(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127303
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】Snの電解精錬方法、Snを製造する方法、及びSn電解精錬用アノード材
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20240912BHJP
C22C 13/00 20060101ALI20240912BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20240912BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20240912BHJP
C22B 25/06 20060101ALI20240912BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20240912BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240912BHJP
C22B 9/16 20060101ALI20240912BHJP
C25C 1/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C25C7/02 306
C22C13/00
C22C13/02
C22C1/02 503N
C22B25/06
C22B1/00 101
C22B7/00 A
C22B9/16
C25C1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036361
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】▲土▼屋 政人
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝司
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA24
4K001BA22
4K001DA05
4K058AA23
4K058BA28
4K058CA04
4K058EC04
4K058FC04
(57)【要約】
【課題】本発明は、不働態化を防止しながら、Sb、Ag等の異なる種類の不純物元素を含むSn系リサイクル材を使用してリサイクルの効率化を図ることを目的とする。
【解決手段】
Sn系はんだリサイクル材から、Sn、0.1質量%以上5質量%以下のSb、及び0質量%超10質量%以下のAgを含み、下記の式(1)を満たすアノード材を調製する工程、並びに
前記アノード材を用いて電解精錬する工程
を含む、Snの電解精錬方法:
0<MA/Ms≦5 (1)
(MA:アノード材に含まれるAgの質量%、Ms:アノード材に含まれるSbの質量%)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn系はんだリサイクル材から、Sn、0.1質量%以上5質量%以下のSb、及び0質量%超10質量%以下のAgを含み、下記の式(1)を満たすアノード材を調製する工程、並びに
前記アノード材を用いて電解精錬する工程
を含む、Snの電解精錬方法:
0<MA/Ms≦5 (1)
(MA:アノード材に含まれるAgの質量%、Ms:アノード材に含まれるSbの質量%)。
【請求項2】
前記アノード材を調製する工程が、Sbを含むSn系はんだリサイクル材とAgを含むSn系はんだリサイクル材とを混合する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法によりSnを製造する方法。
【請求項4】
Sn、0.1質量%以上5質量%以下のSb、及び0質量%超10質量%以下のAgを含み、下記の式(1)を満たす、Sn電解精錬用アノード材:
0<MA/Ms≦5 (1)
(MA:アノード材に含まれるAgの質量%、Ms:アノード材に含まれるSbの質量%)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Snの電解精錬方法、Snを製造する方法、及びSn電解精錬用アノード材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属材料のリサイクルへの取り組みが必須の課題となっており、金属材料の一種であるはんだ材料もリサイクルして使用していくことが望ましい。はんだ材料においては、環境に配慮した鉛フリーはんだとして、Sn系はんだが多く使用されている。Sn系はんだに使用される合金組成は多様化しており、Sn系はんだには、意図的添加により、又は不可避不純物として、Sn以外の元素である様々な不純物元素が含まれ得る。したがって、Sn系はんだをリサイクルする際には、このような不純物元素によるSn純度の低下に対応する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】伊藤尚: “錫陽極の不働態化に関する研究(I)”日本鉱業会誌, Vol. 57, No. 671, pp. 143-152, 1941
【非特許文献2】伊藤尚: “錫の陽極動作に関する研究(第1報)純錫陽極の硫酸錫電解液中に於ける不働態化”日本金属学会誌, Vol. 1 No. 8, pp. 299-305, 1937
