(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127334
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】劣化判定装置
(51)【国際特許分類】
H01H 47/00 20060101AFI20240912BHJP
H02H 3/00 20060101ALI20240912BHJP
G01R 31/327 20060101ALI20240912BHJP
B60L 3/00 20190101ALN20240912BHJP
B60L 50/60 20190101ALN20240912BHJP
B60L 58/10 20190101ALN20240912BHJP
【FI】
H01H47/00 C
H02H3/00 R
G01R31/327
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036433
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 昂大
(72)【発明者】
【氏名】下田 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】柳田 泰次
(72)【発明者】
【氏名】橋倉 学
【テーマコード(参考)】
5G142
5H125
【Fターム(参考)】
5G142AB04
5G142AC06
5G142BB05
5G142BB12
5G142FF08
5G142FF22
5G142GG02
5H125AA01
5H125AC12
5H125DD10
5H125EE29
5H125EE47
5H125EE48
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】リレーが劣化状態であるか否かを適切に把握する劣化判定装置を提供する。
【解決手段】劣化判定装置1は、電源部10からの電力を負荷35に伝送する経路である電力路11と、電力路11に設けられる第1開閉器33A及び第2開閉器33Bを備える車載システム100に用いられる。劣化判定装置1は、測定条件が成立する毎に第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの抵抗値R1,R2を測定する制御部15を備え、制御部15は、抵抗値R1,R2の平均値Ra1,Ra2に基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bが劣化状態であるか否かを判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源部からの電力を負荷に伝送する経路である電力路と、前記電力路に設けられるリレーを備える車載システムに用いられる劣化判定装置であって、
測定条件が成立する毎に前記リレーの抵抗値を測定する制御部を備え、
前記制御部は、前記抵抗値の平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、劣化判定装置。
【請求項2】
前記測定条件は、前記リレーがオフからオンに切り替わるという条件を含み、
前記制御部は、前記リレーのオフ期間を挟んだ複数のオン期間において測定した複数の前記抵抗値の平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、請求項1に記載の劣化判定装置。
【請求項3】
前記リレーは、車両の始動スイッチがオンに切り替わったときにオンとなり、前記始動スイッチがオフに切り替わったときにオフとなり、
前記測定条件は、前記始動スイッチがオフからオンに切り替わったとき、又はオンからオフに切り替わったとき、の少なくともいずれかの条件を含み、
前記制御部は、前記抵抗値の平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、請求項1に記載の劣化判定装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記抵抗値の平均値を用いて算出される標準偏差値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の劣化判定装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記抵抗値の移動平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の劣化判定装置。
【請求項6】
前記制御部は、下限閾値以上の前記抵抗値の平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、請求項5に記載の劣化判定装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記リレーが劣化状態であると判定したときに、異常対応処理を行う、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の劣化判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プリチャージ回路によってインバータをプリチャージするときに、プリチャージする時間を調整することによって、リレーの劣化度を適正化する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リレーが劣化状態であるか否かをより直接的に把握するには、リレーの両端子間の抵抗値を測定し、抵抗値の経時的な変化を利用することが考えられる。具体的には、リレーの劣化が進むと、抵抗値が大きくなることが知られており、この現象を利用することによってリレーが劣化状態であるか否かを把握する。しかし、リレーのオンオフを繰り返すと、リレー内の接点の表面の滑らかさが失われ、接点の接触する状態がばらつきやすくなり、オンオフする毎の抵抗値の大きさもばらつきやすくなる。このため、オンオフする毎の抵抗値の大きさがばらつく影響を抑えた形でリレーが劣化状態であるか否かを把握する技術が望まれている。
【0005】
本開示は上述した事情に基づいてなされたものであり、リレーが劣化状態であるか否かを適切に把握する劣化判定装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の劣化判定装置は、
電源部からの電力を負荷に伝送する経路である電力路と、前記電力路に設けられるリレーを備える車載システムに用いられる劣化判定装置であって、
測定条件が成立する毎に前記リレーの抵抗値を測定する制御部を備え、
