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特開2024-127243排水処理設備の操業状態推定装置、操業状態推定方法および操業状態推定プログラム
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  • 特開-排水処理設備の操業状態推定装置、操業状態推定方法および操業状態推定プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127243
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】排水処理設備の操業状態推定装置、操業状態推定方法および操業状態推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20240912BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240912BHJP
   G06Q 99/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C02F3/12 H
G05B23/02 R
G05B23/02 F
G06Q99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036258
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧田 晟洋
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】功刀 亮
(72)【発明者】
【氏名】並木 正信
(72)【発明者】
【氏名】河野 敬行
(72)【発明者】
【氏名】黒木 琢磨
【テーマコード(参考)】
3C223
4D028
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
3C223AA06
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223FF05
3C223FF13
3C223FF16
3C223FF22
3C223FF23
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH28
4D028BB07
4D028BC18
4D028BC19
4D028BC24
4D028BD06
4D028BD11
4D028BD16
4D028CA00
4D028CB00
4D028CC01
4D028CC02
4D028CC04
4D028CC05
4D028CE03
5L049DD03
5L050DD03
(57)【要約】
【課題】処理対象水の生物処理プロセスを高精度に表現し得るプロセスモデルを構築できるとともに、当該プロセスモデルの構築に要する時間および労力を低減できること。
【解決手段】微生物を利用して排水を生物処理する排水処理設備の操業状態の推定において、前記排水処理設備の操業条件と、前記操業条件に従って操業する前記排水処理設備から観測された観測値とを収集し、前記排水処理設備による前記排水の生物処理プロセスを複数の数式によって表現したプロセスモデルと前記操業条件とをもとに、前記排水処理設備の操業状態の予測値を導出し、前記プロセスモデルに含まれる複数のパラメータのうち、前記排水処理設備から実測し難く且つ前記生物処理プロセスで行われる反応への寄与度が大きい特定パラメータを、前記観測値と前記予測値との誤差を修正するように調整し、調整後の前記特定パラメータを前記プロセスモデルに適用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を利用して排水を生物処理する排水処理設備の操業状態推定装置において、
前記排水処理設備の操業条件と、前記操業条件に従って操業する前記排水処理設備から観測された観測値とを収集するデータ収集部と、
前記排水処理設備による前記排水の生物処理プロセスを複数の数式によって表現したプロセスモデルと前記データ収集部による前記操業条件とをもとに、前記排水処理設備の操業状態の予測値を導出する予測処理部と、
前記プロセスモデルに含まれる複数のパラメータのうち、前記排水処理設備から実測し難く且つ前記生物処理プロセスで行われる反応への寄与度が大きい特定パラメータを、前記データ収集部による前記観測値と前記予測処理部による前記予測値との誤差を修正するように調整し、調整後の前記特定パラメータを前記プロセスモデルに適用するパラメータ調整部と、
を備えることを特徴とする排水処理設備の操業状態推定装置。
【請求項2】
前記パラメータ調整部は、カルマンフィルタを用いて前記特定パラメータを調整する、
ことを特徴とする請求項1に記載の排水処理設備の操業状態推定装置。
【請求項3】
前記特定パラメータは、前記排水処理設備に流入される処理対象の排水中に含まれる有機成分の分画比率と、前記生物処理プロセスで行われる硝化反応に関わる硝化細菌の最大比増殖速度と、前記生物処理プロセスにおける酸素供給量補正値とのうち少なくとも1つである、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の排水処理設備の操業状態推定装置。
【請求項4】
前記データ収集部は、時間的に離散した複数の前記観測値を収集し、
前記パラメータ調整部は、前記データ収集部によって収集された複数の前記観測値を、線形補間によって時間的に連続した複数の連続観測値に変換し、複数の前記連続観測値の各々を用いて前記特定パラメータを調整する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の排水処理設備の操業状態推定装置。
【請求項5】
微生物を利用して排水を生物処理する排水処理設備の操業状態推定方法において、
前記排水処理設備の操業条件と、前記操業条件に従って操業する前記排水処理設備から観測された観測値とを収集するデータ収集ステップと、
前記排水処理設備による前記排水の生物処理プロセスを複数の数式によって表現したプロセスモデルと前記操業条件とをもとに、前記排水処理設備の操業状態の予測値を導出する予測処理ステップと、
前記プロセスモデルに含まれる複数のパラメータのうち、前記排水処理設備から実測し難く且つ前記生物処理プロセスで行われる反応への寄与度が大きい特定パラメータを、前記観測値と前記予測値との誤差を修正するように調整し、調整後の前記特定パラメータを前記プロセスモデルに適用するパラメータ調整ステップと、
を含むことを特徴とする排水処理設備の操業状態推定方法。
【請求項6】
前記パラメータ調整ステップでは、カルマンフィルタを用いて前記特定パラメータを調整する、
ことを特徴とする請求項5に記載の排水処理設備の操業状態推定方法。
【請求項7】
前記特定パラメータは、前記排水処理設備に流入される処理対象の排水中に含まれる有機成分の分画比率と、前記生物処理プロセスで行われる硝化反応に関わる硝化細菌の最大比増殖速度と、前記生物処理プロセスにおける酸素供給量補正値とのうち少なくとも1つである、
ことを特徴とする請求項5または6に記載の排水処理設備の操業状態推定方法。
【請求項8】
前記データ収集ステップでは、時間的に離散した複数の前記観測値を収集し、
前記パラメータ調整ステップでは、収集された複数の前記観測値を、線形補間によって時間的に連続した複数の連続観測値に変換し、複数の前記連続観測値の各々を用いて前記特定パラメータを調整する、
ことを特徴とする請求項5または6に記載の排水処理設備の操業状態推定方法。
【請求項9】
請求項5または6に記載の排水処理設備の操業状態推定方法をコンピュータに実行させる、
ことを特徴とする排水処理設備の操業状態推定プログラム。
【請求項10】
