(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127104
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、情報処理プログラム、及び、記録媒体
(51)【国際特許分類】
G06T 7/11 20170101AFI20240912BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240912BHJP
【FI】
G06T7/11
G06T7/00 350C
G06T7/00 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023035995
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】橋本 綾斗
(72)【発明者】
【氏名】立花 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】岸本 理和
(72)【発明者】
【氏名】森 慎一郎
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA06
5L096BA06
5L096BA13
5L096CA02
5L096CA25
5L096DA01
5L096EA35
5L096FA02
5L096FA32
5L096GA17
5L096GA30
5L096HA11
5L096JA11
5L096JA18
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】要精査領域の分布を精度良く推定することが可能な技術を実現することができる。
【解決手段】プロセッサ(11)は、検査対象画像を第1ニューラルネットワーク(N1)の部分ネットワーク(N11)に入力することによって、検査対象画像の各画素に対応する特徴量ベクトルを導出する。また、プロセッサ(11)は、検査対象画像の部分画像と該部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルとを第2ニューラルネットワーク(N2)に入力することによって、該部分画像が要精査領域を含むか否かを示す情報を導出する。そして、プロセッサ(11)は、各部分画像から導出した情報に基づいて、検査対象画像における要精査領域の分布を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのメモリは、
広域画像を入力とし、該広域画像における要精査領域の分布を表す画像を出力とする第1ニューラルネットワークから、該広域画像の各画素に対応する特徴量ベクトルを入力とし、前記画像を出力とする出力層を除いた部分ネットワークと、
局所画像、及び、該局所画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を入力とし、該局所画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を出力とする第2ニューラルネットワークと、を記憶し、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
検査用画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を、該検査用画像を前記部分ネットワークに入力することによって導出する第1導出処理と、
前記検査用画像の複数の部分画像について、各部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を、該部分画像、及び、前記第1導出処理にて導出された特徴量ベクトルのうち、該部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を前記第2ニューラルネットワークに入力することによって導出する第2導出処理と、
前記検査用画像における要精査領域の分布を表す出力画像を、各部分画像に対する前記第2導出処理にて導出された情報に基づいて生成する生成処理と、を実行する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記第2導出処理において、前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記検査用画像からウインドウに含まれる部分を切り出すことによって、部分画像を生成する生成ステップと、
前記生成ステップにて生成された部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を、該部分画像、及び、前記第1導出処理にて導出された特徴量ベクトルのうち、該部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を前記第2ニューラルネットワークに入力することによって導出する導出ステップと、
前記検査用画像における前記ウインドウの位置を、移動前の前記ウインドウと移動後の前記ウインドウとが重なりを持つように移動させる移動ステップと、を含むサイクルを、前記ウインドウの軌跡が前記検査用画像を覆うまで繰り返す、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記生成処理において、前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記出力画像の各画素の画素値を、対応する前記検査用画像の画素が前記ウインドウに含まれるサイクルにおいて前記導出ステップにて導出された情報に基づいて設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
少なくとも1つのプロセッサを備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
検査用画像と、該検査用画像を目視した検査者が要精査領域の分布として指定した分布を表す正解画像と、を含む教師データを生成する第1生成処理と、
広域画像を入力とし、該広域画像における要精査領域の分布を表す画像を出力とする第1ニューラルネットワークであって、該広域画像の各画素に対応する特徴量ベクトルを入力とし、前記画像を出力とする出力層を含む第1ニューラルネットワークを、前記第1生成処理にて生成された教師データを用いた機械学習によって構築する第1構築処理と、
検査用画像の部分画像と、該検査用画像を、前記第1構築処理によって構築された前記第1ニューラルネットワークから出力層を除いた部分ネットワークに入力する導出される特徴量ベクトルのうち、該部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合と、該部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率について、該部分画像を目視した検査者が判断した結果を表す正解情報と、を含む教師データを生成する第2生成処理と、
局所画像、及び、該局所画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を入力とし、該部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を出力とする第2ニューラルネットワークを、前記第2生成処理にて生成された教師データを用いた機械学習によって構築する第2構築処理と、を実行する、
ことを特徴とする情報処理装置。
【請求項5】
前記検査用画像は、前立腺のMR(Magnetic Resonance)画像であり、
前記要精査領域は、前立腺癌の有無を診断するために、動的造影検査が必要な領域である、
請求項1~4の何れか一項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
広域画像を入力とし、該広域画像における要精査領域の分布を表す画像を出力とする第1ニューラルネットワークから、該広域画像の各画素に対応する特徴量ベクトルを入力とし、前記画像を出力とする出力層を除いた部分ネットワークと、局所画像、及び、該局所画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を入力とし、該局所画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を出力とする第2ニューラルネットワークと、を用いた情報処理方法であって、
少なくとも1つのプロセッサが、検査用画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を、該検査用画像を前記部分ネットワークに入力することによって導出する第1導出処理と、
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記検査用画像の複数の部分画像について、各部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を、該部分画像、及び、前記第1導出処理にて導出された特徴量ベクトルのうち、該部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を前記第2ニューラルネットワークに入力することによって導出する第2導出処理と、
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記検査用画像における要精査領域の分布を表す出力画像を、各部分画像に対する前記第2導出処理にて導出された情報に基づいて生成する生成処理と、を含む、
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項7】
少なくとも1つのプロセッサが、検査用画像と、該検査用画像における要検査領域を表す正解画像と、を含む教師データを生成する第1生成処理と、
前記少なくとも1つのプロセッサが、広域画像を入力とし、要精査領域の分布を表す画像を出力とする第1ニューラルネットワークであって、該広域画像の各画素に対応する特徴量ベクトルを入力とし、前記画像を出力とする出力層を含む第1ニューラルネットワークを、前記第1生成処理にて生成された教師データを用いた機械学習によって構築する第1構築処理と、
前記少なくとも1つのプロセッサが、前記第1構築処理によって構築された前記第1ニューラルネットワークを用いて、検査用画像の部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を導出し、該部分画像と、該特徴量ベクトルの集合と、該部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を示す正解情報と、を含む教師データを生成する第2生成処理と、
前記少なくとも1つのプロセッサが、局所画像、及び、該局所画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を入力とし、該局所画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を出力とする第2ニューラルネットワークを、前記第2生成処理にて生成された教師データを用いた機械学習によって構築する第2構築処理と、を含む、
ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項8】
請求項1~4の何れか一項に記載の情報処理装置として、前記少なくとも1つのプロセッサを備えたコンピュータを動作させるための情報処理プログラムであって、前記少なくとも1つのプロセッサに、前記各処理を実行させる、
ことを特徴とする情報処理プログラム。
【請求項9】
請求項8に記載の情報処理プログラムが記録された、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象領域を表す検査用画像から、その検査対象領域に含まれる要精査領域の分布を、ニューラルネットワークを用いて導出する情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムに関する。また、本発明は、そのようなニューラルネットワークを構築する情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムに関する。また、そのような情報処理プログラムが記録された記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は人間が行っていた判断を、機械学習により生成されたニューラルネットワークを用いることにより、コンピュータに代行させる技術が実用化されている。一例としては、MR(Magnetic Resonance)画像から前立腺癌の有無を診断する技術などが挙げられる。このような技術を開示した文献としては、例えば、非特許文献1~2が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Hosseinzadeh, Matin, et al. "Deep learning-assisted prostate cancer detection on bi-parametric MRI: minimum training data size requirements and effect of prior knowledge." European radiology 32.4 (2022): 2224-2234.
