IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-テーパ付き円筒 図1
  • 特開-テーパ付き円筒 図2
  • 特開-テーパ付き円筒 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127285
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】テーパ付き円筒
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/10 20150101AFI20240912BHJP
   A01K 87/00 20060101ALI20240912BHJP
   A63B 102/32 20150101ALN20240912BHJP
【FI】
A63B53/10 A
A01K87/00 630A
A63B102:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036328
(22)【出願日】2023-03-09
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケブラー
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】附田 拓也
【テーマコード(参考)】
2B019
2C002
【Fターム(参考)】
2B019AB03
2B019AB04
2B019AB14
2B019AB15
2B019AB37
2C002AA05
2C002CS05
2C002MM02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ゴルフクラブ用シャフトや釣り竿の柄の部分に用いた場合に、先端補強材によるシャフト全体の重量増加を抑制しつつ、シャフト全体の破壊強度を向上させたテーパ付き円筒を提供することを目的とする。
【解決手段】テーパ付きの円筒形状を有し、該円筒の軸方向の全長をLとしたとき、該円筒の軸方向に、1層以上の強化繊維が一方向に配向された繊維強化樹脂層からなる基本部材と、該基本部材において、該円筒の軸方向における細径側の端部をAとして、端部Aからの軸方向長さが1/5L以上かつ1/2L以下の範囲をBとするとき、範囲Bのいずれかの点からAまでの範囲において、該基本部材の外層に、強化繊維が一方向に配向された繊維強化樹脂層を複数有する先端補強部材が積層されている、テーパ付き円筒であって、該先端補強部材を構成する繊維強化樹脂層は、各層の曲げ剛性が異なり、曲げ剛性の大きい順に内層側から配置される、テーパ付き円筒。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーパ付きの円筒形状を有し、該円筒の軸方向の全長をLとしたとき、該円筒の軸方向に、1層以上の強化繊維が一方向に配向された繊維強化樹脂層からなる基本部材と、
該基本部材において、該円筒の軸方向における細径側の端部をAとして、端部Aからの軸方向長さが1/5L以上かつ1/2L以下の範囲をBとするとき、範囲Bのいずれかの点からAまでの範囲において、
該基本部材の外層に、強化繊維が一方向に配向された繊維強化樹脂層を複数有する先端補強部材が積層されている、テーパ付き円筒であって、
該先端補強部材を構成する繊維強化樹脂層は、各層の曲げ剛性が異なり、曲げ剛性の大きい順に内層側から配置される、テーパ付き円筒。
【請求項2】
前記先端補強部材を構成する繊維強化樹脂層は、強化繊維方向弾性率が100GPa以上350GPa以下である請求項1に記載のテーパ付き円筒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブ用シャフトや釣り竿の柄の部分(以下、シャフト)に用いられる、テーパ付き円筒に関する。
【背景技術】
【0002】
テーパ付き円筒はゴルフクラブ用シャフトや釣り竿など様々な用途で使用されている。その中でも、ゴルフクラブ用シャフトは飛距離アップの観点から軽量化が求められている。ゴルフクラブ用シャフトを軽量化した場合、ボールとヘッドの衝突時の力積を小さくすることなく、クラブの慣性モーメントのみを小さくすることができるため、スイングスピードが速くなり、ボールの飛距離が長くなると期待されている。そのため、ゴルフクラブ用シャフトはいわゆるスチールシャフトとカーボンシャフトに大別されるが、軽量性の観点からカーボンシャフトが広く用いられている。カーボンシャフトはプリプレグを積層して中空円筒状に形成する構造から成るため、設計の自由度が高く積層構造によってゴルフクラブ用シャフトの性能は大きく異なる。
【0003】
ゴルフクラブ用シャフトの細径側はインパクト時の衝撃の影響が大きいことから破壊しやすいため、先端補強材を巻くことが主流となっている。シャフト全体にではなく、必要強度に満たない細径側のみに、補強材を複数層巻くことによってシャフト全体重量の増加を抑制しつつ、細径側の強度を大幅に向上させている。
【0004】
特許文献1では、特定先端部を補強する部材として、圧縮強度の大きい材料を積層することにより、3点曲げ強度が向上することが記載されている。
【0005】
特許文献2では、先端補強材として、特定重量のシャフト軸方向に対して配向角度が0度に配向されたストレート層を設けたゴルフクラブ用シャフトを提案している。ストレート層は曲げ強度を高める効果があり、先端補強材として用いることにより、打球方向性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-070888号公報
