(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127406
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】柱の建込み支援装置
(51)【国際特許分類】
E04G 21/16 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
E04G21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036539
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000216025
【氏名又は名称】鉄建建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】林 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】尻無濱 昭三
【テーマコード(参考)】
2E174
【Fターム(参考)】
2E174AA01
2E174BA03
2E174DA01
2E174DA12
2E174DA51
(57)【要約】
【課題】上柱1を建て起こす際の安全性を向上して、上柱1の建込みを支援する上柱1の建込み支援装置5を提供することを目的とする。
【解決手段】上柱1の建込み支援装置5であって、下柱2の下柱側基部32と、上柱1の上柱側基部31と、下柱側基部32に上柱側基部31を枢動可能に連結する連結アーム33と、上柱1の転倒を抑止する転倒抑止機構部40とが備えられ、転倒抑止機構部40は、床版4に載置されたレール部材50と、一端が上柱1に枢動自在に連結され、他端がレール部材50上をスライド移動する方杖部材60とが備えられ、レール部材50は、方杖部材60の他端が離間方向Ybで係止する被係止壁部53が備えられ、方杖部材60の他端は、前後方向Xを回転軸として回転自在に支持され、レール部材50の被係止壁部53に係止する係止部66が備えられたことを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向が略水平となるように寝かせた状態で搬入された柱の建込みを支援する柱の建込み支援装置であって、
建込み箇所に取り付けた建込み側基部と、
寝かせた状態における前記柱の下端部の下側に取り付けた柱側基部と、
前記建込み側基部に対して前記柱側基部を、水平方向を回転軸にして枢動可能に連結する枢動部と、
前記柱の転倒を抑止する転倒抑止機構部とが備えられ、
該転倒抑止機構部は、
寝かせた状態の前記柱の下方に位置する床面に載置され、寝かせた状態の前記柱の前記長手方向に延びるレール部材と、
一端が前記柱における前記柱側基部よりも上端部側に枢動自在に連結され、他端が前記レール部材上をスライド移動する方杖部材とが備えられ、
前記レール部材の長手方向のうち、前記建込み箇所から離間する方向を離間方向として、
前記レール部材は、
前記方杖部材の他端が前記離間方向で係止する被係止部が備えられ、
前記方杖部材の他端は、
前記水平方向を回転軸として回転自在に支持され、前記レール部材の前記被係止部に係止する係止部が備えられた
柱の建込み支援装置。
【請求項2】
前記転倒抑止機構部は、
前記長手方向に摺動可能な状態で前記床面に載置された前記レール部材における前記長手方向の端部を前記建込み箇所に連結する連結部材が備えられた
請求項1に記載の柱の建込み支援装置。
【請求項3】
前記レール部材の前記被係止部は、
前記離間方向とは逆方向へ向けて傾斜した鋸波形状に形成された
請求項1に記載の柱の建込み支援装置。
【請求項4】
前記方杖部材の他端は、
前記建込み箇所へ向けた前記方杖部材のスライド移動を可能にする回転方向とは逆回転方向への前記係止部の回転を規制する回転規制部が備えられた
請求項1に記載の柱の建込み支援装置。
【請求項5】
前記転倒抑止機構部は、
前記建込み箇所を挟んで対向配置された一対の前記レール部材及び一対の前記方杖部材で構成された
請求項1に記載の柱の建込み支援装置。
【請求項6】
前記転倒抑止機構部は、
一対の前記レール部材を連結する橋架部材が備えられた
請求項5に記載の柱の建込み支援装置。
【請求項7】
前記方杖部材は、
前記枢動部の前記回転軸を中心とした前記柱の回動に伴って伸長可能に構成された
請求項1に記載の柱の建込み支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば寝かせた状態で搬入された柱の建込みを支援するような柱の建込み支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば線路の上空に駅舎などの建築物を建設する場合、線路の上空に設けた床版を貫通する下柱に上柱を連結して、建築物の柱を組み立てることがある。
この際、建設現場では、長手方向が略水平となるように寝かせた状態でトラックなどの荷台に搭載した上柱を、重機などを用いて吊り上げて建て起こすとともに、建て起こした状態の上柱を床版上に移動して下柱に組み付けている。
あるいは、上柱を寝かせた状態のまま荷台から床版上に移動させたのち、寝かせた状態の上柱を床版上で建て起こして、上柱を下柱に組み付けている。
【0003】
このような上柱の建て起こしを支援する技術として、例えば特許文献1には、車輪を設けた柱受台を上柱の下端部に連結し、上柱の上端部の吊り上げに伴って、柱受台が床版上を走行することで、寝かせた状態の上柱の建て起こしを支援することが開示されている。
【0004】
ところで、特許文献1のように上端部を吊り上げて上柱を建て起こす場合、上柱の上端部に加わる吊り上げ荷重が意図せず低下すると、建て起こし過程の上柱が寝かせた状態へ戻るように転倒するおそれがある。
【0005】
この際、上柱の転倒に伴う衝撃荷重が上柱を吊り上げるワイヤーや重機に加わると、ワイヤーが損傷する、あるいは重機がバランスを崩すおそれがあるため、安全性の観点から改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑み、柱を建て起こす際の安全性を向上して、柱の建込みを支援する柱の建込み支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、長手方向が略水平となるように寝かせた状態で搬入された柱の建込みを支援する柱の建込み支援装置であって、建込み箇所に取り付けた建込み側基部と、寝かせた状態における前記柱の下端部の下側に取り付けた柱側基部と、前記建込み側基部に対して前記柱側基部を、水平方向を回転軸にして枢動可能に連結する枢動部と、前記柱の転倒を抑止する転倒抑止機構部とが備えられ、該転倒抑止機構部は、寝かせた状態の前記柱の下方に位置する床面に載置され、寝かせた状態の前記柱の前記長手方向に延びるレール部材と、一端が前記柱における前記柱側基部よりも上端部側に枢動自在に連結され、他端が前記レール部材上をスライド移動する方杖部材とが備えられ、前記レール部材の長手方向のうち、前記建込み箇所から離間する方向を離間方向として、前記レール部材は、前記方杖部材の他端が前記離間方向で係止する被係止部が備えられ、前記方杖部材の他端は、前記水平方向を回転軸として回転自在に支持され、前記レール部材の前記被係止部に係止する係止部が備えられたことを特徴とする。
