(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127409
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】溶融成形型およびガラス振動子
(51)【国際特許分類】
C03B 23/035 20060101AFI20240912BHJP
G01C 19/5691 20120101ALI20240912BHJP
【FI】
C03B23/035
G01C19/5691
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036549
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤塚 徳夫
(72)【発明者】
【氏名】島岡 敬一
(72)【発明者】
【氏名】明石 照久
(72)【発明者】
【氏名】後藤 勝昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴彦
【テーマコード(参考)】
2F105
4G015
【Fターム(参考)】
2F105BB02
2F105CC04
4G015AA13
4G015AB01
4G015AB03
4G015AB05
4G015AB10
(57)【要約】
【課題】振動子の溶融成形型を提供する。
【解決手段】溶融成形型は、裏面を備える。溶融成形型は、裏面と平行な表面を備える。溶融成形型は、表面に形成されている穴部を備える。穴部は、表面に垂直な中心軸を中心とした円周で形成されている内壁面を備えるとともに穴底面を備えている。溶融成形型は、中心軸を中心として穴底面から上方へ伸びている支柱を備える。支柱は、穴底面に接続している面である支柱底面と、上端に位置している面である支柱上面と、を備えている。支柱底面の径が、支柱上面の径よりも大きい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面と、
前記裏面と平行な表面と、
前記表面に形成されている穴部であって、前記表面に垂直な中心軸を中心とした円周で形成されている内壁面を備えるとともに穴底面を備えている前記穴部と、
前記中心軸を中心として前記穴底面から上方へ伸びている支柱と、
を備える溶融成形型であって、
前記支柱は、前記穴底面に接続している面である支柱底面と、上端に位置している面である支柱上面と、を備えており、
前記支柱底面の径が、前記支柱上面の径よりも大きい、溶融成形型。
【請求項2】
前記支柱の径が、前記支柱上面から前記支柱底面に向かって線形に増加している、請求項1に記載の溶融成形型。
【請求項3】
前記支柱の径が、前記支柱上面から前記支柱底面に向かって曲線状に増加している、請求項1に記載の溶融成形型。
【請求項4】
前記支柱の径が、前記支柱上面から前記支柱底面に向かって階段状に不連続に増加している、請求項1に記載の溶融成形型。
【請求項5】
前記支柱は、前記支柱上面と前記支柱底面との間に位置する面であって、前記中心軸に垂直な面である支柱中間面を備えており、
前記支柱の径が、前記支柱上面から前記支柱中間面までは一定であり、前記支柱中間面から前記支柱底面に向かって増加している、請求項1に記載の溶融成形型。
【請求項6】
前記支柱は、前記中心軸周りに回転対称な形状を備えている、請求項1に記載の溶融成形型。
【請求項7】
前記支柱の前記中心軸に垂直な断面は、多角形である、請求項1に記載の溶融成形型。
【請求項8】
中心軸を有する管形状の柱部であって、内壁の表面粗さが第1粗さである、前記柱部と、
前記柱部の前記中心軸方向の上端から上方へ延びており、前記中心軸を中心とした円管形状を備えており、前記柱部の上端から上方へいくほど前記中心軸に垂直な方向の径が大きくなっている接続部であって、
内壁の表面粗さが前記第1粗さよりも小さい第2粗さである、前記接続部と、
前記接続部の外周から下方へ延びており、前記中心軸を中心とした中空の略半球形状を備えており、前記接続部の外周から下方へ行くほど前記中心軸に垂直な方向の径が大きくなっている、周囲部と、
を備えるガラス振動子であって、
前記柱部と前記接続部と前記周囲部とは、ガラス材料によって一体に形成されており、
前記中心軸に垂直な断面における前記柱部の径は、前記中心軸方向の下側よりも上側の方が大きい、
ガラス振動子。
【請求項9】
前記接続部に、前記ガラス材料の最薄部が形成されている、請求項8に記載のガラス振動子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、溶融成形型およびガラス振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高精度化が可能であるジャイロセンサとして、溶融シリカを振動子に用いたBird-bath Resonator Gyroscope (BRG)が開示されている。具体的な製造方法を説明する。上面の一部に穴部が形成されている溶融成形型を準備する。穴部は、成形型の上面に垂直な中心軸を中心として、上面の一部に形成されている。穴部の内部には、中心軸を中心として穴底面から上方へ伸びている支柱が配置されている。穴部を塞ぐようにガラス板(例:石英板)を配置し、穴部を減圧し、ガラス板の上面をバーナで加熱する。加熱されたガラス板が軟化点を超えると、差圧により溶融変形が開始される。
