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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127328
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電極板
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0215 20160101AFI20240912BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20240912BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20240912BHJP
   H01M 8/0208 20160101ALI20240912BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240912BHJP
   C25B 13/05 20210101ALI20240912BHJP
   C25B 9/63 20210101ALI20240912BHJP
   C25B 11/04 20210101ALI20240912BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240912BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240912BHJP
【FI】
H01M8/0215
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/0208
C25B13/04 302
C25B13/05
C25B9/63
C25B11/04
C25B1/04
C25B9/00 A
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036425
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】若山 博昭
(72)【発明者】
【氏名】濱口 豪
(72)【発明者】
【氏名】吉村 常治
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA15
4K011AA30
4K011BA04
4K011BA07
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA02
4K021DB15
4K021DB21
4K021DB28
4K021DB43
4K021DB49
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD05
5H126GG02
5H126GG08
5H126GG12
5H126JJ02
(57)【要約】
【課題】耐食性及び導電性に優れ、低コストであり、耐久性に優れた電極板を提供すること。
【解決手段】電極板は、基材と、前記基材の表面に形成された保護膜とを備えている。前記保護膜は、前記基材の表面の全部又は一部に形成されたTiCを含む第1被膜と、少なくとも前記第1被膜の表面の全部又は一部に形成されたチタン亜酸化物を含む第2被膜とを備えている。前記第1被膜の面積率は、10%以上が好ましい。但し、前記「第1被膜の面積率」とは、前記第2被膜の総面積に対する、前記第2被膜の直下に形成された前記第1被膜の面積の割合をいう。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面に形成された保護膜と
を備え、
前記保護膜は、
前記基材の表面の全部又は一部に形成されたTiCを含む第1被膜と、
少なくとも前記第1被膜の表面の全部又は一部に形成されたチタン亜酸化物を含む第2被膜と
を備えている
電極板。
【請求項2】
前記第1被膜の面積率が10%以上である請求項1に記載の電極板。
但し、前記「第1被膜の面積率」とは、前記第2被膜の総面積に対する、前記第2被膜の直下に形成された前記第1被膜の面積の割合をいう。
【請求項3】
前記チタン亜酸化物は、Tix2x-1(x=1~7)で表される組成を有する請求項1に記載の電極板。
【請求項4】
前記基材は、チタン又はチタン合金からなる請求項1に記載の電極板。
【請求項5】
前記保護膜は、前記基材の表面の少なくとも一部に形成されている請求項1に記載の電極板。
