、スイッチング制御ステップと、切替ステップとを実行させる。前記スイッチング制御ステップは、複数の前記レグに含まれる前記各半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行い、複数の前記レグのうち、基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングと、前記基準レグ以外の残余レグに含まれる前記半導体スイッチング素子であって、前記基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子と同アームの半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングとの位相差を制御するステップである。前記切替ステップは、前記各半導体スイッチング素子の1スイッチング周期よりも長い切替周期毎に、最初にオン状態に切り替えられる前記半導体スイッチング素子を含む前記レグを切り替える切替制御を実行するステップである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る電力変換回路の制御装置を含む電力変換システムを示す図。
【
図2】第1実施形態に係る電力変換回路が備える半導体スイッチング素子の駆動信号と素子電流とを示す図。
【
図4】第1実施形態に係る電力変換回路の制御フローチャート。
【
図6】第2実施形態に係る電力変換回路が備える半導体スイッチング素子の駆動信号と素子電流とを示す図。
【
図7】第2実施形態に係る電力変換回路が備える半導体スイッチング素子の駆動信号と素子電流とを示す図。
【
図10】変形例に係る電力変換回路の制御フローチャート。
【
図11】素子部と冷却水流路との位置関係を示す図。
【
図12】素子部と冷却水流路との位置関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
図1に示す電力変換システム10は、電力変換回路20と、制御装置40とを備える。電力変換回路20は、DCDCコンバータであり、スイッチング回路30と、主リアクトルLM1と、第1,第2副リアクトルLS1,LS2と、昇圧側高圧端子25Hと、昇圧側低圧端子25Lと、降圧側高圧端子26Hと、降圧側低圧端子26Lと、を備える。昇圧側高圧端子25Hと昇圧側低圧端子25Lとの間には、昇圧側コンデンサC23および負荷28が接続される。降圧側高圧端子26Hと降圧側低圧端子26Lとの間には、降圧側コンデンサC24、および直流電源である電源27が接続される。電力変換システム10において電力変換回路20および制御装置40は、昇圧コンバータとして機能する。
【0011】
スイッチング回路30は、第1レグ31と、第2レグ32とを備える。第1レグ31と、第2レグ32とは、昇圧側高圧端子25Hおよび昇圧側低圧端子25Lと、降圧側高圧端子26Hおよび降圧側低圧端子26Lとの間において互いに並列接続されている。
【0012】
第1レグ31は、互いに直列接続された第1上アーム素子部QH1と第1下アーム素子部QL1とを備える。第2レグ32は、互いに直列接続された第2上アーム素子部QH2と第2下アーム素子部QL2とを備える。第1上アーム素子部QH1,第2上アーム素子部QH2の高電位側は、昇圧側高圧端子25Hに接続されており、低電位側は、それぞれ、第1下アーム素子部QL1,第2下アーム素子部QL2の高電位側に接続されている。第1下アーム素子部QL1,第2下アーム素子部QL2の低電位側は、昇圧側低圧端子25L及び降圧側低圧端子26Lに接続されている。素子部QH1,QL1,QH2,QL2は、それぞれ、半導体スイッチング素子である第1上アームスイッチSH1、第1下アームスイッチSL1、第2上アームスイッチSH2、第2下アームスイッチSL2と、各スイッチSH1、SL1、SH2、SL2にそれぞれ逆並列に接続された逆並列ダイオードであるダイオードDH1、DL1,DH2,DL2と、各スイッチSH1、SL1、SH2、SL2にそれぞれ並列接続されたスナバコンデンサCH1,CL1,CH2,CL2とを備える。
【0013】
半導体スイッチング素子であるスイッチSH1、SL1、SH2、SL2は、絶縁ゲート型の半導体スイッチング素子であり、より具体的には、nチャネル型のMOSFETである。スイッチSH1、SL1、SH2、SL2は、高電位側端子であるドレインと、低電位側端子であるソースとを有している。なお、スイッチがpチャネル型のMOSFETである場合には、高電位側端子はソースであり、低電位型端子はドレインである。スイッチは、MOSFETに替えてIGBTであってもよい。スイッチがnチャネル型のIGBTである場合には、高電位側端子はコレクタであり、低電位側端子はエミッタである。スイッチがpチャネル型のIGBTである場合には、高電位側端子はエミッタであり、低電位側端子はコレクタである。ダイオードDH1、DL1,DH2,DL2は、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2と別個のダイオード素子であってもよいし、RC-IGBT素子のように半導体スイッチング素子と同一の半導体基板に作り込まれていてもよい。スナバコンデンサCH1,CL1,CH2,CL2は、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2の遮断時に生じる過渡的な高電圧を吸収するため、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2におけるターンオフ損失の低減に寄与する。
【0014】
主リアクトルLM1の第1端は、降圧側高圧端子26Hに接続されている。第1副リアクトルLS1の第1端は、主リアクトルLM1の第2端に接続されている。第1副リアクトルLS1の第2端は、第1上アーム素子部QH1の低電位側と第1下アーム素子部QL1の高電位側とに接続されている。第2副リアクトルLS2の第1端は、主リアクトルLM1の第2端に接続されている。第2副リアクトルLS2の第2端は、第2上アーム素子部QH2の低電位側と第2下アーム素子部QL2の高電位側とに接続されている。副リアクトルLS1、LS2は、インダクタンスの等しいインダクタであり、これにより、第1レグ31と第2レグ32とに流れる電流のばらつきを抑制できる。主リアクトルLM1は、副リアクトルLS1、LS2よりもインダクタンスの大きいインダクタである。スイッチSH1、SL1、SH2、SL2をターンオフする際に第1,第2副リアクトルLS1、LS2を流れる電流が反転し、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2をターンオフした際の逆回復電流を調整してスイッチング損失の低減に寄与する。第1,第2副リアクトルLS1、LS2のインダクタンスが主リアクトルLM1のインダクタンスよりも低くなるように設計することにより、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2をターンオフする際に第1,第2副リアクトルLS1、LS2を流れる電流が反転するまでの時間が極端に長くなることを抑制できる。
