(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127362
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】正着性評価方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20240912BHJP
E01C 11/22 20060101ALI20240912BHJP
E01C 1/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
G08G1/00 J
E01C11/22 B
E01C1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036480
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 悦郎
【テーマコード(参考)】
2D051
5H181
【Fターム(参考)】
2D051AA07
2D051AB03
2D051AC05
2D051AH02
2D051DA01
2D051DA16
2D051DA18
5H181AA01
5H181FF10
5H181FF27
(57)【要約】
【課題】操作性の観点から正着性の良否を適切に評価することができる技術を提供する。
【解決手段】 正着性評価方法は、車道2と歩道4との境界に設けられる縁石1であって幅寄せする車両SのタイヤTが接触する接触壁面部8を有する縁石1の正着性を評価する方法である。この方法は、前側のタイヤT1が接触壁面部8に接触するように車両Sを縁石1に向けて所定の幅寄せモードで走行させる走行工程と、走行工程における、タイヤT1から車両Sのハンドルへ伝わる反力を示す計測値を経時的に取得し、複数の計測値を含む計測データを取得する計測工程と、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車道と歩道との境界に設けられる縁石であって幅寄せする車両のタイヤが接触する接触壁面部を有する前記縁石の正着性評価方法であって、
前側の前記タイヤが前記接触壁面部に接触するように前記車両を前記縁石に向けて所定の幅寄せモードで走行させる走行工程と、
前記走行工程における、前記タイヤから前記車両のハンドルへ伝わる反力を示す計測値を経時的に取得し、複数の前記計測値を含む計測データを取得する計測工程と、を含む
正着性評価方法。
【請求項2】
前記走行工程において、前記所定の幅寄せモードは、前記縁石に対する進入角度が8度、走行速度が5km/時、操舵角が0度であり、前記タイヤが前記縁石に接触する前に前記車両のドライバが、前記ハンドルから手を放すことを含む
請求項1に記載の正着性評価方法。
【請求項3】
前記タイヤが前記縁石に接触した接触タイミングを取得し、前記計測データに含まれる複数の前記計測値のうち前記接触タイミングに対応する計測値を特定する工程をさらに含む
請求項1に記載の正着性評価方法。
【請求項4】
前記計測データに基づいて前記縁石の正着性を評価するための第1評価値を取得する工程と、
前記第1評価値と、前記タイヤとは異なる他のタイヤによる前記計測データに基づく第2評価値と、を比較する工程と、をさらに含む
請求項1に記載の正着性評価方法。
【請求項5】
前記計測データに含まれる複数の前記計測値のうちの最大値である最大計測値を取得する最大計測値取得工程と、をさらに含む
請求項1に記載の正着性評価方法。
【請求項6】
前記走行工程、前記計測工程、および前記最大計測値取得工程を複数回繰り返す第1繰り返し工程と、
前記第1繰り返し工程によって得られる複数の前記最大計測値のうちの少なくとも一部の最大計測値の平均値である第1平均値を求める第1演算工程と、をさらに含む
請求項5に記載の正着性評価方法。
【請求項7】
前記第1繰り返し工程における繰り返し回数は5回以上であり、
複数の前記最大計測値のうちの最大の第1最大値と、最小の第1最小値と、を取得する第1最大小値取得工程をさらに含み、
前記少なくとも一部の最大計測値は、複数の前記最大計測値のうち、前記第1最大値と、前記最小値と、を除いた残りの最大計測値である
請求項6に記載の正着性評価方法。
【請求項8】
下記の変動係数を求める工程と、
前記変動係数が所定の閾値以上である場合、前記走行工程、前記計測工程、および前記最大値取得工程をさらに2回繰り返す第2繰り返し工程と、
前記第2繰り返し工程で得られる2つの最大計測値および前記残りの最大計測値のうちの最大の第2最大値と、最小の第2最小値と、を取得する第2最大小値取得工程と、
