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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127219
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240912BHJP
【FI】
F16H57/04 N
F16H57/04 J
F16H57/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036223
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大島 卓也
(72)【発明者】
【氏名】服部 中庸
(72)【発明者】
【氏名】北川 黎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 琢志
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AB02
3J063AB13
3J063AC01
3J063AC03
3J063AC11
3J063BA11
3J063CA05
3J063CB13
3J063XD03
3J063XD17
3J063XD32
3J063XD47
3J063XD52
3J063XD62
3J063XD72
3J063XE18
3J063XF01
3J063XF14
(57)【要約】
【課題】より簡単な構造で、車輪が何れの方向に回転する場合においても、伝達機構の回転体の掻き上げによってキャッチタンクに油を導入することができる潤滑構造を備えた車両用駆動装置を実現する。
【解決手段】キャッチタンク7は、第1回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油の飛散元に向かって開口して第1回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油が導入される導入口77を備える。ケース9内には、第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油の飛散元、及び、導入口77の双方に対向するように配置され、第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油を跳ね返して導入口77に導く跳ね返し面81が設けられている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源と、
一対の車輪にそれぞれ駆動連結される一対の出力部材と、
前記駆動源と一対の前記出力部材との間で駆動力を伝達する伝達機構と、
前記伝達機構及び油を収容するケースと、
前記ケース内の油を一時的に貯留するキャッチタンクと、を備えた車両用駆動装置であって、
前記伝達機構は、
一対の前記出力部材と同軸上に配置されて前記駆動源からの駆動力が伝達される差動入力ギヤと、
前記差動入力ギヤに伝達された駆動力を一対の前記出力部材に分配する差動歯車機構と、を備え、
前記車輪が第1の側に回転している場合における前記差動入力ギヤの回転状態を第1回転状態とし、前記車輪が前記第1の側とは逆側である第2の側に回転している場合における前記差動入力ギヤの回転状態を第2回転状態とし、
前記キャッチタンクは、前記第1回転状態の前記差動入力ギヤから飛散する油の飛散元に向かって開口して前記第1回転状態の前記差動入力ギヤから飛散する油が導入される導入口を備え、
前記ケース内に、前記第2回転状態の前記差動入力ギヤから飛散する油の飛散元、及び、前記導入口の双方に対向するように配置され、前記第2回転状態の前記差動入力ギヤから飛散する油を跳ね返して前記導入口に導く跳ね返し面が設けられている、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記差動入力ギヤの回転軸心に沿う方向を前記差動入力ギヤの幅方向とし、前記幅方向の一方側を幅方向第1側とし、前記幅方向の他方側を幅方向第2側とし、前記回転軸心を周回する方向を周方向とし、前記第1回転状態の前記差動入力ギヤが回転する側を周方向第1側とし、前記第2回転状態の前記差動入力ギヤが回転する側を周方向第2側として、
前記差動入力ギヤは、前記幅方向第1側へ向かうに従って前記周方向第1側へ向かうように傾斜した歯面を有する斜歯歯車であり、
前記差動入力ギヤの歯面における前記幅方向の中央位置を歯幅中央位置として、
前記歯幅中央位置よりも前記幅方向第2側における前記導入口に対向する前記ケース内の領域が、前記跳ね返し面が設けられていない開放領域となっている、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記導入口及び前記跳ね返し面は、前記差動入力ギヤの回転軸心よりも鉛直方向の上側に配置され、
前記差動入力ギヤの前記回転軸心を周回する方向を周方向とし、前記回転軸心に直交する方向を径方向として、
前記導入口と前記跳ね返し面とは、前記周方向に離間して互いに対向するように配置されていると共に、前記径方向における配置領域が互いに重複するように配置され、
