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特開2024-127364樹脂組成物、インクジェット記録用水性インク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法
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  • 特開-樹脂組成物、インクジェット記録用水性インク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127364
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物、インクジェット記録用水性インク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240912BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240912BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41J2/01 501
B41J2/01 125
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036484
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】柚原 敬介
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】井口 真樹人
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FA10
2C056FC01
2C056HA46
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA08
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
2H186FB57
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA39
4J039EA44
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 貯蔵安定性及び耐溶剤性を両立する、樹脂組成物、インクジェット記録用水性インク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、樹脂粒子、水、第1溶剤、及び第2溶剤を含み、
前記第1溶剤は、沸点が250℃未満の溶剤であり、
前記第2溶剤は、沸点が250℃以上の溶剤であり、かつ、前記第2溶剤と前記樹脂粒子とのHSP距離(R)及びハンセン空間上において前記樹脂粒子を溶解した前記第2溶剤のプロットのみを包含する球(ハンセン球)の半径(R)から算出される相対エネルギー差(R/R)を示すREDが3以下であり、
前記HSP距離は、前記第2溶剤のHSP値、及び、前記樹脂粒子のHSP値から算出され、
前記樹脂粒子のHSP値は、前記ハンセン球の中心座標から算出され、
前記第2溶剤の配合量(S2)と前記樹脂粒子の固形分配合量(R)との配合比(S2/R)が、0.7~2.3である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子、水、第1溶剤、及び第2溶剤を含み、
前記第1溶剤は、沸点が250℃未満の溶剤であり、
前記第2溶剤は、沸点が250℃以上の溶剤であり、かつ、前記第2溶剤と前記樹脂粒子とのHSP距離(R)及びハンセン空間上において前記樹脂粒子を溶解した前記第2溶剤のプロットのみを包含する球(ハンセン球)の半径(R)から算出される相対エネルギー差(R/R)を示すREDが3以下であり、
前記HSP距離は、前記第2溶剤のHSP値、及び、前記樹脂粒子のHSP値から算出され、
前記樹脂粒子のHSP値は、前記ハンセン球の中心座標から算出され、
前記第2溶剤の配合量(S2)と前記樹脂粒子の固形分配合量(R)との配合比(S2/R)が、0.7~2.3である、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記第2溶剤の配合量(S2)と前記第1溶剤の配合量(S1)との配合比(S2/S1)が、0.3~3.0である、
請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記配合比(S2/R)が、0.9~2.0であり、
前記第1溶剤の配合量(S1)及び前記第2溶剤の配合量(S2)の合計量(S1+S2)が、30以下である、
請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物、及び顔料を含む、
インクジェット記録用水性インク。
【請求項5】
流路、及び付与手段を含み、
前記流路に供給された樹脂組成物を、前記付与手段によって対象物に付与し、
前記樹脂組成物は、請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物である、
インクジェット記録装置。
【請求項6】
流路、及び付与手段を含み、
前記流路に供給された水性インクを、前記付与手段によって対象物に付与し、
前記水性インクは、請求項4記載のインクジェット記録用水性インクである、
インクジェット記録装置。
【請求項7】
記録媒体に樹脂組成物をインクジェット方式により付与して記録する記録工程を含み、
前記樹脂組成物は、請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物である、
インクジェット記録方法。
【請求項8】
記録媒体に水性インクをインクジェット方式により付与して記録する記録工程を含み、
前記水性インクは、請求項4記載のインクジェット記録用水性インクである、
インクジェット記録方法。
【請求項9】
さらに、前記記録媒体の記録部分を加熱する乾燥工程を含み、
前記乾燥工程における乾燥温度が、90℃以上である、
請求項7記載のインクジェット記録方法。
【請求項10】
