(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127358
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】運搬車両
(51)【国際特許分類】
B60L 7/14 20060101AFI20240912BHJP
B60L 7/24 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B60L7/14
B60L7/24 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036470
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北口 篤
(72)【発明者】
【氏名】石原 和典
(72)【発明者】
【氏名】高田 知範
(72)【発明者】
【氏名】門田 充弘
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA12
5H125AB01
5H125AC08
5H125AC11
5H125BA00
5H125CA01
5H125CB03
5H125CB07
5H125EE27
(57)【要約】
【課題】蓄電装置及びグリッドボックスで回生電力を吸収する運搬車両において、エネルギー損失を抑制する技術を提供する。
【解決手段】運搬車両は、タイヤの回転によって走行する車体と、電力が供給されてタイヤを回転させる駆動力を発生させ、タイヤを制動して回生電力を発電する走行モータと、タイヤの制動を指示するブレーキ操作を受け付けるブレーキ操作装置と、走行モータが発電した回生電力の少なくとも一部を蓄電する蓄電装置と、蓄電装置に蓄電されない回生電力の残りを熱に変換して消費するグリッドボックスと、ブレーキ操作装置のブレーキ操作量が閾値操作量以上の場合に、ブレーキ操作量に対応する制動力を走行モータに発生させ、ブレーキ操作量が閾値操作量未満の場合に、走行モータが発電する回生電力の全てを蓄電装置に蓄電可能になるまで、走行モータの制動力を減じるコントローラとを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの回転によって走行する車体と、
電力が供給されて前記タイヤを回転させる駆動力を発生させ、前記タイヤを制動して回生電力を発電する走行モータと、
前記タイヤの制動を指示するブレーキ操作を受け付けるブレーキ操作装置と、
前記走行モータが発電した回生電力の少なくとも一部を蓄電する蓄電装置と、
前記蓄電装置に蓄電されない回生電力の残りを熱に変換して消費するグリッドボックスと、
前記走行モータ及び前記蓄電装置を制御するコントローラとを備える運搬車両において、
前記コントローラは、
前記ブレーキ操作装置のブレーキ操作量が閾値操作量以上の場合に、前記ブレーキ操作量に対応する制動力を前記走行モータに発生させ、
前記ブレーキ操作量が前記閾値操作量未満の場合に、前記走行モータが発電する回生電力の全てを前記蓄電装置に蓄電可能になるまで、前記走行モータの制動力を減じることを特徴とする運搬車両。
【請求項2】
請求項1に記載の運搬車両において、
前記コントローラは、前記ブレーキ操作量が前記閾値操作量未満の場合において、前記走行モータの制動力を第1値だけ減少させる漸減処理を、前記グリッドボックスが回生電力を消費しなくなるまで繰り返すことを特徴とする運搬車両。
【請求項3】
請求項2に記載の運搬車両において、
前記コントローラは、繰り返し実行する前記漸減処理の間に、所定の待機時間を待機することを特徴とする運搬車両。
【請求項4】
請求項2に記載の運搬車両において、