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Sn系リサイクル材としては、異なる種類の不純物元素を含むリサイクル材(例えば、Sb含有Sn系リサイクル材、Ag含有Sn系リサイクル材等)が存在し、リサイクルの効率化の観点から、これらの組成の異なる様々なリサイクル材を使用してリサイクルを行うことが望ましい。また、Sn系リサイクル材は、回収してきた名目の(回収時に把握できている)合金元素とは異なる他の元素を実際には含んでいることが多い。単純な再溶融によるリサイクルではこのような他の元素を除去することができないため、このような再溶融によるリサイクル方法では十分な純度のSnを得ることが難しい。
一方、Sn系リサイクル材からのSnリサイクル方法として、電解精錬がある。電解精錬を使用すると、上述のような他の元素を除去しやすく、リサイクルの際に目的とする元素(Snなど)の純度を高めやすい特徴がある(非特許文献1)。しかし、電解精錬においてSn純度の低い(低品位)リサイクル材(アノード材)は、一般的に不働態化しやすいことが知られている。不働態化により、Snの溶出停止や精錬純度の悪化などのリスクが生ずる(非特許文献2)。
かかる事情に鑑み、本発明は、アノード材の不働態化を防止しながら、Sb、Ag等の異なる種類の不純物元素を含むSn系リサイクル材を使用してリサイクルの効率化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、Sb及びAgの含有量が特定の範囲であり、後述する式(1)の条件を満たすアノード材を調製して電解精錬することにより、上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。本発明の具体的態様は以下のとおりである。
なお、本明細書において、「X~Y」を用いて数値範囲を表す際は、その範囲は両端の数値を含むものとする。
【0006】
[1] Sn系はんだリサイクル材から、Sn、0.1質量%以上5質量%以下のSb、及び0質量%超10質量%以下のAgを含み、下記の式(1)を満たすアノード材を調製する工程、並びに
前記アノード材を用いて電解精錬する工程
を含む、Snの電解精錬方法:
0<MA/Ms≦5 (1)
(MA:アノード材に含まれるAgの質量%、Ms:アノード材に含まれるSbの質量%)。
[2] 前記アノード材を調製する工程が、Sbを含むSn系はんだリサイクル材とAgを含むSn系はんだリサイクル材とを混合する工程を更に含む、[1]に記載の方法。
[3] [1]又は[2]に記載の方法によりSnを製造する方法。
[4] Sn、0.1質量%以上5質量%以下のSb、及び0質量%超10質量%以下のAgを含み、下記の式(1)を満たす、Sn電解精錬用アノード材:
0<MA/Ms≦5 (1)
(MA:アノード材に含まれるAgの質量%、Ms:アノード材に含まれるSbの質量%)。
【発明の効果】
【0007】
本発明のSnの電解精錬方法、Snを製造する方法、又はSn電解精錬用アノード材は、アノード材の不働態化を防止しながら、Sb、Ag等の異なる種類の不純物元素を含むSn系リサイクル材を使用してリサイクルの効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、電気化学測定(クロノポテンショメトリー)のための装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、1質量%のSbを含むSn系アノード材においてAgの含有量を変化させた場合の不働態化時間を示すグラフである。
【
図3】
図3は、3質量%のSbを含むSn系アノード材においてAgの含有量を変化させた場合の不働態化時間を示すグラフである。
【
図4】
図4の(a)~(c)は、スライム発生部の二次電子像(SEI)である。
【
図5】
図5は、アノードスライム成分の分析に使用したサンプルホルダーの写真である。
【
図6】
図6は、アノードスライム成分のXRFによる分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のSnの電解精錬方法、Snを製造する方法、及びSn電解精錬用アノード材について、説明する。
【0010】
1.Snの電解精錬方法
本発明のSnの電解精錬方法は、
Sn系はんだリサイクル材から、Sn、0.1質量%以上5質量%以下のSb、及び0質量%超10質量%以下のAgを含み、下記の式(1)を満たすアノード材を調製する工程、並びに
前記アノード材を用いて電解精錬する工程
を含む:
0<MA/Ms≦5 (1)
(MA:アノード材に含まれるAgの質量%、Ms:アノード材に含まれるSbの質量%)。
本発明のSnの電解精錬方法は、アノード材の不働態化を防止しながら、Sb、Ag等の異なる種類の不純物元素を含むSn系リサイクル材を使用してリサイクルの効率化を図ることができる。
【0011】
アノード材を調製する工程は、Sbを含むSn系はんだリサイクル材とAgを含むSn系はんだリサイクル材とを混合する工程を更に含むことができる。このような混合する工程により、Sb及びAgを含むアノード材を調製することができる。なお、Sbを含むSn系はんだリサイクル材とAgを含むSn系はんだリサイクル材とは、Snを含む合金全般を指し、Snの含有量は特に限定されない。また、Sbを含むSn系はんだリサイクル材とAgを含むSn系はんだリサイクル材は、Sn、Ag、Sb以外の元素が含有されていてもよい。
【0012】
アノード材を調製する工程は、Sn系はんだリサイクル材を溶融した後にアノード材を成型する工程を更に含むことができる。
【0013】
