IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 穴織カーボン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-黒鉛材料の改質方法及び黒鉛材料 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127230
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】黒鉛材料の改質方法及び黒鉛材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/52 20060101AFI20240912BHJP
   C01B 32/21 20170101ALI20240912BHJP
【FI】
C04B35/52
C01B32/21
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036237
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】505238175
【氏名又は名称】穴織カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176326
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 美穂
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敏明
(72)【発明者】
【氏名】寺田 知世
(72)【発明者】
【氏名】パン ティ フォン ガト
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 智広
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB05
4G146AC25A
4G146AC25B
4G146BA02
4G146CB03
4G146CB11
4G146DA07
4G146DA32
4G146DA47
(57)【要約】
【課題】簡便な方法によって短時間で市販の黒鉛材料を改質する改質方法と、この改質方法で改質されて高熱膨張係数を有する黒鉛材料を提供する。
【解決手段】通電加熱法によって非酸化性雰囲気下において2300℃~2600℃に加熱した状態で、黒鉛材料に圧縮荷重をかけることにより黒鉛材料を塑性変形させる黒鉛材料の改質方法、特に非酸化性雰囲気下において2300℃~2600℃に加熱した状態で、黒鉛材料にその圧縮強度に対して20%~50%の圧縮荷重をかけることにより、少なくとも加圧方向の熱膨張係数を改質前の黒鉛材料の熱膨張係数に対して5%以上高める改質方法、並びに非酸化性雰囲気下において2300℃~2400℃に加熱した状態で、黒鉛材料にその圧縮強度の20%~30%の圧縮荷重をかけることにより、黒鉛材料の加圧方向及び加圧方向に直交する方向の両方の熱膨張係数を高める改質方法を提供する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電加熱法によって非酸化性雰囲気下において2300℃~2600℃に加熱した状態で、黒鉛材料に圧縮荷重をかけることにより黒鉛材料を塑性変形させることを特徴とする黒鉛材料の改質方法。
【請求項2】
通電加熱法によって非酸化性雰囲気下において2300℃~2600℃に加熱した状態で、黒鉛材料にその圧縮強度に対して20%~50%の圧縮荷重をかけることにより、少なくとも加圧方向の熱膨張係数を改質前の黒鉛材料の熱膨張係数に対して5%以上高めることを特徴とする黒鉛材料の改質方法。
【請求項3】
通電加熱法によって非酸化性雰囲気下において2300℃~2400℃に加熱した状態で、黒鉛材料にその圧縮強度の20%~30%の圧縮荷重をかけることにより、黒鉛材料の加圧方向及び加圧方向に直交する方向の両方の熱膨張係数を高めることを特徴とする黒鉛材料の改質方法。
【請求項4】
請求項1に記載の黒鉛材料の改質方法によって得られた黒鉛材料であって、塑性変形することによって熱膨張係数が変化したことを特徴とする黒鉛材料。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の黒鉛材料の改質方法によって得られた黒鉛材料であって、少なくとも加圧方向の熱膨張係数が変化したことを特徴とする黒鉛材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛材料の改質方法及び黒鉛材料に関し、特に多結晶黒鉛の熱膨張係数を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
