(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127109
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】Sm-Fe-N系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/059 20060101AFI20240912BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240912BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
H01F1/059 160
B22F3/00 F
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036003
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神宮 美香
(72)【発明者】
【氏名】藤川 佳則
(72)【発明者】
【氏名】外山 勝美
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018CA04
4K018CA33
4K018DA29
4K018DA31
4K018DA32
4K018FA11
4K018KA45
4K018KA63
5E040AA03
5E040CA01
5E040HB03
5E040NN06
5E040NN17
(57)【要約】
【課題】理論上、磁気特性を向上させる余地が大きいSm-Fe-N系焼結磁石を提供する。
【解決手段】Th
2Zn
17型の結晶構造を有する主相粒子と、粒界相と、を有するSm-Fe-N系焼結磁石である。Th
2Zn
17型の結晶構造を有し、かつ、コアおよびシェルを有するコアシェル主相粒子を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Th2Zn17型の結晶構造を有する主相粒子と、粒界相と、を有するSm-Fe-N系焼結磁石であって、
前記Th2Zn17型の結晶構造を有し、かつ、コアおよびシェルを有するコアシェル主相粒子を含むSm-Fe-N系焼結磁石。
【請求項2】
窒素の含有量が15000ppm以上36000ppm以下である請求項1に記載のSm-Fe-N系焼結磁石。
【請求項3】
密度が7.10g/cm3以上7.50g/cm3以下である請求項1または2に記載のSm-Fe-N系焼結磁石。
【請求項4】
Smの含有量に対するFeの含有量の割合が前記コアにおけるSmの含有量に対するFeの含有量の割合よりも高いSmリッチ粒界相を有し、Smの含有量に対するFeの含有量の割合が原子数基準で2.50以上3.40以下であるSmリッチ粒界相を含む請求項1または2に記載のSm-Fe-N系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Sm-Fe-N系焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
Sm-Fe-N系磁石は、保磁力の理論値(理論的に発生し得る最大の保磁力)が高く、150℃以上の温度での残留磁束密度も高い。したがって、Sm-Fe-N系磁石は高性能な永久磁石として有望視されている。さらに、Nd-Fe-B系磁石と比較してSm-Fe-N系磁石は原料の供給リスクが小さい。しかし、Sm-Fe-N系磁石は熱的安定性が低く、600℃以上でSmNとα-Feとに分解してしまう。
【0003】
特許文献1には、Sm-Fe-N系微粉末を高圧で加圧成形した後に低温かつ高圧で焼結するSm-Fe-N系焼結磁石の製造方法が記載されている。しかし、得られたSm-Fe-N系焼結磁石の相対密度は最大で92.2%であり、十分に緻密化していない。
【0004】
一方、Sm-Fe系焼結体を作製した後で窒化し、Sm-Fe-N系焼結磁石とすることも検討されている。しかし、Sm-Fe系焼結体の密度が高いと窒化が進行しにくい。Sm-Fe系焼結体の密度が低いと最終的に得られるSm-Fe-N系焼結磁石の密度が低下する。そのため、十分に緻密化し、かつ窒化されたSm-Fe-N系焼結磁石は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示における例示的な実施形態の目的は、理論上、磁気特性を向上させる余地が大きいSm-Fe-N系焼結磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本開示のSm-Fe-N系焼結磁石は、
Th2Zn17型の結晶構造を有する主相粒子と、粒界相と、を有するSm-Fe-N系焼結磁石であって
前記Th2Zn17型の結晶構造を有し、かつ、コアおよびシェルを有する コアシェル主相粒子を含む。
【0008】
本開示のSm-Fe-N系焼結磁石は、窒素の含有量が15000ppm以上36000ppm以下であってもよい。
【0009】
本開示のSm-Fe-N系焼結磁石は、密度が7.10g/cm3以上7.50g/cm3以下であってもよい。
【0010】
本開示のSm-Fe-N系焼結磁石は、Smの含有量に対するFeの含有量の割合が前記コアにおけるSmの含有量に対するFeの含有量の割合よりも高いSmリッチ粒界相を有してもよく、Smの含有量に対するFeの含有量の割合が原子数基準で2.50以上3.40以下であるSmリッチ粒界相を含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の主相粒子と粒界相とを示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例8の断面SEM画像である。
