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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127304
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】モールドパウダー
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
B22D11/108 F
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036362
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】田代 篤也
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MB14
4E004NA01
4E004NB01
4E004NB02
4E004NB03
4E004NB04
4E004NB05
4E004NC01
(57)【要約】
【課題】 吸湿による特性の変化を抑制し、安定した鋼の連続鋳造を可能にするモールドパウダーを提供すること。
【解決手段】 モールドパウダーは、主原料と副原料とを含み、副原料はカーボン原料と酸化剤を含み、酸化剤は過酸化カルシウムを含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主原料と副原料とを含み、
前記副原料はカーボン原料と酸化剤を含み、
前記酸化剤は過酸化カルシウムを含むことを特徴とするモールドパウダー。
【請求項2】
請求項1に記載のモールドパウダーにおいて、
前記過酸化カルシウムの含有量は0.05質量%以上10.0質量%以下であることを特徴とするモールドパウダー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のモールドパウダーにおいて、
前記カーボン原料の含有量は0.5質量%以上12.0質量%以下であることを特徴とするモールドパウダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼の連続鋳造に好適なモールドパウダーに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造では、タンディッシュに貯留された溶鋼を、浸漬ノズルを介してモールドに流し込んで冷却、凝固させながら、凝固したシェル(凝固シェル)をロールを用いてモールドの下方向に連続的に引き抜くことにより、スラブ、ブルーム、ビレット等の各種形状の鋳片を連続的に製造する。モールド内の溶鋼の表面には、粉末状又は顆粒状のモールドパウダーが投入される。モールドパウダーは溶鋼の熱によって溶融し(以下、溶融状態のモールドパウダーを「溶融スラグ」という)、溶融スラグ層を形成して溶鋼の表面を覆い、溶融スラグは凝固シェルとモールドとの間に流入し、凝固シェルと並行して排出される。投入から排出までの間のモールドパウダーの主な機能は以下のとおりである。
(1)モールド内の溶鋼表面の保温
(2)溶鋼の再酸化防止
(3)溶鋼から浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化
(4)凝固シェルとモールドとの間の潤滑の保持
(5)凝固シェルからモールドへの熱流束の制御
【0003】
連続鋳造の生産性向上のために高速鋳造が指向される。高速鋳造では、凝固シェルとモールドとの間の潤滑の保持が特に重要になる。そのため、投入されたモールドパウダーは速やかに溶融して凝固シェルとモールドとの間に流入する必要がある。一方、モールドパウダーの溶融から凝固シェルとモールドとの間への流入、排出が早すぎると溶融スラグ層が薄くなり、溶鋼への未溶融モールドパウダーの巻き込み欠陥が生じることがある。
【0004】
そこで、モールドパウダーの溶融速度を調整するため、カーボン原料が使用される。特許文献1は、モールドパウダーの機能を早期に発現させるため、カーボン原料の助燃材(酸化剤)として硝酸ソーダをモールドパウダーに添加し、カーボン原料を発熱源として用いることを開示する。また、特許文献2は、モールドパウダー中のカーボン原料の含有量を低減すると溶融速度が速くなり、カーボン原料の含有量を増加すると溶融速度が遅くなることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-078035号公報
【特許文献2】WO2020/246498A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、硝酸塩は潮解性、吸湿性があるため、湿気によって固結することがある。固結した硝酸塩は酸化剤としての機能が低下する。さらに、固結した硝酸塩を含むモールドパウダーは分散性が低下し、局所的な溶融ムラが生じてスラグリム生成を助長することがある。
【0007】
また、モールドパウダー中のカーボン原料の含有量を低減すると、モールドパウダーが焼結しやすくなり、むしろ溶融性が悪化することがある。その結果、モールド内にスラグリム(スラグベア)が生じ、安定した鋼の連続鋳造を阻害することがある。
【0008】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、吸湿による特性の変化を抑制し、安定した鋼の連続鋳造を可能にするモールドパウダーを提供することである。さらに、その目的は、カーボン原料の含有量を低減しても焼結性の促進と溶融性の悪化を抑制することにより、安定した鋼の連続鋳造を可能にするモールドパウダーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一の態様は、
主原料と副原料とを含み、
前記副原料はカーボン原料と酸化剤を含み、
