(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127311
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ステアバイワイヤ方式の操舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036382
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB45
3D333CC23
3D333CD04
3D333CD05
3D333CD14
3D333CD17
3D333CD19
3D333CE53
(57)【要約】
【課題】ステアリングホイールがストロークエンド位置に到達したことを確実に運転者に感知させることができ、かつ、ステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングが良いステアバイワイヤ方式の操舵装置を提供する。
【解決手段】係合子20を外輪17と内輪16の間に係合させる係合位置と、外輪17と内輪16の間への係合子20の係合を解除する係合解除位置との間で周方向に移動可能に支持された係合子保持器21と、係合子保持器21を係合解除位置に弾性的に保持するセンタリングばね22と、電磁石23と軸方向に対向して配置されたアーマチュア24と、アーマチュア24を電磁石23に向けて軸方向に押圧する弾性部材25とを有するステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイール(1)と、
前記ステアリングホイール(1)の操作量を検知する操舵センサ(5)と、
前記ステアリングホイール(1)に対して機械的に切り離して設けられ、前記操舵センサ(5)で検知される前記ステアリングホイール(1)の操作量に応じて操舵対象(3)の向きを変化させる転舵アクチュエータ(2)と、を有するステアバイワイヤ方式の操舵装置において、
前記ステアリングホイール(1)と一体に回転するように前記ステアリングホイール(1)に連結して設けられた内輪(16)と、
回転しないように固定して設けられた外輪(17)と、
前記外輪(17)の内周と前記内輪(16)の外周との間に組み込まれた係合子(20)と、
前記係合子(20)を前記外輪(17)と前記内輪(16)の間に係合させる係合位置と、前記外輪(17)と内輪(16)の間への前記係合子(20)の係合を解除する係合解除位置との間で周方向に移動可能に支持された係合子保持器(21)と、
前記係合子保持器(21)を前記係合解除位置に弾性的に保持するセンタリングばね(22)と、
回転しないように固定して設けられた電磁石(23)と、
前記電磁石(23)に通電したときに前記電磁石(23)に吸引されるように前記電磁石(23)と軸方向に対向して配置され、かつ、前記係合子保持器(21)に回り止めされたアーマチュア(24)と、
前記電磁石(23)に通電していないときにも前記アーマチュア(24)が前記電磁石(23)に摺動するように前記アーマチュア(24)を前記電磁石(23)に向けて軸方向に押圧する弾性部材(25)と、を有することを特徴とするステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項2】
前記電磁石(23)の前記アーマチュア(24)との摺動面と前記アーマチュア(24)の前記電磁石(23)との摺動面のうちの少なくとも一方が、摩擦材(24b,32b)で形成された面とされている請求項1に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項3】
前記弾性部材(25)は、ウェーブスプリング、皿ばね、圧縮コイルばねのいずれかである請求項1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【請求項4】
前記電磁石(23)に印加する電流を制御する制御部(8)を有し、
前記制御部(8)は、
前記ステアリングホイール(1)がストロークエンド位置に到達したときは、前記係合位置に移動した状態の前記係合子保持器(21)に作用する前記センタリングばね(22)の弾性力よりも大きい摩擦力が前記アーマチュア(24)と前記電磁石(23)の摺動面間に発生するように、所定値の電流を前記電磁石(23)に印加し、
