(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127223
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】転写方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240912BHJP
H01L 33/00 20100101ALI20240912BHJP
H01L 33/62 20100101ALI20240912BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01L21/68 N
H01L33/00 L
H01L33/62
G09F9/00 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036228
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 憲治
【テーマコード(参考)】
5F131
5F142
5G435
【Fターム(参考)】
5F131AA04
5F131AA22
5F131BA51
5F131BA53
5F131BA54
5F131CA22
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA07
5F131EA22
5F131EA23
5F131EB55
5F131EB63
5F131EC42
5F131EC62
5F131EC67
5F131EC72
5F142AA26
5F142FA32
5F142GA02
5G435AA17
5G435BB04
5G435CC09
5G435KK05
(57)【要約】
【課題】簡単な方法で色むらが抑制されたLEDディスプレイを製造する転写方法を提供する。
【解決手段】複数の発光素子が配列されたドナーと、発光素子が搭載されるパネルと、ドナーからパネルに発光素子を転写させる転写手段と、ドナーとパネルと転写手段との各々の相対位置を制御する位置制御手段とを用いて発光素子をパネルに転写する転写方法であって、転写手段はドナーよりも小面積の転写領域を有し、転写領域にて発光素子を転写可能な転写可能位置は複数存在し、位置制御手段により転写領域にパネルとドナーの各々の所定の位置が相対するようパネルとドナーを配置させる配置ステップと、転写可能位置のうち一部を選択し、その転写可能位置にて発光素子をパネルに転写させる転写ステップを備え、配置ステップと転写ステップを複数回行い、転写ステップでは転写可能位置の全数と選択した一部の転写可能位置の数との割合を変更可能であって、転写可能位置のうちの一部の選択をランダムに行う。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子が平面的に配列されているドナーと、前記発光素子が前記ドナーから転写されて搭載されるパネルと、前記ドナーから前記パネルに前記発光素子を転写させる転写手段と、前記ドナーと前記パネルと前記転写手段とのそれぞれの相対位置を制御する位置制御手段と、を用いて前記発光素子を前記パネルに転写する転写方法であって、
前記転写手段は前記ドナーよりも小さい面積の転写領域を有しており、当該転写領域において前記発光素子の転写を行うことが可能な転写可能位置は複数存在しており、
前記位置制御手段により前記転写領域に対して前記パネルおよび前記ドナーのそれぞれの所定の位置が相対するように前記パネルと前記ドナーとを配置させる配置ステップと、
前記転写可能位置のうち一部を選択し、選択した前記転写可能位置において前記発光素子を前記パネルに転写させる転写ステップと
を備え、
前記配置ステップと前記転写ステップとを複数回行い、
前記転写ステップでは、前記転写可能位置の全数と前記選択した一部の前記転写可能位置の数との割合を変更可能であるとともに、前記転写可能位置のうちの一部の選択をランダムに行う、転写方法。
【請求項2】
さらに前記ドナーにおける前記発光素子の位置情報及び前記パネルにおける転写された前記発光素子の位置情報を記憶する記憶手段を用いて、前記転写ステップでは、前記転写領域に相対する前記ドナーの領域に存在する発光素子の数に応じて前記転写可能位置の全数と前記選択した一部の前記転写可能位置の数との割合を決定する、請求項1に記載の転写方法。
【請求項3】
前記転写ステップでは、前記転写領域に相対する前記ドナーの領域に存在する発光素子の数が所定の数値範囲において少なくなるにつれて、前記転写可能位置の全数に対する前記選択した一部の前記転写可能位置の数の割合を多くする、請求項2に記載の転写方法。
【請求項4】
さらに前記ドナーにおける前記発光素子の位置情報及び前記パネルにおける転写された前記発光素子の位置情報を記憶する記憶手段を用いて、前記転写ステップでは、前記転写領域に相対する前記パネルの領域に存在する発光素子の数に応じて前記転写可能位置の全数と前記選択した一部の前記転写可能位置の数との割合を決定する、請求項1に記載の転写方法。