【請求項6】
燃料電池用セパレータ又は水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる請求項1に記載の電極板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極板に関し、さらに詳しくは、固体高分子形燃料電池用セパレータ、固体高分子形(PEM)水電解装置用バイポーラプレートなどに用いられる電極板に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。MEAの外側には、通常、ガス拡散層が配置される。また、ガス拡散層の外側には、ガス流路を備えた集電体(セパレータともいう)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEAと、ガス拡散層(GDL)と、集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。このような燃料電池のアノード及びカソードに、それぞれ、燃料ガス及び酸化剤ガスを供給すると、カソードにおいて水が生成すると同時に、電力を取り出すことができる。
【0003】
一方、PEM水電解装置は、燃料電池とほぼ同様の構造を備えているが、燃料電池とは逆の反応を起こさせるものである。すなわち、酸素極に水を供給し、電極間に電力を供給すると、水の電気分解が進行し、水素及び酸素を取り出すことができる。
【0004】
なお、PEM水電解装置において、MEA及びGDLの外側に配置される部材は、一般に、バイポーラプレート(複極板)と呼ばれている。一方、上述したように、固体高分子形燃料電池において、MEA及びGDLの外側に配置される部材は、一般に、集電体、あるいは、セパレータと呼ばれている。
本発明において「電極板」という時は、これらの総称、すなわち、MEAの用途を問わず、MEA及びGDLの外側に配置される導電性部材の総称を表す。
【0005】
固体高分子形燃料電池及びPEM水電解装置において、電解質膜には、通常、ポリパーフルオロカーボンスルホン酸膜が用いられている。そのため、電極板は、使用中に強酸性雰囲気に曝される。使用中に電極板の表面が酸化され、電極との接触面に高抵抗層が形成されると、電極反応又は電解反応が阻害される。
【0006】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、チタン合金板とステンレス鋼板の積層板からなる複極板を備えた水電解槽が開示されている。
同文献には、
(a)複極板としてチタン合金を用いる場合、陰極側を白金メッキして水素脆化を防止する必要があるが、白金メッキを施しても水素脆化を完全に防止できない点、及び、
(b)ステンレス鋼板が陰極側に来るように積層板を配置すると、チタン合金の水素脆化防止のために複極板の陰極側を白金メッキする必要がなくなる点、
が記載されている。
【0007】
従来、PEM水電解装置用バイポーラプレートとして、白金メッキしたチタン合金、チタン合金とステンレス鋼板の積層板などが提案されている。しかし、白金及びチタン合金はいずれも高価であるため、使用量を極力少なくするのが好ましい。また、メッキプロセスも高コストプロセスであるため、被覆膜の成膜には低コストプロセスを用いるのが好ましい。
【0008】
さらに、表面が耐食性被膜で被覆された電極板を酸素極側のPEM水電解装置用バイポーラプレートとして長時間使用した場合、バイポーラプレートの接触抵抗が増大する場合がある。これは、酸素極表面において酸素ガスが発生する際の衝撃によって、耐食性被膜が部分的に剥離するためと考えられる。
しかしながら、高価な材料の使用量が少なく、かつ、高コストなプロセスを用いることなく製造が可能であり、しかも、耐久性に優れた電極板が提案された例は従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平08-260178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、耐食性及び導電性に優れ、低コストな電極板を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、耐久性に優れた電極板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係る電極板は、
基材と、
前記基材の表面に形成された保護膜と
を備え、
