(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127390
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】接合材、接合構造体、及び接合方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/10 20220101AFI20240912BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240912BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20240912BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240912BHJP
【FI】
B22F1/10
B22F1/00 K
B22F1/054
B22F3/00 A
B22F1/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036518
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】518075967
【氏名又は名称】学校法人永守学園
(71)【出願人】
【識別番号】592025786
【氏名又は名称】株式会社日本スペリア社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】生津 資大
(72)【発明者】
【氏名】安木 大恭
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】西村 哲郎
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA02
4K018AA03
4K018BA01
4K018BA02
4K018BB05
4K018BD04
4K018DA21
(57)【要約】
【課題】内部にクラックが発生したとしても、当該クラックの成長を抑制できる接合材、当該接合材を用いて構成される接合構造体、及び接合方法の提供を目的とした。
【解決手段】本発明の接合材は、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とし、ミクロンオーダーの銅系金属粒子を0.1質量%以上、1質量%以下の範囲で含む複合接合組成物により構成される第一接合層60と、第一接合層60に対して積層され、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とする接合組成物により構成される第二接合層70と、を含んで構成されること、を特徴とするものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とし、ミクロンオーダーの銅系金属粒子を0.1質量%以上、1質量%以下の範囲で含む複合接合組成物により構成される第一接合層と、
前記第一接合層に対して積層され、サブミクロン以下の第二金属粒子を主成分とする接合組成物により構成される第二接合層と、
を含んで構成されること、を特徴とする接合材。
【請求項2】
前記第一金属粒子及び前記第二金属粒子が、同一種の金属粒子であること、を特徴とする請求項1に記載の接合材。
【請求項3】
前記第一金属粒子及び前記第二金属粒子が、銀粒子であること、を特徴とする請求項1に記載の接合材。
【請求項4】
前記第一接合層の厚みが、25μm以上であり、
前記第二接合層の厚みが、50μm以上であること、を特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の接合材。
【請求項5】
前記第一接合層の厚みが、前記第二接合層の厚みに対して30%以上、50%以下の範囲であること、を特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の接合材。
【請求項6】
接合材を介して基材に対して接合対象物を接合した接合構造体であって、
前記接合材が、
サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とし、ミクロンオーダーの銅系金属粒子を0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含む複合接合組成物により構成される第一接合層と、
前記第一接合層に対して積層され、サブミクロン以下の第二金属粒子を主成分とする接合組成物により構成される第二接合層と、
を含んで構成されたものであること、を特徴とする接合構造体。
【請求項7】
前記第一金属粒子及び前記第二金属粒子が、同一種の金属粒子であること、を特徴とする請求項6に記載の接合構造体。
【請求項8】
前記第一金属粒子及び前記第二金属粒子が、銀粒子であること、を特徴とする請求項6に記載の接合構造体。
【請求項9】
前記第一接合層の厚みが、25μm以上であり、
前記第二接合層の厚みが、50μm以上であること、を特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の接合構造体。
【請求項10】
前記第一接合層の厚みが、前記第二接合層の厚みに対して30%以上、50%以下の範囲であること、を特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の接合構造体。
【請求項11】
前記基材に対して前記第一接合層が接触するとともに、前記第二接合層に対して前記接合対象物が接触するように、前記接合材を前記基材及び前記接合対象物の間に介在させた状態において、前記基材に対して前記接合対象物を接合したものであること、を特徴とする請求項6~8のいずれかに記載の接合構造体。
【請求項12】
接合材を介して基材に対して接合対象物を接合するための接合方法であって、
前記接合材として、請求項1~3のいずれかに記載の接合材が用いられ、
前記接合材を前記基材と前記接合対象物との間に介在させて積層し、積層方向への加圧力を作用させた状態において加熱して接合すること、を特徴とする接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合材、接合構造体、及び接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているようなナノ金属ペースト及びこれを用いた接合方法が提供されている。特許文献1に係るナノ金属ペーストは、サブミクロン以下の銀核の周囲に有機被覆層を形成した複合ナノ金属粒子と、有機被覆層が熱分解する熱分解温度域で熱分解に寄与する酸素を供給する酸素供給源とを少なくとも含み、酸素供給源が酸素含有金属化合物からなり、酸素供給源に含まれる酸素成分の質量が複合ナノ金属粒子100mass%に対して0.01mass%~2mass%の範囲にあるものとされてている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に係るナノ金属ペースト及びこれを用いた接合方法は、ナノ第一金属粒子と銅粒子を含むナノ金属ペーストに、酸素供給源となるサブミクロン~数十μmの亜酸化銅を含有させることにより、焼成時にナノ第一金属粒子の被覆層を効率的に分解し、接合強度等の接合特性を向上させることができる。しかしながら、上記特許文献1に係るナノ金属ペーストのように、接合特性において優れた特性を示す接合材であったとしても、熱衝撃が繰り返し作用するような過酷な使用環境下において使用されるうちに、接合材の内部にクラックが発生してしまう可能性がある。
