(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127287
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/00 20060101AFI20240912BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
D06N3/00
D06N3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036336
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西島 正敬
(72)【発明者】
【氏名】川村 明礼
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA18
4F055AA21
4F055BA12
4F055EA04
4F055EA23
4F055FA20
4F055GA11
4F055GA32
4F055HA10
(57)【要約】
【課題】人体との摩擦等によって発生する静電気による不快感を抑制することができる合成皮革を提供すること。
【解決手段】表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなる合成皮革であって、体積抵抗値が1.0×10
8~1.0×10
12Ωであり、周波数1kHzにおける比誘電率が10以上であることを特徴とする合成皮革である。合成皮革は複数の開口部を有していてもよく、開口部は合成皮革の表裏を貫通する貫通孔であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなる合成皮革であって、
体積抵抗値が1.0×108~1.0×1012Ωであり、周波数1kHzにおける比誘電率が10以上であることを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
複数の開口部を有することを特徴とする請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
開口部は、合成皮革の表裏を貫通する貫通孔であることを特徴とする請求項2に記載の合成皮革。
【請求項4】
繊維布帛基材が、化学的酸化重合によって形成される導電性ポリマーによる導電化処理がされてなることを特徴とする請求項1に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革に関するものであり、特に摩擦が生じても静電気による不快感のない合成皮革に関するものである。
【0002】
天然皮革は古くより日常生活に密着するものとして利用されており、皮革生地の有する性状により吸湿、耐熱、耐寒特性と共に強靭な材料として様々な用途で利用されてきた。しかしながら、天然皮革は、供給に限界があり、膨潤に伴う脆弱化や変色等の問題を有するため、これに代わるものとして、合成皮革が用いられている。
合成皮革は天然皮革に似せたものであるが、天然皮革と比べて軽量で取り扱いやすいため、座席シート等の車輌用内装材、ソファーや椅子の座面などの家具用途、或いはジャケット、コートなどの衣料用途等、多岐にわたって使用されている。
【0003】
そのなかでも、座席シートやソファーなど、人体との摩擦が発生する用途においては、摩擦によって静電気が発生して人体に不快感を与えることがあるため、合成皮革に導電性を付与し、除電することが求められている。
合成皮革に導電性を付与する方法として、合成皮革を構成する樹脂層中に導電剤を添加する方法が知られている(特許文献1、2等)
しかしながら、合成皮革に導電性を付与したとしても、人体の不快感を抑制することは不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-192969号公報
【特許文献2】特開2011-231421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、座席シートやソファーなどの人体との摩擦が発生する用途において、静電気による不快感を抑制することができる合成皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し、合成皮革の比誘電率に着目することで、人体との摩擦等によって発生する静電気による不快感を抑制することができる合成皮革を発明した。
【0007】
本発明は以下を要旨とする。