前記コントローラは、前記ブレーキ操作量が前記閾値操作量未満の場合において、前記蓄電装置の充電能力が前記走行モータが発電する回生電力を上回った場合に、前記走行モータの制動力を、前記第1値より小さい第2値だけ増加させる漸増処理を実行することを特徴とする運搬車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置を備える運搬車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車体の制動時に走行モータが発電した回生電力を蓄電装置に充電し、力行時に蓄電装置に蓄電した電力によって走行モータを回転させるダンプトラックが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ここで、蓄電装置が蓄電可能な電力には限りがあるので、走行モータが発電する回生電力が大きい場合は、回生電力の全てを蓄電装置に蓄電することができない。そこで、ダンプトラックは、蓄電装置に蓄電されない回生電力の残りを熱に変換して消費するグリッドボックスを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記構成のダンプトラックにおいて、走行モータによる制動力が必要以上に大きくなると、車体の運動エネルギーが無駄になると共に、蓄電装置に蓄電されない回生電力がグリッドボックスで消費されることによって、二重にエネルギーを損失することになる。
【0006】
本発明は、上記した実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、蓄電装置及びグリッドボックスで回生電力を吸収する運搬車両において、エネルギー損失を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、タイヤの回転によって走行する車体と、電力が供給されて前記タイヤを回転させる駆動力を発生させ、前記タイヤを制動して回生電力を発電する走行モータと、前記タイヤの制動を指示するブレーキ操作を受け付けるブレーキ操作装置と、前記走行モータが発電した回生電力の少なくとも一部を蓄電する蓄電装置と、前記蓄電装置に蓄電されない回生電力の残りを熱に変換して消費するグリッドボックスと、前記走行モータ及び前記蓄電装置を制御するコントローラとを備える運搬車両において、前記コントローラは、前記ブレーキ操作装置のブレーキ操作量が閾値操作量以上の場合に、前記ブレーキ操作量に対応する制動力を前記走行モータに発生させ、前記ブレーキ操作量が前記閾値操作量未満の場合に、前記走行モータが発電する回生電力の全てを前記蓄電装置に蓄電可能になるまで、前記走行モータの制動力を減じることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蓄電装置及びグリッドボックスで回生電力を吸収する運搬車両において、エネルギー損失を抑制することができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るダンプトラックの側面図である。
【
図2】ダンプトラックに搭載される駆動回路の回路図である。
【
図3】ダンプトラックのハードウェア構成図である。
【
図6】
図6は、制動力調整処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るダンプトラックの実施形態について、図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係るダンプトラック1の側面図である。なお、本明細書中の前後左右は、特に断らない限り、ダンプトラック1に搭乗して操作するオペレータの視点を基準としている。また、運搬車両の具体例はダンプトラック1に限定されず、ホイールローダなどでもよい。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係るダンプトラック1は、車体フレーム2(車体)と、車体フレーム2の前部の左右両端に回転可能に支持された一対の前タイヤ3L、3Rと、車体フレーム2の後部の左右両端に回転可能に支持された一対の後タイヤ4L、4Rと、車体フレーム2上に起伏可能に支持された荷台5と、ダンプトラック1を操作するオペレータが搭乗するキャブ6とを主に備える。
【0012】
一対の前タイヤ3L、3Rは、オペレータによるステアリング操作によって舵角が変わる操舵輪である。一方、一対の後タイヤ4L、4Rは、走行モータ15L、15R(
図2参照)の駆動力が伝達されて回転する駆動輪である。なお、ダンプトラック1は、一対の後タイヤ4L、4Rそれぞれに独立して駆動力を伝達するために、一対の走行モータ15L、15Rを備える。
【0013】