【0005】
ここで、接合材の内部にクラックが発生したとしても、多くの場合、直ちに接合不良が生じる訳ではない。しかしながら、接合材の内部においてクラックが発生した状態においてさらに熱衝撃が繰り返し作用する環境で使用を継続されると、クラックが成長し、やがて接合不良が生じてしまう。かかる知見に基づいて本発明者らが鋭意検討したところ、仮に接合材の内部においてクラックが生じたとしても、クラックの成長を抑制することができれば、熱衝撃が繰り返し作用するような過酷な使用環境下において使用を継続されたとしても、前述したクラックに起因する接合不良の発生を抑制できるのではないかとの知見に至った。
【0006】
上述した知見に基づき、本発明は、内部にクラックが発生したとしても、当該クラックの成長を抑制することにより接合信頼性を向上させることが可能な接合材、当該接合材を用いて構成される接合構造体、及び接合方法の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の接合材は、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とし、ミクロンオーダーの銅系金属粒子を0.1質量%以上、1質量%以下の範囲で含む複合接合組成物により構成される第一接合層と、前記第一接合層に対して積層され、サブミクロン以下の第二金属粒子を主成分とする接合組成物により構成される第二接合層と、を含んで構成されること、を特徴とするものである。
【0008】
(2)本発明の接合材は、前記第一金属粒子及び前記第二金属粒子が、同一種の金属粒子であること、を特徴とするものであると良い。
【0009】
(3)本発明の接合材は、前記第一金属粒子及び前記第二金属粒子が、銀粒子であること、を特徴とするものであると良い。
【0010】
(4)本発明の接合材は、前記第一接合層の厚みが、25μm以上であり、前記第二接合層の厚みが、50μm以上であること、を特徴とするものであると良い。
【0011】
(5)本発明の接合材は、前記第一接合層の厚みが、前記第二接合層の厚みに対して30%以上、50%以下の範囲であること、を特徴とするものであると良い。
【0012】
(6)本発明の接合構造体は、接合材を介して基材に対して接合対象物を接合したものであって、前記接合材が、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とし、ミクロンオーダーの銅系金属粒子を0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含む複合接合組成物により構成される第一接合層と、前記第一接合層に対して積層され、サブミクロン以下の第二金属粒子を主成分とする接合組成物により構成される第二接合層と、を含んで構成されたものであること、を特徴とするものである。
【0013】
(7)本発明の接合構造体は、前記第一金属粒子及び前記第二金属粒子が、同一種の金属粒子であること、を特徴とするものであると良い。
【0014】
(8)本発明の接合構造体は、前記第一金属粒子及び前記第二金属粒子が、銀粒子であること、を特徴とするものであると良い。
【0015】
(9)本発明の接合構造体は、前記第一接合層の厚みが、25μm以上であり、前記第二接合層の厚みが、50μm以上であること、を特徴とするものであると良い。
【0016】
(10)本発明の接合構造体は、前記第一接合層の厚みが、前記第二接合層の厚みに対して30%以上、50%以下の範囲であること、を特徴とするものであると良い。
【0017】
(11)本発明の接合構造体は、前記基材に対して前記第一接合層が接触するとともに、前記第二接合層に対して前記接合対象物が接触するように、前記接合材を前記基材及び前記接合対象物の間に介在させた状態において、前記基材に対して前記接合対象物を接合したものであること、を特徴とするものであると良い。
【0018】
(12)本発明の接合方法は、接合材を介して基材に対して接合対象物を接合するための接合方法であって、前記接合材として、上述した本発明の接合材が用いられ、前記接合材を前記基材と前記接合対象物との間に介在させて積層し、積層方向への加圧力を作用させた状態において加熱して接合すること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上述した課題を解決可能な接合材、接合構造体、及び接合方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る接合材及び接合構造体の構成を模式的に示した説明図である。
【
図2】超音波霧化システムの構成を模式的に示した説明図である。
【
図3】実施例に係る引張試験を行った結果を示す応力ひずみ線図であり、(a)は複合接合組成物膜について室温で行った試験結果、(b)は複合接合組成物膜について摂氏125度で行った試験結果、(c)は銀組成物膜について室温で行った試験結果、(d)は銀組成物膜について摂氏125度で行った試験結果である。
【
図4】実施例に係るクラック進行試験を行った結果を示す応力ひずみ線図であり、(a)は複合接合組成物膜について室温で行った試験結果、(b)は複合接合組成物膜について摂氏125度で行った試験結果、(c)は銀組成物膜について室温で行った試験結果、(d)は銀組成物膜について摂氏125度で行った試験結果である。
【
図5】実施例に係る構造体サンプル1~構造体サンプル3、及び構造体比較例1~構造体比較例2について、超音波探傷装置により得られた接合状態を示す画像である。
【
図6】実施例に係る構造体サンプル1~構造体サンプル3、及び構造体比較例1~構造体比較例2に係る接合率と、熱衝撃試験のサイクル数との関係に係るグラフである。
【
図7】実施例に係る構造体サンプル1~構造体サンプル3、及び構造体比較例1~構造体比較例2について、熱衝撃試験を1000サイクル行った後の接合率と、接合材の総厚みとの関係を示したグラフである。
【
図8】熱衝撃試験を1000サイクル行った構造体サンプル1~構造体サンプル3について、超音波断層写真を撮影することにより断面観察を行った結果を示す図である。
【
図9】実施例に係る構造体サンプルにおける熱衝撃に伴うクラックの生成状態について説明した説明図である。
【
図10】(a)は実施例に係る構造体サンプルの断面写真(SEM)、(b)は(a)に係る断面写真の破線部分を拡大したもの、(c),(d)は(b)に示した部分の要部についてのEDXマッピングを示す図である。
【
図11】構造体サンプル1~構造体サンプル3について、EDXマッピングを行った結果を示す図である。
【
図12】FEM解析により、熱衝撃が作用することにより発生する応力とクラックの発生の関係についてシミュレーションを行った結果を示す図である。
【
図13】クラックの進展に要するエネルギーについて、クラックの進展試験結果と、クラックの観察結果から概算した結果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る接合材、接合構造体、及び接合方法について説明する。
【0022】
本実施形態の接合材、接合構造体、及び接合方法は、前述した従来技術とは異なる技術的思想に立脚して、接合信頼性の向上を図ろうとするものである。具体的には、本実施形態の接合材、接合構造体、及び接合方法は、仮に接合材の内部においてクラックが生じたとしても、そのクラックの成長を抑制することで、接合信頼性の向上を図ろうとするものである。以下、本実施形態の接合材、接合構造体、及び接合方法について、さらに詳細に説明する。
【0023】
図1において模式的に示すように、本実施形態の接合構造体10は、接合材50を介して、銅板等からなる基材20に対し、半導体部品等からなる接合対象物30を接合したものである。本実施形態において用いられる接合材50は、後に詳述するように第一接合層60、及び第二接合層70とを積層したものである。接合構造体10は、基材に対して第一接合層60が接触し、接合対象物に対して第二接合層70が接触する状態において基材20と接合対象物30との間に介在した状態とされ、この状態において加圧及び加熱を行って接合したものである。
【0024】
接合材50は、上述した第一接合層60及び第二接合層70を含む複数の層を積層して構成された、多層構造を有するものである。接合材50は、例えば、第一接合層60及び第二接合層70に加えてさらに別の層を備えたもの等とすることができるが、本実施形態では第一接合層60及び第二接合層70の二層からなるものとされている。
【0025】
第一接合層60は、複合接合組成物により構成される層である。第一接合層60は、第一金属粒子を主成分とし、銅系金属粒子を含む複合接合組成物によって構成されている。銅系金属粒子は、銅を主成分とする金属材料によって構成された粒子であり、酸化銅(CuO)及び銅(Cu)のいずれか一方又は双方を含むものとすると良い。第一接合層60は、例えば、第一金属粒子を主成分とし、銅系金属粒子を含む複合接合組成物からなるペーストを乾燥させることにより形成される。
【0026】
第一金属粒子は、例えば銀、銅、金、ニッケル、アルミニウム等のように、導電性や耐熱性、加工性、耐食性、接合対象となる基材や接合対象物である電子部品等に対する密着性(ぬれ性)、製造コスト等の観点で適宜選択することができる。これらの観点に基づけば、第一接合層60を構成する第一金属粒子には、例えば銀粒子を好適に選択することができる。
【0027】
第一金属粒子は、サブミクロン以下の大きさを有する第一金属の粒子の状態とされ、第一接合層60を構成する複合接合組成物として添加されている。第一金属粒子の大きさは、1nm以上、300nm以下の範囲の大きさであることが好ましく、10nm以上、100nm以下の範囲の大きさであることがより一層好ましい。
【0028】
銅系金属粒子は、第一接合層60を構成する複合接合組成物において主成分をなす第一金属粒子に対して、ごく微少量添加されるものである。具体的には、銅系金属粒子は、第一金属粒子及び銅系金属粒子を含む複合接合組成物からなるペーストを乾燥させて第一接合層60とした状態において、0.1質量%以上、1質量%以下の範囲で含むものとされている。銅系金属粒子は、ミクロンオーダーの大きさを有する、酸化銅や銅などの銅系金属を粒子状の状態としたものであり、第一接合層60を構成する複合接合組成物として添加されている。銅系金属粒子の大きさは、1μm未満であることが望ましく、50nm以上500nm以下の範囲の大きさであることがより一層好ましい。また、銅系金属粒子の大きさは、1μm未満であることが望ましく、50nm以上500nm以下の範囲であることが好ましい。また、銅系金属粒子は、球状のものや、不定形のもの、表面に凹凸を有した形状のもの、多孔質のもの等とすると良い。
【0029】
上述したように、第一接合層60は、例えば、第一金属粒子を主成分とし、銅系金属粒子を含む複合接合組成物からなるペーストを乾燥させることにより形成できる。第一接合層60を構成する複合接合組成物からなるペーストは、第一金属粒子及び銅系金属粒子に加えて、有機溶媒や分散剤、界面活性剤等を含んだものとすることができる。有機溶媒は、第一金属粒子や銅系金属粒子の分散等の目的で使用されるものであり、例えば、イソプロパノール、ターピネオール、1-オクタノール、1-デカノール、テキサノール、イソボルニルシクロヘキサノール等のアルコール、グリセリン、3-メチル-1,3-ブタンジオール、ヘキシルジグリコール、ジブチルジグリコール、ジヒドロキシターピネオール等のポリオール、ブチルカルビトール、ジエチレングルコールモノブチルエーテル、ジヒドロターピニルメチルエーテル等のエーテル化合物、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルアセテート、γ-ブチルラクトン、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、乳酸エチル等のエステル化合物等からいずれかを単独、いは複数種組選択して使用すると良い。また、分散剤は、第一金属粒子や銅系金属粒子が凝集して固まるのを抑制する等の目的で使用されるものであり、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等を好適に利用できる。界面活性剤は、基材や接合対象物である電子部品等に対する密着性向上等の目的で利用可能であり、例えば、ステアリン酸ナトリウム及びオレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩等を好適に利用できる。第一接合層60は、第一金属粒子や銅系金属粒子に加えて、用途や目的に応じて各種の金属粒子や酸化物、窒化物等を添加したものとすることができる。
【0030】
第二接合層70は、第二金属粒子を主成分とする接合組成物で構成される層である。第二接合層70は、例えば、第二金属粒子を主成分とするペーストを乾燥させることにより形成される。
【0031】
第二金属粒子は、例えば銀、銅、金、ニッケル、アルミニウム等のように、導電性や耐熱性、加工性、耐食性、接合対象となる基材や接合対象物である電子部品等に対する密着性(ぬれ性)、製造コスト等の観点で適宜選択することができる。また、第二金属粒子は、上述した第一接合層60において主成分として含まれる第一金属粒子と異なるものとすることも可能であるが、接合時に第一接合層60及び第二接合層70が馴染み良く接合されること等を考慮すれば、第一金属粒子と同一種の金属粒子によって構成されることが望ましい。これらの観点に基づけば、第二接合層70を構成する第二金属粒子は、第一金属粒子と同様に、例えば銀粒子を好適に選択することができる。
【0032】
第二金属粒子は、サブミクロン以下の大きさを有する第二金属の粒子の状態とされ、第二接合層70を構成する複合接合組成物として添加されている。第二金属粒子の大きさは、1μm未満であることが望ましく、50nm以上500nm以下の範囲の大きさであることがより一層好ましい。
【0033】
