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特開2024-127354水晶振動片、水晶振動子、水晶発振器及び水晶振動片用の中間体ウエハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127354
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】水晶振動片、水晶振動子、水晶発振器及び水晶振動片用の中間体ウエハ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/19 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
H03H9/19 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036463
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 達也
(72)【発明者】
【氏名】岡島 幸弘
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA02
5J108BB02
5J108CC04
5J108CC08
5J108CC11
5J108DD02
5J108EE03
5J108EE07
5J108EE18
5J108FF06
5J108FF14
5J108GG03
5J108GG16
(57)【要約】
【課題】高周波用圧電デバイスの実現に好適な新規な構造を備えた水晶振動片を提供する。
【解決手段】水晶振動片10は、平面視四角形状で、厚み滑りモードで振動し厚さt1を有した振動部11、平面視長方形状で短辺が振動部の1つの辺に接続していて、第1方向に伸びていて、厚さt1より厚い厚さt2を有した第1肉厚部13、及び、第1肉厚部の振動部とは反対の端部の両側面に接続していて、第1方向と交差する第2方向に沿ってそれぞれ伸びていて、厚さt1より厚く、かつ、厚さt2と同じか又は異なる厚さt3を有し、容器との接続に用いられる第2肉厚部15を有した素子部と、励振用電極17と、引出電極19と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視四角形状で、厚み滑りモードで振動し、厚さt1を有した振動部、
平面視長方形状で、短辺が前記振動部の1つの辺に接続していて、第1方向に伸びていて、前記厚さt1より厚い厚さt2を有した第1肉厚部、及び、
前記第1肉厚部の前記振動部とは反対側の端部の両側面に接続していて、前記第1方向と交差する第2方向に沿ってそれぞれ伸びていて、前記厚さt1より厚く、かつ、前記厚さt2と同じか又は異なる厚さt3を有し、当該水晶振動片と外部部材との接続に用いられる第2肉厚部を備える素子部と、
前記振動部の表裏面に設けられた励振用電極と、
前記励振用電極から前記第1肉厚部を経由し前記第2肉厚部に至っている引出電極と、を備えることを特徴とする水晶振動片。
【請求項2】
前記振動部の前記第1方向に沿った寸法をαとし、前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分を除いた部分の前記第1方向に沿った寸法をβとしたとき、β>αであることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動片。
【請求項3】
前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分を除いた部分の前記第1方向に沿った寸法をβとし、前記第2肉厚部の前記第1肉厚部と接する部分の前記第1方向に沿った寸法をγとしたとき、γ<βであることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動片。
【請求項4】
前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分の前記第2方向に沿った寸法をWとし、前記第2肉厚部の前記第2方向に沿った寸法をLとしたとき、L≧0.5Wであることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動片。
【請求項5】
前記振動部の前記第1方向に沿った寸法をαとし、前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分を除いた部分の前記第1方向に沿った寸法をβとしたとき、β>αであり、