さらに、前記記録媒体の記録部分を加熱する乾燥工程を含み、
前記乾燥工程における乾燥温度が、90℃以上である、
請求項8記載のインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、インクジェット記録用水性インク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、非吸収性基材に対して画像形成可能なインクが開示されている。近年はCOVID-19の流行に伴い、除菌を目的として印刷物が薬品で拭かれる事が多くなったため、画像形成後の塗膜の耐溶剤性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-60168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、塗膜の耐溶剤性を含む塗膜性能を向上させるためには、例えば、前記インク中に含まれる樹脂を溶解しやすい溶剤を添加する方法が考えられる。前記樹脂を溶解しやすい溶剤を添加することで、例えば、前記樹脂と前記溶剤が混ざるにつれて前記樹脂が膨潤すると考えられ、その結果、前記基材上の塗膜が十分に成膜し、塗膜性能が向上する(すなわち、塗膜の耐溶剤性が向上する)と推定される。一方で、樹脂を溶解しやすい溶剤を過度に多く添加すれば、例えば、樹脂の膨潤性が高くなることにより、インクの貯蔵安定性が低下するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、貯蔵安定性及び耐溶剤性を両立する、樹脂組成物、インクジェット記録用水性インク、インクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の樹脂組成物は、
樹脂粒子、水、第1溶剤、及び第2溶剤を含み、
前記第1溶剤は、沸点が250℃未満の溶剤であり、
前記第2溶剤は、沸点が250℃以上の溶剤であり、かつ、前記第2溶剤と前記樹脂粒子とのHSP距離(R)及びハンセン空間上において前記樹脂粒子を溶解した前記第2溶剤のプロットのみを包含する球(ハンセン球)の半径(R)から算出される相対エネルギー差(R/R)を示すREDが3以下であり、
前記HSP距離は、前記第2溶剤のHSP値、及び、前記樹脂粒子のHSP値から算出され、
前記樹脂粒子のHSP値は、前記ハンセン球の中心座標から算出され、
前記第2溶剤の配合量(S2)と前記樹脂粒子の固形分配合量(R)との配合比(S2/R)が、0.7~2.3である。
【0007】
本発明のインクジェット記録用水性インクは、本発明の樹脂組成物、及び顔料を含む。
【0008】
本発明のインクジェット記録装置は、
流路、及び付与手段を含み、
前記流路に供給された樹脂組成物を、前記付与手段によって対象物に付与し、
前記樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物である。
【0009】
本発明のインクジェット記録装置は、
流路、及び付与手段を含み、
前記流路に供給された水性インクを、前記付与手段によって対象物に付与し、
前記水性インクは、本発明のインクジェット記録用水性インクである。
【0010】
本発明のインクジェット記録方法は、
記録媒体に樹脂組成物をインクジェット方式により付与して記録する記録工程を含み、
前記樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物である。
【0011】
本発明のインクジェット記録方法は、
記録媒体に水性インクをインクジェット方式により付与して記録する記録工程を含み、
前記水性インクは、本発明のインクジェット記録用水性インクである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、貯蔵安定性及び耐溶剤性を両立可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、「質量」という場合は、特に断らない限り「重量」と読み替えてもよいものとする。例えば、「質量比」は、特に断らない限り「重量比」と読み替えてもよく、「質量%」は、特に断らない限り「重量%」と読み替えてもよいものとする。
【0015】
本発明において、各成分及びパラメータ等の数値範囲を示す場合、前記数値範囲は、特に断りのない限り、前記数値範囲を定める下限値及び上限値を含む数値範囲を意味する。例えば、「1~10」の数値範囲を示す場合、前記数値範囲は、「1~10」を定める下限値1及び上限値10を含む数値範囲(すなわち、1以上かつ10以下)を意味する。
【0016】
本発明において、「HSP」という場合は、特に断らない限り「ハンセン溶解度パラメータ(Hansen solubility parameter)」を意味する。
【0017】
本発明において、「RED」という場合は、特に断らない限り「ハンセン球半径(R)とHSP距離(R)の相対エネルギー差(relative energy difference)」を意味する。
【0018】
本発明の樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、樹脂粒子、水、第1溶剤、及び第2溶剤を含む。
【0019】
前記樹脂粒子は、後述する相対エネルギー差(R/R)の条件を満たすものであれば、特に限定されない。前記樹脂微粒子は、例えば、樹脂エマルションに含まれるものであってもよい。前記樹脂エマルションは、例えば、前記樹脂粒子と、分散媒(例えば、水等)とで構成されるものであり、前記樹脂粒子は、前記分散媒に対して溶解状態ではなく、特定の粒子径を持って分散している。前記樹脂粒子は、例えば、市販品を用いてもよい。前記樹脂粒子は、例えば、ポリアクリル酸又はポリアクリル酸エステルを主成分とする樹脂粒子であって、使用できる単量体としては、(メタ)アクリル酸やメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、チシリル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル等があげられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル及びメタクリルの少なくとも一方」を意味する。「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方」を意味する。「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方」を意味する。