前記特定パラメータは、前記排水処理設備に流入される処理対象の排水中に含まれる有機成分の分画比率と、前記生物処理プロセスで行われる硝化反応に関わる硝化細菌の最大比増殖速度と、前記生物処理プロセスにおける酸素供給量補正値とのうち少なくとも1つである、
ことを特徴とする請求項9に記載の排水処理設備の操業状態推定プログラム。
【請求項11】
前記データ収集ステップでは、時間的に離散した複数の前記観測値を収集し、
前記パラメータ調整ステップでは、収集された複数の前記観測値を、線形補間によって時間的に連続した複数の連続観測値に変換し、複数の前記連続観測値の各々を用いて前記特定パラメータを調整する、
ことをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項9に記載の排水処理設備の操業状態推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理設備の操業状態推定装置、操業状態推定方法および操業状態推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物を利用した生物処理により、処理対象の排水(以下、処理対象水という)を浄化する排水処理設備が提案されている。水処理の分野において、生物処理は、処理対象水中に含まれる有機物(有機性の汚濁物質)を微生物の生物反応によって分解するプロセスである。一般に、排水処理設備は、処理対象水の生物処理を行うための反応タンクを備え、反応タンク内に流入した処理対象水を、活性汚泥等の多種多様な微生物によって生物処理する。これにより、排水処理設備は、処理対象水を浄化した水(以下、処理水という)を得る。排水処理設備は、得られた処理水を、浮遊物質の除去や消毒等の適切な処理を施した後に外部へ排出する。
【0003】
このような排水処理設備の機能評価または運転支援等を行うためのツールとして、排水処理設備内で行われる処理対象水の生物処理プロセスを模擬するプロセスモデルが利用されている。当該プロセスモデルは、国際水協会(IWA)によって提唱された活性汚泥モデル等、物理化学的な洞察に基づいた数学モデルである。当該プロセスモデルでは、処理対象水の生物処理プロセスにおける微生物の生物反応が、モデルパラメータを変数とする複数の数式によって表現されている。このようなプロセスモデルは、排水処理設備の操業条件(処理対象水の流量や有機物濃度等)を入力することにより、当該排水処理設備の操業状態の推定に有用な予測値を出力することが可能である。
【0004】
例えば、特許文献1には、水処理装置の運転データを収集するデータ収集手段と、モデルパラメータで記述された数式によって水処理プロセスの要部を表現した数学モデルと、過去の経験的な情報を総合して水処理プロセスを定性的に表現する言語モデルと、水処理装置を運転する運転手段と、これらデータ収集手段、数学モデル、言語モデルおよび運転手段の作動を制御する制御手段と、を備えた水処理装置のモデル参照型自動制御装置が開示されている。特許文献1に記載の従来技術において、数学モデルは、水処理装置の運転結果を予測する。言語モデルは、水処理プロセスの、上記数学モデルによって表現されていない性質についての知識を有し、運転データに基づいて水処理装置の運転状況を判断し、判断した運転状況に応じて、上記数学モデルの校正すべきモデルパラメータを選択して校正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4700145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した処理対象水の生物処理プロセスにおいては、反応タンク内に混在する多種多様な微生物の生物反応が、処理対象水の水質や流入量等の処理状況の変化に伴って複雑に変化してしまう。それ故、プロセスモデルによって上記複雑な生物反応を継続して高精度に表現するためには、生物処理プロセスの処理状況が時間の経過とともに変化するに伴い、プロセスモデルに含まれる多くのモデルパラメータを、上記処理状況および経験則をもとに試行錯誤して調整する必要がある。これには、多大な時間および労力(すなわち人的コスト)が掛かるという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載の装置では、上述した言語モデルを構築するために、処理対象水の生物処理プロセスに関する膨大なデータを収集する必要があり、さらには、アルゴリズム実装に多大な手間を要することから、多大な時間および労力が掛かるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、処理対象水の生物処理プロセスを高精度に表現し得るプロセスモデルを構築することができるとともに、当該プロセスモデルの構築に要する時間および労力を低減することができる排水処理設備の操業状態推定装置、操業状態推定方法および操業状態推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定装置は、微生物を利用して排水を生物処理する排水処理設備の操業状態推定装置において、前記排水処理設備の操業条件と、前記操業条件に従って操業する前記排水処理設備から観測された観測値とを収集するデータ収集部と、前記排水処理設備による前記排水の生物処理プロセスを複数の数式によって表現したプロセスモデルと前記データ収集部による前記操業条件とをもとに、前記排水処理設備の操業状態の予測値を導出する予測処理部と、前記プロセスモデルに含まれる複数のパラメータのうち、前記排水処理設備から実測し難く且つ前記生物処理プロセスで行われる反応への寄与度が大きい特定パラメータを、前記データ収集部による前記観測値と前記予測処理部による前記予測値との誤差を修正するように調整し、調整後の前記特定パラメータを前記プロセスモデルに適用するパラメータ調整部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定装置は、上記の発明において、前記パラメータ調整部はカルマンフィルタを用いて前記特定パラメータを調整する、ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定装置は、上記の発明において、前記特定パラメータは、前記排水処理設備に流入される処理対象の排水中に含まれる有機成分の分画比率と、前記生物処理プロセスで行われる硝化反応に関わる硝化細菌の最大比増殖速度と、前記生物処理プロセスにおける酸素供給量補正値とのうち少なくとも1つである、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定装置は、上記の発明において、前記データ収集部は、時間的に離散した複数の前記観測値を収集し、前記パラメータ調整部は、前記データ収集部によって収集された複数の前記観測値を、線形補間によって時間的に連続した複数の連続観測値に変換し、複数の前記連続観測値の各々を用いて前記特定パラメータを調整する、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定方法は、微生物を利用して排水を生物処理する排水処理設備の操業状態推定方法において、前記排水処理設備の操業条件と、前記操業条件に従って操業する前記排水処理設備から観測された観測値とを収集するデータ収集ステップと、前記排水処理設備による前記排水の生物処理プロセスを複数の数式によって表現したプロセスモデルと前記操業条件とをもとに、前記排水処理設備の操業状態の予測値を導出する予測処理ステップと、前記プロセスモデルに含まれる複数のパラメータのうち、前記排水処理設備から実測し難く且つ前記生物処理プロセスで行われる反応への寄与度が大きい特定パラメータを、前記観測値と前記予測値との誤差を修正するように調整し、調整後の前記特定パラメータを前記プロセスモデルに適用するパラメータ調整ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定方法は、上記の発明において、前記パラメータ調整ステップでは、カルマンフィルタを用いて前記特定パラメータを調整する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定方法は、上記の発明において、前記特定パラメータは、前記排水処理設備に流入される処理対象の排水中に含まれる有機成分の分画比率と、前記生物処理プロセスで行われる硝化反応に関わる硝化細菌の最大比増殖速度と、前記生物処理プロセスにおける酸素供給量補正値とのうち少なくとも1つである、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定方法は、上記の発明において、前記データ収集ステップでは、時間的に離散した複数の前記観測値を収集し、前記パラメータ調整ステップでは、収集された複数の前記観測値を、線形補間によって時間的に連続した複数の連続観測値に変換し、複数の前記連続観測値の各々を用いて前記特定パラメータを調整する、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定プログラムは、上記のいずれか一つに記載の排水処理設備の操業状態推定方法をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定プログラムは、上記の発明において、前記特定パラメータは、前記排水処理設備に流入される処理対象の排水中に含まれる有機成分の分画比率と、前記生物処理プロセスで行われる硝化反応に関わる硝化細菌の最大比増殖速度と、前記生物処理プロセスにおける酸素供給量補正値とのうち少なくとも1つである、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定プログラムは、上記の発明において、前記データ収集ステップでは、時間的に離散した複数の前記観測値を収集し、前記パラメータ調整ステップでは、収集された複数の前記観測値を、線形補間によって時間的に連続した複数の連続観測値に変換し、複数の前記連続観測値の各々を用いて前記特定パラメータを調整する、ことをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、処理対象水の生物処理プロセスを高精度に表現し得るプロセスモデルを構築することができるとともに、当該プロセスモデルの構築に要する時間および労力を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施形態に係る排水処理設備の操業状態推定装置の一構成例を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る排水処理設備の操業状態推定方法の一例を示すフロー図である。
図3図3は、本発明の実施形態におけるプロセスモデル230の予測精度評価の結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、図面を参照して、本発明に係る排水処理設備の操業状態推定装置、操業状態推定方法および操業状態推定プログラムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る排水処理設備の操業状態推定装置の一構成例を示すブロック図である。図1には、本実施形態に係る操業状態推定装置200の他に、操業状態推定装置200が適用される排水処理設備100が図示されている。この図1において、物質の流れは実線矢印で示され、信号の流れは破線矢印で示されている。以下では、まず、排水処理設備100について説明し、その後、操業状態推定装置200について説明する。
【0024】
(排水処理設備)
まず、排水処理設備100について説明する。排水処理設備100は、嫌気無酸素好気法等の手法により、微生物を利用して処理対象水を生物処理し、これによって処理対象水を浄化するための設備(プラント)である。例えば図1に示すように、排水処理設備100は、最初沈殿池101と、反応タンク102と、最終沈殿池106とを備えている。
【0025】
最初沈殿池101は、例えば図1に示すように、排水処理設備100における処理対象水の流入端側に配置され、外部から流入された処理対象水(以下、流入水という場合がある)を受け入れる。本実施形態において、処理対象水は、排水処理設備100の処理対象とする排水である。当該排水中には、有機物(有機性の汚濁物質)等が含まれている。最初沈殿池101は、上記のように受け入れた流入水中の不適物を沈殿させ、これにより、当該流入水を処理対象水と不適物とに分離する。ここでいう不適物は、微生物による処理対象水の生物処理に不適な物質である。不適物としては、例えば、プラスチック製容器や紙類といったゴミ等、処理対象水の生物処理に寄与しない物質が挙げられる。最初沈殿池101によって除去された不適物は、排水処理設備100から排出され、外部の施設等によって処分される。一方、不適物が除去された処理対象水は、最初沈殿池101から配管等の搬送装置(図示せず)によって後段の反応タンク102へ送出される。
【0026】
反応タンク102は、最初沈殿池101から送出された処理対象水を微生物によって生物処理するための反応槽として機能する。例えば図1に示すように、反応タンク102は、嫌気性の生物処理が行われる嫌気タンク103と、無酸素状態での生物処理(脱窒処理等)が行われる無酸素タンク104と、好気性の生物処理が行われる好気タンク105とを備える。
【0027】
嫌気タンク103、無酸素タンク104および好気タンク105は、各々、活性汚泥等の微生物群を内包して処理対象水を生物処理する。本実施形態において、嫌気タンク103、無酸素タンク104および好気タンク105は、例えば図1に示すように、処理対象水の流通方向に嫌気タンク103から無酸素タンク104、好気タンク105の順に並ぶよう配置されている。すなわち、嫌気タンク103、無酸素タンク104および好気タンク105は、処理対象水に対して嫌気性の生物処理が行われた後に無酸素状態での生物処理および好気性の生物処理が順次行われるように配置されている。
【0028】
詳細には、嫌気タンク103は、最初沈殿池101から配管等を介して流入された処理対象水を受け入れる。嫌気タンク103においては、活性汚泥に含まれる微生物群のうちの嫌気性微生物が、処理対象水に対して嫌気性の生物処理を行う。当該嫌気性の生物処理としては、例えば、処理対象水中の硝酸を還元して窒素ガスを発生させる脱窒処理等が挙げられる。
【0029】
無酸素タンク104は、嫌気タンク103から配管等を介して流入された処理対象水(嫌気性の生物処理が行われた処理対象水)を受け入れる。また、無酸素タンク104は、ポンプ等の作用により、配管を介して好気タンク105から循環(返送)された硝化混合液を受け入れる。なお、硝化混合液は、好気タンク105内での好気性の生物処理によってアンモニアを酸化(硝化)して生成された硝酸がイオンの状態で含まれる液である。すなわち、無酸素タンク104内の処理対象水には、アンモニアの硝化による硝酸イオンが含まれる。無酸素タンク104においては、活性汚泥に含まれる微生物群のうち無酸素状態を好む微生物(脱窒菌)が、処理対象水に対して無酸素状態での生物処理を行う。当該無酸素状態での生物処理としては、例えば、処理対象水中の硝酸イオンを脱窒菌によって水と窒素ガスとに分解する処理等が挙げられる。上記のように処理対象水から分解された窒素ガスは、無酸素タンク104から外部(大気中)へ放出される。
【0030】
