(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127292
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物、ワニス、フィルム、画像表示装置、磁気記録媒体、回路基板、振動板、力覚センサ
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20240912BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20240912BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240912BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20240912BHJP
C08G 73/14 20060101ALI20240912BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240912BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240912BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20240912BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20240912BHJP
H05K 3/28 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L79/08 C
C08L101/00
C08L101/02
C08G73/14
C08J5/18 CFG
H05K1/03 610P
G11B5/73
G11B5/84 Z
H05K3/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036344
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】濱田 拓実
(72)【発明者】
【氏名】佃 明光
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J043
5D112
5E314
【Fターム(参考)】
4F071AA37
4F071AA37X
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5D112AA22
5D112AA24
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5D112BA09
5E314AA24
5E314AA36
5E314GG26
(57)【要約】
【課題】透明性、剛性、吸湿特性に優れる芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミド樹脂組成物、ワニス、フィルムを提供すること。
【解決手段】芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドと、下記A、Bを含む単一または複数のポリマーを含有する樹脂組成物とする。
A:水素と結合させて化合物A-Hとした場合、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドに対するA-Hのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離が1.7MPa0.5以上6.8MPa0.5以下となる基である。
B:X-H(Xは電気陰性度が2.57以上3.45以下の元素)で示される基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドと、下記A、Bで表される基を含む単一または複数のポリマーを含有する樹脂組成物。
A:水素と結合させて化合物A-Hとした場合、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドに対するA-Hのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離Raが1.7MPa0.5以上6.8MPa0.5以下となる基。
B:X-H(Xは電気陰性度が2.57以上3.45以下の元素)で示される基。
【請求項2】
Aとしてアミド基を含むことを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
Bとして-OH、-NHR(Rは任意の基)、-SHに含まれる基のいずれか一つ以上を含むことを特徴とする、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドに対するポリマーの総含有量比が1重量%以上20重量%以下である、請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ポリマーにおけるAを含む繰り返し単位の存在比が20モル%以上99モル%以下かつ、Bを含む繰り返し単位の存在比が1モル%以上80モル%以下である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドと、ビニルポリマーとを含有する樹脂組成物であって、ビニルポリマーが繰り返し単位に下記化学式(I)および/または(II)および化学式(III)で示される構造を含み、化学式(I)および/または(II)を含む繰り返し単位の存在比が20モル%以上99モル%以下かつ、化学式(III)を含む繰り返し単位の存在比が1モル%以上80モル%以下であることを特徴とする樹脂組成物。
化学式(I):
【化1】
化学式(II):
【化2】
R
1、R
2は任意の基である。
化学式(III):
【化3】
ただし、R
3はアルキル基および/またはカルボニル基を含む基、XH基はOH基および/またはNH
2基である。
【請求項7】
芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドと、ビニルポリマーとを含有する溶液であって、ビニルポリマーが下記化学式(IV)および/または(V)および化学式(VI)を含むことを特徴とする溶液。
化学式(IV):
【化4】
化学式(V):
【化5】
R
4、R
5は任意の基である。
化学式(VI):
【化6】
ただし、R
6はアルキル基および/またはカルボニル基を含む基、XH基はOH基および/またはNH
2基である。
【請求項8】
芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドと、ビニルポリマーとを含有するフィルムであって、ビニルポリマーが下記化学式(VII)および/または(VIII)および化学式(IX)を含むことを特徴とするフィルム。
化学式(VII):
【化7】
化学式(VIII):
【化8】
R
7、R
8は任意の基である。
化学式(IX):
【化9】
ただし、R
9はアルキル基および/またはカルボニル基を含む基、XH基はOH基および/またはNH
2基である。
【請求項9】
膜厚25μmフィルムとしたとき、ヘイズが0.0%以上8.0%以下である、請求項1および/または6に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