前記導入口の下端は、前記跳ね返し面の下端よりも前記鉛直方向の下側に配置されている、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記跳ね返し面は、前記幅方向第1側へ向かうに従って前記周方向第1側へ向かうように傾斜している、請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第1回転状態は、車両が前進する側に前記車輪が回転している場合の前記差動入力ギヤの回転状態である、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油を一時的に貯留するキャッチタンクを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動源と、一対の車輪にそれぞれ駆動連結される一対の出力部材と、駆動源と一対の出力部材との間で駆動力を伝達する伝達機構と、伝達機構及び油を収容するケースと、ケース内の油を一時的に貯留するキャッチタンクとを備えた車両用駆動装置が知られている。そして、このような車両用駆動装置における潤滑構造として、伝達機構に含まれ、車輪と共に回転する回転体により、ケース内に溜まった油を掻き上げて、キャッチタンクに一時的に油を貯留し、キャッチタンクから伝達機構のギヤや軸受等を潤滑する油を供給するものがある。但し、このような潤滑構造を有する車両用駆動装置には、車輪の回転方向が一方側の場合には、キャッチタンクに油が導入されるが、車輪の回転方向が他方側の場合には、キャッチタンクに油が導入できなかったり、導入されにくかったりするものもある。
【0003】
特開2007-224959号公報には、車輪が何れの方向に回転する場合においても伝達機構の回転体により掻き上げられた油をキャッチタンク(22)に導くことができる潤滑装置(20)が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。この文献によれば、車輪が第1の側に回転する場合に、第1の回転体(50)により掻き上げられた油がキャッチタンク(22)に向かって流れる第1の経路に、当該油の流れを許容し、逆流する油を阻止する揺動自在な第1の扉部材(202b)が備えられている。また、車輪が第1の側とは逆方向の第2の側に回転する場合には、第1の回転体(50)とは逆方向に回転する第2の回転体(61)により掻き上げられた油がキャッチタンク(22)に向かって流れる第2の経路に、当該油の流れを許容し、逆流する油を阻止する揺動自在な第2の扉部材(202a)が備えられている。これにより、潤滑装置(20)は、車輪が第1の側及び第2の側の何れの方向に回転しても、キャッチタンク(22)に油を導入できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-224959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献に開示された潤滑構造は、車輪の回転方向に拘わらず、伝達機構の回転体の掻き上げによってキャッチタンクに油を導入することができる。しかし、揺動する扉部材を複数設ける必要があるなど、構造が複雑化し、組み立ての簡素化の妨げとなったり、部材コストが上昇したりするおそれがある。
【0006】
そこで、より簡単な構造で、車輪が何れの方向に回転する場合においても、伝達機構の回転体の掻き上げによってキャッチタンクに油を導入することができる潤滑構造を備えた車両用駆動装置の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた車両用駆動装置は、駆動源と、一対の車輪にそれぞれ駆動連結される一対の出力部材と、前記駆動源と一対の前記出力部材との間で駆動力を伝達する伝達機構と、前記伝達機構及び油を収容するケースと、前記ケース内の油を一時的に貯留するキャッチタンクと、を備えた車両用駆動装置であって、前記伝達機構は、一対の前記出力部材と同軸上に配置されて前記駆動源からの駆動力が伝達される差動入力ギヤと、前記差動入力ギヤに伝達された駆動力を一対の前記出力部材に分配する差動歯車機構と、を備え、前記車輪が第1の側に回転している場合における前記差動入力ギヤの回転状態を第1回転状態とし、前記車輪が前記第1の側とは逆側である第2の側に回転している場合における前記差動入力ギヤの回転状態を第2回転状態とし、前記キャッチタンクは、前記第1回転状態の前記差動入力ギヤから飛散する油の飛散元に向かって開口して前記第1回転状態の前記差動入力ギヤから飛散する油が導入される導入口を備え、前記ケース内に、前記第2回転状態の前記差動入力ギヤから飛散する油の飛散元、及び、前記導入口の双方に対向するように配置され、前記第2回転状態の前記差動入力ギヤから飛散する油を跳ね返して前記導入口に導く跳ね返し面が設けられている。
【0008】
本構成によれば、差動入力ギヤが何れの側に回転している場合であっても、当該差動入力ギヤにより掻き上げられたケース内の油をキャッチタンクの導入口に導くことができる。従って、車両が前進している状態と後進している状態との双方で、キャッチタンクに貯留された油を用いて潤滑対象の各部の潤滑を適切に行うことができる。また、本構成によれば、第2回転状態の差動入力ギヤから飛散する油の飛散元、及び、導入口の双方に対向するように配置された跳ね返し面を設けるという比較的簡素な構成により、第2回転状態の差動入力ギヤにより掻き上げられた油をキャッチタンクの導入口に導き、キャッチタンクへの油の導入を適切に行うことが可能である。従って、第2回転状態におけるキャッチタンクへの油の導入のために、キャッチタンクや当該キャッチタンクへ油を導くための油路等の位置や形状の制約が大きくなることを回避できる。即ち、本構成によれば、簡単な構造で、車輪が何れの方向に回転する場合においても、伝達機構の回転体の掻き上げによってキャッチタンクに油を導入することができる潤滑構造を備えた車両用駆動装置を実現することができる。
【0009】
車両用駆動装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】キャッチタンクへの油の導入例を軸方向第1側からの軸方向視の平面図で示す説明図
図2】車両用駆動装置の一例を示すスケルトン図
図3】キャッチタンクと差動入力ギヤとの関係を示す径方向視の模式的断面図
図4】差動入力ギヤからキャッチタンクへの油の飛散方向を模式的に示す説明図
図5】キャッチタンクの導入口と跳ね返し面との位置関係を模式的に示す説明図
図6】差動入力ギヤが第1回転状態の場合の油の飛散方向を示す軸方向第2側からの斜視図
図7】差動入力ギヤが第2回転状態の場合の油の飛散方向を示す軸方向第2側からの斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両用駆動装置の実施形態を図面に基づいて説明する。本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。尚、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、遊星歯車機構の各回転要素について「駆動連結」という場合には、遊星歯車機構における複数の回転要素が、互いに他の回転要素を介することなく連結されている状態を指すものとする。
【0012】
また、2つの要素の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線と直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの要素の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを指す。また、2つの要素の配置に関して、「特定方向の配置領域が重複する」とは、一方の要素の特定方向の配置領域内に、他方の要素の特定方向の配置領域の少なくとも一部が含まれることを意味する。
【0013】
以下の説明では、図1及び図2に示すように、車両用駆動装置100を構成する回転部材が配置される回転軸として、互いに平行な別軸である第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3を例示する。そして、第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3に平行な方向を、車両用駆動装置100の「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側を「軸方向第2側L2」と称する。
【0014】
また、回転部材がそれぞれの回転軸心を周回する方向を「周方向C」とし(図5参照)、周方向Cの一方側を「周方向第1側C1」、他方側を「周方向第2側C2」とする(図1等参照)。また、第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向R」とする(図1図5等参照)。そして、径方向Rにおいて軸に近い側を「径方向内側」、軸から遠い側を「径方向外側」と称する。尚、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合や、どの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。
【0015】
また、図1に示すように、車両搭載状態において、鉛直方向に沿う方向を上下方向Vとして、上下方向Vに沿って上方を上側V1、下方を下側V2と称する。本実施形態では、車両搭載状態において、軸方向Lは水平方向に沿い、軸方向Lと上下方向Vとは直交しているものとする。
【0016】
図1に示すように、車両用駆動装置100は、後述する伝達機構30に含まれる差動入力ギヤG2により掻き上げられるケース9内の油を一時的に貯留するキャッチタンク7を備えている。詳細は後述するが、本実施形態の車両用駆動装置100は、差動入力ギヤG2が周方向第1側C1に回転する第1回転状態であっても、差動入力ギヤG2が周方向第2側C2に回転する第2回転状態であっても、差動入力ギヤG2の掻き上げによってキャッチタンク7に適切に油を導入できるように構成されている。
【0017】
図2に示すように、車両用駆動装置100は、車輪Wの駆動源としての回転電機1と、一対の車輪Wにそれぞれ駆動連結される一対の出力部材4と、回転電機1と一対の出力部材4との間で駆動力を伝達する伝達機構30とを備えている。回転電機1及び伝達機構30は、ケース9に収容されている。回転電機1と一対の出力部材4とは、互いに平行な2つの軸(第1軸A1及び第2軸A2)に分かれて配置されている。回転電機1は、第1軸A1上に配置されている。回転電機1のロータ11には、ロータ11と一体的に回転する入力軸13が連結されている。入力軸13は、ロータ11に連結されたロータ軸であっても良いし、ロータ軸に連結されてロータ軸と一体的に回転する別部材であってもよい。また、入力軸13には入力軸13と一体的に回転する入力ギヤG1が連結されている。入力ギヤG1は、入力軸13と同一部材により一体的に形成されていてもよいし、入力軸13とは別部材により形成されて入力軸13に固定されていてもよい。以上説明したように、第1軸A1には、回転電機1のロータ11、入力軸13、入力ギヤG1が配置されている。