荷台5は、ホイストシリンダ7L、7Rの伸縮によって、車体フレーム2の後部のヒンジピン8を中心として、上下方向に起伏する。ホイストシリンダ7L、7Rは、一端が車体フレーム2に接続され、他端が荷台5に接続され、油圧ポンプ(図示省略)から作動油の供給を受けて伸縮する。そして、ホイストシリンダ7L、7Rが伸長すると荷台5が起立し、ホイストシリンダ7L、7Rが収縮すると荷台5が倒伏する。
【0014】
キャブ6は、車体フレーム2の前端のデッキ9上の左端に配置されている。キャブ6は、ダンプトラック1を操作するオペレータが搭乗する運転室を形成している。そして、キャブ6の内部には、ダンプトラック1を動作させるための操作装置が配置されている。キャブ6に搭乗したオペレータが操作装置を操作することによって、ダンプトラック1が走行(加速、制動、旋回)し、荷台5が起伏する。
【0015】
操作装置は、ユーザの操作に応じた操作信号を後述するコントローラ30(
図3参照)に出力する。操作装置は、例えば、
図3に示すアクセルペダル6a及びブレーキペダル6b(ブレーキ操作装置)の他、図示を省略したステアリング、走行レバー、及びホイストレバー等を含む。
【0016】
アクセルペダル6aは、ダンプトラック1の加速を指示する操作装置である。ブレーキペダル6bは、ダンプトラック1(後タイヤ4L、4R)の制動を指示する操作装置である。ステアリングは、ダンプトラック1の旋回方向を指示する操作装置である。走行レバーは、アクセルペダル6aが踏み込まれたときのダンプトラック1の進行方向(前進位置、後退位置、ニュートラル位置)を指示する操作装置である。ホイストレバーは、荷台5の起伏(起立位置、倒伏位置)を指示する操作装置である。
【0017】
また、デッキ9の下方には、ダンプトラック1を駆動する駆動回路10が配置されている。さらに、デッキ9上には、グリッドボックス17(
図2参照)と、グリッドボックス17に冷却風を供給する送風機(図示省略)とが設置されている。
【0018】
図2は、ダンプトラック1に搭載される駆動回路10の回路図である。駆動回路10は、例えば、エンジン11と、主発電機12と、AC/DCコンバータ13と、インバータ14L、14Rと、走行モータ15L、15Rと、チョッパ16と、グリッドボックス17と、DC/DCコンバータ18と、蓄電装置19とを主に備える。
【0019】
エンジン11は、燃料を燃焼させることによって、ダンプトラック1を駆動するための駆動力を発生させる。主発電機12は、エンジン11の出力軸に接続されている。主発電機12は、エンジン11の駆動力が伝達されて、三相交流電力を発電する。AC/DCコンバータ13は、主発電機12から出力された三相交流電力を直流電力に変換して、インバータ14L、14Rに出力する。
【0020】
インバータ14L、14Rは、AC/DCコンバータ13から出力された直流電力またはDC/DCコンバータ18を通じて蓄電装置19から放電された直流電力を、三相交流電力に変換して、走行モータ15L、15Rに出力する。走行モータ15L、15Rは、インバータ14L、14Rから三相交流電力の供給を受けて回転する。そして、走行モータ15L、15Rの回転駆動力が減速機(図示省略)を通じて後タイヤ4L、4Rに伝達されることによって、ダンプトラック1が走行(加速)する。
【0021】
一方、ダンプトラック1を制動する際、走行モータ15L、15Rは、電気ブレーキとして作動する。そして、電気ブレーキとして作動する走行モータ15L、15Rは、回生電力を発電して、インバータ14L、14Rに出力する。走行モータ15L、15Rによる後タイヤ4L、4Rの制動力Tが大きくなるほど、走行モータ15L、15Rが発電する回生電力も大きくなる。インバータ14L、14Rは、走行モータ15L、15Rから出力された三相交流の回生電力を直流電力に変換して、チョッパ16及びDC/DCコンバータ18に出力する。
【0022】
チョッパ16は、ダンプトラック1の回生時にインバータ14L、14Rから出力された回生電力を、グリッドボックス17に供給する。より詳細には、チョッパ16は、蓄電装置19に蓄電されない回生電力の残りを、グリッドボックス17に供給する。グリッドボックス17は、走行モータ15L、15Rで発電された回生電力を熱に変換して消費する抵抗器である。
