(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127294
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】再生ポリエチレンテレフタレート異形断面繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/62 20060101AFI20240912BHJP
D01D 5/253 20060101ALI20240912BHJP
D01D 5/24 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
D01F6/62 303F
D01F6/62 303E
D01D5/253
D01D5/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036347
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷野宮 政浩
(72)【発明者】
【氏名】宇治 寛彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 正雄
【テーマコード(参考)】
4L035
4L045
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035AA06
4L035AA09
4L035BB54
4L035BB55
4L035DD02
4L035DD03
4L035HH01
4L045AA05
4L045BA03
4L045BA10
4L045BA12
4L045BA15
4L045BA24
4L045BA60
4L045CA08
4L045CB19
4L045DA08
4L045DC03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マテリアルリサイクル樹脂ポリエステルを高比率で使用していても生産性がよく、バージンポリエステル原料使用時と同等の品質を維持しつつ環境に配慮された再生PET繊維およびその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維横断面形状が異形断面形状であり、再生ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を95質量%以上含む再生PET繊維とする。再生PET繊維の製造方法は、下記の条件を満たす方法とする。1)再生PET樹脂の固有粘度が0.62~0.70、2)溶融紡糸時のポリマー温度が270~320℃、3)特殊孔口金の孔部において、円形孔であれば中心を通る直線を引いた際に最も短くなる直径部、スリット孔であれば短辺部の長さが0.05~0.12mmの範囲、4)紡糸時のポリマーを20~50μm相当のフィルターにて濾過する、5)口金面より5~25mmの位置より冷却風を紡出糸に吹き当てる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維横断面形状が異形断面形状であり、再生ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を95質量%以上含む再生ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維。
【請求項2】
繊維横断面形状が扁平多葉型であり、下記のa)~d)の要件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の再生PET繊維。
a)繊維の横断面形状が円周上に6個以上の凸部を有すること
b)繊維の横断面の最大長さをAとし、最大幅をBとし、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをCとし、前記凸部の頂点間を結ぶ線Cから凹部の底点に下ろした垂線の長さをDとするとき、下記式(1)で示される扁平度と下記式(2)で示される異形度を満足すること
・扁平度(A/B)=2.0~3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=1.0~5.0 ・・・ (2)
c)繊維の横断面の最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、横断面最大幅Bを除いて最長となる長さをEとするとき、下記式(3)で示される凸部比を満足すること
・凸部比(E/B)=0.6~0.9 ・・・ (3)
【請求項3】
繊維断面形状が中空型で、且つその中空率が20~50%を占めることを特徴とする請求項1に記載の再生PET繊維。
【請求項4】