好気タンク105は、曝気を行うためのブロワ等の酸素溶解装置(図示せず)を備える。好気タンク105は、無酸素タンク104から配管等を介して流入された処理対象水(嫌気性の生物処理と無酸素状態での生物処理とが順次行われた処理対象水)を受け入れ、受け入れた処理対象水を曝気する。好気タンク105においては、活性汚泥に含まれる微生物群のうちの好気性微生物が、処理対象水に対して好気性の生物処理を行う。当該好気性の生物処理としては、例えば、好気タンク105内の液中に溶解している酸素(溶存酸素)を用いて処理対象水中の有機物を水と炭酸ガスとに分解する処理、当該処理対象水中のアンモニア(アンモニア性窒素)を硝化細菌の作用(硝化反応)によって硝酸(硝酸性窒素)に硝化する処理等が挙げられる。
【0031】
反応タンク102は、上記のように処理対象水を生物処理することにより、当該処理対象水を浄化した水(以下、処理水という)を得る。処理水は、反応タンク102(本実施形態では好気タンク105)から配管等の搬送装置(図示せず)によって後段の最終沈殿池106へ送出される。
【0032】
なお、嫌気タンク103は、単一の嫌気タンクによって構成されてもよいし、配管等を介して連通する複数の嫌気タンクによって構成されてもよい。また、これら複数の嫌気タンク同士は、配管等を介して直列に接続されてもよいし、並列に接続されてもよい。同様に、無酸素タンク104は、単一の無酸素タンクによって構成されてもよいし、配管等を介して連通する複数の無酸素タンクによって構成されてもよい。また、これら複数の無酸素タンク同士は、配管等を介して直列に接続されてもよいし、並列に接続されてもよい。好気タンク105は、単一の好気タンクによって構成されてもよいし、配管等を介して連通する複数の好気タンクによって構成されてもよい。また、これら複数の好気タンク同士は、配管等を介して直列に接続されてもよいし、並列に接続されてもよい。
【0033】
最終沈殿池106は、例えば図1に示すように、排水処理設備100における処理水の流出端側に配置され、反応タンク102によって生物処理(浄化)された処理水を受け入れる。また、最終沈殿池106には、反応タンク102(本実施形態では好気タンク105)から、活性汚泥の一部が処理水とともに流入される。最終沈殿池106は、上記のように受け入れた処理水中の活性汚泥を沈殿させ、これにより、処理水と活性汚泥とを分離する。このようにして得られた処理水は、最終沈殿池106から配管等を通じて後段の消毒装置(図示せず)へ送出される。この送出された処理水は、当該消毒設備によって消毒された後、排水処理設備100の外部へ排出される。
【0034】
また、最終沈殿池106において沈殿した活性汚泥のうちの一部は、図1に示すように、返送汚泥として、最終沈殿池106から配管等の搬送装置(図示せず)によって反応タンク102へ返送される。この際、返送汚泥は、最初沈殿池101からの処理対象水と合流し、処理対象水とともに嫌気タンク103、無酸素タンク104および好気タンク105の各々へ順次返送される。これにより、反応タンク102内(特に好気タンク105内)の活性汚泥濃度を一定に維持することができる。また、上記沈殿した活性汚泥のうちの残部は、図1に示すように、余剰汚泥として、最終沈殿池106から配管等の搬送装置によって排水処理設備100の外部へ排出される。
【0035】
(操業状態推定装置)
つぎに、本発明の実施形態に係る操業状態推定装置200について説明する。操業状態推定装置200は、上述した排水処理設備100の操業状態を推定する装置であり、図1に示すように、データ収集部210と、演算処理部220と、制御部240とを備える。
【0036】
データ収集部210は、排水処理設備100の操業において実際に計測(観測)することが可能なプロセスデータを収集するものである。上記プロセスデータとしては、例えば、排水処理設備100の操業条件および観測値等が挙げられる。排水処理設備100の操業条件としては、例えば、最初沈殿池101への流入水の流量、当該流入水中に含まれる有機物の濃度等が挙げられる。排水処理設備100の観測値は、上記操業条件に従って操業する排水処理設備100から観測された値(実測値)である。当該観測値の具体例としては、好気タンク105内の液中に含まれる活性汚泥浮遊物質(MLSS)、リン酸態リン(PO4-P)、アンモニア性窒素(NH4-N)および硝酸性窒素(NO3-N)の各濃度と、嫌気タンク103内の液中に含まれるMLSS、PO4-P、NH4-NおよびNO3-Nの各濃度と、処理水の化学的酸素要求量(COD)、処理水中に含まれるNO3-Nの濃度および全窒素の総量(T-N)と、処理水中に浮遊する浮遊物質(SS)の濃度と、返送汚泥中に含まれるT-NおよびMLSSの濃度とが挙げられる。
【0037】
例えば、排水処理設備100には、各種プロセスデータを時系列に沿って各々計測する複数の計測装置(図示せず)が設けられている。データ収集部210は、メモリ等によって構成され、排水処理設備100の操業時において実際に計測されたプロセスデータを、その計測の都度、排水処理設備100から収集する。例えば、排水処理設備100のプロセスデータが所定の時間を空けて離散的に計測される場合、データ収集部210は、時間的に離散した複数の観測値等のプロセスデータを、時系列に沿って順次収集する。また、排水処理設備100のプロセスデータが時系列に沿って連続的に計測される場合、データ収集部210は、時間的に連続した複数のプロセスデータを、時系列に沿って順次収集する。本実施形態において、「時間的に連続する」とは、所定の単位時間(例えば1時間)毎に連続することを意味する。すなわち、当該単位時間は、プロセスデータが時系列に沿って離散的に計測される場合の計測時間の間隔に比べて短く、時間的に連続する観測値同士の時間間隔は、時間的に離散する観測値同士の時間間隔に比べて短い。データ収集部210は、収集したプロセスデータを、当該プロセスデータが計測されたタイミング(年月日や日時等)と対応付けて順次蓄積する。
【0038】
演算処理部220は、排水処理設備100の操業推定に関する各種演算処理を実行するものであり、図1に示すように、予測処理部221とパラメータ調整部222とを備える。また、演算処理部220は、図1に示すように、排水処理設備100内で行われる処理対象水の生物処理プロセスを模擬するプロセスモデル230を有する。
【0039】
予測処理部221は、プロセスモデル230と排水処理設備100の操業条件とをもとに、排水処理設備100の操業状態の予測値を導出するものである。詳細には、図1に示すように、予測処理部221は、排水処理設備100から計測されたプロセスデータのうちの操業条件を、データ収集部210から取得する。この際、予測処理部221は、例えば、データ収集部210から当該操業条件を時系列に沿って順次読み込む。予測処理部221は、上記取得した操業条件をプロセスモデル230に入力し、これにより、この入力した操業条件に対応する排水処理設備100の操業状態の予測値をプロセスモデル230から算出する。予測処理部221は、上記のように導出した予測値を、上記操業条件からプロセスモデル230によって推定される排水処理設備100の現在および将来の操業状態を示す値としてパラメータ調整部222へ入力する。当該操業状態を示す値としては、例えば、上述した排水処理設備100の操業時の観測値と同じ項目の値が挙げられる。
【0040】
また、予測処理部221は、上記のように導出した予測値を、排水処理設備100の操業状態の推定結果(シミュレーション結果)として排水処理設備100へ出力する。排水処理設備100は、予測処理部221から取得した予測値を表示装置(図示せず)に表示し、あるいはプリンタによって印刷する。これにより、排水処理設備100の現在および将来の操業状態を推定することが可能になる。
【0041】