【0023】
DC/DCコンバータ18は、コントローラ30の制御に従って、蓄電装置19の充放電を制御する。より詳細には、DC/DCコンバータ18は、ダンプトラック1の力行時(例えば、加速時)に、蓄電装置19に蓄電された電力をインバータ14L、14Rに出力(放電)する。一方、DC/DCコンバータ18は、ダンプトラック1の回生時(例えば、制動時)に、インバータ14L、14Rから出力された回生電力の少なくとも一部を、蓄電装置19に充電する。
【0024】
図3は、ダンプトラック1のハードウェア構成図である。ダンプトラック1は、コントローラ30を備える。コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)31と、メモリ32とを備える。メモリ32は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、またはこれらの組み合わせで構成される。コントローラ30は、ROMまたはHDDに格納されたプログラムコードをCPU31が読み出して実行することによって、後述する処理を実現する。RAMは、CPU31がプログラムを実行する際のワークエリアとして用いられる。
【0025】
但し、コントローラ30の具体的な構成はこれに限定されず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアによって実現されてもよい。
【0026】
また、ダンプトラック1は、速度センサ33と、積載量センサ34と、蓄電量センサ35とを備える。速度センサ33は、ダンプトラック1の走行速度Sを検知して、検知した走行速度Sを示す速度信号をコントローラ30に出力する。積載量センサ34は、荷台5に積載された積荷の重量Mを検知して、検知した重量Mを示す重量信号をコントローラ30に出力する。積載量センサ34は、例えば、前タイヤ3L、3Rを支持するサスペンションの圧力に基づいて、荷台5に積載された積荷の重量Mを検知すればよい。
【0027】
蓄電量センサ35は、蓄電装置19に蓄電された電力の量(SOC:State Of Charge)を検知して、検知した蓄電量Qを示す蓄電量信号をコントローラ30に出力する。蓄電量Qは、例えば、空充電を0%、満充電を100%とした百分率で表すことができる。蓄電量センサ35は、例えば、蓄電装置19の充放電を制御する充放電コントローラで実現されてもよい。
【0028】
コントローラ30は、操作装置から出力される操作信号、速度センサ33から出力される速度信号、積載量センサ34から出力される重量信号、及び蓄電量センサ35から出力される蓄電量信号に基づいて、エンジン11、主発電機12、AC/DCコンバータ13、インバータ14L、14R、チョッパ16、及びDC/DCコンバータ18を制御する。
【0029】
コントローラ30は、アクセルペダル6aが踏み込まれたことに応じて、エンジン11の回転数を上昇させ、主発電機12または蓄電装置19からインバータ14L、14Rに電力を出力し、インバータ14L、14Rを制御して走行モータ15L、15Rの回転数を上昇させる。アクセルペダル6aは、踏込量(アクセル操作量)を示す操作信号を出力する。そして、コントローラ30は、操作信号で示される踏込量が大きいほど、走行モータ15L、15Rの回転数を高くする。
【0030】
また、コントローラ30は、ブレーキペダル6bが踏み込まれたことに応じて、エンジン11の回転数を下降させると共に、走行モータ15L、15Rを電気ブレーキとして作動させる。また、コントローラ30は、ダンプトラック1の制動時に、走行モータ15L、15Rで発電された回生電力を、DC/DCコンバータ18を通じて蓄電装置19に充電し、蓄電装置19の充電能力を超える回生電力をチョッパ16を通じてグリッドボックス17に消費させる。ブレーキペダル6bは、踏込量B(ブレーキ操作量)を示す操作信号を出力する。そして、コントローラ30は、操作信号で示される踏込量Bが大きいほど、後タイヤ4R、4Lの制動力T(回生電力)を大きくする。
【0031】
次に、
図4~
図6を参照して、コントローラ30の処理を説明する。