【請求項5】
前記転写ステップでは、前記転写領域に相対する前記パネルの領域に存在する発光素子の数が所定の数値範囲において多くなるにつれて、前記転写可能位置の全数に対する前記選択した一部の前記転写可能位置の数の割合を多くする、請求項4に記載の転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の液晶ディスプレイに代わるものとしてLEDを使用したディスプレイの開発が進められており、製品化が進みつつある。このようなLEDを使用したディスプレイ(LEDディスプレイ)は、FHD(Full High Definition)パネルであって、赤色LED、緑色LED、青色LEDが1920×1080個、4Kパネルでは3840×2160個、それぞれ格子状の配列にて配線基板に高密度に実装されている。
【0003】
このように配線基板へ高密度に実装される各色LEDとしては、たとえば約50μm×50μmといった微小寸法を有する、いわゆるマイクロLEDが用いられる。このようなマイクロLEDは特許文献1に示すようにサファイアなどの成長基板上に窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させる工程などを経て得られ、基板上で上記寸法のチップ状にダイシングされる。このように形成されたLEDチップは、1回もしくは複数回の転写工程を経て成長基板からディスプレイである配線基板へ転写される。その後、熱圧着などの実装工程を経て、配線基板にLEDチップが固定される。
【0004】
LEDチップをディスプレイパネルである配線基板に転写する方法はいくつかあるが、例えば特許文献2,3に開示されているレーザーアブレーション技術を用いた方法が知られている。
【0005】
特許文献2にはレーザーアブレーション技術を用いた素子(LEDチップ)の転写方法が開示されている。また、1つの成長基板上に形成された複数のLEDチップの発光波長には個体差があるが、特許文献3には、LEDディスプレイを製造した際に発光波長の個体差によって色むらが見る人によって感じられないようにする転写方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-170993号公報
【特許文献2】特開2006-41500号公報
【特許文献3】特開2022-135521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に開示された発明は、特許文献2に開示された発明を利用しつつLEDディスプレイに色むらが生じないようにするという新たな課題を解決すべく創作されたものである。しかしながら特許文献3に開示された発明では、1つの成長基板(ウェハ)上のそれぞれのLEDチップの発光特性をすべて計測し、すべてのLEDチップの発光特性を考慮してディスプレイパネルに転写するため、測定、転写のための計算及び転写に非常に時間がかかるという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡単な方法で短時間に色むらが抑制されたLEDディスプレイを製造できる転写方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の転写方法は、複数の発光素子が平面的に配列されているドナーと、前記発光素子が前記ドナーから転写されて搭載されるパネルと、前記ドナーから前記パネルに前記発光素子を転写させる転写手段と、前記ドナーと前記パネルと前記転写手段とのそれぞれの相対位置を制御する位置制御手段と、を用いて前記発光素子を前記パネルに転写する転写方法であって、前記転写手段は前記ドナーよりも小さい面積の転写領域を有しており、当該転写領域において前記発光素子の転写を行うことが可能な転写可能位置は複数存在しており、前記位置制御手段により前記転写領域に対して前記パネルおよび前記ドナーのそれぞれの所定の位置が相対するように前記パネルと前記ドナーとを配置させる配置ステップと、前記転写可能位置のうち一部を選択し、選択した前記転写可能位置において前記発光素子を前記パネルに転写させる転写ステップとを備え、前記配置ステップと前記転写ステップとを複数回行い、前記転写ステップでは、前記転写可能位置の全数と前記選択した一部の前記転写可能位置の数との割合を変更可能であるとともに、前記転写可能位置のうちの一部の選択をランダムに行うものである。ここでランダムに行うことは、本転写方法はコンピューターを用いシミュレーション行って実施するので、疑似乱数表を用いて行うことが好ましい。
【0010】