プロセスモデル230は、排水処理設備100による処理対象水の生物処理プロセスを複数の数式によって表現した数理モデルである。詳細には、プロセスモデル230は、IWAによって提唱された活性汚泥モデル等、物理化学的な洞察に基づいて構築されたモデルを含み、排水処理設備100内で行われる処理対象水の生物処理プロセスを模擬する。例えば、プロセスモデル230は、最初沈殿池101から反応タンク102内へ流入(供給)される処理対象水の流量または含有成分に関するモデル式と、嫌気タンク103の内部状態(嫌気性微生物による生物反応の挙動等)に関するモデル式と、無酸素タンク104の内部状態(脱窒菌による生物反応の挙動等)に関するモデル式と、好気タンク105の内部状態(好気性微生物による生物反応の挙動等)に関するモデル式と、反応タンク102または最終沈殿池106から流出される物質(処理水および返送汚泥等)に関するモデル式とを含んでいる。このようなプロセスモデル230は、排水処理設備100から計測された操業条件を入力することにより、当該操業条件に従って操業する排水処理設備100の観測値と同じ項目の予測値を出力する。例えば、プロセスモデル230は、排水処理設備100の操業状態の項目毎に、上記観測値が実測された時刻と同じ時刻の予測値と、当該時刻より後の時刻(将来の時刻)の予測とを含む、時間的に連続した複数の予測値を出力する。
【0042】
また、プロセスモデル230に含まれるモデルパラメータの調整を容易に実行する観点から、プロセスモデル230は、排水処理設備100の内部状態(特に反応タンク102の内部状態)を表す状態変数と、排水処理設備100の操業時に観測可能な観測変数とによって構成される状態空間モデルであることが好ましい。この場合の状態空間モデルは、排水処理設備100から計測された操業条件を入力することにより、プロセスモデル230と同じ項目の予測値を出力する。
【0043】
パラメータ調整部222は、例えば推定フィルタ等のアルゴリズムを有し、プロセスモデル230に含まれる複数のパラメータ(モデルパラメータ)のうちの特定パラメータを調整する。詳細には、図1に示すように、パラメータ調整部222は、排水処理設備100から計測されたプロセスデータのうちの操業状態の観測値を、データ収集部210から取得する。この際、パラメータ調整部222は、排水処理設備100の操業状態の項目毎に、データ収集部210から当該観測値を時系列に沿って順次読み込む。
【0044】
また、パラメータ調整部222は、排水処理設備100の操業状態の予測値を、予測処理部221から時系列に沿って順次取得する。なお、当該予測値の項目(排水処理設備100の操業状態の項目)は、パラメータ調整部222がデータ収集部210から取得する観測値の項目と同じである。パラメータ調整部222は、上記データ収集部210による観測値と上記予測処理部221による予測値との誤差を修正するように、プロセスモデル230の特定パラメータを調整し、調整後の特定パラメータをプロセスモデル230に適用する。これにより、プロセスモデル230は、特定パラメータが調整されたモデルに更新される。
【0045】
上記特定パラメータの調整において、パラメータ調整部222がデータ収集部210から取得する複数の観測値は、時間的に連続したものであってもよいし、時間的に離散したものであってもよい。特定パラメータの調整によるプロセスモデル230の予測精度の向上という観点から、これら複数の観測値は、時間的に連続したものであることが好ましい。また、データ収集部210から取得する複数の観測値が時間的に離散したものである場合、パラメータ調整部222は、これら複数の観測値を、例えば線形補間により、時間的に連続したもの(以下、複数の連続観測値という)に変換することが好ましい。パラメータ調整部222は、得られた複数の連続観測値の各々を用いて、上記のように観測値と予測値との誤差を修正するようプロセスモデル230の特定パラメータを調整することが好ましい。
【0046】
また、プロセスモデル230が状態空間モデルである場合、パラメータ調整部222の推定フィルタは、カルマンフィルタであることが好ましい。パラメータ調整部222は、カルマンフィルタを用いて、プロセスモデル230の特定パラメータを調整することが好ましい。
【0047】
また、パラメータ調整部222は、更新後のプロセスモデル230によって算出された予測値を、プロセスモデル230のパラメータ調整結果として排水処理設備100へ出力してもよい。この場合、排水処理設備100においては、上述した操業状態の推定結果と同様に、パラメータ調整結果が、表示または印刷によって視認可能に出力される。作業者は、予測処理部221からの推定結果とパラメータ調整部222からのパラメータ調整結果とをもとに、特定パラメータの調整後における排水処理設備100の操業状態の推定精度を確認することができる。
【0048】
ここで、パラメータ調整部222が調整対象とする特定パラメータは、プロセスモデル230に含まれる複数のパラメータのうち、排水処理設備100から実測し難く且つ処理対象水の生物処理プロセスで行われる反応への寄与度が大きいパラメータである。このような特定パラメータとしては、例えば、流入水成分の分画比率、硝化細菌の最大比増殖速度、酸素供給量補正値が挙げられる。
【0049】
流入水成分の分画比率は、排水処理設備100に流入される処理対象の排水(図1に示す流入水)中に含まれる有機成分の分画比率である。具体的には、流入水成分の分画比率は、流入水中の有機物が如何なる態様(溶解した状態または溶解せず固形の状態等)、如何なる比率で存在しているかを推定するモデル式に用いられる。このような流入水成分の分画比率として、例えば、生物分解し易い溶解性有機物の濃度SF、発酵によって生成する溶解性有機物の濃度SA、生物分解しない溶解性有機物の濃度SI、生物分解しない固形性有機物の濃度XI、生物分解が遅い固形性有機物の濃度XS、従属栄養細菌の濃度XHが挙げられる。すなわち、本実施形態において、流入水成分の分画比率は、流入水中の有機物を、生物分解し易い溶解性有機物と、発酵によって生成する溶解性有機物と、生物分解しない溶解性有機物と、生物分解しない固形性有機物と、生物分解が遅い固形性有機物と、従属栄養細菌とに分画する割合である。
【0050】
これらの有機物の各濃度SF、SA、SI、XI、XS、XHが特定パラメータとして含まれるモデル式は、溶解性有機物の濃度Sm、固形性有機物の濃度Xm、および係数a1~a3、b1、b2、c1、c2、d1、d2を用い、下記式によって表される。
F=Sm×a1×b1
A=Sm×a1×b2
I=Sm×a2
I=Xm×c1
S=Sm×a3+Xm×c2×d1
H=Xm×c2×d2
【0051】
上記のモデル式において、溶解性有機物の濃度Smは、流入水中に溶解している溶解性の有機物の濃度である。固形性有機物の濃度Xmは、流入水中に溶解し難い難溶解性の有機物の濃度である。これら溶解性有機物および固形性有機物の各濃度Sm、Xmは、排水処理設備100において実際に計測可能な濃度であり、例えば、排水処理設備100のプロセスデータの一部(操業条件の一部)としてデータ収集部210に収集される。また、係数a1~a3、b1、b2、c1、c2、d1、d2は、下記式によって示される条件(係数毎の合計値が「1」である)を満足する。
1+a2+a3=1
1+b2=1
1+c2=1
1+d2=1
【0052】
硝化細菌の最大比増殖速度は、排水処理設備100における処理対象水の生物処理プロセスで行われる硝化反応に関わる特定パラメータである。具体的には、硝化細菌の最大比増殖速度は、好気タンク105内の液体(処理対象水)中に含まれるアンモニア性窒素を硝酸性窒素に硝化(NH4-N→NO3-N)する硝化反応に関わる硝化細菌のどの程度の速度で増加(増殖)するかを推定するモデル式に用いられる。このような硝化細菌の最大比増殖速度μAUTが特定パラメータとして含まれるモデル式には、下記に示す硝化細菌の増殖速度μを表す数式(増殖速度式)が挙げられる。
【0053】
【数1】
【0054】
