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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127214
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】異種コンクリートの切替り特定装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/34 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036213
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 定幸
(72)【発明者】
【氏名】秋月 通孝
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA01
2D041BA44
2D041CB01
2D041CB05
2D041DA03
2D041EB02
(57)【要約】
【課題】異種コンクリートの切替りを精度よく特定することのできる、異種コンクリートの切替り特定装置を提供する。
【解決手段】所定の高さまで下方コンクリートC1を打設した後、下方コンクリートC1の上面Caよりも下方から異種の上方コンクリートC2を打設する際に、双方の切替りを特定する異種コンクリートの切替り特定装置100であり、ワイヤ41に接続されている錘体42と、ワイヤ41に作用する引き上げ力を計測するロードセル15と、回転しながらワイヤ41を巻き取るドラム22と、ドラム22を回転させる回転手段25と、ドラム22を移動させる移動手段37とを有し、錘体42が下方コンクリートC1から上方コンクリートC2へ引き上げられる前後のワイヤ41の引き上げ力の相違に基づいて切替りを特定し、回転手段25と移動手段37を同期制御して、ワイヤ41がドラム22の外周22aに隣り合うようにして巻き取られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の高さまで下方コンクリートを打設した後、該下方コンクリートの上面よりも下方から該下方コンクリートとは異種の上方コンクリートを打設する際に、該下方コンクリートと該上方コンクリートとの切替りを特定する、異種コンクリートの切替り特定装置であって、
ワイヤに接続されている、錘体と、
前記ワイヤに作用する引き上げ力を計測する、ロードセルと、
回転しながら前記ワイヤを巻き取る、円筒形のドラムと、
前記ドラムを回転させる、回転手段と、
前記ドラムの回転中心軸に平行な方向へ該ドラムを移動させる、移動手段とを有し、
前記錘体が前記下方コンクリートから前記上方コンクリートへ引き上げられる前後の前記ワイヤの前記引き上げ力の相違に基づいて、前記切替りを特定し、
前記回転手段と前記移動手段を同期制御して、前記ワイヤが前記ドラムの外周に隣り合うようにして巻き取られることを特徴とする、異種コンクリートの切替り特定装置。
【請求項2】
コントローラをさらに有し、
前記回転手段は、第1サーボモータであり、
前記移動手段は、第2サーボモータと、該第2サーボモータによって前記ドラムを移動させるボールネジ機構を備え、
前記コントローラは、
前記ドラムの外径データとワイヤ径を記憶し、
前記外径データと前記ワイヤ径とに基づいて、前記第1サーボモータと前記第2サーボモータの一方の回転速度を設定し、前記ワイヤが前記ドラムの外周に隣り合うようにして巻き取られるように他方の回転速度を設定し、
それぞれの回転速度に基づいて該第1サーボモータと該第2サーボモータを制御することを特徴とする、請求項1に記載の異種コンクリートの切替り特定装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記ドラムの外周に対して、前記ワイヤが隣り合うようにして巻き取られて第1ワイヤ層が形成された後、前記ボールネジ機構を反対方向に移動させて、該第1ワイヤ層の上に、前記ワイヤを巻き取りながら第2ワイヤ層を形成する制御を実行することを特徴とする、請求項2に記載の異種コンクリートの切替り特定装置。
【請求項4】
安定液で満たされた削孔内に鉄筋籠を建込み、該鉄筋籠の内部にトレミー管を挿入して、該削孔の下方からコンクリートが打設される場所打ちコンクリートの施工において、該削孔の所定の高さまで前記下方コンクリートを打設した後、該下方コンクリートの上面よりも下方から前記上方コンクリートを打設する際に、該下方コンクリートと該上方コンクリートとの切替りを特定する際に適用され、
前記鉄筋籠の所定位置に取り付けられて該鉄筋籠の側方のかぶり領域に張り出し、前記錘体を仮固定するための仮固定治具をさらに有し、
前記仮固定治具は、前記錘体の位置を規制する規制体と、該錘体の上方への移動を抑えて該規制体の内部に拘束する弾性体もしくは弾塑性体とを備え、
前記ワイヤが、前記弾性体もしくは前記弾塑性体から前記錘体が解放されて上方へ引き上げられる際の解放引き上げ力以上の引き上げ力にて引っ張られ、該錘体が上方へ引き上げられるようになっていることを特徴とする、請求項1に記載の異種コンクリートの切替り特定装置。
【請求項5】
前記規制体は筒体であり、
前記弾性体は、前記筒体の側方に取り付けられて該筒体の上方にその一部が張り出している複数の張り出し片であり、
前記複数の張り出し片の先端が、前記筒体の内部に収容されている前記錘体の上方に位置していることを特徴とする、請求項4に記載の異種コンクリートの切替り特定装置。
【請求項6】
前記筒体の下方には、該筒体に収容されている前記錘体の落下を防止する落下防止材が取り付けられていることを特徴とする、請求項5に記載の異種コンクリートの切替り特定装置。
【請求項7】
前記鉄筋籠のうち、前記仮固定治具よりも上方の複数箇所に取り付けられて前記かぶり領域に張り出し、前記ワイヤが挿通されて前記錘体の引き上げを案内するための案内治具をさらに有することを特徴とする、請求項4又は5に記載の異種コンクリートの切替り特定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種コンクリートの切替り特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば地中におけるコンクリート構造物は、深度に応じてコンクリート構造物に生じる応力が異なり、例えば場所打ちコンクリート杭においては、一般に杭頭部ほど地震時の応力が大きくなることに鑑み、杭頭部において必要となる曲げ耐力やせん断耐力を確保できるコンクリート強度と断面寸法にて場所打ちコンクリート杭の全体の設計及び施工が行われている。
そのため、杭頭部において必要とされる設計耐力は、杭頭部以外の領域において実際には必要ないことから、杭頭部以外の多くの領域は過大な設計耐力を有した状態で施工されることになる。このように、最大応力が生じる領域を基準にコンクリート構造物の全体を設計及び施工することにより、コンクリート構造物全体の過大設計に基づく施工に繋がり、施工コストが徒らに高騰することから好ましくない。
【0003】
そこで、特許文献1には、杭体底部、杭体中間部、及び杭体頭部に向かってコンクリート中のセメント量を増加させ、応力に応じて場所ごとにセメント量が変化している場所打ちコンクリート杭が提案されている。
また、この場所打ちコンクリート杭の施工方法は、コンクリート打設時におけるトレミー管の既打設コンクリート中への管入長さを2m内外に維持し、杭体底部と杭体中間部との境の部分、および杭体中間部と杭体頭部との境の部分のそれぞれ2mほど下部より、コンクリートの調合を変化させる施工方法である。
この2mの管入長さは、先行打設されたコンクリートの高さから、後行打設されるコンクリートの打設面が2m程度上昇した段階で、セメント量の異なる後行打設のコンクリートに完全に切り替わるとした、経験則に基づく長さである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-16787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の施工方法により施工される場所打ちコンクリート杭によれば、深度に応じた耐力を有し、過大設計に基づく施工が解消された場所打ちコンクリート杭となる。