【0009】
上記建込み箇所は、例えば基礎に設けた鉄骨柱の基部、床版から上方に突出した下柱などのことをいう。
上記建込み側基部は、例えば床版から上方に突出した下柱のエレクションピース、あるいは基礎に設けた鉄骨柱の基部に取り付けた部材などのことをいう。もしくは、床版から上方に突出した下柱のエレクションピースとは別体で下柱またはエレクションピースに取り付けた部材のことをいう。
【0010】
上記柱の下端部とは、寝かせた状態における柱の長手方向の一端部であって、柱を建て起こした状態における下端側となる部位のことをいう。
上記柱側基部は、柱のエレクションピース、柱のエレクションピースとは別体で柱またはエレクションピースに取り付けた部材のことをいう。
上記柱が転倒するとは、上端部が吊り上げられた柱が寝かせた状態に戻るように、柱が枢動部を中心に回動することをいう。
【0011】
この発明によれば、寝かせた状態における柱の柱側基部が枢動部を介して建込み箇所の建込み側基部に枢動可能に連結されるため、寝かせた状態における柱の上端部が吊り上げられた際、水平方向を回転軸として柱を回動させることができる。このため、柱の建込み支援装置は、寝かせた状態の柱を、建込み箇所の直上に起立させることができる。
【0012】
さらに、柱の上端部の吊り上げによって柱の建て起こしが開始されると、柱に連結された方杖部材の他端は、柱の建て起こしに伴ってレール部材上を建込み箇所へ向けてスライド移動する。
【0013】
この際、レール部材における被係止部の形状に追従して、方杖部材の係止部が回動することで、柱の建込み支援装置は、方杖部材のスライド移動に伴う打音や振動の発生を抑えることができる。
【0014】
一方、建て起こし過程の柱が寝かせた状態に戻るように転倒開始した場合、柱に連結された方杖部材の他端には、建込み箇所から離間する離間方向へ向けてスライド移動させる荷重が加わる。
【0015】
この際、柱に連結された方杖部材の係止部がレール部材の被係止部に係止されることで、柱の建込み支援装置は、離間方向へ向けた方杖部材のスライド移動を規制して、柱の転倒を抑止することができる。
【0016】
よって、柱の建込み支援装置は、柱の建て起こしに伴う振動騒音の発生を抑えながら、柱を建て起こす際の安全性を向上して、柱の建込みを支援することができる。このため、柱の建込み支援装置は、寝かせた状態で搬入された柱を、例えば夜間に限らず建て起こすことができる。
【0017】
この発明の態様として、前記転倒抑止機構部は、前記長手方向に摺動可能な状態で前記床面に載置された前記レール部材における前記長手方向の端部を前記建込み箇所に連結する連結部材が備えられてもよい。
【0018】
上記長手方向に摺動可能な状態で前記床面に載置されたとは、長手方向への移動が規制されていない状態で、床面上に固定されることなく単に載置され、床面との摩擦抵抗を上回る荷重が加わった際に摺動開始することをいう。あるいは、長手方向への移動範囲が規制された状態で床版上に載置され、床面との摩擦抵抗を上回る荷重が加わった際に摺動開始することをいう。
上記連結部材は、ベルトスリングなどの帯状体、あるいは棒状の部材などのことをいう。
【0019】
この構成によれば、柱を寝かせた状態に戻そうとする荷重が方杖部材に加わった際、レール部材が建込み箇所から離間する離間方向へ移動することを連結部材によって阻止することができる。
【0020】
この際、柱の建込み支援装置は、レール部材と床面との間の摩擦抵抗、及び連結部材の張力によって、柱の転倒開始に伴う衝撃荷重を吸収することができる。このため、柱の建込み支援装置は、方杖部材の係止状態が意図せず解除されることを防止できる。
【0021】
これにより、柱の建込み支援装置は、柱を建て起こす際の安全性をより向上することができる。加えて、柱の建込み支援装置は、床面へのレール部材の固定を不要にできるため、レール部材の設置や撤去を容易にすることができる。
【0022】
またこの発明の態様として、前記レール部材の前記被係止部は、前記離間方向とは逆方向へ向けて傾斜した鋸波形状に形成されてもよい。
この構成によれば、建込み箇所へ向かう方杖部材のスライド移動をよりスムーズにして打音や振動を抑えられる一方で、建込み箇所から離間する離間方向への方杖部材のスライド移動を確実に規制することができる。
これにより、柱の建込み支援装置は、柱のスムーズな建て起こしを阻害することなく、柱の転倒を確実に抑止することができる。
【0023】
またこの発明の態様として、前記方杖部材の他端は、前記建込み箇所へ向けた前記方杖部材のスライド移動を可能にする回転方向とは逆回転方向への前記係止部の回転を規制する回転規制部が備えられてもよい。
【0024】
この構成によれば、方杖部材の係止部がレール部材の被係止部に係止した状態を確実に維持することができる。
これにより、柱の建込み支援装置は、柱の転倒を確実に抑止できるため、柱を建て起こす際の安全性をより向上することができる。
【0025】
またこの発明の態様として、前記転倒抑止機構部は、前記建込み箇所を挟んで対向配置された一対の前記レール部材及び一対の前記方杖部材で構成されてもよい。
この構成によれば、1つのレール部材及び1つの方杖部材で構成された転倒抑止機構部に比べて、建て起こし過程の柱の揺れ動きを抑えることができる。
【0026】
これにより、柱の建込み支援装置は、寝かせた状態における柱の長手方向に対して平面視交差する方向へ向けて、建て起こし過程の柱が転倒することを抑止できる。このため、柱の建込み支援装置は、柱を建て起こす際の安全性をより向上することができる。
【0027】
またこの発明の態様として、前記転倒抑止機構部は、一対の前記レール部材を連結する橋架部材が備えられてもよい。
この構成によれば、一対のレール部材が連結されていない場合に比べて、建て起こし過程の柱の揺れ動きをより抑えることができる。このため、柱の建込み支援装置は、柱を建て起こす際の安全性をさらに向上することができる。
【0028】
またこの発明の態様として、前記方杖部材は、前記枢動部の前記回転軸を中心とした前記柱の回動に伴って伸長可能に構成されてもよい。
この構成によれば、柱の回動位置に関わらず、方杖部材の係止部をレール部材の被係止部に常に接触させることができる。
【0029】
このため、柱の建込み支援装置は、建込み箇所へ向けた方杖部材のスライド移動に伴う打音や振動の発生をより抑えられるとともに、柱の転倒を確実に抑止することができる。
さらに、柱の建込み支援装置は、方杖部材の全長を伸長不可の場合に比べて短くすることができるとともに、レール部材の全長を短くすることができる。
【0030】
これにより、柱の建込み支援装置は、柱を建て起こす際の安全性を損なうことなく、方杖部材及びレール部材の設置や撤去を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、柱を建て起こす際の安全性を向上して、柱の建込みを支援する柱の建込み支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】起立状態における上柱の概略を説明する説明図。
【
図2】吊り上げ直前の上柱の概略を説明する説明図。