図4は、回生制御処理のフローチャートである。コントローラ30は、エンジン11が駆動している間(より詳細には、ダンプトラック1が走行している間)に、
図4に示す回生制御処理を所定の時間間隔で繰り返し実行する。
【0032】
まず、コントローラ30は、ブレーキペダル6bから出力される操作信号に基づいて、ブレーキペダル6bが踏み込まれているか否かを判定する(S11)。そして、コントローラ30は、ブレーキペダル6bが踏み込まれていると判定した場合に(S11:Yes)、インバータ14L、14Rを制御することによって、ブレーキペダル6bの踏込量Bに応じた制動力Tを走行モータ15L、15Rに発生させる(S12)。また、コントローラ30は、チョッパ16をONにして、グリッドボックス17への回生電力の供給を許可する(S12)。これにより、ダンプトラック1が減速されると共に、後タイヤ4L、4Rの制動力T(換言すれば、ブレーキペダル6bの踏込量B)に対応する回生電力を走行モータ15L、15Rが発電する。
【0033】
次に、コントローラ30は、蓄電量センサ35によって検知された蓄電装置19の蓄電量Qと、予め定められた上限閾値Eとを比較する(S13)。上限閾値Eは、蓄電装置19が満充電であると評価できる値(例えば、90%)に設定され、メモリ32に記憶されている。そして、コントローラ30は、蓄電量Qが上限閾値E未満である場合に(S13:Yes)、DC/DCコンバータ18を作動させる(S14)。これにより、蓄電装置19の充電能力の範囲内において、走行モータ15L、15Rが発電した回生電力の少なくとも一部が蓄電装置19に充電される。一方、蓄電装置19に充電されない回生電力は、グリッドボックス17で熱に変換されて消費される。
【0034】
次に、コントローラ30は、判定処理を実行する(S15)。判定処理は、後タイヤ4L、4Rの制動力T(換言すれば、走行モータ15L、15Rが発電する回生電力)を制限するか否かを判定する処理である。コントローラ30は、判定処理において、後タイヤ4L、4Rの制動力Tを制限すると判定した場合に制限フラグに“ON”を設定し、後タイヤ4L、4Rの制動力Tを制限しないと判定した場合に制限フラグに“OFF”を設定する。判定処理の詳細は、
図5を参照して後述する。
【0035】
次に、コントローラ30は、判定処理によって制限フラグに設定された値を判定する(S16)。そして、コントローラ30は、制限フラグに“ON”が設定されていると判定した場合に(S16:Yes)、制動力調整処理を実行する(S17)。制動力調整処理は、走行モータ15L、15Rが発電する回生電力の全てが蓄電装置19に蓄電可能になる(換言すれば、回生電力がグリッドボックス17で消費されなくなる)ように、走行モータ15L、15Rによる後タイヤ4L、4Rの制動力を調整する処理である。制動力調整処理の詳細は、
図6を参照して後述する。
【0036】
制動力調整処理によって制動力Tが調整(主に、制限)されることによって、走行モータ15L、15Rが発電する回生電力も調整される。そして、ステップS17の処理を繰り返し実行することによって、走行モータ15L、15Rが発電した回生電力は、全て蓄電装置19に充電され、グリッドボックス17で消費されなくなる。
【0037】
次に、コントローラ30は、ブレーキペダル6bの踏込量Bが変化したか否か(S18)、蓄電装置19の蓄電量Qが上限閾値E未満か否か(S19)を判定する。そして、コントローラ30は、ブレーキペダル6bの踏込量Bが変化せず、且つ蓄電量Qが上限閾値E未満の間(S18:No&S19:Yes)、ステップS17の処理を繰り返し実行する。
【0038】
また、コントローラ30は、ステップS17の処理によって蓄電量Qが上限閾値E以上になった場合に(S19:No)、DC/DCコンバータ18の作動を停止して(S20)、回生制御処理を終了する。これにより、走行モータ15L、15Rが発電した回生電力の全ては、グリッドボックス17で熱に変換されて消費される。
【0039】
一方、コントローラ30は、ステップS17の処理の実行中にブレーキペダル6bの踏込量Bが変化したと判定した場合に(S18:Yes)、回生制御処理を終了する。そして、コントローラ30は、次に実行する回生制御処理において、変化した後のブレーキペダル6bの踏込量Bに応じた制動力Tを発生させる(S11:Yes→S12)。すなわち、コントローラ30は、制動力T(回生電力)の制限中にブレーキペダル6bの踏込量が変化した場合に、制動力T(回生電力)の制限を解除する。