前記第2肉厚部の前記第1肉厚部と接する部分の前記第1方向に沿った寸法をγとしたとき、γ<βであり、かつ、
前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分の前記第2方向に沿った寸法をWとし、前記第2肉厚部の前記第2方向に沿った寸法をLとしたとき、L≧0.5Wであることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動片。
【請求項6】
前記振動部の前記第1方向に沿った寸法をαとし、前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分を除いた部分の前記第1方向に沿った寸法をβとしたとき、β>αであり、
前記第2肉厚部の前記第1肉厚部と接する部分の前記第1の方向に沿った寸法をγとしたとき、γ<βであり、
前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分の前記第2の方向に沿った寸法をWとし、前記第2肉厚部の前記第2方向に沿った寸法をLとしたとき、L≧0.5Wであり、かつ、
前記t1に対し前記t2は、t2≧10・t1であることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動片。
【請求項7】
前記第1肉厚部は、前記励振部側に、前記励振部に向かって厚さが徐々に薄くなっている傾斜部を備えることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動片。
【請求項8】
前記第1肉厚部は、前記励振部側に、前記励振部に向かって厚さが徐々に薄くなっている傾斜部を備え、
前記傾斜部の前記第1方向に沿う寸法をδと定義したとき、前記δは前記厚みt2に対し、δ>t2であることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動片。
【請求項9】
前記第1肉厚部は、前記励振部側に、前記励振部に向かって厚さが徐々に薄くなっている傾斜部を備え、
前記振動部の一方の面と前記第1肉厚部の一方の面とは、連続する平坦面となっており、
前記傾斜部の傾斜面と前記平坦面との成す角度θは、θ=35±3度であることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動片。
【請求項10】
前記振動部の前記第1方向に沿った寸法をαとし、前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分を除いた部分の前記第1方向に沿った寸法をβとしたとき、β>αであり、
前記第2肉厚部の前記第1肉厚部と接する部分の前記第1方向に沿った寸法をγとしたとき、γ<βであり、
前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分の前記第2方向に沿った寸法をWとし、前記第2肉厚部の前記第2方向に沿った寸法をLとしたとき、L≧0.5Wであり、
前記t1に対し前記t2は、t2≧10・t1であり、かつ、
前記第1肉厚部は、前記励振部側に、前記励振部に向かって厚さが徐々に薄くなっている傾斜部を備えることを特徴とする請求項1に記載の水晶振動片。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の水晶振動片と、前記水晶振動片を前記第2肉厚部で電気的に接続固定していて前記水晶振動片を収容する前記外部部材としての容器と、を備えたことを特徴とする水晶振動子。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか1項に記載の水晶振動片と、前記水晶振動片用の発振回路と、前記水晶振動片を前記第2肉厚部で電気的に接続かつ固定していて、かつ、前記水晶振動片及び前記発振回路を収容する前記外部部材としての容器と、を備えたことを特徴とする水晶発振器。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか1項に記載の水晶振動片をマトリクス状に多数備えた水晶ウエハから成ることを特徴とする水晶振動片形成用の中間体ウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用水晶デバイスの実現に好適な、水晶振動片、この水晶振動片を用いた水晶振動子及び水晶発振器、並びに前記水晶振動片用の中間体ウエハに関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報通信における通信量の増大に対応するため、通信速度のさらなる高速化が必須である。従って、情報通信の基準信号源である圧電デバイスに対しても、高周波化が望まれている。