しかしながら、その施工管理において経験則から2mの管入長さを設定しているものの、場所打ちコンクリート杭の杭径やコンクリートの仕様等に応じて、下方コンクリートと上方コンクリートが完全に切替るタイミング(高さ)は様々に変化し得ることに鑑みると、経験則に基づく2mの管入長さを前提とした異種コンクリートの打設方法は、あらゆる場所打ちコンクリート杭等のコンクリート構造物に対して汎用的に適用できるとは言い難い。
従って、実際には、下方コンクリートから上方コンクリートへの切替りの高さを正確に特定するべく、原位置においてフレッシュコンクリートを採取して切替り位置を特定する方法や、コンクリートが硬化した後にコアボーリングを行ってコアを採取し、コアに対して圧縮試験を行うことで切替り位置を特定する方法などが必要となるが、このような試験には手間と時間を要する。
より具体的には、フレッシュコンクリートの採取により異種コンクリートの切替りを特定する方法では、複数深度での実際の試料採取が困難かつ煩雑であることに加えて、例えば削孔内を満たす安定液がフレッシュコンクリートに混入されることで、水セメント比等が変化し、下方コンクリートや上方コンクリートの配合推定ができなくなる恐れがある。
一方、コアを採取して圧縮試験を実施し、異種コンクリートの切替りを特定する方法では、コンクリート構造物そのものを痛めるとともにその補修が必要になる。
【0006】
本発明は、異種コンクリートを高さ方向に連続して打設する際に、異種コンクリートの切替りを精度よく特定することのできる、異種コンクリートの切替り特定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による異種コンクリートの切替り特定装置の一態様は、
所定の高さまで下方コンクリートを打設した後、該下方コンクリートの上面よりも下方から該下方コンクリートとは異種の上方コンクリートを打設する際に、該下方コンクリートと該上方コンクリートとの切替りを特定する、異種コンクリートの切替り特定装置であって、
ワイヤに接続されている、錘体と、
前記ワイヤに作用する引き上げ力を計測する、ロードセルと、
回転しながら前記ワイヤを巻き取る、円筒形のドラムと、
前記ドラムを回転させる、回転手段と、
前記ドラムの回転中心軸に平行な方向へ該ドラムを移動させる、移動手段とを有し、
前記錘体が前記下方コンクリートから前記上方コンクリートへ引き上げられる前後の前記ワイヤの前記引き上げ力の相違に基づいて、前記切替りを特定し、
前記回転手段と前記移動手段を同期制御して、前記ワイヤが前記ドラムの外周に隣り合うようにして巻き取られることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、下方コンクリートから上方コンクリートへ引き上げられる錘体に接続されるワイヤを回転手段にて巻き取るドラムを、ドラムの回転中心軸に平行な方向へ移動手段にて移動させながらワイヤを巻き取る構成において、回転手段と移動手段を同期制御してワイヤがドラムの外周に隣り合うようにして巻き取られることにより、引き上げられる錘体の位置(深度)を精度よく特定することができ、巻き取られるワイヤが相互に絡み合って引き上げ速度がばらつくことなく、所望の引き上げ速度にて安定的にワイヤを巻き取ることができる。
さらに、ワイヤに作用する引き上げ力をロードセル(荷重計)にて常時計測しておき、下方コンクリートから上方コンクリートへ引き上げられる前後のワイヤの引き上げ力の相違に基づいて切替りを特定することにより、錘体の位置の高精度な特定と相俟って、切替り位置を高い精度でリアルタイムに特定することが可能になり、切替り位置に関する定量的なエビデンスを取得することが可能になる。すなわち、特定される「切替り」とは、定性的な文字通りの切替りの他に、定量的な切替り位置や切替り深度のことを意味している。
例えば、適用する異種コンクリートのそれぞれのコンクリート内における錘体の引き上げ速度と引き上げられる際のワイヤの引き上げ力との関係を予め特定しておくことで、所定の引き上げ速度の際のワイヤの引き上げ力が変化した際に、下方コンクリートから上方コンクリートへの切替りを特定することが可能になる。
【0009】
ここで、「異種コンクリート」とは、相互にFc(設計基準強度)の異なるコンクリートで、例えば、Fc36超の高強度コンクリートとFc36以下の普通コンクリート、普通コンクリートの中でも設計基準強度が相互に異なるコンクリート、混和剤等の添加量の相違や添加の有無、粗骨材量や細骨材量、水セメント比等の相違により、性能や強度が様々に異なる、普通コンクリートと流動化コンクリート(高流動コンクリートを含む)、マスコンクリート、水密コンクリートといった様々な異種コンクリートの組合せが含まれる。
【0010】
また、本態様の切替り特定装置が適用される異種コンクリートにより形成されるコンクリート構造物としては、場所打ちコンクリート杭や地中連続壁(連壁)等の地下構造物が主として挙げられるが、例えば複数階に跨がる通し柱の各階ごとに異種コンクリートが適用される地上構造物等であってもよい。
【0011】
また、本発明による異種コンクリートの切替り特定装置の他の態様は、
コントローラをさらに有し、
前記回転手段は、第1サーボモータであり、
前記移動手段は、第2サーボモータと、該第2サーボモータによって前記ドラムを移動させるボールネジ機構を備え、
前記コントローラは、
前記ドラムの外径データとワイヤ径を記憶し、
前記外径データと前記ワイヤ径とに基づいて、前記第1サーボモータと前記第2サーボモータの一方の回転速度を設定し、前記ワイヤが前記ドラムの外周に隣り合うようにして巻き取られるように他方の回転速度を設定し、
それぞれの回転速度に基づいて該第1サーボモータと該第2サーボモータを制御することを特徴とする。
【0012】
本態様によれば、回転手段がサーボモータ(第1サーボモータ)であり、移動手段が別途のサーボモータ(第2サーボモータ)とボールネジ機構であり、一方の回転速度がコントローラに設定(演算)され、ワイヤがドラムに対して隣り合うようにして巻き取られるように他方の回転速度がコントローラにて設定(演算)された上で双方のサーボモータが制御されることにより、引き上げられる錘体の位置の高精度な特定と、巻き取られるワイヤが相互に絡み合うことにより生じ得る引き上げ速度のばらつきの解消を実現できる。より具体的には、コントローラでは、錘体の引き上げ速度等に応じて例えば第1サーボモータの回転速度が設定され、この設定値に基づいて、ワイヤがドラムに対して隣り合うようにして巻き取られるように他方の第2サーボモータの回転速度が設定される。
【0013】
また、本発明による異種コンクリートの切替り特定装置の他の態様において、
前記コントローラは、
前記ドラムの外周に対して、前記ワイヤが隣り合うようにして巻き取られて第1ワイヤ層が形成された後、前記ボールネジ機構を反対方向に移動させて、該第1ワイヤ層の上に、前記ワイヤを巻き取りながら第2ワイヤ層を形成する制御を実行することを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、ドラムの外周に対してワイヤが隣り合うようにして巻き取られて第1ワイヤ層が形成された後、ボールネジ機構を反対方向に移動させて、第1ワイヤ層の上にワイヤを巻き取りながら第2ワイヤ層を形成する制御がコントローラにて実行されることにより、ドラムの寸法を過度に大きくすることなく、巻き取られるワイヤが相互に絡み合うことを防止しながら、ドラムの外周に対して複数のワイヤ層を積層形成しつつワイヤの巻き取りを行うことができる。