前記ステアリングホイール(1)が前記ストロークエンド位置に到達する前の所定の角度範囲にあるときは、前記係合子保持器(21)が前記係合位置に移動しない範囲で前記アーマチュア(24)と前記電磁石(23)の摺動面間の摩擦力を増大させるように、前記所定値よりも小さい範囲で前記電磁石(23)に印加する電流を増加させる制御を行なう、請求項1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリングホイールと操舵対象との間が機械的に切り離された状態で操舵対象の転舵を行なうステアバイワイヤ方式の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転者によるステアリングホイールの回転操作に応じて、車両の転舵輪の向きを変化させる操舵装置として、ステアバイワイヤ方式のものが知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1のステアバイワイヤ方式の操舵装置は、ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータとを有し、その転舵アクチュエータが、操舵センサで検知されるステアリングホイールの操作量に応じて作動し、左右一対の転舵輪の向きを変化させる。
【0003】
このステアバイワイヤ方式の操舵装置は、運転者によるステアリングホイールの操作量をいったん電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータの動作を制御するので、例えば、ステアリングホイールを操作したときの転舵輪の向きの変化量を車両の走行速度に応じて調整するといったように、車両の走行速度に応じてステアリングホイールの操作量と転舵アクチュエータの動作量の対応関係を最適化することが可能であり、車両の走行安定性や運動性能の向上を可能とするものとして期待されている。
【0004】
ところで、ステアバイワイヤ方式の操舵装置においては、運転者によって回転操作されるステアリングホイールと、左右一対の転舵輪の向きを変化させる転舵アクチュエータとが機械的に切り離されている。そのため、運転者が、車両停車中にステアリングホイールを操作して転舵輪の向きがその移動限界に到達したときにも、運転者は、さらにステアリングホイールを回転操作することが可能である。そのため、転舵輪の向きが移動限界に到達しているにもかかわらず、運転者は、転舵輪の向きが移動限界に到達していることに気付かないという問題が生じる。
【0005】
この問題は、車両の転舵輪を操舵対象とするステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置以外にも、ステアバイワイヤ方式の操舵装置であれば、例えば、船舶の船尾に設けられる舵(船外機等)を操舵対象とするステアバイワイヤ方式の船舶用操舵装置などにも存在する。
【0006】
そこで、本願の発明者は、操舵対象の向きが移動限界に到達したときに、運転者がステアリングホイールを通じてその状況を確実に感知することができるようにするため、以下の構成の電磁式クラッチユニットを発案した。
前記ステアリングホイールと一体に回転するように前記ステアリングホイールに連結して設けられた内輪と、
回転しないように固定して設けられた外輪と、
前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に組み込まれた係合子と、
前記係合子を前記外輪と前記内輪の間に係合させる係合位置と、前記外輪と内輪の間への前記係合子の係合を解除する係合解除位置との間で周方向に移動可能に支持された係合子保持器と、
前記係合子保持器を前記係合解除位置に弾性的に保持するセンタリングばねと、
回転しないように固定して設けられた電磁石と、
前記電磁石に通電したときに前記電磁石に吸引されるように前記電磁石と軸方向に対向して配置され、かつ、前記係合子保持器に回り止めされたアーマチュアと、を有することを特徴とする電磁式クラッチユニット。
【0007】
この構成の電磁式クラッチユニットは、電磁石の通電と非通電とを切り換えることで、内輪と外輪との間に係合子が係合して内輪の回転が阻止されるロック状態と、内輪と外輪との間への係合子の係合が解除されて内輪の回転が許容されるロック解除状態とを切り替えることができる。ここで、電磁式クラッチユニットをロック解除状態からロック状態に切り替えたとき、係合子が内輪と外輪との間に物理的に係合し、内輪の回転が確実に阻止されるので、内輪に連結されたステアリングホイールの回転も確実に阻止される。そのため、ステアリングホイールが回転して所定のストロークエンド位置(操舵対象の向きが移動限界に到達する位置)に到達したときに、電磁石を非通電状態から通電状態に切り換えることで、ステアリングホイールがそれ以上に回転するのを確実に阻止し、そのステアリングホイールを通じて運転者に、操舵対象の向きが移動限界に到達したことを確実に感知させることができる。
【0008】