アノード材を調製する工程において使用するSn系はんだリサイクル材は、特に限定されないが、Sbを含むSn系はんだリサイクル材;Agを含むSn系はんだリサイクル材;Cu、Zn、Fe、Al、As、Bi、In、Cd、Ni、Pb、Au、P、Co、Ge、Ga、Pt、S、Cr、Mn、Mg、Ca、Pd、及びSiからなる群から選択される元素を1種以上含むSn系はんだリサイクル材;又はこれらのうちの2種以上の組み合わせを含む又はからなることができる。これらのうちでも、Sn系はんだリサイクル材が、Sbを含むSn系はんだリサイクル材とAgを含むSn系はんだリサイクル材との組み合わせを含む又はからなることが望ましい。これにより、異なる種類の不純物元素であるSb及びAgをそれぞれ含む複数のリサイクル材を使用してリサイクルを効率化することができる。
【0014】
上記Sn系はんだリサイクル材におけるSnの含有量は、特に限定されないが、複数種のSn純度のSn系はんだリサイクル材を同時に精錬する観点より、0.001~99.99質量%が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が最も好ましい。
上記Sn系はんだリサイクル材におけるSbの含有量は、特に限定されないが、アノード材を調合する観点より、0.0001~99.99質量%が好ましく、80質量%以下がより好ましく、60質量%以下が最も好ましい。
上記Sn系はんだリサイクル材におけるAgの含有量は、特に限定されないが、アノード材を調合する観点より、0.0001~99.99質量%が好ましく、80質量%以下がより好ましく、60質量%以下が最も好ましい。
上記Sn系はんだリサイクル材におけるCu、Zn、Fe、Al、As、Bi、In、Cd、Ni、Pb、Au、P、Co、Ge、Ga、Pt、S、Cr、Mn、Mg、Ca、Pd、又はSiの含有量は、特に限定されないが、アノード材を調合する観点より、それぞれの元素において、0.0001~99.99質量%が好ましく、99.90質量%以下がより好ましい。
【0015】
上記アノード材におけるSnの含有量は、特に限定されないが、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、88質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が最も好ましい。Snの含有量の下限に関する数値範囲が上記範囲内であることにより、アノード材の偏析を防ぐことができる。上記アノード材におけるSnの含有量は、100質量%未満が好ましく、99.9質量%以下がより好ましく、99.0質量%以下がさらに好ましく、97.0質量%以下が最も好ましい。Snの純度が高過ぎてもリサイクル効率が悪くなるため、Snの含有量の上限に関する数値範囲が上記範囲内であることが好ましい。上記のSnの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。
上記アノード材におけるSnの含有量は、アノード材に含まれる他の元素以外の残部とすることもできる。
【0016】
上記アノード材におけるSbの含有量は、0.1質量%以上5質量%である。Sbの含有量に関する数値範囲が上記範囲内であることにより、リサイクル効率を維持しながら不働態化しにくくすることが可能となる。
【0017】
上記アノード材におけるAgの含有量は、0質量%超10質量%以下である。Agの含有量に関する数値範囲が上記範囲内であることにより、リサイクル効率を向上させることが可能となる。
【0018】
アノード材に含まれるSbの含有量が0.75質量%超1.5質量%以下の範囲内である場合に、アノード材に含まれるAgの含有量は、0.1質量%、0.5質量%、1質量%、1.5質量%、2質量%、2.5質量%、3質量%、3.5質量%、4質量%、4.5質量%、5質量%.5.5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、又は10質量%であってもよく、これらの数値のいずれか2つの間の範囲内であってもよい。特に、Agの含有量は、不働態化時間の値を維持又は大きくする観点からは、0.1~5質量%が好ましく、0.5~4質量%がより好ましく、1~4質量%が最も好ましい。
【0019】
アノード材に含まれるSbの含有量が2.5質量%超3.5質量%以下の範囲内である場合に、アノード材に含まれるAgの含有量は、0.1質量%、0.5質量%、1質量%、1.5質量%、2質量%、2.5質量%、3質量%、3.5質量%、4質量%、4.5質量%、5質量%.5.5質量%、6質量%、7質量%、8質量%、9質量%、又は10質量%であってもよく、これらの数値のいずれか2つの間の範囲内であってもよい。特に、Agの含有量は、不働態化時間の値を維持又は大きくする観点からは、0.1~9質量%が好ましく、0.5~8質量%がより好ましく、1~7質量%が最も好ましい。
【0020】
上述の式(1)に示すように、本発明のアノード材において、0<MA/Ms≦5である。MA/Msが上記数値範囲内であることにより、不働態化を抑制する効果が大きくなる。
【0021】
上記アノード材は、上記のSn、Sb、及びAg以外の元素を含まなくてもよく、又は含んでいてもよい。このようなSn、Sb、及びAg以外の元素は、特に限定されないが、Cu、Zn、Fe、Al、As、Bi、In、Cd、Ni、Pb、Au、P、Co、Ge、Ga、Pt、S、Cr、Mn、Mg、Ca、Pd、Si、又はこれらのうちの2種以上の組み合わせとすることができる。
Sn、Sb、及びAg以外の元素は、意図的添加元素であってもよく、あるいは不可避的不純物であってもよい。
アノード材は、上記のSb、上記のAg、上記のSn、Sb、及びAg以外の元素、並びに残部のSnからなるものとすることもできる。また、アノード材は、上記のSb、上記のAg、不可避的不純物、及び残部のSnからなるものとすることもできる。
【0022】
