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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127176
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】リサイクル炭素繊維の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/12 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
C08J11/12 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036154
(22)【出願日】2023-03-09
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】592134583
【氏名又は名称】愛媛県
(74)【代理人】
【識別番号】100121773
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 正
(72)【発明者】
【氏名】安達 春樹
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA21
4F401AB06
4F401AD08
4F401BA13
4F401CA70
4F401CA90
4F401CB01
4F401CB10
4F401CB13
4F401CB14
4F401EA42
4F401FA01Z
(57)【要約】
【課題】低コストでCRFPからリサイクル炭素繊維を回収することのできるリサイクル炭素繊維の回収方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るリサイクル炭素繊維の回収方法は、炭素繊維強化プラスチックを加熱炉10内で熱処理することでリサイクル炭素繊維を回収する回収方法において、炭素繊維強化プラスチックを上部に換気穴51の開いた金属密閉容器50内に収容して加熱炉10内に設置する収容工程S1と、加熱炉10内を所定の温度まで上昇させる加熱工程S2,S3と、加熱炉10内を冷却する冷却工程S5,S6と、を備える。また、本発明に係るリサイクル炭素繊維の回収方法において、冷却工程S5,S6は、加熱炉10内を不活性ガスで置換しながら所定の温度まで冷却する不活性ガス置換工程S5を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化プラスチックを加熱炉内で熱処理することでリサイクル炭素繊維を回収する回収方法において、
前記炭素繊維強化プラスチックを上部に換気穴の開いた金属密閉容器内に収容して前記加熱炉内に設置する収容工程と、
前記加熱炉内を所定の温度まで上昇させる加熱工程と、
前記加熱炉内を冷却する冷却工程と、
を備えることを特徴とするリサイクル炭素繊維の回収方法。
【請求項2】
前記冷却工程は、前記加熱炉内を不活性ガスで置換しながら所定の温度まで冷却する不活性ガス置換工程を備えることを特徴とする請求項1記載のリサイクル炭素繊維の回収方法。
【請求項3】
前記不活性ガス置換工程は、前記冷却工程の開始後、前記加熱炉内が400℃以下になるまで冷却する工程であることを特徴とする請求項2記載のリサイクル炭素繊維の回収方法。
【請求項4】
前記加熱炉はいぶし窯であり、
前記不活性ガス置換工程は、前記いぶし窯が備えるブタンガス注入用配管を用いることを特徴とする請求項2記載のリサイクル炭素繊維の回収方法。
【請求項5】
前記加熱工程は、500~620℃まで昇温させることを特徴とする請求項1記載のリサイクル炭素繊維の回収方法。
【請求項6】
前記収容工程は、さらに下部にも換気穴の開けられた前記金属密閉容器内に収容する工程であることを特徴とする請求項1乃至5何れか1項記載のリサイクル炭素繊維の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチックからリサイクル炭素繊維を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、軽量で高強度、錆びないという特性を有し、市場の拡大が進んでいるが、廃棄される使用済みCFRPが今後大量に発生することが問題となっている。