【
図3】
図3は、本開示の比較例2の断面SEM画像である。
【
図4】
図4は、本開示の比較例3の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、実施形態に係る各構成要素、たとえば、数値、形状、材料、製造工程などは、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり、変更したりしてもよい。
【0013】
Sm-Fe-N系焼結磁石とは、Sm、FeおよびNを含む焼結磁石のことである。Sm-Fe-N系焼結磁石は主相粒子を有する。主相粒子がSm、FeおよびNを含み、かつ、Th2Zn17型の結晶構造である結晶を含む。すなわち、主相粒子がTh2Zn17型の結晶構造を有する。
【0014】
Sm、FeおよびNを含み、かつ、Th2Zn17型の結晶構造を有する結晶の組成は、原子数比でSm2Fe17Nxと表される。xが1.0以上6.0以下であってもよく、2.0以上4.0以下であってもよく、2.5以上3.5以下であってもよく、2.8以上3.3以下であってもよく、3.0であってもよい。
【0015】
組成がSm2Fe17であり、かつ、Th2Zn17型の結晶構造を有する結晶を窒化させると結晶がc軸方向に伸長し保磁力が発現する。当該結晶における窒素の含有量が多くなるほど結晶がc軸方向に大きく伸長し発現する保磁力が増加する。すなわち、Sm-Fe-N系焼結磁石においては、当該結晶の窒化が進行するほど磁気特性を向上させる余地が大きくなる。しかし、当該結晶を窒化させすぎると当該結晶が非晶質化しやすくなりSmNとα-Feとに分解しやすくなる。
【0016】
SmおよびFeを含む結晶において、Smの一部がZr、Nb、Y、La、Ceおよび/またはPrで置換されてもよい。Feの一部がAl、Cu、Ga、Co、Ti、V、Mnおよび/またはWで置換されていてもよい。以下、以下、R元素がSm、Zr、Nb、Y、La、CeおよびPrであるとし、T元素がFe、Al、Cu、Ga、Co、Ti、V、MnおよびWであるとする。
【0017】
本開示の一実施形態におけるSm-Fe-N系焼結磁石は、
図1に示すコアシェル主相粒子11と、粒界相13と、を有する。
【0018】
コアシェル主相粒子11は上記のTh2Zn17型の結晶構造を有する主相粒子の一種である。コアシェル主相粒子11はコア11aおよびコア11aの周囲に存在するシェル11bを有する。
【0019】
シェル11bの厚みには特に制限はない。例えば50nm以上200nm以下であってもよい。また、コア11aの全体をシェル11bが被覆していなくてもよい。例えば、コア11aの表面の50%以上をシェル11bが被覆してもよい。
【0020】
シェル11bは後述する窒化工程において窒素の拡散経路となる。シェル11bはSm濃度が高いためである。焼結体にコアシェル主相粒子11が含まれる場合には、焼結体が緻密化していても窒化されやすい。コアシェル主相粒子11が多いほど、Sm-Fe-N系焼結磁石は窒化されやすく、磁気特性を向上させる余地が大きくなる。
【0021】
上記の通り、シェル11bはコア11aよりSm濃度が高い。したがって、SEMを用いてSm-Fe-N系焼結磁石の断面を観察することで得られるSEM画像によりコア11aとシェル11bとを区別することができる。SEM画像がCOMPO像である場合にはSm濃度が高い部分ほど明るくなるため、シェル11bがコア11aよりも明るくなる。以下の記載ではSEM画像がCOMPO像であることを前提とする。
【0022】
Sm-Fe-N系焼結磁石に含まれる主相粒子に対するコアシェル主相粒子11の面積割合は、20%以上95%以下が好ましい。Sm-Fe-N系焼結磁石に含まれる主相粒子の粒径に特に制限はないが、0.1μm以上100μm以下であってもよく、0.5μm以上20μm以下であってよい。
【0023】
粒界相13は主に粒界三重点に存在するが、二粒子粒界に存在してもよい。二粒子粒界とは、隣り合う2個の主相粒子の間に位置する部分のことである。粒界三重点とは、3個以上の主相粒子に囲まれた部分のことである。
図1では、粒界相が4個のコアシェル主相粒子11に囲まれている。
【0024】
後述する実施例8のSEM画像である
図2より、粒界相13にはコア11aよりも明るい粒界相とコア11aよりも暗い粒界相とがある。コア11aよりも明るい粒界相、すなわちSmの含有量に対するFeの含有量の割合がコア11aにおけるSmの含有量に対するFeの含有量の割合よりも高い粒界相13をSmリッチ粒界相とする。Smリッチ粒界相は、主にSmFe
3結晶を窒化した生成物を含んでもよく、主にSmFe
2結晶を窒化した生成物を含んでもよく、主にSmNを含んでもよい。SmFe
3結晶およびSmFe
2結晶は軟磁性を示すが、窒化により非晶質化し非磁性化する。コア11aよりも暗い粒界相にはα-Feを含んでもよい。コア11aよりも暗い粒界相が空隙であってもよい。
【0025】
後述する窒化工程において、焼結体が粒界相13を含む場合には、粒界相13を介して焼結体内部まで窒化を進行させることが可能となる。粒界相13、特にSmリッチ粒界相は窒素の拡散経路となりやすい。窒素は粒界相13に含まれるSmを介して拡散しやすい。そのため、焼結体に粒界相13、特にSmリッチ粒界相が含まれる場合には、焼結体が緻密化していても窒化されやすい。
【0026】