上述したように、第二接合層70は、例えば、第二金属粒子を主成分とするペーストを乾燥させることにより形成できる。第二接合層70を構成するための接合組成物からなるペーストは、上述した第一接合層60を構成するためのペーストと同様に、第二金属粒子に加えて、有機溶媒や分散剤、界面活性剤等を含んだものとすることができる。有機溶媒は、第二金属粒子の分散等の目的で使用されるものであり、例えば、エチルセルロース、トルエン、イソプロパノール等を好適に利用できる。また、分散剤は、第二金属粒子が凝集して固まるのを抑制する等の目的で使用されるものであり、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等を好適に利用できる。界面活性剤は、基材や接合対象物である電子部品等に対する密着性向上等の目的で利用可能であり、例えば、ステアリン酸、オレイン酸等を好適に利用できる。第二接合層70は、第二金属粒子に加えて、用途や目的に応じて各種の金属粒子や酸化物、窒化物等を添加したものとすることができる。
【0034】
接合材50は、上述した第一接合層60及び第二接合層70をそれぞれ所定の厚みになるように形成して積層したものである。第一接合層60及び第二接合層70の厚みは、それぞれ適宜設定可能であるが、耐熱衝撃特性の向上等の観点からすれば、第一接合層60の厚みを25μm以上とすると良い。また、第一接合層60の厚みは、第二接合層70の厚みの25%以上、50%以下の範囲であると良く、第二接合層70の厚みの30%以上、50%以下の範囲であるとさらに良い。
【0035】
上述したような多層構造の接合材50を形成する方法には、適宜の方法を用いることができる。例えば、第一接合層60及び第二接合層70を構成するためのペーストを、基材20や別途準備した金属板等の板体の上に塗布して乾燥させてシート状にしたものを準備し、シート状のものを板体から剥がして積層する等の方法で接合材50を形成することができる。具体的には、基材20の上に第二接合層70を構成するためのペーストを塗布して乾燥させるとともに、基材20とは別に設けたSUS板等の板体に対して第一接合層60を構成するためのペーストを塗布して乾燥させた後、第一接合層60をなすシート状のものをSUS板等の板体から剥がし、基材20の上に準備された第一接合層60をなすシートの上に重ね合わせることにより、接合材50を形成することができる。
【0036】
多層構造の接合材50を形成する場合には、上述したように第一接合層60及び第二接合層70を別々に準備した後、重ね合わせる方法により形成する方法の他、例えば、従来公知のスクリーン印刷法や、ロールコーティング法等の方法によって多層構造の接合材を形成することが可能である。
【0037】
具体的には、スクリーン印刷法により接合材50を形成する場合には、第一接合層60及び第二接合層70のうち一方(例えば第二接合層70)を印刷により形成した後、その上に他方(例えば第一接合層60)を印刷により形成することにより、複数の接合組成物層を重ねて多層構造とすることができる。ロールコーティング法により接合材50を形成する場合には、第一接合層60及び第二接合層70のうち一方をなすペーストを転写ロールと呼ばれる円筒状のロールに塗布し、熱風や赤外線ライトなどの加熱手段によって乾燥させた後、その上に第一接合層60及び第二接合層70のうち一方をなすペーストを塗布して乾燥させることにより形成できる。
【0038】
本実施形態に係る接合方法は、銅板等からなる基材20と、半導体部品等からなる接合対象物30との間に上述した接合材50を介在させて、基材20と接合対象物30とを接合する方法である。本実施形態の接合方法は、接合材50を基材20と接合対象物30との間に挟み込んで積層しつつ、積層方向に向けて加圧力を作用させた状態において加熱して接合することにより行われる。
【0039】
本実施形態に係る接合方法においては、接合材50における第一接合層60及び第二接合層70の積層方向に沿って、基材20、接合材50、及び接合対象物30が積層される。ここで、基材20及び接合対象物30の間において、接合材50は、第一接合層60が基材20側に向き、第二接合層70が接合対象物30側に向くように配することが可能であるが、第一接合層60が接合対象物30側に向き、第二接合層70が基材20側に向くように配すると良い。
【0040】
さらに詳細に説明すると、接合材50の向き(積層方向)について、本実施形態において例示したのとは逆に、第一接合層60が接合対象物30側に向き、第二接合層70が基材20側に向くように配した場合、第一接合層60と接合対象物30との界面において一気に剥離が生じてしまう。このような界面剥離が生じると、多孔Ag層である第二接合層70の接合特性を発揮することができない。
【0041】
一方、本実施形態に係る接合方法においては、銅粒子を含有している第一接合層60を基材20側、銅粒子を含まず銀粒子を含む第二接合層70を接合対象物30側に向けた状態として、基材20と接合対象物30との間に接合材50を配している。接合材50をこのような向きに配した場合、接合対象物30のエッジから斜め下方向にクラックが進展した後に、横方向(積層方向に対して交差する方向)に向けてクラックが進展するのを遅らせることにより、クラックの成長を抑制できる。また、接合材50においては、接合対象物30のエッジから導入されたクラックが、第一接合層60に到達した場合に、第一接合層60の高い靭性によりクラックの進展を抑制できるという特徴を有する。その一方で、接合材50に対して熱衝撃を繰り返し作用させる場合、応力がクラックの先端部分に作用し続ける。接合材50においては、このような応力の作用による応力集中を緩和させるべく、クラックは次の選択肢であるせん断方向(積層方向)に進路を変える。クラックは、最大主応力の向き(斜め下向き)に向けて進展しようとするため、ある程度横方向に進んだのちに再度下向きに向きを変える。接合材50において発生したクラックは、このような挙動を繰り返しながらジグザグ(波状)に進展していく。このような特性を考慮すると、接合材50は、銀粒子に加えて銅粒子を含有している第一接合層60を基材20側、銅粒子を含まず銀粒子を含む第二接合層70を接合対象物30側に向けた状態として基材20と接合対象物30との間に接合材50を配することにより、クラックの進展速度を抑制できる。
【0042】
本実施形態に係る接合方法においては、基材20と接合対象物30との間に接合材50を挟み込んで積層した状態において、積層方向に所定の加圧力を作用させつつ、所定時間に亘って加熱する。ここで、本実施形態に係る接合方法において基材20、接合対象物30、及び接合材50の積層体に対して作用させる加圧力は、接合材50において第一接合層60や第二接合層70の性状やタイプを考慮して適宜設定すると良く、最大負荷を100MPa以下とすることが望ましく、10MPa以下とすることがさらに望ましい。また、本実施形態に係る接合方法において接合材50を用いて基材20と接合対象物30とを接合する際の加熱温度は、摂氏200度以上、摂氏400度以下であることが望ましく、摂氏250度以上、350度以下であるとさらに良い。また、本実施形態に係る接合方法において接合材50を用いて基材20と接合対象物30とを接合する際に加熱及び加圧を行う時間は、5分以上、30分以下であることが望ましく、10分以上、20分以下であるとさらに良い。本実施形態に係る接合方法は、大気雰囲気下、不活性ガス雰囲気下等の適宜の環境下において行うことができる。接合材50を用いることにより、大気雰囲気下において十分な接合特性が得られることから、本実施形態に係る接合方法は、作業の容易さ等の観点から大気雰囲気下において行うものとすると良い。
