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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127182
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】キャリア芯材
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/107 20060101AFI20240912BHJP
   G03G 9/113 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G03G9/107 321
G03G9/113 352
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036160
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000224802
【氏名又は名称】DOWA IPクリエイション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】金城 優樹
(72)【発明者】
【氏名】三輪野 祥
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AB01
2H500AB04
2H500CB02
2H500CB09
2H500EA02E
2H500EA08E
2H500EA52E
2H500FA04
(57)【要約】
【課題】高現像バイアスの現像条件であっても絶縁破壊の発生が抑制されるキャリア芯材を提供する。
【解決手段】キャリア芯材は、表面に酸化物層を有するフェライト粒子から構成され、下記の微分熱重量分析(DTG)から得られる、分析試料50mg当たりのDTG曲線の最大値が12.0μg/min以下である。
微分熱重量分析(DTG)
熱重量分析装置を用いて、混合ガス(O:21体積%,N:79体積%)を300ml/min流しながら、30℃から500℃まで10℃/minで昇温し、500℃で60min保持する。昇温温度および試料重量は10秒毎に測定する。そして、解析ソフトを使用してDTG曲線の最大値を求め、当該最大値を分析試料50mg当たりに換算する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化物層を有するフェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、
下記の微分熱重量分析(DTG)から得られる、分析試料50mg当たりのDTG曲線の最大値が12.0μg/min以下であることを特徴とするキャリア芯材。
微分熱重量分析(DTG)
熱重量分析装置を用いて、混合ガス(O:21体積%,N:79体積%)を300ml/min流しながら、30℃から500℃まで10℃/minで昇温し、500℃で60min保持する。昇温温度および試料重量は10秒毎に測定する。そして、解析ソフトを使用してDTG曲線の最大値を求め、当該最大値を分析試料50mg当たりに換算する。
【請求項2】
前記フェライト粒子の組成が、一般式(MnO)x(Fe)y(CaO)zで表され、x,y,zがそれぞれ30mol%以上50mol%以下,45mol%以上65mol%以下、0.1mol%以上5.0mol%以下、x+y+z=100mol%であるものである請求項1に記載のキャリア芯材。
【請求項3】
ブリッジ式電気抵抗測定において電圧100V印加したときの抵抗が1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下の範囲である請求項1又は2に記載のキャリア芯材。
【請求項4】
前記フェライト粒子の飽和磁化が70Am/kg以上90Am/kg以下の範囲である請求項1又は2に記載のキャリア芯材。
【請求項5】
前記フェライト粒子の体積平均粒径が25μm以上50μm未満である請求項1又は2に記載のキャリア芯材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のキャリア芯材と、前記キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備えることを特徴とする電子写真現像用キャリア。
【請求項7】
