(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127244
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】渋滞予測装置および渋滞予測方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/01 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G08G1/01 E
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036261
(22)【出願日】2023-03-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】397036309
【氏名又は名称】株式会社インターネットイニシアティブ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100195408
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】柿島 純
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB20
5H181DD04
5H181FF03
(57)【要約】
【課題】より簡易な構成で高精度かつリアルタイムに渋滞状況を把握することを目的とする。
【解決手段】
複数の通信エリアA1~Anにわたって存在する道路の渋滞を予測する渋滞予測装置1であって、道路を構成する各区間をカバーする各通信エリアA1~Anの各基地局BS1~BSnで受信された、道路を移動する車両からの位置登録信号の数を収集するように構成された収集部10と、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を未知の入力として学習済みの分類器に与え、学習済みの分類器の演算を行って、車両の速度の減速割合Nの値に関する分類クラスを出力するように構成された分類部14と、分類部14が出力した分類クラスに基づいて、道路の渋滞の有無を提示するように構成された提示部15とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の通信エリアにわたって存在する道路の渋滞を予測する渋滞予測装置であって、
前記道路を構成する各区間をカバーする各通信エリアの各基地局で受信された、前記道路を移動する車両からの位置登録信号の数を収集するように構成された収集部と、
前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を未知の入力として学習済みの分類器に与え、前記学習済みの分類器の演算を行って、前記車両の速度の減速割合の値に関する分類クラスを出力するように構成された分類部と、
前記分類部が出力した前記分類クラスに基づいて、前記道路の渋滞の有無を提示するように構成された提示部と
を備える渋滞予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の渋滞予測装置において、
前記各基地局で受信された前記位置登録信号は、前記各基地局に関する識別情報と関連付けて、所定の通信規格のコアネットワークに含まれる、加入者情報を管理する統合データリポジトリに記憶され、
前記収集部は、前記統合データリポジトリから、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を収集する
ことを特徴とする渋滞予測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の渋滞予測装置において、
さらに、前記各通信エリアによってカバーされる前記道路の前記各区間を単位時間で移動する前記車両の台数、前記車両の速度、前記車両の前記速度の減速割合、および前記各通信エリアの直径に基づいて、前記減速割合の各値における、前記各基地局で受信される前記位置登録信号の数の理論値を求めるように構成された演算部と、
前記理論値を教師データとして、前記各基地局で受信される前記位置登録信号の数と、前記減速割合との関係を学習し、前記学習済みの分類器を構築するように構成された学習部と
を備える渋滞予測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の渋滞予測装置において、
前記収集部は、前記道路を走行する前記車両が現在在圏している通信エリアから隣接する通信エリアに到達するまでの時間を考慮して設定された時間間隔で、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を順番に収集する
ことを特徴とする渋滞予測装置。
【請求項5】
複数の通信エリアにわたって存在する道路の渋滞を予測する渋滞予測方法であって、
前記道路を構成する各区間をカバーする各通信エリアの各基地局で受信された、前記道路を移動する車両からの位置登録信号の数を収集する第1ステップと、
前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を未知の入力として学習済みの分類器に与え、前記学習済みの分類器の演算を行って、前記車両の速度の減速割合の値に関する分類クラスを出力する第2ステップと、
