(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127207
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ロボットの制御方法およびロボットシステム
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036197
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】竪山 光普
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707AS06
3C707AS14
3C707BS10
3C707BS15
3C707BS26
3C707BT14
3C707CV04
3C707CW04
3C707CX01
3C707CX03
3C707CY12
3C707CY13
3C707DS01
3C707FS01
3C707FT02
3C707HS27
3C707HT17
3C707HT20
3C707KS03
3C707KS05
3C707KS09
3C707KS35
3C707KX06
3C707LU01
3C707LV05
3C707LV07
3C707MT04
(57)【要約】
【課題】外部環境によらず、ずれ量を精度よくかつ安定的に取得することができるロボットの制御方法およびロボットシステムを提供すること。
【解決手段】ロボットの制御方法は、ロボットアームと、ロボットアームに設置され、対象物を把持するエンドエフェクターと、エンドエフェクターに加わる水平方向に沿った第1軸の軸回りの第1トルクを検出する力センサーと、を備えるロボットの制御方法であって、エンドエフェクターによって対象物を把持して持ち上げる第1ステップと、対象物を持ち上げた状態において第1トルクを取得する第2ステップと、取得した前記第1トルクに基づいて、エンドエフェクターが対象物を把持している把持位置と、エンドエフェクターが対象物を把持する把持目標位置とのずれ量を取得する第3ステップと、を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームと、前記ロボットアームに設置され、対象物を把持するエンドエフェクターと、前記エンドエフェクターに加わる水平方向に沿った第1軸の軸回りの第1トルクを検出する力センサーと、を備えるロボットの制御方法であって、
前記エンドエフェクターによって前記対象物を把持して持ち上げる第1ステップと、
前記対象物を持ち上げた状態において前記第1トルクを取得する第2ステップと、
取得した前記第1トルクに基づいて、前記エンドエフェクターが前記対象物を把持している把持位置と、前記エンドエフェクターが前記対象物を把持する把持目標位置とのずれ量を取得する第3ステップと、を有することを特徴とするロボットの制御方法。
【請求項2】
前記力センサーは、前記第1軸と直交し、水平方向に沿った第2軸の軸回りの第2トルクと、前記第1トルクと、を検出するものであり、
前記第2ステップでは、前記対象物を持ち上げた状態において、前記第1トルクと、前記第2トルクと、を取得し、
前記第3ステップでは、取得した前記第1トルクおよび前記第2トルクに基づいて前記ずれ量を取得する請求項1に記載のロボットの制御方法。
【請求項3】
前記第3ステップでは、前記対象物の質量に基づいて、前記ずれ量を算出する請求項1または2に記載のロボットの制御方法。
【請求項4】
前記力センサーは、さらに、鉛直方向に沿った第3軸の軸方向の並進力を検出するものであり、
前記第3ステップでは、前記対象物の質量を前記並進力に基づいて取得する請求項3に記載のロボットの制御方法。
【請求項5】
前記ずれ量が許容値を超えているか否かを判断する第4ステップと、
前記第4ステップで前記ずれ量が前記許容値を超えていると判断した場合、前記対象物の搬送条件を変更する第5ステップと、を有する請求項1または2に記載のロボットの制御方法。
【請求項6】
前記第5ステップでは、前記搬送条件の変更として、前記対象物の搬送目標位置を補正する請求項5に記載のロボットの制御方法。
【請求項7】
前記第5ステップでは、前記搬送条件の変更として、前記対象物の搬送速度を遅くする請求項5に記載のロボットの制御方法。
【請求項8】
前記第5ステップでは、前記搬送条件の変更として、搬送中の前記ロボットアームの姿勢を調整する請求項5に記載のロボットの制御方法。
【請求項9】
前記第5ステップでは、前記搬送条件の変更として、前記対象物の前記把持位置を変更する請求項5に記載のロボットの制御方法。
【請求項10】
ロボットアームと、
前記ロボットアームに設置され、対象物を把持するエンドエフェクターと、
前記エンドエフェクターに加わる水平方向に沿った第1軸の軸回りの第1トルクを検出する力センサーと、
前記ロボットアームの作動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記エンドエフェクターによって前記対象物を把持して持ち上げる第1ステップと、
前記対象物を持ち上げた状態において前記第1トルクを取得する第2ステップと、
取得した前記第1トルクに基づいて、前記エンドエフェクターが前記対象物を把持している把持位置と、前記エンドエフェクターが前記対象物を把持する把持目標位置とのずれ量を取得する第3ステップと、を実行することを特徴とするロボットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの制御方法およびロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているロボットシステムは、2本のロボットアームを有する双腕ロボットと、各ロボットアームの先端部を撮像するカメラと、を備える。このロボットシステムでは、カメラの撮像画像に基づいて、各アームが把持したワークの保持状態を把握している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているロボットシステムでは、カメラの撮像画像に基づいてアームが把持したワークの保持状態を把握する構成であるため、例えば、周囲の明るさ等の外部環境によっては、光量不足により露出が不適正となったり、ピントが十分に合わず画像の解像度が低かったりすることがあり、良好な撮像画像を得られないことがあるという問題がある。このため、外部環境によって、ワークの保持状態を精度よく把握することが難しく、対象物を把持すべき把持目標位置と、エンドエフェクターが実際に対象物を把持している把持位置とのずれ量を精度よくかつ安定的に取得することができないことがあるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のロボットの制御方法は、ロボットアームと、前記ロボットアームに設置され、対象物を把持するエンドエフェクターと、前記エンドエフェクターに加わる水平方向に沿った第1軸の軸回りの第1トルクを検出する力センサーと、を備えるロボットの制御方法であって、
