(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127240
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】時計用部品の加飾方法、および、時計用部品
(51)【国際特許分類】
G04B 19/06 20060101AFI20240912BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20240912BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G04B19/06 K
G04B37/22 J
C23C26/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036254
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】由永 あい
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA03
4K044AA06
4K044AB06
4K044BA12
4K044BB01
4K044BC09
4K044CA41
(57)【要約】
【課題】意匠性を高めることができる時計用部品の加飾方法および時計用部品を提供すること。
【解決手段】本開示の時計用部品の加飾方法は、第1領域、および、第1領域に関連する第2領域を有する時計用部品に、レーザ照射により加飾を施す時計用部品の加飾方法であって、第2領域に、第1レーザを照射することで、第2領域の面粗度を第1領域よりも大きくする第1レーザ照射工程と、第1レーザ照射工程の後に、第1領域および第2領域に第2レーザを照射することで、第1領域および第2領域の表面に酸化被膜を形成する第2レーザ照射工程と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1領域、および、前記第1領域に関連する第2領域を有する時計用部品に、レーザ照射により加飾を施す時計用部品の加飾方法であって、
前記第2領域に、第1レーザを照射することで、前記第2領域の面粗度を前記第1領域よりも大きくする第1レーザ照射工程と、
前記第1レーザ照射工程の後に、前記第1領域および前記第2領域に第2レーザを照射することで、前記第1領域および前記第2領域の表面に酸化被膜を形成する第2レーザ照射工程と、を有する
ことを特徴とする時計用部品の加飾方法。
【請求項2】
請求項1に記載の時計用部品の加飾方法において、
前記第2レーザ照射工程では、前記第1領域および前記第2領域の表面に前記酸化被膜を形成することで所望の色相を発現させる
ことを特徴とする時計用部品の加飾方法。
【請求項3】
請求項1に記載の時計用部品の加飾方法において、
前記第2レーザ照射工程では、前記第1領域および前記第2領域に跨って走査しながらレーザ照射を行う
ことを特徴とする時計用部品の加飾方法。
【請求項4】
請求項3に記載の時計用部品の加飾方法において、
前記第2レーザ照射工程では、走査中にレーザ強度を変えることで、前記酸化被膜の膜厚を変化させる
ことを特徴とする時計用部品の加飾方法。
【請求項5】
請求項1に記載の時計用部品の加飾方法において、
前記第1レーザ照射工程では、前記第2領域の面粗度を1.5μm以上、かつ、4.0μm以下となるように前記第1レーザを照射し、
前記第1レーザを照射された前記第2領域の表面で反射される反射光は、前記第1レーザを照射されない前記第1領域の表面で反射される反射光に比べて、複数の視野角における明度L*の平均値が大きくなる
ことを特徴とする時計用部品の加飾方法。
【請求項6】
請求項1に記載の時計用部品の加飾方法において、
前記第1レーザ照射工程では、前記第2領域の面粗度を4.0μmより大きくなるように前記第1レーザを照射し、
前記第1レーザを照射された前記第2領域の表面で反射される反射光は、前記第1レーザを照射されない前記第1領域の表面で反射される反射光に比べて、複数の視野角における明度L*の平均値が小さくなる
ことを特徴とする時計用部品の加飾方法。
【請求項7】
第1領域、および、前記第1領域に関連する第2領域を有し、前記第1領域および前記第2領域の表面に酸化被膜が形成された時計用部品であって、
前記第2領域は、前記第1領域よりも面粗度が大きい
ことを特徴とする時計用部品。
【請求項8】
請求項1に記載された時計用部品において、