前記第2ステップで出力された前記分類クラスに基づいて、前記道路の渋滞の有無を提示する第3ステップと
を備える渋滞予測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の渋滞予測方法において、
さらに、前記各基地局で受信された前記位置登録信号が、前記各基地局に関する識別情報と関連付けられて、所定の通信規格のコアネットワークに含まれる、加入者情報を管理する統合データリポジトリに記憶される第4ステップ
を備え、
前記第1ステップは、前記統合データリポジトリから、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を収集する
ことを特徴とする渋滞予測方法。
【請求項7】
請求項5に記載の渋滞予測方法において、
さらに、前記各通信エリアによってカバーされる前記道路の前記各区間を単位時間で移動する前記車両の台数、前記車両の速度、前記車両の前記速度の減速割合、および前記各通信エリアの直径に基づいて、前記減速割合の各値における、前記各基地局で受信される前記位置登録信号の数の理論値を求める第5ステップと、
前記理論値を教師データとして、前記各基地局で受信される前記位置登録信号の数と、前記減速割合との関係を学習し、前記学習済みの分類器を構築する第6ステップと
を備える渋滞予測方法。
【請求項8】
請求項5に記載の渋滞予測方法において、
前記第1ステップは、前記道路を走行する前記車両が現在在圏している通信エリアから隣接する通信エリアに到達するまでの時間を考慮して設定された時間間隔で、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を順番に収集する
ことを特徴とする渋滞予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渋滞予測装置および渋滞予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、道路に設置された感知器による車の検知情報に基づいて、道路の渋滞情報を提供する技術が知られている。例えば、特許文献1は、道路に設置されたセンサで道路の所定区間の平均交通量および平均速度を測定し、平均交通量と平均速度との相関分布データから、渋滞予測を行う渋滞予測装置を開示している。
【0003】
しかし、特許文献1に開示された技術では、道路に沿ってセンサを配置しなければならず、さらに、センサの故障や動作不良により、渋滞予測の精度が低下する場合があった。
【0004】
また、別の従来の渋滞予測技術として、GPSを利用した通信モバイル端末の位置情報や、車の位置情報を利用して、渋滞状況の把握や渋滞予測を行う技術が知られている。例えば、特許文献2は、車の位置情報に加え、車のブレーキ操作回数およびアクセル操作回数が一定期間内で所定回数以上であれば、渋滞していると予測する技術を開示している。
【0005】
しかし、特許文献2に開示された技術では、予測精度を向上させるために、車の位置情報に加えて車の操作情報を収集するため、ブレーキ踏圧センサやアクセル開度センサなどを備えた装置を車に搭載する必要がある。
【0006】
また、Googleマップ(登録商標)においては、スマートフォンの現在地の機能が有効化されているユーザの位置情報と速度データとを用いて、渋滞状況を把握している。しかし、ユーザの位置情報を収集するにはユーザによる許諾が必要であるため、渋滞予測に必要なデータ収集における不確実性が伴い、予測精度が十分得られない場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-309735号公報
【特許文献2】特開2021-086522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来の技術では、より簡易な構成で高精度かつリアルタイムに渋滞状況を把握することは困難であった。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、より簡易な構成で高精度かつリアルタイムに渋滞状況を把握することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明に係る渋滞予測装置は、複数の通信エリアにわたって存在する道路の渋滞を予測する渋滞予測装置であって、前記道路を構成する各区間をカバーする各通信エリアの各基地局で受信された、前記道路を移動する車両からの位置登録信号の数を収集するように構成された収集部と、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を未知の入力として学習済みの分類器に与え、前記学習済みの分類器の演算を行って、前記車両の速度の減速割合の値に関する分類クラスを出力するように構成された分類部と、前記分類部が出力した前記分類クラスに基づいて、前記道路の渋滞の有無を提示するように構成された提示部とを備える。
【0011】
また、本発明に係る渋滞予測装置において、前記各基地局で受信された前記位置登録信号は、前記各基地局に関する識別情報と関連付けて、所定の通信規格のコアネットワークに含まれる、加入者情報を管理する統合データリポジトリに記憶され、前記収集部は、前記統合データリポジトリから、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を収集してもよい。