【0040】
また、コントローラ30は、制限フラグに“OFF”が設定されていると判定した場合に(S16:No)、ステップS17~S20の処理を実行せずに、回生制御処理を終了する。すなわち、コントローラ30は、制限フラグに“OFF”が設定されている場合に、制動力T(回生電力)を制限せずに、ブレーキペダル6bの踏込量に対応する制動力T(回生電力)を発生させる。
【0041】
また、コントローラ30は、ステップS12の処理によって蓄電量Qが上限閾値E以上になった場合に(S13:No)、DC/DCコンバータ18の作動を停止して(S22)、回生制御処理を終了する。これにより、走行モータ15L、15Rが発電した回生電力の全ては、グリッドボックス17で熱に変換されて消費される。
【0042】
さらに、コントローラ30は、ブレーキペダル6bの踏み込みが解除(すなわち、操作信号の出力が停止)された場合に(S11:No)、インバータ14L、14Rを制御することによって、走行モータ15L、15Rによる後タイヤ4L、4Rの制動を解除する(S21)。また、コントローラ30は、チョッパ16をOFFにして、グリッドボックス17への回生電力の供給を規制する(S21)。さらに、コントローラ30は、DC/DCコンバータ18の作動を停止して(S22)、回生制御処理を終了する。
【0043】
次に、
図5を参照して、判定処理の詳細を説明する。本実施形態に係る判定処理は、積載量センサ34によって検知される積荷の重量M、速度センサ33によって検知される走行速度S、及びブレーキペダル6bの踏込量Bに基づいて、制限フラグの設定値を決定する処理である。
図5は、判定処理のフローチャートである。
【0044】
まず、コントローラ30は、積載量センサ34によって検知される積荷の重量Mと、予め定められた閾値重量Mth1、Mth2、Mth3とを比較する(S31~S33)。なお、重量閾値は、Mth1<Mth2<Mth3に設定される。
【0045】
次に、コントローラ30は、重量Mが閾値重量Mth1未満である場合(S31:Yes)、速度センサ33によって検知される走行速度Sと、予め定められた閾値速度Sth1とを比較し(S34)、ブレーキペダル6bの踏込量Bと、予め定められた閾値踏込量Bth1とを比較する(S37)。そして、コントローラ30は、走行速度Sが閾値速度Sth1未満であり、且つ踏込量Bが閾値踏込量Bth1未満である場合に(S34:Yes&S37:Yes)、制限フラグに“ON”を設定する(S40)。一方、コントローラ30は、走行速度Sが閾値速度Sth1以上であるか、踏込量Bが閾値踏込量Bth1以上である場合に(S34:No/S37:No)、制限フラグに“OFF”を設定する(S41)。
【0046】
また、コントローラ30は、重量Mが閾値重量Mth1以上で且つ閾値重量Mth2未満である場合(S31:No&S32:Yes)、速度センサ33によって検知される走行速度Sと、予め定められた閾値速度Sth2とを比較し(S35)、ブレーキペダル6bの踏込量Bと、予め定められた閾値踏込量Bth2とを比較する(S38)。そして、コントローラ30は、走行速度Sが閾値速度Sth2未満であり、且つ踏込量Bが閾値踏込量Bth2未満である場合に(S35:Yes&S38:Yes)、制限フラグに“ON”を設定する(S42)。一方、コントローラ30は、走行速度Sが閾値速度Sth2以上であるか、踏込量Bが閾値踏込量Bth2以上である場合に(S35:No/S38:No)、制限フラグに“OFF”を設定する(S43)。
【0047】
また、コントローラ30は、重量Mが閾値重量Mth2以上で且つ閾値重量Mth3未満である場合(S32:No&S33:Yes)、速度センサ33によって検知される走行速度Sと、予め定められた閾値速度Sth3とを比較し(S36)、ブレーキペダル6bの踏込量Bと、予め定められた閾値踏込量Bth3とを比較する(S39)。そして、コントローラ30は、走行速度Sが閾値速度Sth3未満であり、且つ踏込量Bが閾値踏込量Bth3未満である場合に(S36:Yes&S39:Yes)、制限フラグに“ON”を設定する(S44)。一方、コントローラ30は、走行速度Sが閾値速度Sth3以上であるか、踏込量Bが閾値踏込量Bth3以上である場合に(S36:No/S39:No)、制限フラグに“OFF”を設定する(S45)。