【0015】
制御装置40は、スイッチング制御部41(SW制御部41)と、切替部42とを備える。制御装置40は、CPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ等からなる周知のマイクロコンピュータ(マイコン)を主体に構成されている。例えば、CPUがROMにインストールされている電力変換プログラムを実行することで制御装置40が備えるスイッチング制御部41および切替部42等の機能を実現する。マイコンによって提供される機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウエアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウエアのみ、ハードウエアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供されるものであってもよい。例えば、マイコンがハードウエアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によって提供することができる。例えば、マイコンは、自身が備える記憶部としての非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行する。プログラムには、例えば、後述する電池制御処理のプログラムが含まれる。プログラムが実行されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。記憶部は、例えば不揮発性メモリである。なお、記憶部に記憶されたプログラムは、例えば、インターネット等のネットワークを介して更新可能である。
【0016】
スイッチング制御部41は、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2を操作対象とし、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2のゲート駆動信号を制御することにより、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2のオンオフ制御を実行する。ゲート駆動信号は、オン状態を指示するオン指令又はオフ状態を指示するオフ指令のいずれかをとる。スイッチング制御部41は、第1レグ31および第2レグ32に含まれるスイッチSH1、SL1、SH2、SL2をスイッチング制御する際の位相差を制御して、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2を所定の順序でスイッチングするスイッチング制御を実行する。
【0017】
図2は、第1下アーム素子部QL1および第2下アーム素子部QL2におけるスイッチSL1,SL2を制御するゲート駆動信号と、第1下アーム素子部QL1に流れる素子電流IQL1および第2下アーム素子部QL2に流れる素子電流IQL2を示している。素子電流IQL1、IQL2は、同じスケールで表示されており、スイッチSL1、SL2のドレイン側からソース側に流れる方向の電流を正とし、その逆方向であるダイオードDL1,DL2の導通方向に流れる電流の方向を負とする。スイッチング制御部41は、例えば、
図2に示すゲート駆動信号によって素子部QL1,QL2のスイッチSL1、SL2をスイッチング制御する。スイッチング制御部41は、第1下アームスイッチSL1のゲート駆動信号と、第2下アームスイッチSL2のゲート駆動信号との間の位相差を設定することにより、スイッチSL1,SL2のスイッチングのタイミングをずらしている。図示していないが、スイッチング制御部41により、第1上アームスイッチSH1は、第1下アームスイッチSL1のゲート駆動信号に対する反転信号により制御される。第2上アームスイッチSH2は、第2下アームスイッチSL2のゲート駆動信号に対する反転信号により制御される。すなわち、スイッチング制御部41は、第1レグ31を構成する第1上アームスイッチSH1,第1下アームスイッチSL1を、デッドタイムを挟みつつ交互にオン状態に切り替えられるようにスイッチング制御する。また、スイッチング制御部41は、第2レグ32を構成する第2上アームスイッチSH2,第2下アームスイッチSL2を、デッドタイムを挟みつつ交互にオン状態に切り替えられるようにスイッチング制御する。本実施形態において、各スイッチSH1,SL1,SH2,SL2の1スイッチング周期Tswは同じ長さである。
【0018】
制御装置40により実行される処理について更に説明する。第1レグ31を基準レグとし、第2レグ32を残余レグとして、第1下アームスイッチSL1をオン状態に切り替える第1タイミングに対して、第2下アームスイッチSL2をオン状態に切り替える第2タイミングを正の位相差となるように制御すると、第2下アームスイッチSL2を第1下アームスイッチSL1よりも遅いタイミングでオン状態に切り替えることができる。また、第2上アームスイッチSH2を第1上アームスイッチSH1よりも遅いタイミングでオフ状態に切り替えることができる。この場合、第1レグ31を進みレグと呼び、第2レグ32を遅れレグと呼ぶことがある。また、第1タイミングに対して第2タイミングを負の位相差となるように制御すると、第2下アームスイッチSL2を第1下アームスイッチSL1よりも早いタイミングでオン状態に切り替えることができる。この場合、第1レグ31を遅れレグと呼び、第2レグ32を進みレグと呼ぶことがある。
【0019】
切替部42は、所定の切替周期Tc毎に、切替制御を実行する。本実施形態において、切替周期Tcは、1スイッチング周期Tswよりも長い周期に設定され、具体的には例えば、2スイッチング周期「2×Tsw」よりも長い周期に設定されている。切替周期Tcは、スイッチング周期Twの整数倍に設定されていることが好ましい。切替制御は、スイッチング制御において最初にオン状態に切り替えられる半導体スイッチング素子を含むレグを切り替える制御である。具体的には、切替部42は、切替周期Tcが経過する毎に、第1タイミングに対する第2タイミングの位相差の正負を切り替える。
【0020】
最初にスイッチングされる半導体スイッチング素子を含むレグが、第1レグ31である場合には、第1下アーム素子部QL1および第2上アーム素子部QH2が昇圧回路として機能する主回路となる。第1下アームスイッチSL1がオン状態に切り替えられることにより電源27からの電力が主リアクトルLM1に蓄えられ、第1下アームスイッチSL1がオフ状態に切り替えられることにより主リアクトルLM1に蓄えられたエネルギーが負荷28側に出力される。第2下アーム素子部QL2および第1上アーム素子部QH1は、ソフトスイッチングを行うための補助回路となる。最初にオン状態に切り替えられる半導体スイッチング素子を含むレグが、第2レグ32である場合には、第2下アーム素子部QL2および第1上アーム素子部QH1が昇圧回路として機能する主回路となる。第2下アームスイッチSL2がオン状態に切り替えられることにより電源27からの電力が主リアクトルLM1に蓄えられ、第2下アームスイッチSL2がオフ状態に切り替えられることにより主リアクトルLM1に蓄えられたエネルギーが負荷28側に出力される。第1下アーム素子部QL1および第2上アーム素子部QH2は、ソフトスイッチングを行うための補助回路となる。