前記エンドエフェクターによって前記対象物を把持して持ち上げる第1ステップと、
前記対象物を持ち上げた状態において前記第1トルクを取得する第2ステップと、
取得した前記第1トルクに基づいて、前記エンドエフェクターが前記対象物を把持している把持位置と、前記エンドエフェクターが前記対象物を把持する把持目標位置とのずれ量を取得する第3ステップと、を有する。
【0006】
本発明のロボットシステムは、ロボットアームと、
前記ロボットアームに設置され、対象物を把持するエンドエフェクターと、
前記エンドエフェクターに加わる水平方向に沿った第1軸の軸回りの第1トルクを検出する力センサーと、
前記ロボットアームの作動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記エンドエフェクターによって前記対象物を把持して持ち上げる第1ステップと、
前記対象物を持ち上げた状態において前記第1トルクを取得する第2ステップと、
取得した前記第1トルクに基づいて、前記エンドエフェクターが前記対象物を把持している把持位置と、前記エンドエフェクターが前記対象物を把持する把持目標位置とのずれ量を取得する第3ステップと、を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るロボットシステムの全体図である。
【
図2】
図1に示すロボットシステムのブロック図である。
【
図3】
図1に示すロボットが対象物を把持している状態の一例を示す側面図である。
【
図4】
図1に示すロボットが対象物を把持している状態の一例を示す側面図である。
【
図5】対象物を
図4中の矢印方向A1から見た図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係るロボットの制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るロボットの制御方法において、搬送条件の変更を説明するための図であって、ロボットアームの先端部の側面図である。
【
図8】本発明の第3実施形態に係るロボットの制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図9】本発明の第4実施形態に係るロボットの制御方法において、把持位置と把持目標位置との位置関係を説明するための対象物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のロボットの制御方法およびロボットシステムを添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0009】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るロボットシステムの全体図である。
図2は、
図1に示すロボットシステムのブロック図である。
図3は、
図1に示すロボットが対象物を把持している状態の一例を示す側面図である。
図4は、
図1に示すロボットが対象物を把持している状態の一例を示す側面図である。
図5は、対象物を
図4中の矢印方向A1から見た図、すなわち対象物の平面図である。
図6は、本発明の第1実施形態に係るロボットの制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0010】
図1、
図3、
図4、
図5、
図7および
図9中には、互いに直交する3軸であるX軸、Y軸およびZ軸が設定されている。3軸のうちZ軸方向は鉛直方向を示し、X-Y平面は水平面を示す。X軸、Y軸およびZ軸の各軸において、矢印で示す方向を「正側」、その反対側を「負側」と言う。
【0011】
図1、
図3、
図4および
図7中の上下方向は、鉛直方向と一致している。
図1、
図3、
図4および
図7の上側を「上」、下側を「下」とも言う。ロボットアーム22、第1アーム23および第2アーム24等については、
図1中の右側を「基端部」、左側を「先端部」と言う。
図3および
図4中では、スプラインシャフト253、作業ヘッド25、第2アーム24等、エンドエフェクター26より上側の構成物の記載が省略されている。
【0012】
本明細書において、「鉛直」とは、鉛直と一致している場合のみならず、鉛直に対して若干、例えば±10°以内傾斜している場合も含む意味である。また、本明細書において、「平行」とは、2つの対象が平行と一致している場合のみならず、平行から若干、例えば±10°以内傾斜している場合も含む意味である。
【0013】
図1に示すように、ロボットシステム1は、ロボット2と、ロボット2の駆動を制御する制御装置9と、を有している。本実施形態では、制御装置9が本発明のロボットの制御方法を実行してロボット2を駆動する。ただし、この構成に限定されず、ロボット2の内部または外部にある他の制御装置、例えば、図示しない教示装置等が本発明のロボットの制御方法を実行してもよい。
【0014】
本実施形態におけるロボット2は、スカラロボットであり、ロボット2が有するロボットアーム22を所望の動作で駆動し、例えば、電子部品、長尺の棒状体のようなワークである対象物の搬送、組立、検査等の作業、または工具によりワークに対し各種の加工、塗装等の作業を行う。以下では、ロボット2は、
図4および
図5に示すように、長尺な棒状体である対象物Wを搬送する作業を行う場合を例に挙げて説明する。
【0015】
ただし、ロボット2の用途は、特に限定されない。また、ロボットは、スカラロボット以外、例えば、6軸多関節ロボット、双腕ロボット等であってもよい。
【0016】
図1に示すように、ロボット2は、基部であるベース21と、ベース21に対し回転可能に接続されているロボットアーム22と、を有している。ベース21は、水平面と平行な床面10に固定されている。
【0017】
ロボットアーム22は、基端部がベース21に接続され、ベース21に対して鉛直方向に沿う第1回転軸J1回りに回転する第1アーム23と、基端部が第1アーム23の先端部に接続され、第1アーム23に対して鉛直方向に沿う第2回転軸J2回りに回転する第2アーム24と、を有している。
【0018】
第2アーム24の先端部には作業ヘッド25が設けられている。作業ヘッド25は、第2アーム24の先端部に配置されているスプラインナット251およびボールネジナット252と、スプラインナット251およびボールネジナット252に挿通されているスプラインシャフト253と、を有している。スプラインナット251およびボールネジナット252は、スプラインシャフト253に同軸的に設置されている。スプラインシャフト253は、第2アーム24に対して、シャフトの中心軸でありかつ鉛直方向に沿う第3回転軸J3回りに回転可能で、かつ、第3回転軸J3に沿ってZ軸方向に移動可能である。