厚み滑りモードで振動する圧電振動片を用いる水晶振動子、水晶発振器の高周波を図るためには、振動部の厚さを益々薄くする必要がある。しかし、振動部の厚さを薄くした場合、圧電振動片を支持する支持部から振動部への応力等の影響が問題になる。
【0003】
これを回避するため、例えば特許文献1には、周波数が600MHzというような高周波の圧電デバイスを意識した構造として、薄片で構成される振動部と振動部の外周の一辺に沿って前記振動部の板厚より大とされた支持部とを一体形成した圧電振動子が開示されている(特許文献1の請求項1、図1、段落2等)。特許文献1の技術によれば、支持部の厚さを発振周波数と関係なく任意の厚さにできるため、支持部の厚みで容器の変形の応力に対抗でき、発振周波数の変動を防止できる(特許文献1の段落33)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-144578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高周波用の圧電デバイスとして、例えば400MHzを超える高周波用の圧電デバイスの開発を実際に進めてゆくと、さらなる工夫が必要なことがこの出願に係る発明者の研究で明らかになった。
この発明は、上記の点に鑑みなされたものであり、従ってこの出願の目的は、高周波用水晶デバイスの実現に好適な新規な構造を備えた水晶振動片、これを用いた水晶振動子及び水晶発振器、並びに前記水晶振動片形成用の中間体ウエハを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的の達成を図るため、この出願の第1発明である水晶振動片の発明によれば、
平面視四角形状で、厚み滑りモードで振動し、厚さt1を有した振動部、
平面視長方形状で、短辺が前記振動部の1つの辺に接続していて、第1方向に伸びていて、前記厚さt1より厚い厚さt2を有した第1肉厚部、及び、
前記第1肉厚部の前記振動部とは反対側の端部の両側面に接続していて、前記第1方向と交差する第2方向に沿ってそれぞれ伸びていて、前記厚さt1より厚く、かつ、前記厚さt2と同じか又は異なる厚さt3を有し、当該水晶振動片と外部部材との接続に用いられる第2肉厚部を備える素子部と、
前記振動部の表裏面に設けられた励振用電極と、
前記励振用電極から前記第1肉厚部を経由し前記第2肉厚部に至っている引出電極と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、この出願の第2発明である水晶振動子の発明によれば、第1発明の水晶振動片と、前記水晶振動片を前記第2肉厚部で電気的に接続固定していて前記水晶振動片を収容する前記外部部材としての容器と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、この出願の第3発明である水晶発振器の発明によれば、第1発明の水晶振動片と、前記水晶振動片用の発振回路と、前記水晶振動片を前記第2肉厚部で電気的に接続かつ固定していて、かつ、前記水晶振動片及び前記発振回路を収容する前記外部部材としての容器と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、この出願の第4発明である水晶振動片形成用の中間体ウエハによれば、第1発明の水晶振動片をマトリクス状に多数備えた水晶ウエハから成ることを特徴とする。
【0010】
第1~第4発明を実施するに当たり、前記水晶振動片は、前記振動部の前記第1方向に沿った寸法をα、前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分を除いた部分の前記第1方向に沿った寸法をβ、前記第2肉厚部の前記第1肉厚部と接する部分の前記第1の方向に沿った寸法をγ、前記第1肉厚部の前記第2肉厚部と接する部分の前記第2方向に沿った寸法をW、前記第2肉厚部の前記第2方向に沿った寸法をLとしたとき、詳細は後述する実施形態にて説明するが、これらα、β、γ、W及びLの、一部同士又は全部同士が所定関係となっているものであることが好ましい。こうすると、そうでない場合に比べ、振動部と外部部材との相互干渉を軽減できる。