請求項6記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャリア芯材などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子写真方式を用いたファクシミリやプリンター、複写機などの画像形成装置では、感光体の表面に形成された静電潜像にトナーを付着させて可視像化し、この可視像を用紙等に転写した後、加熱・加圧して定着させている。高画質化やカラー化の観点から、現像剤としては、キャリアとトナーとを含むいわゆる二成分現像剤が広く使用されている。
【0003】
二成分現像剤を用いた現像方式では、キャリアとトナーとを現像装置内で撹拌混合し、摩擦によってトナーを所定量まで帯電させる。そして、回転する現像ローラに現像剤を供給し、現像ローラ上で磁気ブラシを形成させて、磁気ブラシを介して感光体へトナーを電気的に移動させて感光体上の静電潜像を可視像化する。トナー移動後のキャリアは現像ローラ上に残留し、現像装置内で再びトナーと混合される。このため、キャリアの特性として、磁気ブラシを形成する磁気特性と、所望の電荷をトナーに付与する帯電特性および繰り返し使用における耐久性が要求される。
【0004】
このようなキャリアとして、マグネタイトや各種フェライト等の磁性粒子の表面を樹脂で被覆したものが一般に用いられている。キャリア芯材としての磁性粒子には、良好な磁気的特性と共に、トナーに対する良好な摩擦帯電特性が要求される。
【0005】
近年の高画質化及び画像形成速度の高速化に伴って現像バイアスは高く設定される傾向にある。現像バイアスが従来よりも高く設定された場合、キャリアの絶縁破壊が発生し易くなる。そして絶縁破壊したキャリアに電荷が注入されてトナーと同一極性に帯電し感光体の画像部に付着する。感光体の画像部に付着したキャリアはスペーサー効果を奏してキャリア周辺のトナーが感光体から用紙に移動するのを阻害する。その結果、用紙転写画像中が白く抜ける不具合(画像中白抜け)が生じるおそれある。
【0006】
そこで本出願人らは、静的絶縁破壊電圧Vsと動的絶縁破壊電圧Vdとの差を特定範囲とすることで、画像中白抜けなどを抑制可能としたキャリア芯材を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-28705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高現像バイアスの現像条件であっても絶縁破壊が生じにくいキャリア芯材を提供することにある。
【0009】
また本発明の他の目的は、高現像バイアスの現像条件であっても用紙転写画像にキャリアに起因する白抜けが発生しにくいキャリアおよび現像剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成する本発明の実施形態に係るキャリア芯材は、表面に酸化物層を有するフェライト粒子から構成されるキャリア芯材であって、下記の微分熱重量分析(DTG)から得られる、分析試料50mg当たりのDTG曲線の最大値が12.0μg/min以下であることを特徴とする。
微分熱重量分析(DTG)
熱重量分析装置を用いて、混合ガス(O:21体積%,N:79体積%)を300ml/min流しながら、30℃から500℃まで10℃/minで昇温し、500℃で60min保持する。昇温温度および試料重量は10秒毎に測定する。そして、解析ソフトを使用してDTG曲線の最大値を求め、当該最大値を分析試料50mg当たりに換算する。
【0011】
なお、本明細書において、酸化物層とは、フェライト粒子の表面に形成された、フェライトとは別構造を有する酸化物の層をいうものとする。
【0012】
前記キャリア芯材において、前記フェライト粒子の組成が、一般式(MnO)x(Fe)y(CaO)zで表され、x,y,zがそれぞれ30mol%以上50mol%以下,45mol%以上65mol%以下、0.1mol%以上5.0mol%以下、x+y+z=100mol%であるものが好ましい。
【0013】
また前記キャリア芯材において、ブリッジ式電気抵抗測定において電圧100V印加したときの抵抗が1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下の範囲であるのが好ましい。
【0014】
なお、本発明におけるブリッジ式電気抵抗は、次のような方法によって測定した静的電気抵抗値をいう。電極として表面を電解研磨した板厚2mmの真鍮板2枚を電極間距離が2mmとなるように配置し、2枚の電極板の間の空隙にキャリア芯材200mgを装入した後、それぞれの電極板の背後に断面積240mmの磁石を配置して電極間に被測定粉体のブリッジを形成させた状態で電極間に100Vの直流電圧を印加し、キャリア芯材を流れる電流値を4端子法により測定し抵抗を求める。
【0015】