上記のモデル式において、SO2は、処理対象水中の溶存酸素の濃度である。SNH4は、処理対象水中のアンモニア性窒素の濃度である。SPO4は、処理対象水中の溶解性無機リン酸の濃度である。SALKは、処理対象水のアルカリ度である。XAUTは、処理対象水中の硝化細菌の濃度である。KO2は、処理対象水中の溶存酸素の半飽和定数である。KNH4は、処理対象水中のアンモニア性窒素の半飽和定数である。KPは、処理対象水中のリンの半飽和定数である。KALKは、上記アルカリ度(SALK)の半飽和定数である。
【0055】
酸素供給量補正値は、排水処理設備100における処理対象水の生物処理プロセスにおける酸素供給量に関わる特定パラメータである。具体的には、酸素供給量補正値は、処理対象水中に含まれる有機物の分解や硝化反応に必要な溶存酸素(DO)の濃度がどの程度であるかを推定するモデル式に用いられる。すなわち、ここでいう酸素供給量は、好気タンク105内の処理対象水中に溶存させる酸素の供給量である。このような酸素供給量補正値αが特定パラメータとして含まれるモデル式には、下記に示す酸素供給量Raを表す数式が挙げられる。
【0056】
【数2】
【0057】
上記のモデル式において、Qaは、処理対象水中に曝気する酸素の風量(曝気風量)である。Eaは、好気タンク105の酸素溶解装置の性能によって決まる酸素溶解効率である。ρaは空気密度であり、Oaは空気中の酸素含有率である。βは酸素飽和濃度の補正係数であり、Γは散気水深による補正係数である。CSWは温度T1における酸素飽和濃度であり、CSは温度T2における酸素飽和濃度である。CAは、排水処理設備100の操業時(運転時)における好気タンク105内のDOの濃度である。Pは大気圧であり、T1は酸素溶解装置の性能前提となる設計温度である。T2は、排水処理設備100の操業時における好気タンク105内の処理対象水の温度(運転水温)である。
【0058】
本実施形態において、パラメータ調整部222が調整対象とする特定パラメータは、上述した流入水成分の分画比率、硝化細菌の最大比増殖速度および酸素供給量補正値のうち少なくとも1つである。例えば、流入水成分の分画比率は、排水処理設備100の観測値の中でも、特に、処理水のCODと、返送汚泥中のMLSSの濃度と、処理水中のSSの濃度とに対する寄与度が高い特定パラメータである。硝化細菌の最大比増殖速度は、排水処理設備100の観測値の中でも、特に、好気タンク105内における処理対象水中のアンモニア性窒素および硝酸性窒素の各濃度と、処理水中の硝酸性窒素の濃度とに対する寄与度が高い特定パラメータである。酸素供給量補正値は、排水処理設備100において観測される全ての観測値に対する寄与度が高い特定パラメータである。パラメータ調整部222は、操業状態推定装置200に要求される推定項目の精度等に応じて、流入水成分の分画比率、硝化細菌の最大比増殖速度および酸素供給量補正値のうち少なくとも1つを調整対象として選択する。操業状態推定装置200による排水処理設備100の操業状態の推定精度を向上させるという観点から、パラメータ調整部222は、流入水成分の分画比率、硝化細菌の最大比増殖速度および酸素供給量補正値の全てを調整対象とすることが好ましい。
【0059】
一方、図1に示す操業状態推定装置200において、制御部240は、上述したデータ収集部210および演算処理部220の各動作を制御する。例えば、制御部240は、排水処理設備100のプロセスデータが計測される都度、計測されたプロセスデータを時系列に沿って順次収集して蓄積するようにデータ収集部210を制御する。また、制御部240は、上述したデータ収集部210と予測処理部221およびパラメータ調整部222との間におけるデータの入出力およびそのタイミングを制御する。さらに、制御部240は、上述した予測処理部221とパラメータ調整部222との間におけるデータの入出力およびそのタイミングを制御するとともに、予測処理部221による予測値の導出タイミングおよびパラメータ調整部222による特定パラメータの調整タイミングを制御する。
【0060】
(操業最適化方法)
つぎに、本発明の実施形態に係る排水処理設備の操業状態推定方法について説明する。図2は、本発明の実施形態に係る排水処理設備の操業状態推定方法の一例を示すフロー図である。この排水処理設備100の操業状態推定方法において、上述した操業状態推定装置200(図1参照)は、図2に示すステップS101~S105の各処理手順を順次実行し、これにより、排水処理設備100の操業状態を推定する。
【0061】
詳細には、図2に示すように、操業状態推定装置200は、まず、操業状態の推定対象である排水処理設備100のプロセスデータを収集する(ステップS101)。ステップS101において、データ収集部210は、上記プロセスデータとして、排水処理設備100の操業条件と、上記操業条件に従って操業した排水処理設備100の観測値とを、時系列に沿って順次排水処理設備100から収集する。データ収集部210は、収集したプロセスデータを、その計測されたタイミングと対応付けて順次蓄積する。
【0062】
例えば、排水処理設備100の観測値が時間的に離散した時刻ta、tb(a、b:b>a+1を満足する整数)に計測された値である場合、データ収集部210は、互いに時間的に離散した時刻taの観測値と時刻tbの観測値とを、排水処理設備100の観測値の項目毎に時系列に沿って順次収集し、蓄積する。排水処理設備100の観測値が時間的に連続した時刻tn、tn+1(n:n≧1の整数)に計測された値である場合、データ収集部210は、互いに時間的に連続した時刻tnの観測値と時刻tn+1の観測値とを、排水処理設備100の観測値の項目毎に時系列に沿って順次収集し、蓄積する。
【0063】
上述したステップS101の実行後、操業状態推定装置200は、排水処理設備100の操業状態の予測値を導出する(ステップS102)。ステップS102において、予測処理部221は、ステップS101で収集されたプロセスデータのうち、排水処理設備100の操業条件をデータ収集部210から取得する。予測処理部221は、この取得した操業条件をプロセスモデル230に入力することにより、排水処理設備100の操業状態の予測値をプロセスモデル230から算出する。例えば、予測処理部221は、排水処理設備100の操業状態の項目毎に、時間的に連続した時刻tn、tn+1の各予測値をプロセスモデル230から取得する。予測処理部221は、上記のように導出した予測値をパラメータ調整部222へ入力する。
【0064】
上述したステップS102の実行後、操業状態推定装置200は、排水処理設備100の操業状態の予測値を排水処理設備100へ出力する(ステップS103)。ステップS103において、予測処理部221は、ステップS102で導出した予測値(例えば操業状態の項目毎に連続した時刻tn、tn+1の各予測値)を、排水処理設備100の操業状態の推定結果として排水処理設備100の表示装置やプリンタ等の出力部(図示せず)へ出力する。予測処理部221から排水処理設備100へ出力された予測値は、表示または印刷等によって視認可能なデータとなる。作業者は、このような予測値を視認することにより、排水処理設備100の現在および将来の操業状態を推定することができる。
【0065】