また、第1~第4発明を実施するに当たり、前記水晶振動片は、前記第1肉厚部が、前記励振部側に、前記励振部に向かって厚さが徐々に薄くなっている傾斜部を備えることが好ましい。傾斜部を備えると、そうでない場合に比べ、振動部と外部部材との相互干渉を軽減できる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の水晶振動片によれば、振動部を、第1肉厚部及びこの第1肉厚部と交差する第2肉厚部によって容器等の支持部から離した構造を持つ水晶振動片を実現できる。然も、当該水晶振動片の外部との接続は、第2肉厚部で行われる。これらのことから、振動部に対する外部の応力の影響を、従来に比べ軽減できる。従って、高周波用水晶デバイスの実現に好適な新規な構造を備えた水晶振動片、水晶振動子、水晶発振器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、第1発明の実施形態の水晶振動片10を説明するための図である。
図2図2は、第1発明の実施形態の水晶振動片10の応力の影響具合を説明するための有限要素法による解析結果である。
図3】第2発明の実施形態の水晶振動子30を説明するための図である。
図4図4(A)は、第1発明の実施形態の水晶振動片10を用いて試作した水晶振動子の、発振周波数の経時変化特性を説明するための図、図4(B)は、同水晶振動子の、駆動電流の経時変化特性を説明するための図である。
図5】第3発明の実施形態の水晶発振器40を説明するための図である。
図6】第4発明の実施形態の水晶振動片用の中間体ウエハ50を説明するための図である。
図7】第1発明の水晶振動片の変形例1~変形例5を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照してこの出願の各発明の実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこれらの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明で述べる形状、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、各発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0014】
1.水晶振動片の発明の実施形態
図1を参照して、第1発明の実施形態の水晶振動片10について説明する。ここで、図1中の(A)図は、水晶振動片10の斜視図、(B)図は、水晶振動片10の側面図、(C)図は水晶振動片10の上面図である。
【0015】
実施形態の水晶振動片10は、振動部11a、第1肉圧部11b及び第2肉厚部11cを備える素子部11と、励振用電極13と、引出電極15と、を備えている。振動部11a、第1肉圧部11b及び第2肉厚部11cは、一体に形成してあり、例えばATカットの水晶ウエハからフォトリソグラフィ技術によって形成してある。以下、各部分の具体的な構造について説明する。
【0016】
振動部11aは、平面視四角形状で、厚み滑りモードで振動し、厚さt1を有したものである。素子部11自体をATカット水晶片で構成する場合、振動部11aもATカット水晶片で構成する。
振動部11aの平面形状は、正方形でも長方形でも良いが、この実施形態では、一辺の長さがαである正方形状のものとしてある。寸法αは、振動部10aの設計に応じて決める。また、振動部11aの厚みt1は、水晶振動片10に要求される発振周波数に応じた厚みである。すなわち、要求される発振周波数が例えば460MHzである場合、厚みt1は、おおよそ3.5μmであり相当に薄い。ただし、この厚みは、励振用電極13の質量負荷は考慮していない値で示している。振動部10aの厚みt1が相当薄い場合、寸法αを大きくしすぎると、振動部10a自体の撓みが生じる等の不具合が生じるので、この点も考慮して寸法αの上限を決めるのが良い。要求される発振周波数が例えば460MHzである場合、これに限られないが、振動部11aの寸法αの上限は例えば0.5mm程度が良く、より好ましくは0.4m程度が良い。
【0017】
第1肉圧部11bは、平面視長方形状で、短辺が振動部11aの一辺に接続していて、第1方向D1に沿って伸びていて、振動部11aの厚さt1より厚い厚さt2を有したものである。