繊度が1.0~4.0dtexの範囲である請求項2または3記載の再生PET繊維。
【請求項5】
下記の1)~5)の条件を満たす請求項1に記載の再生PET繊維の製造方法。
1)再生PET樹脂の固有粘度が0.62~0.70
2)溶融紡糸時のポリマー温度が270~320℃
3)目的とする断面形状を得るための特殊孔口金の孔部において、円形孔であれば中心を通る直線を引いた際に最も短くなる直径部、スリット孔であれば短辺部の長さが0.05~0.12mmの範囲
4)溶融紡糸時に再生PETポリマーを20~50μm相当のフィルターにて濾過する
5)口金面より5~25mmの位置から紡出糸に冷却風にて急冷して冷却・固化する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生ポリエチレンテレフタレートを用いた異形断面繊維およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETもしくはPET樹脂とも記す)をはじめとするポリエステルは低コストで、高融点、耐薬品性等に優れ、繊維以外にも、フィルムやPETボトル等の成型品に幅広く用いられている。
【0003】
近年、資源の再利用や環境問題等の面から様々な分野でのリサイクルが求められており、また種々の試みが行われている。ポリエステルにおいてもPETボトルをはじめとするポリエステル成型品を再溶融して、または低分子量化した後に重合してチップ化し、再び繊維やフィルムや成型品を製造するというリサイクルが行われている。このように資源の再利用に貢献することは、企業の最も重要な活動の一つと位置づけられる。そして、このようなリサイクルポリエステルを使用した製品の一つとして再生ポリエチレンテレフタレート(以下、再生PETもしくは再生PET樹脂とも記す)繊維があり、衣料や詰綿に使用されている。
【0004】
ケミカルリサイクルポリエステルは、様々な製品に加工、使用された後に回収されたポリエステル製品を解重合し、これを再度重合して得られるポリエステルであり、後述するマテリアルリサイクルポリエステルに比べて異物濾過が比較的容易で、且つ固有粘度の調整が容易であるために製糸操業性や品質安定性に有利な樹脂を得られる事から広く利用されている方式である。そのため、例えば特許文献1~4の再生PET繊維の主原料となっている。一方、解再重合を行うことでエネルギー消費が大きく、環境負荷の観点において必ずしも優位な方法とは言えない。
【0005】
マテリアルリサイクルポリエステルは、回収されたポリエステル製品を洗浄、粉砕した後に再溶融してペレット化したポリエステルであり、上述したケミカルリサイクルポリエステルに比べ環境負荷は小さく、紡糸工程における粘度低下はしにくい。しかし、粘度の安定性の意味では回収原料の影響を受けて変動し易く、また洗浄でも除ききれなかった不純物(異物)を多く含んでいることが多く、異素材のコンタミにより溶融紡糸では溶融ポリマー内でゲル化が起こり易い。そのため、繊維の断面形状を複雑化したり、細繊度化したりするほどこれらの影響を大きく受け、糸切れ等により安定生産が困難となり、また得られる繊維の機械的特性値が劣るものとなる問題点がある。
【0006】
また、ポリエステル繊維は通常溶融紡糸方式にて得られる。そのうち異形断面繊維は製造コストや環境負荷の観点から口金と呼ばれる金型の孔部の形状によって繊維の断面形状を作り込む事が多いが、冷却・固化される過程で精度良く形状を維持させるために口金孔部の形状はスリット型や、微小な丸孔の集合体で設計される。このため、通常の丸断面繊維に比べ、特にマテリアルリサイクルポリエステルを使用した際には上述した不純物やゲルが孔に詰まるトラブルが発生し、著しく生産性を損なう。マテリアルリサイクルポリエステルを使用比率が高くなるほど、その問題は顕著である。
それを回避するために易溶出ポリマーを鞘とした芯鞘複合繊維として紡糸した後に易溶出ポリマーを除去する方法もあるが、環境負荷の観点からも好ましくない。
【0007】
以上のとおり、マテリアルリサイクルポリエステルを主原料として高比率で使用しつつも生産性が良く、且つバージン原料を使用したときと同等の品質を維持した異形断面繊維は極めて技術難易度が高く、これまでに得られてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-176205号公報
【特許文献2】特開2009-144271号公報
【特許文献3】特開2022-80087号公報
【特許文献4】特開2022-73521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記した従来技術の問題を解消し、マテリアルリサイクルポリエステルを高比率で使用していても生産性がよく、バージン原料使用時と同等の品質を維持しつつ環境に配慮された再生PET繊維およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、マテリアルリサイクルポリエステルを用いても安定して繊維が製造出来、衣料や不織布用途に適した異形断面形状を精度よく維持する事ができる製法を見出して本発明に達した。