ここで、発明者は、上記構成の電磁式クラッチユニットを使用した操舵装置において、運転者の回転操作によりステアリングホイールがストロークエンド位置(操舵対象の向きが移動限界に到達する位置)に到達したときに、電磁石を非通電状態から通電状態に切り替えて内輪と外輪の間に係合子を係合させると、ステアリングホイールの回転抵抗が急激に増加することから、ステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングが良くないという問題があることに気付いた。
【0009】
そこで、上記構成の電磁式クラッチユニットを使用した操舵装置において、ステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングを向上させる方法として、ステアリングホイールに操舵反力を付与する反力モータを使用し、ステアリングホイールがストロークエンド位置(操舵対象の向きが移動限界に到達する位置)に到達する前の所定の角度範囲にあるときに、大きい反力が発生するように反力モータを制御し、これにより、ステアリングホイールの回転が阻止される時のステアリングホイールの回転抵抗の増加幅を小さく抑えるという方法が考えられる。しかしながら、そのような大きな反力を反力モータで発生させるには、反力モータのサイズを大型化する必要があり、また、反力モータの消費電力も大きくなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明が解決しようとする課題は、ステアリングホイールがストロークエンド位置に到達したことを確実に運転者に感知させることができ、かつ、ステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングが良いステアバイワイヤ方式の操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、この発明では、以下の構成のステアバイワイヤ方式の操舵装置を提供する。
[構成1]
ステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールの操作量を検知する操舵センサと、
前記ステアリングホイールに対して機械的に切り離して設けられ、前記操舵センサで検知される前記ステアリングホイールの操作量に応じて操舵対象の向きを変化させる転舵アクチュエータと、を有するステアバイワイヤ方式の操舵装置において、
前記ステアリングホイールと一体に回転するように前記ステアリングホイールに連結して設けられた内輪と、
回転しないように固定して設けられた外輪と、
前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に組み込まれた係合子と、
前記係合子を前記外輪と前記内輪の間に係合させる係合位置と、前記外輪と内輪の間への前記係合子の係合を解除する係合解除位置との間で周方向に移動可能に支持された係合子保持器と、
前記係合子保持器を前記係合解除位置に弾性的に保持するセンタリングばねと、
回転しないように固定して設けられた電磁石と、
前記電磁石に通電したときに前記電磁石に吸引されるように前記電磁石と軸方向に対向して配置され、かつ、前記係合子保持器に回り止めされたアーマチュアと、
前記電磁石に通電していないときにも前記アーマチュアが前記電磁石に摺動するように前記アーマチュアを前記電磁石に向けて軸方向に押圧する弾性部材と、を有することを特徴とするステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0013】
この構成を採用すると、アーマチュアを電磁石に向けて軸方向に押圧する弾性部材が設けられているので、電磁石に通電していないときにも、アーマチュアが電磁石に摺動した状態となり、そのアーマチュアと電磁石の摺動面間で発生する摩擦力によって、ステアリングホイールに回転負荷を付与することが可能である。
【0014】
また、電磁石に電流を印加することで、アーマチュアを電磁石に吸引し、アーマチュアと電磁石の摺動面間で発生する摩擦力を大きくすることができる。このとき、電磁石に印加する電流の大きさを変化させることで、アーマチュアと電磁石の摺動面間で発生する摩擦力を変化させ、ステアリングホイールの回転負荷を変化させることが可能である。
【0015】
さらに、電磁石に印加する電流を大きくし、アーマチュアと電磁石の摺動面間で発生する摩擦力を、係合子保持器を係合位置に移動させた状態でセンタリングばねから係合子保持器に作用する弾性力よりも大きくすることで、センタリングばねの弾性力に抗して係合子保持器を係合位置まで移動させ、内輪と外輪との間に係合子を係合させて内輪の回転を阻止し、ステアリングホイールの回転を阻止することが可能である。
【0016】
[構成2]