膜厚25μmフィルムとしたとき、少なくとも一方向のヤング率が7.0GPa以上20.0GPa以下である、請求項1および/または6に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
膜厚25μmフィルムとしたとき、75RH%48時間静置することで測定されるフィルムの吸湿率が0.5重量%以上2.5重量%以下である、請求項1および/または6に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1および/または6に記載の樹脂組成物を用いた画像表示装置。
【請求項13】
請求項1および/または6に記載の樹脂組成物を用いた磁気記録媒体。
【請求項14】
請求項1および/または6に記載の樹脂組成物を用いた回路基板。
【請求項15】
請求項1および/または6に記載の樹脂組成物を用いた振動板。
【請求項16】
請求項1および/または6に記載の樹脂組成物を用いた力覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミド樹脂組成物、ワニス、フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯性や意匠性の自由度などの点から、従来ガラス基板が用いられてきた部材に透明樹脂フィルムを用いたフレキシブルデバイス、センサ、回路基板の開発が活発に進んでいる。また、表面形状や物性加工が容易であることから、センサ用レンズや回折格子素子など光学部材として透明樹脂を用いる検討が進んでいる。このような透明樹脂として、無色透明性、耐熱性、形状安定性などを並立できる芳香族ポリアミドや芳香族ポリアミドイミドなどが検討されている。
【0003】
これらの部材において、材料自身および用途製品全体の耐久性や性能の安定化の観点から、上記物性と合わせて、例えば吸湿性の低下やレターデーションの低下が求められることがある。
【0004】
このような要求への解決手段として、例えば特許文献1~3には熱可塑性ポリマーや非晶性ポリマーや液晶性ポリマーをアロイ化することで無色透明性や機械特性を損なうことなく優れた湿度特性を示す芳香族ポリアミドフィルムが開示されている。また、特許文献4には異種ポリマーを含有させた高延伸性かつ高ヤング率の芳香族ポリアミドフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-32400号公報
【特許文献2】特開平3-237135号公報
【特許文献3】特開2006-45517号公報
【特許文献4】特開2000-273215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や4に記載のフィルムでは、上記効果を得るために熱可塑性ポリマーを芳香族ポリアミドに対して30質量%または10質量%以上添加する必要があることが課題である。請求項2に記載のフィルムでは、非晶性ポリマーを添加することでヤング率などの機械特性が低下することが課題である。
本発明は、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミド、特定の構造を持つポリマーを含有することで、優れた光学物性、機械物性、湿度特性を並立できる樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、以下を特徴とする。
芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドと、下記A、Bを含む単一または複数のポリマーを含有する樹脂組成物。
A:水素と結合させて化合物A-Hとした場合、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドに対するA-Hのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離が1.7MPa0.5以上6.8MPa0.5以下となる基。
B:X-H(Xは電気陰性度が2.57以上3.45以下の元素)で示される基。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた無色透明性、耐熱性、機械物性、吸湿性を並立した芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドを含むワニスおよびフィルムが提供できる。そのため、本発明のフィルムは特に、画面表紙装置、磁気記録媒体、回路基板、振動板、力覚センサの材料として、好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成物は、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドに加えて、下記A、Bを含む単一または複数のポリマーを含有することを特徴とする。
A:水素と結合させて化合物A-Hとした場合、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドに対するA-Hのハンセン溶解度パラメータ距離Raが1.7MPa0.5以上6.8MPa0.5である基。
B:X-H(Xは電気陰性度が2.57以上3.45以下の元素)で示される基。
【0010】
ここで、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)は、物質の溶解性を示す指標であり、分散項(δD)、分極項(δP)、水素結合項(δH)の3次元のパラメータで定義される。HSPが未知の場合、各パラメータは、HSP計算プログラムである「HSPiP(Hansen Sоlubility Parameters in Practice)」を用いてハンセン溶解球法により以下のように決定することができる。
【0011】
未知試料を、複数のHSPが既知の溶媒に溶解させ、その溶解性(可溶か否か)を目視で判定する。試験に用いる溶媒としてHSPが幅広く異なるものを用いることが好ましい。具体的には10種以上、より好ましくは15種以上、さらに好ましくは20種以上の溶媒について溶解性試験を行う。ここで得られた評価結果をHSPiPに入力する事で、HSP各値からなる3次元空間(HSP空間)において、すべての良溶媒を内側に含み、すべての貧溶媒が外側に来るような球の中心座標と半径を算出できる。この球の中心座標(δd,δp,δh)が、試料のHSPとなる。例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルイソブチルケトン、酢酸n-ブチル、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、クロロホルム、酢酸メチル、アセトン、1,4-ジオキサン、ピリジン、N-メチルピロリドン、ヘキサフルオロイソプロパノール、1-ブタノール、アセトニトリル、ジエチレングリコール、ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン、エタノール、ジメチルスルホキシド、メタノール、2-アミノエタノール、シクロヘキサノン、ジメチルアセトアミド、エチレングリコール、ホルムアミド、ベンジルアルコール、フルフラール、ジエタノールアミン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの合計31種類の溶媒について、室温にて樹脂25mgを溶媒1mLに含浸させ、溶解性試験を行う。ここで得られる溶解可否をHSPiP(ver.5.2.05)に入力することで、ポリマーのHSPを決定できる。
【0012】