【0011】
すなわち、本発明は、繊維横断面形状が異形断面形状であり、再生ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を95質量%以上含む再生ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維である。
再生PET繊維の横断面形状が扁平多葉型の場合は下記a~cを満たすことが好ましい。
a)繊維の横断面形状が円周上に6個以上の凸部を有すること
b)繊維の横断面の最大長さをAとし、最大幅をBとし、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをCとし、前記凸部の頂点間を結ぶ線Cから凹部の底点に下ろした垂線の長さをDとするとき、下記式(1)で示される扁平度と下記式(2)で示される異形度を満足すること
・扁平度(A/B)=2.0~3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=1.0~5.0 ・・・ (2)
c)繊維の横断面の最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、横断面最大幅Bを除いて最長となる長さをEとするとき、下記式(3)で示される凸部比を満足すること
・凸部比(E/B)=0.6~0.9 ・・・ (3)
【0012】
再生PET繊維の横断面形状が中空型の場合、中空率が20~50%を占めることが好ましい。
【0013】
再生PET繊維の繊度は1.0~4.0dtexの範囲であることが好ましい。
【0014】
また、再生PET樹脂の固有粘度が0.62~0.70の範囲にあり、再生PET樹脂を溶融紡糸時のポリマー温度を270~320℃、目的とする断面形状を満たす特殊孔口金の孔部において円形孔であれば中心を通る直線を引いた際に最も短くなる直径部、スリット孔であれば短辺部の長さが0.05~0.12mmの範囲、紡糸時のポリマーを20~50μm相当のフィルターにて濾過し、口金面より5~25mmの位置より冷却風を紡出糸に吹き当てる再生PET繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするマテリアルリサイクルポリエステルを高比率で使用した環境負荷の少ない再生PET繊維を提供出来、また、紡糸時の口金孔部への不純物やゲルの詰まりが抑制され、特に異形断面繊維の製造において、バージンPET使用時と同等の安定生産が可能となる製造方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明で好ましく用いられる扁平多葉型断面形状の一例(繊維横断面の円周上に複数(8個)の凸部を有する)を説明するための断面図である。
【
図2】
図2は、本発明で好ましく用いられる中空型断面形状の一例(繊維横断面が中空構造)の断面図である。
【
図3】
図3は、異形断面形繊維で使用される口金の内、スリット孔タイプの孔部における短辺部の位置を説明するための口金孔部図である。(a)は扁平多葉型、(b)は中空型用金型の例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、再生PET樹脂を95質量%以上含む再生PET繊維である。本発明における再生PET樹脂とはポリエチレンテレフタレートを主成分とするリサイクル樹脂であり、再生PET樹脂は環境負荷低減の面からケミカルリサイクルポリエステルではなく、マテリアルリサイクルポリエステルを採用する。マテリアルリサイクルポリエステルは回収されたポリエステル製品を洗浄、粉砕した後に再溶融してペレット化したものであり、ケミカルリサイクルポリエステルに比べ環境負荷は小さく、紡糸工程における粘度低下はしにくい。マテリアルリサイクルポリエステルで使用される回収されたポリエステル製品は工程で発生した繊維屑やフィルム屑ではなく、市中より回収されたPETボトル由来のものを使用するのが良い。一方、マテリアルリサイクルポリエステルは粘度の安定性の意味では原料の影響を受けて変動し易く、また洗浄でも除ききれなかった不純物を多く含んでいることが多いこと、異素材のコンタミにより溶融紡糸では溶融ポリマー内でゲル化が起こり易い特徴がある。そこでペレット化する前に溶融状態で30μm相当以下のフィルターにて濾過しておく事が重要で、フィルターの種類はメッシュタイプ、不織布タイプは問わず、またキャンドル型やプリーツ型など各種フィルターを用いる事が出来る。