前記第2領域は、前記第1領域の周囲に配置されており、
前記第1領域および前記第2領域は、色相が同じで明度L*が異なる
ことを特徴とする時計用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用部品の加飾方法、および、時計用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材の表面に、金属酸化物を含む多層膜として構成される調色膜が形成された時計用部品が開示されている。特許文献1では、調色膜により外観の色調を調整することで、審美性を優れたものにできるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、外観の色調を調整することはできるものの、明度を変更させることは難しいため、さらに意匠性を高めることができないといった問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の時計用部品の加飾方法は、第1領域、および、前記第1領域に関連する第2領域を有する時計用部品に、レーザ照射により加飾を施す時計用部品の加飾方法であって、前記第2領域に、第1レーザを照射することで、前記第2領域の面粗度を前記第1領域よりも大きくする第1レーザ照射工程と、前記第1レーザ照射工程の後に、前記第1領域および前記第2領域に第2レーザを照射することで、前記第1領域および前記第2領域の表面に酸化被膜を形成する第2レーザ照射工程と、を有することを特徴とする。
【0006】
本開示の時計用部品は、第1領域、および、前記第1領域に関連する第2領域を有し、前記第1領域および前記第2領域の表面に酸化被膜が形成された時計用部品であって、前記第2領域は、前記第1領域よりも面粗度が大きいことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】第1実施形態のレーザ加工装置の概略を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1実施形態]
以下、本開示の実施形態の時計1を図面に基づいて説明する。
図1は、時計1を示す正面図である。本実施形態では、時計1は、ユーザーの手首に装着される腕時計として構成される。
図1に示すように、時計1は、金属製のケース2を備える。そして、ケース2の内部には、円板状の文字板10と、秒針3、分針4、時針5と、りゅうず7と、Aボタン8と、Bボタン9とを備える。なお、文字板10は、本開示の時計用部品の一例である。
【0009】
[文字板]
図2は、文字板10の概略を示す正面図である。
図2に示すように、本実施形態では、文字板10は、色相が同じであるものの、明度L*が異なる第1領域11、および、第2領域12を備えている。本実施形態では、第1領域11の中央に、ウサギを模した第2領域12が配置されている。換言すると、ウサギを模した第2領域12の周囲に第1領域11が配置されている。なお、第2領域12の周囲に第1領域11が配置される態様は、本開示の第1領域11と第2領域12との関連の一例である。
【0010】
本実施形態では、文字板10は、チタンを用いて構成されている。そして、文字板10の表面には、第1領域11および第2領域12にわたって酸化被膜が形成されている。本実施形態では、文字板10に所定の膜厚の酸化被膜が形成されることで、所望の色相を発現するように構成されている。すなわち、本実施形態では、文字板10は、表面に酸化被膜が形成されることで加飾が施されている。
【0011】
ここで、本実施形態では、第1領域11の面粗度が0.2μm程度であるのに対して、第2領域12の面粗度が4.0μmよりも大きくなるように構成されている。すなわち、本実施形態では、第2領域12は、第1領域11よりも面粗度が大きくなるように構成されている。
そして、本実施形態では、第1領域11と第2領域12とは、色相が同じで、かつ、明度L*が異なるように構成されている。具体的には、本実施形態では、第2領域12は第1領域に比べて、広範囲の視野角から視た場合における明度L*が低くなるように構成されている。
【0012】
[文字板の加飾方法]
次に、本実施形態の文字板10の加飾方法について説明する。
図3は、レーザ加工装置50の概略を示す構成図である。
図3に示すように、レーザ加工装置50は、レーザ発振器41と、伝送光学系42と、照射ユニット43と、加工テーブル45と、制御装置47と、を備えている。