【0019】
ロボット2は、ベース21と第1アーム23とを連結し、ベース21に対して第1アーム23を第1回転軸J1回りに回転させる第1関節アクチュエーター27と、第1アーム23と第2アーム24とを連結し、第1アーム23に対して第2アーム24を第2回転軸J2回りに回転させる第2関節アクチュエーター28と、を有している。
【0020】
第1アーム23は、第1関節アクチュエーター27によって、ベース21に対し、Z軸方向に離間した状態でベース21に接続されている。第2アーム24は、第2関節アクチュエーター28によって、第1アーム23に対し、Z軸方向に離間した状態で第1アーム23に接続されている。
【0021】
また、ロボット2は、スプラインナット251を回転駆動してスプラインシャフト253を第3回転軸J3回りに回転させる第1駆動機構291と、ボールネジナット252を回転駆動してスプラインシャフト253を第3回転軸J3に沿った方向に昇降させる第2駆動機構292と、を有する。
【0022】
第1関節アクチュエーター27、第2関節アクチュエーター28、第1駆動機構291および第2駆動機構292は、それぞれ、図示しないモーター、減速機およびエンコーダー等を有する。
【0023】
前記の各モーターは、それぞれ、図示しないモータードライバーを介して
図2に示す制御装置9と電気的に接続されている。制御装置9は、各モータードライバーを介して、図示しない電源から各モーターへの通電条件、すなわち通電量、通電タイミング等を制御する。これにより、各アームを所望の姿勢に変更するようロボットアーム22の作動を制御することができる。
【0024】
前記の各エンコーダーは、それぞれ、制御装置9と電気的に接続されている。各エンコーダーは、対応するモーターの回転位置情報を検出し、制御装置9に送信する。制御装置9は、各エンコーダーから受信した各モーターの回転位置情報に基づいて、各モーターへの通電条件を制御する。各モーターの回転位置を把握しつつ、ロボットアーム22の作動を制御することにより、所望の動作を精度よく行うことができる。
【0025】
スプラインシャフト253の下端部には、力センサー19が設置され、さらに力センサー19を介してエンドエフェクター26が装着されている。エンドエフェクター26は、ロボットアーム22に対し着脱自在であり、目的の作業に適したものが適宜選択され、装着される。エンドエフェクター26としては、例えばワークや工具を保持することができるものが挙げられる。
【0026】
図3および
図4に示すように、本実施形態では、エンドエフェクター26は、吸着により対象物Wを把持するハンドである。エンドエフェクター26は、吸盤等により構成される図示しない吸着部と、吸着部内を減圧して吸着力を発生させるサクションポンプ261とを有する。サクションポンプ261は、本実施形態では、エンドエフェクター26の内部に設置されているが、例えばベース21、第1アーム23または第2アーム24の内部等の他所に設置され、サクションポンプ261と吸着部とが可撓性を有する減圧管を介して接続された構成であってもよい。このようなエンドエフェクター26のサクションポンプ261は、制御装置9と電気的に接続されている。制御装置9は、サクションポンプ261への通電条件、すなわち通電量、通電タイミング等を制御する。通電によりサクションポンプ261を作動すると、吸着部が吸着力を生じ、対象物Wを吸着し、把持することができる。この状態からサクションポンプ261の作動を停止すると、吸着部における吸着力が消滅または減少し、対象物Wの把持が解除される。
【0027】
なお、エンドエフェクター26の構成や把持原理は、上記に限定されず、例えば、2本の爪部を接近離間させて各爪部の間で対象物Wを把持する構成であってもよい。
【0028】
力センサー19は、本実施形態では、6軸力覚センサーである。力センサー19は、互いに直交する3つの検出軸に沿った並進力成分の大きさと、当該3つの検出軸回りのトルク成分の大きさとを検出する。すなわち、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の各軸方向の力成分と、X軸回りとなるW方向の力成分と、Y軸回りとなるV方向の力成分と、Z軸回りとなるU方向の力成分とを検出する。X軸およびY軸は、ぞれぞれ、水平面上の任意の方向、すなわち水平方向に沿っており、Z軸は、鉛直方向に沿っている。
【0029】
ここで、力センサー19の検出軸であるX軸およびY軸が水平方向に沿っているとは、水平方向に対して概ね沿っていることを示し、水平方向に完全に沿う軸に限定されない。例えば、X軸およびY軸は、水平方向に対して±10°の範囲内に沿う軸であればよい。ただし、X軸およびY軸と、水平方向とのなす角が、0°に近づくことがより好ましい。同様に、力センサー19の検出軸であるZ軸が鉛直方向に沿っているとは、鉛直方向に対して概ね沿っていることを示し、鉛直方向に完全に沿う軸に限定されない。
【0030】
なお、本実施形態では、Z軸方向が鉛直方向となっている。また、X軸、Y軸およびZ軸の各軸方向の力成分を「並進力成分」と言い、各軸回りの力成分を「トルク成分」とも言う。
【0031】
以下、X軸に沿った並進力成分を「並進力Fx」と言い、Y軸に沿った並進力成分を「並進力Fy」と言い、Z軸に沿った並進力成分を「並進力Fz」と言い、X軸回りとなるW方向の力成分を「トルクTx」と言い、Y軸回りとなるV方向の力成分を「トルクTy」と言い、Z軸回りとなるU方向の力成分を「トルクTz」とも言う。これらの成分Fx、Fy、Fz、Tx、TyおよびTzを総称して、力センサー19の検出値、または、単に、検出値とも言う。
【0032】
なお、力センサー19は、6軸力覚センサーに限定されず、上記成分Fx、Fy、Fz、Tx、TyおよびTzのうち、少なくともTyを検出し得る構成のものであればよく、少なくともFzおよびTyを検出し得る構成のものであるのが好ましい。このような構成の力センサーとしては、例えば、単一のセンサー素子で構成されるものの他、複数のセンサー素子を組み合わせて上記検出値を得るものでもよい。
【0033】
図2に示すように、制御装置9は、制御部91と、記憶部92と、通信部93と、を有する。
【0034】
制御部91は、1以上のプロセッサーを備える。制御部91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)で構成され、記憶部92に記憶されている動作プログラム等の各種プログラムを読み出し、実行する。制御部91で生成された信号は、通信部93を介してロボット2の各部に送信され、ロボット2の各部からの信号は、通信部93を介して制御部91で受信される。制御部91で受信された信号は、所定の処理が施され、記憶部92に記憶される。