【0020】
前記水は、イオン交換水、純水等であってもよい。前記樹脂組成物全量に対する前記水の配合量(水割合)は、所望のインク特性等に応じて適宜決定される。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。前記水の配合量は、例えば、50質量%以上、55質量%以上、又は60質量%以上であり、かつ、95質量%以下、90質量%以下、又は80質量%以下である。例えば、50質量%~95質量%、好ましくは55質量%~90質量%、より好ましくは60質量%~80質量%である。
【0021】
前記第1溶剤は、前述のとおり、沸点が250℃未満の溶剤である。前記第1溶剤は、例えば、1,3‐プロパンジオール、1,2‐ヘキサンジオール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、n―プロパノール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルリルアルコール、t―ブタノール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールn―ブチルエーテル、2―メチル―1,3―プロパンジオール、1,2―ブタンジオール、1,3―ブタンジオール、1,4―ブタンジオール、1,4―ブテンジオール、2―メチル―2,4―ペンタンジオール、β―チオジグリコール、1,2,6―ヘキサントリオール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、N―メチル―2―ピロリドン、2―ジメチルアミノエタノール、4-ブチロラクトン、ε―カプロラクトン、3―メトキシー1―ブタノール、等があげられる。
【0022】
前記第2溶剤は、前述のとおり、沸点が250℃以上の溶媒である。前記第2溶剤は、例えば、造膜助剤として機能する。前記第2溶剤は、例えば、トリプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,6―ヘキサンジオール、トリプロピレングリコールブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、ポリエチレングリコール600、ポリエチレングリコール800、グリセリン、2-ピロリドン、1,2,4―ブタントリオール、トリメチロールエタン、等があげられる。
【0023】
また、前記第2溶剤は、前記第2溶剤と前記樹脂粒子とのHSP距離(R)及びハンセン空間上において前記樹脂粒子を溶解した前記第2溶剤のプロットのみを包含する球(以下、「ハンセン球」という場合がある。)の半径(R)から算出される相対エネルギー差(R/R)を示すREDが、3以下であり、好ましくは、2.6以下、1.6以下、1.0以下である。
【0024】
前記HSP距離は、前記第2溶剤のHSP値、及び、前記樹脂粒子のHSP値から算出される。前記樹脂粒子のHSP値は、前記ハンセン球の中心座標から算出される。前記HSP距離は、例えば、次の方法により算出することができる。
【0025】
まず、前記第2溶剤と前樹脂粒子とを任意の割合で混合する。前記任意の割合は、例えば、等量である。前記混合した結果を目視観察し、混合物の性状変化を確認する。前記性状変化とは、例えば、ゲル化、白濁等の、混合前後の物性や外観の変化である。つぎに、従来公知の装置を用いて、前記第2溶剤のHSP値を算出し、これを三次元座標(ハンセン空間)上にプロットする。なお、前記HSP値は、例えば、実験等から導き出した測定値であってもよく、文献等記載の文献値であってもよい。つぎに、前記混合により樹脂粒子の性状を変化させた前記第2溶剤をすべて包含するハンセン球を、前記ハンセン空間上に形成する。前記ハンセン球の中心座標を、前記樹脂粒子のHSP値とする。前記第2溶剤のHSP値、及び、前記樹脂粒子のHSP値から、前記HSP距離(R)を算出することができる。なお、前記HSP距離(R)は、下記計算式(1)から算出することができる。

Ra 2=4×(dD1-dD2)2+(dP1-dP2)2+(dH1-dH2)2 (1)

前記計算式(1)において、
dD1は、前記第2溶剤の分子間の分散力によるエネルギーであり、
dP1は、前記第2溶剤の分子間の双極子相互作用によるエネルギーであり、
dH1は、前記第2溶剤の分子間の水素結合によるエネルギーであり、
dD2は、前記樹脂粒子の分子間の分散力によるエネルギーであり、
dP2は、前記樹脂粒子の分子間の双極子相互作用によるエネルギーであり、
dH2は、前記樹脂粒子の分子間の水素結合によるエネルギーである。
【0026】
前述のとおり、前記第2溶剤の配合量(S2)と前記樹脂粒子の固形分配合量(R)との配合比(S2/R)が、0.7~2.3であり、耐溶剤性の向上の観点から、好ましくは、0.9~2.0である。
【0027】
前記第2溶剤の配合量(S2)と前記第1溶剤の配合量(S1)との配合比(S2/S1)は、例えば、0.3~3.0、0.3~1.5、0.3~2.0である。
【0028】
前記第1溶剤の配合量(S1)及び前記第2溶剤の配合量(S2)の合計量(S1+S2)は、例えば、30以下、28以下、25以下である。
【0029】
前記樹脂組成物の粘度は、例えば、20mPa・s以下、10mPa・s以下、7mPa・s以下、または5mPa・s以下であってもよく、かつ、1mPa・s以上、または2mPa・s以上であってもよい。例えば、1~20mPa・s、好ましくは2~10mPa・sである。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、例えば、以下のメカニズムにより、耐溶剤性を含む塗膜性能が向上すると推定される。主に樹脂から成る塗膜本来の性能を発揮し、耐溶剤性を含む塗膜性能が向上するためには、塗膜の造膜性が重要となる。塗膜の造膜性が向上するためには、造膜助剤(例えば、本発明における第2溶剤)と塗膜として機能する樹脂(例えば、本発明における樹脂粒子。以下、単に「樹脂」という場合がある。)との混合性と、塗膜の乾燥性を調整する必要がある。
