(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127127
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】タッチペン
(51)【国際特許分類】
G06F 3/03 20060101AFI20240912BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G06F3/03 400F
G06F3/044 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036043
(22)【出願日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門端 孝太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】牛山 嘉美
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低年齢者等にとって親しみ易いタッチペンを提供する。
【解決手段】静電容量型入力装置に用いるタッチペン10であって、導電性を有する入力部12と、入力部12が取り付けられる軸体を構成し、軸体として導電性を有する紙管14と、を有する。紙管の内面に、入力部と電気的に導通する導電層22が設けられており、導電層は、カーボンナノチューブを含む導電性を有する液体が塗布されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電容量型入力装置に用いるタッチペンであって、
導電性を有する入力部と、
前記入力部が取り付けられる軸体を構成し、軸体として導電性を有する紙管と、
を有するタッチペン。
【請求項2】
前記紙管の内面に、前記入力部と電気的に導通する導電層が設けられている請求項1に記載のタッチペン。
【請求項3】
前記導電層は、導電性を有する液体が塗布されて構成されている請求項2に記載のタッチペン。
【請求項4】
前記導電性を含有する液体には、カーボンナノチューブが含まれている請求項3に記載のタッチペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチペンに関する。
【背景技術】
【0002】
木軸を用いたタッチペンが開示されている(特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-76067号公報
【特許文献2】特開2016-110187号公報
【特許文献3】特開2015-77743号公報
【特許文献4】特表2015-525393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、木軸は導電性を妨げるおそれがあり、また中実であることから重量の点で手軽さに欠けると考えられる。また、近年は低年齢者が静電容量型入力装置を使用する機会が増え、低年齢者でのタッチペンのニーズが増加している。
【0005】
本発明は、低年齢者等にとって親しみ易いタッチペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係るタッチペンは、静電容量型入力装置に用いるタッチペンであって、導電性を有する入力部と、前記入力部が取り付けられる軸体を構成し、軸体として導電性を有する紙管と、を有する。
【0007】
このタッチペンでは、軸体として導電性を有する紙管を用いているので、木軸が用いられる場合と比較して軽量であり、力の弱い低年齢者でも容易に取り扱うことができる。紙管であるので温かみがあり、手触りも良好であるので、低年齢者ひいては高年齢者にとっても親しみ易い。
【0008】
第2の態様は、第1の態様に係るタッチペンにおいて、前記紙管の内面に、前記入力部と電気的に導通する導電層が設けられている請求項1に記載のタッチペン。
【0009】
このタッチペンでは、紙管の内面に、入力部と電気的に導通する導電層が設けられているので、表面が紙管で見えたものであっても導電性を付与させることができ、該タッチペンを用いて静電容量型入力装置を円滑に使用することができる。
【0010】
第3の態様は、第2の態様に係るタッチペンにおいて、前記導電層が、導電性を有する液体が塗布されて構成されている請求項2に記載のタッチペン。
【0011】
このタッチペンでは、導電層が、導電性を有する液体の塗布により構成されているので紙管内面への固着がしやすくなり、紙管の内面に導電層を容易に形成することができる。
【0012】
第4の態様は、第3の態様に係るタッチペンにおいて、前記導電性を含有する液体には、カーボンナノチューブが含まれている。
【0013】
このタッチペンでは、導電性を含有する液体にカーボンナノチューブが含まれているので、紙管の導電性を十分に高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低年齢者等にとって親しみ易いタッチペンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係るタッチペンを示す正面図である。
【
図2】本実施形態に係るタッチペンを示す断面図である。
【
図3】(A)~(E)は、紙管における導電層の形成工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一又は同様の構成要素であることを意味する。なお、以下に説明する実施形態において重複する説明及び符号については、省略する場合がある。また、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0017】
図1、
図2において、本実施形態に係るタッチペン10は、静電容量型入力装置に用いる入力ペンである。タッチペン10を、スタイラスペンと言い換えることもできる。このタッチペン10は、入力部12と、紙管14とを有している。
【0018】
(入力部12)