【非特許文献2】Bass, E. J., et al. "A systematic review and meta-analysis of the diagnostic accuracy of biparametric prostate MRI for prostate cancer in men at risk." Prostate Cancer and Prostatic Diseases24.3 (2021): 596-611.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1~2に記載の技術は、前立腺を表すMR画像から、結節や腫瘤などの病変が存在する領域を特定しようとするものである。しかしながら、非特許文献1~2に記載の技術では、病変が存在する領域を実用上十分な精度で特定するには至っていない。
【0005】
鋭意研究を重ねた結果、発明者らは、従来技術には、以下の問題があるとの認識に至った。
【0006】
まず、前立腺の正常な状態には、大きな個人差がある。また、前立腺癌の病変の態様にも、大きな個人差がある。このため、専門医による画像診断では、MR画像の広域的な状態と病変の存在が疑われる領域の局所的な状態との双方をバランス良く参照することにより、病変の存在する領域の特定に至るが、ニューラルネットワークでは、広域的な状態と局所的な状態とをバランス良く参照することができていない。
【0007】
また、そもそも、ニューラルネットワークに対する要求が過大である。すなわち、前立腺癌の画像診断では、動的造影検査などの更なる検査を行う必要がある領域(以下、「要精査領域」とも記載する)を特定できれば十分であるのに対して、従来技術では、病理学的にのみ証明できる前立腺癌組織が存在する領域を特定しようとしている。このため、ニューラルネットワークにおいて行われる推論が難しい推論となり、このことが予測精度を低下させる原因となっている可能性がある。
【0008】
ここでは、前立腺癌を対象とする画像診断において顕著な従来技術の問題点を説明したが、前立腺癌以外の疾患を対象とする画像診断についても同様の問題が生じ得る。
【0009】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、要精査領域の分布を精度良く推定することが可能な技術を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様1に係る情報処理装置においては、以下の構成が採用されている。すなわち、少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのプロセッサと、を備え、前記少なくとも1つのメモリは、広域画像を入力とし、該広域画像における要精査領域の分布を表す画像を出力とする第1ニューラルネットワークから、該広域画像の各画素に対応する特徴量ベクトルを入力とし、前記画像を出力とする出力層を除いた部分ネットワークと、局所画像、及び、該局所画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を入力とし、該局所画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を出力とする第2ニューラルネットワークと、を記憶し、前記少なくとも1つのプロセッサは、検査用画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を、該検査用画像を前記部分ネットワークに入力することによって導出する第1導出処理と、前記検査用画像の複数の部分画像について、各部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を、該部分画像、及び、前記第1導出処理にて導出された特徴量ベクトルのうち、該部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を前記第2ニューラルネットワークに入力することによって導出する第2導出処理と、前記検査用画像における要精査領域の分布を表す出力画像を、各部分画像に対する前記第2導出処理にて導出された情報に基づいて生成する生成処理と、を実行する。
【0011】
上記の構成によれば、要精査領域の分布を精度良く推定することができる。
【0012】
本発明の態様2に係る情報処理装置においては、態様1に係る情報処理装置の構成に加えて、以下の構成が採用されている。すなわち、前記第2導出処理において、前記少なくとも1つのプロセッサは、前記検査用画像からウインドウに含まれる部分を切り出すことによって、部分画像を生成する生成ステップと、前記生成ステップにて生成された部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を、該部分画像、及び、前記第1導出処理にて導出された特徴量ベクトルのうち、該部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を前記第2ニューラルネットワークに入力することによって導出する導出ステップと、前記検査用画像における前記ウインドウの位置を、移動前の前記ウインドウと移動後の前記ウインドウとが重なりを持つように移動させる移動ステップと、を含むサイクルを、前記ウインドウの軌跡が前記検査用画像を覆うまで繰り返す。
【0013】
上記の構成によれば、要精査領域の分布を更に精度良く推定することができる。
【0014】
本発明の態様3に係る情報処理装置においては、態様2に係る情報処理装置の構成に加えて、以下の構成が採用されている。すなわち、前記生成処理において、前記少なくとも1つのプロセッサは、前記出力画像の各画素の画素値を、対応する前記検査用画像の画素が前記ウインドウに含まれるサイクルにおいて前記導出ステップにて導出された情報に基づいて設定する。
【0015】
上記の構成によれば、要精査領域の分布を、より精度良く推定することができる。
【0016】