【0021】
図2に示すように、スイッチング制御部41は、時刻t1~時刻t2の間は、第1下アームスイッチSL1を第1タイミングでオン状態に切り替え、第2下アームスイッチSL2をオン状態に切り替える第2タイミングを第1タイミングに対して正の位相差となるように制御する。このように位相差を制御することにより、第2上アームスイッチSH2および第2下アームスイッチSL2を、第1上アームスイッチSH1および第1下アームスイッチSL1よりも遅いタイミングでスイッチングすることができる。なお、上記位相差は電力変換回路20に要求される出力電圧の大きさによって決定できる。例えば、スイッチング制御部41は、入力電圧に対して要求される出力電圧が大きいほど位相差を小さくしてスイッチSL1とスイッチSL4のオン状態が重なる時間を長くする。時刻t1~時刻t2までの間において、最初にスイッチングされる半導体スイッチング素子を含むレグは、第1上アームスイッチSH1および第1下アームスイッチSL1を含む第1レグ31である。第1レグ31を最初にスイッチングする順序でスイッチング制御を実行している間は、
図2に示すように、第1下アーム素子部QL1に流れる正の素子電流IQL1は、第2下アーム素子部QL2に流れる正の素子電流IQL2と比較して、大きい電流が長時間流れる状態となる。このため、第1下アーム素子部QL1の第1下アームスイッチSL1における発熱量が、第2下アーム素子部QL2の第2下アームスイッチSL2における発熱量よりも大きくなる。
【0022】
図2に示すように、第1下アームスイッチSL1がオン状態に切り替えられ、第1上アームスイッチSH1がオフ状態に切り替えられると、第2上アームスイッチSH2はオン状態となり、第2下アームスイッチSL2はオフ状態となる。この場合、電源27から主リアクトルLM1、第1副リアクトルLS1、第1下アームスイッチSL1に電流が流れ、素子電流IQL1は正の値となって上昇する。素子電流IQL2は負の値であり、ダイオードDL2に電流が流れているが、この電流は零に向かって小さくなる。次に、第2下アームスイッチSL2がオン状態に切り替えられ、第2上アームスイッチSH2がオフ状態に切り替えられると、第1下アームスイッチSL1はオン状態となり、第1上アームスイッチSH1はオフ状態となる。この場合、素子電流IQL1は略一定の正の値となり、素子電流IQL2は負の値であるが零に向かって小さくなる。
【0023】
次に、第1下アームスイッチSL1がオフ状態に切り替えられ、第1上アームスイッチSH1がオン状態に切り替えられると、第2下アームスイッチSL2はオン状態となり、第2上アームスイッチSH2はオフ状態となる。この場合、素子電流IQL1はほぼ零になり、素子電流IQL2は正の値となって上昇する。次に、第2下アームスイッチSL2がオフ状態に切り替えられ、第2上アームスイッチSH2がオン状態に切り替えられると、第1上アームスイッチSH1はオン状態となり、第1下アームスイッチSL1はオフ状態となる。この場合、素子電流IQL1および素子電流IQL2はほぼ零となる。
【0024】
時刻t1~時刻t2の期間の長さは、切替周期Tcの長さに相当する。すなわち、時刻t2は、時刻t1から切替周期Tc後の時刻である。
図2に示すように、時刻t2において、切替部42により、最初にスイッチングされる半導体スイッチング素子を含むレグが、第1レグ31から第2レグ32に切り替わると、素子電流IQL1と素子電流IQL2の挙動も入れ替わる。
【0025】
時刻t2において、切替部42は、第2下アームスイッチSL2をオン状態に切り替える第2基準タイミングを、第1下アームスイッチSL1をオン状態に切り替える第1タイミングに対して負の位相差となるように制御する。このように位相差を制御することにより、第2上アームスイッチSH2,第2下アームスイッチSL2を第1上アームスイッチSH1,第1下アームスイッチSL1よりも早いタイミングでスイッチングすることができる。時刻t2~時刻t3までの間において、最初にスイッチングされる半導体スイッチング素子を含むレグは、第2上アームスイッチSH2,第2下アームスイッチSL2を含む第2レグ32である。第2レグ32を最初にスイッチングする順序でスイッチング制御を実行している間は、
図2に示すように、第2下アーム素子部QL2に流れる正の素子電流IQL2は、第1下アーム素子部QL1に流れる正の素子電流IQL1と比較して、大きい電流が長時間流れる状態となる。このため、第2下アーム素子部QL2の第2下アームスイッチSL2における発熱量が、第1下アーム素子部QL1の第1下アームスイッチSL1における発熱量よりも大きくなる。
【0026】
時刻t2~時刻t3の期間の長さは、切替周期Tcの長さに相当する。すなわち、時刻t3は、時刻t2から切替周期Tc後の時刻である。時刻t3において、切替部42は、再度、第2下アームスイッチSL2をオン状態に切り替える第2タイミングを、第1下アームスイッチSL1をオン状態に切り替える第1タイミングに対して正の位相差となるように制御する。切替周期Tcが経過する毎に、第2上アームスイッチSH2,第2下アームスイッチSL2をスイッチングするタイミングにおけるタイミングに対する位相差の正負を切り替える。このように、切替周期Tcが経過する毎に、最初にスイッチングされる半導体スイッチング素子を含むレグを、第1レグ31と第2レグ32との間で切り替えることができる。これにより、電力変換回路20が備える第1上アームスイッチSH1スイッチSH1、SL1、SH2、SL2における発熱の偏りを緩和できる。
【0027】
切替周期Tcは、人が音を大きく感じる周波数範囲外となる長さに設定することが好ましい。切替制御により生じ得る耳障りな音を抑制できる。人が音を大きく感じる周波数範囲は、例えば、
図3に示す等ラウドネス曲線によって表される。
図3の縦軸は、音圧レベル(単位はdB)を示し、横軸は、周波数(単位はHz)を示している。ラウドネスとは、人が感じる音の大きさを意味し、音圧レベルが同じであっても、音の周波数によりラウドネスは異なる。ラウドネスが等しくなる音圧レベルを結んだ等高線が
図3に示す等ラウドネス曲線である。
【0028】
図3の参照番号L1は、ISO226の規格により定められる標準等ラウドネスレベル曲線である。
図3より、250Hz超~8000Hz未満の周波数範囲では、等ラウドネス曲線において音圧レベルが50dB以下程度に低い状態であるのに対して、その他の周波数範囲では、音圧レベルが50dBを超える程度に高い状態である。同じ音圧レベルの音であっても、250Hz超~8000Hz未満の周波数範囲の音は、250Hz以下もしくは8000Hz以上の周波数範囲の音と比較して、ラウドネスが大きく、人が大きな音に感じる。
【0029】