前記制御部は、前記抵抗値の平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、リレーが劣化状態であるか否かを適切に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1の劣化判定装置を備えた車載システムを例示する回路図である。
【
図2】
図2は、実施形態1の劣化判定装置における制御部の制御の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、リレーの構造の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、繰り返してリレーをオン状態とオフ状態とに切り替えた際の、リレーの抵抗値の変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施形態2の劣化判定装置を備えた車載システムを例示する回路図である。
【
図6】
図6は、実施形態2の劣化判定装置における制御部の制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
以下では、本開示の実施形態が列記されて例示される。
【0010】
(1)電源部からの電力を負荷に伝送する経路である電力路と、前記電力路に設けられるリレーを備える車載システムに用いられる劣化判定装置であって、
測定条件が成立する毎に前記リレーの抵抗値を測定する制御部を備え、
前記制御部は、前記抵抗値の平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、劣化判定装置。
【0011】
(1)の劣化判定装置は、抵抗値の平均値を利用することによって、オンオフする毎の抵抗値の大きさのばらつきの影響を丸めることができる。従って、この構成によれば、オンオフする毎の抵抗値の大きさがばらつく影響を抑えた形でリレーが劣化状態であるか否かを判定しやすい。
【0012】
(2)前記測定条件は、前記リレーがオフからオンに切り替わるという条件を含み、
前記制御部は、前記リレーのオフ期間を挟んだ複数のオン期間において測定した複数の前記抵抗値の平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、(1)の劣化判定装置。
【0013】
(2)の劣化判定装置は、リレーがオフからオンに切り替わるときに抵抗値が測定される。リレーが有する接点は、リレーがオフからオンに切り替わる毎に、接点の接触面同士が接触する接触位置が僅かに変化したり、流れる電流によって接触面の粗さが変化したりする。よって、この構成によれば、各抵抗値の大きさは、上記変化が生じてばらつくことになるため、こうしたばらつきを含んだ形で求めた平均値を用いることによって、リレーの実情を加味した形でリレーが劣化状態であるか否かを判定することができる。
【0014】
(3)前記リレーは、車両の始動スイッチがオンに切り替わったときにオンとなり、前記始動スイッチがオフに切り替わったときにオフとなり、
前記測定条件は、前記始動スイッチがオフからオンに切り替わったとき、又はオンからオフに切り替わったとき、の少なくともいずれかの条件を含み、
前記制御部は、前記抵抗値の平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、(1)の劣化判定装置。
【0015】
始動スイッチがオフからオン、又はオンからオフに切り替わるときには、所定のシーケンスが実行され、電力路に流れる電流の大きさが落ち着いた状態になりやすい。このため、(3)の劣化判定装置は、始動スイッチがオフからオン、又はオンからオフの少なくともいずれかに抵抗値を測定する構成なので、抵抗値の大きさが安定しやすい。
【0016】
(4)前記制御部は、前記抵抗値の平均値を用いて算出される標準偏差値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、(1)から(3)のいずれかの劣化判定装置。
【0017】
リレーの抵抗値は、オンオフの回数が増えるにつれて大きくなりつつ、且つオンオフする毎のばらつきも大きくなる傾向を有している。このため(4)の劣化判定装置は、このような特性の抵抗値の平均値を用いて算出される標準偏差値を用いるので、リレーの抵抗値のばらつきにとらわれずに、上記傾向を良好に捉えてリレーが劣化状態であるか否かを判定することができる。
【0018】
(5)前記制御部は、前記抵抗値の移動平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、(1)から(3)のいずれかの劣化判定装置。
【0019】
(5)の劣化判定装置は、移動平均という簡単な演算でリレーが劣化状態であるか否かを判定することができる。
【0020】
(6)前記制御部は、下限閾値以上の前記抵抗値の平均値に基づいて前記リレーが劣化状態であるか否かを判定する、(5)の劣化判定装置。
【0021】
(6)の劣化判定装置は、下限閾値によって、リレーが劣化することに伴い大きくなった抵抗値を抽出し、抽出された抵抗値を平均値として用いる構成なので、リレーの劣化により焦点を当てた形でリレーが劣化状態であるか否かを判定することができる。
【0022】
(7)前記制御部は、前記リレーが劣化状態であると判定したときに、異常対応処理を行う、(1)から(3)のいずれかの劣化判定装置。
【0023】
(7)の劣化判定装置は、異常対応処理を行うことによって、抵抗値の大きさが閾値を超えた(すなわち、リレーが劣化している)ことに即した対応を取りやすい。
【0024】
<実施形態1>
〔劣化判定装置の構成〕
図1に示す車載システム100は、車両に搭載される電源システムであり、電源部10と、電力路11と、システムメインリレー33と、劣化判定装置1と、を有している。劣化判定装置1は、電流検知部38と、電位検知部39と、制御部15と、を有している。劣化判定装置1は、車載システム100に用いられる。電位検知部39は、第1電位検知部39Aと、第2電位検知部39Bと、を有している。車載システム100は、電源部10と負荷35との間において電力が伝送される経路である電力路11を介して電源部10から負荷35に電力を供給し得る構成をなす。
【0025】
電源部10は、負荷35に電力を供給し得るバッテリである。電源部10は、例えば、鉛バッテリや、リチウムイオン電池又はニッケル水素電池等の単電池を複数直列に組み合わせて構成される組電池等が適用される。
【0026】