【0031】
ここで、樹脂と造膜助剤とのHSP距離は、造膜助剤と樹脂との混合性において重要になる。前記HSP距離が遠いものを選択した場合、樹脂と造膜助剤とが混ざり合わないため、造膜性が悪くなる。一方で、前記HSP距離が近いものを選択した場合、樹脂と造膜助剤とがよく混ざり合うため、造膜性が良好になる。
【0032】
また、造膜助剤の沸点も、造膜助剤と樹脂との混合性において重要になる。造膜助剤の沸点が低いものを選択した場合、造膜助剤がすぐに蒸発し、樹脂が造膜の際に造膜助剤と樹脂とが混ざる時間が短くなるため、樹脂が膨潤しにくくなる。一方で、造膜助剤の沸点が高いものを選択した場合、造膜時に造膜助剤と樹脂とが混ざる時間が長くなるため、樹脂が膨潤しやすくなり、結果として造膜性が良好となる。
【0033】
ここで、造膜助剤の量が多すぎる場合には、前記樹脂が過度に膨潤することにより、前記樹脂の分散が不安定となり、例えば、前記樹脂組成物中で前記樹脂が沈降してしまうことがある。このため、貯蔵安定性が悪くなる。したがって、造膜助剤の量が多すぎることが無いように、造膜助剤および造膜助剤以外の溶剤(以下、「主溶剤」という。)を混合して使用することで、造膜性が良好となる。
【0034】
塗膜の乾燥性は、例えば、主溶剤(例えば、本発明における第1溶剤)の沸点及び希釈溶剤(造膜助剤及び主溶剤を含む混合溶剤)の総量によって変化する。主溶剤の沸点が高い場合や希釈溶剤の総量が多い場合には、乾燥後においても塗膜に溶剤が残ってしまうため、塗膜にべたつきが残ってしまう。また、主溶剤の沸点が低い場合や希釈溶剤の総量が少ない場合には、乾燥時に主溶剤や希釈溶剤が早く乾燥しすぎてしまうため、塗膜中の樹脂の流動性が阻害され、結果として造膜の進行が阻害される。すなわち、溶剤の沸点及び溶剤の総量のバランスが悪い場合には、乾燥性が著しく低下し、結果として造膜性が悪くなる。一方で、主溶剤の沸点及び希釈溶剤の総量のバランスが最適である場合には、乾燥性が良好であるため、造膜助剤の働きが十分に維持され、結果として造膜性が良好となる。
【0035】
ただし、このメカニズムは推定に過ぎず、本発明はこれに限定されない。
【0036】
前記樹脂組成物は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、定着剤、湿潤剤、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防カビ剤等があげられる。
【0037】
前記界面活性剤は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品を用いてもよい。具体的に、前記界面活性剤は、例えば、シリコーン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤等があげられる。
【0038】
前記シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社製の「シルフェイス(登録商標)SAG002」、「シルフェイス(登録商標)SAG005」、「シルフェイス(登録商標)SAG503A」等があげられる。
【0039】
前記アセチレン系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業(株)製の「オルフィン(登録商標)E1004」、「オルフィン(登録商標)E1008」及び「オルフィン(登録商標)E1010」;エアープロダクツアンドケミカルズ社製の「サーフィノール(登録商標)440」、「サーフィノール(登録商標)465」及び「サーフィノール(登録商標)485」;川研ファインケミカル(株)製の「アセチレノール(登録商標)E40」及び「アセチレノール(登録商標)E100」;等があげられる。
【0040】
前記樹脂組成物は、前記シリコーン系界面活性剤や前記アセチレン系界面活性剤に加え/代えて、他の界面活性剤を含んでもよい。前記他の界面活性剤としては、例えば、花王(株)製のノニオン界面活性剤「EMULGEN(登録商標)」シリーズ、「RHEODOL(登録商標)」シリーズ、「EMASOL(登録商標)」シリーズ、「EXCEL(登録商標)」シリーズ、「EMANON(登録商標)」シリーズ、「AMIET(登録商標)」シリーズ及び「AMINON(登録商標)」シリーズ等;東邦化学工業(株)製のノニオン界面活性剤「ソルボン(登録商標)」シリーズ等;ライオン(株)製のノニオン界面活性剤「DOBANOX(登録商標)」シリーズ、「LEOCOL(登録商標)」シリーズ、「LEOX(登録商標)」シリーズ、「LAOL,LEOCOL(登録商標)」シリーズ、「LIONOL(登録商標)」シリーズ、「CADENAX(登録商標)」シリーズ、「LIONON(登録商標)」シリーズ及び「LEOFAT(登録商標)」シリーズ等;花王(株)製のアニオン界面活性剤「EMAL(登録商標)」シリーズ、「LATEMUL(登録商標)」シリーズ、「VENOL(登録商標)」シリーズ、「NEOPELEX(登録商標)」シリーズ、NS SOAP、KS SOAP、OS SOAP及び「PELEX(登録商標)」シリーズ等;ライオン(株)製のアニオン界面活性剤「LIPOLAN(登録商標)」シリーズ、「LIPON(登録商標)」シリーズ、「SUNNOL(登録商標)」シリーズ、「LIPOTAC(登録商標) TE,ENAGICOL」シリーズ、「LIPAL(登録商標)」シリーズ及び「LOTAT(登録商標)」シリーズ等;第一工業製薬(株)製のカチオン界面活性剤「カチオーゲン(登録商標)ES-OW」及び「カチオーゲン(登録商標)ES-L」等;があげられる。
【0041】