上述したとおり、切替周期Tcは、人が音を大きく感じる周波数範囲外に相当する長さに設定することが好ましい。すなわち、切替周期Tcの期間内のスイッチング制御の周波数が、人が音を大きく感じる周波数に相当する周波数範囲外となるように、切替周期Tcが設定されることが好ましい。
図3より、標準等ラウドネスレベル曲線によれば、切替周期Tcは、周波数に換算して250Hz以下に相当する長さに設定することが好ましい。もしくは、切替周期Tcは、周波数に換算して8kHz以上に相当する長さに設定することが好ましい。このように切替周期Tcを設定することにより、切替制御により生じ得る耳障りな音を抑制できる。なお、
図3に示す等ラウドネス曲線は、一例として挙げたものであり、他の規格を用いてもよい。
【0030】
切替制御により生じ得る耳障りな音を抑制するためには、人の可聴周波数範囲(20Hz~20kHz)外となる長さに、切替周期Tcを設定することが、より好ましい。切替周期Tcは、周波数に換算して20Hz以下に相当する長さ、もしくは、周波数に換算して20kHz以上に相当する長さに設定することにより、より確実に切替制御により生じ得る耳障りな音を抑制できる。
【0031】
図4は、制御装置40が実行する電力変換回路20の制御処理のフローチャートである。
図4のフローチャートに示す処理は、制御装置40を構成するCPUがROMにインストールされている電力変換プログラムを実行することにより実現され、電力変換の要求があるときに、所定の間隔で繰り返し実行される。
【0032】
ステップS101では、第1タイミングに基づいて、第1上アームスイッチSH1および第1下アームスイッチSL1をスイッチングし、第2タイミングに基づいて、第2上アームスイッチSH2および第2下アームスイッチSL2をスイッチングする。また、第2下アームスイッチSL2をオン状態に切り替える第2タイミングの位相差が、第1下アームスイッチSL1をオン状態に切り替える第1タイミングに対して、正の位相差となるように制御する。以下、この順序でスイッチング制御することを、正の位相差制御と称することがある。正の位相差制御を実行している間は、
図2の時刻t1~時刻t2の期間に示すように、第2上アームスイッチSH2および第2下アームスイッチSL2は、第1上アームスイッチSH1および第1下アームスイッチSL1よりも遅いタイミングでスイッチング制御される。
【0033】
ステップS102では、正の位相差制御の開始時からの経過時間Tpが、切替周期Tc以上であるか否かを判定する。Tp≧Tcである場合には、ステップS103に進む。Tp<Tcである場合には、ステップS101に戻り、正の位相差制御を継続する。
【0034】
ステップS103では、位相差の正負を切り替える。そして、第1タイミングに対する第2タイミングの位相差が負の位相差となるように制御する。以下、この順序でスイッチング制御することを、負の位相差制御と称することがある。負の位相差制御を実行している間は、
図2の時刻t2~時刻t3の期間に示すように、第2上アームスイッチSH2および第2下アームスイッチSL2は、第1上アームスイッチSH1および第1下アームスイッチSL1よりも早いタイミングでスイッチング制御される。
【0035】
ステップS105では、正の位相差制御の開始時からの経過時間Tnが、切替周期Tc以上であるか否かを判定する。Tp<Tcである場合には、ステップS104に戻り、負の位相差制御を継続する。Tn≧Tcである場合には、ステップS106に進む。ステップS106では、位相差の正負を切り替えて、処理を終了する。
【0036】
上記のとおり、制御装置40が実行する電力変換回路20の制御プログラム、およびこれによって実施される電力変換回路20の制御方法は、ステップS101,S104に示すように、複数のレグ(第1レグ31,第2レグ32)に含まれるスイッチSH1、SL1、SH2、SL2をスイッチング制御する際の位相差を制御して、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2を所定の順序でスイッチングするスイッチング制御を実行する、スイッチング制御ステップに相当するステップを含んでいる。このため、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2をソフトスイッチングでスイッチングできる。また、ステップS102,S103,S105,S106に示すように、切替周期Tcが経過する毎に、スイッチング制御において最初にスイッチング制御される半導体スイッチング素子が含まれるレグを切り替える切替制御を実行する、切替ステップを含んでいる。より具体的には、ステップS102,S103,S105,S106において、切替周期Tcが経過する毎に、位相差の正負を切替えることにより、最初にスイッチング制御するレグを、第1レグ31と第2レグ32との間で切り替える。このため、第1レグ31および第2レグ32に含まれるスイッチSH1、SL1、SH2、SL2のいずれかに発熱が偏る状態が固定化されること阻止できる。その結果、ソフトスイッチング制御を実行可能な電力変換回路20が備えるスイッチSH1、SL1、SH2、SL2における発熱の偏りを緩和できる。
【0037】
(第2実施形態)
図5に示す電力変換システム11は、電力変換回路50と、制御装置40とを備える。電力変換回路50は、スイッチング回路60が、第1レグ31および第2レグ32に加えて、さらに並列接続された第3レグ33をさらに備える点、および、第3レグ33に接続される第3副リアクトルLS3をさらに備える点において、スイッチング回路30と相違している。第3レグ33は、第2レグ32と、昇圧側コンデンサC23および負荷28との間に接続されている。
【0038】
第3レグ33は、互いに直列接続された第3上アーム素子部QH3と第3下アーム素子部QL3とを備える。素子部QH3,QL3は、素子部QH1,QL1,QH2,QL2と同様の素子によって構成されている。素子部QH3は、素子部QH1,QL1,QH2,QL2と同様に、半導体スイッチング素子である第3上アームスイッチSH3と、第3上アームスイッチSH3に逆並列に接続されたダイオードDH3と、第3上アームスイッチSH3に並列接続されたスナバコンデンサCH3とを備える。同様に、素子部QL3は、半導体スイッチング素子である第3下アームスイッチSL3と、第3下アームスイッチSL3に逆並列に接続されたダイオードDL3と、第3下アームスイッチSL3並列接続されたスナバコンデンサCL3とを備える。第3副リアクトルLS3の第1端は、主リアクトルLM1の第2端に接続されている。第3副リアクトルLS3の第2端は、第3上アーム素子部QH3の低電位側と第3下アーム素子部QL3の高電位側とに接続されている。第3副リアクトルLS3は、第1,第2副リアクトルLS1、LS2とインダクタンスの等しいインダクタである。
【0039】