前記電磁石の前記アーマチュアとの摺動面と前記アーマチュアの前記電磁石との摺動面のうちの少なくとも一方が、摩擦材で形成された面とされている構成1に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0017】
この構成を採用すると、アーマチュアと電磁石の摺動面間の摩擦係数を安定したものとすることができる。
【0018】
[構成3]
前記弾性部材は、ウェーブスプリング、皿ばね、圧縮コイルばねのいずれかである構成1または2に記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0019】
この構成を採用すると、弾性部材としてゴム等を採用するよりも、安定した力でアーマチュアを電磁石に押圧することができる。
【0020】
[構成4]
前記電磁石に印加する電流を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記ステアリングホイールがストロークエンド位置に到達したときは、前記係合子保持器を前記係合位置に移動させた状態で前記センタリングばねから前記係合子保持器に作用する弾性力よりも大きい摩擦力が前記アーマチュアと前記電磁石の摺動面間に発生するように、所定値の電流を前記電磁石に印加し、
前記ステアリングホイールが前記ストロークエンド位置に到達する前の所定の角度範囲にあるときは、前記係合子保持器が前記係合位置に移動しない範囲で前記アーマチュアと前記電磁石の摺動面間の摩擦力を増大させるように、前記所定値よりも小さい範囲で前記電磁石に印加する電流を増加させる制御を行なう、構成1から3のいずれかに記載のステアバイワイヤ方式の操舵装置。
【0021】
この構成を採用すると、運転者がステアリングホイールを回転操作し、ステアリングホイールがストロークエンド位置に到達する前の所定の角度範囲に入ったときに、電磁石に印加される電流が大きくなり、アーマチュアと電磁石の摺動面間で発生する摩擦力を確実に大きくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明のステアバイワイヤ方式の操舵装置は、運転者がステアリングホイールをストロークエンド位置に到達しない範囲で回転操作するときは、アーマチュアと電磁石の摺動面間で発生する摩擦力によって、ステアリングホイールに回転負荷を付与することができる。このとき、電磁石に電流を印加し、その電流の大きさを変化させることで、アーマチュアと電磁石の摺動面間で発生する摩擦力の大きさを変化させ、ステアリングホイールに付与される回転負荷の大きさを変化させることができる。一方、ステアリングホイールがストロークエンド位置に到達したときは、センタリングばねの弾性力よりも大きい摩擦力がアーマチュアと電磁石の摺動面間に発生するように電磁石に電流を印加することで、内輪と外輪との間に係合子を係合させてステアリングホイールがそれ以上に回転するのを確実に阻止し、そのステアリングホイールを通じて運転者に、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したことを確実に感知させることができる。ここで、ステアリングホイールがストロークエンド位置に到達する前に電磁石に印加する電流を増加させることで、アーマチュアと電磁石の摺動面間の摩擦力を増大させ、ステアリングホイールの回転負荷を増大させることができるので、ステアリングホイールの回転がストロークエンド位置で阻止される時のステアリングホイールの回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができ、ステアリングホイールの回転が阻止される時のフィーリングが良い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】この発明の実施形態にかかる操舵装置を模式的に示す図
【
図2】
図1の電磁式クラッチユニットの近傍の断面図
【
図5】
図3の弾性部材としてウェーブスプリングを用いた例を示す弾性部材の近傍の拡大断面図
【
図6】
図3の弾性部材として皿ばねを用いた例を示す弾性部材の近傍の拡大断面図
【
図7】
図3の弾性部材として圧縮コイルばねを用いた例を示す弾性部材の近傍の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に、この発明の実施形態にかかるステアバイワイヤ方式の操舵装置を示す。この操舵装置は、運転者によるステアリングホイール1の操作量を電気信号に変換し、その電気信号に基づいて転舵アクチュエータ2を制御することで、左右一対の転舵輪3の向きを変化させるステアバイワイヤ方式の車両用操舵装置である。
【0025】