【0018】
ケース9の内部には、回転電機1が収容される回転電機収容室と、伝達機構30が収容される伝達機構収容室とが、少なくとも形成されている。図1は、伝達機構収容室の一部を示しているということができる。図2図3に示すように、ケース9は、少なくとも第1ケース部91と第2ケース部92とを備えている。回転電機収容室は概ね第1ケース部91の内部に形成され、伝達機構収容室は概ね第2ケース部92の内部に形成されている。図1は、第1ケース部91の側(軸方向第2側L2)から、第2ケース部92の内部を見た軸方向視の平面図である。
【0019】
また、ケース9は、回転電機1や伝達機構30を潤滑(冷却を含む)する油も収容している。油は、重力によってケース9の下側V2のいわゆる油溜まりに貯留される。油溜まりは、伝達機構収容室の下側V2に配置されている。油溜まりには、伝達機構30が回転しており、油がケース9内を循環している状況においても、少なくとも差動入力ギヤG2の歯面が浸かる量の油が貯留される。つまり、油がケース9内を循環している状況の動的油面が、差動入力ギヤG2の歯面の最も下側V2の端部よりも上側V1となるようにケース9内に油が収容されている。
【0020】
伝達機構30は、一対の出力部材4と同軸上(第2軸A2上)に配置されて回転電機1からの駆動力が伝達される差動入力ギヤG2と、差動入力ギヤG2に伝達された駆動力を一対の出力部材4に分配する差動歯車機構2(分配用差動歯車機構)とを少なくとも備えている。差動歯車機構2は、差動ケース(符号無し)に収容されており、差動入力ギヤG2、差動ケース、差動歯車機構2により、差動歯車装置が構成されている。本実施形態では、差動歯車機構2の一対のサイドギヤ(符号無し)が出力部材4に相当する。サイドギヤを含む差動歯車機構2及び差動歯車装置は、伝達機構30に含まれ、サイドギヤは、出力部材4に相当すると共に伝達機構30に相当するということもできる。
【0021】
また、本実施形態では、伝達機構30は、差動歯車装置(即ち、差動入力ギヤG2、差動ケース、差動歯車機構2)の他、第1軸A1上に配置された入力ギヤG1、及び、第1軸A1及び第2軸A2に平行な別軸である第3軸A3上に配置されたカウンタギヤ機構3を備えている。カウンタギヤ機構3は相対的に大径の第1カウンタギヤG31と、小径の第2カウンタギヤG32とを備えている。第1カウンタギヤG31及び第2カウンタギヤG32は、カウンタ軸(符号無し)に連結されて一体的に回転する。第1カウンタギヤG31は第1軸A1に配置された入力ギヤG1と噛み合い、第2カウンタギヤG32は第2軸A2に配置された差動入力ギヤG2と噛み合う。カウンタギヤ機構3を介して、入力軸13からの動力が減速されて差動入力ギヤG2に伝達される。
【0022】
車輪Wの駆動源として機能する回転電機1は、ステータ12及びロータ11を備えている。回転電機1は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。具体的には、回転電機1は、バッテリやキャパシタ等の不図示の蓄電装置と電気的に接続されている。回転電機1は、蓄電装置に蓄えられた電力により力行して駆動力を発生する。また、回転電機1は、車輪Wの側から伝達される駆動力により発電を行って蓄電装置を充電する。
【0023】
上述したように、差動入力ギヤG2は、第2カウンタギヤG32に噛み合っている。差動歯車機構2は傘歯車を用いた公知の機構であるので詳細な構造については図示を省略するが、差動歯車装置は、差動入力ギヤG2と、差動入力ギヤG2に連結されて一体的に回転する差動ケースと、差動ケースに内包された差動歯車機構2とを備えている。差動歯車機構2は、一対の差動ピニオンギヤと、一対のサイドギヤとを備えている。ここでは、一対の差動ピニオンギヤ、並びに一対のサイドギヤは、何れも傘歯車である。差動ケースは、一対の差動ピニオンギヤ、並びに一対のサイドギヤを収容する中空の部材である。差動ケースは、差動入力ギヤG2と一体的に回転するように連結され、ケース9に対して回転自在に支持されている。
【0024】
一対の差動ピニオンギヤは、第2軸A2を基準とした径方向Rに間隔を空けて、互いに対向するように配置されている。そして、一対の差動ピニオンギヤは、差動ケースと一体的に回転するように支持された差動ピニオンシャフトに取り付けられている。一対の差動ピニオンギヤのそれぞれは、差動ピニオンシャフトを中心として自転可能、かつ、第2軸A2を中心として公転可能に構成されている。サイドギヤは、一対の差動ピニオンギヤに噛み合っている。一対のサイドギヤは、第2軸A2を回転軸心として回転するように配置されている。一対のサイドギヤの内の第1のサイドギヤは、差動ピニオンシャフトに対して軸方向第1側L1に配置され、第2のサイドギヤは、差動ピニオンシャフトに対して軸方向第2側L2に配置されている。
【0025】
一対のサイドギヤは、一対のドライブシャフトDSに連結されている。第1のサイドギヤは、一対のドライブシャフトDSの内の第1のドライブシャフトに連結され、第2のサイドギヤは他方の第2のドライブシャフトに連結されている。上述したように、本実施形態では、サイドギヤが出力部材4に相当するが、ドライブシャフトDSを出力部材4と考えることもできる。また、サイドギヤとドライブシャフトDSとの連結部、例えばスプライン係合部も出力部材4と考えることができる。
【0026】