前記界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール等のポリエーテル;アルキレングリコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;2-ピロリドン;N-メチル-2-ピロリドン;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン;等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0043】
前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0044】
つぎに、本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)について説明する。本発明の水性インクは、本発明の樹脂組成物、及び顔料を含む。
【0045】
前記顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これらの顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、74、78、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、150、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、209、221、222、224及び238;C.I.ピグメントバイオレット19及び196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36;並びにこれらの顔料の固溶体等もあげられる。
【0046】
前記顔料は、樹脂分散剤によって溶媒中に分散されるものであってもよい(樹脂分散顔料ともいう)。前記樹脂分散剤としては、例えば、一般的な高分子分散剤(顔料分散用樹脂や樹脂分散剤等ともいう)等を用いてよく、自家調製してもよい。また、本発明の水性インクにおいて、前記顔料は、高分子によりカプセル化されたものであってもよい。前記樹脂分散剤としては、例えば、メタクリル酸及びアクリル酸の少なくとも一方をモノマーとして含むものを用いることができ、例えば、市販品を用いてもよい。前記樹脂分散剤は、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等の疎水性単量体、又は、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体からなる群から選ばれる2つ以上の単量体からなるブロック共重合体、グラフト共重合体、あるいはランダム共重合体、又はこれらの塩等であってもよい。前記市販品としては、例えば、ジョンソンポリマー(株)製の「ジョンクリル(登録商標)611」、「ジョンクリル(登録商標)60」、「ジョンクリル(登録商標)586」、「ジョンクリル(登録商標)687」、「ジョンクリル(登録商標)63」及び「ジョンクリル(登録商標)HPD296」;ビックケミー社製の「Disperbyk190」及び「Disperbyk191」;ゼネカ社製の「ソルスパース20000」及び「ソルスパース27000」;等があげられる。
【0047】
前記顔料分散用樹脂を用いた前記顔料の分散方法としては、例えば、分散装置を使用して顔料を分散させることがあげられる。前記顔料の分散に使用する分散装置は、一般的な分散機であれば特に限定はされないが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル(例えば、高速型)等があげられる。
【0048】
前記顔料は、自己分散型顔料であってもよい。前記自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性官能基及びこれらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。前記自己分散型顔料は、例えば、特開平8-3498号公報、特表2000-513396号公報、特表2008-524400号公報、特表2009-515007号公報、特表2011-515535号公報等に記載の方法によって顔料が処理されたものを用いることができる。前記自己分散型顔料の原料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。また、前記処理を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」及び「MA100」等のカーボンブラック等があげられる。前記自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・コーポレーション社製の「CAB-O-JET(登録商標)200」、「CAB-O-JET(登録商標)250C」、「CAB-O-JET(登録商標)260M」、「CAB-O-JET(登録商標)270Y」、「CAB-O-JET(登録商標)300」、「CAB-O-JET(登録商標)400」、「CAB-O-JET(登録商標)450C」、「CAB-O-JET(登録商標)465M」及び「CAB-O-JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW-2」及び「BONJET(登録商標)BLACK CW-3」;東洋インク製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」等があげられる。
【0049】
前記顔料の濃度は、特に限定されず、例えば、2重量%以上、4重量%以上、6重量%以上であってもよく、例えば、6重量%以下、4重量%以下、2重量%以下であってもよい。
【0050】
本発明の水性インクは、さらに、添加剤として定着剤を含んでもよい。前記定着剤は、前記着色剤を記録媒体に定着させるためのものである。前記記録媒体は、特に限定されないが、例えば、非吸収性基材、記録用紙等があげられる。
【0051】
つぎに、本発明の樹脂組成物又は本発明の水性インクに用いる、前記第2溶剤及び前記樹脂粒子のスクリーニング方法について説明する。前記スクリーニング方法は、前記相対エネルギー差(RED)を算出する工程と、前記REDが3未満の関係にある前記第2溶剤及び前記樹脂粒子を選択する工程と、を含む。前記REDの算出方法は、本発明の樹脂組成物において説明したREDの計算方法と同様である。