前記第2繰り返し工程で得られる2つの最大計測値および前記残りの最大計測値のうち、前記第2最大値と、前記第2最小値と、を除いた最大計測値を新たな残りの最大計測値とし、前記第1平均値を求める第2演算工程と、
前記第2演算工程を終えると、前記変動係数を求める工程へ戻る工程と、をさらに含む
請求項7に記載の正着性評価方法。
変動係数=(前記残りの最大計測値の標準偏差/前記第1平均値)×100
【請求項9】
前記計測値は、前記ハンドルの操舵角および前記ハンドルの操舵トルクの少なくとも一方を含む
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の正着性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正着性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バス等の車両の正着性を高めるための縁石が車道と歩道との境界に設けられることがある。
このような縁石は、車道に連なる上面部と、上面部と歩道とを繋ぐ壁面と、を有する。上面部は、上面部を車両が走行すると当該車両が自然に壁面に近づくような形状を有しており、縁石に対する車両の幅寄せを容易に行うことができ、正着性が高められている。
【0003】
下記特許文献1には、上述のような縁石と車両との間の距離を測定するための装置が開示されている。
この装置によって測定された縁石と車両との間の距離は、正着性を評価するための数値として用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、操作性の観点から正着性の良否を適切に評価することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、車道と歩道との境界に設けられる縁石であって幅寄せする車両のタイヤが接触する接触壁面部を有する前記縁石の正着性評価方法である。この方法は、前側の前記タイヤが前記接触壁面部に接触するように前記車両を前記縁石に向けて所定の幅寄せモードで走行させる走行工程と、前記走行工程における、前記タイヤから前記車両のハンドルへ伝わる反力を示す計測値を経時的に取得し、複数の前記計測値を含む計測データを取得する計測工程と、を含む。
【0007】
上記構成によれば、タイヤから車両のハンドルへ伝わる反力を示す計測値を含む計測データを取得することができる。
車両のハンドルへ伝わる反力は、前側のタイヤが縁石に接触したときにタイヤが転舵することで生じる。よって、計測データは、タイヤが縁石に接触したときにハンドルへ伝わる反力の他、タイヤに加わる衝撃に関する情報も含んでいる。
タイヤが縁石に接触したときにハンドルへ伝わる反力やタイヤに加わる衝撃は、車両を正着させる際のドライバに対する操作性に影響を与える要因であって、操作性の観点からの正着性の良否に影響を与える要因と言える。
よって、この計測データに用いることで、車両を縁石に幅寄せし正着させる際のドライバに対する操作性に与える影響を数値として評価することができ、操作性の観点から正着性の良否を適切に評価することができる。
【0008】
(2)上記正着性評価方法において、前記走行工程における前記所定の幅寄せモードは、前記縁石に対する進入角度が8度、進入速度が5km/時、操舵角が0度であり、前記タイヤが前記縁石に接触する前に前記車両のドライバが、前記ハンドルから手を放すことを含むことが好ましい。
この場合、幅寄せモードを、実際の車道での幅寄せに近い条件とすることができる。さらに、タイヤが縁石に接触する際に、ドライバの操作によってハンドルの動きが妨げられるのを防止でき、タイヤが縁石に接触したことでハンドルに伝わる反力をより精度よく計測することができる。
【0009】
(3)上記正着性評価方法において、前記タイヤが前記縁石に接触した接触タイミングを取得し、前記計測データに含まれる複数の前記計測値のうち前記接触タイミングに対応する計測値を特定する工程をさらに含むことが好ましい。
この場合、計測データに接触タイミングを反映させることができる。
【0010】
(4)上記正着性評価方法において、前記計測データに基づいて前記縁石の正着性を評価するための第1評価値を取得する工程と、前記第1評価値と、前記タイヤとは異なる他のタイヤによる前記計測データに基づく第2評価値と、を比較する工程と、をさらに含むことが好ましい。
この場合、縁石とタイヤとの組み合わせに応じた正着性の良否を適切に評価することができる。
【0011】
(5)上記正着性評価方法において、前記計測データに含まれる複数の前記計測値のうちの最大値である最大計測値を取得する最大計測値取得工程と、をさらに含むことが好ましい。