このような車両用駆動装置100においては、回転電機1のステータ12に備えられたステータコイル14、伝達機構30を構成するギヤの噛み合い部、並びに回転電機1のロータ11や伝達機構30などの回転部材を回転自在に支持する軸受が、油によって潤滑(冷却を含む)される。本実施形態では、ケース9の下側V2に形成された油溜まりに溜まった油が差動入力ギヤG2によって掻き上げられてギヤの噛み合い部や軸受等の潤滑対象箇所に供給される。油は、掻き上げに伴う飛散によって直接的に潤滑対象箇所に供給されたり、後述するキャッチタンク7及びキャッチタンク7に連通する不図示の供給油路を介して供給されたりする。尚、不図示のオイルポンプ等により油溜まりに溜まった油が吸引吐出されて回転電機1のステータコイル14の冷却や、軸受等の潤滑に用いられてもよい。
【0027】
潤滑対象箇所は、差動入力ギヤG2により掻き上げられる油が飛散する方向にのみ存在する訳ではない。従って、潤滑対象箇所には、差動入力ギヤG2によって掻き上げられた油がさらに供給油路を通って供給されるものもある。供給油路を通って油を適切に潤滑対象箇所に導くためには、掻き上げられた油を一時的に貯留することが好ましい。このため、本実施形態の車両用駆動装置100は、ケース9内の油を一時的に貯留するオイル貯留室としてのキャッチタンク7を備えている。
【0028】
図2及び図3に示すように、ケース9は、少なくとも相対的に軸方向第2側L2に配置された第1ケース部91と、軸方向第1側L1に配置された第2ケース部92とを備えて構成されている。第1ケース部91は、少なくとも軸方向第1側L1の一部が開放された有底筒状、或いは筒状に形成されており、第2ケース部92は、少なくとも軸方向第2側L2の一部が開放された有底筒状、或いは筒状に形成されている。第1ケース部91と第2ケース部92とは、第1ケース部91の軸方向第1側L1の端面と、第2ケース部92の軸方向第2側L2の端面とが当接することによって、収容空間を有するケース9を形成する。
【0029】
第1ケース部91の内壁からは軸方向第1側L1に突出するように第1底部材71が形成されており、第2ケース部92の内壁からは軸方向第2側L2に突出するように第2底部材72が形成されている。第1ケース部91の軸方向第1側L1の端面と、第2ケース部92の軸方向第2側L2の端面とが当接してケース9が形成される際には、第1底部材71の軸方向第1側L1の端部と、第2底部材72の軸方向第2側L2の端部とも当接する。これにより、図3に示すように、第1ケース部91の内壁と、第2ケース部92の内壁と、第1底部材71と、第2底部材72とに囲まれた空間に、キャッチタンク7が形成される。尚、第1底部材71と第2底部材72とを合わせて、キャッチタンク7の底部70と称する。
【0030】
第1底部材71及び第2底部材72は、第1ケース部91及び第2ケース部92と一体的に形成されていてよいし、別部材によって形成されて第1ケース部91及び第2ケース部92に固定されていてもよい。第1底部材71及び第2底部材72が第1ケース部91及び第2ケース部92とは別部材の場合、第1底部材71及び第2底部材72は、第1ケース部91及び第2ケース部92と同じ材質(例えば金属)により形成されていてもよいし、異なる材質(例えば樹脂)により形成されていてもよい。
【0031】
上述したように、本実施形態の車両用駆動装置100は、差動入力ギヤG2が周方向第1側C1に回転する第1回転状態であっても、差動入力ギヤG2が周方向第2側C2に回転する第2回転状態であっても、差動入力ギヤG2の掻き上げによって導入口77からキャッチタンク7に適切に油を導入できるように構成されている。ここで、第1回転状態とは、車輪Wが第1の側に回転している場合における差動入力ギヤG2の回転状態をいい、第2回転状態とは、車輪Wが第1の側とは逆側である第2の側に回転している場合における差動入力ギヤG2の回転状態をいう。
【0032】
詳細は後述するが、図1及び図6に示すように、差動入力ギヤG2が周方向第1側C1に回転する第1回転状態では、差動入力ギヤG2から飛散する油が第1経路K1に沿って直接的にキャッチタンク7に導入される。図7に示すように、差動入力ギヤG2が周方向第2側C2に回転する第2回転状態では、跳ね返し面81によって跳ね返った油が間接的にキャッチタンク7に導入される。つまり、第2回転状態では、差動入力ギヤG2が掻き上げた油が第2経路K2に沿って飛散し、跳ね返し面81によって跳ね返った油が第3経路K3に沿って飛散して間接的にキャッチタンク7に導入される。尚、好適には、第1回転状態は、車両が前進する側に車輪Wが回転している場合の差動入力ギヤG2の回転状態である。
【0033】
差動入力ギヤG2から飛散する油が直接的に導入口77からキャッチタンク7に導入される第1回転状態の方が、跳ね返し面81により跳ね返された油が導入口77からキャッチタンク7に導入される第2回転状態に比べて、油の導入量が多くなり易い。また、通常の車両は、前進している期間の方が後進している期間よりも長い。車両が前進している状態が第1回転状態であると、キャッチタンク7に導入される油の量が多い期間が長くなり、キャッチタンク7に導入される油の量を多く確保し易い。
【0034】
当然ながら、跳ね返し面81によって跳ね返った油が間接的にキャッチタンク7に導入されても充分な油の量をキャッチタンク7に貯留できる場合がある。このような場合などでは、車両が後進する側に車輪Wが回転している場合の差動入力ギヤG2の回転状態が、第1回転状態であることを妨げるものではない。