【0052】
つぎに、本発明のインクジェット記録装置、及びインクジェット記録方法について説明する。
【0053】
本発明のインクジェット記録装置は、流路、及び付与手段を含み、前記流路に供給された樹脂組成物又は水性インクを、前記付与手段によって対象物に付与し、前記樹脂組成物は、本発明の樹脂組成物であり、前記水性インクは、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。
【0054】
図1に、前記インクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインク収容部(インクカートリッジ2)と、インク吐出部(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0055】
4つのインクカートリッジ2は、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記4色の水性インクのうちの少なくとも一つが、本発明の水性インクである。また、例えば、前記水性インクのうちの少なくとも一つを、本発明の樹脂組成物としてもよい。本例では、4つのインクカートリッジ2のセットを示したが、これに代えて、例えば、水性イエローインク収納部、水性マゼンタインク収納部、水性シアンインク収納部、及び水性ブラックインク収納部を形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジを用いてもよい。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0056】
ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、非吸収性基材等)Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008-246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0057】
インクジェットヘッド3は、例えば、金属製の薄板が複数層重ねて構成されている。それぞれの薄板には、貫通穴が形成されている。貫通穴が形成された薄板が複数層重なることで、前記水性インクを通すための流路が形成される。前記薄板は、例えば、それぞれ、接着剤により接着されている。
【0058】
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008-246821号公報参照)。
【0059】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。図1において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0060】
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。インクジェット記録装置1において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置1内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。また、これらの態様においては、4つのインクカートリッジ2に代えて、ボトル形状の4つのインクボトルを用いてもよい。この場合、前記インクボトルには、外部から内部にインクを注入するための注入口が設けられていることが好ましい。
【0061】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、記録用紙Pが、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。記録用紙Pは、インクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入される。導入された記録用紙Pに、インクジェットヘッド3から吐出される水性インクにより所定の記録がされる。この吐出は、例えば、前述のように、第1の吐出量で行われてもよいし、特定の条件を満たした場合に第2の吐出量で行われてもよい。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。図1においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0062】
図1に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドやロールトゥロールを採用する装置であってもよい。なお、前記シリアル型インクジェットヘッドは、インクジェットヘッドを記録媒体の幅方向に往復させつつ印刷するインクジェットヘッドである。ライン型インクジェットヘッドは、記録媒体の幅方向全体をカバーするインクジェットヘッドである。ロールトゥロールは、ロール状の記録媒体を繰り出して印刷し、再びロール状に巻き取る方式である。
【0063】
本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に本発明の樹脂組成物又は本発明の水性インクをインクジェット方式により付与して記録する記録工程を含むことを特徴とする。前記記録工程、例えば、図1に示すインクジェット記録装置を用いて実施できる。
【0064】
さらに、本発明のインクジェット記録方法においては、例えば、前記記録媒体の記録部分を加熱する乾燥工程を含んでもよい。前記乾燥工程としては、前記記録媒体に付与された前記樹脂組成物又は前記水性インク、もしくは前記樹脂組成物又は前記水性インク中に含まれる溶媒(水及び溶剤)を蒸発除去する以外は特に制限はなく、温風、ヒートプラテン、ヒートプレス等、目的に応じて適宜選択することができる。
【0065】