本発明の態様4に係る情報処理装置においては、以下の構成が採用されている。すなわち、少なくとも1つのプロセッサを備え、前記少なくとも1つのプロセッサは、検査用画像と、該検査用画像を目視した検査者が要精査領域の分布として指定した分布を表す正解画像と、を含む教師データを生成する第1生成処理と、広域画像を入力とし、該広域画像における要精査領域の分布を表す画像を出力とする第1ニューラルネットワークであって、該広域画像の各画素に対応する特徴量ベクトルを入力とし、前記画像を出力とする出力層を含む第1ニューラルネットワークを、前記第1生成処理にて生成された教師データを用いた機械学習によって構築する第1構築処理と、(1)検査用画像の部分画像と、(2)該検査用画像を、前記第1構築処理によって構築された前記第1ニューラルネットワークから出力層を除いた部分ネットワークに入力する導出される特徴量ベクトルのうち、該部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合と、(3)該部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率について、該部分画像を目視した検査者が判断した結果を表す正解情報と、を含む教師データを生成する第2生成処理と、局所画像、及び、該局所画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を入力とし、該部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を出力とする第2ニューラルネットワークを、前記第2生成処理にて生成された教師データを用いた機械学習によって構築する第2構築処理と、を実行する。
【0017】
上記の構成によれば、要精査領域の分布を更に精度良く推定することが可能なニューラルネットワークを構築することができる。
【0018】
本発明の態様5に係る情報処理装置においては、態様1~4の何れか一態様に係る情報処理装置の構成に加えて、以下の構成が採用されている。すなわち、前記検査用画像は、前立腺のMR(Magnetic Resonance)画像であり、前記要精査領域は、前立腺癌の有無を診断するために、動的造影検査が必要な領域である。
【0019】
上記の構成によれば、要精査領域の分布を更に精度良く推定すること、又は、要精査領域の分布を更に精度良く推定することが可能なニューラルネットワークを構築することができる。
【0020】
本発明の態様6に係る情報処理方法においては、以下の構成が採用されている。すなわち、広域画像を入力とし、該広域画像における要精査領域の分布を表す画像を出力とする第1ニューラルネットワークから、該広域画像の各画素に対応する特徴量ベクトルを入力とし、前記画像を出力とする出力層を除いた部分ネットワークと、局所画像、及び、該局所画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を入力とし、該局所画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を出力とする第2ニューラルネットワークと、を用いた情報処理方法であって、少なくとも1つのプロセッサが、検査用画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を、該検査用画像を前記部分ネットワークに入力することによって導出する第1導出処理と、前記少なくとも1つのプロセッサが、前記検査用画像の複数の部分画像について、各部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を、該部分画像、及び、前記第1導出処理にて導出された特徴量ベクトルのうち、該部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を前記第2ニューラルネットワークに入力することによって導出する第2導出処理と、前記少なくとも1つのプロセッサが、前記検査用画像における要精査領域の分布を表す出力画像を、各部分画像に対する前記第2導出処理にて導出された情報に基づいて生成する生成処理と、を含む。
【0021】
上記の構成によれば、要精査領域の分布を精度良く推定することができる。
【0022】
本発明の態様7に係る情報処理方法においては、以下の構成が採用されている。すなわち、少なくとも1つのプロセッサが、検査用画像と、該検査用画像における要検査領域を表す正解画像と、を含む教師データを生成する第1生成処理と、前記少なくとも1つのプロセッサが、広域画像を入力とし、要精査領域の分布を表す画像を出力とする第1ニューラルネットワークであって、該広域画像の各画素に対応する特徴量ベクトルを入力とし、前記画像を出力とする出力層を含む第1ニューラルネットワークを、前記第1生成処理にて生成された教師データを用いた機械学習によって構築する第1構築処理と、前記少なくとも1つのプロセッサが、前記第1構築処理によって構築された前記第1ニューラルネットワークを用いて、検査用画像の部分画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を導出し、該部分画像と、該特徴量ベクトルの集合と、該部分画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を示す正解情報と、を含む教師データを生成する第2生成処理と、前記少なくとも1つのプロセッサが、局所画像、及び、該局所画像の各画素に対応する特徴量ベクトルの集合を入力とし、該局所画像が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報を出力とする第2ニューラルネットワークを、前記第2生成処理にて生成された教師データを用いた機械学習によって構築する第2構築処理と、を含む。
【0023】
上記の構成によれば、要精査領域の分布を更に精度良く推定することが可能なニューラルネットワークを構築することができる。
【0024】
本発明の態様8に係る情報処理プログラムは、態様1~5の何れか一態様に係る情報処理装置として、前記少なくとも1つのプロセッサを備えたコンピュータを動作させるための情報処理プログラムであって、前記少なくとも1つのプロセッサに、前記各処理を実行させるプログラムである。
【0025】
上記の構成によれば、コンピュータを用いて、要精査領域の分布を更に精度良く推定すること、又は、要精査領域の分布を更に精度良く推定することが可能なニューラルネットワークを構築することができる。
【0026】
本発明の態様9に係る記録媒体は、態様8に係る情報処理プログラムが記録された、コンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0027】