電力路11は、正極側電力線17と、負極側電力線20と、を備えている。正極側電力線17は、電源部10の高電位側端子に電気的に接続されている。正極側電力線17には、電源部10の出力電圧が印加される。負極側電力線20は、電源部10の低電位側端子に電気的に接続されている。負極側電力線20は、正極側電力線17よりも低電位である。電源部10の低電位側端子は、例えば車両の金属ボディと電気的に接続されており、車両の金属ボディと同電位とされている。電源部10の出力電圧は、高電位側端子と低電位側端子との電位差に相当する。電力路11は、電源部10からの電力を負荷35に伝送する経路である。
【0027】
本開示において、「電気的に接続される」とは、接続対象の両方の電位が等しくなるように互いに導通した状態(電流を流せる状態)で接続される構成であることが望ましい。ただし、この構成に限定されない。例えば、「電気的に接続される」とは、両接続対象の間に電気部品が介在しつつ両接続対象が導通し得る状態で接続された構成であってもよい。
【0028】
正極側電力線17及び負極側電力線20には、負荷35が電気的に接続されている。負荷35は、車載用電子部品であり、例えば、電動部品、ECU、ADAS対象部品等の製品が適用対象となる。実施形態1において負荷35は、コンデンサ35Cを有するインバータ35Aと、モータ35Bと、を含む。コンデンサ35Cは、電源部10に基づく電圧を平滑化してインバータ35Aに供給する。インバータ35Aは、電力路11に電気的に接続される。インバータ35Aは、電源部10から供給される電圧に基づく直流電圧から交流電圧(例えば三相交流)を生成し、モータ35Bに供給する。モータ35Bは、例えば主機系モータである。モータ35Bは、電源部10から供給される電力に基づいて回転し、車両の車輪に対して回転力を与える。電源部10の高電位側端子から出力された電流は、正極側電力線17、負荷35、負極側電力線20、電源部10の低電位側端子の順に流れる。
【0029】
システムメインリレー33は、電源部10と負荷35との間の正極側電力線17、及び負極側電力線20に介在して設けられている。システムメインリレー33は、リレーである第1開閉器33A、リレーである第2開閉器33B、及び並列開閉経路33Cを有している。第1開閉器33A、及び第2開閉器33Bは、例えば、接触した状態と、離間した状態と、に物理的に切り替わる接点を内部に有する機械式のリレースイッチである。並列開閉経路33Cは、抵抗器33Dと、抵抗器33Dに対して直列に接続されたリレーである第3開閉器33Eと、を有している。第3開閉器33Eは、第1開閉器33A、及び第2開閉器33Bと同様の構成を有する機械式のリレースイッチである。第3開閉器33Eは、所謂、プリチャージリレーである。
【0030】
第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eの構造について説明する。
図3に示すように、第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eは、合成樹脂製のケース50から一対の端子部51が突出するように設けられている。これら端子部51には、正極側電力線17、又は負極側電力線20が電気的に接続される。ケース50には、一対の端子部51の各々に電気的に接触可能な可動接点52が設けられている。可動接点52には、鉄芯53が取り付けられている。鉄芯53の周囲には、鉄芯53を囲むようにコイル54が配置されている。後述する制御装置Cからオン信号Son(
図1参照)がコイル54に付与されると、可動接点52が一対の端子部51の各々に電気的に接触する向きに鉄芯53が移動する。これにより、第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eは、オン状態に切り替わる。
【0031】
第1開閉器33Aは、正極側電力線17に設けられている。第2開閉器33Bは、負極側電力線20に設けられている。並列開閉経路33Cの抵抗器33D及び第3開閉器33Eは、第1開閉器33Aに対して並列になるように正極側電力線17に電気的に接続されている。並列開閉経路33Cは、所謂、プリチャージ回路である。第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eは、所定の制御装置C(以下、単に制御装置Cともいう)によってオン状態と、オフ状態とに切り替わるように制御される。制御装置Cは、例えば、マイクロコンピュータとして構成されており、CPUや、ROM、RAM、及び不揮発性メモリ等を具備している。制御装置Cは、制御部15の構成に含まれる。第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eは、オン状態と、オフ状態とに切り替わることによって、電力路11を導通状態と遮断状態とに切り替える。
【0032】
第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eがオン状態とオフ状態とに切り替わる回数が増えるにつれ、一対の端子部51、及び可動接点52における電気的に接触する接触面Csの粗さが大きくなる傾向を有している(
図3参照)。また、第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eがオン状態とオフ状態とに切り替わる毎に、一対の端子部51、及び可動接点52の接触面Cs同士が接触する位置が僅かにずれる(
図3参照)。これにより、第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eは、
図4に示すように、オン状態とオフ状態とに切り替わることを繰り返して一対の端子部51と可動接点52との間の通電と通電停止とを繰り返すと、端子部51と可動接点52との間の抵抗値が大きくなる頻度が増える。これとともに、オン状態とオフ状態とに切り替わる毎における端子部51と可動接点52との間の抵抗値のばらつきSの幅も大きくなる。
図4において、抵抗値を示す領域が上に行くほど薄く変化しているのは、その抵抗値を示す頻度が、減少していることを意味する。
【0033】
電流検知部38は、第2開閉器33Bよりも電源部10側の負極側電力線20に介在して設けられている。電流検知部38は、例えば、抵抗器及び差動増幅器を有し、負極側電力線20を流れる電流を示す値(具体的には、負極側電力線20を流れる電流の値に応じたアナログ電圧)を電流値Aとして出力し得る構成をなす。つまり、電流検知部38は、電力路11を流れる電流の電流状態を電流値Aとして検知する。
【0034】
第1電位検知部39Aは、例えば、電位検知回路として構成されている。第1電位検知部39Aは、第1開閉器33Aにおける一端側の端子である、電源部10側の端子の第1電位、及び他端側の端子である負荷35側の端子の第2電位の各々を検知し、これら第1電位及び第2電位同士の電位差V1を出力し得る構成をなす。言い換えると、第1電位検知部39Aは、第1開閉器33Aの電源部10側及び負荷35側の両端子間(第1開閉器33Aに電力が供給される側及び電力が出力される側の両側の端子)における電位差V1として検知する。