【0048】
さらに、コントローラ30は、重量Mが閾値重量Mth3以上である場合(S33:No)、走行速度S及び踏込量Bの値に拘わらず、制限フラグに“OFF”を設定する(S45)。
【0049】
ここで、閾値速度は、Sth1>Sth2>Sth3に設定される。すなわち、コントローラ30は、積載量センサ34によって検知される積荷の重量Mが大きいほど、閾値速度を小さくする。換言すれば、コントローラ30は、積載量センサ34によって検知される積荷の重量Mが小さいほど、閾値速度を大きくする。
【0050】
また、閾値踏込量(閾値操作量)は、Bth1<Bth2<Bth3に設定される。すなわち、コントローラ30は、閾値速度が小さいほど、閾値踏込量を大きくする。換言すれば、コントローラ30は、閾値速度が大きいほど、閾値踏込量を小さくする。
【0051】
なお、
図5の例では、閾値重量、閾値速度、及び閾値踏込量を3段階としたが、各閾値の数はこれに限定されない。また、ステップS31~S33及びステップS34~S36の一方または両方は、省略可能である。すなわち、コントローラ30は、少なくともブレーキペダル6bの踏込量Bに基づいて、制限フラグの設定値を決定すればよい。
【0052】
次に、
図6を参照して、制動力調整処理の詳細を説明する。本実施形態に係る制動力調整処理は、回生電力の全てを蓄電装置19に蓄電可能な範囲で、できるだけ制動力Tを大きくする処理である。
図6は、制動力調整処理のフローチャートである。
【0053】
まず、コントローラ30は、チョッパ16が作動しているか否かを判定する(S51)。ステップS51の判定は、グリッドボックス17が回生電力を消費しているか否か、蓄電装置19に蓄電されない回生電力があるか否かと言い換えることもできる。
【0054】
そして、コントローラ30は、チョッパ16が作動している(換言すれば、グリッドボックス17が回生電力を消費している、または蓄電装置19に蓄電されない回生電力がある)と判定した場合に(S51:Yes)、現在の制動力Tを第1値αだけ減じる(S52)。これにより、走行モータ15L、15Rが発電する回生電力も所定量だけ減少する。ステップS52は、漸減処理の一例である。
【0055】
一方、コントローラ30は、チョッパ16が作動していない(換言すれば、グリッドボックス17が回生電力を消費していない、または蓄電装置19に蓄電されない回生電力がない)と判定した場合に(S51:No)、蓄電装置19の充電能力が回生電力を上回っているか否か(すなわち、充電余力があるか否か)を判定する(S53)。
【0056】
蓄電装置19の充電能力が回生電力を上回っているとは、蓄電装置19が現在の回生電力の全てを充電したうえで、さらに電力を充電できるか否かを示す。蓄電装置19の充電能力とは、例えば、蓄電装置19の充電スピード(例えば、Cレート)と言い換えることができる。すなわち、充電能力は、蓄電装置19のスペックである。
【0057】
そして、コントローラ30は、蓄電装置19に充電余力がある(すなわち、蓄電装置19の蓄電能力が回生電力を上回る)と判定した場合に(S53:Yes)、現在の制動力Tを第2値βだけ増加させる(S54)。第2値βは、第1値αより小さい値である。これにより、走行モータ15L、15Rが発電する回生電力も所定量だけ増加する。ステップS54は、漸増処理の一例である。また、コントローラ30は、蓄電装置19に充電余力がないと判定した場合に(S53:No)、ステップS54の処理を実行せずに、ステップS55の処理を実行する。
【0058】
次に、コントローラ30は、ステップS51~S54の処理を実行した後に、待機時間が経過するまで(S55:No)、以降の処理の実行を待機する。そして、コントローラ30は、待機時間が経過した場合に(S55:Yes)、制動力調整処理を終了して、
図4のステップS18の処理を実行する。
【0059】