表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなる合成皮革であって、体積抵抗値が1.0×108~1.0×1012Ωであり、周波数1kHzにおける比誘電率が10以上であることを特徴とする合成皮革。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、静電気による不快感を抑制することが可能な合成皮革を提供することができる。特に、座席シートやソファーなど、人体との摩擦が生じやすい用途において有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の合成皮革の一実施態様の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の合成皮革について、
図1を用いて説明する。
本明細書において、「表面側」は合成皮革の合成樹脂層側、「裏面側」は合成皮革の繊維布帛基材側である。
【0011】
本発明における「体積抵抗値」は、IEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、温度23±2℃、湿度60±5%RHの条件下で測定されるものである。
より具体的には、以下の記載の条件下で測定されるものである。
合成皮革を76mm×127mmにカットし、表面側を上側にしてテストベッドの金属面上に配置する。そして、配置された合成皮革の表面側に同心円リング電極を配置する。その後、同心円リング電極の上に5ポンド電極を載置する。なお、このとき、テストベッドと同心円リング電極表面には5ポンド(2.3kg)の圧力がかかる。そして、同心円リング電極および測定器、ならびにテストベッドを導電線で電気的に接続することで、体積抵抗値は測定される。
【0012】
本発明における「比誘電率」は、周波数1kHzにおいて、主電極側を合成樹脂層、対向電極側に繊維布帛基材をセットし、電圧:0.5V、電極φ:38mmで測定されるものである。ここで、測定周波数は、ノイズの影響の受けにくさを勘案して、1kHzにした。
【0013】
比誘電率は、物質の空気(真空)に対する誘電率の比であり、この値が大きいほど電荷を蓄える能力が高い。そのため、合成皮革の比誘電率が大きければ、合成皮革が電荷を蓄える容量が大きくなる。
本発明者らは、合成皮革と人体との摩擦で生じる静電気を速やかに除去するためには、合成皮革が体積方向に安定した電気抵抗値を有するとともに、合成皮革自体が電荷を蓄えることが有効であると思い至った。すなわち、静電気は合成皮革内に流入し、合成皮革に流入した静電気は合成皮革内部に蓄積されると同時に、合成皮革の裏面側に緩やかに分散・希釈され、それゆえ、静電気が合成皮革の表面側に滞留せず、人体に不快感を与えることがないと推察した。
【0014】
本発明の合成皮革は、表面側から、合成樹脂層、繊維布帛基材の順で設けられてなる。
【0015】
[合成樹脂層]
合成樹脂層は、繊維布帛基材上に備えられる合成樹脂からなる層の総称であり、少なくとも一層からなるものであるが、同一または異なる組成の二以上の層から形成されてもよい。
例えば、合成皮革の表面側に表皮層、繊維布帛基材と接する側に接着層の二層から形成されてもよいし、表皮層と接着層の間に中間層を備えていてもよい。
【0016】
合成樹脂層を構成する合成樹脂は、通常、合成皮革に用いられ得る樹脂であればいずれのものでも使用できるが、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂が好適である。
【0017】
上記ポリウレタン系樹脂としては、具体的には、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂、ポリエステル/ポリエーテル共重合系ポリウレタン樹脂、ポリアミノ酸/ポリウレタン共重合樹脂、ポリカーボネートジオール成分と無黄変型ジイソシアネート成分及び低分子鎖伸長剤等を反応させて得られる無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などが挙げられる。また、合成皮革としての諸物性を損なわない範囲であれば、上記のポリウレタン樹脂にポリ塩化ビニル樹脂や合成ゴムなどを混合しても差し支えない。
【0018】
上記塩化ビニル系樹脂としては、具体的には、ポリ塩化ビニル、塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体、またはこれら樹脂のブレンド等が使用できる。