【0003】
CFRPは、一度成形すると形が固定されてしまい、CFRPを溶かして別の形に作り替えることができないため、リサイクルするためには、CFRPに複合化されているマトリクス樹脂を取り除いてリサイクル炭素繊維(rCF)を回収する必要がある。使用済みのCFRPからrCFを回収する技術は、例えば、下記特許文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-99160号公報
【特許文献2】特開2005-3017121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1においては、300~600℃のガス雰囲気化でプラスチックを熱分解する際に、酸素によるrCFの劣化が生じてしまう。また、特許文献2では、rCFの酸素劣化を防止するために、炉内容量に対して10~100倍の不活性ガス(窒素やアルゴン等)を導入しながら熱処理を行っているが、不活性ガスが大量に必要となり、回収コストが大きく上昇してしまう。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、低コストでCFRPからリサイクル炭素繊維を回収することのできるリサイクル炭素繊維の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るリサイクル炭素繊維の回収方法は、炭素繊維強化プラスチックを加熱炉内で熱処理することでリサイクル炭素繊維を回収する回収方法において、前記炭素繊維強化プラスチックを上部に換気穴の開いた金属密閉容器内に収容して前記加熱炉内に設置する収容工程と、前記加熱炉内を所定の温度まで上昇させる加熱工程と、前記加熱炉内を冷却する冷却工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るリサイクル炭素繊維の回収方法によれば、低コストでCFRPからリサイクル炭素繊維を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係るいぶし窯の構成を示す鉛直断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るいぶし窯の構成を示す水平断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係るアルミ箱の斜視図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係るアルミ缶の斜視図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係るrCFの回収方法を示すフローチャートである。
図6図6は、本発明の実施形態に係る熱分析装置による比較試験の結果を示す図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係るCFRPの電子顕微鏡写真である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る回収されたrCFの電子顕微鏡写真である。
図9図9は、本発明の実施形態に係る回収されたrCFの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、加熱炉として、いぶし瓦の製造に用いられるいぶし窯を活用して、使用済みの炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を加熱し、樹脂成分を除去してリサイクル炭素繊維(rCF)を回収する方法について説明する。
【0011】
まず、いぶし窯10の構成について説明する。図1及び図2に示すように、いぶし窯10は、釜本体11と、テーブル21と、燃焼バーナー22と、熱電対温度計25と、窒素置換装置30と、アルミ製密閉容器50とを備えている。テーブル21は、アルミ製密閉容器50を所定の高さに載置するために釜本体11の炉内に設置される。
【0012】
燃焼バーナー22は、釜本体11の炉内を加熱するために釜本体11の床付近の四隅近傍にそれぞれ設置されており、燃焼ガスボンベ23と接続されている。熱電対温度計25は、炉内の温度を測定するために、釜本体11の天井から吊り下げられて設置されており、炉内の天井付近の温度を計測することができる。