【0012】
また、本発明に係る渋滞予測装置において、さらに、前記各通信エリアによってカバーされる前記道路の前記各区間を単位時間で移動する前記車両の台数、前記車両の速度、前記車両の前記速度の減速割合、および前記各通信エリアの直径に基づいて、前記減速割合の各値において前記各基地局で受信される前記位置登録信号の数の理論値を求めるように構成された演算部と、前記理論値を教師データとして、前記各基地局で受信される前記位置登録信号の数と、前記減速割合との関係を学習し、前記学習済みの分類器を構築するように構成された学習部とを備えていてもよい。
【0013】
また、本発明に係る渋滞予測装置において、前記収集部は、前記道路を走行する前記車両が現在在圏している通信エリアから隣接する通信エリアに到達するまでの時間を考慮して設定された時間間隔で、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を収集してもよい。
【0014】
上述した課題を解決するために、本発明に係る渋滞予測方法は、複数の通信エリアにわたって存在する道路の渋滞を予測する渋滞予測方法であって、前記道路を構成する各区間をカバーする各通信エリアの各基地局で受信された、前記道路を移動する車両からの位置登録信号の数を収集する第1ステップと、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を未知の入力として学習済みの分類器に与え、前記学習済みの分類器の演算を行って、前記車両の速度の減速割合の値に関する分類クラスを出力する第2ステップと、前記第2ステップで出力された前記分類クラスに基づいて、前記道路の渋滞の有無を提示する第3ステップとを備える。
【0015】
また、本発明に係る渋滞予測方法において、さらに、前記各基地局で受信された前記位置登録信号が、前記各基地局に関する識別情報と関連付けられて、所定の通信規格のコアネットワークに含まれる、加入者情報を管理する統合データリポジトリに記憶される第4ステップを備え、前記第1ステップは、前記統合データリポジトリから、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を収集してもよい。
【0016】
また、本発明に係る渋滞予測方法において、さらに、前記各通信エリアによってカバーされる前記道路の前記各区間を単位時間で移動する前記車両の台数、前記車両の速度、前記車両の前記速度の減速割合、および前記各通信エリアの直径に基づいて、前記減速割合の各値において前記各基地局で受信される前記位置登録信号の数の理論値を求める第5ステップと、前記理論値を教師データとして、前記各基地局で受信される前記位置登録信号の数と、前記減速割合との関係を学習し、前記学習済みの分類器を構築する第6ステップとを備えていてもよい。
【0017】
また、本発明に係る渋滞予測方法において、前記第1ステップは、前記道路を走行する前記車両が現在在圏している通信エリアから隣接する通信エリアに到達するまでの時間を考慮して設定された時間間隔で、前記各基地局で受信された前記位置登録信号の数を収集してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、道路を構成する各区間をカバーする各通信エリアの各基地局で受信された、車両からの位置登録信号の数を収集し、各基地局で受信された位置登録信号の数を入力として学習済みの分類器に与え、学習済み分類器の演算を行って、車両の速度の減速割合の値に関する分類クラスを出力する。そのため、より簡易な構成で高精度かつリアルタイムに渋滞状況を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る渋滞予測装置を含む渋滞予測システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態に係る渋滞予測装置の概要を説明するための図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態に係る渋滞予測装置で用いる分類器を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態に係る渋滞予測装置で用いる分類器を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本実施の形態に係る渋滞予測装置で用いる分類器を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本実施の形態に係る渋滞予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、本実施の形態に係る渋滞予測装置の動作を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、本実施の形態に係る渋滞予測装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施の形態について、
図1から