この場合、最大計測値を縁石の正着性を評価するための評価値として用いることができる。
【0012】
(6)上記正着性評価方法において、前記走行工程、前記計測工程、および前記最大計測値取得工程を複数回繰り返す第1繰り返し工程と、前記第1繰り返し工程によって得られる複数の前記最大計測値のうちの少なくとも一部の最大計測値の平均値である第1平均値を求める第1演算工程と、をさらに含んでいてもよい。
この場合、最大計測値の平均値である第1平均値を縁石の正着性を評価するための評価値として用いることで、最大計測値に含まれる、ドライバの操作や計測操作等に起因するばらつきを抑制することができ、より適切な評価が可能となる。
【0013】
(7)上記正着性評価方法において、前記第1繰り返し工程における繰り返し回数は5回以上である場合、複数の前記最大計測値のうちの最大の第1最大値と、最小の第1最小値と、を取得する第1最大小値取得工程をさらに含み、前記少なくとも一部の最大計測値は、複数の前記最大計測値のうち、前記第1最大値と、前記第1最小値と、を除いた残りの最大計測値であってもよい。
この場合、単に平均値を求めるよりもより効果的にばらつきを抑制することができる。
【0014】
(8)上記正着性評価方法において、下記の変動係数を求める工程と、前記変動係数が所定の閾値以上である場合、前記走行工程、前記計測工程、および前記最大値取得工程をさらに2回繰り返す第2繰り返し工程と、前記第2繰り返し工程で得られる2つの最大計測値および前記残りの最大計測値のうちの最大の第2最大値と、最小の第2最小値と、を取得する第2最大小値取得工程と、前記第2繰り返し工程で得られる2つの最大計測値および前記残りの最大計測値のうち、前記第2最大値と、前記第2最小値と、を除いた最大計測値を新たな残りの最大計測値とし、前記第1平均値を求める第2演算工程と、前記第2演算工程を終えると、前記変動係数を求める工程へ戻る工程と、をさらに含んでいてもよい。
変動係数=(前記残りの最大計測値の標準偏差/前記第1平均値)×100
【0015】
この場合、上記変動係数を用いて処理を繰り返すことで、さらにばらつきを抑制することができる。
【0016】
(9)上記正着性評価方法において、前記計測値は、前記ハンドルの操舵角および前記ハンドルの操舵トルクの少なくとも一方を含むことが好ましい。
この場合、センサにより、タイヤから前記車両のハンドルへ伝わる反力を示す計測値を容易に計測することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、操作性の観点から正着性の良否を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態に係る正着性評価方法において用いられる縁石の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る正着性評価方法の一例を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図2中のデータ取得の内容を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、走行工程を説明するための平面図である。
【
図5】
図5は、表1に示すタイヤの計測データを示すグラフである。
【
図6】
図6は、縁石の他の態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[本開示が解決しようとする課題]
正着性とは、バス等の車両を停留所に幅寄せし停止させるときの性質であり、車両の乗降口と歩道(縁石)との距離や段差の度合の他、車両を縁石に幅寄せし正着させる際の操作性を含むと考えることができる。
ここで、上記従来の装置では、正着させたときの壁面と車両との間の距離を測定することができるだけであり、正着させる際の車両の操作性に関して評価することはできない。
このため、操作性の観点から正着性の良否を適切に評価することができる技術が望まれる。
【0020】
[実施形態の詳細]
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔正着性評価方法について〕
図1は、実施形態に係る正着性評価方法において用いられる縁石の一例を示す断面図である。
図1に示す縁石1は、バリアレス縁石と呼ばれる縁石である。本実施形態の正着性評価方法は、バスの停留所等に設けられるバリアブル縁石に対して幅寄せしたときの正着性を評価する方法である。
【0021】