前記酸化剤は過酸化カルシウムを含むことを特徴とするモールドパウダーに関する。
【0010】
過酸化カルシウムは吸湿性を有しないので、吸湿によるモールドパウダーの特性の変化を抑制することができると共に、過酸化カルシウムとカーボン原料の酸化、発熱反応によりモールドパウダーが早期に溶融して機能を発現し、結果として、安定した鋼の連続鋳造が可能になる。
【0011】
本開示の一の態様では、
前記過酸化カルシウムの含有量は0.05質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0012】
これにより、モールドパウダーの溶融速度と焼結性を好適にバランスさせることができる。また、過酸化カルシウムは吸湿性を有しないので、吸湿によるモールドパウダーの特性の変化を抑制することができる。結果として、安定した鋼の連続鋳造が可能になり鋳片品質を向上させることができる。
【0013】
本開示の一の態様では、
前記カーボン原料の含有量は0.5質量%以上12.0質量%以下であることがより好ましい。
【0014】
カーボン原料の含有量を低減してもモールドパウダーの溶融速度と焼結性を好適にバランスさせることができ、結果として、安定した鋼の連続鋳造が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0016】
本実施形態のモールドパウダーは、主原料と副原料とを含み、副原料はカーボン原料と酸化剤を含み、酸化剤は過酸化カルシウムを含む。過酸化カルシウムは吸湿性を有しないので、吸湿によるモールドパウダーの特性の変化を抑制することができると共に、過酸化カルシウムとカーボン原料の酸化、発熱反応によりモールドパウダーが早期に溶融して機能を発現し、結果として、安定した鋼の連続鋳造が可能になる。
【0017】
<主原料>
本実施形態のモールドパウダーに含まれる主原料は、一般にモールドパウダーに用いられるCaO・SiO質原料であれば特に制限はなく、例えば、ポルトランドセメント、石灰石、生石灰、珪酸カルシウム、合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト、リンスラグ、高炉スラグ、ダイカルシウムシリケート、炭酸カルシウム、珪砂、長石、珪石、珪藻土、パーライト、フライアッシュ、ガラス粉、シリカフューム、シリカフラワー等を用いることができる。CaOのSiOに対する質量比(CaO/SiO)は、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はない。
【0018】
<カーボン原料>
本実施形態のモールドパウダーに含まれるカーボン原料は、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、コークス、グラファイト、カーボンブラック等を用いることができる。カーボン原料はモールドパウダーの溶融速度の調整機能と発熱機能を有する。カーボン原料の含有量は0.3質量%以上15.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上12.0質量%以下がより好ましく、0.8質量%以上10.0質量%以下がさらに好ましく、0.8質量%以上7.3質量%以下が特に好ましい。カーボン原料の含有量を低減しても、溶融速度と焼結性を好適にバランスさせることができ、結果として、安定した鋼の連続鋳造が可能になる。
【0019】
<過酸化カルシウム>
本実施形態のモールドパウダーに含まれる過酸化カルシウムはカーボン原料を酸化、発熱させてモールドパウダーの溶融を促進する。過酸化カルシウムは純物質でもよいし、副成分が添加され、取り扱いがより安全、簡単な製剤であってもよく、市販の試薬や工業薬品を使用することができる。過酸化カルシウムの含有量は0.05質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。これにより、溶融速度と焼結性を好適にバランスさせることができる。また、過酸化カルシウムは吸湿性を有しないので、吸湿によるモールドパウダーの特性の変化を抑制することができる。結果として、安定した鋼の連続鋳造が可能になり鋳片品質を向上させることができる。なお、製剤で添加する場合の過酸化カルシウムの含有量は、副成分を除いた過酸化カルシウムの純分で算出する。
【0020】
<その他の副原料>
本実施形態のモールドパウダーは、副原料として、一般にモールドパウダーに用いられる酸化剤、フラックス原料及び/又はその他の原料を用いてもよい。
【0021】
過酸化カルシウム以外の酸化剤としては、酸化鉄を用いてもよく、吸湿性が低い過酸化リチウム、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸バリウム、酸化マンガン各種、酸化コバルト、酸化ニッケル等をさらに用いてもよい。酸化剤の合計含有量は0.05質量%以上15.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上10.0質量%以下がより好ましい。これにより、発熱効果をさらに高めることができると共に、質量比(CaO/SiO)に影響しないので成分設計を容易に行うことができる。
【0022】
フラックス原料は軟化点、粘度、結晶化温度を調整する機能を有する。例えば、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化カリウム、氷晶石、蛍石(フッ化カルシウム)、フッ化マグネシウム等のフッ化物、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の炭酸塩、ホウ酸、ホウ砂、コレマナイト等を用いることができる。その他の原料として、必要な性能に応じてマグネシア、アルミナ、TiO、MnO、Cr、ZrO等の酸化物を用いてもよい。また、不可避成分として微量のFe、P、S等が含まれてもよい。