図8を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明では、渋滞予測装置1が、5G通信規格の移動通信システムを利用する場合を例に挙げるが、渋滞予測装置1は4G通信規格の移動通信システムを利用する構成であってもよい。
【0021】
[渋滞予測システムの構成]
まず、本発明の実施の形態に係る渋滞予測装置1を備える渋滞予測システムの概要について説明する。
図1に示すように、渋滞予測システムは、高速道路などの幹線道路(道路)における渋滞の発生を予測する。渋滞予測を行う幹線道路は、5G移動通信システムを構築する基地局BS1,BS2,BS3,・・・,BSnの各々の通信エリアA1,A2,A3,・・・,Anによって規定される。
【0022】
図1に示すように、各基地局BS1~BSnの通信エリアA1~Anは、幹線道路を構成する各区間をカバーするように配置されている。なお、以下の説明では、「通信エリアA1~An」といった場合に、通信エリアA1~Anがそれぞれカバーする幹線道路の区間と同義として用いる場合がある。
【0023】
幹線道路を走行する車両には、通信端末5が搭載されている。車両には、自動車、原動機付自動車、自動二輪車などが含まれる。通信端末5は、SIM50を備え、車両に搭載されている通信端末装置、あるいは車両を利用するユーザのスマートフォンなどの携帯通信端末、タブレット型コンピュータなどとして実現される。各車両は、通信端末5が備えるSIM50のIMSI(International Mobile Subscriber Identity)によって一意に識別される。また、通信端末5は、幹線道路に対する進行方向を、例えば、カーナビゲーションシステムや通信端末5のGPS位置情報に基づいて取得することができる。
【0024】
本実施の形態に係る渋滞予測システムは、渋滞予測装置1、車両に搭載される通信端末5、基地局BS1~BSn、5Gコアネットワークを構成するAMF(Access and Mobility Management Function)サーバ2、UDM(Unified Data Management)サーバ3、およびUDR(統合データリポジトリ:Unified Data Repository)サーバ4を備える。渋滞予測装置1は、UDRサーバ4とWAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、インターネットなどのネットワークNWを介して接続されている。
【0025】
基地局BS1~BSnは、コアネットワークと接続して通信エリアA1~Anに在圏する通信端末5からのユーザパケットを転送する。AMFサーバ2は、パケット通信用のセッションの設定、開放やハンドオーバーの制御など移動管理やベアラ制御を行う移動管理制御装置である。UDMサーバ3は、加入者プロファイル情報などが格納される加入者情報管理装置である。UDRサーバ4は、通信端末5の加入者情報および加入者の通信端末5の状態などの情報を格納する統合データリポジトリである。
【0026】
本実施の形態では、
図1に示すように、車両が幹線道路を進行方向に走行するにしたがって、幹線道路の最初の区間をカバーする基地局BS1の通信エリアA1から、第2番目の区間をカバーする基地局B2の通信エリアA2、第3番目の区間をカバーする基地局BS3の通信エリアA3へと順番に移動する。
【0027】
例えば、車両が基地局BS1の通信エリアA1から基地局BS2の通信エリアA2をまたがった際に、通信端末5は、基地局BS2およびAMFサーバ2を介してUDMサーバ3に位置登録要求を行うために位置登録信号を送信する。本実施の形態においては、通信端末5は、位置登録信号および端末識別情報に加えて、幹線道路における通信端末5の進行方向を示す情報をAMFサーバ2に送信する。
【0028】
AMFサーバ2は、受信した信号をUDMサーバ3に対して送信し、UDMサーバ3は、通信端末5の端末識別情報により位置登録を行う。さらに、通信端末5が送信した位置登録信号、端末識別情報、および進行方向を示す情報は、UDRサーバ4において、在圏する基地局BS1~BSnおよび通信エリアA1~Anに関する識別情報、ならびに位置登録信号の送信時刻とともに記憶される。
【0029】
本実施の形態に係る渋滞予測装置1は、ネットワークNWを介して、UDRサーバ4に記憶されている各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を収集し、幹線道路の渋滞を予測する。
【0030】
図2は、本実施の形態に係る渋滞予測装置1を備える渋滞予測システムの概要を示す模式図である。
図2の(a)は、幹線道路において渋滞が発生している状況で、各基地局BS1~BSnにおいて受信される位置登録信号の数を、矢印により模式的に表した図である。
図2の(b)は、幹線道路で渋滞が発生していない場合において、各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数を、矢印により模式的に表した図である。
【0031】
車両が走行する幹線道路の一区間の距離は、各基地局BS1~BSnがカバーする各通信エリアA1~Anの直径D[km]に対応し、各基地局BS1~BSnの通信エリアA1~Anの直径は同じであるとする。また、幹線道路の第1番目の区間をカバーする基地局BS1の通信エリアA1に入ってくる車両の台数は、