【0035】
図1図3図6等に示すように、キャッチタンク7は、第1回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油の飛散元に向かって開口して第1回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油が導入される導入口77を備えている。導入口77は、底部70の端部とケース9の内壁との間、本実施形態では、底部70の端部に対して上下方向Vの上側V1に配置されている。
【0036】
差動入力ギヤG2は、第1回転状態では周方向第1側C1に回転し、第2回転状態では周方向第2側C2に回転する。差動入力ギヤG2が周方向第1側C1に回転する場合、差動入力ギヤG2によって掻き上げられる油は、図1に示すように、差動入力ギヤG2の上端部から当該上端部における接線方向に沿って飛散する。そして、図1及び図6に示すように、第1経路K1を通って導入口77からキャッチタンク7に導入される。従って、「第1回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油の飛散元」は、概ね、差動入力ギヤG2の上端部の歯部に相当する。この歯部は、上下方向視或いは径方向視で、キャッチタンク7の底部70と重複しない位置の歯部である。
【0037】
また、本実施形態の車両用駆動装置100には、第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油を跳ね返すための反射板8が備えられている。この反射板8は、ケース9と一体的に形成されていても良いし、ケース9とは別部材により形成されてケース9に固定されていてもよい。反射板8がケース9とは別部材により形成される場合には、例えば樹脂等によって反射板8が形成されていてもよい。また、反射板8は、ケース9の側方の内壁に形成、或いは固定されていても良いし、ケース9の天井側の内壁に形成、或いは固定されていてもよい。この反射板8において、油が衝突し、油を跳ね返す面を跳ね返し面81と称する。
【0038】
跳ね返し面81は、第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油の飛散元、及び、導入口77の双方に対向するように配置され、第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油を跳ね返して導入口77に導く。図7に示すように、差動入力ギヤG2が周方向第2側C2に回転する場合、差動入力ギヤG2によって掻き上げられる油は、周方向第2側C2に回転する差動入力ギヤG2の上端部へ向かう歯部から当該歯部の接線方向に向かって第2経路K2に沿って飛散する。そして、反射板8の跳ね返し面81で跳ね返った油は第2経路K2とは逆方向を向く第3経路K3に沿って導入口77からキャッチタンク7に導入される。従って、「第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油の飛散元」は、概ね、差動入力ギヤG2の上端部よりも下方の歯部に相当する。この歯部は、上下方向視或いは径方向視で、キャッチタンク7の底部70と重複する位置の歯部である。
【0039】
第2回転状態の差動入力ギヤG2により掻き上げられた油は、第2経路K2及び第3経路K3を通ってキャッチタンク7に導入される。第2経路K2における油の飛散元は歯部であり、油の飛散先は跳ね返し面81である。また、第3経路K3における油の飛散元は跳ね返し面81であり、飛散先は導入口77を経たキャッチタンク7である。従って、跳ね返し面81は、第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油の飛散元、及び、導入口77の双方に対向するように配置されている。
【0040】
尚、ここでは、板状の反射板8の一方側の面が跳ね返し面81である形態を例示しているが、跳ね返し面81は、当該「面」を有していればよい。従って、跳ね返し面81は、反射板8のような板状部材に形成されている必要はない。例えばケース9を構成する部材から曲面や屈曲面を有して突出する部位の内の少なくとも一部が平面状に形成されて、当該平面状の一部の部位が跳ね返し面81として機能する形態であってもよい。また、曲面や屈曲面を有してケース9に固定される別部材の少なくとも一部が平面状に形成されて、当該平面状の一部の部位が跳ね返し面81として機能する形態であってもよい。
【0041】
このような構成により、差動入力ギヤG2が何れの側に回転している場合であっても、差動入力ギヤG2により掻き上げられたケース9内の油をキャッチタンク7の導入口77に導くことができる。従って、車両が前進している状態と後進している状態との双方で、キャッチタンク7に貯留された油を用いて潤滑対象の各部の潤滑を適切に行うことができる。
【0042】
また、詳細は後述するが、第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散する油の飛散元、及び、導入口77の双方に対向するように配置された跳ね返し面81を設けるという比較的簡素な構成により、第2回転状態の差動入力ギヤG2により掻き上げられた油をキャッチタンク7の導入口77に導き、キャッチタンク7への油の導入を適切に行うことが可能である。従って、第2回転状態におけるキャッチタンク7への油の導入のために、キャッチタンク7や当該キャッチタンク7へ油を導くための油路等の位置や形状の制約が大きくなることも回避できる。