さらに前記ドナーにおける前記発光素子の位置情報及び前記パネルにおける転写された前記発光素子の位置情報を記憶する記憶手段を用いて、前記転写ステップでは、前記転写領域に相対する前記ドナーの領域に存在する発光素子の数に応じて前記転写可能位置の全数と前記選択した一部の前記転写可能位置の数との割合を決定してもよい。
【0011】
前記転写ステップでは、前記転写領域に相対する前記ドナーの領域に存在する発光素子の数が所定の数値範囲において少なくなるにつれて、前記転写可能位置の全数に対する前記選択した一部の前記転写可能位置の数の割合を多くしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
上述のような配置ステップと転写ステップとを複数回行ううちに、1つの転写ステップでドナーに存在する転写可能な発光素子のすべてをパネルに転写することはせず、かつその転写しない割合を変更可能とするとともに、転写しない発光素子の位置はランダムに選択するので、パネル上では発光素子がランダムに転写されて、ドナー上における複数の発光素子に発光波長のばらつきがあってもパネルでは発光波長のばらつきに起因する色むらが生じることが大きく抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る発光素子の転写装置の模式的な図である。
【
図2】実施形態に係るドナー、転写手段、転写領域、パネルの相対的な位置関係の一例を示す模式的な図である。
【
図3】(A)は転写領域に相対しているドナーの領域、(B)は転写領域、(C)は転写領域に相対しているパネルの領域を示す一例である。
【
図4】(A)は転写領域に相対しているドナーの領域、(B)は転写領域、(C)は転写領域に相対しているパネルの領域を示す別の例である。
【
図5】(A)は転写領域に相対しているドナーの領域、(B)は転写領域、(C)は転写領域に相対しているパネルの領域を示す他の例である。
【
図6】発光素子の未使用割合と非転写割合との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明を実施するための形態について説明を行う前に、本願発明者が本願発明に思い至り創作した経緯を説明する。
【0015】
サファイアなどの成長基板(ウェハ)上に窒化ガリウムの結晶をエピタキシャル成長させる工程などを経て製造されるマイクロLED(発光素子)は、1枚のウェハ上に多数のチップとして存在している。このような成長工程においては、窒化ガリウムの結晶成長を始めどのような加工工程であっても、1つのウェハ上のあらゆる位置において均一に加工がなされるようにすることは非常に困難である。そのため、出来上がったチップの特性は1つ1つ少しずつ異なっていてばらつきがある。このような特性のうち、ディスプレイに関しては発光波長が特に重要になる。
【0016】
上述のようなばらつきは、製造装置内における温度むらや原材料の供給むらに起因する場合が多く、1つの製造装置で多数のウェハを一度に加工する場合には、ウェハを置く位置によってむらが生じてしまう。そのため例えばウェハの中央部分と周辺部分とで、あるいは右側と左側とで、または縞状に特性値の大きさが変化してむらになる。
【0017】
1つのウェハ上の多数のチップに、上記のように特性値、特に発光波長にむらが生じることを回避するのは非常に困難である。従って、例えば、中央部分の発光素子は発光波長が長めであるのに対して、周辺部分の発光素子は発光波長が短めになるといったむらが生じることがままあるが、そのようなむらが存在することを前提としてパネルを製造することになる。
【0018】
一般に1つのウェハには非常に多数のチップ(発光素子)が存在しており、1つのウェハから複数のパネルに発光素子を供給することができる。通常はウェハよりもパネルの方が面積が大きいが、ウェハ上のチップ間距離よりもパネル上のチップ間距離の方がかなり大きいため、1つのウェハ上の発光素子数が1つのパネルに搭載される発光素子数よりも多くなるのである。また、ウェハからパネルに発光素子を転写させる転写装置は、1度に転写することができる領域の面積がウェハ全体やパネル全体の面積に対して小さいため、1つのパネルに必要な発光素子をすべて転写するためには、ウェハ及びパネルを転写領域に対して複数回移動させて転写を行うことが必要である。
【0019】
さらには、パネルの製造コストを低減させるために、移動回数および転写回数を減らすことが重要である。そのためには転写領域内に存在するウェハ上の発光素子であってパネルに転写可能なものはできるだけ多く、可能であれば転写可能な全数を転写することが考えられる。この場合、パネル上の所定の領域にウェハの中央部分から転写可能な限りの発光素子を転写し、その隣の領域にウェハの周辺部分から転写可能な限りの発光素子を転写する、ということが起こりうる。もし上記のように、ウェハの中央部分と周辺部分とで発光素子の発光波長に大きな差があるようなむらがあったとしたら、パネル上の所定の領域は発光波長の長い発光素子が集中的に転写され、その隣の領域には発光波長の短い発光素子が集中的に転写されて、結果として隣接する2つの領域に明確な発光波長の差、即ち色むらが生じることになる。