【0043】
≪作用効果≫
本実施形態において例示した本発明の接合材、接合構造体、及び接合方法は、以下の(a)~(l)に係る特徴を有する。これにより、以下に記載のような、特有の効果を奏することができる。
【0044】
(a)本実施形態の接合材50は、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とし、ミクロンオーダーの銅系金属粒子を0.1質量%以上、1質量%以下の範囲で含む複合接合組成物により構成される第一接合層60と、第一接合層60に対して積層され、サブミクロン以下の第二金属粒子を主成分とする接合組成物により構成される第二接合層70と、を含んで構成されること、を特徴とするものである。
【0045】
本実施形態の接合材50は、上記(a)のように、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とする接合組成物により構成される第二接合層70に加えて、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分としつつ、ミクロンオーダーの銅系金属粒子を0.1質量%以上、1質量%以下の範囲で含む複合接合組成物により構成される第一接合層60を備えたものとされている。このような構成とすることにより、仮に接合材50の内部においてクラックが発生したとしても、当該クラックの成長を第一接合層60に含まれる銅系金属粒子によって食い止め、クラックの成長を抑制できる。従って、本実施形態の接合材50は、クラックの成長による接合不良の抑制を図ることが可能な、高い接合信頼性を発揮可能なものである。
【0046】
(b)本実施形態の接合材50は、第一金属粒子及び第二金属粒子が、同一種の金属粒子であること、を特徴とするものであると良い。
【0047】
本実施形態の接合材50は、上記(b)のように第一金属粒子及び第二金属粒子を同一種のものとすることにより、接合時に第一接合層60及び第二接合層70が馴染み良く接合される。これにより、本実施形態の接合材50は、より一層高い接合信頼性を発揮可能なものとすることができる。
【0048】
(c)本実施形態の接合材50は、第一金属粒子及び第二金属粒子が、銀であること、を特徴とするものであると良い。
【0049】
本実施形態の接合材50は、上記(c)のように第一金属粒子及び第二金属粒子の双方を銀粒子とすることにより、接合時に第一接合層60及び第二接合層70が馴染み良く接合される。また、第一金属粒子及び第二金属粒子を銀粒子とすることにより、導電性や耐熱性、加工性、耐食性、接合対象となる基材や接合対象物である電子部品等に対する密着性(ぬれ性)、製造コスト等の観点で好適なものとすることができる。
【0050】
(d)本実施形態の接合材50は、第一接合層60の厚みが、25μm以上であり、第二接合層70の厚みが、50μm以上であること、を特徴とするものであると良い。
【0051】
本実施形態の接合材50は、上記(d)のような構成とすることにより、耐熱衝撃特性の観点において優れた特性を示すものとすることができる。
【0052】
(e)本実施形態の接合材50は、第一接合層60の厚みが、第二接合層70の厚みに対して30%以上、50%以下の範囲であること、を特徴とするものであると良い。
【0053】
本実施形態の接合材50は、上記(e)のような構成とすることにより、耐熱衝撃特性の観点において優れた特性を示すものとすることができる。
【0054】
(f)本実施形態の接合構造体10は、接合材50を介して基材20に対して接合対象物30を接合したものであって、接合材50が、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とし、ミクロンオーダーの銅系金属粒子を0.1質量%以上1質量%以下の範囲で含む複合接合組成物により構成される第一接合層60と、第一接合層60に対して積層され、サブミクロン以下の第二金属粒子を主成分とする接合組成物により構成される第二接合層70と、を含んで構成されたものであること、を特徴とするものである。
【0055】
本実施形態の接合構造体10は、上記(f)のように、接合材50として、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分とする接合組成物により構成される第二接合層70に加えて、サブミクロン以下の第一金属粒子を主成分としつつ、ミクロンオーダーの銅系金属粒子を0.1質量%以上、1質量%以下の範囲で含む複合接合組成物により構成される第一接合層60を備えたものを用いて構成されたものである。これにより、接合構造体10は、仮に接合材50の内部においてクラックが発生したとしても、当該クラックの成長を第一接合層60に含まれる銅系金属粒子によって食い止め、クラックの成長を抑制できる。従って、本実施形態の接合構造体10は、仮に接合材50においてクラックが発生した場合であっても、当該クラックが成長することによる接合不良の発生を抑制することができる。
【0056】
(g)本実施形態の接合構造体10は、第一金属粒子及び第二金属粒子が、同一種の金属粒子であること、を特徴とするものであると良い。
【0057】
本実施形態の接合構造体10は、上記(g)のように、接合材50を構成する第一金属粒子及び第二金属粒子を同一種のものとすることにより、第一接合層60及び第二接合層70が馴染み良く接合することができる。そのため、本実施形態の接合構造体10は、接合材50においてクラックが発生したとしても、クラックが成長することによる接合不良が発生しにくい。
【0058】
(h)本実施形態の接合構造体10は、第一金属粒子及び第二金属粒子が、銀粒子であること、を特徴とするものであると良い。
【0059】
本実施形態の接合構造体10は、接合材50として、上記(h)のように第一金属粒子及び第二金属粒子の双方を銀粒子としたものが用いられている。そのため、接合構造体10は、接合材50を用いて基材20と接合対象物30との接合に際して、第一接合層60及び第二接合層70が馴染み良く接合される。また、接合構造体10は、第一金属粒子及び第二金属粒子を銀粒子とすることにより、導電性や耐熱性、加工性、耐食性、接合対象となる基材や接合対象物である電子部品等に対する密着性(ぬれ性)、製造コスト等の観点で好適なものとすることができる。
【0060】
(i)本実施形態の接合構造体10は、第一接合層60の厚みが、25μm以上であり、第二接合層70の厚みが、50μm以上であること、を特徴とするものであると良い。
【0061】
本実施形態の接合構造体10は、上記(i)のような構成とすることにより、接合材50によって形成される接合箇所について、耐熱衝撃特性の観点において優れた特性を示すものとすることができる。
【0062】