【0013】
窒素置換装置30は、炉内の雰囲気を不活性ガスである窒素ガスで置換するための装置であり、図示しない窒素ボンベ35に接続された配管31と、釜本体11の天井に設置され、炉内に窒素ガスを噴射するための天井ノズル33とを備えている。天井ノズル33は、配管31の先端に接続されて、天井の12箇所に設置されており、炉内において、天井ノズル33から床面に向けて窒素ガスが噴射される。
【0014】
ここで、既存のいぶし窯10には、いぶし瓦を製造するために、ブタンガスを炉内に注入するための注入用配管が設置されており、本実施形態では、配管31及び天井ノズル33は、このブタンガス注入用配管を流用している。
【0015】
また、釜本体11は、屋根に煙突12が設置されており、床面に設置された床面排気口13は、背面側の壁の中に設置された背面壁排気流路14を介して煙突12につながっている。これらの煙突12、床面排気口13及び背面壁排気流路14も既存のいぶし窯10に設置されているものを流用している。
【0016】
このような構成において、窒素置換装置30により天井部分から炉内に窒素ガスが供給されると、炉内の空気は床面排気口13から背面壁排気流路14を経由して煙突12から炉外へと排気され、炉内の空気が不活性ガスである窒素ガスで置換される。
【0017】
アルミ製密閉容器50は、蓋付きのアルミ製密閉容器であるが、本実施形態では、アルミ製密閉容器50として、略直方体形状の大型のアルミ箱50a(図3参照)と、略円柱形状の小型のアルミ缶50b(図4参照)を使用している。アルミ製密閉容器50の上部には、容器内の気体を排出したり、容器内に気体を入れたりするための換気穴51が形成されている。
【0018】
ここで、CFRPは、母材であるプラスチックとして、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂が用いられることが多く、本実施形態に係るCFRPでは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が用いられている。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、400℃から熱分解を開始し、ビスフェノールAやフェノール樹脂類似体に分解され、最終的には、熱分解生成物として、水、二酸化炭素、エチレンオキサイドなどの低分子量の化合物、フェノールなどベンゼン環を有する化合物が生成される。
【0019】
マトリクス樹脂成分の熱分解ガスは、酸素よりも比重が大きく、アルミ製密閉容器50内でCFRPが熱処理されると、容器内の下方に熱分解ガスが溜まり、酸素ガスは容器内の上方に溜まる。よって、アルミ製密閉容器50の上部に換気穴51を形成しておくことで、熱処理時に優先して酸素ガスを容器内から外部へ排出することができる。
【0020】
酸素が存在する状態で400℃以上の高温でCFRPが加熱されると、炭素繊維も損傷するおそれがあるが、使用済みCFRPを換気穴51の開いたアルミ製密閉容器50に収容して熱処理を行う本実施形態によれば、熱処理時の容器内の残存酸素量が極少量となり、炭素繊維の酸素劣化を防止することができる。
【0021】
具体的には、アルミ箱50aは、蓋上面の中央部分に直径7mmの換気穴51が一つ開けられ、アルミ缶50bは、キャップ上面の中央部分に直径7mmの換気穴51が一つ開けられている。もちろん、換気穴51の形状や大きさ、個数等は適宜変更可能であり、設置場所も1つは上部に形成されることが望ましいが、適宜変更可能である。
【0022】
例えば、後述するように、アルミ製密閉容器50の上面等の上部だけでなく、下面等の下部にもさらに換気穴51を設けることで、容器内に必要最低限の少量の酸素が供給され熱分解を促進することができ、回収時間を短縮することができる。
【0023】
続いて、図5を参照しながら、上述した構成のいぶし窯10を活用したリサイクル炭素繊維(rCF)の回収方法について説明する。本実施形態においては、まず、S1において、アルミ製密閉容器50内にrCFを回収する対象である使用済みCFRPを収容し、いぶし窯10の所定の位置にアルミ製密閉容器50を設置する。
【0024】
設置後、いぶし窯10の扉を閉め、S2では、燃焼バーナー22を点火し、いぶし窯10の炉内を加熱して昇温する(第一加熱工程)。具体的には、例えば、2時間15分かけて、600℃まで昇温する。