【0020】
特許文献3に開示された発明はこのような色むらが生じないようにするための発明であるが、1つ1つの発光素子の発光波長を測定・記憶して、それに基づいて転写をコントロールするため、転写をするために計算する時間と、ウェハとパネルの移動時間と回数、転写の時間と回数が膨大になり、パネルへの発光素子の転写の時間が非常に大きくなってしまう。本願発明者はこのような状況に鑑みて様々な検討を行って本願発明に想到するに至った。
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
(実施形態1)
実施形態1は、多数のマイクロLEDのチップが平面的に隣り合って配列されているドナー(ウェハ)から、転写手段によりチップをディスプレイパネルとなるパネル基板に転写する転写方法に関する。転写手段はレーザーリフトオフ(レーザーアブレーション技術)を用いているが、他の方法を用いても構わない。
【0023】
図1に示すように、ドナー20は複数の発光素子22が平面的に配列されており、保持手段25により保持されてパネル30に向き合っている。パネル30は、発光素子22aが転写された面とは反対側の面を載置部32により吸着把持されており、載置部32は移動ステージ42の上に載せられている。なお、保持手段25はチップをエピタキシャル成長させるベースとなる成長基板やウェハに貼り付けられた中間基板などである。
【0024】
転写手段10はレーザー光源11、ガルバノミラー12、Fθレンズ14を備えている。レーザー光源11は1本のレーザー光13を出射する装置である。用いるレーザーとしてはYAGレーザー、可視光レーザー、紫外線レーザーなどを挙げることができる。ガルバノミラー12は2枚のミラーを有し、これらのミラーの位置および角度を制御することで、入射してきた光線を任意の方向へ出射する。
【0025】
転写は以下のように行われる。レーザー光源11から発せられたパルス状のレーザー光13がガルバノミラー12及びFθレンズ14を経由して保持手段25に照射される。レーザー光13は保持手段25を透過して、保持手段25と発光素子22との界面に到達し、この界面においてレーザーアブレーションを生じさせる。このレーザーアブレーションによって発光素子22は保持手段25から剥離して下側に付勢されて、パネル30に転写される。なお、パネル30に転写済みの発光素子には符号22aを付す。
【0026】
転写手段においては、レーザー光13はガルバノミラー12によって光路が制御されて、保持手段25の様々な位置に照射されるが、ガルバノミラー12の位置および角度の変更範囲は限定されている。そのため、
図2に示すように、転写手段10において、レーザー光13を照射可能な領域である転写領域15はドナー20及びパネル30に比べて小さい面積となっている。
【0027】
(配置ステップ)
転写領域15がドナー20及びパネル30に比べて小さい面積であるので、パネル30の全面に発光素子22aを必要な数だけ転写させるためには、転写領域15とドナー20とパネル30との相対的な位置を変更してその都度転写を行う必要がある。転写手段10は大がかりな装置であって固定されているので、保持手段25を把持している把持手段41によりドナー20の位置を制御し、パネル30の位置を移動ステージ42により制御する。把持手段41及び移動ステージ42を備えた位置制御手段によって、パネル30の発光素子22aが転写される面に対して平行にドナー20及びパネル30が移動して、転写領域15とドナー20とパネル30との相対的な位置が変わっていく。ドナー20とパネル30とは、選択された所定の位置(領域)が転写領域15に対して相対するように、位置制御手段によって移動されて配置される。
【0028】
(ある相対位置における転写の検討)
図3に示すように、(A)では転写領域15に相対するドナー20の領域に複数の発光素子22が隙間(小さな間隔)を介して隣接して並んでいるのに対し、(C)では転写領域15に相対するパネル30の領域に、ドナー20における発光素子22同士の隣接間隔よりも大きな間隔(数倍から数十倍)で発光素子22aが転写されることになる。転写領域15も(B)に示すようにパネル30の転写間隔と同じ間隔で転写可能位置16が設定されている。
【0029】
図3では、ドナー20に抜けなく発光素子22が並んでいるため、転写領域15のすべての転写可能位置16を用いてパネル30へ発光素子22を転写することが可能であり、このようにすることで転写効率を良くすることができるが、このやり方を続けると、パネル30上において色むらがはっきりと現れることがある。
【0030】