【
図3】正面視における枢動機構部の外観を示す正面図。
【
図4】分解状態における枢動機構部の外観を示す分解斜視図。
【
図5】下柱に連結されたレール部材の外観を示す平面図。
【
図6】レール部材及び方杖部材の下端近傍の外観を示す側面図。
【
図9】伸長した状態の方杖部材の外観を示す正面図。
【
図11】第1位置規制機構部の概略を部分断面で説明する説明図。
【
図12】下柱側基部と連結アームの連結箇所を中心に回動する上柱の状態を説明する説明図。
【
図13】建て起こし過程における枢動機構部の状態を説明する説明図。
【
図15】上柱の建て起こし過程における係止部の動作を説明する説明図。
【
図16】上柱が転倒開始した際の係止部の動作を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
本実施例では、寝かせた状態で搬入された上柱1の建込みを支援する建込み支援装置5について、
図1から
図11を用いて説明する。
【0034】
なお、
図1は起立状態における上柱1の概略を説明する説明図を示し、
図2は吊り上げ直前の上柱1の概略を説明する説明図を示し、
図3は枢動機構部30の正面図を示し、
図4は枢動機構部30の分解斜視図を示し、
図5は下柱2に連結されたレール部材50の平面図を示している。
【0035】
さらに、
図6はレール部材50及び方杖部材60の下端近傍の側面図を示し、
図7はレール部材50を正面視で説明する説明図であり、
図7(a)はレール部材50の正面図を示し、
図7(b)は被係止壁部53を拡大した要部の正面図を示している。
【0036】
さらにまた、
図8は方杖部材60を正面視で説明する説明図であり、
図8(a)は方杖部材60の正面図を示し、
図8(b)は係止部66の正面図を示し、
図9は伸長した状態の方杖部材60の正面図を示している。
【0037】
加えて、
図10は分解状態の方杖部材60の正面図を示し、
図11は第1状態維持機構部64の概略を部分断面で説明する説明図を示している。
また、
図7(a)中において、図示を明確にするため側壁部52を二点鎖線で図示するとともに、
図8(b)中において、図示を明確にするため一方の平板部68の図示を省略し、ボルト69Aを断面で図示している。
【0038】
また、
図1中の上側を本実施形態における上方とし、
図1中の下側を本実施形態における下方として、図中の矢印Xは前後方向(以下、前後方向Xとする)を示し、図中の矢印Yは前後方向Xに対して平面視直交する幅方向(以下、幅方向Yとする)を示している。
さらに、
図2中の幅方向Yにおいて、下柱2へ向かう方向を下柱方向Yaとし、下柱2から離間する方向を離間方向Ybとして説明する。
【0039】
まず、上柱1は、
図1に示すように、下端が基礎などに固定された下柱2の上端に連結され、例えば線路の上空に建設される駅舎などの建築物の鉄骨柱3を構成している。
この上柱1は、
図1に示すように、下柱2に連結された状態において、上下方向を長手方向とする筒状の鉄骨であって、水平方向(短手方向)に沿った断面形状が断面略矩形に形成されている。
【0040】
なお、上柱1は、長手方向が上下方向となるように起立した状態において、下方の端部である下端部の外側面と下端面との隅部1aが面取りされた形状に形成されている(
図3参照)。
【0041】
さらに、上柱1には、
図1に示すように、下方の端部である下端部に配置された下側エレクションピース11が、各外側面に2つずつ接合されるとともに、上方の端部である上端部に配置された上側エレクションピース12が、各外側面に1つずつ接合されている。
【0042】
加えて、上柱1には、
図1に示すように、上側エレクションピース12よりも下方の上端部に配置された上段梁ブラケット13と、上段梁ブラケット13よりも下方に配置された下段梁ブラケット14とが、各外側面に1つずつ接合されている。
【0043】
なお、下段梁ブラケット14のうち、上柱1の前面となる外側面に設けた下段梁ブラケット14、及び上柱1の後面となる外側面に設けた下段梁ブラケット14には、後述する建込み支援装置5の方杖部材60が枢動自在に連結される方杖ブラケット15が接合されている。
【0044】
このような上柱1は、
図2に示すように、長手方向が略水平となるように寝かせた状態(横倒し状態)で後述する床版4上に搬入され、下柱2の上方において、後述する建込み支援装置5によって建て起こしが支援される。
【0045】
また、下柱2は、
図1に示すように、上下方向に延びる筒状の鉄骨であって、水平方向(短手方向)に沿った断面形状が、上柱1に略同じ大きさの断面略矩形に形成されている。
【0046】
この下柱2には、
図1に示すように、上方の端部である上端部に配置された上側エレクションピース21が、各外側面に2つずつ接合されるとともに、上側エレクションピース21よりも下方に配置された梁ブラケット22が、各外側面に1つずつ接合されている。
【0047】
さらに、下柱2には、
図1に示すように、梁ブラケット22の上方に建築物の床部分となる床版4が接合されている。このため、下柱2は、上端部が床版4に対して上方に突出するように配置されている。
【0048】
次に、寝かせた状態で搬入された上柱1の建込みを支援する建込み支援装置5について詳述する。
建込み支援装置5は、
図2に示すように、寝かせた状態における上柱1の下端部を下柱2の上端部に枢動可能に連結する枢動機構部30と、建て起こし過程における上柱1の転倒を抑止する転倒抑止機構部40とを備えている。
【0049】
まず、建込み支援装置5の枢動機構部30は、
図3及び
図4に示すように、上柱1に配設された一対の上柱側基部31と、下柱2に配設された一対の下柱側基部32と、上柱側基部31を下柱側基部32に連結する一対の連結アーム33と、上柱1の建て起こしを案内するガイド部材34とを備えている。
【0050】
詳述すると、枢動機構部30の一対の上柱側基部31は、
図3に示すように、寝かせた状態における上柱1の下面となる外側面に設けられた一対の下側エレクションピース11で構成されている。
【0051】
この下側エレクションピース11で構成された上柱側基部31は、
図4に示すように、前後方向Xに厚みを有する平板状に形成されている。さらに、下側エレクションピース11で構成された上柱側基部31には、前後方向Xに貫通する略円形の貫通孔(符号省略)が開口形成されている。
【0052】
また、枢動機構部30の一対の下柱側基部32は、
図3及び
図4に示すように、幅方向Yで対向する下柱2の外側面のうち、一方の外側面に設けられた一対の上側エレクションピース21で構成されている。
【0053】
この上側エレクションピース21で構成された下柱側基部32は、
図4に示すように、前後方向Xに厚みを有する平板状に形成されている。さらに、上側エレクションピース21で構成された下柱側基部32には、前後方向Xに貫通する略円形の貫通孔32aが開口形成されている。
【0054】
また、枢動機構部30の一対の連結アーム33は、
図4に示すように、一対の上柱側基部31及び一対の下柱側基部32を挟んで前後方向Xに対向配置されている。
この連結アーム33には、ボルト35Aが挿通される貫通孔(図示省略)が上柱1側の端部に開口形成され、ボルト36Aが挿通される貫通孔33aが下柱2側の端部に開口形成されている。