【0035】
第2電位検知部39Bは、例えば、第1電位検知部39Aと同様の電位検知回路として構成されている。第2電位検知部39Bは、第2開閉器33Bにおける一端側の端子ある電源部10側の端子の第1電圧、及び他端側の端子である負荷35側の端子の第2電位の各々を検知し、これら第1電位及び第2電位の電位差V2を出力し得る構成をなす。言い換えると、第2電位検知部39Bは、第2開閉器33Bの電源部10側及び負荷35側の両端子間(第2開閉器33Bに電力が供給される側及び電力が出力される側の両側の端子)における電位差V2として検知する。
【0036】
第1電位と第2電位との電位差V1,V2は、アナログ回路(例えば差動増幅回路)で演算した値であってもよいし、第1電位と第2電位とをそれぞれAD変換した後にデジタル回路で演算した値であってもよい。
【0037】
制御部15は、例えば、マイクロコンピュータとして構成されており、CPUや、ROM、RAM、及び不揮発性メモリ等によって構成される記憶部15Dを具備している。制御部15は、抵抗値算出部15A、劣化検知部15B、及び通知機能部15Cを備えている。
【0038】
抵抗値算出部15Aは、電流検知部38、第1電位検知部39A、及び第2電位検知部39Bの各々から電流値A、電位差V1、及び電位差V2が入力される構成とされている。抵抗値算出部15Aは、これら値(電流値A、電位差V1,V2)に基づいて第1開閉器33Aの抵抗値R1、及び第2開閉器33Bの抵抗値R2を演算する。抵抗値算出部15Aにおいて、抵抗値R1,R2を演算して求めることは、抵抗値R1,R2を測定することと同じ意味である。例えば、第1開閉器33Aの抵抗値R1は、電位差V1を電流値Aで除して求める。第2開閉器33Bの抵抗値R2は、電位差V2を電流値Aで除して求める。つまり、制御部15は、第1電位と第2電位との電位差V1,V2に基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々の抵抗値R1,R2を演算する。
【0039】
制御部15の抵抗値算出部15Aが抵抗値R1,R2を測定するには、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bがオン状態に切り替わるという測定条件が成立する必要がある。抵抗値算出部15Aでは、演算した抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する。なお、抵抗値R1,R2は、互いに区別して記憶部15Dに記憶される。
【0040】
具体的には、抵抗値算出部15Aでは、車両の始動スイッチ70がオフからオンに切り替わることによって第1開閉器33A及び第2開閉器33Bがオンに切り替わった後、所定の短時間が経過したところで抵抗値R1,R2を演算する。そして、制御部15は、抵抗値算出部15Aで演算された抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する。例えば、抵抗値R1,R2は、車両の始動スイッチ70がオフからオンに切り替わる毎に記憶部15Dに記憶される。記憶部15Dにおける抵抗値R1,R2の各々を記憶する数は、所定の数に制限されている。例えば、所定の数の抵抗値R1,R2を記憶した記憶部15Dは、最も古く記憶された抵抗値R1,R2を消去した上で、新たに演算された抵抗値R1,R2を記憶する構成とされている。
【0041】
抵抗値算出部15Aでは、最も古く記憶された抵抗値R1,R2を消去して新たに演算された抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する毎に、記憶部15Dに記憶された複数の抵抗値R1,R2を用いて、以下に示す数1の数式を用いて標準偏差値Deを演算する。具体的には、標準偏差値Deは、抵抗値R1を用いて演算される標準偏差値De1、及び抵抗値R2を用いて演算される標準偏差値De2の二つである。
【0042】
【0043】
ここで、nは、記憶部15Dに記憶された抵抗値R1(R2)の各々の数であり、iは、記憶部15Dに記憶された抵抗値R1(R2)の順番であり、Riは、記憶部15Dに記憶されたi番目の抵抗値R1(R2)である。Raは、記憶部15Dに記憶された抵抗値R1(R2)の平均値である。平均値Raは、抵抗値R1の平均値Ra1、及び抵抗値R2の平均値Ra2の二つである。抵抗値R1,R2は、一対の端子部51と可動接点52とにおける通電と通電停止とを繰り返すと、徐々に大きくなるとともに、オン状態とオフ状態とに切り替わる回数が増えるにつれでばらつきSの幅も大きくなる(
図3、4参照)。このため、標準偏差値De(De1,De2)は、演算される毎(すなわち、車両の始動スイッチ70がオフからオンに切り替わる毎)に、徐々に大きくなる。つまり、標準偏差値De(De1,De2)は、第1開閉器33A、及び第2開閉器33Bの劣化度合いが進むにつれて大きくなる。よって、標準偏差値De(De1,De2)は、第1開閉器33A、及び第2開閉器33Bの劣化度合いを示す値として用いることができる。
【0044】
劣化検知部15Bは、劣化判定処理を実行し得る構成とされている。劣化判定処理は、抵抗値算出部15Aにおいて算出した標準偏差値De1と、記憶部15Dに記憶された標準偏差閾値Th11と、を比較し、標準偏差値De2と、記憶部に記憶された標準偏差閾値Th12と、を比較する処理である。
【0045】
例えば、劣化検知部15Bは、標準偏差値De1が標準偏差閾値Th11を超えた、又は標準偏差値De2が標準偏差閾値Th12を超えたと判定すると、劣化信号Sdを出力し得る構成とされている。劣化信号Sdは、第1開閉器33A、又は第2開閉器33Bが劣化状態である場合に出力される。つまり、制御部15は、標準偏差値De1が標準偏差閾値Th11を超えたときに第1開閉器33Aが劣化状態であると判定し、標準偏差値De2が標準偏差閾値Th12を超えたときに、第2開閉器33Bが劣化状態であると判定する。
【0046】
劣化検知部15Bは、劣化判定処理において、標準偏差値De1の大きさが標準偏差閾値Th11以下、且つ標準偏差値De2の大きさが標準偏差閾値Th12以下と判定すると、劣化信号Sdを出力しない。この場合、制御部15は、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bが劣化状態でないと判定する。こうして、制御部15は、抵抗値R1,R2の平均値Ra(Ra1,Ra2)を用いて算出される標準偏差値De(De1,De2)に基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの劣化度合いを判定する。