前記保護膜は、
前記基材の表面の全部又は一部に形成されたTiCを含む第1被膜と、
少なくとも前記第1被膜の表面の全部又は一部に形成されたチタン亜酸化物を含む第2被膜と
を備えている。
【発明の効果】
【0012】
TiC及びチタン亜酸化物は、耐食性及び導電性に優れている。また、TiC及びチタン亜酸化物は、貴金属を含まないために低コストである。さらに、TiC及びチタン亜酸化物を含む被膜は、比較的低コストなイオンプレーティング法、スパッタリング法などのPVD法や、CVD法などの気相成長法により成膜することができる。そのため、TiCとチタン亜酸化物とを含む積層膜を電極板の保護膜に適用すると、耐食性及び導電性に優れ、しかも低コストな電極板を得ることができる。
さらに、TiCとチタン亜酸化物とを含む積層膜は、チタン亜酸化物のみからなる被膜に比べて水電解条件下における耐久性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1、及び比較例1~2で得られたPEM水電解セルの電流密度とセル電圧との関係を示す図である。
図2】TiC被覆率(第1被膜の面積率)と、耐久試験後のセパレータの接触抵抗との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 電極板]
本発明に係る電極板は、以下の構成を備えている。
【0015】
[構成1]
基材と、
前記基材の表面に形成された保護膜と
を備え、
前記保護膜は、
前記基材の表面の全部又は一部に形成されたTiCを含む第1被膜と、
少なくとも前記第1被膜の表面の全部又は一部に形成されたチタン亜酸化物を含む第2被膜と
を備えている
電極板。
【0016】
[構成2]
前記第1被膜の面積率が10%以上である構成1に記載の電極板。
但し、「前記第1被膜の面積率」とは、前記第2被膜の総面積に対する、前記第2被膜の直下に形成された前記第1被膜の面積の割合をいう。
【0017】
[構成3]
前記チタン亜酸化物は、Tix2x-1(x=1~7)で表される組成を有する構成1又は2に記載の電極板。
【0018】
[構成4]
前記基材は、チタン又はチタン合金からなる構成1から3までのいずれか1つに記載の電極板。
【0019】
[構成5]
前記保護膜は、前記基材の表面の少なくとも一部に形成されている構成1から4までのいずれか1つに記載の電極板。
【0020】
[構成6]
燃料電池用セパレータ又は水電解装置用バイポーラプレートとして用いられる構成1から5までのいずれか1つに記載の電極板。
【0021】
[1.1. 基材]
基材の形状は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な形状を選択することができる。電極板には、通常、発電用燃料、酸化剤、電解用原料、あるいは反応生成物を流通させるためのガス流路が設けられている。
【0022】
電極板は、MEAの電極と、負荷(燃料電池の場合)又は電源(水電解装置の場合)との間で電子の授受を行う必要がある。そのため、電極板には、一般にMEAの使用環境に耐える高い耐食性に加えて、高い導電性が求められる。
但し、本発明においては、保護膜に高耐食性、かつ、高導電性のTiC及びチタン亜酸化物が用いられるため、基材は、少なくともMEAの使用環境に耐える耐食性を持つものであれば良く、必ずしも導電性材料である必要はない。
【0023】
基材の材料としては、例えば、
(a)チタン若しくはチタン合金、ステンレス鋼、アルミニウム若しくはアルミニウム合金、銅、ニッケル、モリブデン、クロムなどの金属、
(b)カーボン、
(c)エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどのプラスチック材料、及び、プラスチック材料をガラス、カーボン、樹脂等の繊維で強化した繊維強化樹脂などの高分子材料
などがある。
【0024】
これらの中でも、チタン又はチタン合金は、酸化条件下で表面にTiO2を主成分とする不動態膜を形成する。そのため、基材の表面の一部が露出している場合であっても、チタンイオン等が溶出しにくいという利点がある。
ステンレス鋼は、安価であり、加工性に優れているという利点がある。
アルミニウム又はアルミニウム合金や高分子材料は、安価、軽量であり、加工性にも優れているという利点がある。
【0025】
[1.2. 保護膜]
本発明において、保護膜は、
基材の表面の全部又は一部に形成されたTiCを含む第1被膜と、
