(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127185
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】多管式熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28D 7/16 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
F28D7/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036163
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】吉田 時空
(72)【発明者】
【氏名】安嶋 賢哲
(72)【発明者】
【氏名】藤本 裕地
(72)【発明者】
【氏名】武塙 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】峯松 繁行
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103AA17
3L103AA37
3L103BB01
3L103CC02
3L103CC12
3L103CC15
3L103DD08
3L103DD19
(57)【要約】
【課題】熱伝達率を高めることができ、シェルを流れる第1流体の圧力損失を低減できる多管式熱交換器を提供すること。
【解決手段】多管式熱交換器(1)は、第1流体が流れるシェル(10)と、第1流体と熱交換する第2流体が流れる複数のチューブ(21)と、シェルの内部を流れる第1流体を蛇行させる複数のバッフル(30)とを備えている。バッフルは、中心軸(C)を挟む一方領域(31)と他方領域(32)とを備え、一方領域にて第1流体の流れを折り返している。バッフルには、チューブが挿通される複数の穴(36)が形成される。複数の穴のうち、バッフルの一方領域に形成される穴の少なくとも1つは通過穴(36a)とされ、通過穴にて第1流体が通過してチューブを流れる第2流体と熱交換する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の中心軸方向に延出する中空形状に設けられ、内部に前記中心軸方向の一端側から他端側に向かって第1流体が流れるシェルと、
前記シェルの内部にて前記中心軸方向と平行に延出し、前記第1流体と熱交換する第2流体が内部を流れる複数のチューブと、
前記シェルの内部にて前記中心軸方向に間隔をあけて複数設けられ、前記中心軸方向に対し交差方向に向けられて前記シェルの内部を流れる前記第1流体を蛇行させるバッフルとを備えた多管式熱交換器であって、
前記バッフルは、前記交差方向にて前記中心軸を挟む一方領域と他方領域とを備え、前記一方領域にて前記第1流体の前記中心軸方向の流れを前記交差方向に折り返し、前記他方領域における前記中心軸の反対側にて前記第1流体が前記中心軸方向に流れ、
前記バッフルには、前記チューブが挿通される複数の穴が形成され、
前記複数の穴のうち、前記一方領域に形成される前記穴の少なくとも1つは通過穴とされ、該通過穴にて、前記第1流体が通過して前記チューブを流れる前記第2流体と熱交換することを特徴とする多管式熱交換器。
【請求項2】
前記バッフルは、前記一方領域による前記第1流体の折り返し方向にて最も上流側の前記穴を前記通過穴とすることを特徴とする請求項1に記載の多管式熱交換器。
【請求項3】
前記バッフルは、前記一方領域にて前記シェルの内周面に隣り合う前記穴を前記通過穴とすることを特徴とする請求項1に記載の多管式熱交換器。
【請求項4】
前記通過穴は、他の前記穴に比べて大きい開口面積を有していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多管式熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多管式熱交換器に関し、特に、シェル内の流体をバッフルによって蛇行させて熱交換を行う多管式熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、多数のチューブが収納された缶胴内に、切欠を有する複数のバッフル板を相互に間隔を置いて配設した多管式熱交換器を開示している。