【0003】
最初に、ガラス板の中央部が支柱の上面に接触する。ガラス板の中央部の熱が、支柱を介して排熱されるため、支柱上面のガラス板の変形が停止する。継続される加熱により、支柱周囲のガラス板が、穴部の内部に入り込むように下方側へ変形する。変形が進むほど、熱源であるバーナとの距離が増加して入熱量が減少するとともに、支柱を介した排熱量が増加するため、変形しにくくなる。そのため、穴部底面に近い深い部位のガラス板ほど変形しにくくなる。型の支柱形状をガラス板に転写することによって、中空のガラス柱部を形成できる。また穴部によって、ガラス柱部を中心とした略半球形状のガラス周囲部を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/079129号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ジャイロセンサの感度を高めるためには、ガラス振動子の励振振動の周波数と検出振動の周波数との差(Δf)を小さくする必要がある。本明細書の技術では、ジャイロセンサの感度を高めることが可能なガラス振動子を製造可能な溶融成形型を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する溶融成形型は、裏面を備える。溶融成形型は、裏面と平行な表面を備える。溶融成形型は、表面に形成されている穴部を備える。穴部は、表面に垂直な中心軸を中心とした円周で形成されている内壁面を備えるとともに穴底面を備えている。溶融成形型は、中心軸を中心として穴底面から上方へ伸びている支柱を備える。支柱は、穴底面に接続している面である支柱底面と、上端に位置している面である支柱上面と、を備えている。支柱底面の径が、支柱上面の径よりも大きい。
【0007】
本発明者らは、ガラス柱部とガラス周囲部との間に形成されている接続部の真円性に着目した。接続部は、ガラス柱部とガラス周囲部とを接続している部位である。また接続部は、溶融成型時において、支柱底面の近傍に形成される部位である。真円性とは、接続部の形状が、中心軸を中心とした円にどの程度近いかを示す指標である。そして本発明者らは、接続部の真円性が高いほど、Δfを減少させることができることを突き止めた。従来のガラス振動子の製造方法では、入熱量の減少と排熱量の増加によって成り行きでガラス板の変形が停止することにより、接続部の形状が決まっていた。従って、接続部の真円性を高めることが困難であった。そこで、本明細書が開示する溶融成形型では、型が備える支柱底面の径を、支柱上面の径よりも大きくしている。これにより、接続部が支柱底面の近傍に形成される際に、ガラス板を支柱に接触させたり、支柱に接近させることによって、ガラス板の変形を停止させることができる。型の形状を転写することで接続部の形状を決定できるため、成り行きで形状を決定する場合に比して、接続部の真円性を高めることが可能となる。その結果、Δfの極めて小さいガラス振動子を安定に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の溶融成形装置1の断面概略図である。
【
図3】支柱20p近傍の拡大斜視図および断面図である。
【
図4】ガラス振動子の製造工程を説明するフロー図である。
【
図5】ガラス振動子30vが成形された石英板30の斜視図である。
【
図7】従来の溶融成形装置1001における断面側面図である。
【
図8】従来の溶融成形装置1001における断面側面図である。
【
図9】従来の溶融成形装置1001における断面側面図である。
【
図10】従来の溶融成形装置1001における断面側面図である。
【
図11】本実施例の溶融成形装置1における断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0009】
(溶融成形装置1の構成)
図1に、溶融成形装置1の断面概略図を示す。
図2に、溶融成形装置1の上面図を示す。
図1は、
図2のI-I線における断面図に対応している。なお
図2では、バーナ50、放射温度計60、可動機構53およびステージ45の記載を省略している。
【0010】
ステージ45は、xy方向(水平方向)に移動可能に構成されている。ステージ45は、平坦な載置面45sを備えている。載置面45s上には、ヒートシンク40およびプレート10を介して、成形型20が載置されている。
【0011】
ヒートシンク40は、ステージ45と成形型20との間に配置されている。ヒートシンク40は、プレート10の下面10rと接触している。ヒートシンク40の内部には、循環配管41が配置されている。循環配管41は、チラー設備42に接続されている。循環配管41には、チラー設備42によって恒温化(例:35℃)された熱媒が循環している。これによりヒートシンク40は、工程中に一定の温度を保ち続けることができる。
【0012】