上記の構成によれば、記録媒体に記録されたプログラムを用いて、要精査領域の分布を更に精度良く推定すること、又は、要精査領域の分布を更に精度良く推定することが可能なニューラルネットワークを構築することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様によれば、要精査領域の分布を精度良く推定することが可能な技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す情報処理装置が利用する第1ニューラルネットワークの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図1に示す情報処理装置が利用する第2ニューラルネットワークの構成を示すブロック図である。
【
図4】
図1に示す情報処理装置が利用する教師データの構成を示す図である。
【
図5】
図1に示す情報処理装置が推論フェーズにおいて実施する情報処理方法の流れを示すフロー図である。
【
図6】
図5に示す情報処理方法に含まれる第2導出処理の具体例を示すフロー図である。
【
図7】
図5に示す情報処理方法に含まれる生成処理の具体例を示すフロー図である。
【
図8】
図1に示す情報処理装置が学習フェーズにおいて実施する情報処理方法の流れを示すフロー図である。
【
図9】
図2に示す第1ニューラルネットワークから出力される要精査領域の分布、及び、
図5に示す情報処理方法により得られる要精査領域の分布について、学習エポック数を増やしていたときの正解率の変化を示すグラフである。
【
図10】
図2に示す第1ニューラルネットワークから出力される要精査領域の分布と専門医が指定した分布との重なり、及び、
図5に示す情報処理方法により得られる要精査領域の分布と専門医が指定した分布との重なりを、Jaccard係数を用いて評価した箱ヒゲ図である。
【
図11】(a)は、検査対象画像の一例を示す。(b)は、(a)に示す検査対象画像を
図2に示す第1ニューラルネットワークに入力したときに、
図2に示す第1ニューラルネットワークから出力される要精査領域の分布を示す。(c)は、(a)に示す検査対象画像を
図2に示す第1ニューラルネットワークに入力したときに、
図5に示す情報処理方法により得られる要精査領域の分布を示す。(d)は、(a)に示す検査対象画像を目視した専門医が指定した要精査領域の分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(情報処理装置の構成)
情報処理装置1の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、情報処理装置1の構成を示すブロック図である。
【0031】
情報処理装置1は、汎用コンピュータを用いて実現されており、
図1に示すように、プロセッサ11と、一次メモリ12と、二次メモリ13と、入出力インタフェース14と、バス15とを備えている。プロセッサ11、一次メモリ12、二次メモリ13、及び入出力インタフェース14は、バス15を介して相互に接続されている。二次メモリ13には、情報処理プログラムP1及び情報処理プログラムP2が格納(不揮発記憶)されている。
【0032】
学習フェーズにおいて、プロセッサ11は、二次メモリ13に格納された情報処理プログラムP2を一次メモリ12上に展開する。そして、プロセッサ11は、一次メモリ12上に展開された情報処理プログラムP2に従って、後述する情報処理方法S2に含まれる各処理を実行する。これにより、第1ニューラルネットワークN1及び第2ニューラルネットワークN2が構築される。構築された第1ニューラルネットワークN1及び第2ニューラルネットワークN2は、二次メモリ13に格納される。
【0033】
推論フェーズにおいて、プロセッサ11は、二次メモリ13に格納された情報処理プログラムP1、第1ニューラルネットワークN1、及び第2ニューラルネットワークN2を一次メモリ12上に展開する。そして、プロセッサ11は、一次メモリ12上に展開された情報処理プログラムP1に従って、後述する情報処理方法S1に含まれる各処理を実行する。一次メモリ12上に展開された第1ニューラルネットワークN1及び第2ニューラルネットワークN2は、後述する情報処理方法S1に含まれる各処理を実行する際にプロセッサ11によって利用される。これにより、検査対象領域を表す検査用画像から、その検査対象領域における要精査領域の分布を表す出力画像が生成される。要精査領域の定義については、後述する。
【0034】
プロセッサ11として利用可能なデバイスとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)を挙げることができる。また、一次メモリ12として利用可能なデバイスとしては、例えば、半導体RAM(Random Access Memory)を挙げることができる。また、二次メモリ13として利用可能なデバイスとしては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)を挙げることができる。
【0035】
入出力インタフェース14には、入力デバイス及び/又は出力デバイスが接続される。入出力インタフェース14に接続される入力デバイスとしては、例えば、撮像装置、マウス、キーボードなどが挙げられる。撮像装置は、例えば、上述した検査用画像を情報処理装置1に入力するために利用される。マウス及びキーボードは、後述する正解画像及び正解情報を生成するために必要な情報を検査者(例えば、医師)が情報処理装置1に入力するために利用される。また、入出力インタフェース14に接続される出力デバイスとしては、例えば、ディスプレイが挙げられる。ディスプレイは、例えば、上述した出力画像を表示するために利用される。
【0036】
入出力インタフェース14として利用可能なインタフェースとしては、例えば、PCI(Peripheral Component Interconnect)インタフェースやUSB(Universal Serial Bus)などを挙げることができる。
【0037】
なお、情報処理プログラムP1、情報処理プログラムP2、第1ニューラルネットワークN1、及び第2ニューラルネットワークN2は、それぞれ、コンピュータ読み取り可能な一時的でない有形の記録媒体に記録され得る。この記録媒体は、二次メモリ13であってもよいし、その他の記録媒体であってもよい。例えば、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブル論理回路などが、その他の記録媒体として利用可能である。
【0038】
また、情報処理装置1は、情報処理方法S1(推論)及び情報処理方法S2(学習)の両方を実施してもよいし、情報処理方法S1(推論)のみを実施してもよいし、情報処理方法S2(学習)のみを実施してもよい。情報処理方法S1(推論)のみを実施する場、第1ニューラルネットワークN1全体が二次メモリ13に格納されている必要はなく、第1ニューラルネットワークN1のうち、後述する部分ネットワークN11のみが二次メモリ13に格納されていてもよい。