入力部12は、導電性を有するペン先であり、例えば、後述する導電性を有する液体をフェルトに含浸させ、乾燥させたものが使用される。入力部12として、導電性のゴムやフェルト以外の多孔体等を用いることもできる。入力部12は、例えばその一部が紙管14の端部から内側に嵌入されて取り付けられている。この入力部12は、紙管14の内面の導電層22(後述)と電気的に導通した状態となっている。なお、入力部単体の体積抵抗率は8.4Ω・cm以下とすることが好ましい。
【0019】
(紙管14)
紙管14は、入力部12が取り付けられる軸体を構成し、導電性を有する、例えば円筒形部材である。この紙管14は、紙成分が含まれた材料からなる原紙によって構成され、原紙を螺旋状に一部重ね巻きされることで紙管14が形成される。紙管14の外面側には、空気中等の水分を吸湿して紙管14が軟化しないために耐水塗工剤としてのワックスが予め塗工されている。反対に、紙管14の内面側となる内面には、内面の全面に接着剤が塗布される、
【0020】
なお、原紙は、積層による層構造としてもよく、紙管14の肉厚は剛性や加工性を考慮し、0.5~1mmとすることが好ましい。
【0021】
耐水塗工剤としてのワックスは、例えば蜜ロウ、米ぬかロウ、カルナバロウ等、天然由来のロウや、天然の粘土を用いた耐水塗工剤、食物繊維の抽出物を用いた耐水塗工剤、生物由来のワックス成分等を使用してもよい。
【0022】
一方、紙管14を形成に必要な接着剤としては、デンプン糊等の自然由来の糊を使用する。これにより、プラスチック等の石油化学材料を全く用いない紙管14を得ることができる。
【0023】
なお、原紙が積層による層構造とする場合は、紙管14の外面側に配置される表面に耐水塗工剤を塗工した外面原紙と、内面と外面のいずれの面にも耐水塗工剤を塗工してない中間原紙と、紙管14の内面側に配置される表面に耐水塗工剤を塗工した内面原紙を順に積層して一体化された積層原紙とし、外面原紙の裏面側と中間原紙の外面との間、及び、内面原紙の裏面側と中間原紙の内面との間を、それぞれ糊を用いて密接固定してなる構造とすることが好ましい。
【0024】
紙管14の内面に、入力部12と電気的に導通する導電層22が設けられている。導電層22は、例えば紙管14の内面全体に導電性を有する液体20が塗布されて構成されている。好適な導電性を有する液体20は、導電材料、分散剤、溶媒を少なくとも含む分散液である。
【0025】
導電材料は、炭素材料が用いられ、例えば、グラフェン、グラファイト(黒鉛)、並びにアセチレンブラック及びケッチェンブラック等のカーボンブラック等の炭素粒子を有するものが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、又は組み合わせて使用してもよい。これらの炭素粒子の形状は、特に限定されず、例えば、扁平状、アレイ状、球状等の形状であってよい。導電材料は、前記の炭素材料のほかに、本発明の効果を損なわない範囲において、導電性セラミックス、導電性有機材料(例えば、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリピロール系導電性高分子、炭素繊維)、金属もしくは金属酸化物、ポリアセチレン系導電性高分子を含んでも良い。
【0026】
また、導電性を含有する液体20には、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略す)が含まれたCNT分散液であることが好ましい。また、導電層22としては、実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有するCNTであってもよい。この導電層22として、グラファイトの1枚面を1層に巻いた単層CNT、二層又は三層以上の多層に巻いた多層CNTの何れも用いることができる。
【0027】
また、CNTの形態としては、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバーを挙げることができる。なお、これらに限定されず、これらを各単独又は二種以上組み合わせ(以下、単に「少なくとも1種」という)であってもよい。
【0028】
更に、CNTの平均外径は、分散液の粘度、導電性、安定性の点から、1nm以上90nm以下であることが好ましく、2nm以上30nm以下であることがより好ましい。
【0029】
本実施形態において、CNTの平均外径とは、透過型電子顕微鏡の10万倍以上の倍率の画像を用いて測定した十分なn数(10個以上)の外形の算術平均値をいう。
【0030】
また、本実施形態に用いられるCNTの純度は、導電性の点から70~100質量%が好ましく、特に85~100質量%が好ましい。
【0031】
なお、CNTの純度は、JIS K 1469やJIS K 6218に準拠して測定した灰分を不純物とし、その不純物量に基づき算出される。
【0032】
具体的に用いることができるCNTとしては、例えば、Cnano社製のFloTube(登録商標)9000(平均外径11nm)やFloTube(登録商標)9200(平均外径25nm)、名城ナノカーボン社製のMEIJOeDIPS(登録商標) EC2.0(平均外径2nm)、などの少なくとも1種を用いることができる。
【0033】
これらのCNTの含有量は、好適な含有量を設定することができ、特に限定されるものではない。好ましくは、高い安定性と導電性能を両立する点、好ましい塗液粘度の点から、その含有量は、分散液全量に対して、0.1~10.0質量%とすることが好ましく、さらに0.1~8.0質量%とすることが好ましく、さらに0.5~5とすることがより好ましい。
【0034】
このCNTの含有量を0.1質量%以上とすることにより、十分な導電性を確保できるようになり、一方、10.0質量%以下とすることにより、液の粘度の上昇を防ぎ塗膜のムラを低減させと良好な塗工性ひいては把持部分に左右させることなく安定した導電性を確保することができるものとなる。
【0035】