【0025】
S2の昇温工程においては、炉内の昇温に伴ってアルミ製密閉容器50の内部も昇温し、上述したように、アルミ製密閉容器50内において、使用済みCFRPの樹脂成分の熱分解ガスが発生し始め、容器内の酸素や熱分解ガスが換気穴51から容器外の炉内へと排気される。炉内へと排出された熱分解ガス等は、床面排気口13から背面壁排気通路14を通って、煙突12へと到達し、煙突12からいぶし窯10の外へと排気される。
【0026】
続いて、S3では、燃焼バーナー22の制御により、炉内の温度を600℃のまま所定の時間(例えば、3時間程度)維持し(第二加熱工程)、その後、燃焼バーナー22を消化して(S4)、燃焼によるいぶし窯10の加熱を停止する。
【0027】
S5では、窒素置換装置30により、炉内の気体を窒素ガスで置換しながら冷却する(第一冷却工程)。S5の窒素置換工程(不活性ガス置換工程)は、所定の時間(例えば、30分間)行われ、S5の開始時に600℃であった炉内の温度は、自然冷却に加えて窒素ガスによりいぶし窯10が冷却されるため、S5の終了時には、例えば、400℃程度まで降温する。
【0028】
冷却工程では、換気穴51からアルミ製密閉容器50内に炉内の空気が進入するが、上述したように、炭素繊維は、400℃以上の雰囲気下で酸素が存在すると、酸素劣化が生ずるおそれがある。よって、第一冷却工程の開始後、炉内の温度が400℃に低下するまでは、S5のように、炉内を窒素置換しながら冷却するのが望ましい。
【0029】
続いて、S6では、窒素置換装置30による窒素置換を停止し、所定の時間(例えば、15時間)、自然冷却を行う(第二冷却工程)。第二冷却工程後は、炉内の温度が下がり、アルミ製密閉容器50内のrCFを取り出すことが可能となり、リサイクル炭素繊維(rCF)の回収処理が完了する。
【0030】
このように、本実施形態では、既存のいぶし窯10に設置されている配管や煙突等の設備をできる限り流用し、窒素ボンベ35と接続するための配管やアルミ製密閉容器等の最低限の設備を追加するだけでCFRPのリサイクル設備として活用することができる。すなわち、従来の酸化防止のための高価な設備を新設したりする必要がなく、低コストでリサイクル炭素繊維の回収を実現することができる。
【0031】
次に、本実施形態に係る回収方法により回収したrCFの評価試験1~5の結果について説明する。まず、評価試験1~5に先立って、熱分析装置を用いた不活性ガス(窒素ガス)下でのCFRPの熱分解に関する比較試験の結果について、図6を参照しながら説明する。この比較試験は、酸素の存在しない、すなわちrCFの酸素劣化のない理想的な環境でのrCFの回収処理についての試験である。
【0032】
図6において、横軸が時間[分]、縦軸が、質量比[%]及び熱分析装置の温度[℃]を示しており、質量比は、試験開始時点(0分)のCFRP試験片の質量である開始時質量を基準として、試験片の質量が開始時質量から時間の経過と共に何%増減したかを示している。
【0033】
同図に示すように、温度が300℃付近まで上昇すると、試験片の質量が減少し始めており、CFRPの樹脂成分が300℃付近で熱分解を始めたものと考えられる。また、試験片の質量は、その後、温度が450℃付近まで変化する間に急激に減少しており、さらに熱分解は急速に進んでいる。
【0034】
また、温度が450~600℃の間は、少しずつ試験片の質量が減少、すなわち、樹脂成分の熱分解が少しずつ進んでいる。600℃付近で温度が維持されると、試験片の質量もやがて一定になっており、このとき、CFRPの樹脂成分がほぼ全て除去され、rCFのみが残っている状態であると考えられる。なお、温度が600℃を大きく超えると、酸素のない雰囲気下でも炭素繊維の劣化が始まると考えられる。
【0035】
次に、rCFの評価試験1~5の結果について説明する。なお、評価試験においては、加熱炉として、一部の評価試験でいぶし窯10の代わりにマッフル炉を使用している。マッフル炉を使用する場合には、窒素置換装置30がないため、回収処理工程において、上述した窒素置換工程(S5)は実施されない。
【0036】
また、下記評価試験1~5では、上記回収方法の条件を適宜変更して試験を行っており、例えば、加熱工程や降温工程における温度や時間等の熱処理条件について適宜変更している。