【0019】
再生PET樹脂の含有量は高ければ高いほど環境負荷低減の観点から良く、他添加剤含有量を考慮して95質量%以上である事に意味がある。また、従来は、マテリアルリサイクルポリエステルを原料として高比率で用いた場合、不純物やゲル化物の存在により、異型断面形状の繊維とすることは難しかったが、本発明の製造方法により、マテリアルリサイクルポリエステル(再生PET樹脂)を95質量%以上含む異型断面形状の繊維を得ることができたのである。
【0020】
再生PETの添加剤としては防透けや艶消しなどの機能を付与するために無粒子を添加しても構わない。無粒子としてはシリカゾル、シリカ、アルキルコートシリカ、アルミナゾル酸化チタンおよび炭酸カルシウムなどが挙げられるが、ポリエステル中に添加した際に科学的に安定していればよく、特に科学的安定性、対凝集性およびコストの面から二酸化チタンが好ましく用いられる。無機粒子の濃度は目標とする機能に応じて調整して構わないが、ポリエステル繊維質量に対して0.01~4.0質量%が好ましく、0.05~8.0質量%であれば製糸操業性や高次加工性、繊維のコスト面からより好ましい。添加方法としてはペレット化過程での添加、或いは再生PET樹脂に無機粒子を練り込んでマスターチップ化して、紡糸工程でこのマスターチップを添加する方法などを挙げることが出来る。
【0021】
本発明の再生PET繊維はその繊維横断面が異形断面形状である場合にその効果を発揮できるが、ここで言う異形断面形状は繊維横断面が中空を除く真円、もしくはそれに限りなく近い円形を除いた形状を指す。本発明の再生PET繊維において好ましい異形断面形状として扁平多葉型や中空型(中空構造)が挙げられ、以下にそれらの態様について説明する。
【0022】
横断面形状が扁平多葉型の場合、下記のa)、b)の要件を満たす扁平多葉断面再生PET繊維であり、紡績糸使いでは衣料用途、不織布ではワイピング用途やフィルター用途に好適に用いられる。
a)繊維の横断面形状が円周上に6個以上の凸部を有すること
b)繊維の横断面の最大長さをAとし、最大幅をBとし、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをCとし、前記の凸部の頂点間を結ぶ線Cから凹部の底点に下ろした垂線の長さをDとするとき、下記式(1)で示される扁平度と下記式(2)で示される異形度を満足すること
・扁平度(A/B)=2.0~3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=2.0~5.0 ・・・ (2)
【0023】
本発明の扁平多葉断面再生PET繊維において、横断面形状の円周状に存在する凸部が6個未満では、隣接する繊維間で形成する空隙が少なくなり、吸水性、保液性および拡散性が乏しくなる。横断面形状は扁平形状であることにより、単繊維間に空隙を形成することが可能となり、吸水性、保液性および拡散性が良好となる。更に、単繊維あたりの毛倒れ性が良くなることから、布帛にした場合にソフトな風合いを得ることができる。
【0024】
図1に、本発明の扁平多葉型断面の再生PET繊維の繊維横断面形状の一例を示す。
図1では、繊維断面の円周上に複数(8個)の凸部を有する本発明の扁平多葉断面再生PET繊維の横断面形状を例示している。
【0025】
図1において、Aは、上記の扁平多葉断面再生PET繊維の横断面の最大長さである。Bは、扁平多葉断面再生PET繊維の横断面の最大幅であって、前記の最大長さAに垂直に交わる凸部の頂点間を結ぶ最大幅の線分の長さをいう。また、Cは最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線の長さをいう。そしてDは、最大凹凸部において隣り合う凸部の頂点間を結ぶ線から凹部の底点に下ろした垂線の長さをいう。Eは、最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、最大幅Bを除いて最長となる長さをいう。
【0026】
本発明の扁平多葉断面再生PET繊維は、その繊維の横断面形状において、6個以上の凸部を有する扁平形状の再生PET繊維であるが、凸部数は好ましくは7~13個であり、より好ましくは8~12個である。また、凸部の形状は、肌触り性の観点から丸みを帯びた形状であることが好ましい。
【0027】
本発明の扁平多葉断面再生PET繊維は、その繊維の単繊維横断面における扁平多葉断面形状が、下記式(1)で示される扁平度と下記式(2)で示される異形度を満足することが重要である。
・扁平度(A/B)=2.0~3.0 ・・・ (1)
・異形度(C/D)=1.0~5.0 ・・・ (2)
【0028】