図2の(a)および(b)の場合で同じ台数であるものとする。
【0032】
例えば、基地局BS1の通信エリアA1がカバーする幹線道路の区間から、隣接する基地局BS2の通信エリアA2がカバーする第2番目の区間に移動するまでの時間は、(通信エリアの直径D)/(車両の速度)で表される。したがって、各基地局BS1~BSnが、例えば1秒間あたりに受信する位置登録信号の数は、渋滞が生じた場合と、生じていない場合とで比較した場合、渋滞が生じていない場合の方が多くなる(
図2の(a)、(b)の矢印の数)。
【0033】
このように、本実施の形態では、車両の速度の変化により位置登録信号の数が増減する性質を利用して幹線道路の渋滞を予測する。
【0034】
[渋滞予測装置の機能ブロック]
図1に示すように、渋滞予測装置1は、収集部10、演算部11、学習部12、分類器記憶部13、分類部14、および提示部15を備え、複数の通信エリアA1~Anにわたって存在する幹線道路の渋滞を予測する。
【0035】
収集部10は、幹線道路を構成する各区間をカバーする各通信エリアA1~Anの各基地局BS1~BSnで受信された、幹線道路を移動する車両からの位置登録信号の数を収集する。具体的には、収集部10は、ネットワークNWを介してUDRサーバ4から、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を収集する。また、位置登録信号は、車両に搭載されている通信端末5から送信された信号である。
【0036】
さらに、収集部10は、幹線道路を走行する車両が現在在圏している通信エリアA1~An-1から隣接する通信エリアA2~Anに到達するまでの時間を考慮して設定された時間間隔で、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を順番に収集する。なお、収集部10が、設定された時間間隔で、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号を収集する収集タイミングについては後述する。
【0037】
演算部11は、各通信エリアA1~Anによってカバーされる幹線道路の各区間を単位時間で移動する車両の台数L、車両の速度M[km/h]、車両の速度の減速割合N、および各通信エリアA1~Anの直径D[km]に基づいて、減速割合Nの各値における各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数の理論値を求める。本実施の形態では、1分間に各通信エリアA1~Anを通過する車両の台数をLとする。また、車両の台数L、車両の速度M[km/h]、および車両の速度の減速割合Nは事前に設定された値であり、通信エリアAの直径D[km]は既知の値である。
【0038】
図3は、車両の速度の減速割合Nの各値における、各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数の理論値を説明するための図である。
図3に示すように、第1番目の通信エリアBS1に車両が入ってくる点を起点(i)とし、この起点(i)での車両の速度M[km]を基準として、車両の速度の減速割合Nが定められる。例えば、起点(i)での車両の速度が80[km/h]である場合に、次の通信エリアA2に到達するまでに車両の速度が減速し、72[km/h]となった場合、減速割合Nは0.9と表される。また、本実施の形態では、幹線道路全体を通じて、車両の速度の減速割合Nの値が一定の値である場合を仮定する。
【0039】
これらの前提に基づいて、まず
図3の起点(i)において、第1番目の通信エリアA1にL台の車両が到達するまでの時間は、[通信エリアの直径D(km)]/[L台の車両の速度M(km/h)]と表される。また、通信エリアA1にL台の車両が移動してくることで基地局BS1において受信される、位置登録信号の数をL[個]とする。
【0040】
続いて、
図3の(ii)の時点において、L台の車両が通信エリアA1から第2番目の通信エリアA2に到達するまでの時間は、[通信エリアの直径D(km)]/[{L台の車両の速度M(km/h)}×{車両の速度の減速割合N}]と表される。さらに、通信エリアA2の基地局BS2で受信される位置登録信号の数は次の式(1)で表される。
【数1】
【0041】
続いて、
図3の(iii)の時点において、L台の車両が通信エリアA2から第3番目の通信エリアA3に到達するまでの時間は、[通信エリアの直径D(km)]/[{L台の車両の速度M(km/h)}×{車両の速度の減速割合N}×{車両の速度の減速割合N}]と表される。通信エリアA3の基地局BS3で受信される位置登録信号の数は次の式(2)で表される。
【数2】
【0042】
さらに、
図3の(n)の時点において、L台の車両が通信エリアAn-1からn番目の通信エリアAnに到達するまでの時間は、[通信エリアAnの直径D(km)]/[{L台の車両の速度M(km/h)}×{車両の速度の減速割合N
n}]と表される。さらに、通信エリアAnの基地局BSnで受信される位置登録信号の数は次の式(3)で表される。
【数3】
【0043】
このように、演算部11は、上式(3)にしたがって、減速割合Nの各値での各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数の理論値を求め、後述の学習部12に渡す。