正着性とは、上述したように、バス等の車両を停留所に幅寄せし停止させるときの性質であり、車両の乗降口と歩道(縁石)との距離や段差の度合の他、車両を縁石に幅寄せし正着させる際の操作性等を含む。車両の乗降口と歩道(縁石)との距離が相対的に小さい場合や、段差が低い場合、正着性が良好であると言える。また、車両を縁石に幅寄せしたときに操作性に与える影響が低ければ、正着性が良好であると言える。
【0022】
バリアレス縁石とは、一般的な縁石と比較して正着性が高い縁石であり、停留所等に用いることで、車両の乗降口と歩道との距離や段差を小さくすることができる縁石である。
バリアレス縁石は、幅寄せする車両のタイヤが接触する接触壁面部を有することがある。
バリアレス縁石の接触壁面部は、縁石に幅寄せしようとする車両のタイヤが接触したときにタイヤに加わる衝撃を抑制するとともに幅寄せを容易にし得る形状を有している。バリアレス縁石は、接触壁面部を有することで、高い正着性を有する。
【0023】
図1中、縁石1は、車道2と、歩道4との境界に設けられている。なお、
図1は車道2の幅方向に沿った断面を示している。
縁石1は、上面6と、接触壁面部8と、R面部10と、段差部12と、歩道面部14と、を有する。
【0024】
上面6は、車道2の路面2aに連なる面である。よって、縁石1に幅寄せしようとする車両SのタイヤTが上面6に接触する。
接触壁面部8は、上面6の車道幅方向の外端縁6aから上方へ向かって立ち上がる壁面である。接触壁面部8は、上方へ向かうにつれて歩道4側へ傾斜する傾斜面9を有する。
R面部10は、接触壁面部8の下端縁8aと上面6の外端縁6aとを滑らかに繋ぐR面である。
段差部12は、接触壁面部8の上端縁8bと歩道面部14との間に設けられている。歩道面部14は、歩道4の路面4aに連なる面である。段差部12は、接触壁面部8に対して歩道4側へ凹んでいる。段差部12は、幅寄せされた車両Sの車体下端部S1を回避するように設けられている。この段差部12により、車両Sを縁石1により近付けることが可能となり、正着した状態の車両Sの乗降口S2と、縁石1の歩道面部14と、の距離をより小さくすることができる。
【0025】
縁石1に幅寄せしようとする車両Sは、タイヤTを接触壁面部8に接触させるように走行する。このとき接触壁面部8は、上述のように、上方へ向かうにつれて歩道4側へ傾斜する傾斜面9を有する。よって、車両Sが縁石1に幅寄せされることで、タイヤTのショルダーt1やサイドウォールt2が接触壁面部8に接触したとしても、タイヤTに加わる衝撃が抑制され、車両Sは縁石1に沿うように案内される。
これによって、縁石1は、車両Sの正着性を高めることができる。
【0026】
図2は、本実施形態に係る正着性評価方法の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の正着性評価方法において、まず、データ取得が行われる(
図2中、ステップS1)。
データ取得においては、車両Sを走行させて縁石1に幅寄せするように走行させたときに得られる計測値を取得する。
【0027】
図3は、
図2中のデータ取得の内容を示すフローチャートである。
データ取得では、まず、走行工程および計測工程が行われる(
図3中、ステップS21、S22)。
走行工程では、車両Sを縁石1に向けて所定の幅寄せモードで走行させる。
【0028】
図4は、走行工程を説明するための平面図である。
走行工程では、
図4に示すように、車両Sの前タイヤT1が縁石1の接触壁面部8に接触するように車両Sを走行させる。
ここで、車両Sの走行条件である幅寄せモードは、接触壁面部8に対する進入角度θが8度、走行速度Vが5km/時、車両Sにおける操舵角が0度である。
また、幅寄せモードは、車両Sを前進走行させた後、前タイヤT1が接触壁面部8に接触する前に、車両Sのドライバが、車両Sのハンドルから手を放すことを含む。
【0029】
走行工程は、ドライバが車両Sの走行を開始させることで開始される。ドライバは、上記幅寄せモードに従って車両Sを前進走行させ、前タイヤT1を接触壁面部8に接触させる。ドライバは、前タイヤT1が接触壁面部8に接触する前に、ハンドルから手を放す。ドライバは、ハンドルから手を放した後も走行速度Vを維持する。
【0030】
上記幅寄せモードは、実際の車道での幅寄せに近い条件とされる。さらに、前タイヤT1が接触壁面部8に接触する前に、ドライバはハンドルから手を放すので、前タイヤT1が縁石1に接触する際に、ドライバの操作によってハンドルの動きが妨げられるのを防止でき、前タイヤT1が縁石1に接触したことでハンドルに伝わる反力(後に説明する)をより精度よく計測することができる。