扁平度(A/B)が2.0未満では、繊維の毛倒れ性が悪くなりソフトな風合いが得られなくなる。一方、扁平度(A/B)が3.0を超えると、ハリコシ感が小さくヘタリ易くなり、また、製糸性の悪化や異形度が悪化する。扁平度(A/B)は、より好ましくは2.0~2.7であり、更に好ましくは2.0~2.5である。
【0029】
また、異形度(C/D)は、前記の扁平多葉形において、凸部と凸部の間にある凹部の大きさを表しており、その値が大きいと凹部が小さく、その値が小さいと凹部は大きいことを意味している。異形度(C/D)が大きくなると凹部は浅く、単繊維間で形成される空隙も小さくなるため、吸水性と拡散性が低下する傾向がある。従って、異形度(C/D)は5.0以下であることが好ましい。
【0030】
一方、異形度(C/D)があまりにも小さい場合、繊維断面の凹部が折れ曲がりやすくなり、扁平形状を保つことができなくなる傾向がある。更には、擦過により繊維損傷を受けやすくなるため、肌と摩擦した場合に肌が傷つく恐れがある。これらのことから、異形度(C/D)は1.0以上である。異形度(C/D)は、前述の点から1.0~5.0の範囲であり、異形度(C/D)は、吸水性と拡散性の点から、1.0~4.0がより好ましく、さらには、扁平形状の保持性と吸水性と拡散性バランスの観点から2.0~4.0がより好ましい態様である。
【0031】
本発明の扁平多葉断面再生PET繊維は、さらに、
c)横断面の最大長さAを対称軸とし、対向する両凸部頂点間線分のうち、横断面最大幅Bを除いて最長となる長さをEとするとき、下記式(3)で示される凸部比を満足することが好ましい。
・凸部比(E/B)=0.6~0.9 ・・・ (3)
【0032】
凸部比(E/B)は、前記の扁平多葉形において、最大長さAを対称軸とし、最大幅Bとそれを除く最大凸部頂点間長さEとの長さの比を示しており、このことは、最大幅BおよびE、最大長さAの各凸部頂点を結ぶ線を描いた際に得られる略楕円形状の歪度合いを測る指標としての意味を持つ。凸部比があまりに小さい場合、凹部深さが減少するとともに、その横断面形状は限りなく扁平十字形に近似した形状となる。そのため、毛細管現象効果が減少し、吸水性と拡散性が低下する傾向を示す。また、肌に触れた際、扁平十字形状に近しくなるために接触する凸部数が減少し、肌触り感とソフト性が低下する傾向を示す。従って、凸部比は0.6以上であることが好ましい。
【0033】
一方、凸部比があまりにも大きい場合、繊維同士の凹凸が嵌合した際に、凹部が完全に閉塞する部分が多くなることにより、空隙が減少してしまい、吸水性と拡散性が低下する傾向を示す。また、肌に触れた際、その形状は扁平六角形に近しい形状となることにより、接触する凸部数が減少し、肌触り感・ソフト性が低下する傾向を示す。これらのことから、凸部比(E/B)は、0.9以下であることが好ましい。凸部比(E/B)は、前述の観点から0.6~0.9であることが好ましく、さらに、そのバランスから、凸部比(E/B)は、より好ましくは0.6~0.8であり、さらに好ましくは0.7~0.8である。
【0034】
横断面形状が中空型構造の場合、衣料用途に好適に用いられる。
図2に、本発明の中空型断面の再生PET繊維の横断面形状の一例を示すが、中空構造であれば扁平形状、外周部に突起部を有する形状でも良い。横断面形状が中空型における中空率は横断面におけるポリマー部とポリマーによって囲まれた領域内の空隙部(中空部)の面積比で表され、その範囲は20~50%が好ましく、より好ましくは25~40%の範囲が良い。中空率は20%より低い場合、保温性や軽量性の観点から優位性が無く、また50%より高い場合、後加工時の応力により割れが発生し易く、また潰れが発生し易くなり糸強度の低下と合わせ本来の機能を損なうこととなる。
【0035】
断面形状にかかわらず、本発明の再生PET繊維の単繊維繊度は、4.0dtex以下であることが好ましい。単繊維繊度は、より好ましくは、1.0~3.5dtexであり、更に好ましくは1.2~3.5dtexである。単繊維繊度が4.0dtexを超えるとポリエステル繊維特有の剛性が強くなるため肌触り感の刺激も強くなり、ソフト風合いも損なわれることがある。更に、繊維間で形成する空隙が大きくなり過ぎるため、毛細管現象効果が弱くなり、液体の拡散性が低下することにより、肌に触れた際のドライ感や清涼感が損なわれる傾向がある。また、単繊維繊度が1.0dtexより細くなると、布帛製造工程での工程通過性が悪くなり生産性が低下する傾向がある。
【0036】
次に、本発明の再生PET繊維の製造方法について説明する。
【0037】