【0047】
通知機能部15Cは、例えば通信装置によって構成され、劣化検知部15Bから劣化信号Sdが入力されることに基づいて、BMS(バッテリ管理システム)等の図示しない外部機器への情報送信によって報知を行う異常対応処理を行う構成とされている。つまり、制御部15は、標準偏差値De1が標準偏差閾値Th11を超えたとき、又は標準偏差値De2が標準偏差閾値Th12を超えたときに、異常対応処理を行う。
【0048】
〔制御部における制御について〕
次に、制御部15によって実行される制御の一例について、
図2等を参照しつつ説明する。例えば、車載システム100が搭載された車両において、始動スイッチ70がオフの場合には、システムメインリレー33の第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び並列開閉経路33Cの第3開閉器33Eは、オフ状態が維持される。このとき、電力路11は、電源部10から負荷35への電力の供給を遮断する遮断状態である。
【0049】
この状態から、先ず、ステップS1を実行し、始動スイッチ70をオフからオンに切り替える。次に、ステップS2に移行すると、制御装置Cからオン信号Son(
図1参照)が出力され、第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eがオン信号Sonに基づいてオフ状態からオン状態に切り替わる切替制御が実行される。具体的には、切替制御では、第1開閉器33Aをオフ状態にしつつ第2開閉器33B及び第3開閉器33Eをオン状態にして電力路11を通電開始させた後、第2開閉器33B及び第3開閉器33Eをオン状態で維持しつつ第1開閉器33Aをオン状態に切り替える制御である。つまり、第1開閉器33Aは、第2開閉器33Bよりも後にオフ状態からオン状態に切り替わる。
【0050】
なお、第2開閉器33B及び第3開閉器33Eがオン状態にされたところで、電力路11は、通電開始する。抵抗器33Dが第3開閉器33Eに直列に接続されているので、電力路11には、電流が徐々に大きくなるように緩やかに流れ始める。
【0051】
さらに、第1開閉器33Aがオン状態にされると、電力路11は、電源部10から負荷35への電力の供給を許容する導通状態になる。第1開閉器33Aがオン状態に切り替わると、直ちに第1開閉器33Aに突入電流が流れる。このとき、電力路11において流れる電流値Aが急激に上昇する電流上昇が生じる。こうして、切替制御が実行されることにより電力路11の通電開始又は電流上昇が生じる。
【0052】
突入電流は、第1開閉器33Aがオン状態に切り替わった後、所定の短時間流れ続け、所定の短時間が経過した後、第1開閉器33Aに流れる電流は、突入電流の大きさよりも小さい所定の範囲に留まるように落ち着く。こうして、第1開閉器33Aがオン状態になり、且つ電力路11に電流が流れる。
【0053】
そして、ステップS3に移行する。制御部15は、タイマ機能を具備しており、電流値Aが0から所定の大きさに変化したときから所定の短時間の計測を開始する。所定の短時間は、第1開閉器33Aに流れる電流が突入電流の大きさよりも小さい所定の範囲に落ち着く時間である。
【0054】
そして、ステップS4に移行すると、制御部15は、電力路11における電流値Aが0から所定の大きさに変化したときから所定の短時間経過したか否かを判定する。ステップS4では、所定の短時間が経過することを待つことによって、第1開閉器33Aに流れる電流が突入電流の大きさよりも小さい所定の範囲に落ち着くことを待つための処理である。例えば、制御部15は、ステップS4において、電力路11における電流値Aが0から所定の大きさに変化したときから所定の短時間経過していないと判定する(ステップS4におけるNo)と、ステップS3に再び移行する。ステップS3に再び移行すると、制御部15が具備するタイマのカウントを進め、その後、ステップS4の処理を再び繰り返す。
【0055】
そして、ステップS4において、電力路11における電流値Aが0から所定の大きさに変化したときから所定の短時間経過したと制御部15が判定する(ステップS4におけるYes)と、ステップS5に移行する。ステップS5に移行すると、制御部15は、抵抗値算出部15Aにおいて、電流検知部38、第1電位検知部39A、及び第2電位検知部39Bの各々から入力された電流値A、及び電位差V1,V2に基づいて抵抗値R1,R2を演算する。そして、ステップS6に移行する。
【0056】
ステップS6に移行すると、制御部15は、演算された抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する。このとき、記憶部15Dに記憶された抵抗値R1,R2の各々の数が所定の数である場合には、最も古く記憶された抵抗値R1,R2を消去した上で、演算された抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する。
【0057】
ステップS7に移行すると、制御部15は、抵抗値算出部15Aにおいて、記憶部15Dに記憶された抵抗値R1,R2を用いて数1に示す数式に基づいて標準偏差値De(De1,De2)を演算する。
【0058】
ステップS8に移行すると、制御部15は、劣化検知部15Bにおいて、標準偏差値De1と標準偏差閾値Th11とを比較し、標準偏差値De2と標準偏差閾値Th12とを比較する劣化判定処理を実行する。例えば、劣化判定処理では、標準偏差値De1の大きさが標準偏差閾値Th11以上、又は標準偏差値De2の大きさが標準偏差閾値Th12以上である(ステップS8におけるYes)と判定すると、ステップS9に移行して、劣化検知部15Bから劣化信号Sdを出力する。ステップS8は、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定する処理である。
【0059】
これに対して、劣化判定処理において、標準偏差値De1の大きさが標準偏差閾値Th11よりも小さく、且つ標準偏差値De2の大きさが標準偏差閾値Th12よりも小さい(ステップS8におけるNo)と判定すると、劣化信号Sdを出力せず、
図2に示す処理を終了する。
【0060】
次に、劣化信号Sdが通知機能部15Cに入力されると、通知機能部15Cは、外部機器(図示せず)へ情報送信を行う。つまり、制御部15の通知機能部15Cは、標準偏差値De1,De2が標準偏差閾値Th11,Th12を超えたときに(すなわち、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bのいずれかが劣化状態であると判定したときに)劣化状態であることを外部に通知する異常対応処理を行う。こうして、