HSP距離(Ra)とは、物質間の親和性を表す指標であり、Raが小さい程、親和性が高く溶解しやすい。Raは、該物質のHSPの空間距離として算出することができる。例えば、物質α、βがそれぞれ、
α:(δDα,δPα,δHα)、β:(δDβ,δPβ,δHβ)
のHSPを持つとすれば、αとβのRaは、
Ra=[4(δDα-δDβ)2+(δPα-δPβ)2+(δHα-δHβ)2]0. 5
により計算することができる。
【0013】
本発明では化合物A-Hとした場合にA-Hの芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドに対するRaが1.7MPa0.5以上3.0MPa0.5以下である基Aを含むポリマーを添加することが好ましく、Aがアミド基を含むことがよりに好ましい。上記条件を満たすことで、ポリマーが芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドの凝集や結晶化を阻害して、無色透明性の高いフィルムを得ることができる。
【0014】
また、X-H(Xは電気陰性度が2.57以上3.45以下の元素)で示される基Bを含むポリマーを添加することで、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドのアミド基と水素結合を生じてフィルムのヤング率を向上したり、アミド基への水分子の配位を阻害して吸湿性を低下することができる。強固な相互作用を形成できる点から、Bとして-OH、-NHR(Rは任意の基)、-SHに含まれる基のいずれか一つ以上を含むことが、より好ましい。
【0015】
本発明の組成物中に含まれる上記ポリマー中のAを含む繰り返し単位の存在比が20モル%以上99モル%以下かつ、Bを含む繰り返し単位の存在比が1モル%以上80モル%以下であることが好ましく、Aを含む繰り返し単位の存在比が34モル%以上66モル%以下かつ、Bを含む繰り返し単位の存在比が34モル%以上66モル%以下であることがより好ましい。Aの存在比が20モル%以下の場合、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドとの相溶性が低下して、フィルムの失透が生じやすくなる場合がある。Aが99モル%より多くBが1モル%未満とした場合、優れた透明化効果は得られるもののヤング率が低下する場合がある。Bが80モル%より多い場合、ポリマーと芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドの相互作用が過度に強固になりフィルムの失透を引き起こす場合がある。A,Bの存在比を上記範囲内とすることで、特に透明性、剛性、吸湿特性に優れたフィルムを得ることができる。
【0016】
本発明の組成物中に含まれる上記ポリマーの総含有量が、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドに対して1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、3質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。含有量が1質量%未満である場合、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドとの相互作用が不十分となりフィルムの失透を引き起こす場合がある。含有量が20質量%より多い場合、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミド間の分子鎖間相互作用が過剰量のポリマーにより緩和され、フィルムのヤング率が低下する場合がある。
【0017】
上記の条件を満たす組成物として、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドと、ビニルポリマーとを含有する樹脂組成物であって、ビニルポリマーが繰り返し単位に下記化学式(I)または(II)および化学式(III)で示される構造を含み、化学式(I)または(II)を含む繰り返し単位の存在比が20モル%以上99モル%以下かつ、化学式(III)を含む繰り返し単位の存在比が1モル%以上80モル%以下とすることが特に好ましいが、これに限定されるものではない。
化学式(I):
【0018】
【0019】
化学式(II):
【0020】
【0021】
R1、R2は任意の基である。
化学式(III):
【0022】
【0023】
R3はアルキル基および/またはカルボニル基を含む基、XHはOH基またはNH2基である。
【0024】
本発明の組成物は、芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドを含む。芳香族ポリアミドとしてはアラミドやポリアミック酸が挙げられ、化学式(IV)のように表される。
化学式(IV):
【0025】
【0026】
Ar1、Ar2は任意の芳香族基。
ここでアラミドとは、アミド基を形成するカルボニル基のオルト位にカルボン酸(-COOH)基を持たない芳香族ポリアミドであり、例えば下記化学式(V)のような構造が挙げられる、また、ポリアミック酸とは、アミド基を形成するカルボニル基のオルト位に1つ以上のカルボン酸基を持つ芳香族ポリアミドであり、例えば化学式(V)や化学式(V)のような構造が挙げられる。ただし、化学式(V)~(VII)に示す構造は例であり、本発明におけるアラミドおよびポリアミック酸の構造を制限するものではない。
化学式(V):
【0027】
【0028】
Ar3は任意の芳香族基、R4は、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF3、-CCl3、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH3、シリル基、または芳香環を含む基である。
化学式(VI):
【0029】
【0030】
Ar4は任意の芳香族基、R5は、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF3、-CCl3、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH3、シリル基、または芳香環を含む基である。
化学式(VII):
【0031】
【0032】
Ar5は任意の芳香族基、R6は、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF3、-CCl3、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH3、シリル基、または芳香環を含む基である。
【0033】
本発明の芳香族ポリアミドイミドとしては、例えば化学式(VIII)に示すように構造単位中にアミド基とイミド基の両方が存在する場合や、化学式(IX)に示すような芳香族ジイミド構造が前述のような芳香族ポリアミド構造と共重合されている場合が挙げられるが、本発明においては、いずれの場合でも構わない。
化学式(VIII):
【0034】
【0035】
Ar6は任意の芳香族基、R7は、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF3、-CCl3、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH3、シリル基、または芳香環を含む基である。
化学式(IX):
【0036】
【0037】