スイッチング制御部41は、スイッチSH1~SH3,SL1~SL3を操作対象とし、スイッチSH1~SH3,SL1~SL3のゲート駆動信号を制御することにより、スイッチSH1~SH3,SL1~SL3のオンオフ制御を実行する。スイッチング制御部41は、第1~第3レグ31~33に含まれるスイッチSH1~SH3、SL1~SL3をスイッチング制御する際の位相差を制御して、スイッチSH1~SH3、SL1~SL3を所定の順序でスイッチングするスイッチング制御を実行する。第3上アームスイッチSH3は、第3下アームスイッチSL3のゲート駆動信号に対する反転信号により制御される。つまり、スイッチング制御部41は、第3レグ33を構成する第3上アームスイッチSH3,第3下アームスイッチSL3を、デッドタイムを挟みつつ交互にオン状態に切り替えられるようにスイッチング制御する。本実施形態において、各スイッチSH1,SL1,SH2,SL2,SH3,SL3の1スイッチング周期Tswは同じ長さである。
【0040】
図6は、第1下アーム素子部QL1、第2下アーム素子部QL2および第3下アーム素子部QL3におけるスイッチSL1~SL3を制御するゲート駆動信号と、第1下アーム素子部QL1に流れる素子電流IQL1、第2下アーム素子部QL2に流れる素子電流IQL2および第3下アーム素子部QL3に流れる素子電流IQL3を示す。素子電流IQL1~IQL3は同じスケールで表示されている。スイッチング制御部41は、第1下アームスイッチSL1、第2下アームスイッチSL2、および第3下アームスイッチSL3のゲート駆動信号において互いに位相差を設定することにより、スイッチングのタイミングがずれるように制御する。例えば、
図6に示すように、スイッチング制御部41は、第1レグ31を基準レグとし、第2レグ32および第3レグ33を残余レグとして、第1下アームスイッチSL1を第1タイミングでオン状態に切り替え、第2下アームスイッチSL2をオン状態に切り替える第2タイミングを第1タイミングに対して正の位相差(位相差:+A)となるように制御する。スイッチング制御部41は、第3下アームスイッチSL3を第3タイミングでオン状態に切り替え、第3基準タイミングを第1タイミングに対してより大きい正の位相差(位相差:+2A)となるように制御する。これにより、第1レグ31,第2レグ32,第3レグ33の順序で、スイッチング制御が実行される。
図6に示すように、第1下アーム素子部QL1に流れる正の素子電流IQL1は、第2下アーム素子部QL2に流れる正の素子電流IQL2および第3下アーム素子部QL3に流れる正の素子電流IQL3と比較して、大きい電流が長時間流れる状態となる。このため、第1下アーム素子部QL1の第1下アームスイッチSL1における発熱量が、第2下アーム素子部QL2の第2下アームスイッチSL2における発熱量および第3下アーム素子部QL3の第3下アームスイッチSL3における発熱量よりも大きくなる。
【0041】
切替部42は、所定の切替周期Tc毎に、スイッチング制御において最初にスイッチングされる半導体スイッチング素子が含まれるレグを切り替える切替制御を実行する。例えば、
図6に示すように、時刻t1から切替周期Tcが経過した時刻t2において、切替部42は、スイッチSH2,SL2,SH3,SL3をスイッチングするタイミングにおけるタイミングに対する位相差の正負を切り替える。具体的には、第2下アームスイッチSL2をオン状態に切り替える第2タイミングを第1タイミングに対して正の位相差(位相差:+A)から負の位相差(位相差-A)に切替制御する。切替部42は、第3下アームスイッチSL3をオン状態に切り替える第3基準タイミングを第1タイミングに対して正の位相差(位相差:+2A)から負の位相差(位相差:-2A)に切替制御する。これにより、第3レグ33,第2レグ32,第1レグ31の順序で、スイッチング制御が実行され、最初にスイッチングされる半導体スイッチング素子を含むレグを切り替えることができる。
図6に示すように、時刻t2以降において、第3下アーム素子部QL3に流れる正の素子電流IQL3は、第1下アーム素子部QL1に流れる正の素子電流IQL1および第2下アーム素子部QL2に流れる正の素子電流IQL2おと比較して、大きい電流が長時間流れる状態となる。このため、第3下アーム素子部QL3の第3下アームスイッチSL3における発熱量が、第1下アーム素子部QL1の第1下アームスイッチSL1における発熱量および第2下アーム素子部QL2の第2下アームスイッチSL2における発熱量よりも大きくなる。
【0042】
また、
図7に示すように、第2上アームスイッチSH2および第2下アームスイッチSL2をスイッチングするタイミングについては変更しないで、第3下アームスイッチSL3をオン状態に切り替える第3タイミングを第1タイミングに対して負の位相差(位相差:-A)に切替制御してもよい。これにより、第3レグ33,第1レグ31,第2レグ32の順序で、スイッチング制御が実行され、最初にスイッチングされる半導体スイッチング素子を含むレグを切り替えることができる。発熱の偏りを抑制するという観点から、最初にスイッチングする順序でスイッチング制御を実行するレグは、第1レグ31,第2レグ32、第3レグ33のうちから偏りなく設定されるように切替制御が実行されることが好ましい。
【0043】
(第3実施形態)
図8に示す電力変換システム12は、電力変換回路51と、制御装置40とを備える。電力変換回路51は、スイッチング回路61が、第1レグ31および第2レグ32に加えて、さらに並列接続された第3レグ33および第4レグ34をさらに備える点、1つの主リアクトルLM1に替えて、2つの第1,第2主リアクトルLM13,LM24を備える点、および、第3レグ33に接続される第3副リアクトルLS3および第4レグ34に接続される第4副リアクトルLS4をさらに備える点において、スイッチング回路30と相違している。第3レグ33および第4レグ34は、第2レグ32と、昇圧側コンデンサC23および負荷28との間に接続されている。
【0044】
第3レグ33は、互いに直列接続された第3上アーム素子部QH3と第3下アーム素子部QL3とを備える。素子部QH3,QL3は、素子部QH1,QL1,QH2,QL2と同様の素子によって構成されている。素子部QH3は、素子部QH1,QL1,QH2,QL2と同様に、半導体スイッチング素子である第3上アームスイッチSH3と、第3上アームスイッチSH3に逆並列に接続されたダイオードDH3と、第3上アームスイッチSH3に並列接続されたスナバコンデンサCH3とを備える。同様に、素子部QL3は、半導体スイッチング素子である第3下アームスイッチSL3と、第3下アームスイッチSL3に逆並列に接続されたダイオードDL3と、第3下アームスイッチSL3並列接続されたスナバコンデンサCL3とを備える。
【0045】
第4レグ34は、互いに直列接続された第4上アーム素子部QH4と、第4下アーム素子部QL4とを備える。素子部QH4,QL4は、素子部QH1~QH3,QL1~QL3と同様の素子によって構成されている。素子部QH4は、素子部QH1~QH3,QL1~QL3と同様に、半導体スイッチング素子である第4上アームスイッチSH4と、第4上アームスイッチSH4に逆並列に接続されたダイオードDH4と、第4上アームスイッチSH4に並列接続されたスナバコンデンサCH4とを備える。素子部QL4は、素子部QH1~QH3,QL1~QL3と同様に、半導体スイッチング素子である第4下アームスイッチSL4と、第4下アームスイッチSL4に逆並列に接続されたダイオードDL4と、第4下アームスイッチSL4に並列接続されたスナバコンデンサCL4とを備える。