本発明で使用される再生PET樹脂の固有粘度は0.62~0.70の範囲が好ましく、より好ましくは0.64~0.68の範囲である。再生PET樹脂の固有粘度が0.62より小さい場合、異形断面繊維で用いられる特殊孔口金にて紡糸する際にポリマー流動性が高く冷却固化されるまでに繊維形状が維持されにくくなり、目的とする異形度が達成されなくなる。また再生PET樹脂の固有粘度が0.70より大きい場合、異形断面繊維で用いられる特殊孔口金にて紡糸する際にポリマー流動性が低く、冷却固化されるまでに繊維形状が維持され易くなり目的となる異形度は達成し易くなるが、形状がシャープになり易く局所的な繊維強度不足を引き起こすこと、また流動性が低くなり過ぎるために紡糸時の糸切れも多くなり操業性悪化を引き起こす。
【0038】
本発明の再生PET繊維の製造方法は溶融紡糸による製造方法であって、再生PET樹脂の溶融紡糸時のポリマー温度を270~320℃とし、目的とする断面形状を得るための孔部において、円形孔であれば中心を通る直線を引いた際に最も短くなる直径部、スリット孔であれば短辺部(孔断面においてスリットが最も薄くなる部分)の長さがいずれも0.05~0.12mmの範囲である特殊孔口金を用い、溶融紡糸時に再生PET樹脂を20~50μm相当のフィルターにて濾過し、口金面より5~25mmの位置から冷却風を紡出糸に吹き当て冷却・固化する製造方法である。
【0039】
溶融紡糸時のポリマー温度は270~320℃の範囲であれば良いが、より好ましくは280~310℃の範囲である。ポリマー温度が260℃より低い場合、溶融ポリマー粘度が著しく上昇し、ポリマーの流動性が低くなるため口金直下にて糸切れが多発し安定生産を行う事が出来ない。ポリマー温度が330℃より高い場合、溶融時のポリマー粘度が著しく低下し、ポリマーの流動性が高くなるため冷却固化されるまでに繊維形状が維持されにくくなり目的とする異形度が達成されなくなり、また糸融着が発生し糸切れが発生し易くなる。
【0040】
溶融紡糸時使用する特殊孔口金の孔部サイズは、円形孔であれば中心を通る直線を引いた際に最も短くなる直径部、スリット孔であれば短辺部の長さがいずれも0.05~0.12mmの範囲内である。0.05mmより小さくなる場合、ポリマーに介在する異物、ポリマーゲルが孔部に詰まり、紡糸時の糸切れを誘発してしまう。0.12mmより大きくなる場合、口金直下での冷却固化速度が低下し目的とする異形度を達成することが困難となる。
【0041】
本発明の製造方法においては、溶融紡糸時に溶融ポリマー(再生PET樹脂)をフィルターにて濾過する。溶融紡糸時のポリマーフィルターを20~50μm相当のフィルターにして濾過する事が好ましい。フィルターが20μm相当より小さくなる場合は異物やポリマーゲルが容易に捕捉されるが、そのことによりフィルターが早期に閉塞してしまい口金やポリマーフィルターを組み込んだパックと呼ばれるユニットを頻繁に交換しなければならず、生産効率が著しく低下する。フィルターが50μmより大きくなる場合、フィルターをすり抜ける異物、ポリマーゲルが多くなり、その結果、それらが孔部に詰まり、紡糸時の糸切れを誘発してしまう。
【0042】
口金直下での紡出糸(ポリマー)の冷却・固化は口金面より5~30mmの位置で冷却風により行う事が好ましい。冷却開始位置が口金面より5mmより早い位置の場合、冷却風により口金面温度低下を引き起こし、糸切れを誘発してしまう。冷却開始位置が30mmより遅い位置の場合、ポリマーの冷却固化タイミングが遅くなり目的とする異形断面形状が達成出来なくなる。冷却風の風温は10~30℃以下の温度であれば異形度、物性値および操業性に大きな影響は及ぼさない。紡出糸は冷却固化されながら800~1800m/分の速度で引取ローラーにて引き取られ専用の収納容器に未延伸糸として収納される。未延伸糸はその後延伸工程に運搬されクリールを介して必要な処理繊度に応じた本数を同時に立ち上げ2~5倍の倍率で延伸、必要に応じ120~250℃の範囲で熱処理を施し捲縮を付与する。そして乾燥と熱処理工程を経た後に仕上げ油剤を付与し5~150mmの範囲で目標とする長さにカットして短繊維を得る。
【0043】
こうして得られる本発明の再生PET繊維は、マテリアルリサイクル樹脂を高比率で用いてもバージン原料品同等の操業性と品質、目的とする異形断面形状を維持することが可能となる。再生PET繊維は衣料用途、不織布用途に好適に用いることが出来る。
【実施例0044】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。実施例中における各物性値は、次の方法により測定した。
【0045】
(1)固有粘度
ポリマーチップもしくは繊維(原綿)を溶媒である純度98%以上のo-クロロフェノールに溶解して検体溶液を作製した(検体2gに対して溶媒25cc)。25℃の温度における検体溶液の粘度と、同一温度における溶媒のみの粘度を、オストワルド粘度計を用いて測定し、落下秒数から算出して求めた。
【0046】
(2)中空率
