(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127209
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】糖質水溶液の泡沫形成抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/00 20160101AFI20240912BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240912BHJP
C13B 25/00 20110101ALI20240912BHJP
【FI】
A23L29/00
A23L5/00 K
C13B25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036200
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】副島 友紀
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG19
4B035LG20
4B035LK06
4B035LP23
(57)【要約】
【課題】重合度の高い澱粉加水分解物の水素化物を含有する還元澱粉糖化物、食物繊維は溶液を濃縮する際、溶液が泡沫を形成し、濃縮容器から濃縮液があふれ出るなど作業性に問題があった。
【解決手段】泡沫を形成する糖質水溶液に、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどの単糖類の水素化物を、糖質水溶液中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖、または糖の水素化物1.0質量部に対し、単糖類水素化物を0.23質量部から1.0質量部含有させることにより、食物繊維、還元澱粉糖化物などの糖質水溶液の濃縮時の泡沫形成を抑制することを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃縮時に泡沫を形成する糖質水溶液の濃縮時において、単糖類水素化物を当該糖質水溶液に含有させることにより、泡沫形成を抑制する方法。
【請求項2】
四糖類およびそれ以上の重合度の糖質を含有する糖質水溶液において、糖質水溶液中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖、または糖の水素化物1.0質量部に対し、単糖類水素化物を0.23質量部から1.0質量部とする請求項1に記載の糖質水溶液の泡沫形成を抑制する方法。
【請求項3】
単糖類水素化物がエリスリトール、キシリトール、マンニトールまたはソルビトールである請求項1または請求項2に記載の糖質水溶液の泡沫形成を抑制する方法。
【請求項4】
糖質水溶液の濃縮が食品の製造工程である、請求項1から3のいずれかに記載の糖質水溶液の泡沫形成を抑制する方法。
【請求項5】
単糖類水素化物を含有する、濃縮時に泡沫を形成する糖質水溶液の泡沫形成抑制剤。
【請求項6】
糖質水溶液中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖、または糖の水素化物1.0質量部に対し、単糖類水素化物を0.23質量部から1.0質量部となるように含有させることを特徴とする糖質水溶液の濃縮方法
【請求項7】
糖質水溶液中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖または糖の水素化物1.0質量部に対し、単糖類水素化物を0.23質量部から1.0質量部とすることにより、製造工程中の糖質水溶液の濃縮工程を有する食品の製造方法。
【請求項8】
糖質水溶液中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖、または糖の水素化物1.0質量部に対し、単糖類水素化物が0.23質量部から1.0質量部であることを特徴とする糖質溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖質水溶液を濃縮する際の泡沫形成を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖質を原料として食品などの製造を行う場合、多くはその水溶液を濃縮する工程が存在する。例えば、低カロリー、低う蝕などの観点から食物繊維、還元麦芽糖水飴を用いた飴を製造する場合、長期保管における保形性確保のため、重合度の高い澱粉加水分解物の水素化物を含有する還元澱粉糖化物、または食物繊維を併用するが、このような還元澱粉糖化物、食物繊維は溶液を濃縮する際、溶液が泡沫を形成し、濃縮容器から濃縮液があふれ出るなど作業性に問題があった。糖質を濃縮する際、グリセリン脂肪酸エステル、シリコーン系界面活性剤などの消泡剤を添加する方法が知られている。これらの方法は糖質以外の成分を含有させるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58-47500
【特許文献2】特開昭60-192600
【特許文献3】特開平7-196757
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
糖質成分の調整によって、食物繊維、還元澱粉糖化物などの糖質水溶液の濃縮時の泡沫形成を抑制することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
糖質水溶液に、単糖類の水素化物を含有させることにより、食物繊維、還元澱粉糖化物などの糖質水溶液の濃縮時の泡沫形成を抑制することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は第一に濃縮時に泡沫を形成する糖質水溶液の濃縮時において、単糖類水素化物を当該糖質水溶液に含有させることにより、泡沫形成を抑制する方法である。
第二に、四糖類およびそれ以上の重合度の糖質を含有する糖質水溶液において、糖質水溶液中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖、または糖の水素化物1.0質量部に対し、単糖類水素化物を0.23質量部から1.0質量部とする第一に記載の糖質水溶液の泡沫形成を抑制する方法である。
第三に、単糖類水素化物がエリスリトール、キシリトール、マンニトールまたはソルビトールである第一または第二に記載の糖質水溶液の泡沫形成を抑制する方法である。
第四に、糖質水溶液の濃縮が食品の製造工程である、第一から第三のいずれかに記載の糖質水溶液の泡沫形成を抑制する方法である。
第五に、単糖類水素化物を含有する、濃縮時に泡沫を形成する糖質水溶液の泡沫形成抑制剤である。
第六に、糖質水溶液中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖、または糖の水素化物1.0質量部に対し、単糖類水素化物を0.23質量部から1.0質量部となるように含有させることを特徴とする糖質水溶液の濃縮方法である。