上記のようなパネル30の発光時の色むらが生じないようにするため、本願発明者は様々なパラメータを用いて検討を行い、シミュレーションを行った結果、転写手段10による転写可能位置16をすべて使用するのではなく一部のみ使用するように非転写の割合(すべての転写可能位置の数に対する転写を行わない位置の数の割合)を用いて制御を行うことを見出した。
【0031】
(転写ステップ)
図3,4,5では転写領域15における転写可能位置16は9個存在している。パネル30へのすべての発光素子22aの転写が完了するまでは、使用可能な転写可能位置16をすべて使用して転写を行う方が効率よく転写ができて早く転写が完了する。使用可能な転写可能位置16というのは、転写可能位置16に対応するドナー20の位置に発光素子22が存在し、且つ転写可能位置16に対応するパネル30の位置に発光素子22が転写されていない状態のものである。
【0032】
例えば、
図3のような状態ではドナー20の転写を行う領域に多数の発光素子22が存在しており、転写領域15のすべての転写可能位置16を用いてパネル30へ多数(
図3では9個)の発光素子22を転写することが可能であり、このようにすることでその転写における転写効率を良くすることができる。しかしながら上述したように、このような方法で転写を行うとドナー20に存する複数の発光素子22の発光波長のばらつきに起因するパネル30での発光による色むらが顕著に現れてしまうことがある。
【0033】
そこで本実施形態では、転写領域15における使用可能な転写可能位置16のうち一部を転写に用いない(次回以降の機会に転写する)ようにすることとした。転写に用いない割合(非転写割合)が多くなると転写の効率が下がって、ドナー20とパネル30と転写領域15との位置と転写順序の計算の時間及び転写の開始から終了までの転写工程にかかる時間の合計時間が増えてしまう。この合計時間と色むらがどの程度生じるのかという関係性をシミュレーションして確認したところ、転写領域15における使用可能な転写可能位置16のうち転写に用いない転写可能位置をランダムに決めると、非転写割合が同じで転写に用いない転写可能位置を固定したやり方に比べて、計算を含めたトータルの転写時間はやや長くなるが色むらが大きく抑制されるようになった。
【0034】
これは、パネル30のある部分には発光波長が長い発光素子22ばかりが転写され、その隣接部分には発光波長が短い発光素子22ばかりが転写されるという現象が生じることを、転写に用いない転写可能位置をランダムに決めることによって抑制しているためと考えられる。
【0035】
転写に用いない転写可能位置は、転写毎にランダムに決めても良いし、所定の転写回数毎にランダムに決めて変更しても良い。また、転写に用いない転写可能位置が複数存在するときはそのうちの一部をランダムに決めてもよい。
【0036】
さらに上記の非転写割合をどれくらいに、どのようにしたらよいのかについても検討を行った。
図4に示すように、転写領域15と相対しているドナー20の領域に転写が行われずに残存している未使用の発光素子22が多数存在している場合は、転写可能位置16のうち、転写に用いない転写可能位置(非転写部18)の占める割合、即ち非転写割合を大きくし(
図4では4/9)、
図5に示すように、転写領域15と相対しているドナー20の領域に転写が行われずに残存している未使用の発光素子22が少ない場合は、転写可能位置16のうち、転写に用いない転写可能位置(非転写部18)の占める割合、即ち非転写割合を小さくする(
図5では0/9)と色むらがより抑制されることが判明した。これは、パネル30上のある領域は発光波長の長い発光素子が集中的に転写され、その隣の領域には発光波長の短い発光素子が集中的に転写されて、結果として隣接する2つの領域に明確な発光波長の差、即ち色むらが生じる現象を抑制するためと考えられる。
【0037】
以上より、転写ステップでは、非転写割合をドナー20に残存している発光素子22の数に応じて変更するとともに、転写可能位置16のうちの非転写部18の位置の選択をランダムに行うこととした。
【0038】
一般的に1枚のドナー(ウェハ)20の全発光素子22数よりも、パネル30に搭載される全発光素子22a数の方が相当少ないため、1枚のドナー20から複数枚のパネル30に発光素子22を転写できる。そのため、ドナー20から2枚目以降のパネルに発光素子を転写する際には、ドナー20に残存している発光素子22の数は少なくなっている。また、発光素子22が多数残存しているドナー20では、転写の際の非転写割合が大きく、かつ非転写部18の位置がランダムに選択されるので、転写が進んで行くにつれて残存している発光素子22は、複数のものが隙間なく密集して残存するのではなく、ランダムに隙間がある状態でまばらに残存することになる。
【0039】