分散液に使用する分散剤は、CNT等の導電材料を微細に分散させ、更にその分散状態を安定化させるのに役に立つ。分散液としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール等が挙げられ、導電性と塗工性に影響を及ぼさないという点で、分散液全量に対して0.1~10質量%を含むことが好ましい。
溶媒は、導電材料、分散剤、及び随意に配合されるその他の成分等を溶解若しくは分散させ、精製水が用いられる。
【0036】
(紙管14の内面への導電層22の形成方法)
紙管14の内面への導電層22の形成方法は、例えば次のように行われる。
図3(A)、(B)において、紙管14の例えば上端にノズル16を当て、下端に蓋18を当てて、紙管14の両端を閉塞する。
図3(C)、(D)において、ノズル16から導電性を含有する液体20を吐出し、紙管14の内側の空洞に充填する。続いて、
図3(E)において、ノズル16から導電性を含有する液体20の吐出を停止し、ノズル16を紙管14の上端から離し、蓋18を下端から離す。これにより、導電性を含有する液体20が紙管14の内側から排出される。このとき、導電性を含有する液体20の一部が紙管14の内面に付着した状態で残留する。この液体20を乾燥させることで、
図3(F)に示されるように、内面に導電層22が形成された紙管14を得ることができる。
【0037】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。
図2において、本実施形態に係るタッチペン10では、軸体として導電性を有する紙管14が用いられているので、木軸が用いられる場合と比較して軽量であり、力の弱い低年齢者でも容易に取り扱うことができる。紙管14であるので温かみがあり、手触りも良好であるので、低年齢者にとって親しみ易い。
【0038】
また、このタッチペンでは、紙管14の内面に、入力部12と電気的に導通する導電層22が設けられているので、紙管14であっても導電性を向上させることができ、該タッチペンを用いて静電容量型入力装置を円滑に使用することができる。
【0039】
また、紙管14の内面の導電層22が、導電性を有する液体20が該内面に塗布されて構成されている場合、導電層22を設けることによるタッチペンの重量増を抑制できる。また、紙管14の内面に導電層22を容易に形成することができる。
【0040】
更に、導電性を含有する液体20にカーボンナノチューブ(CNT)が含まれている場合、紙管14の導電性を十分に高めることができる。
【0041】
このように、本実施形態によれば、低年齢者にとって親しみ易いタッチペンを提供することができる。
【0042】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明の実施形態は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【0043】
紙管14の内面全体に導電層22が設けられるものとしたが、内面の一部に導電層22が設けられていてもよい。また、紙管14に導電性を付与する手段は導電層22に限られず、紙管14に導電材料を含浸してもよいし、紙管14の外面の少なくとも一部に導電層を設けてもよい。更に、紙管14の内面と外面に導電層22を設けてもよい。
【実施例0044】
炭素材料による分散液の配合を表1に示す。表1における数値は質量%である。
【0045】
【0046】
※1 FloTube(登録商標)9000(Cnano社製)(平均外径11nm)
※2 MCF88(三菱化学社製)
※3 DENKA BLACK Li(デンカ社製)
※4 ライオナイトCB(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)
※5 PVP-K30(日本触媒社製)
※6 クラレポバールPVA-403(クラレ社製)
【0047】
紙管14は、厚さ1mmの厚紙(坪量750g/m2)を10mm幅に裁断し、一重にスパイラル巻きした。このとき、厚紙は隣接面同士を重ねて貼合状態を長手方向に沿って約1mm接するように巻いた。接する部分はアクリル系接着剤により密着させた。得られたスパイラル状の紙管は長さ120mmに断裁し、内径5mmの紙管14を得た。
【0048】
その後、表1に示す組成に従い混合した液体をビーズミルで室温下にて30分間分散したのち、紙管14の内面に塗布した。塗布方法は、紙管14を長手方向に立たせた状態で一端から800mgの液体を流し、重力による自由落下及び自然乾燥にて塗布した。
【0049】
入力部12は、脱脂綿に実施例1のCNT分散液を染みこませて乾燥したものを用い、その体積抵抗率は8Ω・cmのものを用いた。内面に導電性のある液体が塗布された紙管14の前記液体を流す側の端部に入力部12を装着することで各実施例のタッチペンを得た。
【0050】
導電性は、スマートフォン(iPhone11:登録商標)を電子天秤に乗せた際に紙管14の中央部を発明者が把持した際のスマートフォンの反応した荷重により以下の基準として評価した。
A:5g未満で反応した。
B:15g未満で反応した。
C:15g以上でないと反応しなかった。
【0051】
5g未満で反応可能とすることで、非常に軽いタッチにて操作することができる。15g以上となると操作が反応しないこともあり、タッチペンとしての手軽さに欠ける。
【0052】
塗工性の評価は、入力部12の装着前の紙管14において、入力部側を基端とし、基端から5mm離れた箇所との他端(最も離れた端部)2箇所を測定したインピーダンスとの差を評価とした。インピーダンスの測定は、LCRメータ(Agilent U1733)を用いて、測定周波数1kHzとした。
A:5×106Ω未満
B:1×108Ω未満
C:1×108Ω以上
【0053】
Aは液体20の粘度が低く、塗りムラが発生せずに把持箇所による操作感の影響が少ない。Cは塗りムラが大きく、インピーダンスが1×108 Ω以上となり、他端部を把持した場合はタッチパネルの操作ができないことがあった。