図2に示す処理が終了する。
【0061】
なお、ステップS5からステップS9の処理を始動スイッチ70がオンからオフに切り替わったときに実行してもよい。具体的には、始動スイッチ70がオンからオフに切り替える。すると、制御部15は、ステップS5からステップS9の処理を実行する。その後、制御装置Cからオン信号Sonの出力を停止する。これにより、第1開閉器33A、第2開閉器33B、及び第3開閉器33Eは、オン状態からオフ状態に切り替わる。こうして、始動スイッチ70がオンからオフに切り替わると第1開閉器33A及び第2開閉器33Bがオフに切り替わる。つまり、制御部15が抵抗値R1,R2を測定する測定条件は、始動スイッチ70がオンからオフに切り替わったときの条件を含んでいてもよい。
【0062】
さらに、ステップS5からステップS9の処理を始動スイッチ70がオンのときであって、車両が停車中に実行してもよい。
【0063】
次に、本構成の効果を例示する。
【0064】
劣化判定装置1は、電源部10からの電力を負荷35に伝送する経路である電力路11と、電力路11に設けられる第1開閉器33A及び第2開閉器33Bを備える車載システム100に用いられる。劣化判定装置1は、測定条件が成立する毎に第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々の抵抗値R1,R2を測定する制御部15を備え、制御部15は、抵抗値R1,R2の平均値Ra1,Ra2に基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定する。
【0065】
劣化判定装置1は、抵抗値R1,R2の平均値Ra1,Ra2を利用することによって、オンオフする毎の抵抗値R1,R2の大きさのばらつく影響を丸めることができる。従って、この構成によれば、オンオフする毎の抵抗値R1,R2の大きさがばらつく影響を抑えた形で第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定しやすい。
【0066】
劣化判定装置1において、測定条件は、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bがオフからオンに切り替わるという条件を含む。制御部15は、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bがオフからオンに切り替わる毎に抵抗値R1,R2を測定し、測定した複数の抵抗値R1,R2の平均値Ra1,Ra2に基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定する。
【0067】
劣化判定装置1において、抵抗値R1,R2は、始動スイッチ70がオフの期間を挟んで測定されたものである。第1開閉器33A及び第2開閉器33Bが有する端子部51や可動接点52の接触面Csは、非接触状態を経て接触状態に変化すると、接触面Csにおける接触する位置が僅かに変化したり、接触面Csの粗さが流れる電流によって変化したりする。よって、この構成によれば、各抵抗値R1,R2の大きさは、上記変化が生じてばらつくことになる。このため、こうしたばらつきを含んだ形で求めた平均値Ra1,Ra2を用いることによって、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの実情を加味した形で第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定することができる。
【0068】
第1開閉器33A及び第2開閉器33Bは、車両の始動スイッチ70がオンに切り替わったときにオンとなり、始動スイッチ70がオフに切り替わったときにオフとなる。測定条件は、始動スイッチ70がオフからオンに切り替わったとき、又はオンからオフに切り替わったとき、の少なくともいずれかの条件を含む。制御部15は、抵抗値R1,R2の平均値Ra1,Ra2に基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定する。
【0069】
始動スイッチ70がオフからオン、又はオンからオフに切り替わるときには、所定のシーケンスが実行され、電力路11に流れる電流の大きさが落ち着いた状態になりやすい。このため、この構成によれば、始動スイッチ70がオフからオン、又はオンからオフの少なくともいずれかに抵抗値R1,R2を測定する構成なので、抵抗値R1,R2の大きさが安定しやすい。
【0070】
劣化判定装置1の制御部15は、抵抗値R1,R2の平均値Ra1,Ra2を用いて算出される標準偏差値De1,De2に基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定する。
【0071】
第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの抵抗値R1,R2は、オンオフの回数が増えるにつれて、大きくなりつつ、且つばらつきも大きくなる特性を有している。劣化判定装置1は、このような特性の抵抗値R1,R2の平均値Ra1,Ra2を用いて算出される標準偏差値De1,De2を用いるので、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの抵抗値R1,R2のばらつきにとらわれずに、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの実情を加味した形で第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定することができる。
【0072】
劣化判定装置1の制御部15は、標準偏差値De1,De2が閾値を超えて、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bが劣化状態であると判定したときに、異常対応処理を行う。この構成によれば、異常対応処理を行うことによって、抵抗値R1,R2の大きさが閾値を超えた(すなわち、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bが劣化している)ことに即した対応を取りやすい。
【0073】
<実施形態2>
実施形態2の車載システム200に設けられた劣化判定装置2は、制御部15において、演算した抵抗値R1,R2と下限閾値Th23とを比較して、下限閾値Th23以上の抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する点、移動平均値Maを演算する点、及び記憶部15Dに移動平均閾値Th21、Th22が記憶されている点等が実施形態1とは異なり、その他の点で共通する。実施形態2では、実施形態1と同じ構成については同じ符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0074】