【0037】
また、評価試験における最大引張強度は、日本工業規格(JIS)R7606の規格に基づき測定を行った。また、樹脂除去率は、使用済みCFRPの樹脂成分の除去率であり、本実施形態では、使用済みCFRPの樹脂成分と炭素繊維の質量混合比(35:65)に基づき、回収したrCFの質量が使用済みCFRPの質量の65質量%となった場合に、除去率が100%となるように評価した。
【0038】
評価試験1は、本実施形態に係るrCFの回収方法により回収したrCF(実施例1~3)の最大引張強度及び樹脂除去率を、新品のCFであるバージン材(比較例1)及び既存のCFRPのリサイクル研究による試験結果(比較例2)と対比する試験である。
【0039】
既存のCFRPリサイクルの先行研究(比較例2)は、「炭素繊維強化複合材料のリサイクル\CFRP廃棄物の再資源化」(守富寛,Seikei-Kakou Vol.30 No.2 2018)に開示された研究結果を参照した。
【0040】
評価試験1では、アルミ製密閉容器50として、上面のみに直径7mmの換気穴51が開けられた小型のアルミ缶50bを用いた。また、厚み1mmの使用済みCFRPのサンプルを0.5mgずつ各アルミ缶50bに入れて、いぶし窯10内の左奥、左手前、中央、右奥、右手前の5箇所に設置した。
【0041】
熱処理条件は、600℃まで2時間15分かけて昇温し(S2)、その後、600℃を3時間維持し(S3)、さらに、窒素置換処理を30分行った(S5)後に、自然冷却を行った(S6)。昇温温度を600℃に設定したのは、上記比較試験等の結果を参照しながら、500℃を下回る温度では樹脂成分の熱分解に時間がかかり、600℃を大きく超えると、炭素繊維の劣化が大きく進むと考えられるからである。
【0042】
【表1】
【0043】
表1は、評価試験1の結果を示す表であり、実施例1~3では、各場所(左奥、左手前、中央、右奥、右手前)で5回ずつ試験を行い、表1では、その最大値を示している。本実施形態に係るrCF(実施例1~3)の強度は、バージン材(比較例1)や先行研究(比較例2)と比較して、6~7割程度の強度を有している。
【0044】
上述したように、本実施形態に係るリサイクル炭素繊維の回収方法は、低コストで実現することができ、本実施形態によれば、ある程度の性能のリサイクル炭素繊維を低コストで回収することが可能となる。
【0045】
評価試験2は、本実施形態に係る窒素置換工程(S5)の効果を検証するための試験であり、rCFの最大引張強度及び樹脂除去率を窒素置換工程の有無により比較した。
【0046】
評価試験2において、窒素置換工程を行う実施例(実施例4~6)では、加熱炉としていぶし窯10を用いたが、窒素置換工程を行わない比較例(比較例3)では、いぶし窯10ではなくマッフル炉を用いて試験を行った。
【0047】
評価試験2では、上面のみに直径7mmの換気穴51が開けられた小型のアルミ缶50bを用い、サンプルについては、実施例4~6は、厚み1mmの使用済みCFRPのサンプルを0.5mgずつ用い、比較例3では、厚み0.1mmのサンプル0.5mgを用いた。
【0048】
熱処理条件(実施例4~6)は、上記評価試験1と同様であるが、比較例3については、S5の窒素置換工程がなく、消火(S4)後、自然冷却(S6)を行った。
【0049】
【表2】
【0050】
表2は、評価試験2の結果を示す表である。いぶし窯10において窒素置換工程を行う実施例4~6は、各場所(左奥、左手前、中央、右奥、右手前)でそれぞれ5回ずつ試験を行った結果の中央値のさ平均値を示しており、比較例3は、5回試験を行った結果の平均値を示している。表2によれば、窒素置換工程を行うことで、窒素置換工程を行わない場合よりも最大引張強度が大きく向上していることが分かる。
【0051】
評価試験3は、本実施形態に係るアルミ製密閉容器50の効果を検証するための試験であり、rCFの最大引張強度及び樹脂除去率をアルミ製密閉容器50の使用の有無により比較した。
【0052】
評価試験3の実施例7及び比較例4,5は、全て加熱炉としてマッフル炉を用いており、窒素置換工程(S5)は行っていない。実施例7は、アルミ製密閉容器50として上面のみに直径7mmの換気穴51が開けられた小型のアルミ缶50bを用い、比較例4,5では、アルミ製密閉容器50を用いずに使用済みCFRPのサンプルをマッフル炉内にそのまま置いて試験を行った。サンプル量は、実施例7及び比較例4が5g、比較例5が10gである。