【0046】
第1,第2主リアクトルLM13、LM24はインダクタンスが等しいインダクタであり、互いに並列接続されている。第3,第4副リアクトルLS3,LS4は、第1,第2副リアクトルLS1、LS2とインダクタンスの等しいインダクタである。第1,第2副リアクトルLS1、LS2は互いに並列接続されており、第3,第4副リアクトルLS3,LS4は互いに並列接続されている。
【0047】
第1副リアクトルLS1の第1端は、第1主リアクトルLM13に接続されており、第2端は、第1上アーム素子部QH1の低電位側と第1下アーム素子部QL1の高電位側に接続されている。第2副リアクトルLS2の第1端は、第1主リアクトルLM13に接続されており、第2端は、第2上アーム素子部QH2の低電位側と第2下アーム素子部QL2の高電位側に接続されている。
【0048】
第3副リアクトルLS3の第1端は、第2主リアクトルLM24に接続されており、第2端は、第3上アーム素子部QH3の低電位側と第3下アーム素子部QL3の高電位側に接続されている。第4副リアクトルLS4の第1端は、第2主リアクトルLM24に接続されており、第2端は、第4上アーム素子部QH4の低電位側と第4下アーム素子部QL4の低電位側に接続されている。
【0049】
スイッチング制御部41は、スイッチSH1~SH4,SL1~SL4を操作対象とし、スイッチSH1~SH4,SL1~SL4のゲート駆動信号を制御することにより、スイッチSH1~SH4,SL1~SL4のオンオフ制御を実行する。スイッチング制御部41は、第1レグ31と第3レグ33とを同位相でスイッチング制御し、第2レグ32と第4レグ34とを同位相でスイッチング制御する。すなわち、スイッチング制御部41は、第1上アームスイッチSH1と第3上アームスイッチSH3とを同位相のゲート駆動信号でスイッチング制御し、第1下アームスイッチSL1と第3下アームスイッチSL3とを同位相のゲート駆動信号でスイッチング制御する。スイッチング制御部41は、第2上アームスイッチSH2と第4上アームスイッチSH4とを同位相のゲート駆動信号でスイッチング制御し、第2下アームスイッチSL2と第4下アームスイッチSL4とを同位相のゲート駆動信号でスイッチング制御する。第1上アームスイッチSH1,第2上アームスイッチSH2,第3上アームスイッチSH3,第4上アームスイッチSH4は、それぞれ、第1下アームスイッチSL1,第2下アームスイッチSL2,第3下アームスイッチSL3,第4下アームスイッチSL4のゲート駆動信号に対する反転信号により制御される。つまり、スイッチング制御部41は、第1レグ31を構成する第1上アームスイッチSH1,第1下アームスイッチSL1を、デッドタイムを挟みつつ交互にオン状態に切り替えられるようにスイッチング制御する。スイッチング制御部41は、第2レグ32を構成する第2上アームスイッチSH2,第2下アームスイッチSL2を、デッドタイムを挟みつつ交互にオン状態に切り替えられるようにスイッチング制御する。第3レグ33を構成する第3上アームスイッチSH3,第3下アームスイッチSL3を、デッドタイムを挟みつつ交互にオン状態に切り替えられるようにスイッチング制御する。スイッチング制御部41は、第4レグ34を構成する第4上アームスイッチSH4,第4下アームスイッチSL4を、デッドタイムを挟みつつ交互にオン状態に切り替えられるようにスイッチング制御する。本実施形態において、各スイッチSH1~SH4,SL1~SL4の1スイッチング周期Tswは同じ長さである。なお、スイッチング制御部41は、第1レグ31と第3レグ33とを位相差180°でスイッチング制御し、第2レグ32と第4レグ34とを位相差180°でスイッチング制御するように構成されていてもよい。
【0050】
スイッチング制御部41は、スイッチSH1~SH4,SL1~SL4のゲート駆動信号において互いに位相差を設定することにより、スイッチングのタイミングがずれるように制御する。例えば、スイッチング制御部41は、第1レグ31および第2レグ32を基準レグとし、第2レグ32および第4レグ34を残余レグとして、
図2と同様に、時刻t1~時刻t2までの間は、スイッチSH1,SL1,SH3,SL3を第1タイミングでオン状態に切り替え、スイッチSH2,SL2,SH4,SL4を第2タイミングでオン状態に切り替える。第2タイミングは、第1タイミングに対して正の位相差となるように制御する。図示していないが、第3下アームスイッチSL3のゲート駆動信号は第1下アームスイッチSL1のゲート駆動信号と同様であり、第1上アームスイッチSH1のゲート駆動信号は第1下アームスイッチSL1のゲート駆動信号の反転信号である。第4下アームスイッチSL4のゲート駆動信号は第2下アームスイッチSL2のゲート駆動信号と同様であり、第2上アームスイッチSH2のゲート駆動信号は第2下アームスイッチSL2のゲート駆動信号の反転信号である。
【0051】
切替部42は、所定の切替周期Tc毎に、スイッチング制御において最初にオン状態に切り替えられる半導体スイッチング素子が含まれるレグを切り替える切替制御を実行する。例えば、
図2と同様に、時刻t1から切替周期Tc後の時刻t2において、切替部42は、第2タイミングを第1タイミングに対して負の位相差となるように切替制御する。時刻t2から切替周期Tc後の時刻t3において、切替部42は、再度、第2タイミングを第1タイミングに対して正の位相差となるように切替制御する。このように切替制御することにより、電力変換回路51が備えるスイッチSH1~SH4,SL1~SL4における発熱の偏りを緩和できる。
【0052】
なお、第2実施形態および第3実施形態に示すように、レグを3つ以上含む場合には、スイッチング制御部41は、スイッチング回路60,61に備えられた全てのレグに含まれる半導体スイッチング素子をオンオフ制御しないで、一部のレグ(但し2つ以上のレグ)のみに含まれる半導体スイッチング素子をオンオフ制御するものであってもよい。不要なスイッチング制御を抑制することにより、不要なスイッチング損失の発生を抑制できる。
【0053】
(変形例)
上記の各実施形態では、各素子部QH1~QH4,QL1~QL4がスイッチSH1~SH4,SL1~SL4と、スイッチSH1~SH4,SL1~SL4の各々に逆並列に接続されたダイオードDH1~DH4,DL1~DL4および並列接続されたスナバコンデンサCH1~CH4,CL1~CL4とによって構成される場合を例示して説明したが、これに限定されない。スナバコンデンサCH1~CH4,CL1~CL4を備えることにより、並列接続するスイッチSH1~SH4,SL1~SL4の遮断時に生じる過渡的な高電圧を吸収し、そのスイッチSH1~SL4におけるターンオフ損失を低減する効果を得ることができるが、各素子部は、スナバコンデンサCH1~CL4を備えていなくてもよい。また、上アーム素子部QH1~QH4と、下アーム素子部QL1~QL4とのうちの一方は、ダイオードのみによって構成されていてもよい。例えば、