【0023】
<形態>
本実施形態のモールドパウダーの形態は、一般にモールドパウダーに用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、粉末、押し出し成形顆粒、中空スプレー顆粒、撹拌造粒等を用いることができる。
【実施例0024】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。
【0025】
<サンプル>
モールドパウダーのサンプルの配合を表1~6に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【0026】
サンプルNo.1-1~1-9(表1)、サンプルNo.2-1~2-9(表2)、サンプルNo.3-1~3-9(表3)、サンプルNo.4-1~4-9(表4)、サンプルNo.5-1~5-9(表5)、サンプルNo.6-1~6-9(表6)をそれぞれシリーズ1~6とした。それぞれのシリーズのサンプルNo.1-1、2-1・・6-1は酸化剤を用いず、それぞれのシリーズの基準サンプルとした。それぞれのシリーズのサンプルNo.1-2、2-2・・6-2は酸化剤として吸湿防止の包装を開封した直後のフレッシュな硝酸ナトリウム(表中、硝酸塩と記載)を用い、サンプルNo.1-3、2-3・・6-3は酸化剤として開封から2か月間大気中に放置した後の硝酸ナトリウム(表中、固結硝酸塩と記載)を用いた。サンプルNo.1-1~1-3、2-1~2-3・・6-1~6-3はそれぞれのシリーズの比較例である。サンプルNo.1-4~1-9、2-4~2-9・・6-4~6-9はそれぞれのシリーズの実施例であり、酸化剤として開封から2か月間大気中に放置した後の過酸化カルシウムを用いた。酸化剤以外の原料としては、主原料としてCaO・SiO質原料、副原料としてカーボン原料、フッ化物、炭酸塩、マグネシア及びアルミナを用いた。シリーズ1~6ではカーボン原料の含有量をそれぞれ0.5質量%、0.8質量%、2.5質量%、7.3質量%、10.0質量%及び12.0質量%に固定し、過酸化カルシウムの含有量を変化させた。いずれの原料も粉末を用いた。
【0027】
それぞれのサンプルについて、以下に示す吸湿性、焼結性及び溶融時間の評価を行った(ただし、酸化剤を含まない基準サンプルを除く)。
【0028】
<吸湿性>
サンプルを常温、大気中で3日間放置した後、加熱乾燥式水分計で水分含有量を測定した。サンプルの吸湿性は、水分含有量が0.2質量%以下の場合を優(◎)、0.2質量%超0.5質量%以下の場合を良(○)、0.5質量%超0.9質量%以下の場合を可(△)、0.9%超の場合を不可(×)と評価した。
【0029】
<焼結性>
高周波誘導炉内で20kgの銑鉄を溶かし、1500℃に維持し、その溶銑上に400gのサンプルを散布し、目視で焼結の有無を確認した。サンプルの焼結性は、焼結塊が発生しなかった場合を優(◎)、3cm以下の大きさの焼結塊が発生した場合を可(△)、3cm超の大きさの焼結塊が発生した場合を不可(×)と評価した。
【0030】
<溶融時間>
1300℃の電気炉内に1.5gのサンプルを充てんしたルツボを挿入し、目視で完全に溶融するまでの時間を測定した。溶融時間が長い又は短いと溶融スラグ層の形成が遅い又は早いことを示す。
【0031】
サンプルの溶融時間は、同一シリーズの基準サンプルに対し30秒以上短い場合を優(◎)、5秒以上30秒未満短い場合を良(〇)、5秒未満短い又は5秒未満長い場合を可(△)、5秒以上長い場合を不可(×)と評価した。
【0032】
<総合評価>
総合評価は、溶融速度、焼結性及び吸湿性の評価がいずれも優(◎)又は良(○)の場合を優(◎)、可(△)が1つかつ他が優(◎)又は良(○)の場合を良(○)、不可(×)が1つ以上又は可(△)が2つ以上の場合を不可(×)とした。
【0033】
<評価結果>
評価結果を表1~6に示す。
【0034】
表1より、シリーズ1の実施例は焼結性が可(△)であり、若干焼結したが、総合評価は全て良(〇)であり、実用上問題ない程度であった。表2、3より、シリーズ2、3の実施例の総合評価は全て優(◎)であり、良好な結果となった。表4より、シリーズ4の実施例は、過酸化カルシウムが0.1質量%のサンプルNo.4-4及び7.0質量%のサンプルNo.4-9の溶融時間が可(△)であったものの、総合評価は全て優(◎)又は良(〇)であり、良好な結果となった。表5より、シリーズ5の実施例の総合評価は全て優(◎)であり、良好な結果となった。表6より、シリーズ6の実施例は溶融時間が可(△)であったものの、総合評価は全て良(〇)であり、実用上問題ない程度であった。
【0035】
表1~6より、過酸化カルシウムの含有量は0.05質量%以上10.0質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましかった。溶融速度と焼結性を好適にバランスさせることができたと共に、過酸化カルシウムは吸湿性を有しないので、吸湿によるモールドパウダーの特性の変化を抑制することができたと考えられる。結果として、安定した鋼の連続鋳造が可能になり鋳片品質を向上させることができた。
【0036】
表1~6より、カーボン原料の含有量は0.3質量%以上15.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上12.0質量%以下がより好ましく、0.8質量%以上10.0質量%以下がさらに好ましく、0.8質量%以上7.3質量%以下が特に好ましかった。カーボン原料の含有量を低減しても、溶融速度と焼結性を好適にバランスさせることができたと考えられる。結果として、安定した鋼の連続鋳造が可能になり鋳片品質を向上させることができた。
【0037】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。