本開示の一実施形態に係るSm-Fe-B系焼結磁石は、Smの含有量に対するFeの含有量の割合が原子数基準で2.50以上3.40以下であるSmリッチ粒界相を含んでもよい。以下の記載では、一般的に「Smの含有量に対するFeの含有量の割合」のことを単に「Fe/Sm」と記載する場合がある。また、本開示の一実施形態におけるSm-Fe-N系焼結磁石に含まれるSmリッチ粒界相におけるFe/Smの平均が2.50以上3.40以下であってもよい。
【0027】
後述する窒化工程において、Fe/Smが上記の範囲にある粒界相13はSmを比較的多く含むため、窒素の拡散経路となりやすい。そのため、焼結体が緻密化していても窒化されやすい
【0028】
SEM画像のうちSm-Fe-N系焼結磁石に含まれる部分全体の面積に対する主相粒子の合計面積割合が90%以上98%以下であってもよい。コア11aよりも明るい粒界相(Smリッチ粒界相)の合計面積割合が2%以上10%以下であってもよい。コア11aよりも暗い粒界相の合計面積割合が0%以上5%以下であってもよい。
【0029】
以上より、主相粒子がコア11aおよびシェル11bを有するコアシェル主相粒子11であることはSEM画像により確認することができる。Sm-Fe-N系焼結磁石における断面の位置および断面と配向軸との角度には特に制限はない。例えば断面が配向軸に平行であってもよく、断面が配向軸に直交していてもよい。
【0030】
本開示の一実施形態におけるSm-Fe-N系焼結磁石において、R元素とT元素との合計含有量に対するR元素の含有割合が11.5at%以上12.3at%以下であってもよい。R元素の含有量に対するSmの含有割合が50at%以上100at%以下であってもよい。T元素の含有量に対するFeの含有割合が70at%以上100at%以下であってもよい。各元素の含有割合が上記の範囲内である場合には、粒界相13やシェル11bが形成されやすい。
【0031】
本開示の一実施形態におけるSm-Fe-N系焼結磁石における窒素の含有量には特に制限はないが、10000ppm以上50000ppm以下(1.0質量%以上5.0質量%以下)であってもよく、15000ppm以上36000ppm以下(1.5質量%以上3.6質量%以下)であってもよい。窒素の含有量が上記の範囲内である場合には、Sm、FeおよびNを含み、かつ、Th2Zn17型の結晶構造を有する結晶が多くなる。
【0032】
Sm-Fe-N系焼結磁石における窒素の含有量が少ない場合には、主相粒子11の特にコア11aにおいてSmおよびFeを含むがNを含まず、かつ、Th2Zn17型の結晶構造を有する結晶が多くなる。Sm-Fe-N系焼結磁石における窒素の含有量が多い場合には、主相粒子11に含まれるTh2Zn17型の結晶構造を有する結晶の一部が非晶質化し分解してしまう。
【0033】
本開示の一実施形態におけるSm-Fe-N系焼結磁石における酸素の含有量には特に制限はないが、4500ppm未満(0.45質量%未満)であってもよく、3500ppm未満(0.35質量%未満)であってもよい。Sm-Fe-N系焼結磁石における酸素の含有量が多い場合には、主相粒子および粒界相13が酸化されてしまう。
【0034】
本開示の一実施形態におけるSm-Fe-N系焼結磁石において、R元素、T元素、NおよびO以外の元素の含有量には特に制限はなく、Sm-Fe-N系焼結磁石の磁石特性を大きく変化させない程度に含有してもよい。例えば、R元素、T元素、NおよびO以外の元素、例えばC、B、Siの含有量は各0.2質量%以下、合計1.0質量%以下としてもよい。
【0035】
本開示の一実施形態におけるSm-Fe-N系焼結磁石の密度には特に制限はないが、6.70g/cm3以上7.60g/cm3以下であってもよく、7.10g/cm3以上7.50g/cm3以下であってもよい。Sm-Fe-N系焼結磁石の密度が小さいほど残留磁束密度が低下しやすい。したがって、Sm-Fe-N系焼結磁石の密度が大きいほど磁気特性を向上させる余地が大きくなる。ただし、Sm-Fe-N系焼結磁石の密度が大きいほど後述する窒化が進行しにくくなる。
【0036】
以下、本開示の一実施形態におけるSm-Fe-N系焼結磁石の製造方法について説明する。なお、以下の記載では適宜、Smの一部がSm以外のR元素に置換されていてもよく、Feの一部がFe以外のT元素に置換されていてもよい。
【0037】
本開示の一実施形態に係るSm-Fe-N系焼結磁石の製造方法には特に制限はない。例えば通常の粉末冶金法により製造することができる。通常の粉末冶金法は、原料合金を調製する調製工程、原料合金を粉砕して原料微粉末を得る粉砕工程、原料微粉末を成形して成形体を作製する成形工程、成形体を焼結して焼結体を得る焼結工程、および、前記焼結体を窒化する窒化工程を有する。
【0038】
本開示の一実施形態に係るSm-Fe-N系焼結磁石の製造方法においては、1種類の原料合金のみを用いる一合金法を適用してもよく、2種類以上の原料合金を用いる二合金法を適用してもよい。二合金法を適用する場合には、例えば、主に主相粒子となる原料合金と、主に粒界相となる原料合金と、を準備する。以下の記載では一合金法を適用するものとする。
【0039】
以下、本開示の一実施形態に係るSm-Fe-N系焼結磁石の好適な製造方法の一例について説明する。
【0040】
(調整工程)
Sm-Fe-N系焼結磁石の原料合金に限らず各種永久磁石の原料合金の製造方法としては、ストリップキャスト法(SC法)、超急冷凝固法、蒸着法、還元拡散法などが挙げられる。本開示の一実施形態に係るSm-Fe-N系焼結磁石の原料合金の製造方法としては、ストリップキャスト法が好ましい。Sm-Fe-N系焼結磁石の原料合金の組織を好適に制御しやすく、かつ、Sm-Fe-N系焼結磁石の酸素量を低減しやすいためである。