【0044】
学習部12は、上式(3)によって示される、減速割合Nの各値における、各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数の理論値を教師データとして、各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数と、減速割合Nとの関係を学習し、学習済みの分類器を構築する。このように、学習部12が分類器の学習に用いる教師データは、各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数に減速割合Nの値がラベル付けされたデータとすることができる。
【0045】
図4は、本実施の形態で用いる分類器を説明するための図である。
図4の左側の縦軸は、上式(3)で与えられる位置登録信号の数を示し、右側の縦軸は、減速割合Nの値、つまり、渋滞分類クラスを示している。また、横軸は、基地局BS1~Bnの番号を示している。ここで、右側の縦軸が示す渋滞分類クラスは、減速割合Nの値に基づいて、「渋滞あり」、「やや渋滞」、「渋滞なし」等の多クラスとして任意に設定することができる。あるいは、「渋滞あり」および「渋滞なし」等の2クラスを採用することができる。
【0046】
例えば、
図4に示すように、減速割合Nの値が1~0.8の範囲については、渋滞分類クラス「渋滞なし」、減速割合Nの値が0.7~0.4の範囲については、渋滞分類クラス「やや渋滞」、さらに、減速割合Nの値が0.3~0.1の範囲については、渋滞分類クラス「渋滞あり」として設定することができる。
【0047】
図5は、本実施の形態における分類器の一例として用いるニューラルネットワークの構造を示す模式図である。また、ニューラルネットワークは、入力層x、隠れ層h、出力層yからなる多層構造を用いることができる。入力層xの各入力ノードには、各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数が与えられる。
【0048】
図5に示すニューラルネットワークは、入力層xに与えられた各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数に対して、入力の重み付け総和に活性化関数を適用し、閾値処理により決定された出力を出力層yに渡す。出力層の各出力ノードは、少なくとも2つの渋滞分類クラスを示す。また、出力層yは、入力データが各渋滞分類クラスに属する確率を出力することができる。
【0049】
学習部12は、各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数を入力として与えたときの出力が、教師データのラベルに示される減速割合Nの値となるように、ノード間の結線の重みwを調整する。学習部12は、例えば、誤差逆伝搬などを利用して、与えた入力値に対して、得られた出力値を比較し、それぞれの重みwの誤差を調べて逆方向に伝搬していき、最終的に重みwなどのパラメータを決定することができる。このような学習処理を経て、学習部12は、学習済みの分類器を構築する。
【0050】
学習部12によって構築された学習済みの分類器は、分類器記憶部13に記憶される。また、分類器記憶部13は、学習前の分類器についても記憶する。
【0051】
分類部14は、収集部10が収集した、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を未知の入力として学習済みの分類器に与え、学習済み分類器の演算を行って、車両の速度の減速割合Nの値に関する渋滞分類クラスを出力する。
【0052】
ここで、収集部10がUDRサーバ4から収集する各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数の収集タイミングについて説明する。前述したように、収集部10は、幹線道路を走行する車両が現在在圏している通信エリアA1~An-1から隣接する通信エリアA2~Anに到達するまでの時間を考慮して設定された時間間隔で、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を順番に収集する。
【0053】
例えば、通信エリアA1がカバーする区間を走行中の車両が、次の通信エリアA2がカバーする区間に到達するまでの時間は、前述したように[通信エリアの直径D(km)]/[{L台の車両の速度M(km/h)}×{車両の速度の減速割合N}]と表される。したがって、収集部10は、第1番目の基地局BS1で受信された位置登録信号の数をUDRサーバ4から収集した時刻t1に、D/(M×N)[h]を加えた時刻t2に、第2番目の基地局BS2で受信された位置登録信号の数を収集することができる。
【0054】
同様に、通信エリアA2がカバーする区間を走行中の車両が、次の通信エリアA3がカバーする区間に到達するまでの時間は、前述したように、[通信エリアの直径D(km)]/[{L台の車両の速度M(km/h)}×{車両の速度の減速割合N}×{車両の速度の減速割合N}]と表される。したがって、第2番目の基地局BS2で受信された位置登録信号の数をUDRサーバ4から収集した時刻t2にさらに、D/(M×N×N)[h]を加えた時刻t3に、第3番目の基地局BS3で受信された位置登録信号の数を収集することができる。