【特許文献2】特開2014-061277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術では、シャフトの内層側に比べて外層側の方が荷重負担の割合が大きく破壊起点が生じやすい。そのため、単にシャフトの外層に積層材を追加した場合、シャフトの破壊強度は向上するものの、内層側の荷重負担の割合は小さくなるため、破壊強度に対する寄与度は低下する。つまり、同一の補強部材を先端側(細径側)に複数積層した場合、内層側の荷重負担の割合は小さいことから、材料の特性が十分に生かされていない場合が多い。
【0008】
ゴルフクラブ用シャフトのさらなる軽量化には、シャフトの積層構成の最適化が不可欠である。シャフトの積層構成の最適化により破壊起点となりやすい外層側の荷重負担の割合を減らし内層側の荷重負担の割合を増やすことで、各層のシャフト全体の破壊強度に対する寄与度を均一にし、シャフト全体の破壊強度を向上させることができる。それにより破壊強度に余裕ができるため先端補強部材の削減が可能になり軽量化が可能になる。
【0009】
そのため、先端補強材の増加によるシャフト全体の重量を抑制しつつ、シャフト全体の破壊強度を向上させる設計が求められている。
【0010】
本発明は、上記した技術思想に基づいて、シャフトに用いた場合に、先端補強材によるシャフト全体の重量増加を抑制しつつ、シャフト全体の破壊強度を向上させたテーパ付き円筒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、テーパ付きの円筒形状を有し、該円筒の軸方向の全長をLとしたとき、該円筒の軸方向に、1層以上の強化繊維が一方向に配向された繊維強化樹脂層からなる基本部材と、
該基本部材において、該円筒の軸方向における細径側の端部をAとして、端部Aからの軸方向長さが1/5L以上かつ1/2L以下の範囲をBとするとき、範囲Bのいずれかの点からAまでの範囲において、
該基本部材の外層に、強化繊維が一方向に配向された繊維強化樹脂層を複数有する先端補強部材が積層されている、テーパ付き円筒であって、
該先端補強部材を構成する繊維強化樹脂層は、各層の曲げ剛性が異なり、曲げ剛性の大きい順に内層側から配置される、テーパ付き円筒を提供する。
【0012】
本発明において、繊維強化樹脂層とは、上記の通り、一方向に配向された強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させたプラスチックを指し、熱硬化性樹脂の場合は含浸後に硬化させて得られるものである。強化繊維層を構成する強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維などの無機繊維や、ケブラー繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる強化繊維が挙げられる。高強度の観点では、特に強化繊維として炭素繊維を用いることが好ましい。繊維強化プラスチックに用いるマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。また、アクリル樹脂、ポリカーボネイト樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂などの熱可塑性樹脂、およびこれら樹脂をアロイ化した変性樹脂も使用可能である。
【0013】
本発明において、テーパ付き円筒とは、細長い円筒形状の構造体において一端が細く他端が太くなるテーパを有している円筒のことを指す。上記条件を満たしていれば、軸心線と垂直な円形を有する断面が部分的に等径であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シャフトに用いた場合に、先端補強部材によるシャフト全体の重量増加を抑制しつつ、シャフト全体の破壊強度を向上させたテーパ付き円筒を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】テーパ付き円筒の積層構成の一例であって、プリプレグ各層をマンドレルに巻き付ける前の状態を示した模式図である。
図2】本発明のテーパ付き円筒を側面から見た概略断面図である。
図3】従来技術と本発明での各実施形態における先端補強部材の各層の荷重負担の割合を示すグラフイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらの図面によって何ら制限されるものではない。
【0017】
図1は、本発明で対象とするテーパ付き円筒における積層構成の一例を示した模式図であり、マンドレルおよびマンドレルに巻き付ける前のプリプレグ各層が示されている。本発明のテーパ付き円筒は、マトリックス樹脂を強化繊維層に含浸させたプリプレグシート2~9をマンドレル1に巻き付けて積層した後、加熱硬化する等の方法で得られる複数の繊維強化樹脂層により構成される。プリプレグシートは、任意の裁断形状に加工され、一方向に配向された強化繊維方向をー90度~+90度の範囲で変えて積層される。本発明のテーパ付き円筒では、シャフト軸方向に対して配向角度が0度に配向されたストレート層と、シャフト軸方向に対して配向角度が+45度とー45度に配向されたバイアス層と、シャフト軸方向に対して配向角度が90度に配向されたフープ層のいずれかもしくは2種類以上を組み合わせて使用することが好ましい。図1に示したテーパ付き円筒は、ストレート層となるプリプレグシート4、6、7および8、バイアス層となるプリプレグシート2および3、フープ層となるプリプレグシート5および9で構成される。なお、ストレート層、バイアス層およびフープ層の強化繊維方向は±10度程度まで許容できる。繊維強化樹脂層の曲げ剛性はストレート層、つまり強化繊維方向が0度の場合最も大きくなり、強化繊維方向が0度から乖離するにつれ低下していく。そのため、テーパ付き円筒の曲げ剛性は、同一材料であっても強化繊維方向によって大きく異なる。