また前記キャリア芯材において、前記フェライト粒子の飽和磁化σが70Am/kg以上90Am/kg以下の範囲であるのが好ましい。
なお、本発明における飽和磁化σは次のような方法によって測定したものである。室温専用振動試料型磁力計(VSM)(東英工業社製「VSM-P7」)を用いて、外部磁場を0~79.58×10A/m(10000エルステッド)の範囲で1サイクル連続的に印加して飽和磁化σを測定する。
【0016】
また前記キャリア芯材において、前記フェライト粒子の体積平均粒径が25μm以上50μm未満であるのが好ましい。
なお、本明細書においてフェライト粒子の体積平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラックModel9320-X100」)を用いて測定した値である。
【0017】
また本発明によれば、前記記載のキャリア芯材と、前記キャリア芯材の表面を被覆する樹脂とを備えることを特徴とする電子写真現像用キャリアが提供される。
【0018】
さらに本発明によれば、前記記載の電子写真現像用キャリアとトナーとを含む電子写真用現像剤が提供される。
【0019】
本明細書において「フェライト粒子」、「キャリア芯材」、「電子写真現像用キャリア」、「トナー」は、それぞれ個々の粒子の集合体(粉体)を意味するものである。そして本明細書において示す「~」は、特に断りのない限り、その前後に記載の数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のキャリア芯材によれば、高現像バイアスの現像条件であっても絶縁破壊の発生が抑制される。
【0021】
また本発明の電子写真現像用キャリア及び電子写真用現像剤によれば、高現像バイアスの現像条件であっても用紙転写画像にキャリアに起因する白抜けの発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例で用いた解析ソフトによるDTG曲線の概説図である。
図2】現像装置の一例を示す概説図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、現像バイアスの高い画像形成装置に用いられた場合であっても画像白抜けが抑制されるキャリア芯材を得るため鋭意検討を重ねた結果、キャリア芯材表面の酸化物層がキャリア芯材の絶縁破壊に影響しているとの知見を得た。そして、さらに検討を進めたところ、キャリア芯材の粒子表面のフェライトの量論比及び酸化状態(厚みを含む)が不均一であると、キャリア芯材の絶縁破壊が促進されるとの知見を得た。そこで、本発明では、酸化物層がキャリア芯材表面の全体に均一に形成されているかどうかの指標として微分熱重量分析(DTG)曲線の最大値を用いることとし、前記の微分熱重量分析(DTG)から得られる、分析試料50mg当たりのDTG曲線の最大値を12.0μg/min以下と定めた。
【0024】
DTG曲線の最大値が12.0μg/minよりも大きいと、キャリア芯材の粒子表面において酸化が局所的に進み酸化物層の形成が不均一となっている。このため現像バイアスが高いとキャリア芯材は絶縁破壊しやすくなる。好ましいDTG曲線の最大値は10.0μg/min以下である。DTG曲線の最大値の下限値については、DTG曲線の最大値が小さくなりすぎると磁化が低下して画像中白抜け以外の特性が悪化するおそれがあるため、DTG曲線の最大値の下限値を3.0μg/min以上とすることが好ましい。
【0025】
キャリア芯材表面の酸化物層の状態、すなわちDTG曲線の最大値は、例えば、キャリア芯材の製造における焼成工程における焼成炉内に流すガスの流速を制御することによって調整することができる。また、焼成工程によって得られた焼成粉を酸化処理することによっても調整することができる。
【0026】
本発明のキャリア芯材を構成するフェライト粒子の組成は、組成式MFe3-X(但し、Mは、Mg,Mn,Ca,Ti,Sr,Cu,Zn,Sn,Niからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素、0<X<1)で表されるものが好ましい。これらの中でも、一般式(MnO)x(Fe)y(CaO)zで表され、x,y,zがそれぞれ30mol%以上50mol%以下,45mol%以上65mol%以下、0.1mol%以上5.0mol%以下、x+y+z=100mol%であるものが好ましい。
【0027】
本発明のキャリア芯材において、ブリッジ式電気抵抗測定において電圧100V印加したときの抵抗が1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下の範囲であるのが好ましい。電気抵抗が1.0×10Ω未満であると、キャリア芯材への電荷注入が起こりやすくなって非画像部にキャリアが付着するおそれがある。一方、電気抵抗が1.0×10Ωより大きいと磁力の低下が生じるおそれがある。