抵抗値算出部15Aでは、電流値A、電位差V1,V2を用いて演算した抵抗値R1,R2と、下限閾値Th23と、を比較する。例えば、下限閾値Th23は、記憶部15Dに記憶されている(
図5参照)。下限閾値Th23は、0Ωよりも大きい値である。
【0075】
例えば、
図4に示すように、オン状態とオフ状態とに切り替わることを繰り返す毎に演算される抵抗値R1,R2は、ばらつきSの範囲内に収まる。より詳しくは、これら抵抗値R1,R2は、ばらつきSの範囲のうちの下側の範囲Lに収まる頻度が高く、下側の範囲Lよりも上の範囲Uに収まる頻度が小さい。従って、下側の範囲Lに収まる抵抗値R1,R2に着目しても、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定することは難しい。
【0076】
このため、下側の範囲Lに収まる抵抗値R1,R2除外して、上の範囲Uに収まる抵抗値R1,R2を抽出して用いることによって、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを良好に判定し得る。このため、下限閾値Th23は、下側の範囲Lと、上の範囲Uと、の境界に相当する大きさに設定されることが好ましい。すなわち、下限閾値Th23は、ばらつきSの範囲の下限よりも大きく、且つばらつきSの範囲の上限よりも小さい値に設定される。そして、抵抗値算出部15Aでは、下限閾値Th23よりも小さい抵抗値R1,R2を除外して、下限閾値Th23以上の抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する。なお、抵抗値R1,R2は、互いに区別して記憶される。
【0077】
なお、下限閾値Th23は、
図4に示すように試験的に求めたグラフに基づいて設計者の感覚で設定されるものであってもよいし、
図4に示すように試験的に求めたグラフにプロットされた値全体の平均値や標準偏差値であってもよい。
【0078】
具体的には、抵抗値算出部15Aでは、車両の始動スイッチ70がオフからオンに切り替わることによって第1開閉器33A及び第2開閉器33Bがオンに切り替わった後所定の短時間が経過したところで抵抗値R1,R2を演算する。そして、抵抗値算出部15Aは、演算された抵抗値R1,R2と、下限閾値Th23と、を比較し、下限閾値Th23以上の抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する。下限閾値Th23以上の抵抗値R1,R2は、車両の始動スイッチ70がオフからオンに切り替わる毎に記憶部15Dに記憶する。記憶部15Dに記憶される抵抗値R1,R2の各々の数は、所定の数に制限されている。例えば、所定の数の抵抗値R1,R2を記憶した記憶部15Dは、最も古く記憶された抵抗値R1,R2を消去した上で、新たに演算された抵抗値R1,R2を記憶する構成とされている。
【0079】
さらに、抵抗値算出部15Aでは、最も古く記憶された抵抗値R1,R2を消去して新たに演算された抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する毎に、記憶部15Dに記憶された複数の抵抗値R1,R2を用いて、以下に示す数2の数式を用いて移動平均値Maを演算する。移動平均値Maは、抵抗値R1を用いて演算される移動平均値Ma1、及び抵抗値R2を用いて演算される移動平均値Ma2の二つである。
【0080】
【0081】
ここで、nは、記憶部15Dに記憶された抵抗値R1(R2)の数であり、iは、記憶部15Dに記憶された抵抗値R1(R2)の順番であり、Riは、記憶部15Dに記憶されたi番目の抵抗値R1(R2)である。抵抗値R1,R2は、一対の端子部51と可動接点52との間の通電と通電停止とを繰り返すと、徐々に大きくなるとともに、オン状態とオフ状態とに切り替わる毎におけるばらつきSの幅も大きくなる(
図4参照)。このため、移動平均値Ma(Ma1,Ma2)は、演算される毎(すなわち、車両の始動スイッチ70がオフからオンに切り替わる毎)に、徐々に大きくなる。つまり、移動平均値Ma(Ma1,Ma2)は、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々の劣化度合いが進むにつれて大きくなる。よって、移動平均値Ma(Ma1,Ma2)は、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々の劣化度合いを示す値として用いることができる。
【0082】
劣化検知部15Bは、劣化判定処理において、抵抗値算出部15Aで算出した移動平均値Ma1と、記憶部15Dに記憶された移動平均閾値Th21(
図5参照)と、を比較し、移動平均値Ma2と、記憶部15Dに記憶された移動平均閾値Th22(
図5参照)と、を比較する。
【0083】
例えば、劣化検知部15Bは、移動平均値Ma1が移動平均閾値Th21を超えた、又は移動平均値Ma2が移動平均閾値Th22を超えたと判定すると、劣化信号Sdを出力し得る構成とされている。つまり、制御部15は、移動平均値Ma1が移動平均閾値Th21を超えたときに第1開閉器33Aが劣化状態であると判定し、移動平均値Ma2が移動平均閾値Th22を超えたときに、第2開閉器33Bが劣化状態であると判定する。劣化検知部15Bは、劣化判定処理において、移動平均値Ma1の大きさが移動平均閾値Th21以下、且つ移動平均値Ma1の大きさが移動平均閾値Th22以下と判定すると、劣化信号Sdを出力しない。この場合、制御部15は、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態でないと判定する。こうして、制御部15は、下限閾値Th23以上の抵抗値R1,R2に基づいて算出される移動平均値Ma(Ma1,Ma2)に基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定する。
【0084】
〔制御部における制御について〕
次に、制御部15によって実行される制御の一例について、
図6等を参照しつつ説明する。実施形態1と同じ処理については、詳しい説明を省略する。
【0085】
制御部15は、抵抗値算出部15Aにおいて、電流検知部38、第1電位検知部39A、及び第2電位検知部39Bの各々から入力された電流値A、及び電位差V1,V2に基づいて抵抗値R1,R2を演算する(ステップS5)。そして、ステップS10に移行する。
【0086】