【0013】
レーザ発振器41は、好適例としてCO2レーザを採用しており、赤外線領域のナノ秒パルスレーザ光を生成する。なお、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザや、ファイバーレーザを用いても良い。
伝送光学系42は、レーザ発振器41で生成されたレーザ光を照射ユニット43に伝送する光路であり、複数枚の反射ミラーを含んで構成されている。
【0014】
照射ユニット43は、レーザ光を集光して加工対象物に照射する照射ノズルであり、集光レンズを含んで構成されている。
加工テーブル45は、XYテーブルであり、制御装置47からの指示に従い、載置された加工対象物をレーザ照射の走査経路パターンに応じて平面移動させる。
制御装置47は、レーザ加工装置50のコントローラーであり、各部の動作を統括制御する。制御装置47は記憶部48を備えており、記憶部48には、レーザ加工装置50の動作を制御する制御プログラムや、各種データが記憶されている。各種データには、加工対象物ごとに予め設定されたレーザ照射用の複数の走査パターンデータが含まれている。
【0015】
先ず、加工対象物となる文字板10を、レーザ加工装置50の加工テーブル45にセットする。
次に、制御装置47は、第1レーザ照射工程を行うための第1レーザ照射の走査経路データを記憶部48から読み出す。具体的には、
図2に示す第2領域12に、第1レーザを照射するための走査パターンを読みだす。
【0016】
そして、第1レーザ照射工程として、レーザ発振器41により生成された第1レーザを、照射ユニット43から照射する。この際、照射ユニット43を固定した状態で、加工テーブル45が走査経路データに沿って平面的に移動することで、第2領域12に第1レーザが照射される。この際、制御装置47は、第2領域12の面粗度が4.0μm以上となるように、第1レーザの出力を調整する。これにより、第2領域12の面粗度が第1領域11よりも大きくなる。
【0017】
次に、制御装置47は、第2レーザ照射工程を行うための第2レーザ照射の走査経路データを記憶部48から読み出す。具体的には、
図2に示す第1領域11および第2領域12に跨って、第2レーザを照射するための走査パターンを読みだす。
【0018】
次に、第2レーザ照射工程として、レーザ発振器41により生成された第2レーザを、照射ユニット43から照射する。この際、照射ユニット43を固定した状態で、加工テーブル45が走査経路データに沿って平面的に移動することで、第1領域11および第2領域12に跨って第2レーザが照射される。この際、制御装置47は、一定の出力で第2レーザを照射することで、第1領域11および第2領域12にわたって所定の膜厚の酸化被膜を形成させる。これにより、文字板10における第1領域11および第2領域12の表面には、所定の膜厚の酸化被膜が形成されるので、文字板10に所望の色相を発現させることができる。
また、本実施形態では、第1領域11および第2領域12に跨ってレーザ照射を行うので、第1領域11と第2領域12とで別々にレーザを照射する場合に比べて、第2レーザの走査を簡素化することができる。
【0019】
ここで、本実施形態では、第1領域11と第2領域12とで面粗度が異なるので、第1領域11と第2領域12とで入射される光の反射が異なる。換言すると、第1領域11と第2領域12とで、色相は同じであるものの明度L*が異なる。
【0020】
図4は、文字板の表面の面粗度と明度L*との関係を示す図である。なお、
図4では、第1レーザにより第2領域の表面の面粗度を1.5~6.2μmとした場合と、第1レーザを照射しない(面粗度:0.2μm)第1領域と、の明度L*の測定結果を示している。
ここで、具体的な測定方法として、上記条件の文字板に対して、45°の角度から光を照射する。そして、その正反射の視野角の位置に対して、-15°~110°の視野角の位置における明度L*を測定して、その平均値を求めた。すなわち、文字板を広範囲の視野角から視た場合の明るさを明度L*の平均値として評価した。
なお、本開示において、明度L*とは、CIE(Commission Internationale d'Eclairage;国際照明委員会)で規定されるL*a*b*色空間における明度の値である。L*の値が「0」の場合は全く光を反射しない(光を完全に吸収する)物体の明度であり、L*の値が「100」の場合は光を完全反射する白の明度の値を表す。