【0028】
また、本発明のキャリア芯材における飽和磁化σは70Am/kg以上90Am/kg以下であるのが好ましい。より好ましい飽和磁化σは80Am/kg以上85Am/kg以下である。
【0029】
本発明のキャリア芯材の体積平均粒径(以下、「平均粒径」と記すことがある。)としては、25μm以上50μm未満の範囲が好ましく、より好ましくは30μm以上40μm以下の範囲である。
【0030】
本発明のキャリア芯材の製造方法に特に限定はないが、以下に説明する製造方法が好適である。
【0031】
まず、Fe成分原料、Mn成分原料、Ca成分原料およびその他の成分原料、そして必要により従来公知の添加剤を秤量する。Fe成分原料としては、Fe等が好適に使用される。Mn成分原料としてはMnCO、Mn等が使用でき、Ca成分原料としては、CaO、Ca(OH)、CaCOなどが好適に使用される。
【0032】
次いで、原料を分散媒中に投入しスラリーを作製する。本発明で使用する分散媒としては水が好適である。分散媒には、前記仮焼成原料の他、必要によりバインダー、分散剤等を配合してもよい。バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコールが好適に使用できる。バインダーの配合量としてはスラリー中の濃度が0.1質量%~2質量%程度とするのが好ましい。また、分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム等が好適に使用できる。分散剤の配合量としてはスラリー中の濃度が0.1質量%~2質量%程度とするのが好ましい。その他、カーボンブラックなどの還元剤、アンモニアなどのpH調整剤、潤滑剤、焼結促進剤等を配合してもよい。スラリーの固形分濃度は50質量%~90質量%の範囲が望ましい。より好ましくは60質量%~80質量%である。60質量%以上であれば、造粒物中に粒子内細孔が少なく、焼成時の焼結不足を防ぐことができる。
【0033】
なお、秤量した原料を混合し仮焼成し解粒した後、分散媒に投入しスラリーを作製してもよい。仮焼成の温度としては750℃~1000℃の範囲が好ましい。750℃以上であれば、仮焼成による一部フェライト化が進み、焼成時のガス発生量が少なく、固体間反応が十分に進むため、好ましい。一方、1000℃以下であれば、仮焼成による焼結が弱く、後のスラリー粉砕工程で原料を十分に粉砕できるので好ましい。また、仮焼成時の雰囲気としては大気雰囲気が好ましい。
【0034】
次に、以上のようにして作製されたスラリーを湿式粉砕する。例えば、ボールミルや振動ミルを用いて所定時間湿式粉砕する。粉砕後の原材料の平均粒径は5μm以下が好ましく、より好ましくは1μm以下である。振動ミルやボールミルには、所定粒径のメディアを内在させるのがよい。メディアの材質としては、鉄系のクロム鋼や酸化物系のジルコニア、チタニア、アルミナなどが挙げられる。粉砕工程の形態としては連続式及び回分式のいずれであってもよい。粉砕物の粒径は、粉砕時間や回転速度、使用するメディアの材質・粒径などによって調整される。
【0035】
そして、粉砕されたスラリーを噴霧乾燥させて造粒する。具体的には、スプレードライヤーなどの噴霧乾燥機にスラリーを導入し、雰囲気中へ噴霧することによって球形に造粒する。噴霧乾燥時の雰囲気温度は100℃~300℃の範囲が好ましい。これにより、粒径10μm~200μmの球形の造粒物が得られる。次いで、必要により、得られた造粒物を振動篩を用いて分級し所定の粒径範囲の造粒物を作製する。
【0036】
次に、前記の造粒物を所定温度に加熱した炉に投入して、フェライト粒子を合成するための一般的な手法で焼成することにより、フェライト粒子を生成させる。焼成温度としては1100℃~1350℃の範囲が好ましい。焼成温度が1100℃未満であると、相変態が起こりにくくなるとともに焼結も進みにくくなる。また、焼成温度が1350℃を超えると、過剰焼結による過大グレインの発生がするおそれがある。前記焼成温度に至るまでの昇温速度としては250℃/h~500℃/hの範囲が好ましい。焼成温度での保持時間は2時間以上が好ましい。
【0037】
フェライト粒子表面の全体に酸化物層を均一な状態で形成するには、焼成工程における焼成炉内に流すガス流速によって調整可能である。具体的には、焼成炉内に流すガス流速は2.0m/min以上とするのが好ましく、2.5m/min以上とするのがより好ましく、4.0m/min以下とするのが好ましい。ガス流速が遅いと造粒物がフェライト化する際に発生するガスが造粒物(焼成物)の表面に滞留し局所的に雰囲気が崩れて造粒物(焼成物)表面のフェライトの量論比および酸化物層状態にばらつきが生じることがある。