【0035】
制御部91は、ユーザーが入力した動作プログラムに基づいて、各モーターへの通電条件を制御する。すなわち、制御部91は、各モーターへの通電量を、経時的に変化させることによりロボットアーム22を駆動し、所定の作業を所定の条件で実行することができる。
【0036】
記憶部92は、制御部91で実行される各種プログラム等を保存する。記憶部92としては、例えば、RAM(Random Access Memory)等の揮発性メモリー、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリー、着脱式の外部記憶装置等を有する構成のものが挙げられる。記憶部92には、後述する本発明のロボットの制御方法を実行するためのプログラム等の各種プログラムや、後述する各種数式、許容値d1、d2等の各種設定値等が記憶される。
【0037】
通信部93は、インターフェース回路を備え、例えば有線LAN(Local Area Network)、無線LAN等の外部インターフェースを用いて他の機器との間で信号の送受信を行う。通信部93は、有線での通信を行うケーブルを接続するための端子や、無線での通信を行うためのアンテナを備えていてもよい。この場合、図示しないサーバーを介して通信を行ってもよく、また、インターネット等のネットワークを介して通信を行ってもよい。この通信部93は、ユーザーが他の通信機器を介して入力した動作プログラムを取得する取得部として機能する。
【0038】
このようなロボットシステム1では、ロボット2を用いて、対象物Wを搬送する作業が行われる。例えば、搬送開始位置に載置されている対象物Wをエンドエフェクター26で把持して持ち上げ、持ち上げた状態を維持しつつ対象物Wを搬送完了位置の直上に移動させ、そのまま下降して搬送完了位置に到達したら把持を解除する。このような作業において、対象物Wは、搬送開始位置において定められた向きで載置されており、ロボット2は、
図3に示すように、対象物Wの重心Gに対応する位置、すなわち、重心Gの直上の把持目標位置P1をエンドエフェクター26で把持する。換言すると、ロボット2がエンドエフェクター26によって、実際に対象物Wを把持する把持位置P2が、把持目標位置P1と一致する。これは、例えば、ロボット2の位置制御により実現することができる。すなわち、エンドエフェクター26の先端部(
図3中下端部)に設定された制御点TCPが、把持目標位置P1の座標に位置するようにロボット2を駆動することにより実現することができる。
【0039】
なお、搬送する対象物Wが特定されている場合、当該対象物Wの重心Gまたは把持目標位置P1は、既知である。
【0040】
図3に示す状態は、対象物Wの重心Gの直上の把持目標位置P1をエンドエフェクター26が把持するので、理想的な状態である。これに対し、例えば、搬送開始位置からずれた位置に対象物Wが載置されていた場合、
図4に示すように、エンドエフェクター26は、把持目標位置P1からずれた位置である把持位置P2を把持し、この状態で搬送作業を行ってしまう。この場合、搬送中に対象物Wの把持が不本意に解除されて落下したり、搬送完了時に搬送完了位置からずれた位置に搬送されたりといった搬送不良が生じるおそれがある。このようなことから、本発明では、まず、力センサー19を用いて把持目標位置P1と把持位置P2とのずれ量dを把握する。
【0041】
従来では、エンドエフェクター付近を撮像するカメラを用い、このカメラの撮像画像に基づいて対象物の把持位置を把握していた。しかしこの方法では、周囲の明るさ等の外部環境によっては、例えば、光量不足により露出が不適正となったり、ピントが十分に合わず画像の解像度が低かったりすることがあり、良好な撮像画像を得られないことがあるという問題がある。このため、対象物の把持位置の確認が難しいか、あるいは精度よく把持位置を取得することができないという欠点がある。
【0042】
本発明では、撮像画像に基づくのではなく、以下のようにしてずれ量dを取得するため、外部環境によらず、ずれ量dを精度よくかつ安定して取得することができる。以下、詳細に説明する。
【0043】
図4および
図5に示すように、把持位置P2が、重心Gの直上の把持目標位置P1からX軸正側にずれていた場合について説明する。エンドエフェクター26が把持位置P2で対象物Wを把持し、持ち上げると、制御点TCPである把持目標位置P1には、
図4中矢印方向の第1トルクT、すなわち、Y軸回りの第1トルクTが作用する。この第1トルクTは、エンドエフェクター26を介して力センサー19へ伝達され、力センサー19において第1トルクTを検出することができる。第1トルクTは、単位が(kgf・m)や(N・m)で表される値であり、力センサー19の検出値のうちトルクTyには、この第1トルクTに相当する信号が含まれている。
【0044】
また、対象物Wの質量をM(kg)としたとき、力センサー19には、Z軸方向に沿った並進力Fz、すなわち、鉛直下方(Z軸負側)に向かって引っ張られる力が作用する。この場合、力センサー19の検出値は、以下の通りである。
Fx=0、Fy=0、Fz=M、Tx=0、Ty=T、Tz=0
【0045】
このような検出値に基づいて、以下の式(1)、(2)を用いてずれ量d(mm)を取得することができる。
【0046】
Y軸回りの第1トルクTは、ずれ量dと質量(重量)Mとを積算することにより得ることができるため、以下の式(1)で表すことができる。
T=M×d …(1)
【0047】
従って、ずれ量dは、式(1)を変形した以下の式(2)で表すことができる。
d=T/M=Ty/Fz…(2)
【0048】
前述したように、T、Mは、検出値Ty、Fzからわかるため、ずれ量dを算出することができる。
【0049】
式(1)および式(2)は、予め記憶部92に記憶されている。また、後述する許容値d1、d2も、予め記憶部92に記憶されている。
【0050】
なお、上記では、対象物Wの質量Mは、検出値に含まれる並進力Fzに基づいて取得する構成について説明したが、本発明ではこれに限定されず、Mの値が既知であれば、検出値に含まれる並進力Fzに基づかず、例えば、記憶部92に予めMの値が記憶されており、この記憶されているMの値を読み出して上記式(2)に代入する構成であってもよい。
【0051】
このように、制御装置9は、力センサー19が取得した第1トルクTに基づいて、エンドエフェクター26が対象物Wを把持している把持位置P2と、エンドエフェクター26が対象物Wを把持する把持目標位置P1とのずれ量dを取得する。これにより、従来のようなカメラによる撮像画像を用いてずれ量の取得を行う構成に比べ、外部環境によらず、安定的かつ精度よくずれ量dを取得することができる。
【0052】
以上のようにして求めたずれ量dを次に説明するように活用することにより、対象物Wの搬送を精度よく行うことができる。
【0053】