Ar7は任意の芳香族基、R8は、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF3、-CCl3、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH3、シリル基、または芳香環を含む基である。
本発明の組成物を構成する芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドは、上記化学式(IV)中のAr1および/またはAr2として、下記化学式(X)~(XII)のいずれかで示される構造単位を含むことが好ましい。
化学式(X):
【0038】
【0039】
R9は、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF3、-CCl3、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH3、シリル基、または芳香環を含む基である。
化学式(XI):
【0040】
【0041】
R10、R11は、-H、炭素数1~5の脂肪族基、-CF3、-CCl3、-OH、-F、-Cl、-Br、-OCH3、シリル基、または芳香環を含む基である。
化学式(XII):
【0042】
【0043】
R12は、Si原子を含む基、P原子を含む基、S原子を含む基、ハロゲン化炭化水素基、芳香環を含む基、またはエーテル結合を含む基(ただし、分子内において、これらの基を有する構造単位が混在していてもよい)である。
【0044】
また、上記の中でも、下記化学式(XIII)および/または(XIV)で示される構造単位を含むことが、高い剛性を実現する点で特に好ましい。
化学式(XIII):
【0045】
【0046】
R13は任意の基である。
化学式(XIV):
【0047】
【0048】
R14は任意の基である。
【0049】
本発明の組成物を溶媒に溶解することでワニスとすることができる。ここで溶媒は芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミド、およびポリマーの溶解性と溶液の成形性を鑑みて選定される。本発明においては樹脂組成物の各成分の溶解性から、溶媒は非プロトン性溶媒であることが好ましい。ここで非プロトン性溶媒とはプロトン(水素イオン)供与性を持たない極性溶媒であり、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルイソブチルアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。ワニスとすることで製膜工程が簡便となり、基板上に塗布し、溶媒を乾燥させてフィルムを製膜できるようになる。
【0050】
本発明の組成物/ワニスを製膜してフィルムを得ることができる。本発明のフィルムの膜厚に制限はないが、ハンドリング性、製膜性および膜物性の観点から、フィルムの膜厚として1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0051】
本発明の組成物、ワニス、フィルムは、剛性、熱寸法安定性などを高める目的で粒子が含まれていてもよい。ここで、粒子とは無機粒子、有機粒子、有機無機ハイブリット粒子のいずれでもよいが、硬度や熱寸法安定性向上の目的の場合、無機粒子を含有することが好ましい。無機粒子は特に限定されないが、金属や半金属の酸化物、珪素化物、窒化物、ホウ素化物、塩化物、炭酸塩などが挙げられ、具体的には、シリカ(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化アンチモン(Sb2O3)及びインジウムスズ酸化物(ITO)などが挙げられる。また、フィルムの着色や劣化を抑制する目的で、有機または無機系の顔料や染料、あるいは酸化防止剤を含有していてもよい。
【0052】
本発明の樹脂組成物に含まれる芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリマー、およびその他含有物について、化学構造および構成比の同定が必要な場合は、クロマトグラフィー、蒸留、分液、再沈殿などの手法を組み合わせて分離される各成分について、核磁気共鳴法(NMR)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)および質量分析法(MS)、元素分析、単結晶構造解析などを組み合わせて解析を行うことができる。
【0053】
本発明の組成物は、本組成物から得られるフィルムのヘイズが0.0%以上8.0%以下であることが好ましい。ヘイズが8.0%より大きい場合は、フィルムの濁りが大きく、ディスプレイ材料や透明基板などに使用した際に視認性や明るさなどが低下することがある。ヘイズは、0.0%以上3.0%以下であることがより好ましい。ヘイズを上記範囲内とするには、フィルムの製膜に用いる樹脂溶液中の異物を低減することに加え、前述のポリマーを樹脂組成物に含有させることが有効である。
【0054】
本発明の樹脂組成物は、該樹脂組成物から得られるフィルムの少なくとも一方向のヤング率が7.0~20GPaであることが好ましく、8.0~20GPaであることがより好ましい。ヤング率が7.0GPa未満の場合、フィルムのハンドリング性や機械特性が悪化することがある。ヤング率を上記範囲内とするには、前述の化学式(X)~(XIV)のいずれかで示される構造単位を含む芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミドを使用することが好ましい。また、前述のポリマーを樹脂組成物に含有させることで、分子鎖の凝集を防いで分子鎖間の相互作用が効率化されて高ヤング率を得やすくなるため、有効である。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、該樹脂組成物から得られるフィルムの75RH%において48時間経過後の吸湿率が0.5質量%以上2.5質量%以下であることが加工時および使用時の吸湿による特性変化を抑制できるため好ましい。より好ましくは、75RH%において48時間経過後の吸湿率が0.5質量%以上2.0質量%以下である。吸湿率を上記範囲内とするには、組成物中に含まれる上記ポリマー中のAを含む繰り返し単位の存在比が20モル%以上99モル%以下かつ、Bを含む繰り返し単位の存在比が1モル%以上80モル%以下とすることが有効である。
【0056】
以下、本発明の芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミド、および前述のポリマーを含む樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0057】
芳香族ポリアミドを得る方法は溶液重合法や沈殿重合法など公知の種々の方法が利用可能である。例えば、溶液重合で芳香族ポリアミドを重合する場合、酸ジクロライドとジアミンを原料として、前述の非プロトン性溶媒中、低温下にて反応させることで合成することができる。酸ジクロライドの失活を抑制するため、重合に使用する溶媒の水分率を500ppm以下(質量基準、以下同様)とすることが好ましく、200ppm以下とすることがより好ましい。ここで酸ジクロライドとジアミンとのモル比を等量とすると超高分子量のポリマーが生成する傾向にあるため、モル比を一方が他方の96.0~99.8%、より好ましくは96.0~99.0%になるように調整することが好ましい。また、芳香族ポリアミドの重合反応は発熱を伴うが、重合中の溶液の温度を40℃以下にすることが好ましい。40℃を超えると、副反応が起きて、重合度が十分に上がらなかったり、着色が起きたりすることがある。重合中の溶液の温度は30℃以下にすることがより好ましい。