【0043】
ここで、図4に示すように、差動入力ギヤG2の回転軸心である第2軸A2に沿う方向を差動入力ギヤG2の幅方向Hとする。この幅方向Hは、軸方向Lに平行な方向であり、幅方向Hと軸方向Lとは同義である。以下の説明では、幅方向Hの一方側を幅方向第1側H1、幅方向Hの他方側を幅方向第2側H2と称することがあるが、幅方向第1側H1は軸方向第1側L1と同義であり、幅方向第2側H2は軸方向第2側L2と同義である。また、上述したように、回転軸心である第2軸A2を周回する方向は周方向Cであり、第1回転状態の差動入力ギヤG2が回転する側は周方向第1側C1であり、第2回転状態の差動入力ギヤG2が回転する側は周方向第2側C2である。
【0044】
図4に示すように、本実施形態では、差動入力ギヤG2は、幅方向第1側H1へ向かうに従って周方向第1側C1へ向かうように傾斜した歯面を有する斜歯歯車である。そして、差動入力ギヤG2の歯面における幅方向Hの中央位置を歯幅中央位置Aとして、歯幅中央位置Aよりも幅方向第2側H2における導入口77に対向するケース9内の領域が、跳ね返し面81が設けられていない開放領域となっている。即ち、跳ね返し面81は、歯幅中央位置Aよりも幅方向第1側H1に配置され、歯幅中央位置Aよりも幅方向第2側H2には配置されていない。
【0045】
差動入力ギヤG2が斜歯歯車であると、差動入力ギヤG2によって掻き上げられた油が飛散する方向が、回転方向に対して幅方向Hに偏位する。回転方向が周方向第1側C1である第1回転状態では、幅方向第1側H1へ向かうに従って周方向第1側C1へ向かうように傾斜した歯面から飛散する油は、幅方向第2側H2に変位する。そして、跳ね返し面81が設けられていない開放領域は、歯幅中央位置Aよりも幅方向第2側H2に位置している。即ち、油の飛散方向が偏位する方向(第1経路K1)と跳ね返し面81が設けられている領域とが幅方向Hにおいてずれているため、第1回転状態におけるキャッチタンク7への油の導入が跳ね返し面81によって妨げられにくい。従って、第1回転状態におけるキャッチタンク7への油の導入量を多く確保し易い。
【0046】
一方、跳ね返し面81は、歯幅中央位置Aよりも幅方向第1側H1における導入口77に対向する領域に設けられている。幅方向第1側H1へ向かうに従って周方向第1側C1へ向かうように傾斜した歯面は、幅方向第2側H2へ向かうに従って周方向第2側C2へ向かうように傾斜した歯面ということができる。そして、回転方向が周方向第2側C2である第2回転状態では、幅方向第2側H2へ向かうに従って周方向第2側C2へ向かうように傾斜した歯面から飛散する油は、幅方向第1側H1に変位する。上述したように、開放領域は、歯幅中央位置Aよりも幅方向第2側H2に位置しており、跳ね返し面81は、歯幅中央位置Aよりも幅方向第1側H1に配置されている。従って、第2回転状態において差動入力ギヤG2から飛散する油を跳ね返し面81で受け易く、跳ね返し面81を経て第2回転状態におけるキャッチタンク7への油の導入量を多く確保し易い。
【0047】
尚、図4から図6に示すように、導入口77は、幅方向Hにおける配置領域が跳ね返し面81の配置領域と重複する領域にも配置されている。また、図3及び図4に示すように、導入口77の幅方向Hの配置領域は、差動入力ギヤG2の幅方向Hの配置領域の全域と重複している。しかし、この構成に限らず、導入口77は、歯幅中央位置Aよりも幅方向第2側H2にのみ配置され、歯幅中央位置Aよりも幅方向第1側H1には配置されていない構成であってもよい。
【0048】
図1図5等に示すように、導入口77及び跳ね返し面81は、差動入力ギヤG2の回転軸心である第2軸A2よりも鉛直方向(上下方向V)の上側V1に配置されている。また、図5に示すように、導入口77と跳ね返し面81とは、周方向Cに離間して互いに対向するように配置されていると共に、径方向Rにおける配置領域が互いに重複するように配置されている。「径方向Rにおける配置領域が互いに重複する」とは、径方向Rの内、導入口77又は跳ね返し面81が位置する径方向Rに直交する方向(接線方向T)に沿う方向視で、導入口77と跳ね返し面81とが重複する状態である。また、導入口77の下端は、跳ね返し面81の下端よりも鉛直方向の下側V2に配置されている。
【0049】
導入口77と跳ね返し面81とがこのような位置関係で配置されている場合、第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散して跳ね返し面81に当たった油は、重力の影響も受けて斜め下側に向かって跳ね返され易い。導入口77の下端が跳ね返し面81の下端よりも鉛直方向の下側V2に配置されていることで、跳ね返し面81により跳ね返された油の内、導入口77を通ってキャッチタンク7に導入される割合を多く確保し易い。従って、第2回転状態におけるキャッチタンク7への油の導入量を多く確保し易い。
【0050】
尚、導入口77の下端が、跳ね返し面81の下端よりも鉛直方向の上側V1に配置されていても、跳ね返し面81で跳ね返った油の少なくとも一部はキャッチタンク7に導入される。跳ね返し面81に付着して下側V2に垂れる油はキャッチタンク7に導入できなくなるが、掻き上げられる油の量が充分多い場合には、充分な量な油をキャッチタンク7に導入することができる。従って、導入口77の下端が、跳ね返し面81の下端よりも鉛直方向の上側V1に配置される形態を妨げるものではない。