以下、ずれ量dの活用例を含め、本発明のロボットの制御方法の一例について、
図6に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0054】
ステップS101において、力センサー19の作動下で、載置されている対象物Wをエンドエフェクター26で把持し、持ち上げる。
【0055】
まず、ロボットアーム22の姿勢を適宜調整して対象物Wの把持目標位置P1の座標に制御点TCPが位置するよう、ロボット2を駆動する。すなわち、制御装置9は、設定されている動作プログラムに従い、第1関節アクチュエーター27、第2関節アクチュエーター28、第1駆動機構291および第2駆動機構292等の駆動を制御して、制御点TCPを所望の位置へ移動し、位置決めを行う。
【0056】
次いで、エンドエフェクター26のサクションポンプ261を作動し、吸着部にて対象物Wを吸着、把持する。その後、第2駆動機構292を作動して、対象物Wを上方へ持ち上げる。このとき、
図3に示す理想の状態が好ましいが、実際には、
図4および
図5に示すように、把持目標位置P1と把持位置P2とが、ずれ量d分ずれてしまうことがある。
【0057】
このようなステップS101が、エンドエフェクター26により対象物Wを把持して持ち上げる第1ステップである。対象物Wが持ち上げられると、対象物Wの質量Mと第1トルクTとがエンドエフェクター26の把持位置P2に作用し、力センサー19においては、質量Mに起因する並進力Fzと、質量Mおよびずれ量dに起因するトルクTyとが検出される。
【0058】
ステップS102では、第1トルクTを取得する。すなわち、力センサー19の検出値に含まれるトルクTyを取得する。なお、本実施形態では、並進力Fzも取得する。
【0059】
このようなステップS102が、対象物Wを持ち上げた状態において第1トルクTを取得する第2ステップである。
【0060】
次いで、ステップS103では、ずれ量dを取得する。すなわち、前述した式(1)、(2)を用いてずれ量dを算出する。
【0061】
このようなステップS103が、取得した第1トルクTに基づいて、エンドエフェクター26が対象物Wを把持している把持位置P2と、エンドエフェクター26が対象物Wを把持する把持目標位置P1とのずれ量dを取得する第3ステップである。
【0062】
次いで、ステップS104において、ずれ量dが許容値d1を超えているか否かを判断する。すなわち、d≦d1であるか否かを判断する。許容値d1は、現状の把持位置P2のまま搬送を行っても搬送不良が実質的に生じないと判断される値の限界値であり、予め記憶部92に記憶されている。
【0063】
このようなステップS104が、ずれ量dが許容値d1を超えているか否かを判断する第4ステップである。
【0064】
ステップS104において、d≦d1である、すなわち、ずれ量dが許容値d1を超えていないと判断した場合(ステップS104:YES)、ステップS105の搬送工程に移行する。一方、ステップS104において、d≦d1ではない、すなわち、ずれ量dが許容値d1を超えていると判断した場合(ステップS104:NO)、ステップS111に移行し、搬送条件を変更する。
【0065】
本実施形態では、搬送条件の変更として、下記(A)搬送速度の低下、(B)搬送目標位置の補正を行う。
【0066】
(A)搬送速度の低下
予め設定されている動作プログラム中の搬送速度に関する情報を補正する。具体的には、搬送中の速度を設定速度よりも所定割合遅い速度に補正し、動作プログラムを書き換える。これにより、搬送速度が遅くなり、ロボットアーム22の加速時、減速時等に対象物Wに作用する慣性力等の応力が減少する。よって、対象物Wの搬送をより安定的に、安全に行うことができ、ずれ量dに起因する搬送不良、特に、対象物Wの不本意な把持解除による落下を防止することができる。よって、対象物Wの搬送における安全性が向上する。
【0067】
ここで言う、「速度を遅くする」とは、等速運動中の速度を減少させること、加速運動中の加速度を減少させること、および減速運動中の負の加速度を減少させることの3つのパターンのうちの少なくとも1つのパターンを実行することを言う。
【0068】
速度をどのパターンで、どの程度減少させるかは、特に限定されないが、例えば、上記パターンごとに予め設定された減少率を適用することができる。この減少率は、ずれ量dによらず安定的に搬送を行うことができる程度の値であり、例えば、予め実験的に求められた値とすることができる。
【0069】
なお、ずれ量dに応じて、速度や加速度の減少率を増減させる構成であってもよく、ずれ量dの大小に関わらず一定の減少率で速度や加速度を減少させる構成であってもよい。
【0070】
(B)搬送目標位置の補正
予め設定されている動作プログラム中の搬送目標位置に関する情報を補正する。すなわち、予め設定されている動作プログラム中の搬送目標位置を、ずれ量d分、把持位置P2が把持目標位置P1に対してずれている方向と同方向にずらした位置に再設定する。これにより、ずれ量dによらず、対象物Wを新たに設定された適正な搬送目標位置へ搬送することができる。
【0071】
ステップS111では、このような搬送条件の変更を行い、ステップS105に移行する。なお、本実施形態では、上記(A)および(B)の2つを行う構成であるが、本発明ではこれに限定されず、上記(A)および(B)のうちのいずれか1つを行う構成であってもよい。
【0072】
このようなステップS111が、ずれ量dが許容値d1を超えていると判断した場合、対象物Wの搬送条件を変更する第5ステップである。
【0073】
ステップS105では、対象物Wの搬送を行う。制御装置9は、予め設定されているかまたは補正済みの動作プログラムに従い、第1関節アクチュエーター27、第2関節アクチュエーター28、第1駆動機構291および第2駆動機構292等の駆動を制御して、制御点TCPを所望の位置へ移動する。すなわち、本実施形態では、対象物Wを持ち上げた状態から、X-Y平面に沿って対象物Wを移動させ、搬送目標位置の直上に向かって移動させる。
【0074】
次いで、ステップS106において、搬送中における第1トルクTと、ずれ量dとを取得する。本ステップで行う処理は、前述したステップS102およびS103と同様である。本ステップでは、ロボットアーム22の姿勢変化や制御点TCPの移動が生じているので、力センサー19の検出値に、ロボットアーム22の振動に起因する成分や、移動に伴う慣性力に起因する成分が含まれる。
【0075】
次いで、ステップS107において、ずれ量dが許容値d2を超えているか否かを判断する。すなわち、d≦d2であるか否かを判断する。許容値d2は、現状の把持位置P2のまま搬送を行っても搬送不良が実質的に生じないと判断される値の限界値であり、予め記憶部92に記憶されている。許容値d2は、許容値d1と同じ値であってもよく、異なっていてもよい。