少なくとも第1被膜の表面の全部又は一部に形成されたチタン亜酸化物を含む第2被膜と
を備えている
【0026】
[1.2.1. 第1被膜]
[A. 材料]
第1被膜は、TiCを含む。第1被膜は、TiCのみからなるものが好ましいが、高耐食性、高導電性、及び/又は、高耐久性を阻害しない限りにおいて、他の相が含まれていても良い。他の層としては、例えば、
(a)不可避的不純物、
(b)TiC以外の高耐食性物質、
などがある。
【0027】
[B. 形成領域]
第1被膜の形成領域は、目的に応じて最適な領域を選択することができる。すなわち、第1被膜は、基材の表面の全部に形成されていても良く、あるいは、一部に形成されていても良い。第1被膜が基材の表面の一部に形成されている場合であっても、保護膜の耐久性が向上する場合がある。
【0028】
[C. 第1被膜の面積率]
第1被膜は、基材の表面の全部又は一部に形成される。また、第2被膜は、少なくとも第1被膜の表面の全部又は一部に形成される。第2被膜は、第1被膜が形成されていない領域に形成されていても良い。
すなわち、保護膜は、少なくとも、第1被膜と第2被膜の双方が形成されている領域(第1領域)を含む。保護膜は、このような第1領域に加えて、
(a)第2被膜のみが形成されている領域(第2領域)、及び/又は、
(b)第1被膜のみが形成されている領域(第3領域)
をさらに含むものでも良い。
【0029】
「第1被膜の面積率」とは、第2被膜の総面積に対する、第2被膜の直下に形成された第1被膜の面積の割合をいう。換言すれば、「第1被膜の面積率」とは、第1領域と第2領域の総面積に対する、第1領域の面積の割合をいう。
【0030】
保護膜は、第1被膜と第2被膜の積層膜のみからなるものでも良い。しかしながら、第2被膜の直下の一部にのみ第1被膜が形成されている場合であっても、保護膜の耐久性が向上する場合がある。このような効果を得るためには、第1被膜の面積率は、10%以上が好ましい。面積率は、さらに好ましくは、20%以上、30%以上、40%以上、あるいは、50%以上である。
【0031】
[D. 厚さ]
第1被膜の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。一般に、第1被膜の厚さが厚くなるほど、耐食性、導電性、及び/又は、耐久性が向上する。一方、第1被膜の厚さが厚くなりすぎると、第1被膜が剥離しやすくなり、かえって耐久性が低下する場合がある。従って、第1被膜の厚さは、10nm~1.0μmが好ましい。
【0032】
[1.2.2. 第2被膜]
[A. 材料]
第2被膜は、チタン亜酸化物を含む。
チタン亜酸化物は、具体的には、Tix2x-1(x=1~7)で表される組成を有するものが好ましい。xは、さらに好ましくは、3~7である。
【0033】
第2被膜は、チタン亜酸化物のみからなるものが好ましいが、高耐食性、高導電性、及び/又は、高耐久性を阻害しない限りにおいて、他の相が含まれていても良い。他の層としては、例えば、
(a)不可避的不純物、
(b)チタン亜酸化物以外の高耐食性物質、
などがある。
【0034】
[B. 形成領域]
第2被膜は、少なくとも第1被膜の表面の全部又は一部に形成される。第2被膜は、第1被膜が形成されている領域(第1領域)にのみ形成されていても良く、あるいは、第1領域に加えて、第1被膜が形成されていない領域(第2領域)に形成されていても良い。また、第2被膜は、必ずしも第1被膜の表面の全部に形成されている必要はない。すなわち、保護膜は、第1被膜のみからなる領域(第3領域)を含むものでも良い。
【0035】
[C. 厚さ]
第2被膜の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。一般に、第2被膜の厚さが厚くなるほど、耐食性、導電性、及び/又は、耐久性が向上する。一方、第2被膜の厚さが厚くなりすぎると、第2被膜が剥離しやすくなり、かえって耐久性が低下する場合がある。従って、第2被膜の厚さは、10nm~1.0μmが好ましい。
【0036】
[1.3. 保護膜の形成位置]
基板が導電性材料からなる場合、保護膜は、基材の全面に形成されていても良く、あるいは、基材の表面の少なくとも一部に形成されていても良い。
【0037】
基材には、通常、ガス流路を形成するための凹凸が形成されており、電極板は凸部を介して電極と接触する。このような場合、電極との非接触面に高抵抗層が形成されたとしても電子の授受に支障はないので、少なくとも電極との接触面(凸部の先端面)に保護膜を形成すれば良い。