【0038】
焼成炉内に流すガスの組成は、酸素濃度が0.05%~10%とする。また、冷却時の酸素濃度を焼成時の酸素濃度よりも低くすることによって、フェライト相の酸化状態の調整を図ってもよい。具体的には酸素濃度を0.05%~1.5%の範囲とする。昇温・焼結・冷却における酸素濃度は0.05%~10%の範囲に制御するのが好ましい。
【0039】
このようにして得られた焼成物を必要により解粒する。具体的には、例えば、ハンマーミル等によって焼成物を解粒する。解粒工程の形態としては連続式及び回分式のいずれであってもよい。また解粒処理後、必要により、粒径を所定範囲に揃えるため分級を行ってもよい。分級方法としては、風力分級や篩分級など従来公知の方法を用いることができる。また、風力分級機で1次分級した後、振動篩や超音波篩で粒径を所定範囲に揃えるようにしてもよい。さらに、分級工程後に、磁場選鉱機によって非磁性粒子を除去するようにしてもよい。フェライト粒子の平均粒径としては25μm以上50μm未満が好ましい。
【0040】
その後、必要に応じて、分級後のフェライト粒子を酸化性雰囲気中で加熱して、粒子表面により均一な酸化物層を形成してフェライト粒子の高抵抗化を図ってもよい。酸化性雰囲気としては大気雰囲気又は酸素と窒素の混合雰囲気のいずれでもよい。また、加熱温度は200℃以上800℃以下の範囲が好ましく、360℃以上550℃以下の範囲がさらに好ましい。加熱時間は0.5時間以上5時間以下の範囲が好ましい。なお、フェライト粒子の表面と内部とを均質化する観点からは加熱温度は低温であるのが望ましい。
【0041】
以上のようにして作製したフェライト粒子を本発明のキャリア芯材として用いる。そして、所望の帯電性等を得るために、キャリア芯材の外周を樹脂で被覆して電子写真現像用キャリアとする。
【0042】
キャリア芯材の表面を被覆する樹脂としては、従来公知のものが使用でき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリ塩化ビニリデン、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、ポリスチレン、(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、並びにポリ塩化ビニル系やポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系等の熱可塑性エストラマー、フッ素シリコーン系樹脂などが挙げられる。
【0043】
キャリア芯材の表面を樹脂で被覆するには、樹脂の溶液又は分散液をキャリア芯材に施せばよい。塗布溶液用の溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類溶媒;エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒などの1種又は2種以上を用いることができる。塗布溶液中の樹脂成分濃度は、一般に0.001質量%以上30質量%以下、特に0.001質量%以上2質量%以下の範囲内にあるのがよい。
【0044】
キャリア芯材への樹脂の被覆方法としては、例えばスプレードライ法や流動床法あるいは流動床を用いたスプレードライ法、浸漬法等を用いることができる。これらの中でも、少ない樹脂量で効率的に塗布できる点で流動床法が特に好ましい。樹脂被覆量は、例えば流動床法の場合には吹き付ける樹脂溶液量や吹き付け時間によって調整することができる。
【0045】
キャリアの粒子径は、一般に、体積平均粒径で25μm以上50μm未満の範囲、特に30μm以上40μm以下の範囲が好ましい。
【0046】
本発明に係る電子写真用現像剤は、以上のようにして作製したキャリアとトナーとを混合してなる。キャリアとトナーとの混合比に特に限定はなく、使用する現像装置の現像条件などから適宜決定すればよい。一般に現像剤中のトナー濃度は1質量%以上15質量%以下の範囲が好ましい。トナー濃度が1質量%未満の場合、画像濃度が薄くなりすぎ、他方トナー濃度が15質量%を超える場合、現像装置内でトナー飛散が発生し機内汚れや転写紙などの背景部分にトナーが付着する不具合が生じるおそれがあるからである。より好ましいトナー濃度は3質量%以上10質量%以下の範囲である。
【0047】
トナーとしては、重合法、粉砕分級法、溶融造粒法、スプレー造粒法など従来公知の方法で製造したものが使用できる。具体的には、熱可塑性樹脂を主成分とする結着樹脂中に、着色剤、離型剤、帯電制御剤等を含有させたものが好適に使用できる。