【0058】
ここで、酸ジクロライドとジアミンを原料とする重縮合の場合、反応の進行に伴って塩化水素が副生する。副生する塩化水素を除去する方法として、重合時に中和剤を添加することで塩化水素を中和除去する方法や、芳香族ポリアミドを析出させて単離する方法などが挙げられる。
【0059】
重合中に塩化水素を中和除去する場合、例えば、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機中和剤により中和する方法が挙げられる。無機中和剤により中和する場合、溶液中には中和反応により生成した無機塩(例えば、塩化リチウムなど)が含まれる。この無機塩は溶媒中でイオン化し芳香族ポリアミドのアミド基に配位することで溶媒への溶解助剤として働くが、製膜成形工程中に無機塩を除去する洗浄工程が必要となるため、ワニスとして使用する場合、デバイスの製造工程によっては使用できないことがある。
【0060】
本発明では、芳香族ポリアミドを析出させて塩化水素と分離する方法が好ましい。芳香族ポリアミドを析出させて単離する場合、沈殿重合により重合したり、溶液重合で得られる芳香族ポリアミド溶液を多量の水などの貧溶媒と混和することで芳香族ポリアミドを固体として析出させ、濾別などにより溶液から分離することで、芳香族ポリアミドと塩化水素を分離して、芳香族ポリアミドを単離することができる。
【0061】
芳香族ポリアミドイミドを得る場合、酸ジクロライドの一部をテトラカルボン酸二無水物に換えること以外は上記と同様にして重合することで芳香族ポリアミドイミド前駆体を得ることができる。この前駆体を上記と同様にして単離した後、不活性ガス雰囲気下または減圧下で200℃~300℃にて加熱して閉環反応を進行させることで芳香族ポリアミドイミドを得ることができる。
【0062】
前述のA、Bを含むポリマーを得る場合、A、Bを含むモノマーを原料として重合することができる。例えば、ビニルポリマーである場合、A、Bを含むビニルモノマーをそれぞれ重合溶媒に溶解し、重合開始剤を添加することで重合することができる。このとき、重合開始剤としては加熱や光照射によりラジカルを形成する化合物が好ましく、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)などが挙げられる。重合反応後、重合溶液を加熱や減圧などにより溶媒を除去したり、ポリマーの貧溶媒を添加して析出させることで、該ポリマーを単離することができる。本発明において、単一のポリマー中にAとBの構造を含んでも良いし、AとBをそれぞれ含む複数のポリマーを重合および/または混合しても良い。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、上記により得られた芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミド、およびポリマーを混合することで得られる。混合の方法に制限はなく、例えば単離された樹脂同士をそのまま混合する方法や、溶媒に溶解して溶液として混合する方法などが挙げられる。ワニスとする場合は、非プロトン性溶媒に芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミド、およびポリマーを溶解して混錬する方法が好ましい。このようにして得られたワニスは、例えばガラス基板などの基材上に塗布して製膜することができ、用途によって剥離して単膜のフィルムとしても良いし、ガラス基板との積層体としても良い。製膜法としては、例えば、予備乾燥工程、湿式浴での洗浄工程を経て熱処理を施す乾湿式法、洗浄工程を経ずに溶媒乾燥を施す乾式法、あるいは溶媒乾燥工程を経ずに湿式浴に導入後、熱処理を施す湿式法などが挙げられる。これらのうち、いずれの方法で製膜しても差し支えないが、デバイスの製造工程において対象物上にフィルムを形成する場合、乾式法で製膜することが好ましい。
【0064】
フィルムを成形するために基材上へ塗布する方法としては、口金やダイコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法などの公知の方法から選択できる。また、溶媒乾燥の方法としては、熱風、赤外線照射、マイクロ波照射などが挙げられ、特に限定されない。乾燥温度は50~400℃であることが好ましい。熱寸法安定性向上などの点で、乾燥工程において150~400℃の温度範囲の工程を含むことが、より好ましい。急激な溶媒蒸発による面荒れを防ぐ目的で、50~200℃にて予備乾燥後、200~400℃にて段階的に溶媒乾燥を施すことが、さらに好ましい。
【0065】
本発明の芳香族ポリアミドおよび/または芳香族ポリアミドイミド、およびポリマーを含む樹脂組成物は、画像表示装置、磁気記録媒体、回路基板、振動板、力覚センサ、位相差フィルム、タッチパネル基材、太陽電池、包装材料、粘着テープ、接着テープ、加飾材料など様々な用途に好適に使用できる。
【0066】
本発明の樹脂組成物は、単膜あるいは他の光学部材と貼合や加工により、カバーフィルム、電極基板フィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、拡散シート、プリズムシートなどとして、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、陰極管表示装置(CRT)などのディスプレイに組み込むことができるが、特にカバーフィルムとして組み込まれることが好ましい。本発明の樹脂組成物を組み込むことで、レターデーションを低減して表示される画像の虹ムラや干渉縞の発生を低減することができる。画像表示装置に搭載される樹脂組成物として548nmにおける面内方向レターデーションが0nm以上100nm以下であることが好ましく、0nm以上20nm以下であることがより好ましく、0nm以上10nm以下であることがさらに好ましい。前述の樹脂組成物を基板上で乾燥することによりフィルムとすることでレターデーションを上記範囲内とすることができる。
【0067】
本発明の樹脂組成物を、少なくとも片面に磁性層を設けた磁気記録媒体として用いた場合、高ヤング率と平滑な表面を兼ね備えた本発明の芳香族ポリアミドフィルムの効果が充分に発揮することができる。磁気記録媒体の形態は、ディスク状、カード状、テープ状など特に限定されないが、本発明の樹脂組成物から得られるフィルムの優れた高ヤング率を活かした薄膜化に対応するため、本発明の樹脂組成物からなるベ-スフィルムの厚みが6.5μm以下、幅が2.3~13.0mm、長さが100m/巻以上の磁気テ-プとすることが好ましい。本発明の樹脂組成物が適用される高密度記録媒体の磁性層は、特に限定されないが、公知の強磁性金属薄膜層が例示される。強磁性金属薄膜層の形成手段としては、従来公知の方法が用いられ、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ-ティング法や塗布法等が挙げられる。強磁性金属材料としては、Co、Ni、Cr、Fe等の金属やこれらを主成分とする合金等を用いることができる。磁性層を形成後、ダイヤモンドライクコ-ティングの付与あるいは潤滑保護層の付与を施したり、または両者を併用することは磁気記録媒体の耐久性向上の点で好ましい。更に、磁性層と反対側の面により走行性を向上させるために、公知の方法によりバックコ-ト層を設けてもよい。