【0021】
図4に示すように、第2領域の面粗度が4.0μmよりも大きくなる場合、第1レーザを照射しない第1領域に比べて明度L*が低くなることが示唆された。すなわち、第2領域の面粗度が4.0μmよりも大きい場合、第1レーザを照射しない第1領域に比べて、複数の視野角における反射光の明度L*が低くなることが示唆された。
これは、第2領域の表面に入射された光は、第2領域の表面において複数回の反射繰り返し、これにより、第2領域の表面に吸収され、反射する光が弱くなるためであることが推察される。
【0022】
一方、第2領域の面粗度が1.5μm以上、かつ、4.0μm以下である場合、第1レーザを照射しない第1領域に比べて明度L*が高くなることが示唆された。すなわち、第2領域の面粗度が1.5μm以上、かつ、4.0μm以下である場合、第1レーザを照射しない第1領域に比べて、複数の視野角における反射光の明度L*が高くなることが示唆された。
これは、第2領域の表面に入射された光は、第2領域の表面で適度に散乱することで反射する光が分散して、明度L*の平均値としては第1レーザを照射しない第1領域よりも高くなることが推察される。
【0023】
上記より、本実施形態では、第1レーザ照射工程において、第2領域12の面粗度が4.0μmよりも大きくなるように第1レーザを照射することで、第2領域12は第1領域11と同じ色相で、かつ、第1領域11よりも明度L*が低くできるようにしている。すなわち、本実施形態では、第2領域12は、第1領域11と同じ色相で、かつ、第1領域11よりも暗く見えるように構成されている。
【0024】
[第1実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態では、第1領域11と第2領域12とで面粗度が異なる文字板10の表面に、酸化被膜を形成することができる。この際、第1領域11および第2領域12に形成された酸化被膜により発現される色相は同じになるものの、第1領域11と第2領域12とで面粗度が異なるため、第1領域11と第2領域12とで入射される光の反射率が異なる。そのため、第1領域11と第2領域12とで、色相は同じで明度L*を変化させることができるので、意匠性をより高めることができる。
【0025】
本実施形態では、酸化被膜により所望の色相を発現させることができるので、文字板10の意匠性をより高めることができる。
【0026】
本実施形態では、第2レーザ照射工程では、第1領域11および第2領域12に跨ってレーザ照射を行うので、第1領域11と第2領域12とで別々にレーザを照射する場合に比べて、第2レーザの走査を簡素化することができる。
【0027】
本実施形態では、第1レーザ照射工程において、第2領域12の面粗度を4.0μmより大きくなるように第1レーザを照射する。これにより、第2領域12の表面で反射される反射光は、第1領域11の表面で反射される反射光よりも、複数の視野角における明度L*の平均値が低くなるので、広範囲の視野角から視た場合において、第1領域11よりも第2領域12を暗くすることができる。
【0028】
本実施形態では、第1領域11は第2領域12の周囲に配置されるので、第1領域11と第2領域12との明度L*の違いをより際立たせることができる。
【0029】
[第2実施形態]
次に、本開示の第2実施形態について、
図5に基づいて説明する。第2実施形態では、第2領域12Aは、面粗度が1.5μm以上、かつ、4.0μm以下となるように構成される点で、前述した第1実施形態と異なる。
なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一または同様の構成には同一符号を付し、説明を省略または簡略する。
【0030】
[文字板]
図5は、文字板10Aの概略を示す正面図である。
図5に示すように、本実施形態では、前述した第1実施形態と同様に、文字板10Aは、色相が同じであるものの、明度L*が異なる第1領域11A、および、第2領域12Aを備えている。本実施形態では、第1領域11Aの中央に、ウサギを模した第2領域12Aが配置されている。
【0031】
本実施形態では、前述した第1実施形態と同様に、文字板10Aは、チタンを用いて構成されている。そして、文字板10Aの表面には、第1領域11Aおよび第2領域12Aにわたって、所望の色相を発現できるように酸化被膜が形成されている。
【0032】