工業材料である黒鉛材料の多くは、人工的に作られる人造黒鉛であり多結晶黒鉛である。一般的な黒鉛材料の製造には、まずコークス粉末などを骨材としてピッチなどをバインダとして混練した粉末素材にした後、成形体とする。その成形体を焼成、黒鉛化する。また、原料として揮発成分を含む生コークスやバルクメソフェース、メソカーボンマイクロビーズを用いて成形品とすることも行われる。黒鉛化には、2500℃以上、多くの場合2800℃~3000℃程度の温度に加熱する。
【0003】
黒鉛材料には、製鋼用電極に多く用いられる押出し人造黒鉛、静水圧で加圧して得られる等方性黒鉛材料(CIP材:Cold Isostatic Press材)と呼ばれる巨視的に等方的な物性を有する人造黒鉛などがある。
黒鉛材料は、様々な産業分野で使用される。とりわけ、非酸化性の雰囲気では非常に高い耐熱性を有するので、高温の炉内部品や装置の部品材料として使用される。特に、このような用途には、等方性黒鉛材料(CIP材)が多く用いられる。例えば、シリコン(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)などの半導体単結晶のエピタキシャル成長装置にサセプタ等の部材として使用されている。
【0004】
しかし、黒鉛材料をそのままそれらの部材に使用すると、アンモニアや水素ガスと反応してメタンガスを発生し寸法変化や重量減少が起こり半導体の品質劣化をもたらす。そのため、黒鉛材料の表面に炭化ケイ素(SiC)をコーティングすることが一般に行われてきた。一方、特に炭化ケイ素(SiC)半導体製造においては、より熱的安定性、化学的安定性、耐食性に優れる炭化タンタル(TaC)のコーティングが検討されている。炭化タンタルの黒鉛材料へのコーティングは、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法によるのが一般的である。
【0005】
コーティング膜が基材である黒鉛材料から剥がれることなく正常にコートできるためには、黒鉛材料がコーティング膜に近い熱膨張係数(CTE:Coefficeint of Thermal Expansion)を有する必要が有る。
炭化タンタルの熱膨張係数は、7x10-6/℃ (概ね6.9~7.8x10-6/℃)であり、黒鉛材料の熱膨張係数は、7.0~9.0x10-6/℃程度であることが好ましいと考えられる。なお、炭化タンタルの黒鉛材料へのコーティングは炭化水素ガス(例えば、メタンガス、プロパンガス)とTaClガスによるCVD法によって1000~1200℃で行われることが知られている。
【0006】
また、アルミナ、サファイアなどは、7x10-6/℃以上の熱膨張係数であり、これらの素材をコーティングする場合も黒鉛材料は7x10-6/℃以上の熱膨張係数を有することが好ましい。
7x10-6/℃以上の熱膨張係数を有する黒鉛材料であって工業製品に使用できる程度の大きさのものを安定した品質で提供することは、難しい課題であった。
【0007】
高い熱膨張係数を有する黒鉛材料を製造するためには、原料や製造工程を工夫することが一般的に行われる。例えば、特許文献1では、揮発分を一定量に調整した生コークス100重量部に対しピッチ系バインダを40~150重量部加える等の工夫により高い熱膨張係数を有する多結晶黒鉛を製造することが開示されている。しかしながら、このような方法は、安定した再現性を得るにはかなりの工夫が必要である。また、大きなサイズの多結晶黒鉛を得ることには、困難が伴うと考えられる。
【0008】
特許文献2では、800℃から1200℃で焼成した炭素材料を2400℃から3000℃まで昇温し黒鉛化するプロセス中に圧縮荷重を負荷して、塑性変形させて高い熱膨張係数を有する黒鉛材料を得ることを開示している。圧縮荷重を負荷した加圧方向には、高い熱膨張係数が得られるが負加圧方向に直交する直交方向では熱膨張係数が低くなるという欠点がある。すなわち黒鉛材料の熱膨張係数に大きな異方性が生じることになり、とりわけ1つの黒鉛基材の複数方向にコーティングを行う場合は好ましくない。また、黒鉛化するプロセス中に圧縮荷重を負荷するための製造装置が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4430448号公報