【0039】
(ニューラルネットワークの構成)
第1ニューラルネットワークN1及び第2ニューラルネットワークN2、第1ニューラルネットワークN1の機械学習に用いる教師データD1、並びに、第2ニューラルネットワークN2の機械学習に用いる教師データD2の構成について、
図2~
図4を参照して説明する。
【0040】
図2は、第1ニューラルネットワークN1の構成を示すブロック図である。第1ニューラルネットワークN1は、検査対象領域を表す広域画像Iaを入力とし、その検査対象領域における要精査領域の分布を表す出力画像Ibを出力とするニューラルネットワークである。ここで、要精査領域とは、検査対象領域の部分領域であって、検査対象領域内に病変(例えば、前立腺癌組織)が存在するか否かを診断するために、更なる検査が必要である部分領域のことを指す。なお、出力画像Ibのサイズは、広域画像Iaのサイズと同一であり、例えば、128画素×128画素である。
【0041】
本実施形態においては、
図2に示すように、Concat層、(MaxPool層、Conv2d層×2)×3、(Deconv層、Concat層、Conv2d層×2)×3、Conv2d層により構成される畳み込みニューラルネットワークを、第1ニューラルネットワークN1として用いる。なお、本明細書において、Concat層は、コンカテネーション層の略記であり、MaxPool層は、マックスプーリング層の略記であり、Conv2d層は、二次元畳み込み層の略記であり、Deconv層は、逆畳み込み層(転地畳み込み層と呼ばれることもある)の略記である。
【0042】
最終段のConv2d層は、広域画像Iaの各画素pijに対応する特徴量ベクトルvijの集合{vij|pij∈Ia}(以下、「特徴量テンソル{vij|pij∈Ia}」とも記載する)を入力とし、検査対象領域における要精査領域の分布を表す出力画像Ibを出力とする出力層N12として機能する。本実施形態においては、第1ニューラルネットワークN1から出力層N12を除いた部分ネットワークN11を、広域画像Iaの特徴量テンソル{vij|pij∈Ia}を導出するために利用する。広域画像Iaの特徴量テンソル{vij|pij∈Ia}は、検査対象領域における要精査領域の分布の特徴を表す。
【0043】
なお、本実施形態においては、最終段のConv2d層を出力層N12と見做し、それ以外の演算層を部分ネットワークN11の構成要素と見做す構成を採用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、最終段のConv2d層と、出力側から数えて2段目のConv2d層と、を出力層N12と見做し、それ以外の演算層を部分ネットワークN11の構成要素と見做してもよい。或いは、最終段のConv2d層と、出力側から数えて2段目のConv2d層と、出力側から数えて3段目のConv2d層と、を出力層と見做し、それ以外の演算層を部分ネットワークN11の構成要素と見做してもよい。何れの場合においても、部分ネットワークN11の出力を、広域画像Iaの特徴量テンソル{vij|pij∈Ia}として利用することができる。ただし、本実施形態のように、最終段のConv2d層を出力層N12と見做し、それ以外の演算層を部分ネットワークN11の構成要素と見做す構成を採用することで、検査対象領域における要精査領域の分布の特徴を最も良く表す特徴量テンソル{vij|pij∈Ia}を得ることができる。
【0044】
図3は、第2ニューラルネットワークN2の構成を示すブロック図である。第2ニューラルネットワークN2は、検査対象領域の部分領域を表す局所画像Ic、及び、局所画像Icの各画素p
ijに対応する特徴量ベクトルv
ijの集合{v
ij|p
ij∈Ib}(以下、「特徴量テンソル{v
ij|p
ij∈Ib}」とも記載する)を入力とし、局所画像Icの表す部分領域が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報Fを出力とするニューラルネットワークである。情報Fの一例としては、局所画像Icの表す部分領域に要精査領域が含まれるときに値「1」を取り、含まれていないときに値「0」を取るフラグが挙げられる。情報Fの別例としては、局所画像Icの表す部分領域に要精査領域が含まれている確率を示す0以上1以下の実数が挙げられる。なお、局所画像Icのサイズは、広域画像Iaのサイズよりも小さく、例えば、15×15画素である。
【0045】
本実施形態においては、
図3に示すように、Concat層、(MaxPool層、Conv2d層×2)×2、Linear層×3により構成される畳み込みニューラルネットワークを、第2ニューラルネットワークN2として用いる。なお、本明細書において、Linear層は、線形層(全結合層と呼ばれることもある)の略記である。
【0046】
第1ニューラルネットワークN1は、検査用画像Ia’と、正解画像Ib’とを含む教師データD1を用いた機械学習によって構築される。検査用画像Iaとしては、検査対象領域を表す画像が用いられる。正解画像Ib’としては、検査用画像Ia’を目視した検査者(例えば、医師)が要検査領域の分布として指定した分布を表す画像が用いられる。機械学習は、例えば、第1ニューラルネットワークN1に検査用画像Ia’を入力したときに、第1ニューラルネットワークN1から出力される出力画像Ibが正解画像Ib’に近づくよう、第1ニューラルネットワークN1を構成するパラメータを最適化することによって実現される。
【0047】
検査用画像Ia’及び正解画像Ib’の一例を
図4に示す。
図4に例示した検査用画像Ia’は、前立腺(検査対象領域の一例)を表すMR(Magnetic Resonance)画像である。また、
図4に例示した正解画像Ib’は、前立腺に癌を原因とする病変(結節や腫瘤など)が存在するか否かを診断するために、造影動態の定量解析などの動的造影検査(更なる検査の一例)が必要である領域(要精査領域の一例)の分布として、検査者が指定した分布を表す画像である。
【0048】
なお、正解画像Ib’の作成に際して、検査者は、要検査領域の分布を直接的に指定する代わりに、要検査領域の分布を間接的に指定してもよい。例えば、検査者は、要検査領域の分布の中心点を指定してもよい。この場合、検査者が指定した点を中心点とする分布を表す画像を、正解画像Ib’として利用することになる。