光学顕微鏡で繊維断面を500倍で撮影し、その撮影した繊維断面を白紙に印刷、この印刷した繊維の外周に沿ってハサミで切り取り(n=20)、この20枚合計の重さを量り、その質量をAとした。次にこの切り取った20枚について、中空部分をハサミで切り取り、同様に重さを量り、その質量をBとした。中空率はB/A×100(%)で算出した。
【0047】
(3)扁平度、異形度、凸部比
光学顕微鏡で繊維断面を500倍で撮影し、その撮影した繊維断面を白紙に印刷、この印刷した繊維断面にそれぞれの計算に必要な補助線を引き各部の長さを測定(n=20)、各計算式にて算出した。
【0048】
(4)繊度
JIS L1015 8.5.1(2010)に準じて測定する。
【0049】
(5)紡糸性
溶融紡糸時の生産1tonあたりの糸切れ、口金孔部の詰まり発生頻度にて以下の指標で評価した。
良:1.0回/t以下
不良:1.1回/t以上
【0050】
(6)濾圧上昇
ポリマー1ton通過時のパック内圧力上昇値を以下の指標で評価した。
良:20kgf/cm2以下
不良:20kgf/cm2より高い
【0051】
(7)総合判定
異形断面が各許容値範囲であり、紡糸性および濾圧上昇の判定が「良」のとき「合格」、それ以外を「不合格」とした。
【0052】
実施例1~2、比較例1~10について以下に説明、結果を表1、2にまとめる。
【0053】
[実施例1]
異形断面の再生PET繊維を次の方法で製造した。
【0054】
PETボトル100%原料のマテリアルリサイクルにて得られた再生PET樹脂を100質量%使用して溶融紡糸を行った。この再生PET樹脂はペレット化時に290℃で25μm相当のフィルターにて濾過したものであり、固有粘度が0.65であった。紡糸に使用した口金は
図1に示すような外周部に8個の凸部を有する扁平多葉型断面形状を得るための特殊孔口金で、特殊口金のスリット孔サイズの短辺部は0.08mmであった。ポリマー温度が300℃となるようペレット化した再生PET樹脂を溶融し、溶融ポリマーを30μm相当のフィルターで濾過した後、0.7g/孔・分の吐出量にて口金より押し出し、紡出ポリマーは口金面から20~100mmの位置にて20℃、50m/分の冷却風にて冷却・固化させ、1400m/分の速度で引取、未延伸糸を採取した。
【0055】
[実施例2]
使用口金として、
図2に示すような中空型円形断面形状を得るための特殊孔口金(短辺部が0.08mm)を用いたこと以外、実施例1同様の手順にて製造した。紡糸性は良好であり、断面形状は許容範囲内となった。
【0056】
[比較例1]
再生PET樹脂の固有粘度が0.61であること以外、実施例1同様の手順にて製造した。紡糸性は良好であったが、許容範囲内の断面形状を得ることが出来なかった。
【0057】
[比較例2]
再生PET樹脂の固有粘度が0.71であること以外、実施例2同様の手順にて製造した。許容範囲内の断面形状を得ることが出来たが、糸切れ多発により紡糸性は不調であった。
【0058】
[比較例3]
溶融紡糸時のポリマー温度が325℃であること以外、実施例1同様の手順にて製造した。糸切れ多発により紡糸性は不調であり、許容範囲内の断面形状を得ることが出来なかった。
【0059】
[比較例4]
溶融紡糸時のポリマー温度が265℃であること以外、実施例2同様の手順にて製造した。許容範囲内の断面形状を得ることが出来たが、紡糸性は不調であった。
【0060】
[比較例5]
特殊口金の孔サイズが短辺部で0.03mmであること以外、実施例1同様の手順にて製造した。許容範囲内の断面形状も得ることが出来たが、孔詰まり多発により紡糸性は不調であった。
【0061】
[比較例6]
特殊口金の孔サイズが短辺部で0.14mmであること以外、実施例2同様の手順にて製造した。紡糸性は良好であったが、許容範囲内の断面形状を得る事が出来なかった。
【0062】
[比較例7]
溶融紡糸時のポリマーを60μm相当のフィルターで濾過したこと以外、実施例1同様の手順にて製造した。許容範囲内の断面形状を得ることが出来たが、孔詰まり多発により紡糸性は不調であった。
【0063】
[比較例8]
溶融紡糸時のポリマーを15μm相当のフィルターで濾過したこと以外、実施例2同様の手順にて製造した。許容範囲内の断面形状を得ることが出来たが、フィルターが短期間で閉塞、短時間での紡糸性は良好であるが長期生産困難とあった。
【0064】
[比較例9]
溶融紡糸時の冷却開始位置を口金から3mmにしたこと以外、実施例1同様の手順にて製造した。許容範囲内の断面形状を得ることが出来たが、糸切れが多発し紡糸性は不調であった。
【0065】
[比較例10]
溶融紡糸時の冷却開始位置を口金から30mmにしたこと以外、実施例2同様の手順にて製造した。紡糸性は良好であったが、許容範囲内の断面形状を得ることが出来なかった。
【0066】
【0067】