【0068】
吸湿特性に優れた本発明の樹脂組成物はベースフィルムとして磁気記録媒体に組み込むことができる。ベースフィルムとして湿度膨張係数の絶対値が5.0ppm/RH%以下であることが好ましく、この場合、吸湿による寸法変化を抑制して安定性に優れた磁気記録媒体を得ることができる。
【0069】
本発明の樹脂組成物を回路基板に組み込むことで、耐熱性に優れた回路基板とすることができる。本発明の樹脂組成物からなるワニスをガラス基板上に塗布、製膜した後、この樹脂組成物からなるフィルムに回路パターンを形成する工程と、回路パターンを形成したフィルムをガラス基板から剥離する工程とを有する方法によって回路基板を製造することができる。得られた樹脂組成物とガラス基板との積層体は、樹脂層側に金属層をスパッタ法で形成したスパッタ膜付きであってもよい。スパッタ膜は電解めっき給電用として好適に用いられ、絶縁層と接する金属層は絶縁層との接着性を高めるためのクロム、ニッケル、チタン、タングステン、モリブデンおよびこれらの金属を含む合金の少なくとも 1種類からなる金属層と銅層で構成されることが好ましい。本発明において、回路パターンを構成する金属膜を形成する方法は特に限定されず、例えば、銅箔等の金属箔を接着層で貼り付けて形成することができる他、スパッタやめっき、あるいはこれらの組み合わせで形成することができる。金属膜を形成した膜上にフォトレジストをスピンコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ダイコーター、スクリーン印刷機などで塗布して乾燥し、フォトレジストを所定のパターンのフォトマスクを介して露光、現像して、めっき膜が不要な部分にレジスト層を形成する。次いで電解めっきを行う。電解めっき液としては、硫酸銅めっき液、シアン化合物めっき液、ピロ燐酸銅めっき液などが用いられる。暑さ2μm~20μmの銅めっき膜を形成後、フォトレジストを剥離し、続いてスライトエッチングを行う。さらに必要に応じて、金、ニッケル、錫などのめっきを施すことで、回路パターンが得られる。次に、回路パターンが形成された後、樹脂層をガラス基板から剥離する。この時に電子部品との接続の位置精度を保つ為に、樹脂層上の回路パターンに電子部品を接続した後に、樹脂層をガラス基板から剥離することが好ましい。電子部品との接続方法としては、例えば、ハンダ接続、異方導電性フィルムによる接続、金属共晶による接続、非導電性接着剤による接続、ワイヤーボンディング接続などが利用できる。本発明により得られる回路基板は、電子機器の配線板、ICパッケージ用インターポーター、ウエハレベルプロバー、ウエハレベルバーンインソケット用基板などに好適に利用できる。回路パターンに抵抗素子や容量素子を入れ込むことは、適宜好ましく用いられる。熱膨張係数はであることが-2ppm/℃以上5ppm/℃以下であることが好ましく、本発明の樹脂組成物がこの範囲内である場合、熱膨張による寸法変化を抑制することができ耐熱性に優れた回路基板とすることができる。
【0070】
本発明の樹脂組成物は振動板の材料として好適に利用できる。振動板として利用する場合、本発明の樹脂組成物はフィルムであっても良いし、繊維として他の材料とともに膜状に成型されても良い。ヤング率の高い本発明の樹脂組成物を使用することで、特に可聴高音域から超音波域において再現性に優れた振動板とすることができる。
【0071】
本発明の樹脂組成物は力覚センサの材料として組み込むことができる。力覚センサに搭載される時の樹脂組成物の様態は制限されないが、フィルムや生成体として荷重伝播部材として使用されることが好ましい。ヤング率の高い本発明の樹脂組成物を使用することで、良好なレスポンス性が得られるようになる。
【実施例0072】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0073】
本発明の樹脂組成物を構成する芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、およびA、Bを含むポリマーの構造は、それぞれ重合に用いるモノマーによって制御した。すなわち、下記実施例にそれぞれ示すように、芳香族ポリアミドはジアミンと酸ジクロライドを反応させることで、芳香族ポリアミドイミドはジアミンとテトラカルボン酸二無水物および酸ジクロライドとを反応させることで得た。また、A,Bを含むポリマーはビニル基のような重合反応に関わる官能基とは別にAおよび/またはBを持つモノマーを原料とし、得られたポリマー中に存在する官能基をFT-IRによって確認した。
【0074】
本発明の樹脂組成物からフィルム物性の測定に供するフィルムを作成する方法は、次の方法に従って行った。
【0075】
まず、樹脂組成物を濃度が10質量%となるように良溶媒である非プロトン性溶媒に溶解して試料溶液とした。この試料溶液をアプリケーターでガラス板上にフィルム状にキャストした。このとき、試料溶液、ガラス板およびキャスト雰囲気の温度は室温とした。キャスト厚みは、溶媒乾燥後のフィルム厚みが50μmとなるよう調整した。次に、熱風オーブン内へガラス板ごと投入し、溶液を構成する非プロトン性溶媒の沸点(混合溶媒の場合、全溶媒量に対して30質量%以上含まれる溶媒のうち、最も沸点が高い溶媒の沸点)をTbとしたとき、Tb-50℃にて30分、次いでTb+100℃にて5分の条件で乾燥を施した。
【0076】
また、本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0077】
(1)ヘイズ
作製されたフィルムについて、下記装置および条件にて測定した。
装置:濁度計NDH5000(日本電色工業社製)
光源:白色LED5V3W(定格)
受光素子:V(λ)フィルタ付Siフォトダイオード
測定光束:φ14mm(入射開口φ25mm)
光学条件:JIS-K7136(2000)に準拠。
【0078】
(2)ヤング率
作製されたフィルムについて、幅10mm、長さ150mmに切断した試料を、ロボットテンシロンAMF/RTA-100(オリエンテック社製)を用いてチャック間距離50mm、引張速度300mm/分、温度23℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行い、得られた荷重-伸び曲線から求めた。
【0079】
試験はフィルムのキャスト方向(長手方向)と、それと直交する方向(幅方向)について実施し、両方向とも5回の平均値を求めた。表1には両方向のヤング率のうち、値の高い方を示した。
【0080】
(3)吸湿率
フィルムを脱湿する為120℃で3時間の加熱を行った後、窒素雰囲気下で25℃まで降温し、25℃に降温された時点のフィルム質量をW0として0.1g単位まで秤量する。次いで、フィルムを25℃で75RH%の雰囲気下に48時間静置し、その後の質量をW1として秤量し、以下の式を用いて吸湿率を求めた。
吸湿率(質量%)=((W1-W0)/W0)×100。
【0081】
(4)レターデーション
作製されたフィルムについて、自動複屈折計KOBRA-21ADH(王子計測社製)を用い、波長548.3nm、入射角0°の入射光に対する試料の面内位相差(Re)を測定した。
【0082】
(5)湿度膨張係数
幅10mm、長さ200mmに切断したフィルムを、恒温恒湿槽に入れた大倉インダストリー社製 テープ伸び量試験機 1TTM1を用いて、負荷荷重0.1Nで以下の条件で変化量を測定し、下式を用いて計算した。
【0083】
条件:A:25℃、25%RHで24時間放置
B:25℃、25%RHから25℃、85%RHに150分かけて加湿