一方、基材が導電性材料でない場合、電子の授受は保護膜を介して行われる。このような場合には、保護膜は、電極との接触面だけでなく、電極と負荷又は電源との間で電子の授受が可能となる位置に形成する必要がある。
【0038】
[1.4. 用途]
本発明に係る電極板は、
(a)固体高分子形燃料電池用セパレータ、
(b)PEM水電解装置用バイポーラプレート、
などに用いることができる。
【0039】
[2. 電極板の製造方法]
本発明に係る電極板の製造方法は、
基材の表面の全部又は一部にTiCを含む第1被膜を形成する第1工程と、
少なくとも第1被膜の表面の全部又は一部に、チタン亜酸化物を含む第2被膜を形成し、保護膜を得る第2工程と、
必要に応じて、前記保護膜を、不活性雰囲気下又は還元雰囲気下において500℃以上800℃以下の温度で熱処理し、前記保護膜の表層に含まれるTiO2を還元し、前記チタン亜酸化物の結晶性を向上させる第3工程と
を備えている。
【0040】
[2.1. 第1工程]
まず、基材の表面の全部又は一部にTiCを含む第1被膜を形成する(第1工程)。
第1被膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。第1被膜の形成方法としては、例えば、
(a)基材がチタン又はチタン合金である場合において、基材表面にC源を供給し、基材表面の全部又は一部にTiCを含む第1被膜を形成する方法(CVD法)、
(b)PVD法を用いて、基材表面にTiCを含む第1被膜を形成する方法
などがある。
【0041】
[2.2. 第2工程]
次に、少なくとも第1被膜の表面の全部又は一部に、チタン亜酸化物からなる第2被膜を形成する(第2工程)。これにより、第1被膜と第2被膜の積層領域を含む保護膜が得られる。
第2被膜は、少なくとも第1被膜が形成された領域の全部又は一部に形成される。第2被膜は、第1被膜が形成された領域に加えて、第1被膜が形成されていない領域に形成されていても良い。
【0042】
第2被膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。第2被膜の形成方法としては、例えば、イオンプレーティング法、スパッタリング法、蒸着法、めっき法、プラズマ法、CVD法などがある。
これらの中でも、イオンプレーティング法及びスパッタリング法は他の方法と比べて低コストであり、大面積の成膜も容易であるので、第2被膜の形成方法として好適である。
【0043】
[2.3. 第3工程]
次に、必要に応じて、前記保護膜を、不活性雰囲気下又は還元雰囲気下において500℃以上800℃以下の温度で熱処理する(第3工程)。第3工程は、必ずしも必要ではないが、保護膜を熱処理すると、保護膜の表層に含まれるTiO2が還元され、チタン亜酸化物の結晶性がさらに向上する。
【0044】
熱処理温度は、目的に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。一般に、熱処理温度が低すぎると、実用的な時間内にTiO2の還元処理を完了させることができない。また、チタン亜酸化物の結晶性を向上させることができない。従って、熱処理温度は、500℃以上が好ましい。熱処理温度は、さらに好ましくは、600℃以上、あるいは、650℃以上である。
一方、熱処理温度が高すぎると、基材がダメージを受け、基材の強度が低下する場合がある。従って、熱処理温度は、800℃以下が好ましい。熱処理温度は、さらに好ましくは、780℃以下、あるいは、740℃以下である。
【0045】
熱処理時間は、熱処理温度に応じて最適な時間を選択する。一般に、熱処理温度が高くなるほど、短時間でTiO2の還元処理を完了させることができる。好適な熱処理時間は、熱処理温度にもよるが、通常、2時間~10時間程度である。
【0046】
[3. 作用]
TiC及びチタン亜酸化物は、耐食性及び導電性に優れている。また、TiC及びチタン亜酸化物は、貴金属を含まないために低コストである。さらに、TiC及びチタン亜酸化物を含む被膜は、比較的低コストなイオンプレーティング法、スパッタリング法などのPVD法や、CVD法などの気相成長法により成膜することができる。そのため、TiCとチタン亜酸化物とを含む積層膜を電極板の保護膜に適用すると、耐食性及び導電性に優れ、しかも低コストな電極板を得ることができる。
さらに、TiCとチタン亜酸化物とを含む積層膜は、チタン亜酸化物のみからなる被膜に比べて水電解条件下における耐久性が高い。