図4に例示した正解画像Ib’は、このような正解画像Ib’の一例であり、検査者が指定した点を中心点とするガウス分布を表す画像である。
【0049】
第2ニューラルネットワークN2は、部分画像Ic’と、部分画像Ic’の特徴量テンソル{v’ij|pij∈Ic’}と、正解情報F’と、を含む教師データD2を用いた機械学習によって構築される。部分画像Ic’としては、検査対象領域を表す検査用画像Ia’の部分画像、すなわち、検査対象領域の部分領域を表す画像が用いられる。部分画像Ic’の特徴量テンソル{v’ij|pij∈Ib’}としては、検査用画像Ia’を部分ネットワークN11に入力することよって導出された特徴量ベクトルv’ijのうち、部分画像Ic’の各画素pijに対応する特徴量ベクトルv’ijの集合が用いられる。正解情報F’としては、部分画像Ic’の表す部分領域が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率について、部分画像Ic’を目視した検査者が判断した結果を表す情報が用いられる。機械学習は、例えば、第2ニューラルネットワークN2に部分画像Ic’とその特徴量テンソル{v’ij|pij∈Ic’}とを入力したときに、第2ニューラルネットワークN2から出力される情報Fが正解情報F’に近づくよう、第2ニューラルネットワークN2を構成するパラメータを最適化することによって実現される。
【0050】
なお、検査対象領域の例として前立腺を挙げたが、検査対象領域は前立腺に限定されない。例えば、肺や脳など、前立腺以外の器官又は組織(特に、正常な状態に個人差が大きい器官又は組織)を検査対象領域としてもよい。また、診断対象病変の例として癌を原因とする病変を挙げたが、診断対象病変の原因となる疾患は癌に限定されない。例えば、動脈硬化や動脈瘤など、癌以外の疾患(特に、病変の態様に個人差が大きい疾患)を原因とする病変を診断対象病変としてもよい。また、検査用画像の例としてMR画像を挙げたが、検査用画像はMR画像に限定されない。例えば、CT(Computer Tomography)画像、PET(Positron Emission Tomography)画像、レントゲン画像、エコー画像など、MR画像以外の画像を、検査用画像として用いてもよい。
【0051】
(推論フェーズにおける情報処理方法の流れ)
本実施形態に係る情報処理装置1が推論フェーズにおいて実施する情報処理方法S1の流れについて、
図5を参照して説明する。
図5は、情報処理方法S1の流れを示すフロー図である。
【0052】
情報処理方法S1は、部分ネットワークN11と第2ニューラルネットワークN2とを用いて、検査対象領域を表す検査用画像I
inから、その検査対象領域における要精査領域の分布を表す出力画像I
outを生成する方法である。情報処理方法S1は、
図1に示すように、第1導出処理S11と、第2導出処理S12と、生成処理S13と、を含んでいる。
【0053】
第1導出処理S11は、検査用画像Iinの特徴量テンソル{vij|pij∈Iin}を導出するための処理である。ここで、検査用画像Iinの特徴量テンソル{vij|pij∈Iin}は、検査用画像Iinの各画素pijに対応する特徴量ベクトルvijの集合である。第1導出処理S11において、プロセッサ11は、検査用画像Iinを部分ネットワークN11に入力することによって、検査用画像Iinの特徴量テンソル{vij|pij∈Iin}を導出する。
【0054】
第2導出処理S12は、検査用画像Iinの複数の部分画像I1,I2,…,INについて、各部分画像Ikの表す部分領域が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報Fkを導出するための処理である。第2導出処理S12において、プロセッサ11は、各部分画像Ikと、その部分画像Ikの特徴量テンソル{vij|pij∈Ik}と、を第2ニューラルネットワークN2に入力することによって、情報Fkを導出する。ここで、部分画像Ikの特徴量テンソル{vij|pij∈Ik}は、第1導出処理S11にて導出された特徴量ベクトルvijのうち、部分画像Ikの画素pijに対応する特徴量ベクトルvijの集合である。第2導出処理S12の具体例については、参照する図面を代えて後述する。
【0055】
生成処理S13は、検査用画像Iinの表す検査対象領域における要精査領域の分布を表す出力画像Ioutを生成するための処理である。生成処理S13において、プロセッサ11は、各部分画像Ikに対する第2導出処理S12にて導出された情報Fkに基づいて、出力画像Ioutを生成する。生成処理S13の具体例については、参照する図面を代えて後述する。
【0056】
本実施形態に係る情報処理方法S1によれば、検査対象領域を表す検査用画像Iinから、その検査対象領域における要精査領域の分布を表す出力画像Ioutを生成することができる。この際、第1ニューラルネットワークN1は、広域画像である検査用画像Iinを参照して、その検査用画像Iinの表す検査対象領域における要精査領域の分布の推定を行い、第2ニューラルネットワークN2は、局所画像である各部分画像Ikを参照して、その部分画像Ikの表す部分領域が要精査領域であるか否かの推定を行う。このため、広域画像のみを参照する方法、又は、局所画像のみを参照する方法では特定することが困難な要精査領域であっても、本実施形態に係る情報処理方法S1によれば、その分布を精度よく推定することができる。
【0057】
一例として、前立腺癌は、正常な状態にも、病変の態様にも、個人差が大きく現れる疾患である。したがって、広域画像のみを参照する方法、又は、局所画像のみを参照する方法では、前立腺癌診断における要精査領域を特定することが困難である。これに対して、本実施形態に係る情報処理方法S1によれば、前立腺癌診断における要精査領域の分布を精度良推定することができる。
【0058】
(第2導出処理の具体例)
第2導出処理S12の具体例について、
図6を参照して説明する。
図6は、本具体例に係る第2導出処理S12の流れを示すフロー図である。
【0059】
第2導出処理S12は、上述したように、検査用画像I
inの複数の部分画像I
1,I
2,…,I
Nについて、各部分画像I
kの表す部分領域が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報F
kを導出するための処理である。本具体例に係る第2導出処理S12は、