そこで、本実施形態では1枚のパネル30への発光素子22の転写を開始する際のドナー20に残存する発光素子22の数に応じて非転写割合を決定して、転写を行う。具体的な非転写割合は、色むらの抑制と転写時間の短縮とをバランスよく満たすようにシミュレーションによって決めた。1枚のパネル30に転写を行っている途中で非転写割合を変更する場合もある。このような転写のシミュレーションやシステムはコンピュータを利用して行う。
【0040】
本実施形態では、転写ステップにおいて、非転写割合をドナー20に残存している発光素子22の数に応じて変更するとともに、転写可能位置16のうちの非転写部18の位置の選択をランダムに行っているので、ドナーであるウェハの発光素子に発光波長のばらつき・むらが存在していても、発光素子が転写されたパネルには色むらがほとんど生じないようにすることができる。また、非転写割合をシミュレーションによって最適化しているので、計算時間を含めた転写工程にかかる時間を色むらの抑制をしながら小さくすることができる。
【0041】
(実施形態2)
実施形態2では、実施形態1において、転写領域15と相対しているドナー20の領域に転写されていないで残っている発光素子22の割合(未使用割合)と、その未使用割合に応じた転写手段10による転写可能位置16の使用の制限として非転写割合とを具体的な設定することについて検討を行った。
【0042】
ドナー20に残存している発光素子22の位置と数は、転写装置に備えられた記憶手段によって記憶される。位置制御手段によってドナー20とパネル30とがある所定の位置に配置されて、転写領域15に相対したときに、転写領域15と相対しているドナー20の領域に転写が行われずに残存している未使用の発光素子22の位置と数が、記憶手段に記憶されている。記憶手段は、転写開始時のドナー20に残存しているすべての発光素子22の位置を記憶しているとともに、転写が行われて行くにつれてドナー20から転写されていく発光素子22の位置も記憶している。その結果、ある時点での転写領域15と相対しているドナー20の領域に転写が行われずに残存している未使用の発光素子22の位置と数が記憶手段により確認できる。
【0043】
記憶手段の記憶を利用して、発光素子の未使用割合と非転写割合とをパラメータとし、配置ステップと転写ステップとを繰り返し行っていくシミュレーションを行った。ドナーとして、実際に製造された、それぞれのチップには発光波長にある程度のばらつきがあるウェハをサンプルとして用いた。
【0044】
このシミュレーションの結果、例えば
図6に示すような未使用割合と非転写割合との関係に沿って配置ステップと転写ステップとを行えば、完成したパネル30の色むらが少なく、パネル30完成までの転写工程の時間も長すぎず適切なものとすることができた。なお、ドナーの実際の発光波長のむらの分布状態や発光波長の差の大きさ、パネルの大きさやパネル上の発光素子の間隔、パネル上の色むらをどの程度まで許容するか、転写工程の時間をどの程度にするか、などによって未使用割合と非転写割合との関係を適宜設定することができる。
【0045】
実施形態2は、実施形態1と同様の効果を奏し、未使用割合と非転写割合との関係を適宜設定することによってパネルの色むらをより抑制することや、色むらを抑えつつ転写工程の時間を短くすることができる。
【0046】
(その他の実施形態)
上述の実施形態は本願発明の例示であって、本願発明はこれらの例に限定されず、これらの例に周知技術や慣用技術、公知技術を組み合わせたり、一部置き換えたりしてもよい。また当業者であれば容易に思いつく改変発明も本願発明に含まれる。
【0047】
転写可能位置の全数と前記選択した一部の前記転写可能位置の数との割合を変更する方法としては、上述のような転写領域に相対するドナーの領域に存在する発光素子の数に応じて変更する方法に限定されない。例えば、配置ステップと転写ステップの繰り返しにおいて、転写開始から所定の繰り返し回数に達したら変更する方法にしてもよく、この際にパネルにすべての発光素子を転写するまでに複数回変更するようにしてもよい。
【0048】
実施形態1,2では、転写領域と相対しているドナーの領域に転写されていないで残っている発光素子の割合(未使用割合)と、転写手段による転写可能位置の使用の制限としての非転写割合とをセットにして制御を行っているが、転写領域と相対しているドナーの領域に転写されていないで残っている発光素子の割合(未使用割合)の代わりに転写領域と相対しているパネルの領域に発光素子が転写されていないで残っている転写待ちの空きスペースの存在割合(空き割合)を用いて非転写割合とセットにして制御を行っても構わない。この場合、空き割合が小さくなるにつれて非転写割合を小さくするように制御を行う。
【符号の説明】
【0049】
10 転写手段
15 転写領域
16 転写可能位置
20 ドナー
22 発光素子
22a 発光素子(パネル上に転写された)
30 パネル