(j)本実施形態の接合構造体10は、第一接合層60の厚みが、第二接合層70の厚みに対して30%以上、50%以下の範囲であること、を特徴とするものであると良い。
【0063】
本実施形態の接合構造体10は、上記(j)のような構成とすることにより、接合材50によって形成される接合箇所について、耐熱衝撃特性の観点において優れた特性を示すものとすることができる。
【0064】
(k)本実施形態の接合構造体10は、基材20に対して第一接合層60が接触するとともに、第二接合層70に対して接合対象物30が接触するように、接合材50を基材20及び接合対象物30の間に介在させた状態において、基材20に対して接合対象物30を接合したものであること、を特徴とするものであると良い。
【0065】
本実施形態の接合構造体10は、上記(k)のような構成とすることにより、クラックの発生に伴って第一接合層60と接合対象物30との界面において一気に剥離が生じてしまうのを抑制しつつ、クラックをジグザグ(波状)に進展させることにより、クラックの進展速度を抑制できる。
【0066】
(l)本実施形態の接合方法は、接合材50を介して基材20に対して接合対象物30を接合するための接合方法であって、接合材50として、上述した本実施形態の接合材50が用いられ、接合材50を基材20と接合対象物30との間に介在させて積層し、積層方向への加圧力を作用させた状態において加熱して接合すること、を特徴とするものである。
【0067】
本実施形態の接合方法は、上記(l)のようなものとすることにより、仮に接合材50の内部においてクラックが発生したとしても、当該クラックの成長を第一接合層60に含まれる銅系金属粒子によって食い止め、クラックの成長を抑制可能な、接合信頼性の高い接合構造を形成できる。
【0068】
本発明は、上述した実施形態として示したものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜の変形例が想定される。また、本発明の接合材、接合構造体、及び接合方法は、上述した(a)~(l)の全てを満足するものである必要はなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で(a)~(l)の一部を満足しないものとすることができる。
【実施例0069】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。本実施例においては、上記実施形態に係る接合材50の一例として、ナノ銀粒子を含有する焼結型接合材(株式会社日本スペリア社製「アルコナノ銀ペーストANP-1」)に対し、銅系金属粒子として酸化銅を0.5質量%の割合で混合することにより形成された複合接合組成物を用い、第一接合層60を形成すると共に、ナノ銀粒子を含有する焼結型接合材(株式会社日本スペリア社製「アルコナノ銀ペーストANP-1)を用いて第二接合層70を形成し、これらを積層したものを接合材サンプル1~接合材サンプル3として準備した。また、ナノ銀粒子を含有する焼結型接合材(株式会社日本スペリア社製「アルコナノ銀ペーストANP-1」)のみからなる接合材を比較例に係る接合材(接合材比較例1、接合材比較例2)として準備した。また、接合材50を用いて作成した接合構造体10の一例、及び比較例に係る接合構造体として、構造体サンプル1~構造体サンプル3、構造体比較例1、及び構造体比較例2として準備した。
【0070】
なお、銅系金属粒子をなす酸化銅については、
図2に示した超音波霧化システム100(Ultrasonic atomization system)を用いて作製した。超音波霧化システム100は、超音波発生部110と、温度勾配ヒータ120と、粒子回収部130とを有する。超音波発生部110は、超音波発生装置を備えたものとされている。また、超音波霧化システム100は、超音波発生部110から温度勾配ヒータ120を経て粒子回収部130に至る通路の内部に、超音波発生部110から粒子回収部130に向かう方向に不活性ガス(本実施例では窒素ガス)を所定の流量(本実施例では1.6L/min)で供給可能とされている。これにより、超音波霧化システム100は、不活性ガス雰囲気下において、銅系金属粒子の準備を行うことができる。
【0071】
超音波発生部110は、本田電子株式会社製の超音波霧化ユニット(HM-2412)を備えたものとされている。超音波発生部110に銅系金属粒子を含むコロイドを準備することにより、当該コロイドをミスト化して温度勾配ヒータ120に向けて供給可能なものとされている。
【0072】
温度勾配ヒータ120は、超音波発生部110から粒子回収部130に向けて上下方向に延びるように設けられたヒータである。温度勾配ヒータ120は、入口側となる超音波発生部110から、出口側となる粒子回収部130に向かうに連れて段階的あるいは連続的に加熱温度を変更できるものとされている。本実施形態では、温度勾配ヒータ120は、入口側となる超音波発生部110から、出口側となる粒子回収部130に向かうに連れて第一加熱部121~第五加熱部125からなる5つの加熱部が設けられており、第一加熱部121~第五加熱部125のそれぞれにおいて温度を変更できるものとされている。本実施例では、第一加熱部121が摂氏25度、第二加熱部122が100度、第三加熱部123が300度、第四加熱部124及び第五加熱部125が600度で加熱できるものとされている。
【0073】
超音波霧化システム100は、上述したように不活性ガス(本実施例では窒素ガス)を所定の流量(本実施例では1.6L/min)で供給しつつ、超音波発生部110から温度勾配ヒータ120に対して銅系金属粒子を含むコロイドを供給することにより、当該コロイドを温度勾配ヒータ120の内部に通過させて加熱することができる。銅系金属粒子を含むコロイドは、温度勾配ヒータ120において加熱されることにより、自己集合しつつ、粒子回収部130に向けて上昇する。これにより、粒子回収部130において銅系金属粒子が回収される。
【0074】
上述した本発明の実施例に係る接合材サンプル1~接合材サンプル3、及びこれを用いた構造体サンプル1~構造体サンプル3は、それぞれ以下の(工程1-1)~(工程1-4)に示す工程を経て準備された。
【0075】
(工程1-1)銅板からなる基材20の表面に、上述したナノ銀粒子及び銅系金属粒子からなる複合接合組成物を乾燥後の厚みが約Xμmとなるように、10mm×10mmの矩形状に塗布し、摂氏90度で加熱乾燥させる。これにより、第一接合層60を基材20の表面に形成する。ここで、第一接合層60は、接合材サンプル1~接合材サンプル3において厚み(Xμm)が所定値となるように準備された。具体的には、構造体サンプル1~構造体サンプル3を構成する接合材50(接合材サンプル1~接合材サンプル3)の第一接合層60は、厚みがそれぞれ15μm、35μm、50μmとなるように準備された。
【0076】
(工程1-2)基材20をなす銅板とは別に準備されたSUS板の表面に、ナノ銀粒子を含有する焼結型接合材(株式会社日本スペリア社製「アルコナノ銀ペーストANP-1)を乾燥後約Yμmとなるように、10mm×10mmの矩形状に塗布し、摂氏140度で乾燥させる。これにより、第二接合層70となるものを準備する。ここで、第二接合層70は、構造体サンプル1~構造体サンプル3において厚み(Yμm)が所定値となるように準備された。具体的には、接合材サンプル1~接合材サンプル3を構成する接合材50(接合材サンプル1~接合材サンプル3)の第二接合層70は、厚みがいずれも50μmとなるように準備された。