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸アクリロニトリル等が挙げられる。
【0019】
合成樹脂層をポリ塩化ビニル系樹脂で構成する場合、天然皮革に似た柔軟性をより効果的に発揮させるために、ポリ塩化ビニル系樹脂と併せて可塑剤が配合される。可塑剤としては、フタル酸ジオクチルエステル(DOP)、フタル酸ジイソノニルエステル(DINP)、フタル酸ブチルベンジルエステル(BBP)、フタル酸ジイソデシルエステル(DIDP)、フタル酸ジウンデシルエステル(DUP)などに代表される一般のフタル酸エステル系可塑剤、アジピン酸ジオクチル(DOA)、セバシン酸ジオクチルエステル(DOS)、アゼライン酸ジオクチルエステル(DOZ)に代表される一般の脂肪酸エステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチルエステル系可塑剤、ポリプロピレンアジペート等に代表されるアジピン酸ポリエステル系可塑剤などの高分子系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤等が挙げられる。
【0020】
上記の他に、合成樹脂層には、顔料、フィラー、分散剤、消泡剤、艶消し剤、滑剤などの各種添加剤を含有してもよい。
【0021】
合成樹脂層は、発泡させた層(発泡層)であっても、発泡させていない層(非発泡層)であってもよい。発泡層を形成する手段としては、機械攪拌による物理的発泡、発泡剤の添加による化学的発泡、中空微粒子の添加による擬似発泡などが挙げられる。
発泡倍率は1.3~2.0倍であることが好ましい。1.3倍未満の場合、発泡層とする効果が発現しにくい。2.0倍を超える場合は、発泡層の強度が損なわれるため、合成皮革の機械的物性が低下する可能性がある。
【0022】
合成樹脂層の最表面には、表面処理層を設けてもよい。
表面処理層は、合成皮革の艶出し/艶消し、耐摩耗性の付与、触感の付与、防汚性の付与等の目的で設けられる。表面処理層は、例えばポリウレタン樹脂に、無機系/有機系フィラー、各種添加剤を有機溶媒や水に分散させた塗工液を合成樹脂層の最表面にコーティングすることにより設けることができる。
なお、表面処理層の密着性を向上させるために、合成樹脂層と表面処理層との間にプライマー層を設けてもよい。
【0023】
[繊維布帛基材]
繊維布帛基材を構成する布帛は特に限定されず、編布、織布、不織布など、繊維を利用した布帛であればいずれのものであってもよい。繊維布帛基材を形成する繊維は、特に限定されず、合成繊維、天然繊維などをあげることができる。合成繊維の材質としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ナイロンなどを例示することができるがこれに限定されない。天然繊維の材質としては、綿、麻、レーヨンなどを例示することができるがこれに限定されない。
繊維布帛基材の厚みは特に限定されないが、合成皮革の機械的強度や風合い等を考慮すれば、当該厚みは、100μm以上2000μm以下であることが好ましく、500μm以上1200μm以下であることがより好ましい。繊維布帛基材の目付けについても特に限定されないが、上記厚みと同様に、合成皮革の機械的強度や風合い等を考慮すれば、10g/m2以上500g/m2以下であることが好ましく、100g/m2以上400g/m2以下であることがより好ましい。
【0024】
本発明の合成皮革の体積抵抗値は1.0×108~1.0×1012Ωである。体積抵抗値が1.0×108~1.0×1012Ωであれば、合成皮革の表面側で発生した静電気を合成皮革の内部に流入させることが可能である。
【0025】
本発明の合成皮革の周波数1kHzにおける比誘電率は、10以上である。10以上であれば、合成皮革の表面で発生した静電気を合成皮革内に蓄える能力があると言える。
一般的に、合成樹脂等の絶縁物の比誘電率は小さく、10未満である。合成皮革の周波数1kHzにおける比誘電率を10以上に調整するためには、合成皮革に比誘電率の大きい材料を含有させる必要がある。具体的には、合成樹脂層に導電剤や帯電防止剤を添加する方法、全体あるいは部分的に導電繊維や導電糸を用いて繊維布帛基材を構成する方法、繊維布帛基材を導電化処理する方法等が挙げられる。
なかでも、化学的酸化重合によって形成される導電性ポリマーにより繊維布帛基材を導電化処理する方法、具体的には、π電子共役系モノマーを繊維布帛基材と接触させて酸化剤の存在下で重合せしめることによる導電化処理方法が好適である。当該方法であれば、繊維布帛基材の寸法変化がなく、生地の色相の調整が可能である。また、重金属を含まないため、環境に配慮されている。