【0031】
前タイヤT1が接触壁面部8に接触したときにおいて、ドライバはハンドルから手を放しているので、前タイヤT1は、ドライバに操作されることなく、接触壁面部8との接触に応じて転舵する。
【0032】
図4では、前タイヤT1が接触壁面部8に接触すると、前タイヤT1は右方向に曲がるように転舵する。よって、車両Sは、前タイヤT1が接触壁面部8に接触した後、接触壁面部8から離れるように走行する。
その後、前タイヤT1の切れ角(舵角)の変化が安定すると(切れ角が一定になると)、ドライバは車両Sを停車させる。
ドライバが車両Sを停車させることで、走行工程は終了する。
【0033】
図3中、計測工程は、走行工程と同時に行われる(
図3中、ステップS22)。
計測工程では、前タイヤT1から車両Sのハンドルへ伝わる反力を示す計測値Mが取得される。計測工程では、所定のサンプリング周期で計測値Mが経時的に取得される(
図3中ステップS22)。よって、計測工程では、複数の計測値Mが取得される。複数の計測値Mは、走行工程における経過時間に応じた離散値であり、計測データを構成する。
本実施形態において、計測値Mは、ハンドルの操舵角(回転角度)である。操舵角は、車両Sのハンドル又は操舵軸等に設けられたセンサによって取得される。
この場合、前タイヤT1から車両Sのハンドルへ伝わる反力を示す計測値(操舵角)をセンサによって容易に計測することができる。
【0034】
上述のように、走行工程において前タイヤT1が接触壁面部8に接触し前タイヤT1が転舵すると、車両Sのハンドルは、前タイヤT1の転舵に応じて回転する。
計測工程では、走行工程において回転し変化する車両Sのハンドルの操舵角が計測値Mとして取得される。
本実施形態では、直進状態の場合を0°としたときのハンドルの操舵角を計測値Mとする。
【0035】
さらに、走行工程および計測工程と同時に、接触タイミングを取得し接触タイミングに対応する計測値Mを特定する工程が行われる(
図3中、ステップS23)。
接触タイミングとは、前タイヤT1が接触壁面部8に接触したタイミングである。接触タイミングは、車両Sの外部に位置し車両Sを観察する観察者によって取得される。なお、接触タイミングは、近接センサ等によって取得することもできる。
接触タイミングが取得されると、計測データに含まれる複数の計測値Mのうち、接触タイミングに対応する計測値Mが特定される。
【0036】
図3中、ステップS21、S22、S23を終えると、ステップS24へ進み、最大値取得工程が行われる。最大値取得工程では、計測データに含まれる複数の計測値Mのうちの最大値である最大計測値Mmaxが取得される。
【0037】
最大計測値Mmaxが取得されると、ステップS25へ進み、ステップS21、S22、S23、S24を所定回数繰り返したか否かが判定される(
図3中、ステップS25)。
ステップS21、S22、S23、S24を所定回数繰り返してないと判定されると、再度、ステップS21、S22、S23、S24が行われる。
ステップS21、S22、S23、S24を所定回数繰り返したと判定されると、データ取得を終え、
図2中のステップS2へ進む。
図2中のステップS1におけるデータ取得では、所定の繰り返し回数は例えば5回である。
よって、
図3中のステップS21、S22、S23、S24が5回繰り返されると、
図2中のステップS2へ進む。またこの場合、5つの最大計測値Mmaxが得られる。
このように、
図2中のステップS1は、走行工程、計測工程、および最大値取得工程を複数回繰り返す第1繰り返し工程を構成する。
【0038】
図2中のステップS1を終えると、ステップS2へ進み、第1最大小値取得工程が行われる。
第1最大小値取得工程では、ステップS1にて得られた複数の最大計測値Mmaxのうちの最大値である第1最大値Mmax,max1と、最小値である第1最小値Mmax,min1と、が取得される(
図2中、ステップS2)。
第1最大値取得工程において、第1最大値Mmax,max1と、第1最小値Mmax,min1と、が取得されると、ステップS3へ進み、第1演算工程が行われる。
【0039】
第1演算工程では、第1繰り返し工程によって得られる複数の最大計測値Mmaxのうちの少なくとも一部の最大計測値Mmaxの平均値である第1平均値Mav1が求められる(
図2中、ステップS3)。
ここで、本実施形態において、少なくとも一部の最大計測値Mmaxは、複数の最大計測値Mmaxのうち、第1最大値Mmax,max1と、第1最小値Mmax,min1と、を除いた残りの最大計測値Mmaxである。