【0077】
(工程1-3)工程1-2においてSUS板の表面に準備された第二接合層70を剥ぎ取り、工程1-1において基材20の表面に準備された第一接合層60の上に重ねる。これにより、接合材50の一例である接合材サンプルが、基材20の表面に配された状態で準備する。
【0078】
(工程1-4)工程1-3において準備された接合材サンプルを構成する第一接合層60の上に、5mm×5mmの矩形状の形状を有するSiC半導体チップを接合対象物30として配置する。その後、SiC半導体チップ上から積層方向に60MPaの負荷を作用させつつ、銅板からなる基材20を摂氏300度で10分間に亘って加熱する。これにより、基材20である銅板と、接合対象物30であるSiC半導体チップを、接合材50である接合材サンプルを介して接合する。このようにして接合したものを室温になるまで放置冷却することにより、接合構造体10の一例である構造体サンプルを準備する。
【0079】
また、比較例に係る接合材比較例1~接合材比較例2、及びこれを用いた構造体比較例1~構造体比較例2は、それぞれ以下に示す(工程2-1)及び(工程2-2)を経て準備された。
【0080】
(工程2-1)銅板からなる基材の表面に、上述したナノ銀粒子を含有する焼結型接合材(株式会社日本スペリア社製「アルコナノ銀ペーストANP-1」)を乾燥後約Zμmとなるように、10mm×10mmの矩形状に塗布し、摂氏140度で加熱乾燥させる。これにより、ナノ銀粒子を含有する焼結型接合材層を形成させ、これを接合材比較例1及び構造体比較例2とする。ここで、ナノ銀粒子を含有する焼結型接合材は、厚み(Zμm)が所定値となるように準備された。具体的には、接合材比較例1、接合材比較例2に係る焼結型接合材は、厚みがそれぞれ50μm、100μmとなるように準備された。
【0081】
(工程2-2)工程2-1において準備された接合材比較例をなす焼結型接合材層の上に、5mm×5mmの矩形状の形状を有するSiC半導体チップを接合対象物として配置する。その後、SiC半導体チップ上から積層方向に60MPaの負荷を作用させつつ、銅板からなる基材を摂氏300度で10分間に亘って加熱する。これにより、基材である銅板と、接合対象物であるSiC半導体チップを、接合材比較例に係る接合材を介して接合する。このようにして接合したものを室温になるまで放置冷却することにより、構造体比較例を準備する。
【0082】
≪引張試験及びクラック進行試験≫
ここで、上述した接合材50(接合材サンプル1~接合材サンプル3)における第一接合層50のように、ナノ銀粒子及び銅系金属粒子(酸化銅)からなる複合接合組成物を用いて形成した膜体(以下「複合接合組成物膜」とも称す)を厚みが50μmとなるように作成し、引張試験及びクラック進行試験を行った。また、比較例として、接合材50(接合材サンプル1~接合材サンプル3)における第二接合層60や接合材比較例1、接合材比較例2のように、銅系金属粒子を含まず、ナノ銀粒子からなる組成物を用いて形成した膜体(以下「銀組成物膜」とも称す)を厚みが50μmとなるように作成し、引張試験及びクラック進行試験を行った。
【0083】
引張試験、及びクラック進行試験については、室温及び摂氏125度の温度雰囲気下において行った。引張試験に係るサンプルの作成については、複合接合組成物膜、及び銀組成物膜をレーザーを用いて所定形状にカットしたものについて、接着剤を用いて引張試験用のフレームに貼り付けることにより準備した。また。クラック進行試験用のサンプルについては、引張試験に係るサンプルと同様に、所定形状にカットしたものをフレームに貼り付けたうえ、所定箇所に集束イオンビームでプリクラックを加工して形成することにより準備した。このようにして準備した複合接合組成物膜及び銀組成物膜について行った、引張試験及びクラック進行試験の試験結果を、
図3及び
図4に示す。
【0084】
図3に示した引張試験に係る応力ひずみ曲線を参照して分かるように、室温の温度条件下においては、複合接合組成物膜及び銀組成物膜の引張強度が略同一であることが見いだされた。また、摂氏125度の温度条件下においては、複合接合組成物膜及び銀組成物膜の双方とも延性破壊を起こすものの、銀組成物膜よりも複合接合組成物膜の方が若干脆性的な特性を示すことが見いだされた。
【0085】
また、
図4に示したクラック進行試験に係る応力ひずみ曲線を参照して分かるように、室温下においては複合接合組成物膜及び銀組成物膜が略同等の強度において破壊することが見いだされた。しかしながら、摂氏125度の温度条件下において、複合接合組成物膜は、銀組成物膜に対して約2倍の破壊靭性を有し、破断時の応力値が約2倍になることが見いだされた。すなわち、高温条件下においては、複合接合組成物膜は、銀組成物膜よりも靭性が高く、より高い耐久性を有することが見いだされた。
【0086】
≪熱衝撃試験≫
上述した構造体サンプル1~構造体サンプル3、及び構造体比較例1~構造体比較例2について、熱衝撃試験を行った。本実施例では、冷熱衝撃装置(エスペック株式会社製 TSE-12-A)を用いることにより、1サイクルの間に摂氏150度まで雰囲気温度を昇温して30分に亘って高温さらしを行った後、摂氏-40度まで雰囲気温度を低下させて30分に亘る低温さらしを行うことにより試験対象物に対して熱衝撃を与える熱衝撃試験を1000サイクル繰り返すことにより行った。
【0087】
構造体サンプル1~構造体サンプル3、及び構造体比較例1~構造体比較例2について、上述した条件により熱衝撃試験を1000サイクルに亘って行う過程、及び1000サイクル行った後における接合状態を確認すべく、超音波探傷装置(Scanning Acoustic Tomograph)を用いてボイドの量を確認することにより接合率を確認した。また、構造体サンプル1~構造体サンプル3について、熱衝撃試験を1000サイクル行った後、超音波断層写真を撮影することにより断面観察を行い、クラックの発生状態についての評価を行った。さらに、構造体サンプル1~構造体サンプル3の断面についてEDXマッピングを行うことにより、銀及び銅の分布を確認した。
【0088】
構造体サンプル1~構造体サンプル3、及び構造体比較例1~構造体比較例2について、超音波探傷装置により得られた接合状態(ボイドの発生状態)を示す画像を、
図5に示す。また、
図5に示した画像に基づいて導出した接合率と、熱衝撃試験のサイクル数との関係に係るグラフを
図6に示す。また、熱衝撃試験を1000サイクル行った後の接合率と、接合材の総厚みとの関係を示したグラフを、
図7に示す。
【0089】
図5に係る画像、及び
図6、
図7に係るグラフから分かるように、銅系金属粒子を含まず、ナノ銀粒子を含有する層(第二接合層70)の厚みが50μmである構造体サンプル2~構造体サンプル3、及びこれらとナノ銀粒子を含有する焼結型接合材の厚みが同一である構造体比較例1とについて接合率を比較すると、第二接合層70だけでなく、銅系金属粒子及び銀粒子を含む第一接合層60を備えた構造体サンプル2~構造体サンプル3の方が接合率が高いことが見いだされた。そのため、ナノ銀粒子を含有する層(第二接合層70)だけでなく、ナノ銀に加えて銅系金属粒子も含有する第一接合層60を備えた接合材50を用いて接合することにより、接合率の向上が図れるとの知見が得られた。