ここで、第1肉厚部11bの第2肉厚部11cと接する部分を除いた部分の第1方向D1に沿った寸法βは、β>αを満たす寸法としてある。β>αであると、そうで無い場合に比べ、振動部11aと第2肉厚部11cとを少なくとも距離αで離すことができるので、外部部材に固定される第2肉厚部11cと振動部11aとの相互干渉を軽減し易いので好ましい。寸法βは、大きい程、振動部11aと第2肉厚部11cとを離すことができるので、好ましいが、βの上限は水晶振動片に要求される第1方向の全体寸法を考慮して決める。
【0018】
また、この実施形態の場合、振動部11aの一方の面と第1肉厚部11bの一方の面とは、連続する平坦面を構成している。この構造であると、振動部11aを形成するため水晶ウエハ(図示せず)の振動部11aを形成する予定領域を、水晶ウエハの片面から残りの厚さがt1になるまでエッチングするのみで良いので好ましい。
また、この実施形態の場合、第1肉厚部11bは、振動部11aの側に、振動部11aに向かって厚さが徐々に薄くなっている傾斜部11baを、備えている。傾斜部11baを設けた場合、そうで無い場合に比べ、第1肉厚部11bの傾斜部11baを除いた部分と、振動部11aとの間の相互干渉を軽減し易い。なお、傾斜部の代わりに段差を設ける場合があっても良い。
【0019】
また、傾斜部11baの傾斜面と、振動部11a及び第1肉厚部11bが形成している平坦面との成す角度はθとなっている。この場合、θ=35±3度の範囲のものとなっている。角度θを持った傾斜面は、当該水晶振動片10をフォトリソグラフィ技術及びウエットエッチング技術によって形成する際に生じる水晶の結晶面に由来するものであるので、傾斜部を制御性良く形成することに貢献するものである。
第1肉厚部11bの傾斜部11ba以外の部分の厚さt2は、振動部11aへの応力を軽減でき、素子部11自体を容器(図3参照)に接続固定する際の座りが良くなる等を考慮した適切な厚さが良い。これに限られないが、振動部11aの厚さt1に対し、第1肉厚部11bの厚さt2は、これに限られないが例えば、t2≧10・t1を満たすような厚さが良く、より好ましくは、t2≧15・t1を満たすような厚さが良い。厚さt2の上限は、水晶振動片10を実装する容器の内部高さや、水晶振動片10の製造に用いる水晶ウエハの経済的な厚さ等で決める。
また、傾斜部11baの第1方向D1に沿う寸法δは、ある程度長い方が、振動部11aと第1肉厚部11bとを離すことができるので、好ましい。例えばδ>t2とするのが良い。ただし、寸法δの上限は、水晶振動片10の第1方向D1の全体寸法、水晶振動片10を形成する水晶ウエハの厚みや、要求される発振周波数等を考慮して決める。
【0020】
第2肉厚部11cは、第1肉厚部11bの振動部11aとは反対側の端部の両側面に接続していて、第1方向D1と交差する第2方向D2に沿ってそれぞれ伸びているものである。然も、振動部11aの厚さt1より厚く、かつ、第1肉厚部の前記厚さt2と同じか又は異なる厚さt3を有し、水晶振動片10と外部部材でとしての例えば容器(図3等参照)との接続に用いられるものである。
ここで、第1方向D1及び第2方向D2が交差する方向は、この実施形態の場合、第1方向D1及び第2方向D2が直交する方向としてある。第1方向D1及び第2方向D2が直交関係にある場合で、水晶振動片10がATカット水晶片の場合は、第1方向D1は水晶の結晶軸のX軸に平行な方向とし、第2方向D2は、水晶の結晶軸のZ′軸に平行な方向とするのが良い。すなわち、水晶振動片10として、いわゆるXロングの水晶振動片が得られる方向とするのが良い。ただし、その逆に、第1方向D1はZ′軸に平行な方向とし、第2方向D2は、X軸に平行な方向とする場合があっても良い。すなわち、水晶振動片10として、いわゆるZロングの水晶振動片が得られる方向の場合があっても良い。なお、第1方向D1及び第2方向D2は、非直角の状態で交差する場合があっても良い。
【0021】
また、この実施形態の第2肉厚部11cは、第1肉厚部11bに対し第1方向D1に沿う寸法γで接続しており、且つ、第2方向に寸法Lで伸びていて、平面視で四角形状のものとしてある。ここで寸法Lは、第1肉厚部11bの第2肉厚部11cと接している部分の第2方向の幅W(この実施形態では振動部11aの一辺の長さαと同じ寸法)に対し、L≧0.5Wとするのが好ましい。Lを長くする程、第2肉厚部11cの外部部材と接続する部分と振動部11aとを離すことが出来るからである。寸法Lの上限は、例えば、水晶振動片10の第2方向D2の方向の寸法の制約を考慮して決めるのが良い。なお、この実施形態の場合、第1肉厚部11bの左右に設けた第2肉厚部11cの長さLを同じとしているが、異なる場合があっても良い。