図2に示すQH1,QH2が、DH2,DL2と同じ向きで接続されたダイオードによって置き換えられていてもよい。また、上記の各実施形態に示すように、上アーム素子部QH1~QH4と、下アーム素子部QL1~QL4との双方が半導体スイッチング素子および逆並列ダイオードにより構成されている場合には、スイッチング制御部41は、上アーム素子の半導体スイッチング素子と下アーム素子部の半導体スイッチング素子のうちのいずれか一方のみをオンオフ制御し、他方はオンオフ制御しないように構成されていてもよい。また、電力変換回路20,50,51および制御装置40は、降圧コンバータとして機能するように構成されていてもよい。
【0054】
また、第1~第4副リアクトルLS1~LS4は、互いにインダクタンスが等しいインダクタによって構成されることにより、各レグに流れる電流のアンバランスを低減する効果を得ることができ、スイッチSH1~SL4の素子間における発熱の偏りを低減する効果を得ることができるが、これに限定されない。第1~第4副リアクトルLS1~LS4は、互いにインダクタンスが異なるインダクタによって構成されていてもよい。さらには、副リアクトルは、主リアクトルと、上アーム素子部と下アーム素子部を接続する配線の少なくとも1つに設けられていればよい。例えば、
図1に示す電力変換回路20において、第1副リアクトルLS1と第2副リアクトルLS2のいずれか1つのみを設ける構成としてもよい。
【0055】
また、
図9に示すように、互いに並列接続された第1,第2副リアクトルLS1,LS2は、共通の鉄芯Mにそれぞれコイルが巻かれることにより、磁気的に結合されたものであってもよい。同様に、互いに並列接続された第3,第4副リアクトルLS3,LS4は、共通の鉄芯Mにそれぞれコイルが巻かれることにより、磁気的に結合されたものであってもよい。第1~第4副リアクトルLS1~LS4を小型化でき、省スペース化に寄与し得る。
【0056】
切替部42は、切替周期Tcが経過した時点において、所定の条件を満たす場合には、切替制御を実行しないように構成されていてもよい。例えば、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2の温度を検出し、検出した各スイッチSH1、SL1、SH2、SL2の温度差が所定の温度差閾値以下である場合には、切替制御を実行しないように構成されていてもよい。各スイッチSH1、SL1、SH2、SL2の温度差とは、例えば、検出した各スイッチSH1、SL1、SH2、SL2の温度のうち、最高温度と最低温度との差である。なお、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2の温度は、例えば、スイッチSH1、SL1、SH2、SL2を構成する半導体基板に温度検出素子部を形成することにより、検出することができる。
【0057】
図10に示すフローチャートは、切替周期Tcが経過したか否かを判定するステップS202,S206の後に、検出した各スイッチSH1、SL1、SH2、SL2の温度のうち、最高温度と最低温度との差dTが温度差閾値XT以下であるか否かを判定するステップS203,S207が実行される点において、
図4に示すフローチャートと相違している。
図10に示すステップS201,S202,S204~S206,S208に示す処理は、それぞれ、
図4に示すステップS101~S106に示す処理と同様であるため、説明を省略する。
図10に示すように、ステップS202においてTp≧Tcであると判定された場合には、ステップS203に進む。ステップS203においてdT≦Tcであると判定された場合には、ステップS201に戻り、切替制御を実行しないで、正の位相差制御を継続する。ステップS203においてdT>Tcであると判定された場合には、ステップS204に進み、位相差の正負を切り替える。また、ステップS206においてTp≧Tcであると判定された場合には、ステップS207に進む。ステップS207においてdT≦Tcであると判定された場合には、ステップS205に戻り、切替制御を実行しないで、負の位相差制御を継続する。ステップS207においてdT>Tcであると判定された場合には、ステップS208に進み、位相差の正負を切り替える。上記のとおり、切替周期Tcが経過した時点において、所定の条件を満たす場合には、切替制御を実行しないように切替部42を構成し、不要な切替を抑制可能に所定の条件を設定することにより、電力変換回路における不要な出力変動を抑制できる。
【0058】
切替周期Tcは、切替制御を実行する毎に、もしくは、切替の要否を判定する毎に、異なる値を用いてもよい。例えば、負の位相差制御の開始時からの経過時間Tpと比較する切替周期Tcpと、正の位相差制御の開始時からの経過時間Tnと比較する切替周期Tcnとを相違させてもよい。例えば、
図11に示すように、第1レグ31側から第2レグ32側に冷却水が流れるように冷却水路が構成された平面冷却構造70によって、各素子部Q1~Q4が冷却される場合においては、より冷却され易い第1レグ31側が最初にスイッチングされる順序となる期間を、より冷却されにくい第2レグ32側が最初にスイッチングされる順序となる期間よりも長くしてもよい。すなわち、Tcp>Tcnとしてもよい。また、例えば、
図12に示すように、第2下アーム素子部QL2側から第1上アーム素子部QH1側に向かって冷却水流入管が設けられ、第1上アーム素子部QH1側から第2上アーム素子部QH2側に向かって冷却水流出管が設けられた積層冷却構造71によって各素子部Q1~Q4が冷却される場合においては、より冷却され易い第2レグ32側が最初にスイッチングされる順序となる期間を、より冷却されにくい第1レグ31側が最初にスイッチングされる順序となる期間よりも長くしてもよい。すなわち、Tcp<Tcnとしてもよい。なお、耳障り音を抑制する観点からは、切替周期Tcp、Tcnは、人が音を大きく感じる周波数範囲外となる長さに設定することが好ましく、人の可聴周波数範囲外となる長さに設定することが、より好ましい。例えば、切替周期Tcp、Tcnは、周波数に換算して250Hz以下もしくは8kHz以上に相当する長さに設定することが好ましく、周波数に換算して20Hz以下もしくは20kHz以上に相当する長さに設定することがより好ましい。
【0059】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0060】
以下、上述した各実施形態から抽出される特徴的な構成を記載する。
[構成1]
スイッチング回路(30,60,61)を備える電力変換回路(20,50,51)の制御装置(40)であって、
前記スイッチング回路は、上アーム素子部(QH1~QH4)、および前記上アーム素子部の低電位側に直列接続された下アーム素子部(QL1~QL4)を含むレグ(31~34)を複数有し、
複数の前記レグは互いに並列接続され、