【0055】
そして、一対の連結アーム33は、上柱1側がボルト35A及びナット35Bを介して、上柱側基部31の貫通孔に着脱自在に取り付けられるとともに、下柱2側がボルト36A及びナット36Bを介して、下柱側基部32の貫通孔32aに着脱自在に取り付けられている。
【0056】
なお、連結アーム33の下柱2側は、後述するガイド部材34に対しても枢動可能に連結されている。
このため、一対の連結アーム33は、一対の上柱側基部31及び一対の下柱側基部32に対して、それぞれ前後方向Xを回転軸として枢動可能に連結されている。
【0057】
また、枢動機構部30のガイド部材34は、
図4に示すように、一対の下柱側基部32の間において、下柱2の外側面に当接するように配置されている。このガイド部材34は、下柱側基部32に装着されるガイド基部34aと、ガイド基部34aの上端面に貼付した低摩擦係数の滑り部材34bとで構成されている。
【0058】
具体的には、ガイド基部34aは、
図4に示すように、離間方向Yb側が開口した略ボックス形状であって、下柱側基部32にボルト36A及びナット36Bを用いて取り付けられている。
一方、滑り部材34bは、自己潤滑性及び低摩擦係数のエンジニアリングプラスチック製であって、例えばモノマーキャストナイロンで構成されている。
【0059】
この滑り部材34bは、
図3に示すように、上下方向に厚みを有する板状であって、下柱2の直上へ向かう上柱1の隅部1a近傍の回動軌跡に沿うように、上面が上方へ僅かに膨出した正面視略蒲鉾状に形成されている。
【0060】
より詳しくは、滑り部材34bの上面は、正面視において、傾きを異ならせた平面を組み合わせて、幅方向Yの略中央が最も上方へ膨出した形状になるように形成されている。
なお、ガイド部材34は、
図3に示すように、下柱2の上端面よりも上方に、滑り部材34bの上面が位置するように配置されている。
【0061】
また、建込み支援装置5の転倒抑止機構部40は、
図2に示すように、寝かせた状態の上柱1の下方に位置する床版4に載置された一対のレール部材50と、レール部材50を下柱2に連結する2本のベルトスリング41とを備えている。
さらに、転倒抑止機構部40は、
図2に示すように、上柱1の下段梁ブラケット14とレール部材50とに跨って配置された一対の方杖部材60を備えている。
【0062】
詳述すると、転倒抑止機構部40の一対のレール部材50は、
図5に示すように、下柱2に対して離間方向Ybに所定間隔を隔てた位置において、下柱2を挟んで対向するように、下柱2における前後方向Xの長さよりも広い前後方向Xの間隔を隔てて床版4上に載置されている。
【0063】
この一対のレール部材50は、下柱方向Yaへの方杖部材60のスライド移動を案内するとともに、離間方向Ybへの方杖部材60の移動をベルトスリング41との協働によって規制している。
なお、一対のレール部材50は、
図5に示すように、幅方向Yの両端近傍がそれぞれ橋架部材42を介して連結されている。
【0064】
具体的には、レール部材50は、
図5及び
図6に示すように、床版4に載置する底部51と、底部51を挟んで前後方向Xで対向する一対の側壁部52と、底部51における前後方向Xの略中央に立設した被係止壁部53とで構成されている。
【0065】
レール部材50の底部51は、
図5及び
図6に示すように、幅方向Yに長い平面視略矩形の平板で構成されている。この底部51は、床版4に対して固定されることなく載置されている。
【0066】
レール部材50の一対の側壁部52は、
図5及び
図6に示すように、前後方向Xに厚みを有するとともに、底部51に同じ幅方向Yの長さを有する正面視略矩形の平板で構成されている。
【0067】
レール部材50の被係止壁部53は、
図6及び
図7(a)に示すように、前後方向Xに厚みを有するとともに、底部51よりも僅かに短い幅方向Yの長さを有する平板に形成されている。
【0068】
この被係止壁部53における幅方向Yの両端には、
図7(a)に示すように、それぞれ前後方向Xに貫通する貫通孔50aが開口形成されている。この被係止壁部53の貫通孔50aのうち、下柱2側の貫通孔50aには、
図5に示すように、シャックル43が装着されている。
【0069】
このような被係止壁部53は、下柱方向Yaへの方杖部材60のスライド移動を許容する一方で、離間方向Ybへの方杖部材60の移動を係止によって規制する形状に形成されている。
【0070】
より詳しくは、被係止壁部53は、
図7(b)に示すように、正面視において、鉛直な端面を下柱方向Ya側に有し、下端に対して上端が下柱方向Ya側に位置するように傾斜した端面を離間方向Yb側に有して上方に突出した山部分53aが、幅方向Yに沿って連続する鋸刃形状に形成されている。
【0071】
換言すると、被係止壁部53は、鉛直な端面を離間方向Yb側に有し、下端に対して上端が下柱方向Ya側に位置するように傾斜した端面を下柱方向Ya側に有して下方に凹設した谷部分53bが、幅方向Yに沿って連続する鋸刃形状に形成されている。
【0072】
また、転倒抑止機構部40の2本のベルトスリング41は、重量物の吊り上げなどに用いるナイロンスリングなどで構成されている。
なお、ベルトスリング41は、その両端がそれぞれシャックル43を介してレール部材50における下柱2側の端部に連結されている。
【0073】
この2本のベルトスリング41のうち、一方のベルトスリング41は、
図5に示すように、一方のレール部材50に連結された一端から下柱方向Yaへ配索されたのち、下柱2の外側面に沿って離間方向Ybへ曲げ返され、曲げ返された他端が一方のレール部材50に連結されている。
【0074】
同様に、他方のベルトスリング41は、
図5に示すように、他方のレール部材50に連結された一端から下柱方向Yaへ配索されたのち、下柱2の外側面に沿って離間方向Ybへ曲げ返され、曲げ返された他端が他方のレール部材50に連結されている。
【0075】
また、転倒抑止機構部40の一対の方杖部材60は、断面形状の大きさが異なる内部中空の3つの筒状部材を伸縮可能に連結した長尺部材であって、一端が上柱1の方杖ブラケット15に枢動自在に連結され(
図2参照)、他端がレール部材50の被係止壁部53に載置されている(
図7参照)。
【0076】
この方杖部材60は、
図8(a)及び
図9に示すように、所定方向に伸縮可能に連結された筒状の第1筒状部材61、第2筒状部材62及び第3筒状部材63と、第1筒状部材61の伸長状態を維持する第1状態維持機構部64とを備えている。
【0077】
さらに、方杖部材60は、
図8(a)及び
図9に示すように、第2筒状部材62の伸長状態を維持する第2状態維持機構部65と、第3筒状部材63に回転自在に支持された係止部66とを備えている。
【0078】
より詳しくは、方杖部材60の第1筒状部材61は、略矩形の断面形状を所定方向に延設した断面略矩形の筒状体に形成されている。この第1筒状部材61には、
図2及び
図8(a)に示すように、方杖部材60における長手方向の一端側となる端部に、上柱1の方杖ブラケット15に枢動自在に連結される継手部67が設けられている。
【0079】