このような制御を実現するべく、コントローラには、ドラムの径(直径)に加えて、ドラムの長さ(ワイヤが隣り合うようにして巻き取られる方向の長さ)、ワイヤの直径(ワイヤ径)等が入力される。ドラムの外周に第1ワイヤ層が形成され、次にその周囲に第2ワイヤ層を形成する際に、第2ワイヤ層は、ドラム径に対してワイヤ径の2倍が付加された大きさの直径の第1ワイヤ層の外周に対して形成されることから、この新たな直径に基づいて、コントローラではワイヤが隣り合うようにして巻き取られるような第2サーボモータの回転速度等が再設定され、再設定結果に基づいて第1、第2サーボモータの制御が実行される。
ここで、第1ワイヤ層の上に第2ワイヤ層が形成された後、必要に応じて、第2ワイヤ層の上に第3ワイヤ層が形成され、第3ワイヤ層の上に第4ワイヤ層が形成されるといった具合に、第3ワイヤ層以上の多層の巻き取り方法が適用され得る。このような複数のワイヤ層の形成の際には、ボールネジ機構により、ドラムが順次反対方向に移動される。また、このドラムの移動に先んじて、コントローラにて新たなワイヤ巻き取りの際の直径が再設定され、ワイヤが隣り合うようにして巻き取られるような第2サーボモータの回転速度等が再設定されることになる。
【0015】
また、本発明による異種コンクリートの切替り特定装置の他の態様は、
安定液で満たされた削孔内に鉄筋籠を建込み、該鉄筋籠の内部にトレミー管を挿入して、該削孔の下方からコンクリートが打設される場所打ちコンクリートの施工において、該削孔の所定の高さまで前記下方コンクリートを打設した後、該下方コンクリートの上面よりも下方から前記上方コンクリートを打設する際に、該下方コンクリートと該上方コンクリートとの切替りを特定する際に適用され、
前記鉄筋籠の所定位置に取り付けられて該鉄筋籠の側方のかぶり領域に張り出し、前記錘体を仮固定するための仮固定治具をさらに有し、
前記仮固定治具は、前記錘体の位置を規制する規制体と、該錘体の上方への移動を抑えて該規制体の内部に拘束する弾性体もしくは弾塑性体とを備え、
前記ワイヤが、前記弾性体もしくは前記弾塑性体から前記錘体が解放されて上方へ引き上げられる際の解放引き上げ力以上の引き上げ力にて引っ張られ、該錘体が上方へ引き上げられるようになっていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、削孔内に鉄筋籠を建込み、異種コンクリートを打設して場所打ちコンクリートを施工するに当たり、鉄筋籠の所定位置に取り付けられて該鉄筋籠の側方のかぶり領域に張り出して錘体を仮固定するための仮固定治具をさらに装置の構成要素とし、仮固定治具を形成して錘体の上方への移動を抑える、弾性体もしくは前記弾塑性体から錘体が解放される解放引き上げ力以上の引き上げ力にてワイヤを引っ張って錘体を上方へ引き上げることにより、削孔内に鉄筋籠を建込む際や、下方コンクリートの内部に上方コンクリートを打設する際の、所定位置(所定深度)における錘体の位置決め姿勢を保持することができる。さらに、下方コンクリートと上方コンクリートの切替りを特定したい所望のタイミングにおいて、錘体の位置決め姿勢からの解放と上方への引き上げを実現できる。
ここで、「場所打ちコンクリート」としては、既述するように、場所打ちコンクリート杭や地中連続壁等の地下構造物が挙げられる。
【0017】
また、本発明による異種コンクリートの切替り特定装置の他の態様において、
前記規制体は筒体であり、
前記弾性体は、前記筒体の側方に取り付けられて該筒体の上方にその一部が張り出している複数の張り出し片であり、
前記複数の張り出し片の先端が、前記筒体の内部に収容されている前記錘体の上方に位置していることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、規制体が筒体により形成され、弾性体が規制体に取り付けられている複数の張り出し片によって形成されることにより、仮固定治具がシンプルな構成でかつ可及的に軽量となることから、鉄筋籠への取り付け性に優れた治具となる。
【0019】
また、本発明による異種コンクリートの切替り特定装置の他の態様において、
前記筒体の下方には、該筒体に収容されている前記錘体の落下を防止する落下防止材が取り付けられていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、筒体の下方に錘体の落下を防止する落下防止材が取り付けられていることにより、鉄筋籠の建込みから下方コンクリートの打設等にかけて、筒体に収容されている錘体の収容姿勢を保持することができる。
【0021】
また、本発明による異種コンクリートの切替り特定装置の他の態様において、
前記鉄筋籠のうち、前記仮固定治具よりも上方の複数箇所に取り付けられて前記かぶり領域に張り出し、前記ワイヤが挿通されて前記錘体の引き上げを案内するための案内治具をさらに有することを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、仮固定治具よりも上方の複数箇所に取り付けられてワイヤが挿通し、錘体の引き上げを案内するための案内治具をさらに装置の構成要素とすることにより、錘体を削孔の孔壁や鉄筋籠等に干渉させることなく、所望する引き上げ速度にてスムーズに引き上げることが可能になる。
さらに、削孔の孔壁が、鉛直方向ではなくて傾斜方向に延びている場合でも、鉄筋籠に対して所定ピッチで取り付けられている複数の案内治具を介して錘体を上方へ引き上げることにより、スムーズな引き上げを実現できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の異種コンクリートの切替り特定装置によれば、異種コンクリートを高さ方向に連続して打設する際に、異種コンクリートの切替りを精度よく特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定装置の一例の全体構成図である。
図2図1のII方向矢視図であって、回転手段と移動手段の各動作を説明する図である。
図3】仮固定治具の一例の斜視図である。
図4】案内治具の一例の斜視図である。
図5】コントローラのハードウェア構成の一例を示す図である。
図6】コントローラの機能構成の一例を示す図である。
図7】コントローラによる制御フローの一例を示す図である。
図8A】実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定方法における、鉄筋籠建込み工程を説明する工程図である。
図8B図8Aに続いて、鉄筋籠建込み工程を説明する工程図である。
図8C図8Bに続いて、鉄筋籠建込み工程を説明する工程図である。
図8D図8Cに続いて、鉄筋籠建込み工程を説明する工程図である。
図9】案内治具の取り付けピッチの設定方法を説明する図である。
図10A】実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定方法における、切替り特定工程を説明する工程図である。
図10B図10Aに続いて、切替り特定工程を説明する工程図である。
図10C図10Bに続いて、切替り特定工程を説明する工程図である。
図11】高強度コンクリートと普通コンクリートの、高速引き上げ時と低速引き上げ時の際の引き上げ力を示す図である。
図12】高速引き上げ時の引き上げ力と低速引き上げ時の引き上げ力を縦軸と横軸とする分布図の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定装置と切替り特定方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0026】
[実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定装置と切替り特定方法]
図1乃至図12を参照して、実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定装置と切替り特定方法の一例について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定装置の一例の全体構成図であり、図2は、図1のII方向矢視図であって、回転手段と移動手段の各動作を説明する図である。また、図3は、仮固定治具の一例の斜視図であり、図4は、案内治具の一例の斜視図である。