【0022】
また、寸法γは第1肉厚部11bの上記した寸法βに対し、γ<βとするのが良い。γ<βであると、第1肉厚部11bに対する第2肉厚部11cの接続幅γをβに対し所定関係をもって規定できるので好ましい。ただし、寸法γが小さいと、第2肉厚部11cの固定部としての強度が確保できないので、寸法γの下限は、上記強度が確保できる寸法以上とする。
また、第2肉厚部11cは、振動部11aの厚さt1より厚く、かつ、第1肉厚部11bの厚さt2と同じか又は異なる厚さt3を有したものである。なお、第2肉厚部11cの厚さをt3とする場合、厚さt3は振動部11aの厚さt1より厚いことを前提に、第1肉厚部11bの厚みt2に対し厚くても薄くても良い。ただし、この実施形態の場合は、振動部11aの厚さt1、第1肉厚部11bの厚さt2及び第2肉厚部11cの厚さt3は、t1<<t2=t3としてある。
【0023】
励振用電極13は、振動部11aの表裏面に設けたものである。励振用電極13の平面形状は、設計に応じた任意好適なものとでき、たとえば四角形状、円形状、楕円形状等で良いが、この実施形態の場合、平面視で円形状の直径がφのものとしてある。この励振用電極13は、平面視で正方形状の振動部11aに対し、小さい平面積のものとしてあり(φ<α)、且つ、互いの中心点が一致した状態で、かつ、表裏同じ大きさで、表裏で対向するように、振動部11aの表裏に設けてある。ただし、励振用電極13は、励振用電極13の中心点が振動部11aの中心点から所定寸法ずれているいわゆる偏心状態のものでも良い。励振用電極13は、任意好適な金属膜で構成できる。
【0024】
引出電極15は、励振用電極13から第1肉厚部11bを経由し第2肉厚部11cに至っているものである。然も、引出電極15は、第1肉厚部11bの短辺方向の端領域に第1方向D1に沿って設けてある。なお、引出電極15は、振動部11aの表裏に励振用電極13からそれぞれ第2肉厚部11cに伸びているが、励振部11aと第1肉厚部11bとが連属する平坦面となっている面に設けた引出電極は、第2肉厚部11cの側面を経由して第2肉厚部11cの反対面に引き回してある。水晶振動子を構成する際の容器に備わる電極(詳細は後述する)と引出電極15とを導電性接着剤等で接続固定する場合の便宜を図るためである。引出電極15は、任意好適な金属膜で構成でき、典型的には、励振用電極13と一体に形成したものである。
【0025】
2.水晶振動片の実施例
水晶振動片10の実施例として、要部の寸法を下記例示する寸法とした水晶振動片を試作した。
振動部11aの一辺の寸法αが0.4mm、第1肉厚部11bの第2肉厚部11cと接する部分以外の寸法βが0.7mm、第2肉厚部11cの第1肉厚部11bと接する寸法γが0.3mm、第2肉厚部11cの第2方向D2の寸法Lが0.2mm、第1肉厚部11bの第2肉厚部11cと接している部分の第2方向D2に沿う寸法Wが0.4mm(すなわちαと同じ)、傾斜部の寸法δが0.07mm、振動部11aの厚さt1が発振周波数460MHz(基本波)に相当する厚さ、第1肉厚部11bの厚さt2及び第2肉厚部11cの厚さt3それぞれが0.05mm、励振用電極13の直径φが0.1mm、角度θが約35度である水晶振動片を多数個試作した。
なお、上記の各寸法値は、狙い目寸法である。狙い目寸法で検討した場合、β>αについては、β=α・0.7/0.4=1.75・αである。また、γ<βについては、γ=β・0.3/0.7=0.43・βである。また、L=W・0.2/0.4=0.5・Wである。また、δ>t2については、δ=t2・0.07/0.05=1.4・t2である。角度θは、δが0.07mm、t2が0.05mmであるので、0.05/0.07≒0.714≒35.5度である。
この試作した水晶振動片を、以下、試作した水晶振動片10xと記述する。複数個の試作した水晶振動片10xでは、寸法α、β、γ、δ、L各々は所定公差としての1%の範囲の寸法であった。
【0026】
この試作した水晶振動片10xを用いて水晶振動子を作製し、その水晶振動子の発振周波数の経時変化及び駆動電流の経時変化を調査した。これについて、次項の水晶振動子の実施形態の欄で詳述する。