ステップS10に移行すると、制御部15の抵抗値算出部15Aは、演算した抵抗値R1,R2が下限閾値Th23以上であるか否かを判定する。ステップS10において、演算した抵抗値R1,R2が下限閾値Th23よりも小さいと抵抗値算出部15Aが判定すると、
図6に示す処理を終了する。
【0087】
ステップS10において、演算した抵抗値R1,R2が下限閾値Th23以上であると抵抗値算出部15Aが判定すると、ステップS16に移行して、制御部15は、演算された抵抗値R1,R2を記憶部15Dに記憶する。こうして、記憶部15Dには、下限閾値Th23以上の抵抗値R1,R2のみが記憶される。
【0088】
ステップS17に移行すると、制御部15は、抵抗値算出部15Aにおいて、記憶部15Dに記憶された抵抗値R1,R2を用いて数2に示す数式に基づいて移動平均値Ma(Ma1,Ma2)を演算する。
【0089】
ステップS18に移行すると、制御部15は、劣化検知部15Bにおいて、移動平均値Ma1と移動平均閾値Th21とを比較し、移動平均値Ma2と移動平均閾値Th22とを比較する劣化判定処理を実行する。例えば、劣化判定処理では、移動平均値Ma1の大きさが移動平均閾値Th21以上、又は移動平均値Ma2の大きさが移動平均閾値Th22以上である(ステップS18におけるYes)と判定すると、ステップS19に移行して、劣化検知部15Bから劣化信号Sdを出力する。
【0090】
これに対して、劣化判定処理において、移動平均値Ma1の大きさが移動平均閾値Th21よりも小さく、且つ移動平均値Ma2の大きさが移動平均閾値Th22よりも小さい(ステップS18におけるNo)と判定すると、劣化信号Sdを出力せず、
図6に示す処理を終了する。
【0091】
次に、劣化信号Sdが通知機能部15Cに入力されると、通知機能部15Cは、外部機器(図示せず)へ情報送信を行う。つまり、制御部15の通知機能部15Cは、移動平均値Ma1,Ma2が移動平均閾値Th21,Th22を超えたとき(すなわち、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bのいずれかが劣化状態であると判定したときに)に劣化状態であることを外部に通知する異常対応処理を行う。こうして、
図6に示す処理が終了する。
【0092】
劣化判定装置2の制御部15は、抵抗値の移動平均値Maに基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定する。この構成によれば、移動平均という簡単な演算で第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定することができる。
【0093】
劣化判定装置2の制御部15は、下限閾値Th23以上の抵抗値R1,R2の平均値Raに基づいて第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定する。この構成によれば、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bが劣化して大きくなった抵抗値R1,R2を下限閾値Th23によって抽出し、こうして抽出された抵抗値R1,R2を平均値Raとして用いることができる。このため、第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの劣化に焦点を当てた形で第1開閉器33A及び第2開閉器33Bの各々に対して劣化状態であるか否かを判定することができる。
【0094】
<他の実施形態>
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、今回開示された実施の形態に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0095】
実施形態1とは異なり、抵抗値の平均値を用いて算出される分散値に基づいて第1開閉器及び第2開閉器の各々に対して劣化状態であるか否かを判定してもよい。
【0096】
実施形態1とは異なり、通知機能部は、ランプや表示装置などの表示部として構成され、表示によって報知を行う構成であってもよい。通知機能部は、スピーカなどの音声装置によって構成され、音声によって報知を行う構成であってもよい。
【0097】
実施形態1とは異なり、抵抗値算出部、劣化検知部、及び通知機能部を、それぞれ個別の情報処理装置(個別のマイクロコンピュータ等)として構成してもよい。
【0098】
実施形態1とは異なり、制御部と、制御装置と、を1つのマイクロコンピュータとして構成してもよい。
【0099】
実施形態1とは異なり、第3開閉器を有さない構成としてもよい。この場合、切替制御が実行されることにより電力路を流れる電流値が急激に上昇する電流上昇が生じる。
【0100】
実施形態1とは異なり、電流値及び電圧値に対応した抵抗値が定められるテーブルデータを予め記憶部に記憶しておき、テーブルデータから電流値及び電圧値に対応した抵抗値を採用する構成でもよい。
【0101】
実施形態1とは異なり、第1開閉器又は第2開閉器のいずれか一方のみの抵抗値を測定する構成としてもよい。
【0102】
実施形態1とは異なり、下限閾値以上の抵抗値を記憶部に複数記憶し、この複数の抵抗値を用いて標準偏差値を演算してもよい。
【0103】
実施形態1とは異なり、電力路に電気的に接続された負荷に対して所定の大きさの定電流を流す処理を実行しつつ、このときの第1開閉器及び第2開閉器の各々の抵抗値を測定する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0104】
1,2…劣化判定装置
10…電源部
11…電力路
15…制御部
15A…抵抗値算出部
15B…劣化検知部
15C…通知機能部
15D…記憶部
17…正極側電力線(電力路)
20…負極側電力線(電力路)
33…システムメインリレー
33A…第1開閉器
33B…第2開閉器
33C…並列開閉経路
33D…抵抗器
33E…第3開閉器
35…負荷
35A…インバータ
35B…モータ
35C…コンデンサ
38…電流検知部
39…電位検知部
39A…第1電位検知部(電位検知部)
39B…第2電位検知部(電位検知部)
50…ケース
51…端子部
52…可動接点
53…鉄芯
54…コイル
70…始動スイッチ
100,200…車載システム
A…電流値
C…制御装置
Cs…接触面
De,De1,De2…標準偏差値
L…下側の範囲
Ma,Ma1,Ma2…移動平均値
R1,R2…抵抗値
Ra,Ra1,Ra2…平均値
S…ばらつき
Sd…劣化信号
Son…オン信号
Th11,Th12…標準偏差閾値
Th21,Th22…移動平均閾値
Th23…下限閾値
U…上の範囲
V1,V2…電位差