よって、第1演算工程では、5つの最大計測値Mmaxのうち、第1最大値Mmax,max1と、第1最小値Mmax,min1と、を除いた残りの3つの最大計測値Mmaxの平均値が第1平均値Mav1として求められる。
【0040】
第1演算工程において、第1平均値Mav1が求められると、ステップS4へ進み、変動係数Cの取得が行われる(
図2中、ステップS4)。
変動係数Cは、下記式のように表される。
変動係数C=
(残りの(3つの)最大計測値Mmaxの標準偏差/第1平均値Mav1)
×100
【0041】
変動係数Cが求められると、ステップS5へ進み、変動係数Cが閾値Th以上か否かが判定される(
図2中、ステップS5)。本実施形態では、閾値Thは、10%である。
変動係数Cが閾値Th未満と判定される場合、ステップS9へ進み、第1平均値Mav1が、正着性を評価するための評価値として取得され(
図2中、ステップS9)、評価値に基づいて正着性の評価が行われ(
図2中、ステップS10)、処理を終える。
【0042】
一方、変動係数Cが閾値Th以上と判定される場合、ステップS6へ進み、再度データ取得が行われる(
図2中、ステップS6)。
ステップS6では、
図3のフローチャートに従って、走行工程、計測工程、および最大値取得工程を複数回繰り返す。
図2中のステップS6におけるデータ取得では、所定の繰り返し回数は2回である。
よって、
図3中のステップS21、S22、S23、S24が2回繰り返されると、
図2中のステップS7へ進む。またこの場合、2つの最大計測値Mmaxが得られる。
このように、
図2中のステップS6は、走行工程、計測工程、および最大値取得工程を2回繰り返す第2繰り返し工程を構成する。
【0043】
図2中のステップS6を終えると、ステップS7へ進み、第2最大小値取得工程が行われる。
第2最大小値取得工程では、ステップS6で得られた2つの最大計測値Mmax、および、第1演算工程(
図2中、ステップS2)における(第1最大値Mmax,max1と、第1最小値Mmax,min1と、を除いた)残りの最大計測値Mmaxのうちの最大値である第2最大値Mmax,max2と、最小値である第2最小値Mmax,min2と、が取得される(
図2中、ステップS7)。
第2最大値取得工程において、第2最大値Mmax,max2と、第2最小値Mmax,min2と、が取得されると、ステップS8へ進み、第2演算工程が行われる。
【0044】
第2演算工程では、ステップS6で得られた2つの最大計測値Mmax、および、第1演算工程における残りの3つの最大計測値Mmaxのうち、第2最大値Mmax,max2と、前記第2最小値Mmax,min2と、を除いた最大計測値Mmaxを新たな残りの最大計測値Mmaxとされ、新たな残りの3つの最大計測値Mmaxによって第1平均値Mav1が求められる(
図2中、ステップS8)。
【0045】
図2中のステップS8を終えると、再度ステップS4へ戻り、新たな残りの3つの最大計測値Mmaxおよび第1平均値Mav1に基づいて変動係数Cが求められ、さらに、変動係数Cが閾値Th以上か否かが判定される(
図2中、ステップS4、S5)。
以降、変動係数Cが閾値Th未満となるまで同様の工程が繰り返される。その後、変動係数Cが閾値Th未満となる第1平均値Mav1が評価値として取得され、正着性の評価に用いられる。
【0046】
図2中のステップS10における評価工程では、タイヤTに関する第1平均値Mav1を求め、第1平均値Mav1に基づいて評価することもできる。
また、タイヤTとは異なる種類のタイヤTに関する第1平均値Mav1を求め、タイヤTの第1平均値Mav1と、タイヤTとは異なる種類のタイヤTの第1平均値Mav1と、を比較評価することもできる。
【0047】
このように、本実施形態では、タイヤTの計測データに基づいて縁石の正着性を評価するための第1評価値として第1平均値Mav1を取得する工程と、第1評価値としての第1平均値Mav1と、第2評価値としての第1平均値Mav1と、を比較する工程と、を含んでいる。第2評価値は、タイヤTとは異なる他のタイヤによる計測データに基づく評価値(第1平均値Mav1)である。
この場合、縁石1とタイヤTとの組み合わせに応じた正着性の良否を適切に評価することができる。
【0048】
本実施形態によれば、走行工程および計測工程によって(
図3中、ステップS21、S22)、タイヤTから車両Sのハンドルへ伝わる反力を示す計測値Mを含む計測データを取得することができる。
車両Sのハンドルへ伝わる反力は、前タイヤT1が縁石1に接触したときに前タイヤT1が転舵することで生じる。よって、計測データは、前タイヤT1が縁石1に接触したときにハンドルへ伝わる反力の他、前タイヤT1に加わる衝撃に関する情報も含んでいる。