π電子共役系モノマーとしては、分子中に共役二重結合を有し、酸化によって重合を起こし、π電子共役系ポリマーを形成し得るものであり、このようなモノマーとしては、上記方法でモノマーを重合させポリマーを基材フィルムの表面に被覆させて複合一体化させられるものが好ましく、例えばチオフェン、アニリン、アニリン誘導体、N-メチルピロール、3-メチルピロール、3-メチルチオフェン、3-メチルインドールなどを用い、反応性や加工性の観点から特にピロール系モノマーやアニリン系モノマーが好ましく用いられる。ピロール系モノマーとしてはピロール、3-メチルピロール、N-メチルピロール等が挙げられ、アニリン系モノマーとしてはアニリン、メチルアニリン、フェニルアニリン、アミノベンゼンスルホン酸などが挙げられる。
酸化剤としては、モノマーの重合を促進する物質が一般に使用できる。例えば、ペルオクソ二硫酸アンモニウム、ペルオクソ二硫酸カリウム等のペルオクソ二硫酸塩;塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、ベンゼンスルホン酸第二鉄、パラトルエンスルホン酸第二鉄、トリフルオロメタンスルホン酸第二鉄等の第二鉄塩;過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の過マンガン酸塩;重クロム酸ナトリウム、重クロム酸カリウム等の重クロム酸塩等が挙げられ、これらのうちの一種もしくは二種以上を組み合わせて用いることができる。
周波数1kHzにおける比誘電率は、12以上が好ましく、20以上であるとさらに好ましい。
なお、比誘電率が大きいほど静電気を蓄える能力が高いため好ましいものであるが、比誘電率を大きくさせようとすると合成皮革として求められる柔軟性や風合いが発揮できなくなる傾向にあるため、比誘電率の上限は実質的には100である。
【0026】
合成皮革の厚みは、特に限定されないが、500~2500μmであることが好ましい。
比誘電率は厚みと相関があるため、合成皮革の厚みが500μm未満であると、合成皮革に比誘電率の大きい材料を含有させても、比誘電率を10以上にすることが難しくなる傾向にある。また、合成皮革の厚みが2500μmを超えると重量増となるばかりでなく、合成皮革としての質感が損なわれる傾向にある。
【0027】
合成皮革には複数の開口部を設けてもよい。
合成皮革の表面側に導電性を付与すると、人体に溜まった静電気が異常放電してしまう場合がある。その対策として、合成皮革の表面側を絶縁性または静電気拡散性(帯電防止性)、繊維布帛基材を導電性にし、かつ合成皮革に開口部を設ければ、開口部の端面および/または底面において繊維布帛基材を露出させることが可能となる。すなわち、合成皮革の表面側が絶縁であっても、繊維布帛基材が導電性を有していれば、開口部の端面および/または底面から合成皮革の内部に静電気を流入させることができるのである。
【0028】
開口部は、ニードルパンチング、放電、レーザー照射、ドリリングなど、従来公知の手段により形成することができる。
合成皮革における開口部の占める割合(以下、「開口率」ともいう)は、2~20%であることが好ましい。開口率が2%未満であると、合成皮革の表面側を絶縁にした場合、人体の帯電を速やかに逃すことができないおそれがある。一方で、開口率が20%を超えると、合成皮革としての機械的強度が担保できなくなる可能性がある。
【0029】
開口部の形状は特に限定されず、円形、楕円形、多角形等、任意の形状が選択されるが、耐摩耗性の観点から、角のない円形、楕円形であることが好ましい。また開口部は規則性をもって配置されてもよいし、ランダムに配置されてもよい。
また、開口部一個あたりの大きさは限定されないが、除電性や加工性、耐久性を考慮すると、0.4~7.0mm2であることが好ましい。
【0030】
開口部は、端面および/または底面から繊維布帛基材が露出するものであればよく、合成皮革の表面側から裏面側まで貫通する貫通孔であっても、繊維布帛基材が開口部の底面を形成する閉塞孔であってもよい。
開口部は、加工のしやすさや除電性能を考慮すると、貫通孔であることが好ましい。
【0031】
次に、本発明の合成皮革の製造方法について、合成樹脂層が表皮層と接着層とからなるものを例にとって説明する。なお、以下に記載する製造方法は一例であって、以下の製造方法に限定されるものではない。
【0032】