【0048】
トナーの粒径は、一般に、コールターカウンターによる体積平均粒径で5μm以上15μm以下の範囲が好ましく、7μm以上12μm以下の範囲がより好ましい。
【0049】
トナー表面には、必要により、改質剤を添加してもよい。改質剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化マグネシウム、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0050】
キャリアとトナーとの混合は、従来公知の混合装置を用いることができる。例えばヘンシェルミキサー、V型混合機、タンブラーミキサー、ハイブリタイザー等を用いることができる。
【0051】
本発明の現像剤を用いた現像方法に特に限定はないが、磁気ブラシ現像法が好適である。図2に、磁気ブラシ現像を行う現像装置の一例を示す概説図を示す。図2に示す現像装置は、複数の磁極を内蔵した回転自在の現像ローラ3と、現像部へ搬送される現像ローラ3上の現像剤量を規制する規制ブレード6と、水平方向に平行に配置され、互いに逆向きに現像剤を撹拌搬送する2本のスクリュー1,2と、2本のスクリュー1,2の間に形成され、両スクリューの両端部において、一方のスクリューから他方のスクリューに現像剤の移動を可能とし、両端部以外での現像剤の移動を防ぐ仕切板4とを備える。
【0052】
2本のスクリュー1,2は、螺旋状の羽根13,23が同じ傾斜角で軸部11,21に形成されたものであって、不図示の駆動機構によって同方向に回転し、現像剤を互いに逆方向に搬送する。そして、スクリュー1,2の両端部において一方のスクリューから他方のスクリューに現像剤が移動する。これによりトナーとキャリアからなる現像剤は装置内を常に循環し撹拌されることになる。
【0053】
一方、現像ローラ3は、表面に数μmの凹凸を付けた金属製の筒状体の内部に、磁極発生手段として、現像磁極N、搬送磁極S、剥離磁極N、汲み上げ磁極N、ブレード磁極Sの5つの磁極を順に配置した固定磁石を有してなる。現像ローラ3の筒状体が矢印方向に回転すると、汲み上げ磁極Nの磁力によって、スクリュー1から現像ローラ3へ現像剤が汲み上げられる。現像ローラ3の表面に担持された現像剤は、規制ブレード6により層規制された後、現像領域へ搬送される。
【0054】
現像領域では、直流電圧に交流電圧を重畳したバイアス電圧が転写電圧電源8から現像ローラ3に印加される。バイアス電圧の直流電圧成分は、感光体ドラム5表面の背景部電位と画像部電位との間の電位とされる。また、背景部電位と画像部電位とは、バイアス電圧の最大値と最小値との間の電位とされる。バイアス電圧のピーク間電圧は0.5kV~5kVの範囲が好ましく、周波数は1kHz~10kHzの範囲が好ましい。またバイアス電圧の波形は矩形波、サイン波、三角波などいずれであってもよい。これによって、現像領域においてトナー及びキャリアが振動し、トナーが感光体ドラム5上の静電潜像に付着して現像がなされる。
【0055】
その後現像ローラ3上の現像剤は、搬送磁極Sによって装置内部に搬送され、剥離電極Nによって現像ローラ3から剥離して、スクリュー1,2によって装置内を再び循環搬送され、現像に供していない現像剤と混合撹拌される。そして汲み上げ極Nによって、新たに現像剤がスクリュー1から現像ローラ3へ供給される。
【0056】
なお、図2に示した実施形態では現像ローラ3に内蔵された磁極は5つであったが、現像剤の現像領域での移動量を一層大きくしたり、汲み上げ性等を一層向上させるために、磁極を8極や10極、12極と増やしてももちろん構わない。
【実施例0057】
(実施例1)
原料として、Fe(平均粒径:0.6μm)769.25kg、Mn(平均粒径:2μm)300.02kg、CaCO(平均粒径:0.6μm)7.02kgを水360.60kg中に分散し、ポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を6.66kg、還元剤としてカーボンブラックを1.848kg、pH調整剤として25%アンモニア水を369.73g添加し、湿式ボールミル(メディア径3mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約210℃の熱風中に噴霧し、乾燥造粒粉を得た。なお、このとき、目的の粒度分布以外の造粒粉は篩により除去した。