【0041】
以下、ストリップキャスト法によるSm-Fe-N系焼結磁石の原料合金の製造方法の一例について説明する。
【0042】
まず、目的とするSm-Fe-N系焼結磁石の原料合金の組成に応じて原料を準備する。原料としては、例えばSm単体、Smを含む化合物、Smを含む合金、Fe単体、Feを含む化合物、および/または、Feを含む合金を適宜準備する。
【0043】
そして、各原料を配合する。そして、配合した各原料を高周波炉において不活性雰囲気(例えば、Ar減圧雰囲気またはAr雰囲気)で溶解して溶湯を作製する。溶湯の温度には特に制限はない。例えば1450℃~1600℃であってもよい。
【0044】
Smの融点は1073℃でありSmの蒸気圧は低い。したがって、上記の溶湯温度ではSmの一部が揮発する。所望の組成を有する原料合金を得るためには、揮発するSm量を最小限にする必要がある。揮発するSm量を最小限にするため、最初に原料を配合する際にSmを含む原料を全量、配合するのではなく一部のみ配合する。そして、溶湯の温度が所定の温度に達した後で、Smを含む原料の残部を溶湯に投入する。最初に原料を配合する際に投入するSmの割合には特に制限はないが、最終的に投入するSmの全量に対して40%以上60%以下のSmを投入してもよい。また、3段階以上に分けてSmを含む原料を配合してもよい。
【0045】
次に、溶湯をタンディッシュに流し込む。さらに、タンディッシュから回転する鋳造ロール上に溶湯を出湯させる。そして、溶湯を鋳造ロール上で冷却させて凝固させる。凝固した溶湯は鋳造ロールから剥がれて薄片となり、捕集コンテナの中に収集される。捕集コンテナの中で薄片が冷却されて原料合金が得られる。
【0046】
放射温度計で溶湯の温度変化を観察すると、1450℃~1600℃でタンディッシュから出湯された溶湯は、鋳造ロール上で1000℃近くまで急速に冷却されて凝固している。鋳造ロール上での溶湯の冷却速度は、例えば、500℃/s以上12000℃/s以下であってもよい。好ましくは1500℃/s以上10000℃/s以下、より好ましくは1500℃/s以上7000℃/s以下である。
【0047】
上記のようにSmを含む原料を2段階以上に分けて配合し、さらに鋳造ロール上での冷却速度を好適に制御することにより、最終的にTh2Zn17型の結晶構造を有する主相粒子となるSm2Fe17結晶を原料合金に十分に含ませることができる。Sm2Fe17結晶に加えて、最終的に主にSmリッチな粒界相となるSmFe2結晶および/またはSmFe3結晶を原料合金に十分に含ませることができる。原料合金に含まれるSm2Fe17結晶には、化学量論比よりもSmが過剰に含まれていてもよい。なお、原料合金の溶体化処理は不要である。
【0048】
Sm-Fe-N系焼結磁石の原料合金におけるFe/Smの上限には特に制限はないが、原子数基準で7.10以上7.50以下としてもよい。
【0049】
原料合金におけるFe/Smが高すぎる場合には、原料合金におけるSmFe2結晶およびSmFe3結晶の含有量が少なくなりすぎる。さらに、原料合金に含まれるSm2Fe17結晶に化学量論比よりもSmが過剰に含まれにくくなる。そして、後述する焼結時においてSmを多く含む液相が生成しにくくなり、焼結が進行しにくくなる。さらに、主相粒子がコアシェル構造を有しにくくなる。すなわち、コアおよびシェルを有するコアシェル主相粒子が焼結体に含まれにくくなる。
【0050】
原料合金におけるFe/Smが低すぎる場合には、最終的に得られるSm-Fe-N系焼結磁石における主相粒子の含有割合が減少しやすくなる。
【0051】
鋳造ロール上での冷却速度が遅すぎる場合には薄片が不均一となり含まれることが好ましくない異相(例えばα-Fe相)が発生する。
【0052】
鋳造ロール上での冷却速度が速すぎる場合には、薄片においてTh2Zn17型の結晶構造を有する結晶が十分に成長しなくなる。そのため、薄片がナノ結晶および非晶質の集合体となりやすくなる。そして、後述する微粉砕後の粉末粒子が多結晶体となりやすくなる。さらに、後述する磁場中成形においてTh2Zn17型の結晶構造を有する主相粒子が十分に配向しなくなる。その結果、最終的に得られるSm-Fe-N系焼結磁石の残留磁束密度が低下しやすくなる。
【0053】
鋳造ロールは内部が水冷されていてもよい。鋳造ロールの材質は任意である。熱伝導度を考慮すると鋳造ロールの材質はCuまたはCu系合金が好ましい。さらに、Be-Cu合金、Cr-Cu合金は高い強度も兼ね備えていることから特に好ましい。
【0054】
鋳造ロールの表面状態には特に制限はなく、適切に制御すればよい。鋳造ロールの表面の粗度が高すぎると鋳造ロールと溶湯とが密着しなくなる。また、鋳造ロールの表面の粗度が低すぎると鋳造ロールが溶湯をはじいてしまう。鋳造ロールの表面状態を制御する方法としては、鋳造ロールの表面を紙やすり等で研磨する方法が挙げられる。鋳造ロールの表面を紙やすりで研磨する場合において好ましい紙やすりの番手は♯100~♯1200である。また、研磨の方向は特に制限されず、鋳造ロールの周方向、鋳造ロールの周方向に垂直な方向(鋳造ロールの軸に沿った方向)、またはそれ以外の方向(例えば鋳造ロールの周方向から見て斜め方向)に研磨してもよい。鋳造ロールの周方向から見て斜め方向に研磨することが好ましい。鋳造ロールの好ましい表面状態は、溶湯の組成、溶湯の温度、溶湯の粘性、溶湯の表面張力等により変化する。そのため、溶湯の組成等により鋳造ロールの表面状態を適宜調整する必要がある。
【0055】
捕集コンテナの中で薄片がさらに冷却される。以下、鋳造ロール上での冷却を1次冷却、捕集コンテナの中での冷却を2次冷却と呼ぶことがある。