この操舵装置は、運転者により回転操作されるステアリングホイール1と、ステアリングホイール1に連結されたステアリングシャフト4と、ステアリングホイール1の操作量を検知する操舵センサ5と、ステアリングホイール1に操舵反力を付与する反力モータ6と、ステアリングホイール1の回転を阻止するロック状態とステアリングホイール1の回転を許容するロック解除状態とを切り替えることが可能な電磁式クラッチユニット7と、ステアリングホイール1に対して機械的に切り離して設けられた転舵アクチュエータ2と、制御部8とを有する。
【0026】
ステアリングシャフト4は、ステアリングホイール1を操舵したときに、ステアリングホイール1と一体に回転するようにステアリングホイール1に連結されている。操舵センサ5は、ステアリングシャフト4に取り付けられている。操舵センサ5としては、例えば、ステアリングホイール1の操舵角を検知する操舵角センサ、運転者によってステアリングホイール1に入力される操舵トルクを検知する操舵トルクセンサなどが挙げられる。
【0027】
反力モータ6は、通電により回転トルクを発生する電動モータである。反力モータ6は、ステアリングシャフト4の端部に連結されている。反力モータ6は、回転トルクをステアリングシャフト4に入力することで、そのステアリングシャフト4を介してステアリングホイール1に操舵反力を付与する。
【0028】
転舵アクチュエータ2は、転舵軸9と、転舵軸ハウジング10と、転舵軸9を車両の左右方向に移動させる転舵モータ11と、転舵軸9の位置を検知する転舵センサ12とを有する。転舵軸9は、車両の左右方向に移動可能に転舵軸ハウジング10で支持されている。転舵軸ハウジング10は、転舵軸9の左右両端が転舵軸ハウジング10から突出した状態となるように転舵軸9の中央部を収容している。
【0029】
転舵モータ11および転舵センサ12は、転舵軸ハウジング10に取り付けられている。転舵モータ11と転舵軸9の間には、転舵モータ11が出力する回転を転舵軸9の直線運動に変換する運動変換機構(図示せず)が組み込まれている。転舵軸9の左右両端は、タイロッド13を介して左右一対の転舵輪3に連結され、転舵軸9が軸方向に移動するとこれに連動して左右一対の転舵輪3の向きが変化するようになっている。
【0030】
図2に示すように、反力モータ6は、モータケース14と、モータケース14からステアリングホイール1(
図1参照)の側とは反対側(図では下側)に突出するモータシャフト15とを有する。モータシャフト15は、モータケース14の内部に組み込まれた図示しない転がり軸受で回転可能に支持されている。また、モータシャフト15は、ステアリングシャフト4(
図1参照)と一体回転するようにステアリングシャフト4に連結されている。モータケース14は、ステアリングシャフト4(
図1参照)の回転時にも回転しないように車体(図示せず)に固定されている。
【0031】
電磁式クラッチユニット7は、内輪16と、外輪17と、内輪16の外周に形成された複数のカム面18と、外輪17の内周に形成された円筒面19と、各カム面18と円筒面19との間に組み込まれた係合子20と、それらの係合子20を保持する係合子保持器21と、係合子保持器21を弾性保持するセンタリングばね22と、電磁石23と、電磁石23に通電したときに電磁石23に吸引されるように電磁石23と軸方向に対向して配置されたアーマチュア24と、アーマチュア24を電磁石23に向けて軸方向に押圧する弾性部材25とを有する。
【0032】
内輪16は、モータシャフト15の外周にスプライン嵌合している。このスプライン嵌合によって、内輪16は、ステアリングホイール1(
図1参照)と一体に回転するようにステアリングシャフト4およびモータシャフト15を介してステアリングホイール1に連結した状態となっている。
【0033】
外輪17は、クラッチケース26に収容されている。クラッチケース26は、電磁式クラッチユニット7の構成部材(内輪16、外輪17、係合子20、係合子保持器21、センタリングばね22、電磁石23、アーマチュア24、弾性部材25等)を一括して収容する筒状の部材である。クラッチケース26は、非磁性体(アルミ合金、銅合金等)で形成されている。一方、外輪17は鋼材で形成されている。
【0034】
外輪17は、図示しない回り止め手段(例えばキー部材)でクラッチケース26に対して回り止めされ、これにより、外輪17は、ステアリングホイール1(
図1参照)の回転時にも回転しないように固定されている。外輪17には、内輪16を回転可能に支持する転がり軸受27が組み込まれている。クラッチケース26の軸方向一端には、径方向外方に延びるフランジ部28が形成され、そのフランジ部28がモータケース14の軸方向端面に図示しないボルトで固定されている。クラッチケース26の反力モータ6の側とは反対側の端部に設けられた端板29には、内輪16を回転可能に支持する転がり軸受30が取り付けられている。