【0027】
切替り特定装置100は、所定の高さまで下方コンクリートを打設した後、下方コンクリートの上面よりも下方から下方コンクリートとは異種の上方コンクリートを打設する際に、下方コンクリートと上方コンクリートとの切替りを特定する装置である。
【0028】
以下、切替り特定装置100を、場所打ちコンクリートの一例である場所打ちコンクリート杭の施工において、普通コンクリートを下方コンクリートとして打設し、高強度コンクリートを上方コンクリートとして下方コンクリートの上に打設する例を取り上げて説明するが、異種コンクリートの切替り特定対象の場所打ちコンクリートは、場所打ちコンクリート杭以外にも、地中連続壁(連壁)等の他の地下構造物であってもよい。
【0029】
また、以下の説明では、異種コンクリートとして、普通コンクリートと高強度コンクリートを取り上げて説明するが、異種コンクリートは、普通コンクリートの中でも設計基準強度の異なる複数の普通コンクリートの組合せであってもよい。また、混和剤等の添加量の相違や添加の有無、粗骨材量や細骨材量、水セメント比等の相違により、性能や強度が様々に異なる、普通コンクリートと流動化コンクリート、マスコンクリート、水密コンクリートといった様々な異種コンクリートの組合せであってもよい。
【0030】
図1図2に示すように、切替り特定装置100は、ワイヤ41に接続されている錘体42と、ワイヤ41に作用する引き上げ力を計測するロードセル15と、回転しながらワイヤ41を巻き取る、円筒形のドラム22と、ドラム22を回転させる回転手段25と、ドラム22の回転中心軸(図2の矢印X1)に平行な方向へドラム22を移動させる、移動手段37と、コントローラ50とを有する。
【0031】
錘体42は、鋼球(鉄球)により形成され、フレッシュコンクリート内において作用する浮力にて浮遊しない重量を備えた球体である。錘体42が球状を呈していることにより、フレッシュコンクリート内で錘体42が上方へ引き上げられる際のフレッシュコンクリートから作用する抵抗を低減することができ、可及的にスムーズな錘体42の引き上げを実現できる。ここで、錘体42は、上記するように浮力にて浮遊しない重量を有していれば、鋼球以外にも硬質な樹脂製の球体やセラミックス等からなる球体であってもよいし、さらには、球体以外にも錐体や多角柱体等であってもよい。また、ワイヤ41は、例えばスレンレスワイヤにより形成される。
【0032】
鋼製(鉄、スレンレス、アルミニウム等を含む)の複数の部材が相互に組み付けられることにより架構11が形成され、架構11に対して移動手段37が取り付けられる。
【0033】
図2に示すように、移動手段37は、リニアベアリング36と、リニアベアリング36に固定されるボールネジ機構34と、第2サーボモータ35とを有する。
【0034】
ボールネジ機構34は、第2サーボモータ35の回転駆動によってX3方向に回転するボールネジ31と、ボールネジ31の回転によってボールネジ31の長手方向に沿ってX4方向に往復動するナット32とを有する。
【0035】
リニアベアリング36には、ドラム22を回転自在に収容する台座21が移動自在に搭載され、台座21の下面から下方へ伸びる係合部21aがナット32に固定されている。この構成により、第2サーボモータ35の回転駆動によってナット32がX4方向にスライドした際に、ドラム22を収容する台座21が同期してX4方向にスライド自在となる。
【0036】
ここで、ボールネジ31の長手方向であるX4方向は、ドラム22の回転中心軸X1と相互に平行な関係にあり、従って、移動手段37によってドラム22は自身の回転中心軸X1に平行な方向へ移動することになる。
【0037】
台座21には、回転手段25を形成する第1サーボモータ25が取り付けられており、第1サーボモータ25の回転シャフトの先端にはピニオンギヤ26が装着されている。一方、ドラム22の一端には、ピニオンギヤ26に噛み合い係合するギヤ23が装着されており、第1サーボモータ25が回転駆動した際に、相互に係合するピニオンギヤ26とギヤ23が回転し、ドラム22が回転中心軸X1を中心にX2方向に回転する。
【0038】
ドラム22の回転により、ドラム22の外周22aには、錘体42を引き上げるワイヤ41が巻き取られることになる。
【0039】
切替り特定装置100では、コントローラ50による制御によって第1サーボモータ25と第2サーボモータ35が同期制御されるようになっており、この同期制御により、ワイヤ41がドラム22の外周22aに隣り合うようにして巻き取られるようになっている。このようなワイヤ41の巻き取りにより、ドラム22の外周22aには、隣り合うようにして巻き取られたワイヤ41からなる第1ワイヤ層が形成されることになる。
【0040】
また、第1ワイヤ層が形成された後は、移動手段37を構成する第2サーボモータ35を反転させ、ボールネジ31を反転させることによってドラム22(を収容する台座21)を逆方向に移動させながら、第1ワイヤ層の上にワイヤ41が巻き取られるようになっており、この巻き取りによって第1ワイヤ層の上に第2ワイヤ層が形成されることになる。
【0041】
以後、必要に応じて、移動手段37を構成する第2サーボモータ35を反転させることにより、ドラム22を逆方向に移動させながらワイヤ41を隣り合うようにして巻き取ることによって、第3ワイヤ層、第4ワイヤ層等が順次積層した態様で形成されることになる。
【0042】
このように、ドラム22の外周22aに対してワイヤ41が隣り合うようにして巻き取られて第1ワイヤ層が形成された後、ボールネジ機構34を反対方向に移動させて第1ワイヤ層の上にワイヤ41を巻き取りながら第2ワイヤ層を形成する制御がコントローラ50にて実行されることにより、場所打ちコンクリート杭の杭長が長く、ワイヤ41の巻き取り長が長い場合でも、ドラム22の寸法を過度に大きくすることなく、巻き取られるワイヤ41が相互に絡み合うことを防止しながら、ドラム22の外周22aに対して複数のワイヤ層を積層形成しつつワイヤ41のスムーズな巻き取りを実行することができる。
【0043】
図1に示すように、架構11の途中位置には、移動手段37が取り付けられる。架構11の上方には、ワイヤ41の方向変換を行う複数(図示例は3つ)の滑車13が取り付けられており、その途中位置には、錘体42を引き上げるワイヤ41に作用する引き上げ力を計測するロードセル15が取り付けられている。また、架構11の途中位置には、ケーシングCSの先端に係止される係止部17が取り付けられている。
【0044】
図1には、鉄筋籠Tの主筋T1と帯筋T2と補強リングT3を模擬した鉄筋模型(試験体)を図示しており、その側方に架構11を横付けしている状態を示している。鉄筋籠Tの補強リングT3には、鉄筋籠Tの所定位置において鉄筋籠Tの側方のかぶり領域に張り出し、錘体42を仮固定するための仮固定治具60が取り付けられている。
【0045】
さらに、鉄筋籠Tの別途の補強リングT3のうち、仮固定治具60よりも上方には、かぶり領域に張り出してワイヤ41が挿通され、錘体42の引き上げを案内するための案内治具70が取り付けられている。
【0046】
案内治具70の平面視における内部の中空の寸法は、錘体42の平面視寸法よりも大きく設定されており、ワイヤ41の引き上げに際して上方へ引き上げられる錘体42が各案内治具70を通過できるようになっている。これら仮固定治具60と案内治具70も、切替り特定装置100の構成要素である。
【0047】
場所打ちコンクリート杭を施工する施工現場においては、鉄筋籠Tを形成する異なる深度にある複数の補強リングT3に対して、仮固定治具60と案内治具70がそれぞれ取り付けられ、仮固定治具60に錘体42が収容され、錘体42から上方へ伸びるワイヤ41が複数の案内治具70に挿通された状態で鉄筋籠Tが削孔内に建込まれる。
【0048】