【0056】
1次冷却速度が上記の範囲内であり、かつ、2次冷却速度を意図的に速くすることで、原料合金中のTh2Zn17型結晶構造を有するSm2Fe17結晶が化学量論比より過剰にSmを含有している状態を維持することができる。
【0057】
2次冷却速度を意図的に速くする方法には特に制限はない。例えば、薄片の厚みを薄くする方法、捕集コンテナの中に冷却板を櫛状に並べる方法、冷却用ガスを薄片に吹き付ける方法が挙げられる。捕集コンテナの中に冷却板を櫛状に並べる場合には、さらに冷却板を冷却する冷却水の水温を低下させたり、冷却板を冷却する冷却水の水量を増加させたり、冷却板同士の間隔を狭くしたりすることで2次冷却速度をさらに速くすることができる。2次冷却速度は具体的には50℃/分以上とすることが好ましい。
【0058】
原料合金の組織は、特に原料合金作製時の溶湯組成、溶湯温度、冷却速度に依存する。原料合金に含まれることが好ましくない異相、ナノ結晶、非晶質相の発生を妨げて好ましい原料合金の組織を得るためには、特に原料合金作製時の溶湯組成、溶湯温度、冷却速度を適宜選択し、原料合金における主相粒子の組成と粒界相の組成とを制御することが重要である。
【0059】
(粉砕工程)
粉砕工程は、調製工程で得られた原料合金を粉砕して原料微粉末を得る工程である。粉砕工程は、粗粉砕工程及び微粉砕工程の2段階で行ってもよく、微粉砕工程のみの1段階で行ってもよい。
【0060】
粗粉砕工程では、粒径が数百μmから数mm程度の粗粉末となるまで原料合金を粉砕する。粗粉砕工程は、不活性ガス雰囲気中で例えばスタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用いて原料合金を粉砕することにより行ってもよい。また、粗粉砕工程は後述する水素吸蔵粉砕で原料合金を粉砕することにより行ってもよい。一般的に水素吸蔵粉砕とは、不活性雰囲気下で金属に水素を吸蔵させた後に脱水素処理を行うことで金属を粉砕することを指す。金属への水素の吸蔵および放出により、金属に含まれる複数の相の体積膨張率が変化する。金属に含まれる複数の相の体積膨張率を変化させることにより、金属にクラックを発生させ、金属を粉砕することができる。
【0061】
粗粉砕工程では、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用いた粉砕の後に水素吸蔵粉砕を行ってもよい。
【0062】
例えば、原料合金を粒子径が約1mm以下の粉末となるようにスタンプミルで粉砕した後に水素吸蔵粉砕を行ってもよい。この場合において、原料合金をスタンプミルで粉砕する際の雰囲気中の酸素含有量を調整することにより、粗粉末に酸化物相を生成させることができる。この場合には、得られる粗粉末の平均粒子径が150μm以上1.0mm以下となるようにしてもよい。
【0063】
過度な酸化物相の生成は最終的に得られるSm-Fe-N系焼結磁石における主相粒子の含有比率の減少を招き、最終的に得られるSm-Fe-N系焼結磁石における残留磁束密度が低下しやすくなる。また、主相粒子の外縁部に酸化物相が生成すると、後述する主相粒子の窒化を阻害してしまう。そのため、スタンプミルで粉砕する際の雰囲気は酸素含有量が1~500ppmであるAr雰囲気としてもよい。好ましくは酸素含有量が5~100ppmであるAr雰囲気とする。
【0064】
微粉砕工程は、粗粉砕工程で得られた粗粉末を微粉砕して平均粒径が数μm程度の微粉末を得る工程である。微粉砕は、例えばジェットミル(気流式粉砕機)を用いた乾式粉砕やビーズミルを用いた湿式粉砕等により行うことができる。また、微粉砕は、ジェットミルを用いた乾式粉砕の後にビーズミルを用いた湿式粉砕を行う多段粉砕としてもよい。
【0065】
ジェットミルを用いた乾式粉砕では、粉砕装置の内部に高速で流れるガス(粉砕ガス)中に粗粉末を投入することにより、粗粉末同士の衝突によって粗粉末が微細化する。一般的に、粉砕ガスとしては窒素ガスが用いられる。しかし、本開示では、HeやArなどの希ガスが用いられる。窒素ガスを用いることにより微粉末が窒化することを避けるためである。微粉末が窒化するとその後の焼結時に主相粒子の一部がSmNとα-Feとに分解する場合がある。また、微粉末の表面が窒化物または酸化物で過度に覆われると焼結が進行しにくくなり密度が低下してしまう。したがって、粉砕ガスの酸素含有量は低いことが好ましい。例えば200ppm以下であることが好ましい。
【0066】
粉砕ガスとしては、特にArを用いることが好ましい。Heを用いる場合には粉砕ガスの流速を高めることができるために粉砕エネルギーを大きくすることができるが、Arと比較してHeはコストが高いためである。
【0067】
ジェットミルを用いた乾式粉砕で微粉砕を行う場合には、微粉末の粒径が小さく微粉末の表面が活性化するため、微粉末同士の再凝集や微粉末の容器壁への付着が起こりやすくなる。微粉末同士の再凝集や微粉末の容器壁への付着を防止するために、微粉砕の前に粉砕助剤を添加してもよい。
【0068】
粉砕助剤を添加することにより、微粉末の収率を向上させることができる。さらに成形工程での磁場配向が容易になる。加えて焼結体の酸素量を好適に変化させることが可能となり、Sm-Fe-N系焼結磁石に希土類元素と酸素とを含有する酸化物相を適切な範囲内で含ませることが可能となる。粉砕助剤の添加量は、微粉末の粒径や粉砕助剤の種類によっても異なるが、概ね0.05質量%以上0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0069】