【0035】
図4に示すように、内輪16の外周のカム面18は、外輪17の内周の円筒面19と半径方向に対向している。カム面18と円筒面19の間には、周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となるくさび空間が形成されている。
【0036】
係合子保持器21には、径方向に貫通するポケット31(
図3参照)が周方向に間隔をおいて複数形成され、その各ポケット31に係合子20が収容されている。係合子保持器21は、係合子20をカム面18の周方向中央から周方向に移動させることでカム面18と円筒面19の間に係合子20を係合させる係合位置と、係合子20をカム面18の周方向中央に移動させることでカム面18と円筒面19の間への係合子20の係合を解除する係合解除位置との間で、内輪16に対して周方向に移動可能に支持されている。
【0037】
図3に示すように、アーマチュア24は、内輪16の外周の円筒面で軸方向に移動可能に支持されている。アーマチュア24は、磁性材料(鉄、珪素鋼など)で形成された円環板状のアーマチュア本体24aと、アーマチュア本体24aの電磁石23と対向する側(図では下側)の側面に固定された薄板状の摩擦材24bとを有する。摩擦材24bは、オイル環境下で使用される湿式摩擦材であり、例えば、アラミド繊維やセルロース繊維等の繊維で成形された基材にフェノール樹脂等の樹脂を含浸して硬化させたものや、焼結金属で形成されたものを使用することができる。摩擦材24bは、アーマチュア24の電磁石23との摺動面を形成している。
【0038】
図2に示すように、電磁石23は、環状のフィールドコア32と、フィールドコア32に巻回されたソレノイドコイル33とを有する。クラッチケース26には、ソレノイドコイル33に電流を供給するリード線34が通る貫通孔が形成されている。貫通孔には、リード線34の外周の隙間を埋めるゴム製のグロメット35が装着されている。フィールドコア32は、回転しないようにクラッチケース26に固定されている。
【0039】
図3に示すように、フィールドコア32は、磁性材料で形成されたフィールドコア本体32aと、フィールドコア本体32aのアーマチュア24と対向する側(図では上側)の側面に固定された薄板状の摩擦材32bとを有する。摩擦材32bは、オイル環境下で使用される湿式摩擦材であり、例えば、アラミド繊維やセルロース繊維等の繊維で成形された基材にフェノール樹脂等の樹脂を含浸して硬化させたものや、焼結金属で形成されたものを使用することができる。摩擦材32bは、電磁石23のアーマチュア24との摺動面を形成している。
【0040】
アーマチュア24は、中間プレート36を介して係合子保持器21に回り止めされている。すなわち、アーマチュア24は、中間プレート36に形成された軸方向突起37とアーマチュア24に形成された軸方向孔38の係合によって中間プレート36に回り止めされ、中間プレート36は、中間プレート36の外周に形成された係合凸部39と係合子保持器21に形成された係合凹部40の係合によって係合子保持器21に回り止めされている。ここでは、中間プレート36を介してアーマチュア24を係合子保持器21に回り止めしたが、アーマチュア24を直接係合子保持器21に回り止めするようにしてもよい。
【0041】
図4に示すように、センタリングばね22は、鋼線をC形に巻いたC形環状部41と、C形環状部41の両端からそれぞれ径方向外方に延出する一対の延出部42とからなる。C形環状部41は、内輪16の軸方向端面に形成された円形のばね収容凹部43に嵌め込まれている。一対の延出部42は、ばね収容凹部43から径方向外方に貫通するように内輪16の軸方向端面に形成された径方向溝44に挿入されている。
【0042】
センタリングばね22の延出部42は、径方向溝44の径方向外端から突出しており、その延出部42の径方向溝44からの突出部分が、係合子保持器21に形成された保持器溝45に挿入されている。径方向溝44と保持器溝45は同じ周方向幅をもつように形成されている。センタリングばね22の延出部42は、径方向溝44の内面と、保持器溝45の内面にそれぞれ接触しており、その接触部分に作用する周方向の力によって係合子保持器21を係合解除位置に弾性的に保持している。
【0043】
図3に示すように、弾性部材25は、アーマチュア24と中間プレート36の間に、軸方向に圧縮した状態で組み込まれている。アーマチュア24は、弾性部材25の弾性復元力によって、電磁石23に通電していないときにも、所定の予圧で電磁石23に押し付けられた状態を保持するようになっている。ここで、アーマチュア24は、電磁石23に通電していないときにも弾性部材25の予圧によって電磁石23に摺動し、電磁石23に通電することで、アーマチュア24と電磁石23の摺動面間の摩擦抵抗を増大させることができるようになっている。