上記アノード材におけるCuの含有量は、特に限定されないが、3.5質量%以下、1.5質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、又は0.0017質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるCuの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上とすることができる。上記のCuの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるCuの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0023】
上記アノード材におけるZnの含有量は、特に限定されないが、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、又は0.01質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるZnの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上とすることができる。上記のZnの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるZnの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0024】
上記アノード材におけるFeの含有量は、特に限定されないが、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、0.001質量%以下、0.0005質量%以下、又は0.0004質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるFeの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上とすることができる。上記のFeの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるFeの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0025】
上記アノード材におけるAlの含有量は、特に限定されないが、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、0.001質量%以下、0.0005質量%以下、又は0.0001質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるAlの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上とすることができる。上記のAlの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるAlの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0026】
上記アノード材におけるAsの含有量は、特に限定されないが、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、又は0.0013質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるAsの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上とすることができる。上記のAsの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるAsの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0027】
上記アノード材におけるBiの含有量は、特に限定されないが、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、又は0.0033質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるBiの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上とすることができる。上記のBiの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるBiの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0028】
上記アノード材におけるInの含有量は、特に限定されないが、2質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、0.001質量%以下、又は0.0005質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるInの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上とすることができる。上記のInの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるInの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0029】
上記アノード材におけるCdの含有量は、特に限定されないが、0.5質量%以下、0.1質量%以下、又は0.01質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるCdの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.0001質量%以上、又は0.001質量%以上とすることができる。上記のCdの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるCdの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0030】
上記アノード材におけるNiの含有量は、特に限定されないが、2質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、0.001質量%以下、0.0005質量%以下、又は0.0003質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるNiの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上とすることができる。上記のNiの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるNiの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0031】
上記アノード材におけるPbの含有量は、特に限定されないが、2質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、又は0.0036質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるPbの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.0010質量%以上、又は0.0015質量%以上とすることができる。上記のPbの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるPbの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0032】
上記アノード材におけるAuの含有量は、特に限定されないが、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、又は0.0010質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるAuの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.0001質量%以上、又は0.001質量%以上とすることができる。上記のAuの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるAuの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0033】
上記アノード材におけるPの含有量は、特に限定されないが、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.005質量%以下、0.001質量%以下、0.0005質量%以下、又は0.0002質量%以下とすることができる。上記アノード材におけるPの含有量は、特に限定されないが、0質量%以上、0.0001質量%以上、又は0.001質量%以上とすることができる。上記のPの含有量の数値範囲は任意に組み合わせることができる。上記アノード材におけるPの含有量は、特に限定されないが、0質量%とすることもできる。
【0034】
上記アノード材における、Co、Ge、Ga、Pt、S、Cr、Mn、Mg、Ca、Pd、又はSiの含有量は、特に限定されないが、それぞれ上述のPbの含有量と同様の数値範囲内とすることができる。
【0035】
アノード材における上述の各元素の含有量は、後述する[実施例]に記載するように、0.1質量%以上の主な成分についてはICP発光分析法(使用装置:ICP発光分光分析装置、ARCOS(SPECTRO社製))を使用して測定し、0.1質量%未満の不純物についてはICP-MS/MS分析法(使用装置:ICP-MS/MS 8900(アジレントテクノロジー社製))を使用して測定することができる。
【0036】
本実施形態のSnの電解精錬方法において、アノード材を調製する工程は、Sn系はんだリサイクル材から得られたアノード材の組成を分析する工程を更に含むことができる。アノード材の組成の分析は、後述する[実施例]に記載の装置及び方法に基づいて測定することができる。
【0037】
アノード材を用いて電解精錬する工程において、使用する電解精錬の装置及び条件は、特に限定されないが、整流器、PVC製の電解槽、アノード、及びSnの種板であるカソードを用いて、公知の電解精錬方法で行うことができる。電解精錬に用いる電解液は、硫酸浴等の公知の電解液を用いることができる。
【0038】
Snの電解精錬方法において、電解精錬の時間は、特に限定されないが、1時間~1ヵ月が好ましく、10時間~2週間がより好ましく、1日~1週間が最も好ましい。電解精錬の時間を上記数値範囲内とすることにより、効率よく電解精錬できる。
Snの電解精錬方法において、電解精錬の電流密度は、特に限定されないが、0.1~30ASDが好ましく、0.2~10ASDがより好ましく、0.3~5ASDが最も好ましい。電解精錬の電流密度を上記数値範囲内とすることにより、生産性と不働態化の抑制とのバランスをとることができる。
【0039】