特許文献1は、缶胴の入口ノズルから出口ノズルに流れるシェル側流体を、バッフル板よりなる流路にジグザグに流す間に、シェル側流体とチューブ内の流体とで熱交換を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、缶胴内のクロスフロー部にて入口側バッフル板の切欠から流入したシェル側流体の流れが出口側バッフル板に衝突して方向転換し、その切欠から流出している。特許文献1は、入口側バッフル板の下流側であって切欠と反対側の端部付近にて、シェル側流体の流れが淀んでチューブ内の流体への熱伝達率が低下する点、シェル側流体が出口側バッフル板と衝突することで圧力損失が発生する点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、熱伝達率を高めることができ、シェルを流れる第1流体の圧力損失を低減することができる多管式熱交換器を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における一態様の多管式熱交換器は、所定の中心軸方向に延出する中空形状に設けられ、内部に前記中心軸方向の一端側から他端側に向かって第1流体が流れるシェルと、前記シェルの内部にて前記中心軸方向と平行に延出し、前記第1流体と熱交換する第2流体が内部を流れる複数のチューブと、前記シェルの内部にて前記中心軸方向に間隔をあけて複数設けられ、前記中心軸方向に対し交差方向に向けられて前記シェルの内部を流れる前記第1流体を蛇行させるバッフルとを備えた多管式熱交換器であって、前記バッフルは、前記交差方向にて前記中心軸を挟む一方領域と他方領域とを備え、前記一方領域にて前記第1流体の前記中心軸方向の流れを前記交差方向に折り返し、前記他方領域における前記中心軸の反対側にて前記第1流体が前記中心軸方向に流れ、前記バッフルには、前記チューブが挿通される複数の穴が形成され、前記複数の穴のうち、前記一方領域に形成される前記穴の少なくとも1つは通過穴とされ、該通過穴にて、前記第1流体が通過して前記チューブを流れる前記第2流体と熱交換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バッフルの一方領域に形成される通過穴に第1流体を流し、かかる第1流体とチューブ内の第2流体とで熱交換することができる。これにより、第1流体のバッフルへの衝突を緩和して圧力損失を低減でき、且つ、バッフルによる第1流体の折り返しにて淀みが発生することを抑制して第2流体との熱伝達率向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態に係る多管式熱交換器を一部断面視した概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態に係る多管式熱交換器について、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施することができるものである。以下の図においては、説明の便宜上、一部の構成を省略することがある。また、以下の説明において、特に明示しない限り、「前」、「後」、「上」、「下」、「左」、「右」は各図に示す矢印方向を基準として用いる。但し、以下の実施の形態での各構成の向きは、一例にすぎず、任意の向きに変更することができる。
【0010】
図1は、実施の形態に係る多管式熱交換器を一部断面視した概略正面図である。
図1に示すように、多管式熱交換器1は、前後方向(水平方向)に延出する形状を備えたシェル10と、シェル10の内部に配置される複数のチューブ21(
図2参照)より構成される管群20とを備えている。また、多管式熱交換器1は、シェル10の内部に設けられる複数のバッフル30を備えている。本実施の形態における多管式熱交換器1は、産業用途等の大型の熱交換器として用いられるが、それ以外の様々な用途に用いることを妨げるものでない。
【0011】
シェル10は、主として、前後方向に平行な中心軸C方向に延出する中空の円筒形状に設けられる。シェル10には第1流体が流れ、該第1流体は、シェル10における中心軸C方向の一端側となる後端側から他端側となる前端側に向かって
図1の破線で示すように流れる。よって、シェル10にて、第1流体の上流側が後側になり、第1流体の下流側が前側となる。第1流体は、後述する第2流体と熱交換する熱媒体であり、特に限定されるものでないが溶融塩とすることが例示できる。
【0012】