その際に、削孔内における鉄筋籠Tの側方のかぶり領域には、仮固定治具60と複数の案内治具70が相互に縦方向(例えば鉛直方向)の直線上に位置しており、この縦方向に沿って、錘体42が取り付けられているワイヤ41はドラム22の回転によって引き上げられることになる。引き上げられたワイヤ41は、最上段にある案内治具70の上方に位置決めされた滑車13を介して方向変換され、他の滑車13を介してさらに方向変換されながら、回転するドラム22の外周22aに巻き取られる。この巻き取りの過程で、ロードセル15はワイヤ41に作用する引き上げ力を常時測定しており、測定データは都度コントローラ50に送信されるようになっている。
【0049】
図3に示すように、仮固定治具60は、鉄筋籠Tの補強リングT3に取り付けられる際に、取り付け用のボルト68が挿通されるボルト孔61aが開設されている固定片61と、固定片61から張り出す張り出し棒62と、張り出し棒62の一端に固定されて、錘体42の位置を規制する筒状の規制体63(筒体)と、錘体42の上方への移動を抑えて規制体63の内部に錘体42を拘束する複数の弾性体64と、筒体63の下方に取り付けられて錘体42が下方へ落下するのを防止する、落下防止材65とを有する。図示例は、ボルト孔61aが横方向の長孔となっており、鉄筋籠Tにおける任意の補強リングT3に対して固定片61をボルト固定する際に、ボルト68の固定位置を調整できるようになっている。ここで、弾性体64は弾塑性体であってもよい。
【0050】
弾性体64は、筒体63の側方に取り付けられて筒体63の上方にその一部が張り出している、張り出し片64により形成される。図示例は、平面視において90度間隔に配設された4つの張り出し片64が筒体63の側面に固定され、各張り出し片64の先端が錘体42の上方に位置している。
【0051】
例えば、筒体63の下方からその内部に錘体42を収容した後、筒体63の下方に落下防止材65を溶接や嵌め込み等により固定する。
【0052】
ここで、仮固定治具60を形成する各部材は、いずれも鋼製(鉄、スレンレス、アルミニウム等を含む)であるが、弾性体64は要求される弾性に応じた素材により形成される。
【0053】
張り出し片64には、ワイヤ41が引き上げられて錘体42が図示例の状態から解放され、上方へ引き上げられる際の解放引き上げ力が設定されている。この解放引張力以上の引き上げ力にてワイヤ41が引っ張られた際に、錘体42は4つの張り出し片64からの抑え状態から解放されて、上方へ引き上げられることになる。
【0054】
このように、鉄筋籠Tの所定位置においてかぶり領域に張り出す仮固定治具60を取り付けておき、仮固定治具60にて錘体42を仮固定することにより、削孔内に鉄筋籠Tを建込む際や、下方コンクリートの内部に上方コンクリートを打設する際の、所定位置(所定深度)における錘体42の位置決め姿勢を保持することができる。さらに、下方コンクリートと上方コンクリートの切替りを特定したい所望のタイミングにおいて、錘体42の位置決め姿勢からの解放と上方への引き上げを実現できる。
【0055】
一方、図4に示すように、案内治具70は、鉄筋籠Tの補強リングT3に取り付けられる際に、取り付け用のボルト78が挿通されるボルト孔71aが開設されている固定片71と、固定片71から張り出す張り出し片72と、張り出し片72の一端に固定されて、両端が隙間73aを介して上下にラップしている環状棒とを有する。環状棒は、隙間73aを介して外側からワイヤ41をX5方向に挿通する挿通部73(上下のラップ部)と、挿通されたワイヤ41を収容する収容部74とを有する。
【0056】
このように、案内治具70が、ワイヤ41を挿通部73の隙間73aを介して外側から挿通して収容部74に収容できるように構成されていることにより、地上にいる作業員は、鉄筋籠Tを建て込む際にワイヤ41を容易に案内治具70に収容することができる。また、収容部74に収容された縦方向に伸びるワイヤ41は、横方向に延びる挿通部73の隙間73aと直交もしくは略直交の関係にあることから、隙間73aを介して案内治具70の外側へ外れる恐れがない。
【0057】
鉄筋籠Tにおいて、仮固定治具60よりも上方の複数箇所に案内治具70が取り付けられ、各案内治具70にワイヤ41が挿通されつつ、錘体42の引き上げを案内することにより、錘体42を削孔の孔壁や鉄筋籠T等に干渉させることなく、所望する引き上げ速度にてスムーズに引き上げることが可能になる。さらに、削孔の孔壁が、鉛直方向ではなくて傾斜方向に延びている場合でも、鉄筋籠Tに対して所定ピッチで取り付けられている複数の案内治具70を介して錘体42を上方へ引き上げることにより、スムーズな引き上げを実現できる。
【0058】
尚、本発明者等による検証によれば、特に案内治具70の内部を錘体42が通過する際の引き上げ速度を、10mm/s乃至15mm/s程度に調整することによって、案内治具70の内部を錘体42が通過する際に、コンクリートを構成する骨材等で錘体42が案内治具70の内部を通過することが阻害され、通過不能になるといった事態が生じないことが確認されている。
【0059】
次に、図5を参照して、コントローラ50のハードウェア構成の一例を説明するとともに、図6を参照して、コントローラ50の機能構成の一例を説明する。図5に示すように、コントローラ50は、パーソナルコンピュータ(PC:Personal Computer)やPLC(Programmable Logic Controller)等の情報処理装置により構成される。
【0060】
コントローラ50を構成する情報処理装置は、接続バス56により相互に接続されているCPU(Central Processing Unit)51、主記憶装置52、補助記憶装置53、通信IF55、及び入出力IF(interface)55を備えている。主記憶装置52と補助記憶装置53は、コンピュータが読み取り可能な記録媒体である。尚、上記の構成要素はそれぞれ個別に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0061】
CPU51は、MPU(Microprocessor)やプロセッサとも呼ばれ、CPU51は、単一のプロセッサであってもよいし、マルチプロセッサであってもよい。CPU51は、コンピュータからなるコントローラ50の全体の制御を行う中央演算処理装置である。CPU51は、例えば、補助記憶装置53に記憶されたプログラムを主記憶装置52の作業領域にて実行可能に展開し、プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことにより、所定の目的に合致した機能を提供する。
【0062】
主記憶装置52は、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。主記憶装置52は、例えば、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置53は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納し、外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶装置53には、例えば、OS(Operating System)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。OSは、例えば、通信IF54を介して接続される外部装置等とのデータの受け渡しを行う通信インターフェースプログラムを含む。コントローラ50に対する外部装置等には、ロードセル15の他、第1サーボモータ25や第2サーボモータ35等が含まれる。
【0063】
補助記憶装置53は、例えば、主記憶装置52を補助する記憶領域として使用され、CPU51が実行するコンピュータプログラムや、CPU51が処理するデータ等を記憶する。補助記憶装置53は、不揮発性半導体メモリ(フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM))を含むシリコンディスク、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)装置、ソリッドステートドライブ装置等である。また、補助記憶装置53として、CDドライブ装置、DVDドライブ装置、BDドライブ装置といった着脱可能な記録媒体の駆動装置が例示され、着脱可能な記録媒体として、CD、DVD、BD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等が例示される。