まず離型紙等の離型性担体上に表皮層を構成するための表皮層形成用組成物を塗布し、反応・固化させて表皮層を形成する。表皮層形成用組成物の塗布には、ナイフコーター、コンマドクター、ロールコーター、リバースロールコーター、ロータリースクリーンコーター、グラビアコーター、その他適宜の手段が採用される。離型性担体は、表皮層形成用組成物が塗布される側の表面が平滑なものであっても、絞模様が付されたものであっても良い。絞模様等が付された離型性担体を使用すると、離型性担体の紋模様が合成皮革の表皮層の表面に転写され、絞模様による意匠が現出した合成皮革を得ることができる。
【0033】
次いで、表皮層上に接着層形成用組成物を塗布する。接着層形成用組成の塗布は表皮層形成用組成物と同様の方法を採用することができる。塗布された接着層形成用組成物が半ゲル状になるまで乾燥させた後、繊維布帛基材を積層させる。
しかる後、離型性担体を剥離し、必要に応じて表皮層の表面に表面処理層を設けることにより、合成皮革を得ることができる。表面処理層は、グラビアコーター、リバースロールコーター、スプレーコーター等の方法で形成することができる。
【0034】
以上、本発明の合成皮革について説明した。本発明は合成皮革として種々の用途に使用することができるが、静電気の発生しやすい車両用の座席シートや、ソファー、椅子の座面等に好適である。
【実施例0035】
以下に本発明を実施例に基づいて、詳細に説明する。本発明は、これら実施例に限定されるものではなく、本発明の技術思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0036】
実施例1~5、比較例1~3用いた合成皮革の構成成分については以下のとおりである。
【0037】
<表皮用樹脂組成物>
・主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液(DIC(株)製「クリスボンNY335FT」)
・溶剤1:DMF
・溶剤2:酢酸エチル
・帯電防止剤: 酸化亜鉛((株)アムテック製、パナテトラWZ-0501)
【0038】
<接着層用樹脂組成物>
・主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液(DIC(株)製「クリスボンTA205FT 」)
・架橋剤:イソシアネート系化合物(DIC(株)製「バーノックDN950」)
・溶剤1:DMF
・溶剤2:MEK
・触媒:DIC(株)製「クリスボン アクセルT81-E」
【0039】
<繊維布帛基材>
・基材1:丸編機にて150デニールのポリエステル糸から編み立てたポリエステル製生地 厚み:920μm、
・基材2:丸編機にて150デニールのポリエステル糸から編み立てたポリエステル製生地 厚み:760μm
・基材3:丸編機にて150デニールのポリエステル糸から編み立てたポリエステル製生地 厚み:1050μm
・基材4:π電子共役系高分子モノマーとしてピロール 1wt%(広栄化学製 ピロール)に、酸化重合剤兼ドーパント剤としてパラトルエンスルホン酸第二鉄 10wt% (テイカ製 パラトルエンスルホン酸第二鉄)を加えた水溶液中へ、基材1を浸漬させてピロールモノマーを重合させて、表面にポリピロールを析出させた導電性を有する生地
・基材5:π電子共役系高分子モノマーとしてピロール 1wt%(広栄化学製 ピロール)に、酸化重合剤兼ドーパント剤としてパラトルエンスルホン酸第二鉄 10wt% (テイカ製 パラトルエンスルホン酸第二鉄)を加えた水溶液中へ、基材2を浸漬させてピロールモノマーを重合させて、表面にポリピロールを析出させた導電性を有する生地
・基材6:π電子共役系高分子モノマーとしてピロール 1wt%(広栄化学製 ピロール)に、酸化重合剤兼ドーパント剤としてパラトルエンスルホン酸第二鉄 10wt% (テイカ製 パラトルエンスルホン酸第二鉄)を加えた水溶液中へ、基材3を浸漬させてピロールモノマーを重合させて、表面にポリピロールを析出させた導電性を有する生地
・基材7: 市販の導電糸である硫化銅ポリエステル繊維(日本蚕毛染色株式会社、商品名「サンダーロン」、平均繊度:104デニール)を20%、および導電性の付与されていないポリエステル糸(単糸繊度4.2デニール)80%を用いた導電性のポリエステル製生地 厚み:920μm
【0040】
実施例1
主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部(樹脂固形分20質量%)、溶剤1:30質量部、溶剤2:30質量部とからなる表皮層用樹脂組成物を、離型紙上にコンマコータにて塗布し、80℃から120℃まで徐々に温度を上げ、120℃到達後、5分間乾燥し、厚さ約30μmの樹脂層における表皮層を得た。
