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  • 特開-電動弁 図1
  • 特開-電動弁 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024012720
(43)【公開日】2024-01-30
(54)【発明の名称】電動弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
F16K31/04 H
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023204995
(22)【出願日】2023-12-05
(62)【分割の表示】P 2022173881の分割
【原出願日】2011-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】田渕 健資
(72)【発明者】
【氏名】吉田 竜也
(57)【要約】      (修正有)
【課題】遊星歯車減速装置を備える電動弁における回転方向が変わる際に発生するヒステリシスの低減を図る。
【解決手段】電動弁は、ロータ部材の回転数を減速して出力ギヤに出力する減速装置を有し、減速装置は、ロータ部材に連結された太陽歯車52と、太陽歯車に歯合する遊星歯車55と、遊星歯車を回転自在に支持するキャリア53と、該遊星歯車に歯合する環状のリングギヤ58と、該リングギヤと異なる歯数を備え、遊星歯車に歯合する環状の出力ギヤ70と、を有し、出力ギヤを環状のリングギヤに対して昇降自在とし、キャリアは、出力ギヤの底面上に載置され、電動弁の全開状態および全閉状態において、太陽歯車の下端部とキャリアの間に隙間を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室を有する弁本体と、
前記弁本体に結合される円筒形状のキャンと、
前記キャンの外部に装備されるステータ部材と、
前記キャンの内部に装備されるロータ部材と、
前記ロータ部材の回転数を減速して出力ギヤに出力する減速装置と、
前記弁本体に固定され、雌ねじ部を有するねじ軸受と、
前記出力ギヤとともに回転し、前記ねじ軸受の雌ねじ部に螺合される雄ねじ部を有するドライバと、
前記弁室に設けられた弁座に接離する方向に移動する弁体と、を有し、
前記減速装置は、前記ロータ部材に連結された太陽歯車と、前記太陽歯車に歯合する遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持するキャリアと、該遊星歯車に歯合する環状のリングギヤと、該リングギヤと異なる歯数を備え、前記遊星歯車に歯合する環状の出力ギヤと、を有し、
前記出力ギヤを前記環状のリングギヤに対して昇降自在とし、
前記キャリアは、前記出力ギヤの底面上に載置され、
当該電動弁の全開状態および全閉状態において、前記太陽歯車の下端部と前記キャリアの間に隙間を有する、ことを特徴とする電動弁。
【請求項2】
前記弁本体の内部に固定され、前記弁体を案内するばねケースと、
前記ばねケースと前記弁体との間に配設され、前記弁体を前記ドライバの方向に付勢するコイルスプリングと、を備えることを特徴とする請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
前記出力ギヤと前記キャリアとの間に配置され、前記キャリアを上方に押し上げるばね手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動弁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、空気調和機の冷媒の流量を制御する電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、本出願人に係る電動弁の詳細な構造を開示する。
この電動弁にあっては、キャンと称する密閉構造の有底円筒部材の外周部にステータを配置し、これがキャンの内部に回転自在に支持されるロータを駆動する。このステータ及びロータはステッピングモータを構成する。
【0003】
ロータの回転は遊星歯車機構を用いた減速装置の太陽ギヤに伝達され、出力ギヤに出力される。遊星歯車機構を用いることにより、太陽ギヤに対する出力ギヤの減速比は、1/50程度の大きな減速比を得ることができ、微細な流量制御を達成することができる。この減速比は、遊星歯車機構を構成する各ギヤの歯数を適宜に選択することによって、設計上で要求される減速比を得ることができる。
【0004】