また、この試作した水晶振動片10xの形状寸法に基づいて有限要素法用の解析モデルを作成し、このモデルを、第2肉厚部に相当する部分でセラミックパッケージに、ポリイミド系の導電性接着剤で固定した構造体での、応力分布を解析した。解析は、解析モデルを室温(25℃)から125℃の温度に変化させたときに解析モデルで生じる応力分布を調べることで行った。
図2は、解析した応力分布を示した図である。図2では灰色の濃さが濃い場所ほど、接着部の応力の影響が大きい箇所である。具体的な数値で言うと、第1肉厚部11bの第2肉厚部11cと接する領域の中央Q1でのフォン・ミーゼス応力は4.8E+7(10の7乗)である。第1肉厚部11bの第2肉厚部11cと接する以外の領域の、中央線Pから第2肉厚部11c側の領域の中央Q2での同応力は3.5E+6である。第1肉厚部11bの第2肉厚部11cと接する以外の領域の、中央線Pから振動部11a側の領域の中央Q3での同応力は2.8E+5である。振動部11aの中央Q4での同応力は、2.6E+4である。振動部11aの応力は第1肉厚部11bの第2肉厚部11cと接する領域の応力に比べ、3桁も小さいことが分かる。然も、第1肉厚部11bでは、第1肉厚部11bの長手方向の中央付近P(図2参照)を境にして、振動部11aに向かうに従い応力の影響は小さくなることが分かる。これらのことから、振動部11aの部分の応力は他の部分に比べて小さいことが分かる。また、第1肉厚部11bの第1方向D1の中央当たりで、すなわちβ/2≒α付近で支持部からの応力が小さくなっていると言えるので、この点からもβ>αとすることが好ましいことが分かる。
【0027】
3.水晶振動子の発明の実施形態
次に、この出願の第2発明である水晶振動子の実施形態について説明する。
図3は実施形態の水晶振動子30を説明するための斜視図であって、水晶振動子30に備わる容器31の一部を切り欠いて示した斜視図である。
実施形態の水晶振動子30は、第1発明の水晶振動片10と、水晶振動片10を第2肉厚部11cで電気的に接続固定しかつ収容する容器31と、容器31を密閉する蓋部材33と、を備えている。
容器31は、この実施形態の場合、水晶振動片10を収容する凹部31aと、凹部31aを囲っている壁部31bと、凹部31aの底面の水晶振動片10の第2肉厚部11cと対応する位置に設けた接着パッド31cと、容器31の外部底面に設けた外部接続端子31dと、を備えている。接着パッド31cと外部接続端子31dとは図示しないビア配線等で接続してある。容器31は、例えばセラミックパッケージによって構成できる。
水晶振動片10は、第2肉厚部11cの引出電極15の位置で、容器31の接着パッド31cに、導電性接着剤35によって接続固定してある。そして、蓋部材33で凹部31aの開口を封止することで、実施形態の水晶振動子30を構成してある。封止方式に応じて蓋部材33の構造、形状を選択することが出来る。この実施形態の場合、蓋部材33は平板状の部材で構成してある。
【0028】
上記した試作した水晶振動片10xを、図3を参照して説明した水晶振動子30に組み込む水晶振動片10として用いて、複数個の水晶振動子を試作した。そして、試作した水晶振動子を125℃の温度に設定した恒温槽中に非動作で放置し、適時恒温槽から取り出して、周波数及び駆動電流の経時変化をそれぞれ測定した。
図4(A)は、上記試験での周波数の経時変化を示した図であり、図4(B)は、上記試験での駆動電流の経時変化を示した図である。両図とも横軸は経過時間、縦軸は初期値に対する測定毎のデータの変化率、すなわち周波数変化率(ppm)又は電流変化率(%)である。両図から、試験開始から約2500時間経過した時点において、周波数変化率は±5ppmかつ変化率が減少傾向にあることが分かり、駆動電流変化率も1%程度でありかつ飽和傾向にあることが分かる。従って、試作した水晶振動子は、実用的な特性を示すことが分かる。
なお、上記の形態では、容器31として、凹部を有した容器を用い、蓋部材33として平板状のものを用いたが、容器として平板状のものを用い、蓋部材として水晶振動片を収容する凹部を有したキャップ状の蓋部材を用いても良い。
【0029】
4.水晶発振器の発明の実施形態
次に、この出願の第3発明である水晶発振器の実施形態について説明する。
図5は実施形態の水晶発振器40を説明するための斜視図であって、水晶発振器40に備わる容器43の一部を切り欠いて示した斜視図である。
実施形態の水晶発振器40は、第1発明の水晶振動片10と、水晶振動片用の発振回路41と、水晶振動片10を第2肉厚部11cで電気的に接続かつ固定していて、かつ、水晶振動片10及び発振回路41を収容する容器43と、容器43を密閉する蓋部材33と、を備えている。