【0051】
また、跳ね返し面81は、幅方向第1側H1へ向かうに従って周方向第1側C1へ向かうように傾斜している。
【0052】
上述したように、差動入力ギヤG2が斜歯歯車であると、差動入力ギヤG2によって掻き上げられた油が飛散する方向が、回転方向に対して幅方向Hに偏位する。第2回転状態では、差動入力ギヤG2の歯面から飛散する油は、幅方向第1側H1に変位する。跳ね返し面81が、幅方向第1側H1へ向かうに従って第2回転状態における回転方向とは逆方向の周方向第1側C1へ向かうように傾斜していると、油の飛散方向に対して垂直に近い深い角度で、跳ね返し面81に油が当たる。従って、導入口77に対向するように配置された跳ね返し面81により、導入口77に向かって適切に油を跳ね返すことができる。つまり、第2回転状態の差動入力ギヤG2から飛散した油の内、跳ね返し面81に当たって開放領域の側に跳ね返される量を多く確保し易い。従って、第2回転状態においても効率的に油を導入口77に導き、キャッチタンク7への油の導入量を多く確保し易い。
【0053】
尚、本実施形態では、3軸構成の車両用駆動装置100を例示している。車両用駆動装置100がこのような構成の場合、第1回転状態では差動入力ギヤG2によって油を掻き上げ、第2回転状態ではカウンタギヤ機構3のギヤ、例えば第1カウンタギヤG31によって油を掻き上げることによって、何れの回転方向においてもキャッチタンク7に油が導入されるように構成できる場合がある。しかし、この場合には、カウンタギヤ機構3も油溜まりに浸かるように配置する必要があり、伝達機構30の攪拌低項が増大して、動力損失が増大する可能性がある。また、カウンタギヤ機構3の配置も制限され、車両用駆動装置100における軸の配置の自由度が低下する。その結果、車両用駆動装置100の小型化が妨げられる可能性がある。これに対して、上述したような本実施形態の車両用駆動装置100では、車輪Wが何れの方向に回転する場合であっても、同一の差動入力ギヤG2により掻き上げられた油をキャッチタンク7に導入することができる。
【0054】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0055】
(1)上記においては、第1軸A1に駆動源としての回転電機1及び入力ギヤG1が配置され、第2軸A2に差動入力ギヤG2、差動歯車機構2、出力部材4が配置され、第3軸A3に第1軸A1と第2軸A2との間で動力を伝達するカウンタギヤ機構3が配置される3軸構成の車両用駆動装置100を例示した。つまり、伝達機構30として入力ギヤG1、カウンタギヤ機構3、差動入力ギヤG2、差動歯車機構2を含む構成を例示した。しかし、車両用駆動装置100は、この構成に限らず、回転電機1と入力ギヤG1との間に、遊星歯車機構を第1軸A1上に備え、カウンタギヤ機構3を設けずに、入力ギヤG1と差動入力ギヤG2とが噛み合う2軸構成の車両用駆動装置100であってもよい。また、回転電機1と、遊星歯車機構と、差動入力ギヤG2と、差動歯車機構2と、出力部材4とが同軸上に配置された1軸構成の車両用駆動装置100であってもよい。
【0056】
(2)上記においては、図1を参照して上述したように、差動入力ギヤG2の上端の歯面が第1回転状態における油の飛散元である形態を例示した。しかし、上端に限らず、上端よりも周方向第1側C1の歯面や、上端よりも周方向第2側C2の歯面であってもよい。
【0057】
(3)上記においては、駆動源が回転電機1である形態を例示した。しかし、駆動源は、回転電機1に限らず、内燃機関であってもよい。また、回転電機1及び内燃機関であってもよい。
【0058】
(4)上記においては、差動入力ギヤG2が斜歯歯車であり、歯幅中央位置Aよりも幅方向第2側H2に開放領域が位置する形態を例示した。しかし、差動入力ギヤG2が斜歯歯車ではなく、平歯車である形態を妨げるものではない。掻き上げられた油が幅方向Hに偏位せず、一部が跳ね返し面81の裏面側に当たるようなことが生じても、飛散量が充分であれば、キャッチタンク7に充分に油を導入できる場合がある。同様に、開放領域についても、歯幅中央位置Aよりも幅方向第2側H2における全域ではなく、一部であってもよい。つまり、歯幅中央位置Aよりも幅方向第2側H2に、跳ね返し面81の一部が配置されていることを妨げるものではない。
【0059】
(5)上記においては、跳ね返し面81が、幅方向第1側H1へ向かうに従って周方向第1側C1へ向かうように傾斜している形態を例示した。しかし、油は粘性を有するため、跳ね返し面81における跳ね返りの方向は、油の全ての粒子がいわゆる全反射の方向となる訳ではなく、少なくとも一部は乱反射により様々な方向となる。従って、跳ね返し面81が上記のように傾斜した形態ではなく、幅方向Hに沿って配置される形態を妨げるものではない。
【符号の説明】
【0060】
1:回転電機(駆動源)、2:差動歯車機構、4:出力部材、7:キャッチタンク、9:ケース、30:伝達機構、77:導入口、81:跳ね返し面、100:車両用駆動装置、A:歯幅中央位置、A3:第3軸(差動入力ギヤの回転軸心)、C:周方向、C1:周方向第1側、C2:周方向第2側、G1:入力ギヤ、G2:差動入力ギヤ、H:幅方向、H1:幅方向第1側、H2:幅方向第2側、R:径方向、V:上下方向(鉛直方向)、V1:上側、V2:下側、W:車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7