前記乾燥工程における乾燥温度の下限値は、例えば、90℃以上であり、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは110℃以上である。乾燥温度が90℃未満である場合、水の揮発が遅くなる。その結果、例えば、前記付与後に前記樹脂組成物又は前記水性インクに含まれる溶剤比率がリッチな状態にならない為、造膜作用が弱くなり、塗膜性能が低下する。一方、乾燥温度が90℃以上である場合、水の揮発が早くなる。その結果、前記付与後に前記樹脂組成物又は前記水性インクに含まれる溶剤比率がリッチな状態になりやすい為、造膜作用が強くなり、塗膜性能が向上する。したがって、前記乾燥温度は、90℃以上であることが好ましい。また、前記乾燥工程における乾燥温度の上限値は、例えば、基材(記録媒体)にシワや焦げなどの異変が起きない温度であり、使用する基材によって異なる。前記乾燥温度の上限値は、例えば、3M社製のスコッチカルグラフィックフィルムIJ1220であれば120℃以下、王子製紙(株)製のOKトップコート+であれば140℃以下であってもよい。
【0066】
なお、前記乾燥温度の下限値は、使用する樹脂組成物又は水性インクに応じて決定されるが、使用する樹脂組成物又は水性インクとの関係においては、前記乾燥温度の上限値は高い程、その塗膜性能が向上する傾向にある。一方で、前記乾燥温度が高い程、前記基材が変質してしまう可能性がある。したがって、本発明において、前記乾燥温度における上限値は、前記樹脂組成物又は前記水性インクとの関係において、特に限定されるものではなく、前記樹脂組成物又は前記水性インクが着弾する基材によって決定されるものである。
【0067】
また、前記乾燥工程における乾燥時間は、その下限値が、例えば、1分以上、2分以上、3分以上であり、その上限は、例えば、10分以下、5分以下、4分以下である。乾燥条件は、好ましくは、前記乾燥温度が90℃以上で前記乾燥時間が1分以上であり、より好ましくは、前記乾燥温度が110℃以上で前記乾燥時間が1分以上である。
【実施例0068】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。また、以下の説明において、「部」および「%」は、特に言及のない限り、質量基準である。さらに、各種物性は、後述する測定方法に準じて測定した。
【0069】
[樹脂組成物、水性インクの調整]
(実施例1~19、比較例1~10)
組成表(表1~5)における、第1溶剤、第2溶剤、及び樹脂粒子を、均一に混合し、樹脂組成物を得た。色材を含むものについては、表1~5記載の色材を前記樹脂組成物に加え、均一に混合した。得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、表1~5に示す実施例1~19、比較例1~10の樹脂組成物及びインクジェット記録用水性インクを得た。
【0070】
[REDの計算]
つぎの手順により、表1~5記載の相対エネルギー差REDを計算した。まず、表1~5記載の各第2溶剤又は各第2溶剤以外の溶剤1gと、ポリマー1gとを十分に混ぜ合わせた。十分に攪拌した後、混合物の性状を確認し、「ゲル化」「白濁」「変化なし」の3つに分類した。つぎに、HSP値計算ソフト(HSPiP、Pirika.com社製)を用いて、前記第2溶剤及び前記第2溶剤以外の溶剤のHSP値を計算した。つぎに、前記ソフトを用いて、前記ポリマーを「ゲル化」「白濁」させた溶剤をすべて包含する球(ハンセン球)を作製し、前記ハンセン球の中心から、各ポリマーのHSP値を計算した。つぎに、前記第2溶剤及び前記第2溶剤以外の溶剤のHSP値、及び前記各ポリマーのHSP値から、溶剤と樹脂とのHSP距離(R)を算出した。前記HSP距離(R)は、前述した実施形態記載の前記計算式(1)より求めた。そして、前記ハンセン球の半径(R)と、HSP距離(R)から、前記相対エネルギー差RED(R/R)を計算した。
【0071】
[物性評価]
実施例1~19、比較例1~10の水性インクについて、(a)乾燥直後の表面タック性、(b)乾燥ムラ、(c)貯蔵安定性(常温)、(d)OD値、(e)耐溶剤性を下記方法により評価した。
【0072】
なお、下記の塗膜に関する評価では、次のように塗膜を作製した。まず、基材(塩ビシート、品番:スコッチカルグラフィックフィルムIJ1220、3M社製)上に、バーコーター(オーエスジーシステムプロダクツ社製、深さ9μm)を用いて、実施例1~19及び比較例1~10の水性インクを塗布した。これを、110℃、1minの条件で温風乾燥機を用いて乾燥させ、塗膜を得た。
【0073】
(a)乾燥直後の表面タック性
作製直後の塗膜を手袋(材質:天然ゴム、品番:アズピュアラテックス手袋、アズワン社製)で1秒間触れた後の、手袋への塗膜の転移及び塗膜面の跡残りを目視で確認し、乾燥直後の表面タック性を評価した。
【0074】
乾燥直後の表面タック性 評価基準
A:手袋への転写、塗膜面の跡残りがなかった。
B:手袋への転写、又は塗膜面の跡残りがあった。
【0075】
(b)乾燥ムラ
作製直後の塗膜について、蛍光灯(品番:FL20SNEDL、PANASONIC(株)社製)照射下で、塗膜から目を5cm程度離し、45度の角度から目視観察し、膜の均一性から乾燥ムラを評価した。
【0076】
乾燥ムラ 評価基準
A:乾燥による縞模様が見られず、均一に塗膜が形成されていた。
B:乾燥による縞模様が見られ、均一な塗膜が形成されなかった。
【0077】
(c)貯蔵安定性(常温)
作製した実施例及び比較例の水性インクを、密閉容器に入れ、常温の環境下に5日間保存した。前記保存したインクについて、顕微鏡(品番:LV100ND POL/DS、(株)Nikon社製)を用いて、透過光にて200倍の倍率でインク成分の凝集の有無を観察し、常温環境における貯蔵安定性を評価した。
【0078】
貯蔵安定性(常温) 評価基準
○:インクの凝集が見られなかった。
×:インクの凝集が見られた。
【0079】
(d)OD値
作製した塗膜について、光学濃度(OD値)を、X-Rite社製の分光測色計exact(フィルタ:M0(No)、光源:D20、視野角:2°、ISOステータスT)により測定し、Mg、Cy、Bk、Yeの各色材について、下記評価基準により光学濃度(OD値)を評価した。
【0080】
OD値 評価基準
A:Mg1.0以上、Cy1.7以上、Bk1.4以上、Ye1.6以上
B:Mg1.0未満、Cy1.7未満、Bk1.4未満、Ye1.6未満
【0081】