【0055】
本実施の形態では、渋滞の発生を予測することを目的とするため、例えば、車両の速度の減速割合が大きいことを示すNの値として、N=0.1、N=0.2、およびN=0.3の3つのパターンでの各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数の収集タイミングを設定することができる。なお、収集部10は、車両の速度の減速割合Nの全ての値ごとに各基地局BS1~BSnでの収集タイミングを決定することも可能である。
【0056】
また、収集部10は、複数の基地局BS1~BSnのうちのいずれかの基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数が一定数以上であることを契機として、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数の収集を開始することができる。このような設定を用いることで、渋滞が発生している可能性が一定以上の存在する場合に、分類部14での分類処理を行う構成とすることができる。
【0057】
図1に戻り、提示部15は、分類部14が出力した渋滞分類クラスに基づいて、幹線道路の渋滞の有無を提示する。例えば、提示部15は、分類部14が出力した渋滞分類クラス「渋滞あり」(N=0.1~0.3)である場合に、外部のサーバなどに対して、幹線道路の識別情報、時刻、および渋滞が発生していることを示す情報を送出することができる。
【0058】
[渋滞予測装置のハードウェア構成]
次に、上述した機能を有する渋滞予測装置1を実現するハードウェア構成の一例について、
図6を用いて説明する。
【0059】
図6に示すように、渋滞予測装置1は、例えば、バス101を介して接続されるプロセッサ102、主記憶装置103、通信インターフェース104、補助記憶装置105、入出力I/O106を備えるコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。
【0060】
主記憶装置103には、プロセッサ102が各種制御や演算を行うためのプログラムが予め格納されている。プロセッサ102と主記憶装置103とによって、
図1に示した収集部10、演算部11、学習部12、分類部14など渋滞予測装置1の各機能が実現される。
【0061】
通信インターフェース104は、渋滞予測装置1と各種外部電子機器との間をネットワーク接続するためのインターフェース回路である。
【0062】
補助記憶装置105は、読み書き可能な記憶媒体と、その記憶媒体に対してプログラムやデータなどの各種情報を読み書きするための駆動装置とで構成されている。補助記憶装置105には、記憶媒体としてハードディスクやフラッシュメモリなどの半導体メモリを使用することができる。
【0063】
補助記憶装置105は、渋滞予測装置1が実行する渋滞予測プログラムを格納するプログラム格納領域を有する。また、補助記憶装置105は、分類器の学習を行うための学習プログラムを格納する領域を有する。補助記憶装置105によって、
図1で説明した分類器記憶部13が実現される。さらには、例えば、上述したデータやプログラムなどをバックアップするためのバックアップ領域などを有していてもよい。
【0064】
入出力I/O106は、外部機器からの信号を入力したり、外部機器へ信号を出力したりする入出力装置である。
【0065】
[渋滞予測装置の動作]
次に、上述した構成を有する渋滞予測装置1の動作を、
図7および
図8のフローチャートを参照して説明する。
図7は、渋滞予測装置1による学習処理を示すフローチャートである。
図8は、渋滞予測装置1による、学習済みの分類器を用いた分類処理を示すフローチャートである。
【0066】
まず、渋滞予測装置1による分類器の学習処理について
図7を参照して説明する。まず、演算部11は、分類器の学習に用いる教師データを用意する(ステップS1)。具体的には、演算部11は、幹線道路の各道路区間をカバーする各通信エリアA1~Anを単位時間で移動する車両の台数L、車両の速度M[km/h]、車両の速度の減速割合N、および各通信エリアA1~Anの直径D[km]に基づいて、車両の速度の減速割合Nの各値においての各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数の理論値を求める。
【0067】
ステップS1における教師データは、各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数に車両の速度の減速割合Nの値が正解ラベルとして付されたデータである。
【0068】
次に、学習部12は、ステップS2で求められた理論値を教師データとして、各基地局BS1~BSnで受信される位置登録信号の数と、車両の速度の減速割合Nとの関係を学習し、学習済みの分類器を構築する(ステップS3)。なお、学習部12は、位置登録信号の数と、所定の減速割合Nの値(例えば、
図4のN=0.1~0.3)との関係を分類器に学習させることもできる。
【0069】
続いて、分類器記憶部13は、ステップS3で構築された学習済みの分類器を記憶する(ステップS4)。以上により、学習済みの分類器が構築される。
【0070】
次に、