【特許文献2】特開2021-130580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、簡便な方法によって短時間で市販の黒鉛材料を改質する方法を提供する。更に、本改質方法によりコーティングする素材の熱膨張係数に合わせた熱膨張係数を有する黒鉛材料を提供する。とりわけ、炭化タンタルといった熱膨張係数の高い素材をコーティングするのに適した高熱膨張係数を有する黒鉛材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者は、黒鉛材料中の気孔及びマイクロクラック等の欠陥に着目し、鋭意検討を重ね、黒鉛材料の熱膨張係数を制御する方法を見出した。
黒鉛材料には、開気孔、閉気孔、及び主としてモロゾフスキークラックと呼ばれるマイクロクラックをはじめとする欠陥(マイクロクラック等の欠陥)とを併せて体積当たり概ね8~25%の空隙が存在する。
【0012】
黒鉛材料の熱膨張係数は、気孔及びマイクロクラック等の欠陥にも大きく影響されると考えられる。これは、黒鉛材料のこれらの欠陥が熱膨張を吸収すると考えられているからである。すなわち、黒鉛材料の気孔及びマイクロクラック等の欠陥を増やせば、熱膨張係数は小さくなり、減らせば熱膨張係数は大きくなると考えられる。また、気孔及びマイクロクラック等の欠陥のサイズや形状が変われば、熱膨張係数も変化すると考えられる。欠陥のサイズが小さくなれば熱膨張係数は大きくなる傾向にあると推察され、また、欠陥の形状変化が熱膨張係数に影響すると考えられる。
【0013】
黒鉛材料を変形させて圧縮すれば、欠陥のサイズや形状が変化すると推察される。しかし、通常の方法で黒鉛材料に力や温度を加えて変形させた場合、気孔及びマイクロクラック等の欠陥のサイズや形状を変化させることはできても黒鉛内部で微細な破壊が起こり、マイクロクラック等の欠陥を増やすことになると考えられる。そこで、以下に述べる改質方法で黒鉛材料を塑性変形させて熱膨張係数を制御する方法を見出した。
【0014】
請求項1の黒鉛材料の改質方法は、通電加熱法によって非酸化性雰囲気下において2300℃~2600℃に加熱した状態で、黒鉛材料に圧縮荷重をかけることにより黒鉛材料を塑性変形させることを特徴としている。
上記の構成によれば、2300℃~2600℃の範囲の温度に加熱した状態で圧縮荷重を加えて黒鉛の微細組織を塑性変形させ、少なくとも一部の気孔及びマイクロクラック等の欠陥のサイズを小さくしたり、形状を変化させたりすることができたものと推定される。上記の塑性変形により、少なくとも一部の気孔及びマイクロクラック等の欠陥のサイズを小さくしたり、形状を変化させたりして、少なくとも加圧方向の熱膨張係数を大きくすることができる。
【0015】
請求項2の黒鉛材料の改質方法は、通電加熱法によって非酸化性雰囲気下において2300℃~2600℃に加熱した状態で、黒鉛材料にその圧縮強度に対して20%~50%の圧縮荷重をかけることにより、少なくとも加圧方向の熱膨張係数を改質前の黒鉛材料の熱膨張係数に対して5%以上高めることを特徴としている。
上記の構成によれば、少なくとも加圧方向については、黒鉛内部で微罪な破壊を起こすことなく、少なくとも一部の気孔及びマイクロクラック等の欠陥のサイズを小さくしたり、形状を変化させたりして、熱膨張係数を大きくすることができる。
【0016】
請求項3の黒鉛材料の改質方法は、通電加熱法によって非酸化性雰囲気下において2300℃~2400℃に加熱した状態で、黒鉛材料にその圧縮強度の20%~30%の圧縮荷重をかけることにより、黒鉛材料の加圧方向及び加圧方向に直交する方向の両方の熱膨張係数を高めることを特徴としている。
上記の構成によれば、黒鉛内部で微罪な破壊を起こすことなく、少なくとも一部の気孔及びマイクロクラック等の欠陥のサイズを小さくしたり、形状を変化させたりして、加圧方向及び加圧方向に直交する方向の両方の熱膨張係数を大きくすることができる。
【0017】
請求項4の黒鉛材料は、請求項1に記載の黒鉛材料の改質方法によって得られた黒鉛材料であって、塑性変形することによって熱膨張係数が変化したことを特徴としている。
【0018】
請求項5の黒鉛材料は、請求項2又は3に記載の黒鉛材料の改質方法によって得られた黒鉛材料であって、少なくとも加圧方向の熱膨張係数が変化したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