そして、本実施形態では、第1領域11Aの面粗度が0.2μm程度であるのに対して、第2領域12Aの面粗度が1.5μm以上、かつ、4.0μm以下となるように構成されている。
これにより、本実施形態では、第2領域12Aは第1領域11Aと同じ色相で、かつ、第1領域11Aよりも明度L*が高くできるようにしている。すなわち、本実施形態では、第2領域12Aは、第1領域11Aと同じ色相で、かつ、第1領域11Aよりも明るく見えるように構成されている。
【0033】
[第1実施形態の作用効果]
このような本実施形態によれば、第2領域12Aの面粗度を1.5μm以上、かつ、4.0μm以下となるように第1レーザを照射する。これにより、第2領域12Aの表面で反射される反射光は、第1領域11Aの表面で反射される反射光よりも、複数の視野角における明度L*の平均値が高くなるので、広範囲の視野角から視た場合において、第1領域11Aよりも第2領域12Aを明るくすることができる。
【0034】
[変形例]
なお、本開示は前述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本開示に含まれるものである。
【0035】
前述した各実施形態では、第2レーザ照射工程において、一定の出力で第2レーザを照射することで、第1領域11,11Aおよび第2領域12,12Aにわたって所定の膜厚の酸化被膜を形成させていたが、これに限定されない。例えば、第2レーザ照射工程では、走査中にレーザ強度を変えることで、酸化被膜の膜厚を変化させてもよい。これにより、形成される酸化被膜の膜厚が変化するので、酸化被膜によって発現される色相にグラデーションを付けることができる。
【0036】
前述した各実施形態では、第1領域11,11Aは第2領域12,12Aの周囲に配置されていたが、これに限定されない。例えば、第1レーザを照射される第2領域が、第1レーザが照射されない第1領域の周囲に配置されていてもよい。
また、第1レーザが照射されない第1領域と、第1レーザが照射される第2領域とが、隣り合うように配置されていてもよい。さらに、第1レーザが照射されない複数の第1領域と、第1レーザが照射される複数の第2領域とが、隣り合うように交互に配置されていてもよい。
すなわち、第1領域と第2領域とが関連するとは、第1領域の周囲に第2領域が配置される場合や、第2領域の周囲に第1領域が配置される場合や、第1領域と第2領域とが隣り合う場合や、第1領域と第2領域とが交互に配置される場合等を含む。
【0037】
前述した各実施形態では、文字板10,10Aは、第1レーザが照射されない第1領域11,11Aと、第1レーザが照射される第2領域12,12Aと、を備えていたが、これに限定されない。例えば、第1領域および第2領域に加えて、第1レーザが照射され、かつ、第1領域および第2領域とは面粗度が異なる第3領域を備えて構成されていてもよい。この場合、第2領域および第3領域が第1領域よりも明るく見えるように構成されていてもよく、第2領域および第3領域が第1領域よりも暗く見えるように構成されていてもよい。あるいは、第2領域は第1領域よりも明るく見えるように構成され、第3領域は第1領域よりも暗く見えるように構成されていてもよい。
【0038】
前述した各実施形態では、第2領域12は、第1レーザにより第1領域11と面粗度が異なるように加工されていたが、これに限定されない。例えば、第2領域は、切削加工等により微小の突起部が複数形成されたり、サンドブラストが施されることによって、第1領域と面粗度が異なるように加工が施されていてもよい。
【0039】
前述した各実施形態では、文字板10,10Aは、チタンを用いて構成されていたが、これに限定されない。例えば、文字板は、ステンレス、洋白、純鉄、真鍮、ジュラルミンであっても良く、あるいは、これらの合金であっても良く、金属製であればよい。
【0040】
前述した各実施形態では、本開示の時計用部品は文字板10,10Aとして構成されていたが、これに限定されない。例えば、本開示の時計用部品は、ケース、ダイヤルリング、ガラス縁、ムーブメント、針、略字、および、回転錘のいずれか一つとして構成されていてもよい。
【0041】
[本開示のまとめ]
本開示の時計用部品の加飾方法は、第1領域、および、前記第1領域に関連する第2領域を有する時計用部品に、レーザ照射により加飾を施す時計用部品の加飾方法であって、前記第2領域に、第1レーザを照射することで、前記第2領域の面粗度を前記第1領域よりも大きくする第1レーザ照射工程と、前記第1レーザ照射工程の後に、前記第1領域および前記第2領域に第2レーザを照射することで、前記第1領域および前記第2領域の表面に酸化被膜を形成する第2レーザ照射工程と、を有することを特徴とする。