上述したステップS103の実行後、操業状態推定装置200は、プロセスモデル230の特定パラメータを調整する(ステップS104)。ステップS104において、パラメータ調整部222は、上述したステップS101で収集されたプロセスデータのうち排水処理設備100の操業状態の観測値を、当該操業状態の項目毎にデータ収集部210から取得する。また、パラメータ調整部222は、上述したステップS102で導出された予測値を、排水処理設備100の操業状態の項目毎に予測処理部221から取得する。パラメータ調整部222は、プロセスモデル230に含まれる複数のパラメータの中から特定パラメータを抽出し、抽出した特定パラメータを、上記のように取得した観測値と予測値との誤差を修正(低減)するように調整する。具体的には、パラメータ調整部222は、好気タンク105内のMLSS、PO4-P、NH4-NおよびNO3-Nの各濃度と、嫌気タンク103内のMLSS、PO4-P、NH4-NおよびNO3-Nの各濃度と、処理水のCOD、NO3-Nの濃度、SSの濃度およびT-Nと、返送汚泥のMLSSの濃度およびT-Nとの各々について、観測値と予測値との誤差を修正するように特定パラメータを調整する。
【0066】
また、ステップS104において、パラメータ調整部222は、カルマンフィルタを用いて特定パラメータを調整することが好ましい。パラメータ調整部222は、プロセスモデル230の特定パラメータを、上記のように調整した特定パラメータに更新する。これにより、パラメータ調整部222は、プロセスモデル230を、特定パラメータが調整されたモデルに更新する。
【0067】
例えば、パラメータ調整部222がデータ収集部210から取得した観測値が排水処理設備100の操業状態の項目毎に離間した時刻ta、tbの観測値である場合、パラメータ調整部222が予測処理部221から取得した複数の予測値(連続した時刻tn、tn+1の各予測値)には、上記操業状態の項目毎に、上記観測値と同じ時刻ta、tbの予測値が含まれる。パラメータ調整部222は、これら時刻ta、tbの観測値と予測値との誤差を修正するように特定パラメータを調整してもよい。しかし、プロセスモデル230による上記操業状態の予測精度(推定精度)を向上させるという観点から、パラメータ調整部222は、離間した時刻ta、tbの観測値を、線形補間によって複数の連続観測値(例えば連続した時刻tn、tn+1の観測値)に変換し、これら複数の連続観測値と上記複数の予測値とを用いて特定パラメータを調整することが好ましい。
【0068】
また、パラメータ調整部222がデータ収集部210から取得した観測値が排水処理設備100の操業状態の項目毎に連続した時刻tn、tn+1の観測値である場合、これら観測値の時刻tn、tn+1は、パラメータ調整部222が予測処理部221から取得した複数の予測値の時刻と同じである。この場合、パラメータ調整部222は、上記操業状態の項目毎かつ時刻毎に、これら複数の観測値と複数の予測値との誤差を修正するように特定パラメータを調整する。
【0069】
上述したステップS104の実行後、操業状態推定装置200は、プロセスモデル230のパラメータ調整結果を排水処理設備100へ出力する(ステップS105)。その後、操業状態推定装置200は、上述したステップS101に戻り、このステップS101以降の処理手順を適宜繰り返し実行する。
【0070】
ステップS105において、予測処理部221は、上述したステップS102と同じ操業条件を更新後のプロセスモデル230に入力し、これにより、当該操業条件に対応する操業状態の予測値を更新後のプロセスモデル230から取得する。パラメータ調整部222は、上記更新後のプロセスモデル230による操業状態の予測値を予測処理部221から取得し、取得した予測値を、プロセスモデル230のパラメータ調整結果として排水処理設備100へ出力する。パラメータ調整部222から排水処理設備100へ出力された予測値は、上述したステップS103における操業状態の予測値(操業状態の推定結果)と同様に、表示または印刷等によって視認可能なデータとなる。作業者は、上記パラメータ調整結果と操業状態の推定結果とを比較することにより、更新後のプロセスモデル230による排水処理設備100の操業状態の予測精度を確認することができる。
【0071】
(操業状態推定プログラム)
つぎに、本発明の実施形態に係る操業状態推定プログラムについて説明する。この操業状態推定プログラムは、上述した操業状態推定方法と同じ処理手順(図2に示すステップS101~S105参照)をコンピュータに実行させるプログラムである。例えば、図1に示す操業状態推定装置200は、CPUおよびメモリ等を備えるコンピュータによって構成される。操業状態推定プログラムは、当該コンピュータのメモリに格納され、当該CPUによって実行される。
【0072】
(予測精度評価)
つぎに、本発明の実施形態におけるプロセスモデル230の予測精度評価について説明する。プロセスモデル230は、上述したように排水処理設備100の操業状態の予測値を算出するものである。プロセスモデル230による予測値の精度は、上記操業状態の観測値が取得される都度、このプロセスモデル230の特定パラメータを調整することによって向上させることが可能である。ここでは、プロセスモデル230に含まれる複数のパラメータのうち、調整対象とするパラメータ(以下、調整対象パラメータという)を変更し、排水処理設備100の操業状態の観測値とプロセスモデル230の予測値との二乗平均平方根誤差(以下、RMSEという)により、プロセスモデル230の予測精度評価を行った。
【0073】
図3は、本発明の実施形態におけるプロセスモデル230の予測精度評価の結果を例示する図である。図3において、パラメータ#1~#4は、プロセスモデル230の調査対象パラメータである。これらのうち、パラメータ#1~#3は特定パラメータであり、詳細には、パラメータ#1は流入水成分の分画比率であり、パラメータ#2は硝化細菌の最大比増殖速度であり、パラメータ#3は酸素供給量補正値である。パラメータ#4は、特定パラメータ以外のパラメータであり、例えば、リン酸態リン濃度の半飽和定数である。また、本予測精度評価では、排水処理設備100の操業状態として処理水の水質に着目し、処理水のCOD(ここでは重クロム酸カリウムによる化学的酸素要求量(CODcr))と、処理水中のSS、NO3-NおよびNH4-Nの各濃度との各々について、RMSEを算出した。また、参考例として、プロセスモデル230のパラメータを調整しない場合のRMSEを算出した。本予測精度評価のRMSEは、プロセスモデル230のパラメータを調整しない場合を「1.0」とし、当該パラメータを調整しない場合に対する相対的な値とした。
【0074】
図3に示すように、プロセスモデル230の特定パラメータの1つである流入水成分の分画比率(パラメータ#1)を調整した場合、RMSEは、CODcr、SS、NO3-NおよびNH4-Nの全項目において、パラメータ調整無しの場合よりも低い値となった。すなわち、プロセスモデル230の流入水成分の分画比率を調整することにより、プロセスモデル230の予測精度は、これらの全項目においてパラメータ調整無しの場合よりも向上した。また、硝化細菌の最大比増殖速度(パラメータ#2)または酸素供給量補正値(パラメータ#3)を調整する場合に比べ、流入水成分の分画比率を調整した場合は、特にCODcrおよびSSの各RMSEが低い値となった。この結果から、流入水成分の分画比率は、CODcrおよびSSの各予測精度に対する寄与度が高い特定パラメータであることが分かった。
【0075】
また、図3に示すように、プロセスモデル230の特定パラメータの1つである硝化細菌の最大比増殖速度(パラメータ#2)を調整した場合、RMSEは、CODcr、SS、NO3-NおよびNH4-Nの全項目において、パラメータ調整無しの場合よりも低い値となった。すなわち、プロセスモデル230の硝化細菌の最大比増殖速度を調整することにより、プロセスモデル230の予測精度は、これらの全項目においてパラメータ調整無しの場合よりも向上した。また、流入水成分の分画比率(パラメータ#1)または酸素供給量補正値(パラメータ#3)を調整する場合に比べ、硝化細菌の最大比増殖速度を調整した場合は、特にNO3-NおよびNH4-Nの各RMSEが低い値となった。この結果から、硝化細菌の最大比増殖速度は、NO3-NおよびNH4-Nの各予測精度に対する寄与度が高い特定パラメータであることが分かった。