【0076】
ステップS107において、d≦d2である、すなわちずれ量dが許容値d2を超えていないと判断した場合(ステップS107:YES)、ステップS108に移行する。一方、ステップS107において、d≦d2ではない、すなわちずれ量dが許容値d2を超えていると判断した場合(ステップS107:NO)、ステップS112に移行し、搬送条件を変更する。
【0077】
ステップS112では、搬送条件の変更として、ステップS111と同様の処理、すなわち、上記(A)および(B)のうちの少なくとも1つの処理を行い、ステップS105に移行する。
【0078】
ステップS108において、制御点TCPは、搬送目標位置の直上で停止する。すなわち、搬送目標位置または補正された搬送目標位置の直上に制御点TCPが位置した状態で停止する。
【0079】
次いで、ステップS109において、対象物Wを所定位置まで下降させるようロボット2を駆動する。すなわち、第2駆動機構292を駆動して、対象物Wを所定位置まで下降させる。
【0080】
次いで、ステップS110において、エンドエフェクター26による対象物Wの把持を解除する。すなわち、エンドエフェクター26のサクションポンプ261の作動を停止して吸着力を消滅または減少させ、対象物Wの把持を解除する。
【0081】
このようなステップS101~ステップS110を実行することにより、ずれ量dを精度よくかつ安定的に取得し、搬送をより適正に安全に行うことができる。
【0082】
以上説明したように、ロボットの制御方法は、ロボットアーム22と、ロボットアーム22に設置され、対象物Wを把持するエンドエフェクター26と、エンドエフェクター26に加わる水平方向に沿った第1軸の一例であるY軸の軸回りの第1トルクTを検出する力センサー19と、を備えるロボットの制御方法である。また、ロボットの制御方法は、エンドエフェクター26によって対象物Wを把持して持ち上げる第1ステップと、対象物Wを持ち上げた状態において第1トルクTを取得する第2ステップと、取得した第1トルクTに基づいて、エンドエフェクター26が対象物Wを把持している把持位置P2と、エンドエフェクター26が対象物Wを把持する把持目標位置P1とのずれ量dを取得する第3ステップと、を有する。このような第1ステップ、第2ステップおよび第3ステップを実行することにより、外部環境によらず、ずれ量dを精度よくかつ安定的に取得することができ、よって、対象物Wの保持状態を精度よく把握することができる。
【0083】
なお、上記では、第1軸をY軸とし、把持目標位置P1と把持位置P2とがX軸方向にずれている場合を例に挙げて説明したが、本発明ではこれに限定されず、第1軸をX軸とし、把持目標位置P1と把持位置P2とがY軸方向にずれている場合であっても本発明を適用し、同様の効果を発揮することができる。
【0084】
また、ロボットシステム1は、ロボットアーム22と、ロボットアーム22に設置され、対象物Wを把持するエンドエフェクター26と、エンドエフェクター26に加わる水平方向に沿った第1軸の一例であるY軸の軸回りの第1トルクTを検出する力センサー19と、ロボットアーム22の作動を制御する制御装置9と、を備える。また、制御装置9は、エンドエフェクター26によって対象物Wを把持して持ち上げる第1ステップと、対象物Wを持ち上げた状態において第1トルクTを取得する第2ステップと、取得した第1トルクTに基づいて、エンドエフェクター26が対象物Wを把持している把持位置P2と、エンドエフェクター26が対象物Wを把持する把持目標位置P1とのずれ量dを取得する第3ステップと、を実行する。このようなロボットシステム1では、制御装置9が、第1ステップ、第2ステップおよび第3ステップを実行することにより、外部環境によらず、ずれ量dを精度よくかつ安定的に取得することができる。よって、対象物Wの保持状態を精度よく把握することができる。
【0085】
第3ステップでは、対象物Wの質量Mに基づいて、ずれ量dを算出する。これにより、対象物Wの質量Mさえ把握していれば、第1トルクTの値からずれ量dを容易に算出することができる。このことは、上記式(1)、(2)を参照すれば明らかである。
【0086】
力センサー19は、さらに、鉛直方向に沿った第3軸の一例であるZ軸の軸方向の並進力Fzを検出するものであり、第3ステップでは、対象物Wの質量Mを並進力Fzに基づいて取得する。これにより、対象物Wの質量Mが既知でなかった場合でも、ずれ量dを算出することができる。
【0087】
なお、上記構成に限定されず、対象物Wの質量Mは、作業者が予め入力する構成であってもよい。
【0088】
また、ロボットの制御方法は、ずれ量dが許容値d1を超えているか否かを判断する第4ステップと、第4ステップでずれ量dが許容値d1を超えていると判断した場合、対象物の搬送条件を変更する第5ステップと、を有する。これにより、ずれ量dの大きさに応じて適正な処理を行い、対象物Wの搬送を良好に、より安全に行うことができる。
【0089】
また、第5ステップでは、搬送条件の変更として、例えば上記(B)で示すように、対象物Wの搬送目標位置を補正する。これにより、ずれ量dによらず、対象物Wを新たに設定された適正な搬送目標位置へ搬送することができる。よって、対象物Wの搬送を安定的に、安全に行うことができ、ずれ量dに起因する搬送不良、特に、搬送中における対象物Wの落下等を防止することができる。
【0090】
第5ステップでは、搬送条件の変更として、例えば上記(A)で示すように、対象物Wの搬送速度を遅くする。これにより、対象物Wの搬送を安定的、安全に行うことができ、ずれ量dに起因する搬送不良、特に、搬送中における対象物Wの落下等を防止することができる。
【0091】
<第2実施形態>
図7は、本発明の第2実施形態に係るロボットの制御方法において、搬送条件の変更を説明するための図であって、ロボットアームの先端部の側面図である。
【0092】
以下、
図7を参照しつつ本発明のロボットの制御方法の第2実施形態について説明するが、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については説明を省略する。
【0093】
本実施形態では、ロボット2は、6軸垂直多関節ロボットであり、前記ロボットアーム22に相当するロボットアーム29を有する。このロボットアーム29は、複数のアームと、隣接するアーム同士を回転可能に接続する複数の関節とを有し、各アームが変位することによりロボットアーム29の姿勢の変更が可能である。ロボットアーム29の先端(
図7中下端)には、エンドエフェクター26が装着されており、前記各関節の回転角度を調整することにより、ロボットアーム29の先端部(
図7中下端部)の向き、すなわちエンドエフェクター26の中心軸262の向きを所望の方向に変更することができる。
【0094】