シェル10の後方上部位置には、第1流体が流入されるシェル入口部11が設けられる。シェル10の前方下部位置には、第1流体が流出されるシェル出口部12が設けられる。シェル10の前端には管群20をシェル10内に接続する接続部15が設けられる。
【0013】
図1にて、管群20は、図示の便宜上、多数本のチューブ21を1本の配管として表している。管群20は、両端側が接続部15に接続され、シェル10の内部にて中心軸C方向と平行に延出しつつシェル10の後端側で180°反転するよう設けられている。管群20を構成するチューブ21の内部には第2流体が流れる。第2流体は、第1流体と熱交換する熱媒体であり、特に限定されるものでないが水や蒸気とすることが例示できる。第1流体及び第2流体は、何れが相対的に高温又は低温となってもよい。
【0014】
ここで、管群20に第2流体を流入するための入口部23が接続部15の上部位置に設けられ、管群20から第2流体を流出するための出口部24が接続部15の下部位置に設けられる。
【0015】
バッフル30は、中心軸C方向に所定間隔をあけて複数設けられている。各バッフル30は、中心軸C方向に対して直交(交差)する方向に向けられている。言い換えると、各バッフル30は、前後方向に対して直交する上下及び左右方向(
図1の紙面直交方向)に平行となる方向に向けられている。
【0016】
バッフル30は、中心軸C方向に対して交差する方向となる上下方向にて、中心軸Cを挟む一方領域31と他方領域32とを備えている。一方領域31は、シェル10内の上半部または下半部を閉塞し、シェル10内の第1流体における中心軸C方向の流れを遮る領域とされる。一方領域31によって流れを遮られた第1流体は、前方向から上下方向に折り返されて流れるようになる。
【0017】
他方領域32は、中心軸Cを挟んで一方領域31と上下反対側の領域とされる。他方領域32は、中心軸Cから一方領域31とは反対側に所定の上下幅を備えている。かかる上下幅は、シェル10の内周の半径寸法より短く形成され、他方領域32の先端側(中心軸Cの反対側)とシェル10の内周との間を開放して第1流体が中心軸C方向に流れるようになる。
【0018】
中心軸C方向にて、他方領域32の下方を開放するバッフル30と、他方領域32の上方を開放するバッフル30とが交互に配置される。これにより、シェル10の内部を流れる第1流体がバッフル30によって衝突及び折り返しを繰り返し、後方から前方に向かって流れつつ上下方向に蛇行して流れるようになる。
【0019】
多管式熱交換器1においては、シェル10の内部で蛇行して流れる第1流体と、管群20を流れる第2流体との間で熱交換が行われる。複数のバッフル30によってシェル10の内部を仕切ることで第1流体の流路面積を小さくして流速を高め、熱伝達率を向上できる。また、バッフル30の間隔を変えることで、所定流速に合わせた設計を行い易くなる他、シェル10の内周面に沿う位置に第1流体の流れが集中することをシールストリップ等の簡易な構造によって防止可能となる。
【0020】
図2は、
図1のA部拡大図である。
図3は、
図2のB-B線断面図である。
図2及び
図3に示すように、シェル10の内部にあっては、円筒状の複数のチューブ21が満遍なく配置され、バッフル30には、チューブ21が挿通される円形の複数の穴36が形成される。ここで、
図3に示すように、中心軸Cを通過して左右方向に延出する位置を一方領域31及び他方領域32の境界位置Pとする。本実施の形態では、一方領域31に形成される穴36は、境界位置Pに重なる穴36及び他方領域32に形成される穴36に比べて大きい開口面積を有しており、相対的に大径となるように形成されている。以下、複数の穴36のうち、一方領域31に形成される穴36については、通過穴36aと称する。
【0021】
通過穴36aは、中心軸C方向に直交する断面視での内周形状がチューブ21の外周形状より大きく形成されている。よって、通過穴36aの内周とチューブ21の外周との間には、第1流体の通過を許容する隙間が形成される。
【0022】
境界位置Pに重なる穴36及び他方領域32に形成される穴36は、内周形状がチューブ21の外周形状と同一に形成されている。なお、本明細書において、「同一」は、寸法等が完全に一致する状態の他、同一を意図して製造しつつ加工精度や公差、尤度等によって若干相違する状態も含む意味である。よって、通過穴36a以外の穴36において、第1流体が若干通過する場合があるが、かかる通過による第1流体と第2流体との熱交換は極めて微小で特に考慮しない設計がなされる。