(e)耐溶剤性
学振型摩擦堅牢度試験機(AB-301、テスター産業(株)社製)に、70%エタノール300μLを染み込ませた評価用の布(カナキン3号)をセットし、荷重200g、3.6m/min、5往復の条件で、作製した塗膜表面を擦過し、塗膜の耐溶剤性を評価した。なお、耐溶剤性試験では、表1~5記載の条件に乾燥条件を変更した以外は、前述と同様の条件で塗膜を作製した。具体的には、「110℃、1min」の乾燥条件をもとに、実施例及び比較例の耐溶剤性を評価した。また、より低温乾燥条件での耐溶剤性を確認するために、代表として実施例1~2、7、11~15については、乾燥条件を「90℃、1min」としたものについても評価した。
【0082】
耐溶剤性 評価基準
A:擦過による塗膜剥がれの面積が30%未満であった。
B:擦過による塗膜剥がれの面積が30%以上、70%未満であった。
C:擦過による塗膜剥がれの面積が70%以上であった。
【0083】
実施例1~19、比較例1~10の水性インクの水性インク組成及び評価結果を、表1~5に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
表1~5に示すように、実施例1~19は、貯蔵安定性が「○」、110℃乾燥における耐溶剤性が「B」以上であり、貯蔵安定性と耐溶剤性に優れていた。また、乾燥直後の表面タック性が「A」以上、乾燥ムラが「B」以上であった。
【0090】
また、前記配合比(S2/S1)が、0.3~3.0である、実施例1~7、10~19は、他の実施例よりも乾燥ムラの評価がより優れており、全て「A」以上であった。
【0091】
さらに、前記配合比(S2/R)を0.9~2.0とし、前記第1溶剤の配合量(S1)及び前記第2溶剤の配合量(S2)の合計量(S1+S2)を30以下とした、実施例1、2、4~6、10~19は、他の実施例よりも耐溶剤性がより優れており、全て「A」以上であった。
【0092】
加えて、顔料を含む、実施例1~4、6~19は、乾燥直後の表面タック性が「A」以上、乾燥ムラが「B」以上、貯蔵安定性が「○」、110℃乾燥における耐溶剤性が「B」以上であり、かつ、OD値が「B」以上であった。
【0093】
一方、前記第1溶剤の沸点が250℃以上のものを使用した比較例1は、乾燥直後の表面タック性及び110℃乾燥における耐溶剤性が「C」であった。また、前記第2溶剤の要件を満たさない、比較例2~5、9~10は、乾燥直後の表面タック性及び110℃乾燥における耐溶剤性のうち少なくとも一方が「C」であった。さらに、前記配合比(S2/R)が、0.7~2.0を満たさない、比較例6~8は、貯蔵安定性が「×」であるか、110℃乾燥における耐溶剤性が「C」であるかのいずれかであった。比較例においては、貯蔵安定性と耐溶剤性とを両立できなかった。
【0094】
上記実施形態及び実施例の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載し得るが、以下には限定されない。
(付記1)
樹脂粒子、水、第1溶剤、及び第2溶剤を含み、
前記第1溶剤は、沸点が250℃未満の溶剤であり、
前記第2溶剤は、沸点が250℃以上の溶剤であり、かつ、前記第2溶剤と前記樹脂粒子とのHSP距離(R)及びハンセン空間上において前記樹脂粒子を溶解した前記第2溶剤のプロットのみを包含する球(ハンセン球)の半径(R)から算出される相対エネルギー差(R/R)を示すREDが3以下であり、
前記HSP距離は、前記第2溶剤のHSP値、及び、前記樹脂粒子のHSP値から算出され、
前記樹脂粒子のHSP値は、前記ハンセン球の中心座標から算出され、
前記第2溶剤の配合量(S2)と前記樹脂粒子の固形分配合量(R)との配合比(S2/R)が、0.7~2.3である、
樹脂組成物。
(付記2)
前記第2溶剤の配合量(S2)と前記第1溶剤の配合量(S1)との配合比(S2/S1)が、0.3~3.0である、
付記1記載の樹脂組成物。
(付記3)
前記配合比(S2/R)が、0.9~2.0であり、
前記第1溶剤の配合量(S1)及び前記第2溶剤の配合量(S2)の合計量(S1+S2)が、30以下である、
付記1又は2記載の樹脂組成物。
(付記4)
付記1から3のいずれかに記載の樹脂組成物、及び顔料を含む、
インクジェット記録用水性インク。
(付記5)
流路、及び付与手段を含み、
前記流路に供給された樹脂組成物を、前付与手段によって対象物に付与し、
前記樹脂組成物は、付記1から3のいずれかに記載の樹脂組成物である、
インクジェット記録装置。
(付記6)
流路、及び付与手段を含み、
前記流路に供給された水性インクを、前記付与手段によって対象物に付与し、
前記水性インクは、付記4記載のインクジェット記録用水性インクである、
インクジェット記録装置。
(付記7)
記録媒体に樹脂組成物をインクジェット方式により付与して記録する記録工程を含み、
前記樹脂組成物は、付記1から3のいずれかに記載の樹脂組成物である、
インクジェット記録方法。
(付記8)
記録媒体に水性インクをインクジェット方式により付与して記録する記録工程を含み、
前記水性インクは、付記4記載のインクジェット記録用水性インクである、
インクジェット記録方法。
(付記9)
さらに、前記記録媒体の記録部分を加熱する乾燥工程を含み、
前記乾燥工程における乾燥温度が、90℃以上である、
付記7記載のインクジェット記録方法。
(付記10)
さらに、前記記録媒体の記録部分を加熱する乾燥工程を含み、
前記乾燥工程における乾燥温度が、90℃以上である、
付記8記載のインクジェット記録方法。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上のように、本発明の樹脂組成物、及び水性インクは、貯蔵安定性及び耐溶剤性を両立する。本発明の樹脂組成物、及び水性インクの用途は、各種記録媒体へのインクジェット記録に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 インクジェット記録装置
2 インクカートリッジ
3 インク吐出部(インクジェットヘッド)
4 ヘッドユニット
5 キャリッジ
6 駆動ユニット
7 プラテンローラ
8 パージ装置
図1