ジェットミルを用いた乾式粉砕で微粉砕を行う場合には、分級機付きのジェットミルを用いてもよい。分級機付きのジェットミルを用いることで粗大粒子や超微細粒子の除去および再粉砕が可能となる。そのため、微粉末の粒度分布を制御しやすくなる。さらに、最終的に得られるSm-Fe-N系焼結磁石においてTh2Zn17型の結晶構造を有する主相粒子の粒度分布を制御することができる。
【0070】
(成形工程)
成形工程は、微粉末を磁場中で成形して成形体を作製する工程である。具体的には、微粉末を電磁石中に配置された金型内に充填した後、電磁石により磁場を印加して微粉末の結晶軸を配向させながら加圧により微粉末を成形することにより成形体を作製する。この磁場中の成形は、例えば、950kA/m以上1600kA/m以下の磁場中で、概ね30MPa以上300MPa以下の圧力で行えばよい。印加する磁場は静磁場に限定されず、パルス状磁場とすることもできる。また、静磁場とパルス状磁場とを併用することもできる。成形時の雰囲気は不活性ガス雰囲気とする。Ar雰囲気とすることが好ましい。得られる成形体は特定方向に配向するので、より磁性の強い異方性を有するSm-Fe-N系焼結磁石が得られる。
【0071】
なお、成形方法は、上記のような乾式成形であってもよく、微粉末を油等の溶媒に分散させたスラリーを成形する湿式成形であってもよい。
【0072】
成形体の形状には特に限定はない。例えば直方体、平板状、柱状、リング状が挙げられる。所望とするSm-Fe-N系焼結磁石の形状に応じた任意の形状とすることができる。
【0073】
(焼結工程)
焼結工程は、成形体を焼結して焼結体を得る工程である。一般的な焼結工程では、成形体を真空、減圧不活性ガス雰囲気または不活性ガス雰囲気で焼結し、焼結体を得ることができる。
【0074】
本開示の一実施形態では、減圧不活性ガス雰囲気で焼結する。減圧下で焼結することにより、化学量論比よりも過剰にSmが含まれるSm2Fe17結晶においてSmが揮発する。その結果、主相粒子中のSmが主相粒子の外側部分に移動し、Smの含有量を増加させることができる。同時に、Smを多く含む液相をより低温で生成させることができる。その結果、磁石の密度を高くすることができる。
【0075】
焼結条件は、成形体の組成、微粉末の粉砕方法、微粉末の粒度等の条件に応じて適宜設定すればよい。不活性ガスとしてはArガスが好ましい。特に焼結時の保持温度が1000℃以上である場合には、Smの過剰な揮発を防ぐためにArガス雰囲気で焼結を行うことが好ましい。また、焼結を進行しやすくするため、焼結時の雰囲気中の圧力は1kPa以下とすることが好ましい。
【0076】
焼結時の保持温度は任意である。例えば1000℃以上1250℃以下とすることができる。焼結時の保持時間は任意である。例えば0.01時間以上5時間以下とすることができる。焼結時の保持温度を上記の範囲内とし、さらに焼結時の保持時間を上記のような短時間とすることで、Th2Zn17型の結晶構造を有する主相粒子の粒成長を抑制することができ、主相粒子の粒度分布を制御しやすくなる。
【0077】
焼結時の保持温度が低すぎる場合には、Sm-Fe-N系焼結磁石の密度が低下しやすくなり、Sm-Fe-N系焼結磁石の残留磁束密度が低下しやすくなる。焼結時の保持温度が高すぎる場合には、微粉末の粒成長が促進され、Th2Zn17型の結晶構造を有する主相粒子の粒径が不均一となる。さらに、Smの揮発量が増えることによりTh2Zn17型の結晶構造を有する結晶が分解しやすくなる。その結果、Sm-Fe-N系焼結磁石の残留磁束密度および保磁力が低下しやすくなる。焼結時の保持温度および保持時間は、諸条件の違いにより適宜調整することが好ましい。また、焼結温度が高すぎる場合や焼結時間が長すぎる場合には、焼結体の密度が高くなりすぎる場合があり、その場合には後述する窒化工程で窒化が進行しにくくなる。
【0078】
(窒化工程)
得られた焼結体、すなわち、主相粒子の外側部分におけるSm濃度が高く、かつ、Smリッチ粒界相を含む焼結体に対して、窒化ガスを流しながら不活性雰囲気下で窒化処理する。Sm濃度が高い部分が窒化ガスの拡散経路となる。そして、主相粒子の外側部分におけるSm濃度が高い部分がコアシェル主相粒子のシェルとなり、かつ、焼結体の外部から焼結体の内部に含まれるコアシェル主相粒子のコアにおけるSm2Fe17結晶に至るまで焼結体全体が十分に窒化されて窒素含有量の多いSm-Fe-N系焼結磁石が得られる。窒化ガスの種類はN2ガス、または、N2ガスとH2ガスとの混合ガスとする。N2ガスとH2ガスとの混合ガスにおける混合比には特に制限はない。例えば体積基準でN2ガスの含有割合を40%以上としてもよい。なお、窒化ガスをNH3ガスまたはNH3ガスとH2ガスとの混合ガスとする場合には、主相粒子がコアシェル構造を有さなくなり、コアシェル主相粒子が形成されなくなる。
【0079】
窒化ガスの流量には特に制限はない。例えば0.5L/分以上2L/分以下としてもよい。不活性雰囲気の種類には特に制限はない。例えばArガス雰囲気であってもよい。
【0080】
Sm-Fe-N系焼結磁石は、相対密度が92%以上であることが好ましく、93%以上であることがさらに好ましい。相対密度とは、磁石の組成および格子定数から算出される理論密度を100%とした場合において、実際に重量および磁石体積から測定した密度の比率である。
【0081】
以上、本開示の実施形態に係るSm-Fe-N系焼結磁石の製造方法の一例について説明したが、Sm-Fe-N系焼結磁石の製造方法は任意である。
【0082】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0083】