簡便な改質方法によって短時間で市販の黒鉛材料を改質することができる。本改質方法によりコーティングする素材の熱膨張係数に合わせた高熱膨張係数を有する黒鉛材料を提供することができる。とりわけ、本改質方法により炭化タンタルといった熱膨張係数の高い素材をコーティングするのに適した高熱膨張係数を有する黒鉛材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】パルス通電焼結機の要部の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
改質する手法として通電加熱法を用いる。通電加熱法は、導電性の被処理物に直接電流を流し、被処理物の内部抵抗によるジュール熱にて直接加熱するものである。
【0022】
通電加熱法のうち放電プラズマ焼結法(SPS法: Spark Plasma Sintering法)を好適に用いることができる。SPS法は、大電流のオンーオフ直流パルス通電を被処理物に行うものである。非常に簡便に黒鉛材料を加熱しながら加圧する(圧縮荷重をかける)ことができることができる。更に、直流パルス通電により人造黒鉛の内部組織が局所的に加熱され、2300~2400℃といった比較的低い温度でも塑性変形が起こりやすい。
【0023】
SPS法による接合操作において、温度、荷重、保持時間を設定することにより、黒鉛材料に対して所望の改質を行うことができる。黒鉛材料は限定されず、広く入手可能なものに適用可能である。
塑性変形の度合いを大きくするためには、温度や圧力を高くする。温度は、2200℃~2700℃が好ましい。より好ましくは、2300℃~2600℃である。2200℃未満でも塑性変形は起こると考えられるが、圧力を高くする必要が生じてくる。また、2700℃を超えるような温度では塑性変形が起こりすぎて変形度合いの制御が難しくなる。特に、等方的に熱膨張係数を高めるための改質においては、2300℃~2400℃が更に好ましい。
【0024】
圧縮荷重は、黒鉛材料の圧縮強度によって異なってくる。黒鉛材料の圧縮強度に対して15%~65%程度の荷重をかけることが好ましい。圧縮強度に対して15%未満の圧縮荷重であれば、塑性変形させるために温度を高くする必要となる。圧縮強度に対して65%を超える圧縮荷重を与えると黒鉛材料の微細組織の損傷が顕著になり始めると考えられ好ましくない。より好ましくは、黒鉛材料の圧縮強度に対して20%~50%の圧縮荷重である。特に、等方的に熱膨張係数を高めるための改質においては、黒鉛材料の圧縮強度の20%~30%の圧縮荷重が更に好ましい。
【0025】
最高温度での保持時間は、1分程度でも良いが、30分程度かそれ以上が好ましい。大きな黒鉛裁量を改質する場合は、特に保持時間を長くすることが好ましい。
なお、加圧時の雰囲気は、真空中かアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気とする。炭素材料は、酸素の存在下では、約400℃から酸化による劣化が起こるからである。
【実施例0026】
放電プラズマ焼結法 (SPS法)により、黒鉛材料を改質した。
使用装置は、パルス通電焼結機LABOX-325R(株式会社シンターランド製)
(最大圧力30kN, 最大パルス電流出力2500A)である。
使用した黒鉛材料は、市販の等方性黒鉛材料(CIP材)であり、かさ密度は1.94g/cm、曲げ強度は64MPa、圧縮強度は142MPaであり、熱膨張係数(参考例1)は表2に示す。
上記の黒鉛材料、大きさ約260x220x90mmの直方体ブロックから、フライス加工にて約10x10x10mmの立方体の被処理物を切り出した。
試験前に被処理物である黒鉛材料の重量及び3方向の寸法を測定した。
【0027】
パルス通電焼結機(LABOX-325R)(図1参照)
下部治具:
人造黒鉛製の第1スペーサ31(φ90×40tmm)、第2スペーサ32(φ60×15tmm)、第3スペーサ33(φ30×10tmm)
パンチ34(汎用材の人造黒鉛)(φ15×15tmm)
上部治具:
人造黒鉛製の第1スペーサ35(φ90×40tmm)、第2スペーサ36(φ60×15tmm)、第3スペーサ37(φ30×10tmm)
パンチ38(汎用材の人造黒鉛)(φ15×15tmm)
【0028】
ケーシング30: 上下の第1~第3スペーサ31~37及びパンチ34、38の周囲を気密に覆う。
加圧ユニット:加圧部材39を加圧駆動
パルス電源:上下1対の電極(図示略)から上下のパンチ34、38に高圧パルスを印加し、加圧通電加熱により黒鉛材料10を加熱する。
冷却機構:少なくとも上下のパンチ34、38を空冷又は水冷により冷却する。
真空ユニット:ケーシング30内空間を真空にする。