続いて、主剤:ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部、架橋剤:イソシアネート系化合物12質量部、溶剤1:30質量部、溶剤2:30質量部、触媒1質量部とからなる接着層用樹脂組成物を、表皮層の上にコンマコータにて塗布し、120℃で乾燥し、厚さ約30μmの接着層を得た。
続いて、接着層に接着性が発現しているタイミングで、基材4の貼り合わせを行った。
続いて、ロール状に巻き取りを行い、これを50℃、48時間かけて熟成させた後、離型紙を剥離して、表皮層、接着層、繊維布帛基材の順で積層された合成皮革を得た。
【0041】
実施例2
表皮層用樹脂組成物中に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液100質量部に対して帯電防止剤を8質量部添加した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0042】
実施例3
実施例1で得られた合成皮革に対し、パンチング加工機にて、合成皮革の表面側からパンチング加工(貫通)を施した。開口部の孔径は1.6mmで、合成皮革の単位面積あたりの開口率が8%となるように加工した。
【0043】
実施例4
基材4を基材5に変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0044】
実施例5
基材4を基材6に変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0045】
比較例1
基材4を基材1に変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0046】
比較例2
基材4を基材1に変更した以外は、実施例2と同様にして合成皮革を得た。
【0047】
比較例3
基材4を基材7に変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0048】
実施例1~5、比較例1~3で得られた合成皮革について、以下の要領で、体積抵抗値および比誘電率を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
〔体積抵抗値の測定〕
IEC規格61340-2-3(2000年)に記載の方法に準拠し、測定器(PROSTAT社製、品番:PRS-801)を用いて、温度23±2℃、湿度60±5%RHの条件下で測定した。
合成皮革を76mm×127mmにカットし、表面側を上側にしてテストベッド(PROSTAT社製、品番:PTB-920)の金属面上に配置する。そして、配置された合成皮革の表面側に同心円リング電極(PROSTAT社製、品番:PRF-911を配置する。その後、同心円リング電極の上に5ポンド電極を載置する。なお、このとき、テストベッドと同心円リング電極には5ポンド(2.3kg)の圧力がかかる。そして、同心円リング電極および測定器、ならびにテストベッドを導電線で電気的に接続し、体積抵抗値を測定した。
【0050】
〔比誘電率の測定〕
各実施例・比較例で得られた合成皮革を60mm×60mmにカットし、以下の条件で比誘電率を測定した。
・ 測定環境
温度:23±2℃
湿度:50±10%
・ 測定装置
インピーダンスアナライザ キーサイト社製、品番:E4990A
誘電体テストフィクスチャ キーサイト社製、品番:16451B
材料測定ソフトウェア キーサイト社製、品番:N1500A
・ 測定条件
周波数:1kHz
電圧:0.5V
電極φ:38mm
主電極側に合成樹脂層、対向電極側に繊維布帛基材を設置して測定を行った。
【0051】
〔効果の実証(不快感)〕
バンデグラフによる強制帯電にて、静電気による不快感を評価した。
小型バンデグラフ((株)ヤガミ製、4543300ミニバンデ)に直結した放電ステッキ(3kV)を各実施例・比較例で得られた合成皮革の表面側に向かってアーク放電させ、以下の基準で評価した。
〇:-100V以上+100V未満
静電気を感じない
△:-2000V以上-100V未満または+100V以上+2000V未満
静電気を感じる
×:-2000V未満または+2000V以上
放電して痛みを感じる
【0052】
【0053】
実施例、比較例の結果から、本発明の合成皮革は、人体との摩擦が生じても静電気による不快感のないものであることがわかる。