【0064】
入出力IF55は、コントローラ50に接続する機器との間でデータの入出力を行うインターフェイスである。入出力IF55には、例えば、キーボード、タッチパネルやマウス等のポインティングデバイス、マイクロフォン等の入力デバイス等が接続する。コントローラ50は、入出力IF55を介して、入力デバイスを操作する操作者からの操作指示等を受け付けたり、ドラム22の外周22aの外径データや、ワイヤ41の引き上げ速度等の入力を受け付ける。
【0065】
また、入出力IF55には、例えば、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)や有機ELパネル(EL:Electroluminescence)等の表示デバイス、プリンタ、スピーカ等の出力デバイスが接続される。
【0066】
通信IF54は、コントローラ50が接続するネットワークとのインターフェイスである。通信IF54は、インターネット等の公衆ネットワーク、携帯電話網等の無線ネットワーク、VPN(Virtual Private Network)等の専用ネットワーク、LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、赤外線通信等、様々なネットワークを介して、ロードセル15からワイヤ41の引き上げの際にワイヤ41に作用する引き上げ力に関する測定データを受信し、同様にネットワークを介して、コントローラ50にて設定された第1サーボモータ25や第2サーボモータ35の回転速度に関する回転速度データを、第1サーボモータ25と第2サーボモータ35にそれぞれ送信する。ここで、コントローラ50と、ロードセル15や第1サーボモータ25、第2サーボモータ35は、無線通信に代わり、有線にて電気的に接続されてもよい。
【0067】
図6に示すように、コントローラ50は、CPU51によるプログラムの実行により、少なくとも、取得部102、回転速度演算部104、サーボモータ駆動部106、判定部108、特定部110、表示部112、及び記憶部114の各種機能を提供する。ここで、上記処理機能の少なくとも一部が、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)等によって提供されてもよく、同様に、上記処理機能の少なくとも一部が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、画像処理プロセッサ等の専用LSI(large scale integration)やその他のデジタル回路等であってもよい。
【0068】
取得部102では、ドラム22の外周22aの外径データや、ワイヤ41の引き上げ速度等に関する入力データを取得し、記憶部114に記憶(格納)する。また、ロードセル15から送信される、ワイヤ41の引き上げの際にワイヤ41に作用する引き上げ力に関する測定データを取得(受信)し、記憶部114に都度記憶する。
【0069】
回転速度演算部104は、記憶部114に記憶されているドラム22の外周22aの外径データとワイヤ径とワイヤ41の引き上げ速度とに基づき、この引き上げ速度にてワイヤ41を引き上げ可能な第1サーボモータ25の回転速度を演算する。さらに、この回転速度にて回転する第1サーボモータ25の回転によって回転するドラム22の外周22aに対して、ワイヤ41が隣り合うようにして巻き取られるようにドラム22が移動するための、第2サーボモータ35の回転速度を演算する。
【0070】
ここで、図7は、コントローラ50による制御フローの一例を示す図である。図7に示すように、運転設定として、ワイヤ引き上げ速度や錘体深度(仮固定治具60により仮固定される深度)、及び待機時間等が設定され、記憶部114に記憶される(ステップS10)。
【0071】
次に、上記運転設定に関する各種データに基づき、ドラム回転速度演算が実行される。ドラム22の回転速度の算定においては、負荷軸、Max_rpm、直径(ドラム径+ワイヤ径)、円周(1回転におけるワイヤ巻き取り長さ)、Max_mmに基づき、第1サーボモータ25に対する指令速度を演算する(ステップS12)。
【0072】
サーボモータ駆動部106(図6参照)は、指令速度データを第1サーボモータ25に送信し、指令速度データを受信した第1サーボモータ25はこの指令速度データに基づき回転し、ドラム回転を実行する(図7のステップS14)。
【0073】
表示部112(図6参照)では、ドラム22の回転に応じて引き上げられる、錘体42の深度を都度表示する(図7のステップS20)。
【0074】
また、回転速度演算部104は、ドラム22の回転と同時に、ドラム22の外周22aに対して、ワイヤ41が隣り合うようにして巻き取られるようにドラム22が移動するためのドラムピッチ移動量(設定ピッチ/1回転)を演算し、このドラムピッチ移動量を生じさせる第2サーボモータ35の回転速度を演算し、ドラム22の回転と同期するドラム22のピッチ移動を生じさせるべく、サーボモータ駆動部106にて第2サーボモータ35を駆動する(ステップS22)。
【0075】
判定部108(図6参照)は、ドラム22のピッチ移動により、ドラム22の全長移動(ドラム22が移動して、外周22aの全域にワイヤ層が形成されていること)の有無を判定(ステップ24)し、全長移動していないと判定した際は、ドラムのピッチ移動を継続する。
【0076】
一方、判定部108において、ドラム22が全長移動いている、すなわち、外周22aの全域に第1ワイヤ層が形成されていると判定した際は、第1ワイヤ層の上に第2ワイヤ層を形成するべく、ドラム端部における調整を実施し(ステップS26)、ドラム移動方向を反転するように、サーボモータ駆動部106は第2サーボモータ35を駆動する(ステップS28)。この際、第2ワイヤ層の直径は、ドラム径に対して第1ワイヤ層の厚みとワイヤ径が付加された長さとなることから、この長さが回転速度演算部104にて演算され、この演算結果に基づいて、第1サーボモータ25と第2サーボモータ35の回転速度を演算し直し、サーボモータ駆動部106は新たに演算された回転速度に基づいて第1サーボモータ25と第2サーボモータ35を駆動する。
【0077】
判定部108は、錘体42が設定深度に達したか否かを判定(ステップS16)し、設定深度に達していない場合は、上記するドラム22の回転と移動を継続して実施する。一方、錘体42が設定深度に達していると判定された際には、サーボモータ駆動部106にて第1サーボモータ25と第2サーボモータ35の駆動が停止され、ドラム回転が停止する(ステップS18)。
【0078】
ここで、ロードセル15から送信される測定データの適用に際しては、錘体42やワイヤ41の重量(安定液がある場合には有効重量)を差し引いた上で、上記判定が実行されるのが好ましい。
【0079】
さらに、図示を省略するが、コントローラ50には、シーケンサやサーボアンプ等が搭載され、第1サーボモータ25と第2サーボモータ35にはそれぞれに固有のエンコーダが装備され、各種機器が相互にデータ送受信可能に接続されることにより、コントローラ50による第1サーボモータ25及び第2サーボモータ35の同期制御(フィードバック制御を含む)が実行される。
【0080】
以下の図12に示すような、普通コンクリートと高強度コンクリートに関して、錘体42を吊り下げるワイヤ41を、数mm/s程度の低速にて引き上げた際にワイヤ41に作用する引き上げ力と、例えば150mm/s以上の高速にて引き上げた際にワイヤ41に作用する引き上げ力をそれぞれ横軸及び縦軸とする分布図が実験にて予め作成されており、この分布図データが記憶部114に格納されている。この分布図には、高強度コンクリートと普通コンクリートの間の切替りの判別ラインが設定されている。