また、第5ステップであるステップS111では、搬送条件の変更として、(C)搬送中のロボットアーム29の姿勢の変更を行う。具体的には、制御点TCPが対象物Wの進行方向A2に対して後方に位置するようにロボットアーム29の先端部、すなわちエンドエフェクター26の中心軸262をZ軸に対して所定の傾斜角度θ傾斜させる。そして、この姿勢を対象物Wの搬送中の姿勢として設定する。これにより、ずれ量dに起因する第1トルクTの影響を、慣性力Fにより緩和することができる。よって、ロボットアーム29の姿勢を変更するという簡単な制御によって、ずれ量dに起因する搬送不良、特に、対象物Wの不本意な把持解除による落下を防止することができる。その結果、対象物Wの搬送を安定的に、より安全に行うことができる。本実施形態では、上記(C)を行う構成であるが、本発明ではこれに限定されず、上記(A)および(B)のうちの少なくとも1つと、上記(C)と、を行う構成であってもよい。
【0095】
傾斜角度θは、特に限定されないが、2°以上60°以下が好ましく、5°以上45°以下がより好ましい。
【0096】
ロボットアーム29の先端部をどの程度傾斜させるかは、第1トルクTまたはずれ量dに応じて、傾斜角度θを決定する構成であってもよく、ずれ量dの大小に関わらず一定の傾斜角度θでロボットアーム29の姿勢変更を行う構成であってもよい。また、対象物Wの搬送中に、傾斜角度θが例えば、0°以上60°以下の範囲で、随時変更されるような構成であってもよい。
【0097】
このように、第5ステップでは、搬送条件の変更として、搬送中のロボットアーム29の姿勢を調整する。これにより、簡単な制御で対象物Wの搬送を安定的に、安全に行うことができる。
【0098】
<第3実施形態>
図8は、本発明の第3実施形態に係るロボットの制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0099】
以下、
図8を参照しつつ本発明のロボットの制御方法の第3実施形態について説明するが、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については説明を省略する。
【0100】
なお、
図8において、ステップS201は、第1実施形態でのステップS101と同じであり、ステップS202は、第1実施形態でのステップS102と同じであり、ステップS203は、第1実施形態でのステップS103と同じであり、ステップS204は、第1実施形態でのステップS104と同じであり、ステップS205は、第1実施形態でのステップS105と同じであり、ステップS206は、第1実施形態でのステップS106と同じであり、ステップS207は、第1実施形態でのステップS107と同じであり、ステップS208は、第1実施形態でのステップS108と同じであり、ステップS209は、第1実施形態でのステップS109と同じであり、ステップS210は、第1実施形態でのステップS110と同じである。
【0101】
以下、ステップS211およびステップS212について説明するが、ステップS211を実行した後にステップS201に移行し、ステップS212を実行した後にステップS205に移行すること以外は、略同様の処理であるため、ステップS211について代表的に説明する。
【0102】
ステップS211では、搬送条件の変更として、(D)対象物Wの把持位置P2を変更する。すなわち、ステップS211では、エンドエフェクター26が把持している対象物Wを所定の場所に移動させて把持を解除し、その後、制御点TCPの位置を所定量、所定方向にずらして再度把持を行う。所定量は、例えば、取得したずれ量dよりも小さい値であることが好ましい。所定方向は、把持位置P2が把持目標位置P1に対してずれている方向と反対方向である。
【0103】
そして、ステップS211の後、ステップS201~ステップS204を順次実行し、d≦d1となるまでステップS201~ステップS204およびステップS211を繰り返し実行する。このような処理を行うことにより、ずれ量dが許容値d1以下の状態で対象物Wの搬送を行うことができる。よって、対象物Wの搬送をより安定的で精度よく、安全に行うことができる。なお、対象物Wの搬送中においても、ステップS205~ステップS207およびステップS212を繰り返し実行することにより、ずれ量dが許容値d2以下の状態で搬送を行うことができ、対象物Wの搬送における安全性がより高まる。
【0104】
このように、第5ステップでは、搬送条件の変更として、対象物Wの把持位置P2を変更する。これにより、ずれ量dを小さくすることができ、対象物Wの搬送をより安定的に、安全に行うことができる。
【0105】
<第4実施形態>
図9は、本発明の第4実施形態に係るロボットの制御方法において、把持位置と把持目標位置との位置関係を説明するための対象物の平面図である。
【0106】
以下、
図9を参照しつつ本発明のロボットの制御方法の第4実施形態について説明するが、以下では、第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については説明を省略する。
【0107】
図9に示すように、対象物Wは、平面視で、すなわちZ軸方向から見て四角形をなす板状またはブロック状のものである。以下、エンドエフェクター26による対象物Wの把持位置P2が、把持目標位置P1からX軸正側およびY軸正側にそれぞれずれていた場合について説明する。把持目標位置P1と把持位置P2とのX-Y平面上におけるずれ量dは、Z軸方向から見たときのP1、P2間の直線距離である。把持目標位置P1と把持位置P2とのX軸方向におけるずれ量をdaとし、把持目標位置P1と把持位置P2とのY軸方向におけるずれ量をdbとする。ずれ量daおよびずれ量dbの値がわかると、ずれ量dを求めることができる。
【0108】
なお、平面視での対象物Wの形状は、上記の四角形に限らず、例えば、円形、楕円形、三角形、五角形、六角形等の多角形、これらに類似する形状、その他任意の形状を採用することが可能である。
【0109】
エンドエフェクター26が把持位置P2で対象物Wを把持し、持ち上げると、把持目標位置P1には、Y軸回りの第1トルクTAが作用するとともに、X軸回りの第2トルクTBが作用する。この第1トルクTAおよび第2トルクTBは、エンドエフェクター26を介して力センサー19へ伝達される。このため、力センサー19の検出値のうちトルクTyには、第1トルクTAの値に相当する信号が含まれ、トルクTxには、第2トルクTBの値に相当する信号が含まれる。第1トルクTAおよび第2トルクTBは、それぞれ、単位が(kgf・m)や(N・m)で表される値である。
【0110】
また、対象物Wの質量をM(kg)としたとき、力センサー19には、Z軸方向に沿った並進力Fz、すなわち、鉛直下方(Z軸負側)に向かって引っ張られる力が作用する。この場合、力センサー19の検出値は、以下の通りである。