図6に示すように、生成ステップS121と、導出ステップS122と、移動ステップS123と、を含んでいる。本具体例に係る第2導出処理S12においては、検査用画像I
in上に設定されたウインドウWが用いられる。なお、ウインドウWのサイズは、検査用画像I
inのサイズよりも小さい。
【0060】
生成ステップS121は、検査用画像Iinの部分画像Ikを生成するためのステップである。生成ステップS121において、プロセッサ11は、検査用画像IinからウインドウWに含まれる部分を切り出す(クロップする)ことによって、部分画像Ikを生成する。このため、各部分画像Ikをサイズは、ウインドウWのサイズと同一であり検査用画像Iinのサイズよりも小さい。
【0061】
導出ステップS122は、生成ステップS121にて生成された部分画像Ikの表す部分領域が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報Fkを導出するためのステップである。導出ステップS122において、プロセッサ11は、部分画像Ikと、その部分画像Ikの特徴量テンソル{vij|pij∈Ik}と、を第2ニューラルネットワークN2に入力することによって、情報Fkを導出する。
【0062】
移動ステップS123は、検査用画像IinにおけるウインドウWの位置を移動するステップである。移動ステップS123において、プロセッサ11は、移動前のウインドウWと移動後のウインドウWとが重なりを持つようにウインドウWを移動させる。一例として、プロセッサ11は、ウインドウWのサイズよりも小さい所定の移動量ΔxだけウインドウWを右に移動させる。ウインドウWが検査用画像Iinの右端にある場合、プロセッサ11は、所定の移動量ΔyだけウインドウWを下に移動させた後、ウインドウWを検査用画像Iinの左端に移動させる。すなわち、プロセッサ11は、検査用画像Iinをラスタスキャンするように、ウインドウWを移動させる。
【0063】
プロセッサ11は、生成ステップS121、導出ステップS122、及び移動ステップS123を含むサイクルCkを、ウインドウWの軌跡が検査用画像Iinを覆うまで繰り返す(サイクルCkについて、繰り返し終了はYES、繰り返しの場合はNO)。繰り返しの回数がN回の場合、これにより、N枚の部分画像I1,I2,…,INの各々について、部分画像Ikの表す部分領域が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率を表す情報Fkを導出することができる。
【0064】
(生成処理の具体例)
生成処理S13の具体例について、
図7を参照して説明する。
図7は、検査用画像I
inにおけるウインドウWの動きを示す模式図である。ここでは、ウインドウWのサイズを15×15画素とし、各サイクルC
kにおけるウインドウWの移動量Δx,Δyを5画素としている。
【0065】
あるサイクルCkにおいて、ウインドウWの起点(左上隅の角)が位置r11にあり、ウインドウWの右下隅の領域に画素pijが含まれている場合、ウインドウWを右に5画素移動し、ウインドウWの起点が位置r12にあるサイクルCk+1、及び、ウインドウWを更に右に5画素移動し、ウインドウWの起点が位置r13にあるサイクルCk+2においても、画素pijがウインドウWに含まれる。
【0066】
更に、ウインドウWの起点が位置r11を下に5画素移動した位置r21にあるサイクルCk'においても、画素pijがウインドウWに含まれる。また、ウインドウWを右に5画素移動し、ウインドウWの起点が位置r22にあるサイクルCk'+1、及び、ウインドウWを更に右に5画素移動し、ウインドウWの起点が位置r23にあるサイクルCk'+2においても、画素pijがウインドウWに含まれる。
【0067】
更に、ウインドウWの起点が位置r21を下に5画素移動した位置r31にあるサイクルCk"においても、画素pijがウインドウWに含まれる。また、ウインドウWを右に5画素移動し、ウインドウWの起点が位置r32にあるサイクルCk"+1、及び、ウインドウWを更に右に5画素移動し、ウインドウWの起点が位置r33にあるサイクルCk"+2においても、画素pijがウインドウWに含まれる。
【0068】
このように、検査用画像Iinの各画素pijは、複数のサイクルCk1,Ck2,…,CkNにおいてウインドウWに含まれる。そこで、プロセッサ11は、出力画像Ioutの各画素qijの画素値を、対応する検査用画像Iinの画素pijがウインドウWに含まれるサイクルCkjの導出ステップS122にて算出された情報Fk1,Fk2,…,FkNに基づいて設定する。例えば、プロセッサ11は、出力画像Ioutの各画素qijの画素値を、情報Fk1,Fk2,…,FkNの値の和又は平均に設定する。
【0069】
例えば、
図7に示した例において、検査用画像I
inの画素p
ijは、9つのサイクルC
k,C
k+1,…,C
K"+2においてウインドウWに含まれる。そこで、プロセッサ11は、出力画像I
outの画素q
ijの画素値を、これら9つのサイクルC
k,C
k+1,…,C
K"+2の各々の導出ステップS122にて算出された情報F
k,F
k+1,…,F
K"+2に基づいて設定する。例えば、プロセッサ11は、出力画像I
outの各画素q
ijの画素値を、情報F
k,F
k+1,…,F
K"+2の値の和又は平均に設定する。
【0070】
(学習フェーズにおける情報処理方法の流れ)
本実施形態に係る情報処理装置1が学習フェーズにおいて実施する情報処理方法S2の流れについて、
図8を参照して説明する。
図8は、情報処理方法S2の流れを示すフロー図である。
【0071】
情報処理方法S2は、第1ニューラルネットワークN1と第2ニューラルネットワークN2とを構築する方法である。第1ニューラルネットワークN1と第2ニューラルネットワークN2の製造方法であると言い換えてもよい。情報処理方法S2は、
図8に示すように、第1生成処理S21と、第1構築処理S22と、第2生成処理S23と、第2構築処理S24と、を含んでいる。
【0072】
第1生成処理S21は、第1ニューラルネットワークN1の機械学習に用いる教師データD1を生成するための処理である。第1生成処理S21において、プロセッサ11は、検査用画像Ia’と正解画像Ib’と、を含む教師データD1を生成する。検査用画像Ia’としては、検査対象領域を表す画像を用いる。また、正解画像Ib’としては、検査用画像Ia’を目視した検査者(例えば、医師)が要精査領域の分布として指定した分布を表す画像を用いる。
【0073】