前記上アーム素子部および前記下アーム素子部のうち、一方の素子部は、半導体スイッチング素子(SH1~SH4,SL1~SL4)および前記半導体スイッチング素子に逆並列に接続される逆並列ダイオード(DH1~DH4,DL1~DL4)を有し、他方の素子部は、前記半導体スイッチング素子および前記逆並列ダイオード、または、前記逆並列ダイオードと同じ方向で接続されるダイオードを有し、
前記電力変換回路は、主リアクトル(LM1,LM13,LM24)と、副リアクトル(LS1~LS4)と、をさらに備え、
前記副リアクトルは、前記主リアクトルの一端と、複数の前記レグのうち少なくとも1つのレグが有する前記上アーム素子部及び前記下アーム素子部の接続点とを接続し、
前記制御装置は、スイッチング制御部(41)と、切替部(42)と、を備え、
前記スイッチング制御部は、
複数の前記レグに含まれる前記各半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行い、
複数の前記レグのうち、基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングと、前記基準レグ以外の残余レグに含まれる前記半導体スイッチング素子であって、前記基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子と同アームの半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングとの位相差を制御し、
前記切替部は、前記各半導体スイッチング素子の1スイッチング周期よりも長い切替周期(Tc)毎に、最初にオン状態に切り替えられる前記半導体スイッチング素子を含む前記レグを切り替える切替制御を実行する、電力変換回路の制御装置。
[構成2]
前記レグとして、第1上アーム素子部(QH1)および第1下アーム素子部(QL1)を含む第1レグ(31)と、第2上アーム素子部(QH2)および第2下アーム素子部(QL2)を含む第2レグ(32)と、を備え、
前記副リアクトルとして、第1副リアクトル(LS1)および第2副リアクトル(LS2)を備え、
前記第1副リアクトルは、前記主リアクトルの一端と、前記第1上アーム素子部及び前記第1下アーム素子部の接続点とを接続し、
前記第2副リアクトルは、前記主リアクトルの一端と、前記第2上アーム素子部及び前記第2下アーム素子部の接続点とを接続し、
前記第1下アーム素子部および前記第2下アーム素子部は、前記半導体スイッチング素子(SL1,SL2)および前記逆並列ダイオード(DL1,DL2)を有し、
前記基準レグは、前記第1レグであり、
前記残余レグは、前記第2レグであり、
前記スイッチング制御部は、前記第1レグの前記第1下アーム素子部が有する前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングと、前記第2レグの前記第2下アーム素子部が有する前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングとの位相差を制御する、構成1に記載の電力変換回路の制御装置。
[構成3]
前記第1副リアクトル及び前記第2副リアクトルのインダクタンスが等しい構成2に記載の電力変換回路の制御装置。
[構成4]
前記第1副リアクトル及び前記第2副リアクトルが互いに磁気的に結合されている構成2または3に記載の電力変換回路の制御装置。
[構成5]
前記切替部は、前記切替周期を、人が音を大きく感じる周波数範囲外に相当する長さに設定する構成1~4のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
[構成6]
前記切替部は、前記切替周期を、周波数に換算して250Hz以下に相当する長さに設定する構成1~5のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
[構成7]
前記切替部は、前記切替周期を、周波数に換算して8kHz以上に相当する長さに設定する構成1~6のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
[構成8]
前記切替部は、前記切替制御を実行する切替周期において、所定の条件を満たす場合には、前記切替制御を実行しない構成1~7のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
[構成9]
前記レグは、前記半導体スイッチング素子に並列接続されたスナバコンデンサ(CH1~CH4,CL1~CL4)を含む構成1~8のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
[構成10]
前記副リアクトルは、前記主リアクトルよりインダクタンスが小さい構成1~9のいずれか1項に記載の電力変換回路の制御装置。
[構成11]
スイッチング回路(30,60,61)を備える電力変換回路(20,50,51)の制御プログラムであって、
前記スイッチング回路は、上アーム素子部(QH1~QH4)、および前記上アーム素子部の低電位側に直列接続された下アーム素子部(QL1~QL4)を含むレグ(31~34)を複数有し、
複数の前記レグは互いに並列接続され、
前記上アーム素子部および前記下アーム素子部のうち、一方の素子部は、半導体スイッチング素子(SH1~SH4,SL1~SL4)および前記半導体スイッチング素子に逆並列に接続される逆並列ダイオード(DH1~DH4,DL1~DL4)を有し、他方の素子部は、前記半導体スイッチング素子および前記逆並列ダイオード、または、前記逆並列ダイオードと同じ方向で接続されるダイオードを有し、
前記電力変換回路は、主リアクトル(LM1,LM13,LM24)と、副リアクトル(LS1~LS4)と、をさらに備え、
前記副リアクトルは、前記主リアクトルの一端と、複数の前記レグのうち少なくとも1つのレグが有する前記上アーム素子部及び前記下アーム素子部の接続点とを接続し、
前記制御プログラムは、コンピュータに、スイッチング制御ステップと、切替ステップとを実行させ、
前記スイッチング制御ステップは、
複数の前記レグに含まれる前記各半導体スイッチング素子のスイッチング制御を行い、
複数の前記レグのうち、基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングと、前記基準レグ以外の残余レグに含まれる前記半導体スイッチング素子であって、前記基準レグに含まれる前記半導体スイッチング素子と同アームの半導体スイッチング素子のオン状態への切り替えタイミングとの位相差を制御するステップであり、
前記切替ステップは、前記各半導体スイッチング素子の1スイッチング周期よりも長い切替周期(Tc)毎に、最初にオン状態に切り替えられる前記半導体スイッチング素子を含む前記レグを切り替える切替制御を実行するステップである、電力変換回路の制御プログラム。
【符号の説明】
【0061】
20,50,51…電力変換回路、30,60,61…スイッチング回路、レグ…31~34、QH1~QH4…上アーム素子部、QL1~QL4…下アーム素子部、SH1~SH4,SL1~SL4…スイッチ、DH1~DH4,DL1~DL4…逆並列ダイオード、LM1,LM13,LM24…主リアクトル、LS1~LS4…副リアクトル