C:25℃、85%RHで24時間放置
算出式:湿度膨張係数=(L2-L1)/(L0×Δ%RH) (%RH-1)
L0:測定前の試長200mm
L1:25℃-25%RHで24時間放置後の試長(mm)
L2:25℃-85%RHで24時間放置後の試長(mm)
Δ%RH:相対湿度差60%RH。
【0084】
(6)熱膨張係数
作製されたフィルムについて、幅4mm、長さ15mmに切断した試験片をTMA/SS6100(日立ハイテクサイエンス社製)を用いて以下の条件で測定し、下式を用いて算出した。
荷重:1.1N/mm2
温度条件:室温~250℃、5分保持、250℃~50℃
昇温・降温速度:5℃/分
算出:降温時の変位量から下式にて算出
算出式:α=(L2-L1)/(L0×ΔT) (1/℃)
ただし、L0は測定前の試長(15mm)、L1は100℃における試長(mm)、L2は200℃における試長(mm)、ΔTは温度差(100℃)である。
【0085】
(実施例1)
脱水したジメチルアセトアミド(DMAc、沸点165℃)に、ジアミンとしてジアミン全量に対して100モル%に相当する2,2’-ジトリフルオロメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(TFMB)を窒素気流下で溶解させ、氷水浴で液温を5℃に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下氷水浴中に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当する2-クロロテレフタロイルクロライド(CTPC)を30分かけて添加し、全量添加後、約1時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミド(TFMB/CTPC)を重合した。得られた重合溶液を、多量の純水中に攪拌しながら添加することでポリマーAを繊維状に固化させ、ミキサーで5分間粉砕し、80℃の熱風オーブンで1時間、120℃の真空オーブンで12時間乾燥させることで、TFMB/CTPCの粉体を得た。
【0086】
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドン(A-HがN-メチルピロリドンとなる基を含む)と5-ヘキセン-1-オール(BとしてOH基を含む)を50モル%:50モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーCを得た。
【0087】
得られた芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミド100重量部に対して10重量部に相当するポリマーCをDMAcに加え、60℃で2時間攪拌して溶解させることで、芳香族ポリアミドとポリマーCを含む溶液を得た。
得られた樹脂溶液を室温にてアプリケーターを用いてガラス板上にフィルム状にキャストして、115℃にて30分、265℃にて5分、熱風オーブンで乾燥を施すことで、厚み25μmのフィルムを得た。ここで、熱風オーブンは、セーフティオーブンSPH100(エスペック株式会社製)を用い、開閉ダンパー50%にて温度表示が設定温度に到達して1時間後に使用した。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0088】
(実施例2)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、メチルビニルスルホン(A-Hがジメチルスルホンとなる基を含む)と5-ヘキセン-1-オール(BとしてOH基を含む)を50モル%:50モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーDを得た。ポリマーCの代わりにポリマーDを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーDを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0089】
(実施例3)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルホルムアミド(A-Hがホルムアミドとなる基を含む)と5-ヘキセン-1-オール(BとしてOH基を含む)を50モル%:50モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーEを得た。ポリマーCの代わりにポリマーEを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーEを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0090】
(実施例4)
芳香族ポリアミド100重量部に対して15重量部に相当するポリマーCを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーCを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0091】
(実施例5)
芳香族ポリアミド100重量部に対して20重量部に相当するポリマーCを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーCを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0092】
(実施例6)
芳香族ポリアミド100重量部に対して3重量部に相当するポリマーCを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーCを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0093】
(実施例7)
芳香族ポリアミド100重量部に対して1重量部に相当するポリマーCを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーCを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0094】
(実施例8)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドンと5-ヘキセン-1-オールを99モル%:1モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーFを得た。
ポリマーCの代わりにポリマーFを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーFを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0095】
(実施例9)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドンと5-ヘキセン-1-オールを20モル%:80モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーGを得た。
ポリマーCの代わりにポリマーGを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーGを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0096】