出力ギヤの回転は、ドライバと称する雄ねじ部材(特許文献1においてはねじ軸52)に伝達される。ドライバの雄ねじ(特許文献1においては雄ねじ部53)はキャン内部に固定されたねじ軸受(特許文献1においては筒状軸受50)の雌ねじ部に螺合されており、ドライバは、出力ギヤの回転運動をねじ機構により直線運動に変換する。ドライバの直線運動は、軸状の弁体に伝達され、弁体と弁座の間の流路面積を変化させる。この作用によって電動弁は、冷媒の流量を精密に制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-101765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した電動弁にあっては、出力ギヤは軸方向の一定位置で回転運動し、出力ギヤの下端部に設けた平ドライバ形状の凸部をドライバに設けたスリット状の凹部に挿入して出力ギヤの回転運動をドライバ側に伝達する。出力ギヤの前記凸部がドライバに設けた前記凹部内で軸方向に摺動することにより、出力ギヤが回転すれば該出力ギヤはその回転軸方向に移動しないにも関わらず、ドライバはねじ機構で軸方向に直線運動することができる。これにより出力ギヤとドライバとの間の距離は変化する。
【0007】
このドライバの直線運動を許容するために、前述の凸部と凹部との係合部には、ある程度の隙間が必要となる。出力ギヤは両方向に回転してドライバを介して弁体の軸線方向の位置を制御する。しかしながら、上述した隙間の存在により、出力ギヤの回転とドライバの回転には回転方向が変化する際にヒステリシスが発生する。
本発明の目的は、上述したヒステリシスを解消する電動弁を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の電動弁は、
弁室を有する弁本体と、
前記弁本体に結合される円筒形状のキャンと、
前記キャンの外部に装備されるステータ部材と、
前記キャンの内部に装備されるロータ部材と、
前記ロータ部材の回転数を減速して出力ギヤに出力する減速装置と、
前記弁本体に固定され、雌ねじ部を有するねじ軸受と、
前記出力ギヤとともに回転し、前記ねじ軸受の雌ねじ部に螺合される雄ねじ部を有するドライバと、
前記弁室に設けられた弁座に接離する方向に移動する弁体と、を有し、
前記減速装置は、前記ロータ部材に連結された太陽歯車と、前記太陽歯車に歯合する遊星歯車と、前記遊星歯車を回転自在に支持するキャリアと、該遊星歯車に歯合する環状のリングギヤと、該リングギヤと異なる歯数を備え、前記遊星歯車に歯合する環状の出力ギヤと、を有し、
前記出力ギヤを前記環状のリングギヤに対して昇降自在とし、
前記キャリアは、前記出力ギヤの底面上に載置され、
当該電動弁の全開状態および全閉状態において、前記太陽歯車の下端部と前記キャリアの間に隙間を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上述した手段を備えることにより、電動弁の開閉時に発生する流量特性のヒステリシスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施例の断面図(全開状態)。
図2】本発明の一実施例の断面図(全閉状態)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1及び図2は本発明の一実施例を示す電動弁の断面図であって、図1は弁が全開した状態を示し、図2は弁が全閉した状態を示す。
【0012】
全体を符号1で示す本発明の一実施例の電動弁は、弁本体10を有し、弁本体10には弁室14と弁室14に通ずるオリフィス16が形成される。
弁本体10に対しては、オリフィス16側のパイプ12aと、弁室14の側面の開口部に通ずるパイプ12bが接続される。弁本体10の弁室14の上部にはねじ軸受20が挿入され、カシメ手段K1により弁本体10に固定される。
ねじ軸受20の中心部には雌ねじ部22が形成される。弁本体10の上部にはベースプレート28が固着され、これに有底円筒形状のキャン30がとりつけられる。
【0013】
キャン30の外周部には、全体を符号40で示すステータ部材が嵌着される。ステータ部材40は、プラスチック42で覆われたボビン44と、ボビン44に巻き付けたコイル46を有し、コイル46はリード線48を介して給電を受ける。このステータ部材はキャン30の内部に回転自在に支持されるロータ部材50とともにステッピングモータを構成する。
【0014】
磁性材料でつくられたロータ部材50は、プラスチック材料でつくられた太陽ギヤ部材51に一体に連結され、これらはロータを構成している。太陽ギヤ部材51の中心部にはシャフト62が挿入される。シャフト62の上部はキャン30の頂部の内側に配置される支持部材60により支持される。
キャリア53は、後述の出力ギヤ70の底面上に載置され、複数の遊星ギヤ55を回転自在に支持するシャフト54を備えている。
【0015】
太陽ギヤ部材51の太陽ギヤ52は、前記シャフト54に回転自在に支持される複数個の遊星ギヤ55に噛み合う。遊星ギヤ55は軸方向に長いギヤであって、その上半分はねじ軸受20の上部に固定された円筒部材24の上部にカシメ部K2により取付けられた環状のリングギヤ(内歯固定ギヤ)58に噛み合っている。