【0023】
ここで、上記実施の形態の作用、機能を説明するための比較構造について検討する。比較構造にて、上記実施の形態と同一ないし類似する構成については、同じ符号を付して説明する。比較構造は、実施の形態に対し、バッフル30に形成される全ての穴36の内周形状がチューブ21の外周形状と同一とした構成とされる。
【0024】
比較構造においては、
図2の流れFaで示すように、シェル10の内部を前方に向かって流れる第1流体がバッフル30の後面に衝突すると、該衝突による圧力損失が大きくなる。また、第1流体がバッフル30に衝突することにより、バッフル30の後面に沿うシェル10の内周面寄りの領域S1にて、第1流体の流れFaが剥離して渦流が発生し易くなり、これによっても圧力損失が大きくなる。更には、
図2の流れFbで示すように、第1流体がバッフル30を通過して前方(下流側)に向かって流れるにあたり、バッフル30の前面に沿うシェル10の内周面寄りの領域S2に十分な量の第1流体が流れ難くなる。このため、領域S2にて第1流体が滞留する死水域が発生し、熱伝達率が低下することとなる。
【0025】
これに対し、上記実施の形態にあっては、バッフル30の一方領域31に通過穴36aを形成し、
図2の流れFで示すように、通過穴36aとチューブ21との間の隙間での第1流体の通過を許容している。かかる流れFによって、第1流体のバッフル30の後面に対する衝突を緩和でき、領域S1での渦流の発生も抑えることができるので、圧力損失を抑制可能となる。
【0026】
また、通過穴36aを通る流れFによって、領域S2にて流れる第1流体の量を増やすことができ、領域S2における第1流体の滞留を抑制して熱伝達率を高めることができる。更に、第1流体が通過穴36aを通ることで、チューブ21内の第2流体と第1流体が熱交換できるようになって熱伝達率をより高めることができる。しかも、第1流体が通過穴36aとチューブ21との間の狭い隙間を通ることで流れFが加速されるので、流速上昇による熱伝達率の向上を図ることもできる。このように、上記実施の形態によれば、第1流体の圧力損失の抑制と、熱伝達率の向上とを同時に達成することができる。
【0027】
また、第1流体が凝固性流体である場合、バッフル30周りに凝固性流体が滞留し凝固することを防ぐことができ、多管式熱交換器1を安定して運転継続することができる。
【0028】
本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0029】
上記実施の形態にて、チューブ21の断面形状及び穴36を円形としたが、これに限られるものでなく、楕円形や方形、多角形にする等、他の形状としてもよい。また、通過穴36aは、チューブ21との間の隙間に第1流体が通過してチューブ21を流れる第2流体と熱交換できる限りにおいて、チューブ21の断面と異なる形状としてもよい。
【0030】
また、バッフル30の向きは、中心軸C方向に対する直交方向に限定されず、例えば、該直交方向から前後方向に所定角度向きを変えた角度としてもよい。
【0031】
また、管群20は、中間で反転した形状に限られず、中心軸C方向に直線的に形成してもよい。
【0032】
また、
図2の流れFを許容する通過穴36aの形成数、形成位置は、上記実施の形態に限定されるものでなく、種々の変更が可能である。例えば、一方領域31に形成される穴36に加え、境界位置Pに重なる穴36においても通過穴36aとしてもよい。
【0033】
また、
図2及び
図3にて、最上位の穴36だけ通過穴36aとしたり、これに加え最上位の穴36に隣り合う穴36を通過穴36aとしたり、一方領域31にてシェル10の内周面に沿って隣り合う穴36だけを通過穴36aとしたりしてもよい。このように通過穴36aとする穴36を種々選択した設計が可能であり、バッフル30にて第1流体の滞留や渦流が発生し易い位置に部分的に通過穴36aを形成することができる。
【0034】
ここで、
図2のバッフル30において、一方領域31による第1流体の折り返し方向は、上流側が上方となり、下流側が下方となり、上述した最上位の穴36は、バッフル30にて最も上流側に位置する穴36とされる。
【符号の説明】
【0035】
1 :多管式熱交換器
10 :シェル
21 :チューブ
30 :バッフル
31 :一方領域
32 :他方領域
36 :穴
36a :通過穴
C :中心軸