この造粒粉を、ローラーハース式電気焼成炉に投入し、温度1175℃、酸素濃度0.50体積%、窒素濃度99.50体積%の雰囲気中で保持時間2.5時間として、本焼成を行った。その後酸素濃度0.50体積%、窒素濃度99.50体積%の雰囲気中で5.5時間かけて冷却した。本焼成時は、焼成温度が1175℃になる焼成ゾーンにおける進行方向に垂直な面での断面積と、焼成ゾーンに流入させた窒素ガス流量及びAir流量の合計流量から求められる流速が3.05m/minとなるように制御した。そして、得られた焼成物をハンマーミル(三庄インダストリー社製「ハンマークラッシャーNH-34S」,スクリーン目開き:0.3mm)で解粒、振動篩を用いて分級し(トンキャップ金網の目開き50μm×54μmとトンキャップ金網の目開き25μm×32μm)、体積平均粒径34.7μmの焼成粒子を得た。得られた焼成粒子に対して、温度360℃、大気下で1時間保持することにより酸化処理を施し、実施例1に係るキャリア芯材を得た。
次に、このようにして得られたキャリア芯材の表面を樹脂で被覆してキャリアを作製した。具体的には、シリコーン樹脂450質量部と、(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン9質量部とを、溶媒としてのトルエン450質量部に溶解してコート溶液を作製した。このコート溶液を、流動床型コーティング装置を用いてキャリア芯材50000質量部に塗布し、温度300℃の電気炉で加熱してキャリアを得た。以下の実施例及び比較例についても同様にしてキャリアを得た。
得られたキャリアと平均粒子径5.0μm程度のトナーとを、ポットミルを用いて所定時間混合し、二成分系の電子写真現像剤を得た。この場合、キャリアとトナーとをトナーの質量/(トナーおよびキャリアの質量)=5/100となるように調整した。以下、全ての実施例、比較例についても同様にして現像剤を得た。得られた現像剤について後述の実機評価を行った。評価結果を表1に示す(以下の実施例および比較例についても同様)。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様にして体積平均粒径34.8μmの焼成粒子を得た。得られた焼成粒子に対して、温度400℃、大気下で1時間保持することにより酸化処理を施し、実施例2に係るキャリア芯材を得た。
【0059】
(実施例3)
実施例1と同様にして体積平均粒径34.8μmの焼成粒子を得た。得られた焼成粒子に対して、温度420℃、大気下で1時間保持することにより酸化処理を施し、実施例3に係るキャリア芯材を得た。
【0060】
(実施例4)
実施例1と同様にして体積平均粒径35.0μmの焼成粒子を得た。得られた焼成粒子に対して、温度440℃、大気下で1時間保持することにより酸化処理を施し、実施例4に係るキャリア芯材を得た。
【0061】
(比較例1)
実施例1と同様にして乾燥造粒粉を得た。この造粒粉を、電気焼成炉に投入し、温度1155℃で保持時間2.5時間として、本焼成を行った。その後酸素濃度0.50%で5.5時間かけて冷却した。この時、焼成温度が1155℃になる焼成ゾーンにおける有効断面積(炉の断面積からローラー面積、焼成トレイ面積、台板面積、ヒーター面積を差し引いた面積)と焼成温度が1155℃になるより後ろ側のゾーンで炉内に流入させた窒素ガス流量及びAir流量の合計流量から求められる流速が2.03m/minとなるように制御した。そして、得られた焼成物をハンマーミル(三庄インダストリー社製「ハンマークラッシャーNH-34S」,スクリーン目開き:0.3mm)で解粒、振動篩を用いて分級し体積平均粒径35.7μmの焼成粒子を得た。得られた焼成粒子に対して、温度415℃、大気下で1時間保持することにより酸化処理を施し、比較例1に係るキャリア芯材を得た。
【0062】
(比較例2)
実施例1と同様にして乾燥造粒粉を得た。この造粒粉を、電気焼成炉に投入し、温度1170℃で保持時間2.5時間として、本焼成を行った。その後酸素濃度0.50%で5.5時間かけて冷却した。この時、焼成温度が1170℃になる焼成ゾーンにおける有効断面積(炉の断面積からローラー面積、焼成トレイ面積、台板面積、ヒーター面積を差し引いた面積)と焼成温度が1170℃になるより後ろ側のゾーンで炉内に流入させた窒素ガス流量及びAir流量の合計流量から求められる流速が2.03m/minとなるように制御した。そして、得られた焼成物をハンマーミル(三庄インダストリー社製「ハンマークラッシャーNH-34S」,スクリーン目開き:0.3mm)で解粒、振動篩を用いて分級し体積平均粒径35.5μmの焼成粒子を得た。得られた焼成粒子に対して、温度425℃、大気下で1時間保持することにより酸化処理を施し、比較例2に係るキャリア芯材を得た。
【0063】
(組成分析)
(Feの分析)