以下、本開示の内容を実施例および比較例を用いて詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されない。
【0084】
(調整工程)
原料として、Sm単体およびFe単体を準備した。そして、表1に示す各原料の合計組成となるようにSm単体およびFe単体を秤量した。
【0085】
各原料を配合し、Ar雰囲気下で高周波溶解して溶湯を得た。
【0086】
比較例1、2では、各原料の全量を一度に高周波溶解させて溶湯を得た。これに対し、全実施例および比較例3では、準備したSm単体のうち半分のみを準備したFe単体の全量と配合させて高周波溶解させ、得られた溶湯に対して準備したSm単体の残りの半分を後添加して改めて高周波溶解させた。Sm単体の残りの半分を後添加する時点での溶湯の温度は1540℃とした。また、Sm単体の残りの半分を後添加するタイミングは、Sm単体の半分およびFe単体が溶解してから2分経過後とした。
【0087】
次に、溶湯をタンディッシュに流し込んだ。さらに、溶湯をタンディッシュから回転する鋳造ロール上に出湯させた。出湯温度は1550℃とした。鋳造ロールの材質はCuとした。そして、溶湯を鋳造ロール上で冷却させて凝固させた。各実施および比較例での鋳造ロール上での冷却速度、すなわち、1次冷却での冷却速度を表1に示す。
【0088】
1次冷却での冷却速度の測定方法を以下に示す。まず、浸漬熱電対を用いてタンディッシュにおける溶湯の温度を測定した。次に、放射温度計を用いて溶湯を出湯させた位置から鋳造ロールが60度回転した位置における合金の温度を測定した。そして、両者の温度差を鋳造ロールが60度回転する時間で割ることにより冷却速度を算出した。
【0089】
鋳造ロールから剥がれた薄片を捕集コンテナに収集し、捕集コンテナの中で薄片がさらに冷却されて原料合金が得られた。捕集コンテナには冷却板を櫛状に並べ、冷却板を冷却する冷却水の水温を適宜、制御した。捕集コンテナの中での冷却速度、すなわち、2次冷却での冷却速度は、合金が捕集コンテナに収集されてから合金が600℃になるまでの平均冷却速度で20℃/分となるようにした。
【0090】
得られた原料合金のFe/Smを測定した。結果を表1に示す。なお、Fe/Smの測定はICP発光分光分析により行った。
【0091】
(粉砕工程)
原料合金の粗粉砕を行った。まず、原料合金を粒子径1mm以下の粉末となるようにスタンプミルで粉砕した。スタンプミルによる粉砕はAr雰囲気下で行った。雰囲気中の酸素濃度は50ppm程度とした。
【0092】
次に、スタンプミルで粉砕した後の粉末に対して水素吸蔵粉砕した。まず、スタンプミルで粉砕した後の粉末に対して、水素ガス雰囲気下で300℃、1時間の水素吸蔵処理を行った。次に、Arガス雰囲気下で室温まで冷却した。冷却中に脱水素処理が進行し粗粉末が得られた。粗粉末の平均粒子径が500μm程度となるようにした。なお、粗粉末の平均粒子径は粗粉末に含まれる結晶粒子の平均粒径ではない。
【0093】
得られた粗粉末に対して潤滑剤としてオレイン酸アミドを0.1重量%、添加した。
【0094】
次に、ジェットミルを用いて粗粉末の微粉砕を行い、微粉末を得た。微粉砕時の雰囲気は高圧Arガス雰囲気とした。微粉末の平均粒子径が3.5μm程度となるようにした。なお、微粉末の平均粒子径は微粉末に含まれる結晶粒子の平均粒径ではない。
【0095】
(成形工程)
得られた微粉末を磁場中で成形して成形体を得た。成形条件は、酸素濃度10ppm以下のAr雰囲気下、配向磁場1200kA/m、成形圧力120MPaとした。
【0096】
(焼結工程)
各実施例および比較例1、2では、得られた成形体を減圧Ar雰囲気下で焼結し、その後に炉内をArガスで5気圧まで加圧して200℃/分以上の冷却速度で室温まで急冷することにより、焼結体を得た。焼結時の保持温度、焼結時の保持時間および焼結時の雰囲気中の圧力を表1に示す。
【0097】
比較例3の焼結条件は、得られた成形体を大気圧Ar雰囲気下で焼結した点以外は上記の焼結条件と同様とした。
【0098】
(窒化工程)
得られた焼結体に対して、表1に示す窒化ガスを流量1L/分で流しながらAr雰囲気下で窒化処理し、Sm-Fe-N系焼結磁石を得た。雰囲気中の圧力は大気圧とした。実施例6におけるN2ガスの含有割合は体積基準で50%とした。窒化処理時の保持温度および保持時間を表1に示す。
【0099】
(焼結磁石の観察)
得られたSm-Fe-N系焼結磁石について観察した。
【0100】
具体的には、得られたSm-Fe-N焼結磁石の断面を研磨し、SEM-EDS(株式会社日立ハイテク製SU5000)を用いて観察した。加速電圧は20kVとした。観察範囲の大きさは断面において200個程度の主相粒子が見える大きさとなるように適宜、調整した。観察画像の倍率は観察画像からコアシェル主相粒子の有無および粒界相の有無を確認できるように適宜、調整した。結果を表1に示す。
【0101】
コアシェル主相粒子および粒界相が有る場合の例として実施例8の観察画像を
図2に示す。コアシェル主相粒子も粒界相も無い場合の例として比較例2の観察画像を
図3に示す。コアシェル主相粒子は無いが粒界相は有る場合の例として比較例3の観察画像を
図4に示す。
【0102】
さらに、SEM-EDSを用いてSmリッチ粒界相のFe/Smを測定した。加速電圧は20kVとした。具体的には、Smリッチ粒界相中に測定箇所を20箇所設定し、各測定箇所のFe/Smを測定して平均した。結果を表1に示す。
【0103】