本発明のアノード材は、Sbの含有量が同じでありAgを含まないSn系アノード材に比べて、同等か、又はそれ以上の不働態化時間を有する。例えば、本明細書の1質量%のSbを含みAgを含むSn系アノード材は、1質量%のSbを含みAgを含まないSn系アノード材に比べて、同等か、又はそれ以上の不働態化時間を有することができる。
本明細書において、アノード材が同等の不働態化時間を有するとは、比較対象であるアノード材の不働態化時間を基準として、80~100%の不働態化時間を有することを意味する。
【0040】
本明細書では、不働態化時間を測定するに当たって、クロノポテンショメトリーを使用することができる。クロノポテンショメトリーは、電位の時間変化を測定する方法であり、一般的には、電流を一定にした際の電位の時間変化を測定する場合が多い。電位の変化を測定することで、作用極の状態の情報を得ることができる。
本明細書では、不働態化時間を測定するに当たって、一定の電流値でアノードを溶解し、基準電極に対するアノード電位を測定することができる。‘佐々木秀顕,二宮裕磨,岡部徹: “銅の電解精製とアノード不働態化” Journal of MMIJ , Vol. 136, No. 3, pp. 14-24, 2020’に開示されているように、不働態化は、電位の急激な上昇として観察される。不働態化が起こるまでの電解時間(tp)は、不働態化時間と呼ばれ、本明細書ではこの現象を確認する。
使用する電極によって、平衡電位は多少異なるが、本明細書の系では平衡電位にあまり差がない。そのため、全電極で平衡電位を等しいと仮定して、参照電極に対する電位が1Vより貴になった際の時間を不働態化時間とすることができる。
本明細書において不働態化時間は、後述する[実施例]の(不働態化時間の測定)に記載の装置及び条件に基づいて測定することができる。
【0041】
2.Snを製造する方法
本発明のSnを製造する方法は、上記の「1.Snの電解精錬方法」で述べた方法により実施することができる。
本実施形態のSnを製造する方法における、Sn系はんだリサイクル材の組成、アノード材の組成、不働態化時間などの各構成は、上記の「1.Snの電解精錬方法」で述べた各構成と同様のものとすることができる。
【0042】
上記の方法により得られるSn(電解精錬Sn)におけるSnの含有量(純度)は、特に限定されないが、99質量%以上、99.9質量%以上、又は99.99質量%以上とすることができる。Sn(電解精錬Sn)におけるSnの含有量(純度)は、100質量%未満、99.9999質量%以下、99.999質量%以下、又は99.99質量%以下とすることができる。上記のSnの含有量(純度)の数値範囲は、任意に組み合わせることができる。
【0043】
3.Sn電解精錬用アノード材
本発明のSn電解精錬用アノード材は、
Sn、0.1質量%以上5質量%以下のSb、及び0質量%超10質量%以下のAgを含み、下記の式(1)を満たす:
0<MA/Ms≦5 (1)
(MA:アノード材に含まれるAgの質量%、Ms:アノード材に含まれるSbの質量%)。
【0044】
本実施形態におけるSn電解精錬用アノード材の組成、不働態化時間などの各構成は、上記の「1.Snの電解精錬方法」で述べたアノード材に関する各構成と同様のものとすることができる。
Sn電解精錬用アノード材は、上記の「1.Snの電解精錬方法」に記載したように、Sn系はんだリサイクル材から調製することができる。
【0045】
以下、本発明について実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に記載の内容に限定されるものではない。
【実施例0046】
(アノード材の調製)
Sn系はんだリサイクル材に対して不純物であるSb及びAgが及ぼす影響を調べるために、以下に示す手順に基づいてアノード材を調製した。
【0047】
まず、アノード材の原料として下記の表1に示す組成を有する4Nスズ、Ag金属、及びSb金属を準備した。
【0048】
【0049】
次に、4Nスズ、Ag金属、及びSb金属の各原料を、下記の表2及び3の各組成となるように所定量用意して、砥粉を塗ったステンレスビーカー内で溶解した。得られた溶解した金属を鋳型に流しこみ、サンプル(幅:約25.5mm、長さ:約230mm、厚み:4~10mm)を成型した。鋳型から取り出したサンプルを、所定の大きさ(幅:約25.5mm、長さ:約100mm、厚み:4~10mm)に切断した。切断後のサンプルについて、マスキングテープを使用して、電解液に浸漬する部分をマスキングして、14mm×22mmの面積部分だけ露出させ、各組成を有するアノード材とした。
得られた各アノード材の組成は、0.1質量%以上の主な成分についてはICP発光分析法(使用装置:ICP発光分光分析装置、ARCOS(SPECTRO社製))を使用して測定し、0.1質量%未満の不純物についてはICP-MS/MS分析法(使用装置:ICP-MS/MS 8900(アジレントテクノロジー社製)を使用して測定した。結果を表2及び3に示す。
表2及び3に示すアノード材において、Sb又はAgの左側に付した数字は、アノード材の調製において目標としたSb又はAgの質量%を意味する。例えば、表2における「1Sb1Ag」は、1.0質量%のSb及び1.0質量%のAgを含む組成となるように意図して調製されたことを意味する。
【0050】
表2及び3に示した実施例のアノード材は、Sn、0.1質量%超5質量%以下のSb、及び0質量%超10質量%以下のAgを含み、上述の式(1)を満たす。一方、表2及び3に示した対照例のアノード材は、上記Snの含有量、Sbの含有量、Agの含有量、及び式(1)の規定のうち少なくとも1つを満たさない。
【0051】
【0052】
【0053】
(不働態化時間の測定)
電気化学測定(クロノポテンショメトリー)は、
図1に示す装置を使用して行った。