図8を参照して渋滞予測装置1による分類処理を説明する。まず、分類部14は、分類器記憶部13から学習済みの分類器をロードする(ステップS10)。次に、収集部10は、ネットワークNWを介して、UDRサーバ4から各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を収集する(ステップS11)。
【0071】
具体的には、収集部10は、車両が各通信エリアA1~An-1を移動して隣接する次の通信エリアA2~Anへ到達するまでの時間を考慮して設定された時間間隔で、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を順番に収集する。より詳細には、収集部10は、第1番目の基地局BS1で位置登録信号が受信された時刻t1から一定時間(D/(M×N))経過した時刻t2に第2番目の基地局BS2で受信された位置登録信号の数を収集する。同様に、収集部10は、第3番目から第n番目の基地局BS3~BSnで受信した位置登録信号の数を、時刻t1から一定時間後の時刻t3~tnでそれぞれ収集することができる。
【0072】
また、ステップS11において、収集部10は、複数の通信エリアA1~Anのうちのいずれかの通信エリアA1~Anの基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数が一定数以上である場合に、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の収集を開始することができる。
【0073】
次に、分類部14は、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を未知の入力として学習済みの分類器に与え、学習済みの分類器の演算を行って、車両の減速割合Nの値に関する渋滞分類クラスを出力する(ステップS12)。分類部14は、例えば、
図5に示すニューラルネットワークで構成される学習済みの分類器の演算を行い、多クラス分類または2クラス分類による分類結果を出力することができる。
【0074】
続いて、提示部15は、ステップS12で分類部14が出力した渋滞分類クラスに基づいて、幹線道路の渋滞の有無を提示する(ステップS13)。提示部15は、例えば、分類部14が出力した各渋滞分類クラスに基づいて、外部のサーバなどに対して、幹線道路の識別情報、時刻、および渋滞の発生の有無を示す情報を送出することができる。以上の処理により、分類処理が終了する。
【0075】
なお、上述した実施の形態では、分類器としてニューラルネットワークを用いる場合について説明した。しかし、分類器は、上述したニューラルネットワークモデルの他、ロジスティック回帰などの識別器を用いることができる。ロジスティック回帰を用いた場合には、各渋滞分類クラスを予測できる確率値を分類クラス数だけ得ることができる。したがって、各渋滞分類クラスに対する確率を出力し、最も確率の高い分類クラスが渋滞有無の予測値として採用される。その他にも、分類器として、SVM、ナイーブベイズ、ランダムフォレスト、決定木等、さらにニューラルネットワークを多層化したディープラーニングを用いてもよい。
【0076】
また、上述した実施の形態では、分類部14は、事前に学習部12が学習し構築した分類器を用いて、分類処理を行う場合について説明した。しかし、分類部14は、事前学習により構築された分類器を用いる場合に限らない。例えば、学習部12は、収集部10が収集した実データに基づく新たな教師データにより、学習済みの分類器の再学習を行って、重みなどパラメータの微調整を行うことができる。
【0077】
また、上述した実施の形態では、学習処理を行う学習部12および分類処理を行う分類部14の両方の機能部が渋滞予測装置1に搭載される場合について説明した。しかし、学習部12および分類部14は同一のハードウェア構成として設けられている場合の他、複数のサーバ等によって、学習処理と分類処理とをネットワークNW上の別のサーバ等により分散することもできる。
【0078】
以上説明したように、本実施の形態に係る渋滞予測装置1によれば、各通信エリアA1~Anの各基地局BS1~BSnで受信された、車両からの位置登録信号の数を収集する。さらに、各基地局BS1~BSnで受信された位置登録信号の数を未知の入力として学習済みの分類器に与え、学習済みの分類器の演算を行って、車両の速度の減速割合Nの値に関する渋滞分類クラスを出力する。したがって、より簡易な構成で高精度かつリアルタイムに渋滞状況を把握することができる。
【0079】
以上、本発明の渋滞予測装置および渋滞予測方法における実施の形態について説明したが、本発明は説明した実施の形態に限定されるものではなく、請求項に記載した発明の範囲において当業者が想定し得る各種の変形を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…渋滞予測装置、2…AMFサーバ、3…UDMサーバ、4…UDRサーバ、5…通信端末、50…SIM、10…収集部、11…演算部、12…学習部、13…分類器記憶部、14…分類部、15…提示部、101…バス、102…プロセッサ、103…主記憶装置、104…通信インターフェース、105…補助記憶装置、106…入出力I/O、NW…ネットワーク、BS1~BSn…基地局、A1~An…通信エリア。