【0044】
図5に示すように、弾性部材25としては、ウェーブスプリングを使用することができる。ウェーブスプリングは、図では、周方向に波形が繰り返されるように成形した円環状のウェーブワッシャと平座金とを軸方向に交互に並べた構成のものを示している。ウェーブスプリングとして、帯状の鋼材を周方向に波形が繰り返されるように螺旋状に成形し、軸方向に隣り合う帯状の鋼材を波形の頂点同士で接触させた構成のものを採用することもできる。また、
図6に示すように、弾性部材25として、皿ばねを使用することも可能である。皿ばねは、円錐筒状の金属ばねである。また、
図7に示すように、弾性部材25として、圧縮コイルばねを使用することも可能である。圧縮コイルばねは、金属線材を螺旋状に巻いて形成したばねである。
【0045】
図3に示すように、この電磁式クラッチユニット7は、電磁石23に通電していないときにも、アーマチュア24を電磁石23に向けて軸方向に押圧する弾性部材25が設けられているので、アーマチュア24が電磁石23に摺動した状態となり、そのアーマチュア24と電磁石23の摺動面間で発生する摩擦力によって、ステアリングホイール1に回転負荷を付与することができる。このとき、アーマチュア24と電磁石23の摺動面間の摩擦力の大きさは、
図4に示す係合子保持器21を係合位置に移動させた状態でセンタリングばね22から係合子保持器21に作用する弾性力よりも小さい。そのため、係合子20は内輪16の外周のカム面18と外輪17の内周の円筒面19との間に係合せず、内輪16の回転が許容された状態となる。
【0046】
また、この電磁式クラッチユニット7は、
図3に示す電磁石23に電流を印加することで、アーマチュア24を電磁石23に吸引し、アーマチュア24と電磁石23の摺動面間で発生する摩擦力を大きくすることができる。このとき、アーマチュア24と電磁石23の摺動面間の摩擦力が、
図3に示すセンタリングばね22の弾性力(具体的には、係合子保持器21を係合位置に移動させた状態でセンタリングばね22から係合子保持器21に作用する弾性力)に達しない範囲で、電磁石23に印加する電流の大きさを変化させることで、係合子20を内輪16の外周のカム面18と外輪17の内周の円筒面19との間に係合させずに、アーマチュア24と電磁石23の摺動面間で発生する摩擦力を変化させ、ステアリングホイール1(
図1参照)の回転負荷を変化させることが可能である。
【0047】
さらに、この電磁式クラッチユニット7は、
図3に示す電磁石23に印加する電流を大きくし、アーマチュア24と電磁石23の摺動面間で発生する摩擦力を、
図4に示す係合子保持器21を係合位置に移動させた状態でセンタリングばね22から係合子保持器21に作用する弾性力よりも大きくすることで、センタリングばね22の弾性力に抗して係合子保持器21を係合位置まで移動させ、内輪16の外周のカム面18と外輪17の内周の円筒面19との間に係合子20を係合させて内輪16の回転を阻止し、ステアリングホイール1(
図1参照)の回転を阻止することが可能である。
【0048】
図1に示す反力モータ6、電磁式クラッチユニット7、転舵モータ11は、制御部8で制御される。制御部8の入力側には、外部センサ46、操舵センサ5、転舵センサ12が電気的に接続されている。外部センサ46は、車両の走行速度を検知する車速センサ等である。制御部8の出力側には、反力モータ6、電磁式クラッチユニット7、転舵アクチュエータ2が電気的に接続されている。
【0049】
制御部8は、操舵センサ5で検知されるステアリングホイール1の操作量と、外部センサ46で検知される車両の走行状況(車速等)とに応じて転舵モータ11を作動させ、左右一対の転舵輪3の向きを変化させる制御を行なう。また、このとき、制御部8は、ステアリングホイール1の操作量と車両の走行状況とに応じた大きさの操舵反力が発生するように反力モータ6を作動させる制御を行なう。
【0050】
さらに、制御部8は、操舵センサ5で検知されるステアリングホイール1の操作量に基づいて、ステアリングホイール1がストロークエンド位置(転舵軸9の向きが移動限界に到達する位置)に到達したか否かを判定する。ステアリングホイール1がストロークエンド位置に到達したと判定したときは、
図4に示す係合子20をカム面18と円筒面19の間に係合させるように(すなわち、係合子保持器21を係合位置に移動させた状態でセンタリングばね22から係合子保持器21に作用する弾性力よりも大きい摩擦力が、
図3に示すアーマチュア24と電磁石23の摺動面間に発生するように)所定値の電流を電磁石23に印加する制御を行なう。
【0051】