【0081】
一方、施工現場では、削孔内に鉄筋籠Tを建込んだ後、削孔の所定位置まで下方コンクリートを打設し、下方コンクリートの上面の下方位置から上方コンクリートを打設する異種コンクリートの連続打設の過程で、削孔のかぶり領域において錘体42を吊り下げるワイヤ41を引き上げ、この引き上げの過程でワイヤ41に作用する引き上げ力をロードセル15にて測定し、測定結果を分布図に随時プロットしていく。
【0082】
特定部110は、分布図にプロットされている測定データに基づいて測定ラインを分布図に作成し、測定ラインが判別ラインと交差した際の錘体42の位置を、普通コンクリート(下方コンクリート)から高強度コンクリート(上方コンクリート)への切替り位置として特定する。
【0083】
尚、特定部110ではこの他にも、判別ラインを規定する式に対して随時測定される測定データを照合し(測定ラインを作図しない)、切替り位置を特定することもできる。
【0084】
切替り特定装置100によれば、下方コンクリートから上方コンクリートへ引き上げられる錘体42に接続されるワイヤ41を回転手段にて巻き取るドラム22を、ドラム22の回転中心軸X1に平行な方向へ移動手段37にて移動させながらワイヤ41を巻き取る構成において、回転手段25と移動手段37を同期制御してワイヤ41がドラム22の外周22aに隣り合うようにして巻き取られることにより、引き上げられる錘体42の位置を精度よく特定することができ、巻き取られるワイヤ41が相互に絡み合って引き上げ速度がばらつくことなく、所望の引き上げ速度にて安定的にワイヤ41を巻き取ることができる。
【0085】
さらに、ワイヤ41に作用する引き上げ力をロードセル15にて常時計測して、下方コンクリートから上方コンクリートへ引き上げられる前後のワイヤ41の引き上げ力の相違に基づいて切替りを特定することにより、上記する錘体42の位置の高精度な特定と相俟って、切替り位置を高い精度でリアルタイムに特定することが可能になり、切替り位置に関する定量的なエビデンスを取得することが可能になる。
【0086】
次に、図8乃至図12を参照して、異種コンクリートの切替り特定装置100を適用する、実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定方法の一例について説明する。ここで、図8A乃至図8Dは順に、実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定方法における、鉄筋籠建込み工程を説明する工程図である。また、図10A乃至図10Cは順に、実施形態に係る異種コンクリートの切替り特定方法における、切替り特定工程を説明する工程図である。
【0087】
この切替り特定方法は、場所打ちコンクリート杭を施工するに当たり、削孔B内に鉄筋籠Tを建込んだ後、普通コンクリートである下方コンクリートを所定高さまで打設し、次いで、その上面よりも下方位置から高強度コンクリートである上方コンクリートを打設する、異種コンクリートの連続打設において、下方コンクリートと上方コンクリートとの切替りを特定する切替り特定方法である。
【0088】
まず、図8Aに示すように、地盤Gに削孔Bを造成し、削孔Bの内部に安定液Lを満たして孔壁の崩落を防止する。ここで、図示を省略するが、削孔Bの造成は、地盤Gにおける削孔位置にケーシングを建て込み、削孔Bの内部に安定液Lを満たした状態で、アースドリル機により地盤Gの削孔を行うが、オールケーシング工法やリバース工法等、その他の工法にて掘削を行ってもよい。尚、図8A等には、削孔Bの頭部に設置されている、口元パイプの図示を省略している。
【0089】
安定液Lで満たされた削孔B内には、所定長さの鉄筋籠Tが順次継ぎ足されながら建込まれていく。図8Bに示すように、鉄筋籠TをY1方向に建込むに当たり、鉄筋籠Tの(切替りの測定を実施する下端深度に位置する補強リングT3)途中位置には、錘体42を仮固定する仮固定治具60が取り付けられた状態で建込みが行われる。仮固定される錘体42には、ワイヤ41の一端が接続されている。
【0090】
ここで、図示例は、比較的長さの短い削孔Bの内部に最初に建込まれる鉄筋籠Tの途中位置に、仮固定治具60が取り付けられている例を示しているが、削孔Bが長く、下方コンクリートと上方コンクリートの設計切替り位置がその中段から上方に設定されている場合は、当該設計切替り位置よりも下方に位置する鉄筋籠Tに対して錘体42を収容した仮固定治具60が取り付けられればよい。すなわち、最初の1つもしくは複数の鉄筋籠Tには仮固定治具60も案内治具70も取り付けられず、その後に継ぎ足される鉄筋籠Tに対して仮固定治具60や案内治具70が取り付けられて建込まれればよい。
【0091】
図8Bに示すように、鉄筋籠TをY1方向に建て込む過程で、仮固定治具60の上方には、最初の案内治具70を取り付ける。ここで、図示例は、鉄筋籠Tの建込みの際に、随時案内治具70を取り付ける方法として示しているが、鉄筋籠Tが建込まれる前に、鉄筋籠Tに対して予め案内治具70が取り付けられていてもよい。
【0092】
鉄筋籠Tに案内治具70を取り付け、さらに、図4を参照して既に説明したように、案内治具70の挿通部73を介して外側からワイヤ41を挿入して収容部74に収容する方法で、ワイヤ41を案内治具70の内部に差し込んでいく。
【0093】
図8Cに示すように、鉄筋籠TのY2方向への建込みに応じて、縦方向(図示例は鉛直方向)に複数の案内治具70を所定ピッチで鉄筋籠Tに取り付け、ワイヤ41を案内治具70の内部に差し込んだ後にさらに鉄筋籠Tの建込みを行うことにより、図8Dに示すように、削孔B内において、鉄筋籠Tの側方のかぶり領域Kに仮固定治具60と案内治具70が位置決めされた状態で鉄筋籠Tが建込まれる。
【0094】
ここで、図9を参照して、縦方向に間隔を置いて配設される、案内治具70間のピッチの設定方法について説明する。
【0095】
図9に示すように、ピッチh(mm)で複数の案内治具70が鉄筋籠Tに取り付けられる場合に、幅100mmのかぶり領域Kにおいて、案内治具70の収容部がその中間の50mmの位置にあるとし、削孔に角度1/200の傾斜部が存在し得ると過程し、その際に錘体42が削孔Bの孔壁から15mmの隙間を確保できるとしてピッチhを設定する。
【0096】
この設計方法によれば、条件を満足するピッチとして3000mm(3m)が算定されることから、例えば、各案内治具70の取り付けピッチを3mに設定できる。
【0097】
すなわち、この設定方法によれば、一般に適用される傾斜角1/200がある場合であっても、錘体42を削孔Bの孔壁に干渉させることなく、各案内治具70の収容部74を介して上方に引き上げることが可能になる。
【0098】
図8Dに示すように、鉄筋籠Tの建込みが完了した後、地上における削孔Bの側方には、ロードセル15やドラム22、移動手段37が取り付けられている架構11が設置され、ワイヤ41がドラム22に巻き取り自在に取り付けられ、削孔Bにおけるかぶり領域Kに位置決めされている仮固定治具60や案内治具70等とともに、切替り特定装置100が形成される(以上、鉄筋籠建込み工程)。尚、コンクリートの切替り位置は、円周方向で異なることが想定されるため、錘体42、仮固定治具60、案内治具70等とともに、切替り特定装置100を円周方向に数箇所設けることが望ましい。
【0099】
次に、図10Aに示すように、削孔B内に建込まれた鉄筋籠Tの内部に、地上からトレミー管Pを挿入し、トレミー管Pの先端から普通コンクリートである下方コンクリートC1をZ1方向に打設し、所定深度まで下方コンクリートC1を打設する。ここで、仮固定治具60に仮固定されている錘体42は、下方コンクリートC1の上面Caから1m乃至3m程度下方に位置している。
【0100】
このように、錘体42が下方コンクリートC1の上面Caから1m乃至3m程度下方に位置した段階で、弾性体64から錘体42が解放されて上方へ引き上げられる際の解放引き上げ力以上の引き上げ力にてワイヤ41を引っ張り、錘体42を仮固定治具60から解放して上方へ引き上げておき、下方コンクリートC1の上面Caから0.5m乃至1m程度下方に位置させておく。そして、下方コンクリートC1の打設を繰り返すごとに、錘体42を引き上げ、上面Caから0.5m乃至1m程度下方に位置決めしておく。