前タイヤT1が縁石1に接触したときにハンドルへ伝わる反力や前タイヤT1に加わる衝撃は、車両Sを正着させる際のドライバに対する操作性に影響を与える要因であって、操作性の観点からの正着性の良否に影響を与える要因と言える。
よって、この計測データに用いることで、車両Sを縁石1に幅寄せし正着させる際のドライバに対する操作性に与える影響を数値として評価することができ、操作性の観点から正着性の良否を適切に評価することができる。
【0049】
また、本実施形態では、第1繰り返し工程(
図2中、ステップS1)と、第1演算工程(
図2中、ステップS3)と、を含んでいるので、最大計測値Mmaxの平均値である第1平均値Mav1を縁石1の正着性を評価するための評価値として用いることができる。これにより、最大計測値Mmaxに含まれる、ドライバの操作や計測操作等に起因するばらつきを抑制することができ、より適切な評価が可能となる。
【0050】
また、本実施形態では、第1最大小値取得工程(
図2中、ステップS2)を含み、第1演算工程では、複数の最大計測値Mmaxのうち、第1最大値と、第1最小値と、を除いた残りの最大計測値の平均値を第1平均値Mav1として求めるので、単に平均値を求めるよりもより効果的にばらつきを抑制することができる。
【0051】
また、本実施形態では、変動係数が閾値Th未満となるまで、
図2中のステップS5~S8を繰り返す。このように、変動係数を用いて処理を繰り返すことで、さらにばらつきを抑制することができる。
【0052】
〔検証試験について〕
次に、上記正着性評価方法により、実際に正着性を評価し、正着性の良否を評価することができるか否かについて検証した試験について説明する。
本試験では、互いにワンダリング性能に差があるタイヤAおよびタイヤBについて上記正着性評価方法に基づく正着性評価を行った。タイヤAは、タイヤBよりもワンダリング性能が低い。なお、ワンダリングとは、路面の凹凸等による影響によって車両(タイヤ)がふらつく状態であり、ワンダリング性能とは、ワンダリングの発生度合に関する性能をいう。ワンダリング性能が相対的に高い場合、ワンダリングの発生が抑制される。
【0053】
また、走行工程におけるタイヤA、Bの使用条件は、下記の通りである。
タイヤサイズ:275/70R22.5 148/145J
車種:いすゞ エルガ
リム:22.5×7.50
内圧:フロント、リア共に900kPa
荷重:2名乗車
【0054】
縁石は、
図1にて示した形状を有する縁石を用いた。
また、
図2中のステップS1における所定の繰り返し回数は5回とした。
【0055】
上記条件によって正着性評価を行い、最大計測値Mmaxおよび第1平均値Mav1を求めた。
下記表1に評価結果を示す。
【0056】
【0057】
また、
図5は、表1中、繰り返し番号1におけるタイヤAおよびタイヤBの計測データを示すグラフである。
図5において、横軸は時間、縦軸は操舵角を示している。また、
図5中、実線の線図はタイヤAの計測データを示している。破線の線図はタイヤBの計測データを示している。
また、
図5では、走行工程の開始のタイミングを時間0としている。
【0058】
タイヤAの計測データにおいて、時間0から約11秒を経過したタイミングp1で操舵角(計測値)の上昇が始まり、数秒で最大値となっている。この最大値が最大計測値Mmaxとして取得される。
タイミングp1は、前タイヤT1が縁石1に接触したタイミングと一致する。つまり、タイミングp1は、接触タイミングと一致する。よって、タイミングp1における計測値Mは、接触タイミングに対応する計測値Mと特定される。仮に、タイミングp1における計測値Mが接触タイミングに対応する計測値Mと特定されない場合、試験において何らかの不具合が生じている可能性があることを示している。
その後、最大計測値Mmaxの後、操舵角は、徐々に低下し、時間0から約20秒を経過したタイミング以降においては、ほぼ一定となっている。
【0059】
タイヤBの計測データにおいて、時間0から約14秒を経過したタイミングp2で操舵角(計測値)の上昇が始まり、数秒で最大値となっている。この最大値が最大計測値Mmaxとして取得される。
タイミングp1は、前タイヤT1が縁石1に接触したタイミングと一致する。つまり、タイミングp1は、接触タイミングと一致する。よって、タイミングp1における計測値Mは、接触タイミングに対応する計測値Mと特定される。
その後、最大計測値Mmaxの後、操舵角は、徐々に低下し、時間0から約20秒を経過したタイミング以降においては、ほぼ一定となっている。