主相粒子がTh2Zn17型の結晶構造を有することは、主にTEM(透過型電子顕微鏡)による電子線回折測定およびTEMによる原子配列の直接観察により確認した。さらに、必要に応じてTEM-EDS元素マッピング像の確認、TEM-EDS点分析、およびXRD測定を適宜併用した。全ての実施例および比較例において、主相粒子がTh2Zn17型の結晶構造を有することが確認された。
【0104】
TEMによる電子線回折測定およびTEMによる原子配列の直接観察に用いられる試料の作製にはFIB(収束イオンビーム加工装置)を用いた。
【0105】
(窒素含有量、Fe/Sm)
得られたSm-Fe-N系焼結磁石の窒素の含有量を測定した。具体的には、得られたSm-Fe-N系焼結磁石を粉砕して粉末とした後に、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法により測定した。また、得られたSm-Fe-N系焼結磁石のFe/Smを測定した。具体的には、得られたSm-Fe-N系焼結磁石を粉砕して粉末とした後に、ICP発光分光分析装置にて測定した。結果を表1に示す。
【0106】
(密度)
得られたSm-Fe-N系焼結磁石の寸法および質量を測定し、密度を算出した。結果を表1に示す。
【0107】
【0108】
実施例1~9はSmの一部を後添加したことにより、原料合金のFe/Smが低くなった。さらに、減圧雰囲気で焼結することにより、主相粒子の外周におけるSmの含有割合が高くなりSmの液相が生成し液相焼結が進行した。その後の窒化により主相粒子の外周がシェルとなり主相粒子がコアシェル構造を有することとなりコアシェル主相粒子が得られた。
【0109】
実施例2、3は窒化時間が実施例1よりも長かった。その結果、実施例2、3は実施例1よりも窒素量が多くなった。実施例2、3は実施例1と比較して主相粒子の中心部まで窒化が十分に進行したためであると考えられる。
【0110】
実施例4は焼結時間が実施例1~3よりも長く、窒化温度が実施例1よりも高かった。その結果、実施例4は密度を上昇させつつ実施例3と同等程度に窒化が進行した。
【0111】
実施例5は実施例4と比較して1次冷却の冷却速度を低下させた実施例である。実施例5は実施例4等の他の実施例と比較して窒素量が過剰となった。
【0112】
実施例5は1次冷却の冷却速度を低下させたために、調整工程においてα-Feの生成量、SmFe2の生成量、およびSmFe3の生成量が増加したと考えられる。特にSmFe2の生成量およびSmFe3の生成量が増加したことにより窒素の拡散経路が増えたため、窒化工程において主相粒子の窒化が過剰に進行して窒素量が過剰になったと考えられる。また、調整工程においてα-Feの生成量が増加したことにより、Smリッチ粒界相のFe比率が低下したため、Smリッチ粒界相のFe/Smが大幅に低下したと考えられる。
【0113】
実施例6は実施例4と比較してさらに焼結温度を高くし焼結時間を長くした実施例である。その結果、実施例6は実施例4と比較して密度がさらに上昇した。同時に窒化工程における窒化ガスを変更し窒化温度を上昇させた。そのため、密度がさらに上昇しても主相粒子を十分に窒化させることができた。
【0114】
実施例7は実施例4と比較して原料合金におけるFe/Smを低下させてSmの割合を大きくした実施例である。実施例7と実施例4とは密度が同等である。実施例7は実施例4と比較して主相粒子の窒化を十分に進行させて窒素の含有量を増加させることができた。窒化が進行したのは、原料合金におけるFe/Smを低下させたことにより、Smリッチ粒界相におけるFe/Smが低下したためであると考えられる。
【0115】
実施例8、9は実施例7と比較してさらに原料合金におけるFe/Smを低下させてSmの割合を大きくした実施例である。原料合金におけるFe/Smが小さくなるに従い主相粒子の窒化が進行しやすくなり、窒素の含有量が増加した。
【0116】
比較例1、2はSmの後添加を行わなかった。その結果、原料合金のFe/Smが実施例1~9よりも高くなった。Smの後添加を行わなかったために溶湯作製時に実施例1~9よりもSmが多く揮発してしまったためであると考えられる。
【0117】
比較例1は焼結条件が実施例7~9と同等であるが密度が著しく低下した。まず、原料合金におけるSm量が少なかったために焼結後に粒界相が生じなかった。さらに、減圧雰囲気で焼結しても主相粒子の外周におけるSmの含有割合が高くならなかった。そして、主相粒子の外周におけるSmの含有割合が高くならなかったためにSmの液相が生成せず液相焼結が十分に進行しなかった。その結果、焼結後にコアシェル主相粒子を有さず、粒界相が生じず、かつ、密度が著しく低下したと考えられる。なお、密度が著しく低下したためにその後の主相粒子の窒化は進行しやすくなり窒素量は十分に高くなったと考えられる。
【0118】
比較例2は、実施例7~9と同等程度の密度にするために比較例1よりも焼結温度を高くし焼結時間を長くした比較例である。比較例2は比較例1よりも密度は高くなった。しかし、比較例2は比較例1と同様に原料合金におけるSm量が少なかったために減圧雰囲気で焼結しても主相粒子の外周におけるSmの含有割合が高くならなかった。窒化前の時点での比較では、比較例2は密度が異なる点以外は比較例1と同様の構成を有していた。その結果、比較例2は主相粒子の窒化が十分に進行せず、窒素量が低くなった。
【0119】
比較例3は焼結を大気圧で行った。その結果、主相粒子の外周におけるSmの含有割合が高くならなかったためにSmの液相が生成せず液相焼結が十分に進行しなかったと考えられる。そして、比較例3は実施例1~9と比較して主相粒子の窒化が十分に進行せず、窒素量が低くなった。