【0090】
また、第一接合層60及び第二接合層70の厚みがそれぞれ50μmであり、合計の厚みが100μmである構造体サンプル3と、ナノ銀粒子を含有する焼結型接合材の厚みが100μmで同一である構造体比較例2とを比較すると、構造体サンプル3の接合率は、構造体比較例2の接合率と同等あるいはそれ以上であることが見いだされた。また、全体の厚みが100μmである構造体サンプル3及び構造体比較例2の接合率は、双方とも全体の厚みが50μmである構造体比較例1の接合率よりも十分に高いことが見いだされた。
【0091】
ここで、構造体比較例2のように単層の接合材について、乾燥状態において100μmの厚みを有するものとするのは、相当の熟練を有し作成しにくい。しかしながら、構造体サンプル3のような多層構造のものとすれば、第一接合層60及び第二接合層70について、それぞれの厚みを50μmとして準備して重ね合わせれば良いため、単層で100μmの厚みを有するものを作成するよりも作成しやすい。従って、上記実施形態に係る接合材50のような多層構造を有するものとすれば、熟練を要することなく作成可能でありつつ、熱衝撃を繰り返し作用させたとしても、十分な接合率を維持可能なものとすることができるとの知見が得られた。
【0092】
熱衝撃試験を1000サイクル行った構造体サンプル1~構造体サンプル3について、超音波断層写真を撮影することにより断面観察を行った結果を、
図8に示す。
図8を参照して分かるように、構造体サンプル1~構造体サンプル3のように、銀及び銅系金属粒子を含む第一接合層60と、銀粒子を含み銅系金属粒子を含まない第二接合層70の二層を積層した二層構造を有するものとしたサンプルにおいては、熱衝撃を繰り返し作用させることにより、クラックが積層方向に対して交差する方向(図中左右方向)に進展しつつ、積層方向にも進展し、全体としてジグザグ(波状)にクラックが進展するとの知見が得られた。また、銀粒子及び銅系金属粒子を含む第一接合層60の厚みが大きいほど、積層方向へのクラックの長さ(ジグザグの高さ)が大きくなる傾向にあるとの知見が得られた。
【0093】
熱衝撃試験を1000サイクル行った構造体サンプル1~構造体サンプル3について、接合材50によって構成される接合部におけるEDXマッピングを行った。その結果、
図11に示すように、銅系金属粒子を含まずナノ銀粒子を含有する層(第二接合層70)に相当する領域には銅が存在せず、銅系金属粒子及びナノ銀粒子を含む第一接合層60に相当する領域には銅が分散した状態で存在していることが見いだされた。
【0094】
また、熱衝撃に伴うクラックの生成状態についてさらに詳細に検討したところ、
図9に示した断面写真を見て分かるように、クラックは、大別して、積層方向に対して交差する方向(図中左右方向)に進展するもの(横クラック)と、積層方向に進展するもの(縦クラック)の二種類のクラックによって構成されているとの知見が得られた。また、縦クラックは、表面が凹凸形状を有するものであるのに対し、横クラックは、表面はなめらかであることが確認された。これにより、熱衝撃の付与に伴って発生するクラックのうち、縦クラックは開口型の亀裂、横クラックはせん断型の亀裂であるとの知見が得られた。また、
図10に示す断面写真及びEDXマッピングを参照して分かるように、銅粒子が存在していない箇所では、縦方向へのクラックの進展が進みつつあるが、銅粒子が存在している箇所では、積層方向へのクラックの進展を食い止めることができていることが分かった。これらの結果から、熱衝撃に伴うクラックが発生した場合には、縦クラックが銀粒子及び銅系金属粒子を含む第一接合層60で停止し、続いて横クラックが銀を含み銅系金属粒子を含まない第二接合層70において進展することを繰り返すことにより、ジグザグにクラックが進展するとの知見が得られた。
【0095】
また、上記実施形態に係る接合構造体10のように、銀粒子及び銅系金属粒子を含む第一接合層60と、銀粒子を含み銅系金属粒子を含まない第二接合層70を積層した二層構造の接合材50を用いて基材20に対して接合対象物30を接合したものについて、FEM解析により、熱衝撃が作用することにより発生する応力とクラックの発生の関係についてシミュレーションを行った。その結果を、
図12に示す。
【0096】
FEM解析においてモデルに導入されたき裂先端の応力場は、
図12(a)において白色の矢印で示す方向に作用するため、これに直交する方向にき裂開口型(モード1)の亀裂が導入される。しかしながら、銀及び銅系金属粒子を含む第一接合層60は靭性が高いため、き裂がなかなか開口されず、次の選択肢である最大せん断方向に進展していく。このような挙動を繰り返してクラックが進展することにより、ジグザグ状(波状)にクラックが形成されていく。その結果、横方向(積層方向に対して交差する方向)へのクラックの進展速度(剥離速度)を遅らせることができる。
【0097】
また、
図13に、クラックの進展に要するエネルギーについて、クラックの進展試験結果と、クラックの観察結果から概算した結果を示す。上述した構造体比較例1や構造体比較例2のように、クラックが横方向(積層方向に対して交差する方向)に向けて直線的に進展する場合と、本発明に係る構造体サンプル1~構造体サンプル3のように、クラックがジグザグ状(波状)に進む場合とについて、クラックの進展に要するエネルギーは、概ね同等の値を示す。しかしながら、接合構造体における剥離の発生具合は、本発明に係る構造体サンプル1~構造体サンプル3のように銀及び銅系金属粒子を含む第一接合層60を設けた場合の方が、約20%低下することが見いだされた。これは、クラックの進展距離(横方向及び縦方向へのクラックの長さの総和)が、第一接合層60を設けるか否かによらず略同等であるものの、第一接合層60を設けたものにおいては、縦方向にもクラックを進展させることができる分だけ、剥離面積を抑制し、接合信頼性の向上を図れた。
【0098】
本発明は、上述した実施形態や変形例等として示したものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得る。上述した実施形態の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また実施形態の任意の構成要素と、課題を解決するための手段に記載の任意の構成要素又は課題を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成してもよい。これらについても本願の補正又は分割出願等において権利取得する意思を有する。
本発明の接合材は、例えば高温の温度条件下で作動するデバイス等において使用するための接合材として好適に利用できる。また、本発明の接合構造体は、高温の温度条件下で作動するデバイス等を構成するものとして好適に利用できる。本発明の接合構造体の製造方法は、高温の温度条件下で作動するデバイス等の製造に際して必要とされる接合体の製造において好適に利用できる。