容器43は、この実施形態の場合、水晶振動片10を収容している凹部31aの底面に発振回路41を収容する第2の凹部43aを備えている。それ以外の構造は、上記した容器31と同様の構造としてある。
発振回路41は任意好適なもので良く、発振機能及び温度補償機能を備えた集積回路等で構成してもよい。
なお、上記の例では水晶振動片10と、発振回路を含む集積回路とを1つの容器内に実装した、いわゆる一部屋構造の水晶発振器の例を示した。しかし、図示は省略するが、水晶振動片を収容する水晶室と発振回路用半導体集積回路を収容するIC室とを積層したいわゆるH型構造の水晶発振器に対しても本発明は適用できる。
【0030】
5.水晶振動素子形成用の中間体ウエハ
次に、この出願の第4発明である水晶振動素子形成用の中間体ウエハの実施形態について説明する。
図6は実施形態の水晶振動素子形成用の中間体ウエハ50(以下、中間体ウエハ50と略記する)を説明するための上面図及びその一部の拡大図である。なお、図6では中間体ウエハ50としての水晶ウエハを、水晶の結晶軸X軸、Y′軸、Z′との関係と共に図示してある。
実施形態の中間体ウエハ50は、第1発明の水晶振動片10をマトリクス状に多数備えた水晶ウエハ50で構成してある。中間体ウエハ50の平面形状は図示例では円形であるが四角形状でも良い。中間体ウエハ50では、それぞれの水晶振動片10がフレーム部51に折り取り部53を介して接続してある。それぞれの水晶振動片10は、中間体ウエハ50から、折り取り部53の箇所で折り取られて、個片化されて水晶振動片10となり、さらに水晶振動子や水晶発振器の各容器に実装することで使用できる。
【0031】
6.水晶振動片の変形例
第1発明の水晶振動片は、例えば以下に説明するように変形しても良い。図7はその説明図であり、図7(A)~(D)各々は各変形例の水晶振動子の上面図、図7(E)は変形例の水晶振動子の側面図である。
変形例1の水晶振動片71は、図7(A)に示すように、第1肉厚部11bの長辺方向の適所に、短辺方向に沿って左右から中央に向かう切欠きを設けその間をくびれ部71aとしたものである。図示例ではくびれ部71aを1つとしているが、くびれ部71aを複数個設ける場合があっても良い。
変形例2の水晶振動片72は、図7(B)に示すように、第1肉厚部11bの長辺方向の適所に、貫通孔72aを設けたものである。図示例では貫通孔72aを1つとしているが、貫通孔72aを複数個設ける場合があっても良い。
変形例3の水晶振動片73は、図7(C)に示すように、第2肉厚部11c各々に、第1肉厚部の長辺方向に沿って上下から中央に向かう切欠きを設けその間をくびれ部73aとしたものである。くびれ部73aの個数は複数個であっても良い。
変形例4の水晶振動片74は、図7(D)に示すように、第2肉厚部11cの適所に、貫通孔74aを設けたものである。貫通孔74aの個数は複数個であっても良い。
変形例1から変形例4いずれのものも、振動部11aと、第2肉厚部11cの外部部材の接続点との間に、くびれ部や貫通孔を設けてあるので、第2肉厚部11cの外部部材の接続点との相互干渉を軽減し易いと考えられる。
【0032】
変形例5の水晶振動片75は、第1肉厚部11bの振動部側に厚みt2の方向の両側から傾斜部75a、75b又は図示しないが段差部を設け、振動部11aが第1肉厚部11bの厚みt2の途中で第1肉厚部11bに接続した構造例である。振動部11aの第1肉厚部11bとの接続位置は、厚みt2に沿う方向の真ん中でも良いし、一方の側によった位置でも良い。変形例5の場合、振動部11aは、第1肉厚部に対し、厚みt2の方向の両側で傾斜部等を有した状態で接続するので、振動部の第一肉厚部からの縁切りが行われ易いと考えられる。
【符号の説明】
【0033】
10:実施形態の水晶振動片 11:素子部
11a:振動部 11b:第1肉厚部
11ba:傾斜部 11c:第2肉厚部
13:励振用電極 15:引出電極
D1:第1方向 D2:第2方向
30:実施形態の水晶振動子 31:外部部材(容器)
33:蓋部材 35:導電性接着剤
40:実施形態の水晶発振器 41:発振回路(集積回路)
43:容器13
50:水晶振動片形成用の中間体ウエハ 51:フレーム
53:折り取り部
71~75:変形例1~5の水晶振動片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7