【0053】
熱処理条件は、実施例7及び比較例5では、600℃まで2時間15分かけて昇温し(S2)、その後、実施例7では、600℃を5時間20分維持した(S3)後に、自然冷却を行った(S6)。比較例5では、600℃の高温維持工程(S3)を5時間20分行うと、炭素繊維が全て消失してしまったので、高温維持工程(S3)を20分として、自然冷却を行った(S6)。また、比較例4は、昇温工程(S2)において、500℃まで2時間15分かけて昇温し、500℃を5時間20分維持した(S3)後に、自然冷却を行った(S6)。
【0054】
【表3】
【0055】
表3は、評価試験3の結果を示す表であり、アルミ製密閉容器50を使用した実施例7に係るrCFの最大引張強度が比較例4,5と比べて大きく向上しており、アルミ製密閉容器50を用いることで、使用済みCFRPの存在する雰囲気の残存酸素を少なくし、炭素繊維の劣化を大きく抑えることができることが分かる。
【0056】
なお、表3において、樹脂除去率が100%を越えているのは、窒素置換工程がないため、rCFが若干酸素劣化している可能性や、サンプルの樹脂成分と炭素繊維との混合比が、上述したカタログ値(35:65)からずれている可能性が考えられる。以下の評価試験でも、樹脂除去率が100%を越えるのは同様の理由のためである。
【0057】
評価試験4は、本実施形態に係るアルミ製密閉容器50の換気穴51の設置態様による効果を検証するための試験であり、rCFの最大引張強度及び樹脂除去率を、換気穴51をアルミ製密閉容器50の上面にのみ設けた場合と、上面及び下面の双方に形成した場合とで比較した。
【0058】
評価試験4の実施例8,9は、双方とも加熱炉としてマッフル炉を用いており、窒素置換工程(S5)は行っていない。アルミ製密閉容器50として、実施例8は、上面及び下面の双方に直径7mmの換気穴51がそれぞれ1つずつ開けられた小型アルミ缶50bを用い、実施例9は、上面のみに直径7mmの換気穴51が1つ開けられた小型のアルミ缶50bを用いた。
【0059】
実施例8,9のサンプルは、厚み1mm程度の使用済みCFRPである。サンプル量は双方とも25mgであり、比較的大量の使用済みCFRPをアルミ缶50b内に入れて試験を行った。
【0060】
熱処理条件は、実施例8では、600℃まで2時間15分かけて昇温し(S2)、その後、600℃を7時間維持した(S3)後に、自然冷却を行った(S6)。実施例9では、600℃まで2時間15分かけて昇温し(S2)、その後、600℃を16時間維持した(S3)後に、自然冷却を行った(S6)。
【0061】
【表4】
【0062】
表4は、評価試験4の結果を示す表であり、実施例8,9の双方共に最大引張強度及び樹脂除去率に関して、ある程度の性能を有するrCFを回収できているが、実施例8の方が回収時間は大幅に短くて済み、時間効率が高い。
【0063】
これは、アルミ製密閉容器50の上下(上部及び下部)に換気穴51を開けることで、容器内に酸素が入り易くなり、熱分解だけでなく、燃焼反応によっても樹脂成分が多く除去されることに起因すると考えられる。
【0064】
評価試験4によれば、アルミ製密閉容器50に換気穴51を複数設けることで、rCFの回収時間の短縮を実現できることが分かる。但し、容器内に酸素が多く進入すると、炭素繊維の酸素劣化が生じるようになるため留意が必要である。
【0065】
評価試験5は、本実施形態に係るアルミ製密閉容器50の換気穴51の設置態様による効果を検証するための試験であり、rCFの最大引張強度及び樹脂除去率を測定した。
【0066】
評価試験5の実施例10,11は、双方とも加熱炉としていぶし窯10を用いており、アルミ製密閉容器50として、実施例10は、上面及び下面の双方に直径10mmの換気穴51がそれぞれ開けられた大型アルミ箱50aを用い、実施例11は、上面及び下面の双方に直径10mmの換気穴51がそれぞれ開けられた小型アルミ缶50bを用いた。
【0067】
実施例10,11のサンプルは、厚み1mm程度の使用済みCFRPである。サンプル量は、実施例10が10.755g、実施例11が10.064gである。熱処理条件は、実施例10,11共に、600℃まで2時間15分かけて昇温し(S2)、その後、600℃を2時間10分維持した(S3)後に、1時間の窒素置換工程(S5)を行い、自然冷却を行った(S6)。