(実施例10)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドンと5-ヘキセン-1-オールを66モル%:34モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーHを得た。
ポリマーCの代わりにポリマーHを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーHを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0097】
(実施例11)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドンと5-ヘキセン-1-オールを34モル%:66モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーIを得た。
ポリマーCの代わりにポリマーIを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーIを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0098】
(実施例12)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドンと5-ヘキセン-1-オールを70モル%:30モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーJを得た。
ポリマーCの代わりにポリマーJを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーJを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0099】
(実施例13)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドンと5-ヘキセン-1-オールを30モル%:70モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーKを得た。
ポリマーCの代わりにポリマーKを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーKを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0100】
(実施例14)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドンを室温にて溶解した。この溶液にAIBNをN-ビニルピロリドンに対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーLを得た。また、N-ビニルピロリドンの代わりに5-ヘキセン-1-オールを用いること以外は同様にしてビニルポリマーMを得た。得られたポリマーLおよびMを50モル%:50モル%の比率で混合することで混合ポリマーを得た。
この混合ポリマーをポリマーCの代わりに添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーLおよびポリマーMを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0101】
(実施例15)
脱水したDMAcに、ジアミンとしてジアミン全量に対して100モル%に相当するTFMBを窒素気流下で室温にて溶解させた。そこへ、ジアミン全量に対して25モル%に相当する4,4‘-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(HFDA)を15分かけて添加し、全量添加後、30分撹拌した。次に、ジアミン全量に対して74モル%に相当するテレフタロイルクロライド(TPC)を30分かけて添加した。全量添加後、約2時間の攪拌を行うことで芳香族ポリアミック酸を重合した。得られた重合溶液を、多量の純水中に攪拌しながら添加することでポリマーを繊維状に固化させ、ミキサーで5分間粉砕し、80℃の熱風オーブンで1時間、真空オーブンにて100℃で5時間、200℃で1時間乾燥させることで、芳香族ポリアミドイミドの粉体を得た。この芳香族ポリアミドイミドを芳香族ポリアミドの代わりに添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドイミドおよびポリマーCを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0102】
(実施例16)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドンと5-ヘキセン-1-オールを15モル%:85モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーNを得た。
ポリマーCの代わりにポリマーNを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーNを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0103】
(比較例1)
ポリマーCの代わりにポリマーLを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーLを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0104】
(比較例2)
ポリマーCの代わりにポリマーMを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーMを含む樹脂溶液およびフィルムを得ることを試みたが、相溶性が悪く均一なフィルムを得ることができなかった。
【0105】
(比較例3)
ポリマーCおよび代わりのポリマーを添加しないこと以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0106】
(比較例4)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、4-ビニルピリジン(水素化によりピリジンとなり、Aに該当する基を含まない)と5-ヘキセン-1-オールを50モル%:50モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、水を減圧留去して、ビニルポリマーOを得た。ポリマーCの代わりにポリマーOを添加すること以外は実施例1と同様にして、芳香族ポリアミドおよびポリマーOを含む樹脂溶液およびフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表1に示す。
【0107】
(比較例5)
窒素ガスで10分間バブリングした純水に、N-ビニルピロリドンと3-メチル-1-ブテン(炭化水素から成りBに該当する基を含まない)を50モル%:50モル%の比率で室温にて溶解した。この溶液にAIBNをビニルモノマーの合計量に対して0.1モル%添加し、60℃に加熱した。4時間攪拌後、溶媒を減圧留去して、ビニルポリマーPを得た。
【0108】
得られた芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミド100重量部に対して10重量部に相当するポリマーPをDMAcに加え、60℃で2時間攪拌して溶解させることで、芳香族ポリアミドとポリマーPを含む溶液を得た。
【0109】