【実施例0047】
(実施例1、比較例1)
[1. 試料の作製]
[1.1. 電極板の作製]
[1.1.1. 実施例1]
CVD法を用いて、Tiセパレータの表面の一部にTiCを含む第1被膜を形成した。次に、イオンプレーティング法を用いて、Tiセパレータの表面の全面にTi47を含む第2被膜を形成した。ターゲットにはTi47を用い、雰囲気はAr雰囲気とした。この場合、TiC被覆率(=第1被膜の面積率)は、52%であった。
【0048】
[1.1.2. 比較例1]
第2被膜の形成を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、TiC膜付きTiセパレータ(TiC被覆率:52%)を得た。
【0049】
[1.1.3. 比較例2]
Tiセパレータの表面に、メッキ法を用いてPt被膜を形成した。Pt被膜の厚さは、1μmとした。
【0050】
[1.2. 水電解セルの作製]
酸素極触媒のIrO2にアイオノマを添加して酸素極触媒シートを作製した。また、水素極触媒の白金/カーボン(Pt/C)にアイオノマを添加して水素極触媒シートを作製した。
次に、熱転写法により電解質膜の両面にそれぞれ酸素極触媒シート及び水素極触媒シートを転写し、膜電極接合体(MEA)を作製した。さらに、MEAの一方の面に、酸素極側拡散層及び酸素極側流路ブロック(セパレータ)を配置し、他方の面に水素極側拡散層及び水素極側流路ブロック(セパレータ)を配置した。
【0051】
酸素極側拡散層には、Ptメッキをした多孔質チタンを用いた。酸素極側流路ブロック(セパレータ)には、[1.1.]で作製した電極板を用いた。なお、セパレータは、保護膜が形成された面がMEA側になるように配置した。水素極側拡散層及び水素極側流路ブロックには、それぞれ、カーボン部材を用いた。
PEM水電解セルを組み立てた後、差圧試験により気密性を検査した。その後、水電解評価試験に供した。
【0052】
[2. 試験方法]
PEM水電解セルの温度を80℃一定に保った状態で、水電解を行った。さらに、電流密度を3.0A/cm2まで増加させた時のセル電圧の変化を測定した。
【0053】
[3. 結果]
図1に、実施例1、及び比較例1~2で得られたPEM水電解セルの電流密度とセル電圧との関係を示す。図1より、以下のことが分かる。
(1)実施例1は、従来技術であるPtメッキTiセパレータを用いたPEM水電解セル(比較例2)とほぼ同等の低い電圧(電流密度:3.0A/cm2で1.7V程度)を示した。実施例1は、電流密度が増加しても、腐食して抵抗が増大することはなく、導電性及び耐食性が維持されることが確かめられた。
(2)比較例1は、電流密度の増加とともにセル電圧が急激に増加した。これは、腐食により表面に抵抗の大きい酸化層が形成され、抵抗値が増大したためと考えられる。
【0054】
(実施例2、比較例3)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例2]
実施例1と同様にして、TiC/TiOx複合膜付きTiセパレータを得た。TiC被覆率(=第1被膜の面積率)は、52%であった。
【0055】
[1.2. 比較例3]
第1被膜の形成を省略した以外は、実施例2と同様にして、TiOx膜付きTiセパレータを得た。TiC被覆率(=第1被膜の面積率)は、0%であった。
【0056】
[2. 試験方法]
[2.1. 耐久試験]
1Lのセパラブルフラスコに0.01N硫酸を800mL入れた。これをマントルヒーターにセットし、80℃まで加熱した。80℃に保たれた硫酸に試料を浸漬し、試料に2.0Vの電圧を6時間印加した。
【0057】
[2.2. 抵抗測定]
電圧印加前後の抵抗変化を測定するために、ロードセルで試料(1cm×2cm)に1MPa加圧した。試料面に垂直方向に0~0.5Aの電流を流した時の電圧値を測定した。さらに、電圧値から接触抵抗を算出した。
【0058】
[3. 結果]
図2に、TiC被覆率(第1被膜の面積率)と、耐久試験後のセパレータの接触抵抗との関係を示す。実施例2は、比較例3よりも低い接触抵抗を示した。図2より、TiC/TiOx被膜(実施例2)は、TiOx被膜(比較例3)より耐久性に優れていることが分かる、
【0059】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る電極板は、固体高分子形燃料電池用セパレータ、固体高分子形(PEM)水電解装置用バイポーラプレートなどに使用することができる。
図1
図2