【0060】
走行工程、計測工程、および最大計測値取得工程を繰り返すごとに、
図5に示す計測データおよび最大計測値Mmaxが取得される。
【0061】
表1に示すタイヤAでは、5つの最大計測値Mmaxから得られる変動係数Cが4.1%であることから、
図2中のステップS5~S8に進むことなく、第1平均値Mav1がタイヤAの評価値とされる。
表1に示すタイヤBにおいても、5つの最大計測値Mmaxから得られる変動係数Cが9.0%であることから、
図2中のステップS5~S8に進むことなく、第1平均値Mav1がタイヤAの評価値とされる。
【0062】
タイヤAにおける5つの最大計測値Mmaxのうち、繰り返し番号3の最大計測値Mmaxが第1最大値Mmax,max1であり、繰り返し番号2の最大計測値Mmaxが第1最小値Mmax,min1である。
よって、タイヤAの第1平均値Mav1は、繰り返し番号1、4、5の最大計測値Mmaxの平均値(=234)となる。
【0063】
同様に、タイヤBにおける5つの最大計測値Mmaxのうち、繰り返し番号3の最大計測値Mmaxが第1最大値Mmax,max1であり、繰り返し番号4の最大計測値Mmaxが第1最小値Mmax,min1である。
よって、タイヤBの第1平均値Mav1は、繰り返し番号1、2、5の最大計測値Mmaxの平均値(=199)となる。
【0064】
なお、表1中の最大操舵角指数は、タイヤAの第1平均値Mav1を100としたときのタイヤBの第1平均値Mav1の値を示した指数である。
表1の結果から、タイヤAの評価値(第1平均値Mav1)の方が、タイヤBの評価値(第1平均値Mav1)よりも大きくなっている。
評価値は、相対的に小さければ、前タイヤT1が縁石1に接触したときにハンドルへ伝わる反力や、前タイヤT1に加わる衝撃が相対的に小さいと言える。
【0065】
よって、表1に示す結果から、タイヤBの方がタイヤAと比較して正着性が良好であると判定することができる。
この判定結果は、タイヤAがタイヤBよりもワンダリング性能が低い点から考えて妥当である。
このように、本実施形態の評価方法によれば、正着性の良否を適切に評価することができることが明らかである。
【0066】
〔その他〕
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
例えば、本実施形態では、変動係数を用いて第1平均値Mav1を求める場合を例示したが、変動係数を用いることなく、第1演算工程(
図2中、ステップS3)によって得られる第1平均値Mav1を評価値として用いてもよい。
【0067】
また、本実施形態では、複数の最大計測値Mmaxのうち、第1最大値と、第1最小値と、を除いた残りの最大計測値の平均値を第1平均値Mav1として求めた場合を例示したが、第1最大値と、第1最小値と、を除くことなく、複数の最大計測値Mmaxの平均値を第1平均値Mav1として求めてもよい。
【0068】
また、各工程における数値計算は、本実施形態の評価方法を行う作業者が行ってもよいし、コンピュータ等が行ってもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、縁石1の接触壁面部8が、上方へ向かうにつれて歩道4側へ傾斜する傾斜面9を有する場合を例示した。しかし、縁石1は、これに限定されるわけではない。
例えば、
図6に示すような縁石1であってもよい。
図6中の縁石1は、上面6と、接触壁面部8と、を有する。上面6は、接触壁面部8の下端縁8aに繋がるとともに、車道2の路面2aに連なる面である。
上面6の車道幅方向における水平方向に対する傾斜は、車道2の路面2aの車道幅方向における水平方向に対する傾斜よりも大きい。さらに、上面6の車道幅方向に沿う幅は、車両SのタイヤTの接地幅よりも広い。
【0070】
この場合、縁石1は、接触壁面部8に近づける方向の力を、上面6を走行する車両Sに発生させることができ、正着性を高めることができる。このような縁石1についても正着性の評価を行うことができる。
【0071】
また、上記実施形態では、計測値Mが、ハンドルの操舵角である場合を例示した。しかし、計測値Mは、ハンドルの操舵トルクであってもよい。
この場合も、前タイヤT1から車両Sのハンドルへ伝わる反力を示す計測値をセンサによって容易に計測することができる。
【0072】
本開示の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1 縁石
2 車道
4 歩道
6 上面
6a 外端縁
8 接触壁面部
8a 下端縁
9 傾斜面
10 R面部
S 車両
T1 前タイヤ