その他の部材:黒鉛シート0.2tmm(上下パンチ34、38と黒鉛材料10(被処理物)との間)5tmmのカーボンフェルトを巻いてなる筒状カーボンフェルト40(パンチ34、38及び試料10側面に2重に巻いた後、更にその上から第3スペーサ33、37側面も含めて1重に巻いた。)また、炭素繊維ヤーン(図示せず)を筒状カーボンフェルト40の周囲に巻くことにより筒状カーボンフェルト40を固定した。
温度測定:放射温度計41で黒鉛材料10(被処理物)の側面を測定。
【0029】
以下に実施例1~4の処理条件を示す。
雰囲気は、室温で真空に20Pa前後まで引いた後、Arガスを導入後、再び真空(20Pa前後)にした。加熱を開始後1600℃からArガスを導入した。最高温度は、2350℃、2400℃、及び2500℃で行った。昇温に係る時間は30分程度であった。最高温度での保持時間は、1分、及び30分で行った。圧縮荷重は30MPa、40MPa、及び60MPaで行った。試験条件を表1に示す。
【0030】
加熱終了後は、黒鉛材料10(被処理物)が取り出し可能な温度(50℃程度)なった段階で黒鉛材料10を取り出した。取り出した後、黒鉛材料10(被処理物)の表面に黒鉛シートが付着している場合は、黒鉛材料10を傷つけないように黒鉛シートを丁寧に取り除いた。その後、改質した黒鉛材料10の重量及び3方向の寸法を測定した。実施例1~4の黒鉛材料10の改質前後の寸法及び改質前に対する改質後の寸法の変化率を表1に示す。なお、重量の変化は試験前後で殆どなかった。
【0031】
改質した黒鉛材料10の熱膨張係数を測定するため、改質前の黒鉛材料10及び改質した黒鉛材料10より約5x5x10mmの長さの試験片を切り出した。10mm長さの方向(長手方向)が熱膨張による伸びを計測して熱膨張係数を測定する方向である。長手方向が圧縮荷重方向、圧縮荷重に対して直交方向の2つ両方で試験片を切り出した。
【0032】
熱膨張係数の測定には、熱膨張測定装置(アルバック理工株式会社製、モデルDLY-9600)を用いた。上記試験片を熱膨張測定装置にセットして窒素ガス雰囲気中、温度範囲25~500℃で測定を行った。本測定においては、25℃から25℃毎に伸びを計測している。無処理の試験片、並びに改質後の熱膨張係数(CTE)及び参考例1に対する変化率を表2に示す。
【0033】
熱膨張係数の値は、それぞれ25~500℃の範囲の平均熱膨張係数と25~1200℃の範囲の平均熱膨張係数を示している。25~500℃の値は実測値である。25~1200℃の値は、25~500℃の値のプロット2次曲線を外挿して求めた推定値である。25~1200℃の値が25~500℃の値より大きくなっている。これは、この人造黒鉛は、温度が高いほど熱膨張による伸びが大きくなるためである。尚、多くの黒鉛材料が同様の傾向を示すことが一般に知られている。
【表1】
【0034】
表1の結果に関して、まず、圧縮荷重30MPaは黒鉛材料の圧縮強度の21%、40MPaは黒鉛材料の圧縮強度の28%、60MPaは、黒鉛材料の圧縮強度の42%に相当する。実施例1~4全てにおいて塑性変形が観察され、荷重方向では収縮し、荷重に対して直交方向では伸びている。実施例1のように最高温度2350℃で荷重30MPaでは最も塑性変形量が少なく、最高温度、荷重が高いほど塑性変形量が大きくなっている。
【表2】
【0035】
表2の結果に関して、実施例1及び2では荷重方向及び荷重に対して直交方向で熱膨張係数が大きくなっている。一方、実施例3及び4では荷重方向では熱膨張係数が大きくなっているが、荷重に対して直交方向では熱膨張係数が小さくなっている。最高温度や荷重が高くなるほど、荷重方向の熱膨張係数は大きくなる傾向にある。実施例2と実施例4とを比較すると、最高温度が2400℃と同じであるが、圧縮荷重が実施例2では40MPa、実施例4では60MPaである。実施例2においては、実施例4と比較しても塑性変形量も少ないにも関わらず、荷重方向の熱膨張係数は実施例4と同様でありながら、荷重に対して直交方向の熱膨張係数も大きくなっている。最高温度と圧縮荷重を最適化することにより、熱膨張係数の大きさ及び等方的に熱膨張係数を高くすることができることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、市販の黒鉛材料の改質に利用できる黒鉛材料の改質方法及び改質された黒鉛材料を提供する。とりわけ、黒鉛材料の熱膨張係数を制御する改質技術と、各種セラミックス等をコーティングするのに適した黒鉛材料を提供する。
【符号の説明】
【0037】
10 黒鉛材料
30 ケーシング
31,35 第1スペーサ
32,36 第2スペーサ
33,37 第3スペーサ
34,38 パンチ
39 加圧部材

図1