本開示では、第1領域と第2領域とで面粗度が異なる時計用部品の表面に、酸化被膜を形成することができる。この際、第1領域および第2領域に形成された酸化被膜により発現される色相は同じになるものの、第1領域と第2領域とで面粗度が異なるため、第1領域と第2領域とで入射される光の反射率が異なる。そのため、第1領域と第2領域とで、色相は同じで明度L*を変化させることができるので、意匠性をより高めることができる。
【0042】
本開示の時計用部品の加飾方法において、前記第2レーザ照射工程では、前記第1領域および前記第2領域の表面に前記酸化被膜を形成することで所望の色相を発現させてもよい。
これにより、酸化被膜により所望の色相を発現させることができるので、時計用部品の意匠性をより高めることができる。
【0043】
本開示の時計用部品の加飾方法において、前記第2レーザ照射工程では、前記第1領域および前記第2領域に跨って走査しながらレーザ照射を行ってもよい。
これにより、第2レーザ照射工程では、第1領域および第2領域に跨ってレーザ照射を行うので、第1領域と第2領域とで別々にレーザを照射する場合に比べて、第2レーザの走査を簡素化することができる。
【0044】
本開示の時計用部品の加飾方法において、前記第2レーザ照射工程では、走査中にレーザ強度を変えることで、前記酸化被膜の膜厚を変化させてもよい。
これにより、形成される酸化被膜の膜厚が変化するので、酸化被膜によって発現される色相にグラデーションを付けることができる。
【0045】
本開示の時計用部品の加飾方法において、前記第1レーザ照射工程では、前記第2領域の面粗度を1.5μm以上、かつ、4.0μm以下となるように前記第1レーザを照射し、前記第1レーザを照射された前記第2領域の表面で反射される反射光は、前記第1レーザを照射されない前記第1領域の表面で反射される反射光に比べて、複数の視野角における明度L*の平均値が大きくなってもよい。
これにより、第2領域の表面で反射される反射光は、第1領域の表面で反射される反射光よりも、複数の視野角における明度L*の平均値が高くなるので、広範囲の視野角から視た場合において、第1領域よりも第2領域を明るくすることができる。
【0046】
本開示の時計用部品の加飾方法において、前記第1レーザ照射工程では、前記第2領域の面粗度を4.0μmより大きくなるように前記第1レーザを照射し、前記第1レーザを照射された前記第2領域の表面で反射される反射光は、前記第1レーザを照射されない前記第1領域の表面で反射される反射光に比べて、複数の視野角における明度L*の平均値が小さくなってもよい。
これにより、第2領域の表面で反射される反射光は、第1領域の表面で反射される反射光よりも、複数の視野角における明度L*の平均値が低くなるので、広範囲の視野角から視た場合において、第1領域よりも第2領域を暗くすることができる。
【0047】
本開示の時計用部品は、第1領域、および、前記第1領域に関連する第2領域を有し、前記第1領域および前記第2領域の表面に酸化被膜が形成された時計用部品であって、前記第2領域は、前記第1領域よりも面粗度が大きいことを特徴とする。
本開示では、第1領域と第2領域とで面粗度が異なる時計用部品の表面に、酸化被膜を形成される。この際、第1領域および第2領域に形成された酸化被膜により発現される色相は同じになるものの、第1領域と第2領域とで面粗度が異なるため、第1領域と第2領域とで入射される光の反射率が異なる。そのため、第1領域と第2領域とで、色相は同じで明度L*を変化させることができるので、意匠性をより高めることができる。
【0048】
本開示の時計用部品において、前記第2領域は、前記第1領域の周囲に配置されており、前記第1領域および前記第2領域は、色相が同じで明度L*が異なってもよい。
これにより、第2領域は第1領域の周囲に配置されるので、第1領域と第2領域との明度L*の違いをより際立たせることができる。
【符号の説明】
【0049】
1…時計、2…ケース、3…秒針、4…分針、5…時針、7…りゅうず、8…Aボタン、9…Bボタン、10,10A…文字板(時計用部品)、11,11A…第1領域、12,12A…第2領域、41…レーザ発振器、42…伝送光学系、43…照射ユニット、45…加工テーブル、47…制御装置、48…記憶部、50…レーザ加工装置。