鉄元素を含むキャリア芯材を秤量し、塩酸と硝酸の混酸水に溶解させた。この溶液を蒸発乾固させた後、硫酸水を添加して再溶解し過剰な塩酸と硝酸とを揮発させた。この溶液に固体Alを添加して液中のFe3+を全てFe2+に還元した。続いて、この溶液中のFe2+イオンの量を過マンガン酸カリウム溶液で滴定することにより分析し、キャリア芯材に含まれるFe含有量の定量をおこなった。
(Mnの分析)
キャリア芯材のMn含有量は、JIS G1311-1987記載のフェロマンガン分析方法(電位差滴定法)に準拠して定量分析をおこなった。
(Caの分析)
キャリア芯材のCa含有量は、キャリア芯材を酸溶液中で溶解し、ICPにて溶解液中のCa量を定量することにより、定量分析をおこなった。
【0064】
(体積平均粒径(平均粒径)D50
キャリア芯材の体積平均粒径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラックModel9320-X100」)を用いて測定した。
【0065】
(磁気特性)
室温専用振動試料型磁力計(VSM)(東英工業社製「VSM-P7」)を用いて、外部磁場を0~79.58×10A/m(10000エルステッド)の範囲で1サイクル連続的に印加して飽和磁化σを測定した。
【0066】
(静的電気抵抗)
電極として表面を電解研磨した板厚2mmの真鍮板2枚を電極間距離が2mmとなるように配置し、2枚の電極板の間の空隙にキャリア芯材200mgを装入したのち、それぞれの電極板の背後に断面積240mmの磁石を配置して電極間に被測定粉体のブリッジを形成させた状態で電極間に100V直流電圧を印加し、キャリア芯材を流れる電流値を4端子法により測定した。その電流値と、電極間距離2mmおよび断面積240mmからキャリア芯材の電気抵抗を算出した。
【0067】
(熱重量分析(TG)および微分熱重量分析(DTG))
熱重量分析は、熱重量分析装置(日立ハイテクサイエンス製「NEXTA STA300」)を使用し、解析には付属のソフトウェアである「Theral Analysis Software version2.7のStandard Analysis」を使用した。
熱重量分析の手順は、アルミナパンに試料を約50mg秤量し、混合ガス(O:21体積%,N:79体積%)を300ml/min流しながら、30℃から500℃まで10℃/minで昇温し、500℃で60min保持した。測定データは10秒毎にサンプリングを実施した。そして、前記の解析ソフトを使用して微分熱重量分析(DTG)曲線の最大値を求めた。その後、求めたDTG曲線の最大値に「50mg/試料の秤量質量mg」を乗じて試料50mgあたりの値に換算した。
なお、前記の解析ソフトでは、昇温によって試料の重量が増加する場合であっても、図1に示すように、DTG曲線はマイナス領域に出力表示される。このため、本明細書では、当該解析ソフトからの出力されるDTG曲線のマイナス値をプラス値に読みかえ、当該DTG曲線の最小値を最大値とした。
【0068】
(画像中白抜けの評価)
図2に示した構造の現像装置(現像ローラの周速度v:406mm/sec,感光体ドラムの周速度v:205mm/sec,感光体ドラム-現像ローラ間距離:0.3mm,現像バイアス電圧:-600V)に作製した二成分現像剤を投入し、黒ベタ画像を1000枚印刷し、黒ベタ部における白抜けの度合を目視により下記基準で評価した。
「◎」:白抜けが100個未満
「○」:白抜けが100個以上250個未満
「△」:白抜けが250個以上500個未満
「×」:白抜けが500個以上
【0069】
【表1】
【0070】
DTG曲線の最大値が12.0μg/min以下である実施例1~4のキャリア芯材を用いた、現像バイアス電圧を通常(-450V程度)よりも高い「-600」とした現像装置での画像評価は「白抜け」が250個未満と実使用上問題のないものであった。特に、DTG曲線の最大値が8.1μg/min以下である実施例4のキャリア芯材を用いた場合には、「白抜け」は100個未満と高品質な画像が得られた。
【0071】
これに対して、DTG曲線の最大値が13.4μg/minの比較例1のキャリア芯材を用いた当該画像評価では「白抜け」が500個以上発生し、DTG曲線の最大値が12.1μg/minの比較例2のキャリア芯材を用いた当該画像評価でも「白抜け」が250個以上発生し、比較例1,2のキャリア芯材はいずれも実使用上問題のあるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係るキャリア芯材によれば、高現像バイアスの現像条件であっても絶縁破壊の発生が抑制される。
【符号の説明】
【0073】
3 現像ローラ
5 感光体ドラム
図1
図2