方杖部材60の第2筒状部材62は、略矩形の断面形状を所定方向に延設して形成した断面略矩形の筒状体であって、第1筒状部材61を内部に収容可能な内部空間を有する形状に形成されている。
【0080】
方杖部材60の第3筒状部材63は、略矩形の断面形状を所定方向に延設して形成した断面略矩形の筒状体であって、第2筒状部材62を内部に収容可能な内部空間を有する形状に形成されている。
【0081】
この第3筒状部材63は、
図6に示すように、方杖部材60における長手方向の他端側となる底面部63aに、レール部材50の被係止壁部53に対向する部分を切り欠いたスリット部分60aが設けられている。
なお、第3筒状部材63の底面部63aは、後述する係止部66の下柱方向Yaへ向けた回転を規制する回転規制部として機能するよう構成されている。
【0082】
さらに、第3筒状部材63の底面部63aには、
図6及び
図8(a)に示すように、レール部材50の被係止壁部53の板厚よりも広い間隔を隔てて前後方向Xで対向する一対の平板部68が固定されている。
この平板部68は、前後方向Xに厚みを有する板状であって、ボルト69Aが挿通する貫通孔(図示省略)が開口形成されている。
【0083】
なお、平板部68の貫通孔は、
図8(b)に示すように、正面視において、第3筒状部材63の短手方向の略中央に対して短手方向の一方側にオフセットした位置に開口形成されている。
【0084】
このような構成の第1筒状部材61、第2筒状部材62及び第3筒状部材63は、
図10に示すように、第1筒状部材61が第2筒状部材62に収容され、第2筒状部材62が第3筒状部材63に収容されることで、所定方向に伸縮可能に構成されている。
【0085】
また、方杖部材60の第1状態維持機構部64は、
図8(a)に示すように、第2筒状部材62における第1筒状部材61側の端部に設けられている。
この第1状態維持機構部64は、例えば
図11に示すように、枢動自在に支持されたカム部材64aの回転方向が規制されたラチェット機構で構成されている。
【0086】
そして、第1状態維持機構部64は、カム部材64aが第1筒状部材61に設けた複数の開口Sのうち、1つの開口Sに係止されることで、第2筒状部材62の内部へ向けた第1筒状部材61の移動を規制している。
なお、第1状態維持機構部64には、カム部材64aなどを保護する保護フレーム64bが前後方向Xに隣接して設けられている。
【0087】
また、方杖部材60の第2状態維持機構部65は、
図8(a)に示すように、第3筒状部材63における第2筒状部材62側の端部に設けられている。
この第2状態維持機構部65は、上述した第1状態維持機構部64と同様に、ラチェット機構で構成され、第3筒状部材63の内部へ向けた第2筒状部材62の移動を規制している。
【0088】
また、方杖部材60の係止部66は、レール部材50の被係止壁部53に当接する部分である。この係止部66は、
図6、
図7及び
図8(b)に示すように、第3筒状部材63の平板部68の間に配置されるとともに、ボルト69A及びナット69Bを介して平板部68に回転自在に支持されている。
【0089】
より詳しくは、係止部66は、
図6及び
図8(b)に示すように、レール部材50の被係止壁部53よりも厚肉な厚みを有する平板であって、平板部68の貫通孔に連通してボルト69Aが挿通される貫通孔66aが、前後方向Xに開口形成されている。
【0090】
この係止部66は、
図8(b)に示すように、第3筒状部材63の底面部63aに当接する当接面661と、被係止壁部53の山部分53aの斜面(谷部分53bの斜面)に接触する湾曲面662と、被係止壁部53の谷部分53bに接触する突出部分663を有する形状に形成されている。
【0091】
具体的には、係止部66は、
図8(b)に示すように、貫通孔66a近傍を頂点とする正面視略二等辺三角形の部分と、正面視略二等辺三角形の底辺部分を貫通孔66aから離間する方向へ向けて突出させた部分とで形成されている。
【0092】
そして、係止部66は、正面視略二等辺三角形の斜辺をなす端面のうち、第3筒状部材63の短手方向に沿った端面が、第3筒状部材63の底面部63aに当接する当接面661を構成している。
【0093】
さらに、係止部66は、当接面661に連続する正面視略二等辺三角形の底辺の一部で、貫通孔66aへ向けて突出するように湾曲した端面が、被係止壁部53の山部分53aの斜面(谷部分53bの斜面)に接触する湾曲面662を構成している。
【0094】
加えて、係止部66は、湾曲面662に連続した端面を有して、貫通孔66aから離間する方向に突出した部分が、被係止壁部53の谷部分53bに接触する突出部分663を構成している。
【0095】
引き続き、上述した構成の建込み支援装置5を用いて、寝かせた状態の上柱1を建て起こして下柱2に連結する工程について、
図12から
図16を用いて説明する。
【0096】
なお、
図12は下柱側基部32と連結アーム33の連結箇所を中心に回動する上柱1の状態を説明する説明図を示し、
図13は建て起こし過程における枢動機構部30の状態を説明する説明図を示し、
図14は上柱1が起立した状態を説明する説明図を示している。
【0097】
さらに、
図15は上柱1の建て起こし過程における係止部66の動作を説明する説明図であり、
図15(a)は下柱方向Yaで隣接する谷部分53bへ向けて移動開始した係止部66の正面図を示し、
図15(b)は下柱方向Yaで隣接する谷部分53bへ移動した状態の係止部66の正面図を示している。
【0098】
さらにまた、
図16は上柱1が転倒開始した際の係止部66の動作を説明する説明図であり、
図16(a)は谷部分53bへ向けて移動開始した係止部66の正面図を示し、
図16(b)は谷部分53bに係止された状態の係止部66の正面図を示している。
【0099】
また、
図15(a)及び
図16(a)中において、移動開始前の係止部66を実線で図示し、移動開始した係止部66を二点鎖線で図示している。
また、
図15(b)及び
図16(b)中において、移動過程の係止部66を二点鎖線で図示し、移動完了した係止部66を実線で図示している。
【0100】
まず、作業者は、
図3及び
図4に示すように、下柱2の下柱側基部32にボルト36A及びナット36Bを用いて、連結アーム33及びガイド部材34を取り付ける。
さらに、作業者は、
図2及び
図5に示すように、下柱2に対して離間方向Ybに所定間隔を隔てた床版4上に、橋架部材42で連結された一対のレール部材50を床版4に固定することなく載置する。
【0101】
レール部材50を床版4上に載置すると、作業者は、
図5に示すように、下柱2に巻き掛けた2本のベルトスリング41の両端を、シャックル43を介してレール部材50に連結してレール部材50の設置を完了する。
【0102】
レール部材50の設置が完了すると、作業者は、
図2及び
図7に示すように、継手部67が下柱2側に位置し、かつ係止部66を支持するボルト69Aが上方に位置するように寝かせた状態の方杖部材60をレール部材50の被係止壁部53に載置する。
この際、作業者は、レール部材50における離間方向Ybの端部近傍に係止部66が位置するように方杖部材60を配置する。
【0103】
その後、作業者は、