【0101】
次に、下方コンクリートC1の上面Caよりも下方にトレミー管Pの筒先を位置決めし、図10Bに示すように当該上面Caよりも下方から上方コンクリートC2をZ3方向に打設する。図示するように、下方コンクリートC1の中央近傍においてその上面Caの下方から上方コンクリートC2を打設すると、下方コンクリートC1は、削孔Bの中央領域に比べて、鉄筋籠Tの側方のかぶり領域Kが競り上がった状態となることから、この競り上がり量を加味して異種コンクリートの切替り位置の測定範囲を設定するのがよい。
【0102】
図10Bにおいて、レベルt1は、下方コンクリートC1の打ち終わりの際の上面Caの高さであり、レベルt2はレベルt1から0.5m乃至1m下方に位置決めされ(長さu1は0.5m乃至1m)、切替り位置の測定を開始する際の錘体42の開始レベルである。さらに、レベルt3は、レベルt2から1m乃至3m上方のレベルである(長さu2は1m乃至3m)。
【0103】
上記するように、上方コンクリートC2の打設後も、錘体42が上方コンクリートC2内に1m乃至3m埋もれた段階で錘体42を上方へ引き上げ、図10Cに示すように、上方コンクリートC2の上面のレベルt4から、長さu3が0.5m乃至1m下方のレベルt5まで引き上げる。この引き上げによる引き上げ力の測定は、生コンの投入に伴う振動やコンクリートの流動などの影響を受け得ることから、生コンの投入を一時停止して引き上げ力の測定を実施する方法や、生コン車の入れ替えタイミングで引き上げ力の測定を実施する方法が好ましい。
【0104】
ここで、錘体42を吊り下げるワイヤ41を引き上げる引き上げ速度は、以下で説明するように、実験の際に2段階の引き上げ速度で引き上げるのと同じ2段階の引き上げ速度にて引き上げるサイクルを繰り返し実行する。以下で説明する実験での引き上げ速度は、高強度コンクリートと普通コンクリートの双方に対して、1サイクルの引き上げ高さを10cmとし、そのうち、8cmの分割高さを150mm/s乃至175mm/sの高速にて引き上げ、残りの2cmの分割高さを5mm/sの低速にて引き上げる、2段階の引き上げ速度による連続引き上げを行う方法である。施工現場でも、同じ条件で錘体42を吊り下げるワイヤ41を、この1サイクルを繰り返し実行しながら引き上げることにより、実験にて特定されている分布図に対して、同条件で施工現場にてワイヤ41が引き上げられた際の引き上げ力に関する測定データをプロットすることができる。
【0105】
上方コンクリートC2の計画打設高さは予め設定されており、上記する下方コンクリートC1のかぶり領域Kにおける競り上がり量も予め特定されている場合は、上方コンクリートC2の打設が終了した段階で、その上面から0.5m乃至1m下方のレベルまで錘体42を引き上げ、この引き上げの過程でワイヤ41に作用する引き上げ力を常時測定し、コントローラ50の記憶部114に格納していく。
【0106】
記憶部114には、実際の施工で適用される上方コンクリート及び下方コンクリートとそれぞれ同種のコンクリートに対して、錘体42の引き上げ速度を2段階の引き上げ速度で変化させながら所定高さ引き上げ、それぞれの引き上げ速度で引き上げた際の引き上げ力を測定して測定データを収集し、それぞれの引き上げ速度の引き上げ力を縦軸及び横軸とする座標系に対して複数の測定データをプロットして分布図を作成する。
【0107】
図11は、高強度コンクリートと普通コンクリートの、高速引き上げ時と低速引き上げ時の際の引き上げ力を示す図であり、図12は、高速引き上げ時の引き上げ力と低速引き上げ時の引き上げ力を縦軸と横軸とする分布図の一例を示す図である。
【0108】
図11に示す例では、高強度コンクリートと普通コンクリートの双方に対して、上記するように、1サイクルの引き上げ高さを10cmとし、そのうち、8cmの分割高さを150mm/s乃至175mm/sの高速にて引き上げ、残りの2cmの分割高さを5mm/sの低速にて引き上げる、2段階の引き上げ速度による連続引き上げを実施し、それぞれのコンクリートにおける高速時と低速時の引き上げ力に関する測量データをグラフ化している。
【0109】
各分割高さ範囲ともに、最初の引き上げ範囲においては引き上げ力に大きな誤差があることから、この誤差範囲を除いた、引き上げ力が安定している高さ範囲の引き上げ力の平均値を、それぞれのコンクリートの高速時と低速時の引き上げ力とするのが望ましい。
【0110】
この引き上げ試験を複数回実行し、図12に示す分布図を作成するとともに、分布図に基づいて高強度コンクリートと普通コンクリートの切替りの判別ラインを設定し、コントローラ50の記憶部114に記憶しておく(判別ライン設定工程)。
【0111】
図10A乃至図10Cを参照して既に説明した方法にて錘体42を吊り下げるワイヤ41を引き上げ、その際にワイヤ41に作用する引き上げ力をロードセル15にて常時測定し、測定データを分布図にプロットしていく。このプロットに基づいて図12に示すような測定ラインQを引くことにより、判別ラインとの交点が特定される。
【0112】
ワイヤ41に接続されている錘体42を、下方コンクリートC1から異種の上方コンクリートC2へ引き上げる前後のワイヤ41の引き上げ力が相違することに着目し、コントローラ50の特定部110では、この交点を与える錘体42の位置を、かぶり領域Kにおいて下方コンクリートC1と上方コンクリートC2が完全に切り替わった切替り位置と特定する(切替り特定工程)。
【0113】
既に説明したように、かぶり領域Kは中央領域に比べて下方コンクリートC1が競り上がっていることから、このようにかぶり領域Kにて切替り位置を特定することにより、中央領域では当然に異種コンクリートの切替りが行われており、従って、場所打ちコンクリート杭の全域で異種コンクリートの切替りが確実に行われている切替り位置として特定することができる。
【0114】
図示する切替り特定方法によれば、ワイヤ41に作用する引き上げ力をロードセル15にて常時計測して、下方コンクリートC1から上方コンクリートC2へ引き上げられる前後のワイヤ41の引き上げ力の相違に基づいて切替りを特定することにより、錘体42の位置の高精度な特定と相俟って、切替り位置を高い精度でリアルタイムに特定することが可能になり、切替り位置に関する定量的なエビデンスを取得することが可能になる。
【0115】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0116】
11:架構
13:滑車
15:ロードセル
17:係止部
21:台座
21a:係合部
22:ドラム
23:ギヤ
22a:外周
25:回転手段(第1サーボモータ)
26:ピニオンギヤ
31:ボールネジ
32:ナット
33:カップリング
34:ボールネジ機構
35:第2サーボモータ
36:リニアベアリング
37:移動手段
41:ワイヤ
42:錘体(鉄球)
50:コントローラ
60:仮固定治具
61:固定片
61a:ボルト孔
62:張り出し棒
63:規制体(筒体)
64:弾性体(張り出し片、弾塑性体)
65:落下防止材
68:ボルト
70:案内治具
71:固定片
71a:ボルト孔
72:張り出し片
73:挿通部(環状棒)
73a:隙間
74:収容部(環状棒)
78:ボルト
100:異種コンクリートの切替り特定装置(切替り特定装置)
102:取得部
104:回転速度演算部
106:サーボモータ駆動部
108:判定部
110:特定部
112:表示部
114:記憶部
G:地盤
B:削孔
L:安定液
K:かぶり領域
T:鉄筋籠
T1:主筋
T2:帯筋
T3:補強リング
C1:下方コンクリート(普通コンクリート)
Ca:上面
C2:上方コンクリート(高強度コンクリート)
P:トレミー管
CS:ケーシング
X1:回転中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12