また、制御部8は、操舵センサ5で検知されるステアリングホイール1の操作量に基づいて、ステアリングホイール1がストロークエンド位置に到達する前の所定の角度範囲にあるか否かの判定も行なう。そして、ステアリングホイール1がストロークエンド位置に到達する前の所定の角度範囲にあると判定したときは、
図4に示す係合子保持器21が係合位置に移動しない範囲で
図3に示すアーマチュア24と電磁石23の摺動面間の摩擦力を増大させるように、前記所定値よりも小さい範囲で電磁石23に印加する電流を増加させる制御を行なう。
【0052】
この操舵装置は、運転者が、
図1に示すステアリングホイール1をストロークエンド位置(転舵軸9の向きが移動限界に到達する位置)に到達しない範囲で回転操作するときは、
図3に示すアーマチュア24と電磁石23の摺動面間で発生する摩擦力によって、ステアリングホイール1に回転負荷を付与することができる。このとき、
図3に示す電磁石23に電流を印加し、その電流の大きさを変化させることで、アーマチュア24と電磁石23の摺動面間で発生する摩擦力の大きさを変化させ、
図1に示すステアリングホイール1に付与される回転負荷の大きさを変化させることができる。一方、ステアリングホイール1がストロークエンド位置に到達したときは、
図3に示すセンタリングばね22の弾性力よりも大きい摩擦力がアーマチュア24と電磁石23の摺動面間に発生するように電磁石23に電流を印加することで、内輪16と外輪17との間に係合子20を係合させてステアリングホイール1がそれ以上に回転するのを確実に阻止し、そのステアリングホイール1を通じて運転者に、操舵対象の向きがストロークエンドに到達したことを確実に感知させることができる。ここで、ステアリングホイール1がストロークエンド位置に到達する前に、電磁石23に印加する電流を増加させることでアーマチュア24と電磁石23の摺動面間の摩擦力を増大させ、ステアリングホイール1の回転負荷を増大させることができるので、ステアリングホイール1の回転がストロークエンド位置で阻止される時のステアリングホイール1の回転抵抗の増加幅を小さく抑えることができ、ステアリングホイール1の回転が阻止される時のフィーリングが良い。
【0053】
また、この操舵装置は、
図3に示すように、電磁石23のアーマチュア24との摺動面が摩擦材32bで形成され、アーマチュア24の電磁石23との摺動面も摩擦材24bで形成されているので、アーマチュア24と電磁石23の摺動面間の摩擦係数を安定したものとすることが可能となっている。この実施形態では、電磁石23のアーマチュア24との摺動面と、アーマチュア24の電磁石23との摺動面の両方を摩擦材としたが、いずれか一方のみを摩擦材としてもよい。
【0054】
また、この操舵装置は、アーマチュア24を電磁石23に向けて軸方向に押圧する弾性部材25として、
図5に示すウェーブスプリング、
図6に示す皿ばね、
図7に示す圧縮コイルばねのいずれかを採用しているので、弾性部材25としてゴム等を採用するよりも、安定した力でアーマチュア24を電磁石23に押圧することが可能である。
【0055】
また、この操舵装置は、
図1に示す制御部8が、ステアリングホイール1がストロークエンド位置に到達する前の所定の角度範囲にあるときに、
図3に示すアーマチュア24と電磁石23の摺動面間の摩擦力を増大させるように、電磁石23に印加する電流を増加させる制御を行なうので、運転者がステアリングホイール1を回転操作し、ステアリングホイール1がストロークエンド位置に到達する前の所定の角度範囲に入ったときに、電磁石23に印加される電流が大きくなり、アーマチュア24と電磁石23の摺動面間で発生する摩擦力を確実に大きくすることができる。
【0056】
上記実施形態では、外輪17の内周と内輪16の外周との間に組み込む係合子20としてローラを用いたものを例に挙げて説明したが、係合子20としてボールやスプラグを用いることも可能である。
【0057】
上記実施形態では、この発明にかかる操舵装置の一例として、車両の左右一対の転舵輪3を操舵対象とする車両用操舵装置を例に挙げて説明したが、この発明は、車両に限らず、船舶、建設機械、農業機械、全地形対応車、多用途四輪車など、ステアリングホイール1の回転量に応じて転舵アクチュエータ2を作動させて操舵対象の向きを変化させる他の乗り物にも同様に適用することが可能である。
【0058】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0059】
1 ステアリングホイール
2 転舵アクチュエータ
3 転舵輪(操舵対象)
5 操舵センサ
8 制御部
16 内輪
17 外輪
20 係合子
21 係合子保持器
22 センタリングばね
23 電磁石
24 アーマチュア
24b 摩擦材
25 弾性部材
32b 摩擦材