図2に示すように、上柱1をクレーンなどの重機を用いて、長手方向が略水平となるように寝かせた状態で床版4上に搬入する。
この際、作業者は、寝かせた状態の上柱1の前面及び後面が、下柱2の前面及び後面に略平行で、かつ略同じ前後方向Xの位置となるように、上柱1の向きを調整して搬入する。
【0104】
上柱1を床版4上に搬入すると、作業者は、
図2から
図4に示すように、上柱1の上柱側基部31にボルト35A及びナット35Bを用いて連結アーム33を連結するとともに、方杖部材60の継手部67を上柱1の方杖ブラケット15に連結する。
【0105】
この際、方杖部材60の係止部66は、湾曲面662がレール部材50における被係止壁部53の山部分53aに接触した状態(
図15(a)参照)、あるいは突出部分663が被係止壁部53の谷部分53bに接触した状態となる(
図16(b)参照)。
【0106】
連結アーム33の連結及び方杖部材60の連結が完了すると、作業者は、
図2に示すように、上柱1の上端部にクレーンなどの重機のワイヤーWを連結して、上柱1の吊り上げ準備を完了したのち、上柱1の上端部の吊り上げを開始する。
【0107】
上柱1の上端部の吊り上げが開始されると、上柱1は、
図12及び
図13に示すように、ワイヤーWの張力によって支持されながら、下柱側基部32と連結アーム33との連結箇所を中心に、上端部が上方へ向かうように正面視反時計周りに回動開始する。
【0108】
この際、上柱1の隅部1aは、
図13に示すように、上柱側基部31と連結アーム33との連結箇所を中心に回動しながら、ガイド部材34の滑り部材34b上を摺動する。
さらに、上柱1に連結した方杖部材60は、上柱1の回動に伴って伸長しながら、係止部66を有する下端部がレール部材50上を下柱方向Yaへスライド移動する。なお、方杖部材60の係止部66の動きについては、後ほど詳述する。
【0109】
そして、
図13及び
図14に示すように、下柱側基部32と連結アーム33との連結箇所を中心に回動する上柱1が起立するまで上柱1の上端部を吊り上げると、作業者は、上柱1の吊り上げを停止する。
この際、上柱1は、
図14に示すように、下柱2の直上で起立するとともに、各外側面の向きが下柱2の各外側面の向きに一致した状態となる。
【0110】
その後、作業者は、上柱1を吊り上げた状態において、連結アーム33が連結された上柱側基部31及び下柱側基部32以外の上柱1の下側エレクションピース11と下柱2の上側エレクションピース21とを適宜の部材を用いて連結したのち、連結アーム33及びガイド部材34を取り外す。
【0111】
そして、作業者は、上柱側基部31である上柱1の下側エレクションピース11と、下柱側基部32である下柱2の上側エレクションピース21とを適宜の部材を用いて連結したのち、方杖部材60を取り外して撤去する。その後、作業者は、下柱2と上柱1とを溶接によって接合して鉄骨柱3を構成する。
【0112】
次に、ワイヤーWの張力によって上柱1が正面視反時計回りに回動開始した際の転倒抑止機構部40の動作と、ワイヤーWの張力が意図せず低下して上柱1が寝かせた状態に戻るように正面視時計回りに転倒開始した際の転倒抑止機構部40の動作について説明する。
【0113】
上述のようにワイヤーWの張力によって上柱1が正面視反時計回りに回動開始すると、方杖部材60には、方杖部材60の長手方向に沿った引っ張り荷重が加わる。
この際、方杖部材60は、上方への荷重成分によって、係止部66とレール部材50の被係止壁部53との接触箇所を中心に正面視時計回りに回動するように起立を開始する。
【0114】
さらに、方杖部材60は、
図12及び
図14に示すように、継手部67に加わる引張荷重によって、第1筒状部材61が第2筒状部材62から引き出されたのち、第2筒状部材62が第3筒状部材63から引き出されて伸長する。その後、方杖部材60は、下柱方向Yaへ向けてレール部材50上をスライド移動する。
【0115】
より詳しくは、正面視反時計回りへの上柱1の回動が進行すると、方杖部材60に加わる下柱方向Yaの荷重成分が大きくなるため、方杖部材60の係止部66は、
図15(a)に示すように、湾曲面662がレール部材50の山部分53aの斜面に接触して、ボルト69Aを回転軸とした正面視反時計回りの回転を開始する。
【0116】
正面視反時計回りへの上柱1の回動がさらに進行すると、方杖部材60の係止部66は、
図15(b)に示すように、突出部分663がレール部材50の谷部分53bから離脱し、山部分53aを乗り越えて下柱方向Yaで隣接する谷部分53bへ移動する。
【0117】
この際、方杖部材60に加わる上方への荷重成分により、係止部66は、突出部分663が被係止壁部53の谷部分53bから離間し、湾曲面662が被係止壁部53の山部分53aの斜面に接触した状態となる。
【0118】
このように、正面視反時計回りへの上柱1の回動に伴って、係止部66の突出部分663が被係止壁部53の山部分53aを下柱方向Yaへ向けて順番に乗り越えることで、係止部66を有する方杖部材60の下端部が、レール部材50上を下柱方向Yaへ向けてスライド移動する。
【0119】
一方、ワイヤーWの張力が意図せず低下して上柱1が寝かせた状態に戻るように正面視時計回りに転倒開始すると、方杖部材60には、方杖部材60の長手方向に沿った押圧荷重が加わる。
【0120】
この押圧荷重により、レール部材50の被係止壁部53に接触した方杖部材60の係止部66は、
図16(a)に示すように、ボルト69Aを回転軸とした正面視時計回りの回転を開始する。
【0121】
例えば係止部66の湾曲面662が被係止壁部53の山部分53aに接触している状態において、方杖部材60に押圧荷重が加わると、方杖部材60の係止部66は、
図16(a)に示すように、山部分53aに対して離間方向Ybで隣接する谷部分53bへ向けて突出部分663が移動するように、ボルト69Aを回転軸とした正面視時計回りの回転を開始する。
【0122】
その後、方杖部材60の係止部66は、
図16(b)に示すように、当接面661が第3筒状部材63の底面部63aに接触して、ボルト69Aを回転軸とした回転が規制される。
【0123】
さらに、方杖部材60の係止部66は、
図16(b)に示すように、谷部分53bを構成する鉛直な端面に突出部分663が離間方向Ybで接触することで、レール部材50の被係止壁部53に係止される。
【0124】
これにより、転倒抑止機構部40は、下柱方向Yaへの方杖部材60のスライド移動を可能にする一方で、離間方向Ybへ向けた方杖部材60の移動を規制して、上柱1の転倒を抑止している。
このようにして、本実施形態の建込み支援装置5は、下柱2の上空において、寝かせた状態の上柱1の建て起こしを可能にし、上柱1の建込みを支援している。
【0125】
以上のように、本実施形態における上柱1の建込み支援装置5は、長手方向が略水平となるように寝かせた状態で搬入された上柱1の建込みを支援する装置である。
この上柱1の建込み支援装置5は、下柱2の上端部に取り付けた下柱側基部32と、寝かせた状態における上柱1の下端部の下側に取り付けた上柱側基部31とが備えられている。
【0126】
さらに、上柱1の建込み支援装置5は、下柱側基部32に対して上柱側基部31を、前後方向Xを回転軸にして枢動可能に連結する連結アーム33と、上柱1の転倒を抑止する転倒抑止機構部40とが備えられている。