Fx=0、Fy=0、Fz=M、Tx=TB、Ty=TA、Tz=0
【0111】
このような検出値に基づいて、以下の式(3)、(4)を用いてずれ量d(mm)を取得することができる。
【0112】
Y軸回りの第1トルクTAは、ずれ量daと質量(重量)Mとを積算することにより得ることができる。また、X軸回りの第2トルクTBは、ずれ量dbと質量(重量)Mとを積算することにより得ることができるため、以下の式(3)および(4)で表すことができる。
【0113】
TA=M×da …(3)
TB=M×db …(4)
【0114】
従って、ずれ量daは、式(3)を変形した以下の式(5)で表すことができ、ずれ量dbは、式(4)を変形した以下の式(6)で表すことができる。
【0115】
da=TA/M=Ty/Fz …(5)
db=TB/M=Tx/Fz …(6)
【0116】
前述したように、TA、TB、Mは、検出値からわかるため、ずれ量daおよびずれ量dbを算出することができる。
【0117】
ずれ量dは、以下の式(7)で表すことができる。式(7)にda、dbを代入することにより、ずれ量dを算出することができる。
d=(da2+db2)1/2 …(7)
【0118】
本実施形態では、第1実施形態におけるステップS102に相当する第2ステップにおいて、対象物Wを持ち上げた状態において、第1トルクTAと、第2トルクTBとを取得する。そして、第1実施形態におけるステップS103に相当する第3ステップでは、取得した第1トルクTAおよび第2トルクTBに基づいてずれ量dを取得する。
【0119】
このように、本実施形態では、把持位置P2が、把持目標位置P1からX軸方向およびY軸方向のそれぞれにずれていた場合であっても、外部環境によらず、把持目標位置P1と把持位置P2とのX-Y平面上におけるずれ量dを安定的かつ精度よく取得することができる。よって、対象物Wの保持状態を精度よく把握することができる。
【0120】
また、本実施形態では、対象物Wの平面視形状がいかなる形状であっても、X-Y平面上におけるずれ量dを安定的かつ精度よく取得することができ、対象物Wの保持状態を精度よく把握することができる。
【0121】
以上述べたように、力センサー19は、第1軸の一例であるY軸と直交し、水平方向に沿った第2軸の一例であるX軸の軸回りの第2トルクTBと、第1トルクTAと、を検出するものである。また、第2ステップでは、対象物Wを持ち上げた状態において、第1トルクTAと、第2トルクTBと、を取得し、第3ステップでは、取得した第1トルクTAおよび第2トルクTBに基づいてずれ量dを取得する。これにより、把持位置P2が、把持目標位置P1からX軸方向およびY軸方向のそれぞれにずれていた場合であっても、外部環境によらず、ずれ量dを安定的かつ精度よく取得することができる。
【0122】
本実施形態のロボットの制御方法で用いられるロボットシステム1は、ロボットアーム22(または29)と、ロボットアーム22に設置され、対象物Wを把持するエンドエフェクター26と、エンドエフェクター26に加わる水平方向に沿ったY軸(第1軸)の軸回りの第1トルクTAおよび水平方向に沿ったY軸と直交するX軸(第2軸)の軸回りの第2トルクTBを検出する力センサー19と、ロボットアーム22の作動を制御する制御装置9と、を備える。また、制御装置9は、エンドエフェクター26によって対象物Wを把持して持ち上げる第1ステップと、対象物Wを持ち上げた状態において第1トルクTAおよび第2トルクTBを取得する第2ステップと、取得した第1トルクTAおよび第2トルクTBに基づいて、エンドエフェクター26が対象物Wを把持している把持位置P2と、エンドエフェクター26が対象物Wを把持する把持目標位置P1とのずれ量dを取得する第3ステップと、を実行する。
【0123】
上記ロボットシステム1における力センサー19は、第1実施形態と同様の6軸力覚センサーであるが、これに限定されず、上記成分Fx、Fy、Fz、Tx、TyおよびTzのうち、少なくともTxおよびTyを検出し得る構成のものであればよく、少なくともFz、TxおよびTyを検出し得る構成のものであるのが好ましい。このような構成の力センサーとしては、例えば、単一のセンサー素子で構成されるものの他、複数のセンサー素子を組み合わせて上記検出値を得るものでもよい。
【0124】
このようなロボットシステム1では、制御装置9が、第1ステップ、第2ステップおよび第3ステップを実行することにより、把持位置P2が、把持目標位置P1からX軸方向およびY軸方向のそれぞれにずれていた場合であっても、外部環境によらず、ずれ量dを精度よくかつ安定的に取得することができる。よって、対象物Wの形状に係わらず、対象物Wの保持状態を精度よく把握することができる。
【0125】
また、本実施形態における上記ロボットシステム1およびロボットの制御方法においても、上記第4ステップおよび第5ステップを実行することができる。これにより、ずれ量dの大きさに応じて適正な処理を行い、対象物Wの搬送を良好に、より安全に行うことができる。この場合、第5ステップでは、搬送条件の変更として、上記(A)、(B)、(C)および(D)のうちの少なくとも1つを実行することができる。これにより、対象物Wの搬送をより安定的に、安全に行うことができる。
【0126】
以上、本発明のロボットの制御方法およびロボットシステムを各実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、各工程、システム各部の構成等は、同様の機能を有する任意の工程、構成のものに置換することができる。また、第1実施形態に、第2実施形態、第3実施形態および第4実施形態のうちの少なくとも1つを任意に組み合わせてもよく、第2実施形態と第3実施形態とを任意に組み合わせてもよく、第2実施形態と第4実施形態とを任意に組み合わせてもよく、第3実施形態と第4実施形態とを任意に組み合わせてもよい。また、本発明では、各実施形態に他の任意の工程、構成が付加されていてもよい。
【符号の説明】
【0127】
1…ロボットシステム、2…ロボット、9…制御装置、10…床面、19…力センサー、21…ベース、22…ロボットアーム、23…第1アーム、24…第2アーム、25…作業ヘッド、26…エンドエフェクター、27…第1関節アクチュエーター、28…第2関節アクチュエーター、29…ロボットアーム、91…制御部、92…記憶部、93…通信部、251…スプラインナット、252…ボールネジナット、253…スプラインシャフト、261…サクションポンプ、262…中心軸、291…第1駆動機構、292…第2駆動機構、A1…矢印方向、A2…進行方向、F…慣性力、G…重心、J1…第1回転軸、J2…第2回転軸、J3…第3回転軸、P1…把持目標位置、P2…把持位置、T…第1トルク、TA…第1トルク、TB…第2トルク、TCP…制御点、W…対象物、d…ずれ量、da…ずれ量、db…ずれ量、θ…傾斜角度