第1構築処理S22は、第1ニューラルネットワークN1を構築するための処理である。第1構築処理S22において、プロセッサ11は、第1生成処理S21にて生成された教師データD1を用いた機械学習(教師あり学習)によって、第1ニューラルネットワークを構築する。すなわち、第1ニューラルネットワークN1に検査用画像Ia’を入力したときに、第1ニューラルネットワークN1から出力される出力画像Ibが正解画像Ib’に近づくよう、第1ニューラルネットワークN1を構成するパラメータを最適化する。なお、第1生成処理S21において生成する教師データD1、すなわち、第1構築処理S22において参照する教師データD1の個数は任意であるが、過学習が生じない程度に多数であることが好ましい。
【0074】
第2生成処理S23は、第2ニューラルネットワークN2の機械学習に用いる教師データD2を生成するための処理である。第2生成処理S23において、プロセッサ11は、部分画像Ic’と、部分画像Ic’の特徴量テンソル{v’ij|pij∈Ic’}と、正解情報F’と、を含む教師データD2を生成する。部分画像Ic’としては、検査対象領域を表す検査用画像Ia’の部分画像、すなわち、検査対象領域の部分領域を表す画像を用いる。また、部分画像Ic’の特徴量テンソル{v’ij|pij∈Ib’}としては、検査用画像Ia’を部分ネットワークN11に入力することよって導出された特徴量ベクトルv’ijのうち、部分画像Ic’の各画素pijに対応する特徴量ベクトルv’ijの集合を用いる。また、正解情報F’としては、部分画像Ic’の表す部分領域が要精査領域を含むか否か、又は、要精査領域を含む確率について、部分画像Ic’を目視した検査者が判断した結果を表す情報を用いる。
【0075】
第2構築処理S24は、第2ニューラルネットワークN2を構築するための処理である。第2構築処理S24において、プロセッサ11は、第2生成処理S23にて生成された教師データD2を用いた機械学習(教師あり学習)によって、第2ニューラルネットワークN2を構築する。すなわち、第2ニューラルネットワークN2に部分画像Ic’とその特徴量テンソル{v’ij|pij∈Ic’}とを入力したときに、第2ニューラルネットワークN2から出力される情報Fが正解情報F’に近づくよう、第2ニューラルネットワークN2を構成するパラメータを最適化する。なお、第2生成処理S23において生成する教師データD2の個数、すなわち、第2構築処理S24において参照する教師データD2の個数は任意であるが、過学習が生じない程度に多数であることが好ましい。
【0076】
なお、ここでは、第1ニューラルネットワークN1の学習が完了した後、第2ニューラルネットワークの学習を開始する方法について説明したが、これに限定されない。すなわち、第1ニューラルネットワークN1の学習と第2ニューラルネットワークN2の学習とを並列的に行ってもよい。この場合、第2ニューラルネットワークN2の学習に用いる特徴量テンソル{v’ij|pij∈Ic’}は、学習中の第1ニューラルネットワークN1の部分ネットワークN11を用いて導出することになる。
【0077】
(実施例)
図2に示す第1ニューラルネットワークN1と
図3に示す第2ニューラルネットワークN2とを用いた情報処理方法S1の実施例について、
図9~
図11を参照して説明する。
【0078】
本実施例において、第1ニューラルネットワークN1の入力は、128画素×128画素×23チャンネルのMR画像とした。また、第1ニューラルネットワークN1の出力、及び、第2ニューラルネットワークN2の第1入力は、128×128画素×2チャンネルの画像とした。また、部分ネットワークN11の出力、及び、第2ニューラルネットワークN2の第2入力は、15×15×128チャンネルの特徴量テンソルとした。検査対象領域は、前立腺とし、診断対象疾患は、癌とした。
【0079】
図9は、第1ニューラルネットワークN1から出力される要精査領域の分布、及び、本実施例に係る情報処理方法S1により得られる要精査領域の分布について、学習エポック数を増やしていたときの正解率の変化を示すグラフである。第1ニューラルネットワークN1から出力される要精査領域の分布は、広域画像のみを考慮した(局所画像を考慮しなかった)場合の要精査領域の分布に相当する。
図9に示すグラフによれば、十分なエポック数(40エポック以上)の学習を行えば、本実施例に係る方法の方が、広域画像のみを考慮する方法よりも、高い正解率を得られることが分かる。
【0080】
図10は、第1ニューラルネットワークN1から出力される要精査領域の分布と専門医が指定した分布との重なり、及び、本実施例に係る情報処理方法S1により得られる要精査領域の分布と専門医が指定した分布との重なりを、Jaccard係数を用いて評価した箱ヒゲ図である。
図10に示すグラフによれば、本実施例に係る方法の方が、広域画像のみを考慮する方法よりも、Jaccard係数が高い、すなわち、推定精度が高いことが分かる。
【0081】
図11の(a)は、検査対象画像(T2WIチャンネル及びCE-TIWIチャンネル)の一例を示す。
図11の(b)は、
図11の(a)に示す検査対象画像を第1ニューラルネットワークN1に入力したときに、第1ニューラルネットワークN1から出力される要精査領域の分布を示す。
図11の(c)は、
図11の(a)に示す検査対象画像を第1ニューラルネットワークN1に入力したときに、本実施例に係る情報処理方法S1により得られる要精査領域の分布を示す。
図11の(d)は、
図11の(a)に示す検査対象画像を目視した専門医が指定した要精査領域の分布を示す。
図11によれば、広域画像のみを考慮する方法では、専門医が指定した分布と大きく相違する分布が得られるのに対して、本実施例に係る方法では、専門医が指定した分布と大きく相違しない分布が得られることが分かる。
【0082】
(付記事項)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、上述した実施形態に開示された各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1 情報処理装置
11 プロセッサ
12 一次メモリ
13 二次メモリ
14 入出力インタフェース
15 バス
N1 第1ニューラルネットワーク
N11 部分ネットワーク
N12 出力層
N2 第2ニューラルネットワーク
S1 情報処理方法(推論フェーズ)
S11 第1導出処理
S12 第2導出処理
S13 生成処理
S2 情報処理方法(学習フェーズ)
S21 第1生成処理
S22 第1構築処理
S23 第2生成処理
S24 第2構築処理