第七に、糖質水溶液中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖または糖の水素化物1.0質量部に対し、単糖類水素化物を0.23質量部から1.0質量部とすることにより、製造工程中の糖質水溶液の濃縮工程を有する食品の製造方法である。
第八に、糖質水溶液中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖、または糖の水素化物1.0質量部に対し、単糖類水素化物が0.23質量部から1.0質量部であることを特徴とする糖質溶液である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の構成をとることにより、糖質水溶液の濃縮操作において泡沫形成を抑制することができ、濃縮操作を効率よく行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明では蒸発濃縮時に泡沫形成する糖質溶液を対象とする。糖質とは糖の最小単位である単糖類またはその誘導体、およびそれらが重合した有機化合物の総称すなわち炭水化物をいう。単糖類の誘導体としては、デオキシ糖、硫酸糖、アミノ糖、ウロン酸、アルドン酸、アルダン酸、糖アルコールなどが挙げられる。水溶性の糖質、特にグルコースの重合体であれば本発明に用いることができ、例えば、澱粉加水分解物、還元澱粉糖化物、ポリデキストロース、水素化ポリデキストロースなどが挙げられる。重合度の高い糖質、特に四糖類およびそれ以上の重合度の糖質を多く含有する溶液は濃縮時に泡沫を形成し、濃縮容器からあふれ出すことが多い。
【0008】
泡沫とは、液体中にある気体の粒子である気泡が多数液体上面に浮上し塊を形成したものをいう。本発明における泡沫形成とは、濃縮操作の際、泡沫が容器からあふれるなどして、操作の上で支障になる程度の泡沫形成を意味し、糖質210g(固形分)、水90gを入れた1L容ビーカー(内径104mm)を、800Wの電熱器で180℃まで加熱したとき、加熱中の泡沫の液面からの高さ指標とすることができる。本発明では四糖類およびそれ以上の重合度の糖質を含有し、前述の測定法において加熱中の泡沫の液面からの高さが10mm以上となる糖質溶液を対象とする。
【0009】
単糖類水素化物とは、単糖類のカルボニル基が水素化された構造の化合物であり、糖アルコール、ポリオールなどともよばれる。例えばエリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールが挙げられ、これらはエリスロース、キシロース、マンノース、グルコースのカルボニル基(ホルミル基)が水素化された化合物である。糖質溶液の泡沫形成を抑制するために、これら単糖類の水素化物を糖質中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖質1.0質量部に対し、単糖類の水素化物が0.23質量部以上1.0質量部以下好ましくは0.25質量部以上0.5質量部以下となるように糖質溶液に含有させる。
【0010】
泡沫形成抑制剤とは、濃縮時に泡沫を形成する糖質水溶液に配合することにより泡沫形成抑制効果が認められる組成物をいう。泡沫形成抑制剤は単糖類水素化物を含有するが、その効果を妨げない他の成分を含有してもよい。
【0011】
本発明において、糖組成とは、糖質の総質量に対する各糖質の質量の割合を百分率で示すものをいう。糖組成は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で確認することができる。糖質の水溶液を試料としてHPLCを行い、クロマトグラムを得る。得られたクロマトグラムのピーク面積の全体の和が糖質の総質量に相当し、各ピーク面積がそれぞれの糖質の質量に相当し、それぞれの糖質の質量の割合を求めることができる。HPLCの条件は適宜設定ができる。
【0012】
濃縮とは、溶液から溶媒を除去し、溶液濃度を上げる操作を言う。本発明は蒸発による泡沫形成を抑制するものであるため、蒸発濃縮に適用される。溶媒の蒸発は減圧、加熱によって行うことができる。加熱により濃縮操作を行う場合、熱耐性のある糖質の水素化物を用いることが好ましい。
【0013】
本発明は糖質水溶液の濃縮操作を伴う工程であれば食品、医薬品、工業製品など、製品の種類にかかわらず適用することが可能である。食品の製造においては、例えば飴類の製造に適用できる。本発明を飴類の製造に用いる場合、重合度の高い成分を多く含有する糖質を用いるため、保管時の保形性が高い飴類を効率よく製造することができる。
【0014】
糖質水溶液には目的に応じその他の成分を含んでもよく、例えば、酸味料、香料、着色料などが挙げられる。
【0015】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0016】
糖質は以下に示すものを用いた。
還元麦芽糖水飴:アマルティシロップ(三菱商事ライフサイエンス社製)
澱粉加水分解物:水飴(日本食品化工社製)
還元ポリデキストロース:ライテスIII(ダニスコジャパン社製)
還元澱粉糖化物1:PO-60(三菱商事ライフサイエンス社製)
還元澱粉糖化物2:PO-40(三菱商事ライフサイエンス社製)
還元澱粉糖化物3:PO-30(三菱商事ライフサイエンス社製)
還元澱粉糖化物4:PO-10(三菱商事ライフサイエンス社製)
単糖類水素化物は以下に示すものを用いた。
ソルビトール:ソルビット(三菱商事ライフサイエンス社製)
マンニトール:マリンクリスタル(三菱商事ライフサイエンス社製)
キシリトール:キシリット(三菱商事ライフサイエンス社製)
エリスリトール:エリスリトール(三菱ケミカル社製)
【0017】
試験例1
1L容のビーカー(内径104mm)に固形分210g、水90g(固形分70%)となるよう表1記載の組成の原料を投入し、800Wの電熱器で加熱する。180℃まで温度と泡立ちの高さを経時的に測定し、最高値を測定結果とした。泡沫高さが10cm未満の場合、すなわち泡沫高さが加熱中常に10cm未満の場合、泡沫形成が抑制されたとした。泡沫形成原料組成、測定結果を表1に示す。成分の数値は質量部を表す。
【0018】
【0019】
実施例の組成から単糖類水素化物を除いたものは試験例1の試験において泡沫を形成することが確認されているが、実施例1から実施例9のように単糖類水素化物であるエリスリトール、キシリトール、マンニトールまたはソルビトールを四糖類およびそれ以上の重合度の糖質1.0質量部に対し、0.23質量部以上含有する糖質溶液は泡沫形成が抑制されることが明らかとなった。また、泡沫を形成する組成物に単糖類水素化物を加えた場合でも、単糖類水素化物の含有量が組成物中の四糖類およびそれ以上の重合度の糖質1.0質量部に対し、0.23質量部に満たない場合、泡沫を形成することが確認された。