【0018】
図2は、本発明のテーパ付き円筒を側面から見た断面図である。テーパ付き円筒はプリプレグシート2~6のように円筒の軸方向の全長Lにわたり積層される円筒状の基本部材10と、プリプレグシート7~9のように該円筒の軸方向における細径側の端部をAとして、端部Aから軸方向長さが1/5L以上かつ1/2L以下の範囲をBとするとき、範囲Bのいずれかの点からAまでの範囲において、基本部材10の外層に積層される先端補強部材11の少なくとも2つの部材から構成される。先端補強部材11の長さ1/5Lは先端の十分な曲げ強度を得るために必要な長さであり1/5Lより短いとシャフト先端部に求められる強度が不足する恐れがある。また、長すぎるとシャフト全体の重量の増加につながるため、先端補強部材11の長さは1/5L以上、1/2L以下が好ましい。より好ましくは、先端補強部材11の長さを1/5Lとすることが最適である。また、先端補強部材11を構成する繊維強化樹脂層は強化繊維方向弾性率が100GPa以上350GPa以下であることが好ましい。先端補強部材11の繊維強化弾性率が100GPa未満と低い場合、基本部材と比較して曲げ剛性が著しく低くなるため、補強部材として十分に機能しない恐れがある。対して、繊維強化弾性率が350GPaより大きい場合、基本部材と比較して曲げ剛性が著しく大きくなるため、破壊起点となりやすい。そのため、先端補強部材11を構成する繊維強化樹脂層は強化繊維方向弾性率が100GPa以上350GPa以下の範囲で設計要件を満たすように材料を選定することが好ましい。基本部材10、先端補強部材11以外の部材についてはあってもなくても良いが、曲げ剛性や曲げ強度を高める観点からは他の部材があった方が良いことがある。一方、シャフト重量の観点からは他の部材がないことが好ましい。基本部材10は、1層以上の繊維強化樹脂層から構成され、図1のように5層の繊維強化樹脂層で構成されていても良い。先端補強部材11は、複数(2層以上)の繊維強化樹脂層から構成され、図1のように3層以上の繊維強化樹脂層で構成されていても良い。ただ、シャフト重量の観点からは基本部材10および先端補強部材11ともに最小積層数となる、基本部材10は1層、先端補強部材11は2層から成るものが好ましい。
【0019】
各繊維強化樹脂層の曲げ剛性は、上述したように積層時の強化繊維方向に加え、繊維強化樹脂層単体の機械的特性(強化繊維方向弾性率、強化繊維直交方向の弾性率、せん断剛性率、ポアソン比)、軸心線12と垂直な面の断面積によって決まる。各層の曲げ剛性は、次のように算出できる。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、Kは各層の曲げ剛性、Iは各層の断面二次モーメント、ELは強化繊維方向弾性率、ETは強化繊維直交方向弾性率、GLTはせん断剛性率、νはポアソン比、θは強化繊維方向と円筒軸方向のなす角である。曲げ剛性が大きい層ほど曲げ荷重に対する荷重負荷の割合が大きくなるため、破壊起点となりやすい。
【0022】
図3は従来技術と本発明での各実施形態における先端補強部材の各層の荷重負担の割合を示すグラフイメージである。本発明では、テーパ付き円筒の軸方向長さが1/5L以上かつ1/2L以下の範囲Bのいずれかの点から細径側の端部Aまでの範囲において、先端補強部材11を曲げ剛性が大きい順に内層から積層する。基本的には、同一の材料を1層ずつ巻いて積層した場合、外層の方が、軸心線12と垂直な面の断面積は大きくなるため、曲げ剛性が大きく、従来の実施形態で示されるように荷重負担の割合が増加し、破壊起点となりやすい傾向がある。しかしながら、本発明では、先端補強部材11を構成する繊維強化樹脂層を、曲げ剛性の大きい材料から順に内層側に配置することにより、各層の曲げ剛性差が小さくなり荷重負荷が分散されるため、本発明の実施形態で示すように破壊起点となりやすい外層側の荷重負担の割合が低くなりシャフト全体の破壊強度が向上する。また、破壊強度の向上により目標値を過達していた場合、構成される先端補強部材11を削減し、シャフト全体の重量を軽量化することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、ゴルフクラブ用シャフトや釣り竿等といったテーパ付き円筒構造を有するすべての構造体に対して有用に適用される。
【符号の説明】
【0024】
1 マンドレル
2 一層目プリプレグシート(強化繊維方向ー45度)
3 二層目プリプレグシート(強化繊維方向+45度)
4 三層目プリプレグシート(強化繊維方向0度)
5 四層目プリプレグシート(強化繊維方向90度)
6 五層目プリプレグシート(強化繊維方向0度)
7 六層目プリプレグシート(強化繊維方向0度)
8 七層目プリプレグシート(強化繊維方向0度)
9 八層目プリプレグシート(強化繊維方向90度)
10 基本部材
11 先端補強部材
12 軸心線
13 細径側の端部A
14 細径側端部Aからの軸方向長さが1/5L以上かつ1/2L以下の範囲B
図1
図2
図3