【0068】
【表5】
【0069】
表5は、評価試験5の結果を示す表であり、実施例10,11共に、ある程度の性能を有するrCFを回収できている。このように、評価試験5によれば、上述した評価試験4と同様に、アルミ製密閉容器50に換気穴51を複数設けることで、使用済みCFRPのサンプル量が多くても高温維持工程(S3)が比較的短時間で済んでおり、rCF回収の時間効率を大きく向上させることができる。
【0070】
次に、本実施形態に係るrCFの電子顕微鏡写真について説明する。図7は、回収処理前の使用済みCFRPの電子顕微鏡写真であり、図8及び図9は、本実施形態に係る回収方法により回収されたrCFの顕微鏡写真である。電子顕微鏡は、日本電子の卓上走査電子顕微鏡(JCM-5000)を使用した。
【0071】
図8は、上部のみに直径7mmの換気穴51が開けられたアルミ箱50aに1mm厚のサンプルを0.5g収容すると共にいぶし窯10を用い、第一加熱工程(S2)において600℃まで2時間15分かけて昇温し、第二加熱工程(S3)において3時間600℃を維持し、第一冷却工程(S5)において窒素置換を30分行ってから自然冷却(S6)を行って回収されたrCFの電子顕微鏡写真である。
【0072】
図9は、上述した評価試験5の実施例10において回収されたrCFの電子顕微鏡写真である。図7においては、炭素繊維を連結するためのマトリクス樹脂が見えるが、図8及び図9のrCFにおいては、マトリクス樹脂がほとんど除去され、炭素繊維のみが残っており、使用済みCFRPから良好にrCFが回収されたことが分かる。
【0073】
以上、本実施形態によれば、換気穴51の開けられたアルミ製密閉容器50の中にCFRPを収容した状態で加熱炉内に入れて熱処理を行うことで、樹脂成分の熱分解ガスにより容器内の酸素ガスを容器外に排出し、熱処理時のrCFの酸素劣化を防止することができる。
【0074】
また、冷却工程時にアルミ製密閉容器50内に窒素を封入することで、冷却時にアルミ製密閉容器50内に酸素が流入するのを防止し、rCFの酸素劣化を防止することができる。
【0075】
さらに、本実施形態では、窒素置換工程は冷却時にのみ行われ、加熱時には窒素置換工程を行う必要がないので、窒素ガスの使用量を削減し、rCFの回収コストを大きく抑えることができる。
【0076】
また、本実施形態では、いぶし瓦の製造に用いられる既存のいぶし窯を活用して使用済みCFRPからrCFを回収することができ、新規で大規模なリサイクル設備を設置する必要がないため、低コストでrCFの回収を実現することができる。
【0077】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の実施の形態は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。例えば、本実施形態に係る加熱炉の構造は、適宜変更可能である。
【0078】
また、上記実施形態では、金属製密閉容器として、アルミ製の密閉容器を使用したが、耐熱温度の問題が無ければ、ステンレス製の容器等、アルミ以外の他の金属製の容器を採用しても良い。
【0079】
また、上記実施形態では、加熱工程において、昇温温度を600℃としたが、適宜変更可能である。但し、昇温温度が500℃より小さくなると、樹脂成分の熱分解に時間がかかり、600℃を大きく超えると、炭素繊維の劣化が大きく進んだり、金属製密閉容器が変形したりするため、昇温温度は500~620℃とするのが望ましい。
【0080】
また、上記実施形態では、不活性ガス置換工程において、不活性ガスとして窒素を利用したが、アルゴンやヘリウム等の他の不活性ガスを使用しても良い。
【符号の説明】
【0081】
10 いぶし窯
11 釜本体
12 煙突
13 床面排気口
14 背面壁排気流路
21 テーブル
22 燃焼バーナー
23 燃焼ガスボンベ
25 熱電対温度計
30 窒素置換装置
31 配管
33 天井ノズル
35 窒素ボンベ
50 アルミ製密閉容器
50a アルミ箱
50b アルミ缶
51 換気穴
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9