【0076】
また、図3に示すように、プロセスモデル230の特定パラメータの1つである酸素供給量補正値(パラメータ#3)を調整した場合、RMSEは、CODcr、SS、NO3-NおよびNH4-Nの全項目において、パラメータ調整無しの場合よりも低い値となった。すなわち、プロセスモデル230の酸素供給量補正値を調整することにより、プロセスモデル230の予測精度は、これらの全項目においてパラメータ調整無しの場合よりも向上した。また、酸素供給量補正値を調整した場合は、流入水成分の分画比率(パラメータ#1)を調整する場合に比べてNO3-NおよびNH4-Nの各RMSEが低い値となり、硝化細菌の最大比増殖速度(パラメータ#2)を調整する場合に比べてCODcrおよびSSの各RMSEが低い値となった。この結果から、酸素供給量補正値は、CODcr、SS、NO3-NおよびNH4-Nの全項目について、予測精度への寄与度が高い特定パラメータであることが分かった。
【0077】
また、図3に示すように、プロセスモデル230の全特定パラメータ(パラメータ#1、#2、#3)を調整した場合、RMSEは、CODcr、SS、NO3-NおよびNH4-Nの全項目において、パラメータ調整無しの場合よりも低く且つ1つの特定パラメータの調整の場合よりも低い値となった。すなわち、プロセスモデル230の全特定パラメータを調整することにより、プロセスモデル230の予測精度は、これらの全項目において、パラメータ調整無しの場合よりも向上することは勿論、パラメータ#1、#2、#3のいずれか1つを調整する場合よりも向上した。したがって、プロセスモデル230の全特定パラメータを調整することは、予測精度の向上において極めて有効である。
【0078】
一方、プロセスモデル230の特定パラメータ以外のパラメータ(パラメータ#4)を調整した場合、図3に示すように、RMSEは、CODcr、SS、NO3-NおよびNH4-Nの全項目において、パラメータ調整無しの場合と同程度であった。この結果から、プロセスモデル230の特定パラメータ以外のパラメータを調整しても、プロセスモデル230の予測精度の向上効果は低いことが分かった。
【0079】
以上、説明したように、本発明の実施形態では、微生物を利用して処理対象水を生物処理する排水処理設備100の操業条件と、前記操業条件に従って操業する排水処理設備100から観測された観測値とを収集し、排水処理設備100による処理対象水の生物処理プロセスを複数の数式によって表現したプロセスモデル230と前記操業条件とをもとに、排水処理設備100の操業状態の予測値を導出し、プロセスモデル230に含まれる複数のパラメータのうち、排水処理設備100から実測し難く且つ前記生物処理プロセスで行われる反応への寄与度が大きい特定パラメータを、前記観測値と前記予測値との誤差を修正するように調整し、調整後の前記特定パラメータをプロセスモデル230に適用している。
【0080】
このため、プロセスモデルに含まれる多くのパラメータを、処理対象水の水質や流入量等の処理状況および経験則をもとに試行錯誤して調整する必要がなく、調整対象とするパラメータを特定パラメータのみに絞り込み、当該特定パラメータの調整によって簡易に、反応タンク内に混在する多種多様な微生物の生物反応を継続して高精度に表現するプロセスモデル230を構築または更新することができる。これにより、プロセスモデルの構築または更新のために排水処理設備から収集するプロセスデータの量を減らせるとともに、アルゴリズム実装に要する手間を大幅に省くことができるため、処理対象水の生物処理プロセスを高精度に表現し得るプロセスモデルを構築することができるとともに、当該プロセスモデルの構築に要する時間および労力を低減することができる。
【0081】
また、本発明の実施形態では、プロセスモデル230の特定パラメータを、カルマンフィルタを用いて調整している。このため、排水処理設備100の操業状態の観測値と予測値との誤差を修正するように特定パラメータを調整するための推定フィルタ(アルゴリズム)の構築および実装に掛かる手間を低減できるとともに、特定パラメータの調整を簡易かつ高精度に実行することができる。
【0082】
また、本発明の実施形態では、プロセスモデル230の調整対象とする特定パラメータを、排水処理設備100に流入する流入水成分の分画比率と、反応タンク102内の硝化反応に関わる硝化細菌の最大比増殖速度と、反応タンク102内の酸素供給量の補正値とのうち少なくとも1つとしている。このため、排水処理設備100から収集する観測値を、好気タンク105内のMLSS、PO4-P、NH4-NおよびNO3-Nの各濃度と、嫌気タンク103内のMLSS、PO4-P、NH4-NおよびNO3-Nの各濃度と、処理水のCOD、NO3-Nの濃度、SSの濃度およびT-Nと、返送汚泥のMLSSの濃度およびT-Nとに絞り込めるとともに、これらの観測値と同じ項目の予測値の導出精度(すなわち予測精度)に対する寄与度が高い特定パラメータを調整対象とすることができる。したがって、特定パラメータの調整による予測精度の向上をより簡易かつ効率よく実行することができる。
【0083】
また、本発明の実施形態では、排水処理設備100から時間的に離散した観測値を収集した場合、収集した複数の観測値を、線形補間によって時間的に連続した複数の連続観測値に変換し、複数の連続観測値の各々を用いてプロセスモデル230の特定パラメータを調整している。このため、プロセスモデル230を、より予測精度の高いプロセスモデルに更新することができ、これにより、排水処理設備100の操業状態の予測精度(推定精度)をより向上させることができる。
【0084】
なお、上述した実施形態では、処理対象水の流通方向に嫌気タンク103と無酸素タンク104と好気タンク105とがこの順に並ぶよう接続された反応タンク102を例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、反応タンク102は、処理対象水の流通方向に無酸素タンク104と好気タンク105と嫌気タンク103とがこの順に並ぶよう接続されたものであってもよい。また、反応タンク102に含まれるタンクは、嫌気タンク103のみであってもよいし、好気タンク105のみであってもよいし、無酸素タンク104および好気タンク105のみであってもよい。また、上述したプロセスモデル230は、反応タンク102の構成に対応して、嫌気タンク103、無酸素タンク104および好気タンク105の各々における内部状態に関する複数のモデル式を含むものであってもよいし、少なくとも嫌気タンク103の内部状態に関するモデル式を含むものであってもよいし、少なくとも好気タンク105の内部状態に関するモデル式を含むものであってもよい。
【0085】
また、上述した実施形態では、予測処理部221から排水処理設備100へ出力した予測値(排水処理設備100の操業状態の推定結果)を、作業者が視認し得るように表示または印刷するようにしていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、予測処理部221による予測値を排水処理設備100の制御装置(図示せず)へ出力し、当該制御装置が、予測処理部221から取得した予測値をもとに、排水処理設備100の操業を最適化するよう自動制御してもよい。
【0086】
また、上述した実施形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
100 排水処理設備
101 最初沈殿池
102 反応タンク
103 嫌気タンク
104 無酸素タンク
105 好気タンク
106 最終沈殿池
200 操業状態推定装置
210 データ収集部
220 演算処理部
221 予測処理部
222 パラメータ調整部
230 プロセスモデル
240 制御部
図1
図2
図3