遊星ギヤ55の下半分は環状の出力ギヤ70の内歯ギヤ71に噛み合っている。
【0016】
上述した歯車構成は、いわゆる不思議遊星歯車機構を構成し、この遊星歯車機構を用いた減速装置(遊星歯車減速装置)においては、リングギヤ58の歯数と、出力ギヤ70の内歯ギヤ71の歯数をわずかに異なる歯数とすることで、太陽ギヤ52の回転数を大きな減速比で減速して出力ギヤ70に伝達することができる。
【0017】
出力ギヤ70はドライバ72に一体に連結される。
この出力ギヤ70は後述のように昇降可能となっており、またドライバ72の雄ねじ部74は、ねじ軸受20の雌ねじ部22に螺合されているので、出力ギヤ70とドライバ72はその回転ととともに軸方向に移動する。ドライバ72の軸方向の移動量はボール状の継手76を介して軸状の弁体80に伝達される。弁体80は弁本体10の内部に固定されたパイプ状のばねケース90により案内されて軸方向に移動する。ばねケース90と弁体80の間には、コイルスプリング92が配設されており、弁体80を常時開弁方向に付勢している。
【0018】
本発明の電動弁は以上のように、出力ギヤ70とドライバ72が一体となって回転及び軸方向に移動する。この構造のために従来の電動弁に存在した出力ギヤとドライバの間の継手構造を省略することができ、ヒステリシスの発生を減少させることができる。
すなわち、特許文献1に示されたような従来の電動弁では、遊星歯車機構の出力ギヤは昇降せず、その一方でドライバが昇降動作を行うために、前記出力ギヤとドライバとを分離し、かつ出力ギヤに対してドライバが昇降可能となるように、凸部及び凹部の係合による連結構造を採用していたが、本発明の一実施例では、上記のように出力ギヤ70を昇降可能とし、かつ出力ギヤ70とドライバ72とを一体化するようにしたので、出力ギヤ70とドライバ72との間に存在していた隙間を省くことが出来、ヒステリシスの発生を減少させることができる。
【0019】
この実施例においては、キャリア53が出力ギヤ70の底面上に載置されているので、該出力ギヤ70が昇降に応じて、キャリア53及び遊星ギヤ55も昇降する。すなわち、出力ギヤ70の昇降に応じて、リングギヤ58に対する遊星ギヤ55上部の噛み合い面がロータ部材50の中心軸方向にずれることになる。
この場合、例えばロータ50に設けられた太陽ギヤ52の下端がキャリア53上に載置されている場合には、出力ギヤ70の昇降と共にロータ部材50も昇降してしまい、該ロータ部材50とステータ部材40との間の軸方向の位置が変化し、ステッピングモータとしてのトルク低下が発生する。
【0020】
この現象を防止するために、この実施例にあっては、固定部材であるリングギヤ58と太陽ギヤ部材51の間に皿ばね100が装備されている。皿ばね100は、固定部材であるリングギヤ58に支持されて太陽ギヤ部材51を常時シャフト62の支持部材60側に向けて押し上げ、該支持部材60に当接させているので、出力ギヤ70が下降してもロータ部材50は下降することがなく、トルクの低下が生じない。
【0021】
なお、上述の説明においては、出力ギヤ70の昇降に応じて、キャリア53、シャフト54及び遊星ギヤ55で構成されるユニットの全体が昇降するものとしたが、出力ギヤ70の底面とキャリア53との間に該キャリア53を上方に押し上げるばね手段を設け、上記のユニットを例えば太陽ギヤ部材51に当接させるようにすれば、出力ギヤ70が昇降したときに該出力ギヤ70のみを昇降させ、キャリア53及び遊星ギヤ55の軸方向の位置を変えないようにすることもできる。この場合は、出力ギヤ70の昇降に伴い、遊星ギヤ55下部に対する出力ギヤ70の噛み合い面がロータ部材50の中心軸方向にずれることになる。
【0022】
図1は、弁体80が最大位置まで上昇した全開状態を示し、弁体80の先端のニードル部82と弁座18との間の弁リフトL1が最大の状態を示す。
図2は弁体80のニードル部82が弁座18に着座した全閉状態を示す。各部材の構造と作用は図1と同様であるので、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0023】
10 弁本体
12a、12b パイプ
14 弁室
16 オリフィス
18 弁座
20 ねじ軸受
22 雌ねじ部
24 円筒部材
28 ベースプレート
30 キャン
40 ステータ部材
42 プラスチック
44 ボビン
46 コイル
48 リード線
50 ロータ部材
51 太陽ギヤ部材
52 太陽ギヤ
53 キャリア
54 シャフト
55 遊星ギヤ
58 リングギヤ
60 支持部材
62 シャフト
70 出力ギヤ
71 内歯ギヤ
72 ドライバ
74 雄ねじ部
80 弁体
82 ニードル部
90 ばねケース
92 コイルスプリング
100 皿ばね

図1
図2