【0127】
この転倒抑止機構部40は、寝かせた状態の上柱1の下方に位置する床版4に載置され、寝かせた状態の上柱1の長手方向に延びるレール部材50と、一端が上柱1における上柱側基部31よりも上端部側に枢動自在に連結され、他端がレール部材50上をスライド移動する方杖部材60とが備えられている。
【0128】
そして、レール部材50は、方杖部材60の他端が離間方向Ybで係止する被係止壁部53が備えられている。一方、方杖部材60の他端は、前後方向Xを回転軸として回転自在に支持され、レール部材50の被係止壁部53に係止する係止部66が備えられている。
【0129】
この構成によれば、寝かせた状態における上柱1の上柱側基部31が連結アーム33を介して下柱2の下柱側基部32に枢動可能に連結されるため、寝かせた状態における上柱1の上端部が吊り上げられた際、前後方向Xを回転軸として上柱1を回動させることができる。このため、上柱1の建込み支援装置5は、寝かせた状態の上柱1を、下柱2の直上に起立させることができる。
【0130】
さらに、上柱1の上端部の吊り上げによって上柱1の建て起こしが開始されると、上柱1に連結された方杖部材60の他端は、上柱1の建て起こしに伴ってレール部材50上を下柱2へ向けてスライド移動する。
【0131】
この際、レール部材50における被係止壁部53の形状に追従して、方杖部材60の係止部66が回動することで、上柱1の建込み支援装置5は、方杖部材60のスライド移動に伴う打音や振動の発生を抑えることができる。
【0132】
一方、建て起こし過程の上柱1が寝かせた状態に戻るように転倒開始した場合、上柱1に連結された方杖部材60の他端には、下柱2から離間する離間方向Ybへ向けてスライド移動させる荷重が加わる。
【0133】
この際、上柱1に連結された方杖部材60の係止部66がレール部材50の被係止壁部53に係止されることで、上柱1の建込み支援装置5は、離間方向Ybへ向けた方杖部材60のスライド移動を規制して、上柱1の転倒を抑止することができる。
【0134】
よって、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1の建て起こしに伴う振動騒音の発生を抑えながら、上柱1を建て起こす際の安全性を向上して、上柱1の建込みを支援することができる。このため、上柱1の建込み支援装置5は、寝かせた状態で搬入された上柱1を、例えば夜間に限らず建て起こすことができる。
【0135】
また、転倒抑止機構部40が、幅方向Yに摺動可能な状態で床版4に載置されたレール部材50における下柱方向Yaの端部を下柱2に連結するベルトスリング41を備えている。
【0136】
この構成によれば、上柱1を寝かせた状態に戻そうとする荷重が方杖部材60に加わった際、レール部材50が下柱2から離間する離間方向Ybへ移動することをベルトスリング41によって阻止することができる。
【0137】
この際、上柱1の建込み支援装置5は、レール部材50と床版4との間の摩擦抵抗、及びベルトスリング41の張力によって、上柱1の転倒開始に伴う衝撃荷重を吸収することができる。このため、上柱1の建込み支援装置5は、方杖部材60の係止状態が意図せず解除されることを防止できる。
【0138】
これにより、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1を建て起こす際の安全性をより向上することができる。加えて、上柱1の建込み支援装置5は、床版4へのレール部材50の固定を不要にできるため、レール部材50の設置や撤去を容易にすることができる。
【0139】
また、レール部材50の被係止壁部53が、下柱方向Yaへ向けて傾斜した鋸波形状に形成されているため、上柱1の建込み支援装置5は、下柱方向Yaへの方杖部材60のスライド移動をよりスムーズにして打音や振動を抑えられる一方で、下柱2から離間する離間方向Ybへの方杖部材60のスライド移動を確実に規制することができる。
これにより、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1のスムーズな建て起こしを阻害することなく、上柱1の転倒を確実に抑止することができる。
【0140】
また、方杖部材60の他端は、下柱2へ向けた方杖部材60のスライド移動を可能にする回転方向とは逆回転方向への係止部66の回転を規制する底面部63aが備えられている。
【0141】
この構成によれば、方杖部材60の係止部66がレール部材50の被係止壁部53に係止した状態を確実に維持することができる。このため、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1の転倒を確実に抑止できるため、上柱1を建て起こす際の安全性をより向上することができる。
【0142】
また、転倒抑止機構部40が、下柱2を挟んで対向配置された一対のレール部材50及び一対の方杖部材60で構成されているため、上柱1の建込み支援装置5は、1つのレール部材50及び1つの方杖部材60で構成された転倒抑止機構部40に比べて、建て起こし過程の上柱1の揺れ動きを抑えることができる。
【0143】
これにより、上柱1の建込み支援装置5は、寝かせた状態における上柱1の長手方向に対して平面視交差する方向へ向けて、建て起こし過程の上柱1が転倒することを抑止できる。このため、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1を建て起こす際の安全性をより向上することができる。
【0144】
また、転倒抑止機構部40が一対のレール部材50を連結する橋架部材42を備えているため、上柱1の建込み支援装置5は、一対のレール部材50が連結されていない場合に比べて、建て起こし過程の上柱1の揺れ動きをより抑えることができる。このため、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1を建て起こす際の安全性をさらに向上することができる。
【0145】
また、方杖部材60が連結アーム33の回転軸を中心とした上柱1の回動に伴って伸長可能に構成されているため、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1の回動位置に関わらず、方杖部材60の係止部66をレール部材50の被係止壁部53に常に接触させることができる。
【0146】
このため、上柱1の建込み支援装置5は、下柱2へ向けた方杖部材60のスライド移動に伴う打音や振動の発生をより抑えられるとともに、上柱1の転倒を確実に抑止することができる。
さらに、上柱1の建込み支援装置5は、方杖部材60の全長を伸長不可の場合に比べて短くすることができるとともに、レール部材50の全長を短くすることができる。
【0147】
これにより、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1を建て起こす際の安全性を損なうことなく、方杖部材60及びレール部材50の設置や撤去を容易にすることができる。
【0148】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の柱は、実施形態の上柱1に対応し、