そして、コントローラ30は、ブレーキペダル6bの踏込量Bが変化するか(S18:Yes)、または蓄電量Qが上限閾値E以上になるまで(S19:No)、漸減処理(S52)及び漸増処理(S54)の一方または両方を繰り返し実行する。さらに、コントローラ30は、繰り返し実行する漸減処理(S52)及び漸増処理(S54)の間に、所定の待機時間(Delay)だけ待機する(S55)。なお、Delayを実行する位置は、ステップS55に限定されない。
【0060】
上記の実施形態によれば、例えば以下の作用効果を奏する。
【0061】
上記の実施形態によれば、回生電力の全てを蓄電装置19が蓄電可能になるまで(S51:No)、走行モータ15L、15Rの制動力Tを減じる。これにより、ダンプトラック1の運動エネルギーの減少(エネルギー損失の一例)と、グリッドボックス17での電気エネルギーの消費(エネルギー損失の他の例)との両方を抑制するこができる。
【0062】
また、上記の実施形態によれば、回生電力の全てを蓄電装置19が蓄電可能になるまで(S51:No)、走行モータ15L、15Rの制動力Tを漸減することによって(S52)、回生電力の全てを蓄電装置19に蓄電可能な範囲で、できるだけ制動力Tを大きくすることができる。その結果、エネルギー損失を抑制したうえで、オペレータによるブレーキペダル6bの踏込量に近い制動力Tを発揮できる。
【0063】
また、上記の実施形態によれば、蓄電装置19の充電能力が回生電力を上回った場合に、走行モータ15L、15Rの制動力を漸増することによって(S54)、走行モータ15L、15Rが発電する回生電力を、蓄電装置19の充電能力の上限にさらに近づけることができる。また、第2値βを第1値αより小さくすることによって、漸減処理(S52)及び漸増処理(S54)が交互に繰り返されるのを防止できる。但し、ステップS53~S54の処理は省略可能である。
【0064】
また、上記の実施形態によれば、繰り返し実行する漸減処理(S52)及び漸増処理(S54)の間にDelay(S55)を挟むことによって、走行モータ15L、15Rの制動力Tの変動を緩やかにすることができる。これにより、ブレーキペダル6bを踏むオペレータの違和感を少なくすることができる。但し、ステップS55の処理は省略可能である。
【0065】
また、上記の実施形態によれば、走行速度Sが閾値速度未満で且つ踏込量Bが閾値踏込量未満である場合に、走行モータ15L、15Rの制動力T(回生電力)を制限するので、オペレータが高速走行中のダンプトラック1を制動しようとする場合に、制動力Tが制限されるのを防止することができる。
【0066】
また、上記の実施形態によれば、重量Mが大きいほど閾値速度を小さくすることによって、荷台5に積荷を満載したダンプトラック1の制動力Tが制限されるのを防止することができる。
【0067】
さらに、上記の実施形態によれば、閾値速度が小さいほど閾値踏込量を大きくすることによって、走行モータ15L、15Rが発電する回生電力の削減と、走行モータ15L、15Rによる適切な制動力Tの維持とを両立することができる。
【0068】
なお、本発明を適用するダンプトラック1の駆動回路10は、
図2の例に限定されない。
図7は、変形例に係る駆動回路10Aの回路図である。
図7に示すように、変形例に係る駆動回路10Aは、エンジン11、主発電機12、及びAC/DCコンバータ13が省略されている点が駆動回路10と相違し、その他の点が駆動回路10と共通する。すなわち、本発明は、蓄電装置19に蓄電された電力のみで走行するダンプトラック1にも適用することができる。
【0069】
上述した実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 ダンプトラック
2 車体フレーム
3L,3R 前タイヤ
4L,4R 後タイヤ
5 荷台
6 キャブ
6a アクセルペダル
6b ブレーキペダル
7L,7R ホイストシリンダ
8 ヒンジピン
9 デッキ
10,10A 駆動回路
11 エンジン
12 主発電機
13 AC/DCコンバータ
14L,14R インバータ
15L,15R 走行モータ
16 チョッパ
17 グリッドボックス
18 DC/DCコンバータ
19 蓄電装置
30 コントローラ
31 CPU
32 メモリ
33 速度センサ
34 積載量センサ
35 蓄電量センサ