具体的には、500mLのビーカー50に250mLの電解液60を入れ、
図1に示すような3電極系(作用極20、対極30、参照極40)を用意した。制御用コンピューター70に接続したポテンショスタット/ガルバノスタット10(VERSA STAT3、アメテック株式会社製)を設置した。そして、以下の測定条件下にてクロノポテンショメトリーを行った。
【0054】
(測定条件)
・電流:0.308A、測定時間:不動態化するまで、
測定レート:10000秒以下 1s/回、10000秒を超える場合 10s/回
・作用極:表2及び3の各組成を有するアノード材(14mm×22mm×片面)
*電流密度:10ASD
・対極:3N Sn(25mm×25mm×2面)
・参照極:飽和カロメル電極(SCE)
・電解液:硫酸 70g/L、SnO 25g/L、ノイゲン(登録商標)EN-10(非イオン界面活性剤、第一工業製薬株式会社製) 5g/L
・電解液の撹拌は行わなかった。
【0055】
クロノポテンショメトリーにおいて、作用極(作用電極)によらず平衡電位が等しいと仮定して、SCEを基準とした電位が1Vより貴になった際の時間を不働態化時間とし、各作用電極を使用した場合の不働態化時間を算出した。
表2に示した実施例及び対照例のアノード材(1質量%のSbを含むSn系アノード材)については、不働態化時間の測定を3回行い、3回の測定結果の中央値を不働態化時間の測定値とした。また、表3に示した実施例及び対照例のアノード材(3質量%のSbを含むSn系アノード材)については、不働態化時間の測定を1回行った。結果を表4及び5及び
図2及び3に示す。
図2及び3において、塗りつぶしのあるグラフが実施例に対応し、塗りつぶしのないグラフが対照例に対応している。
【0056】
(アノードスライムの評価)
表2に示した実施例のアノード材(1質量%のSbを含むSn系アノード材)について、上記(不働態化時間の測定)のクロノポテンショメトリー(N=3)を行っている際に、各作用極の表面を観察し、発生したアノードスライムの状態(作用極表面からの剥離の有無等)を観察した。
そして、上記(不働態化時間の測定)のクロノポテンショメトリー(N=3)を終了した各作用極をビーカー50より引き上げ、水洗した後に乾燥させた。乾燥後の表2に示した実施例の各作用極(1Sb1Ag、1Sb3Ag、及び1Sb5Ag)におけるスライム発生部を電解放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM:日本エフイー・アイ株式会社製、QUANTA FEG250)を用いて二次電子像(SEI)像の観察(N=3)を実施した。得られた二次電子像のうちの代表例を
図4の(a)~(c)に示す。
また、上記の表2に示した実施例の各作用極(二次電子像を観察した後の各作用極(N=3)のうちから2つを選定)をサンプルホルダーで固定し、各作用極におけるスライム発生部表面の定性分析を波長分散型蛍光X線装置(XRF:株式会社リガク製、ZSX Primus II)にて行いスライム成分を分析した。使用したサンプルホルダーを
図5に示す。当該サンプルホルダーは、10mmの開口径(直径)を有しており、当該開口部分からスライム発生部の中心付近が露出するようにした。スライム成分の分析は、各作用極ごとにN=2にて測定を行って平均値を算出し、当該平均値を分析結果として採用した。得られた分析結果を表6及び
図6に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
(不働態化時間の測定結果)
表4及び
図2より、1質量%のSbを含むSn系アノード材において、1、3、又は5質量%のAgをさらに含む実施例の場合には、対照例である1質量%のSbのみを含むSn系アノード材と、不働態化時間の値が同等(80~100%)又はそれ以上であり不働態化を防止できており、かつSbとAgとを含む材料からSnをリサイクル可能であり、リサイクルの効率化を図れることがわかった。
また、表5及び
図3より、3質量%のSbを含むSn系アノード材において、1、3、又は5質量%のAgをさらに含む実施例の場合には、対照例である3質量%のSbのみを含むSn系アノード材と、不働態化時間の値が同等(80~100%)又はそれ以上であり不働態化を防止できており、かつSbとAgとを含む材料からSnをリサイクル可能であり、リサイクルの効率化を図れることがわかった。
【0061】
(アノードスライムの二次電子像)
アノードスライムの状態(作用極表面からの剥離の有無等)を観察した結果、Sn-Ag-Sb電極上にアノードスライムの発生がみられた。
上記のようにして得られた1Sb1Ag、1Sb3Ag、及び1Sb5Agの各電極のアノードスライム発生部の二次電子像を
図4の(a)~(c)にそれぞれ示す。
図4の(a)は1Sb1Agの二次電子像であり、上側が倍率50倍、下側が倍率1000倍の二次電子像である。
図4の(b)は1Sb3Agの二次電子像であり、上側が倍率50倍、下側が倍率1000倍の二次電子像である。
図4の(c)は1Sb5Agの二次電子像であり、上側が倍率50倍、下側が倍率1000倍の二次電子像である。
【0062】
(アノードスライムの定性分析)
表6及び
図6より、スライム成分から検出されるAgの量は、使用した電極材中のAg量が多いほど多くなることが分かった。
【0063】
以上より、Sn、0.1質量%以上5質量%以下のSb、及び0質量%超10質量%以下のAgを含み、上述の式(1)を満たすアノード材を電解精錬する工程を含むSnの電解精錬方法により、不働態化を防止しながら、Sb、Ag等の異なる種類の不純物元素を含むSn系リサイクル材を使用してリサイクルの効率化を図れることがわかった。