以下同様に、
建込み箇所は、下柱2に対応し、
建込み側基部は、下柱側基部32に対応し、
柱側基部は、上柱側基部31に対応し、
水平方向は、前後方向Xに対応し、
枢動部は、連結アーム33に対応し、
床面は、床版4に対応し、
被係止部は、被係止壁部53に対応し、
連結部材は、ベルトスリング41に対応し、
離間方向とは逆方向は、下柱方向Yaに対応し、
回転方向は、正面視反時計回りに対応し、
逆回転方向は、正面視時計回りに対応するが、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0149】
例えば、上述した実施形態において、床版4を貫通する下柱2としたが、これに限定せず、基礎に設けた鉄骨柱の基部を下柱としてもよい。
また、上述した実施形態では言及しなかったが、寝かせた状態の上柱1を下方から支持するジャッキなどの支持台を床版4上に配置してもよい。
【0150】
また、上柱1を床版4上に搬入するタイミングは、上述の実施形態に記載のタイミングに限定せず、適宜のタイミングで搬入されてもよい。
また、連結アーム33及びガイド部材34を取付けるタイミングは、上述の実施例のタイミングに限定せず、上柱1の吊り上げを開始するまでの間であれば、適宜のタイミングであってもよい。
【0151】
また、連結アーム33及びガイド部材34を取り外すタイミングは、上述の実施例のタイミングに限定しない。例えば連結アーム33及びガイド部材34を取り外した状態で、上柱側基部31を含む上柱1の下側エレクションピース11と、下柱側基部32を含む下柱2の上側エレクションピース21とを適宜の部材を用いて連結してもよい。
【0152】
また、上柱側基部31を上柱1の下側エレクションピース11で構成したが、これに限定せず、上柱1の下側エレクションピース11とは別体で上柱1に取り付けた部材、あるいは下側エレクションピース11に取り付けた部材を上柱側基部31としてもよい。
【0153】
また、下柱側基部32を下柱2の上側エレクションピース21で構成したが、これに限定せず、下柱2の上側エレクションピース21とは別体で下柱2に取り付けた部材、あるいは上側エレクションピース21に取り付けた部材を下柱側基部32としてもよい。
【0154】
また、ガイド部材34の滑り部材34bを、傾きを異ならせた平面を組み合わせた上面を有する正面視略蒲鉾状としたが、これに限定せず、上柱1の隅部1a近傍の回動軌跡に沿った正面視略円弧状の上面を有する滑り部材であってもよい。
【0155】
また、ガイド部材34の滑り部材34bを、自己潤滑性及び低摩擦係数のエンジニアリングプラスチック製としたが、これに限定せず、ステンレスなどの金属製の滑り部材、あるいはエンジニアリングプラスチックの表面に金属製薄膜板を貼付した滑り部材などであってもよい。
この際、滑り部材の摩耗を抑制するために、上柱1の隅部1aを研磨して平滑性を向上させてもよい。
【0156】
また、ガイド部材34に加えて、下柱2の前面及び後面の上側エレクションピース21に、上柱1の回動を案内するガイドプレートを装着してもよい。これにより、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1を下柱2の直上に確実に起立させることができる。
【0157】
また、連結アーム33が、上柱側基部31及び下柱側基部32に対して枢動可能に連結された構成としたが、これに限定せず、下柱側基部32と連結アーム33とが枢動可能に連結され、連結アーム33と上柱側基部31とが締結固定された構成であってもよい。
あるいは、下柱側基部32と連結アーム33とが締結固定され、連結アーム33と上柱側基部31とが枢動可能に連結された構成であってもよい。
【0158】
また、下柱側基部32と上柱側基部31とを一対の連結アーム33で連結したが、これに限定せず、下柱側基部32に対して上柱側基部31を、前後方向Xを回転軸にして枢動可能に連結する構成であれば、適宜の構成であってもよい。
例えば前後方向Xを回転軸として回動するクレビス構造の継手部で、下柱側基部32と上柱側基部31とを連結してもよい。
【0159】
また、レール部材50を床版4に固定することなく載置したが、これに限定せず、幅方向Yに長い長楕円形状の長孔を有するプレートをレール部材50の側壁部52に設け、レール部材50の長孔に遊嵌したボルトを床版4に固定してもよい。
【0160】
この場合、幅方向Yへの移動範囲が規制された状態でレール部材50を床版4上に載置することができるため、上柱1の建込み支援装置5は、上柱1の転倒に伴うレール部材50の移動を規制するとともに、上柱1の転倒に伴う衝撃荷重を、ボルトを介して床版4に伝達することができる。
【0161】
また、レール部材50における下柱方向Yaの端部を、ベルトスリング41を介して下柱2に連結したが、これに限定せず、レール部材50における下柱方向Yaの端部を棒状の部材を介して下柱2に連結してもよい。
また、一方のベルトスリング41の両端を一方のレール部材50に連結し、他方のベルトスリング41の両端を他方のレール部材50に連結するように配索したが、これに限定せず、ベルトスリング41の配索経路は適宜の配索経路であってもよい。
【0162】
また、方杖部材60の継手部67を連結する方杖ブラケット15を、上柱1の下段梁ブラケット14に設けたが、これに限定せず、上柱側基部31よりも上柱1の上端部側の位置であれば、適宜の位置に設けてもよい。
【0163】
また、断面略矩形の第1筒状部材61、第2筒状部材62及び第3筒状部材63で方杖部材60を構成したが、これに限定せず、所定方向に沿って伸縮可能であれば適宜の構成であってもよい。
【0164】
また、寝かせた状態の上柱1を吊り上げた際、第1筒状部材61が第2筒状部材62から引き出されたのち、第2筒状部材62が第3筒状部材63から引き出されて、方杖部材60が伸長すると説明したが、これに限定しない。
【0165】
例えば方杖部材60は、第2筒状部材62が第3筒状部材63から引き出されたのち、第1筒状部材61が第2筒状部材62から引き出されることで伸長してもよい。あるいは、方杖部材60は、第1筒状部材61及び第2筒状部材62がともに引き出されながら伸長してもよい。
【0166】
さらに、伸長した方杖部材60がレール部材50上を移動開始するとしたが、これに限定せず、上柱1の吊り上げに伴って方杖部材60が伸長しながら、レール部材50上をスライド移動してもよい。
【0167】
また、方杖部材60の第1状態維持機構部64及び第2状態維持機構部65は一例であって、上述した実施形態の構成に限定せず、伸長状態を維持可能であれば適宜の構成であってもよい。
また、方杖部材60の係止部66は、上述した実施形態の形状に限定せず、レール部材50の被係止壁部53に係止可能であれば、適宜の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0168】
1…上柱
2…下柱
4…床版
5…建込み支援装置
31…上柱側基部
32…下柱側基部
33…連結アーム
40…転倒抑止機構部
41…ベルトスリング
42…橋架部材
50…レール部材
53…被係止壁部
60…方杖部材
63a…底面部
66…係止部
X…前後方向
Ya…下柱方向
Yb…離間方向