プレート10は、ヒートシンク40上に配置されている。プレート10は、成形型20を設置するためのステンレス製の台である。プレート10は、成形型20を冷却する機能を備えている。プレート10の表面10sには、第1連絡孔10c1が形成されている。第1連絡孔10c1は、貫通孔20eに対応した位置に配置されており、貫通孔20eと接続している。第1連絡孔10c1は、第1連絡路10p1を介して負圧発生手段81に接続されている。負圧発生手段81は、穴部20hに負圧を発生させることが可能な手段である。負圧発生手段81は、例えば真空ポンプであってもよい。
【0013】
成形型20は、プレート10の表面10s上に配置されている。成形型20は、石英板30を溶融変形させて半球形状のガラス振動子を成形するための型である。成形型20の材料はグラファイトとした。本実施例では、成形型20は、中心軸CAを備えた円板形状である。成形型20は、下面20r、上面20s、穴部20h、支柱20p、貫通孔20e、を備える。下面20rおよび上面20sは、中心軸CAに垂直な平坦面である。上面20sの一部には、穴部20hが形成されている。穴部20hは、石英板30が溶融変形するための変形空間である。穴部20hは、中心軸CAを中心とした円周で形成されている内壁面を備えた空間である。本実施例では、穴部20hは、中心軸CAを中心として円筒状にくり抜かれた形状を有している。穴部20hは、底面20bを備えている。底面20bには、下面20rに貫通している複数の貫通孔20eが形成されている。貫通孔20eは第1連絡孔10c1に連通している。
【0014】
穴部20hの中央には、底面20bから垂直上方に伸びている支柱20pが配置されている。
図3を用いて、支柱20pの構造について説明する。
図3(A)は、支柱20p近傍の拡大斜視図である。
図3(B)は、
図3(A)のB-B線断面図であり、中心軸CAを通る断面図である。支柱20pは、中心軸CAを中心軸とする円柱であり、中心軸CA周りに回転対称な形状を備えている。支柱20pは、支柱底面BSおよび支柱上面TSを備えている。支柱底面BSは、穴部20hの底面20bに接続しており、中心軸CAに垂直な面である。支柱上面TSは、支柱20pの上端に位置しており、中心軸CAに垂直な面である。
【0015】
支柱20pの径は、支柱上面TSから支柱底面BSに向かって曲線状に増加(すなわち非線形で増加)している。従って、支柱底面BSの径R1が、支柱上面の径R2よりも大きい。また支柱20pの側面SSは、中心軸CAを通る断面図においてなだらかな曲線形状を有している。
【0016】
支柱上面TSは、成形型20の上面20sよりも低い位置にある。これにより、石英板30の下面と支柱上面TSとの間には、ギャップGA1が形成されている(
図1参照)。ギャップGA1は任意の値でよく、例えば100~500μmである。ギャップGA1が形成されていることで、後述するステップS100において、不要な平坦部をCMPなどでカットする際に、支柱20pを消失させないことができる。
【0017】
成形型20の上面20sには、穴部20hを覆うように、石英板30が配置されている(
図1、
図2参照)。石英板30は、ガラス振動子を形成するための被加工材料である。石英板30は、溶融シリカ製とした。石英板30の厚さは、例えば100μmである。本実施例では石英板30は正方形であるが、円形や正六角形であってもよい。
【0018】
バーナ50は、中心軸CAの上方に配置されている。バーナ50は、予混合室50c、チューブ50t、バーナ先端部50s、を備えている。予混合室50cには、ガス流量調整器52から、燃料ガスG1(例:プロパン)および酸素ガスG2が供給される。ガス流量調整器52は、不図示のマスフローコントローラを備えており、燃料ガスG1および酸素ガスG2の流量の制御および監視が可能である。チューブ50tは、予混合室50cから下方側へ延びている。チューブ50tは、上下方向に延びるバーナ中心軸BAを有する、円筒形状の部材である。チューブ50tの下端には、穴部20hと対向するバーナ先端部50sが配置されている。バーナ先端部50sから穴部20hに向けて火炎を発生させることにより、石英板30を加熱することができる。
【0019】
バーナ50は、可動機構53に固定されている。可動機構53は、上下方向(±z方向)に移動可能な機構である。可動機構53は、バーナ先端部50sを、中心軸CAに沿って上下に移動させることができる。
【0020】
放射温度計60の焦点を支柱20pに当てることによって、放射温度計60は、支柱20pの温度を非接触で測定できる。支柱20pの温度は、加工中の石英板30の温度に応じた温度を示す。放射温度計60の測定点である焦点を透明な石英板30に合わせることは非常に難しいため、支柱20pの温度を測定することにより、間接的に石英板30の温度を測定することが可能である。
【0021】
制御部70は、ステージ45、可動機構53、ガス流量調整器52、放射温度計60、負圧発生手段81に接続されている。制御部70は、これらの機器から各種情報を取得するとともに、これらの機器を制御する。制御部70は、例えば例えばPCであってもよい。
【0022】
(ガラス振動子の製造工程)
図4のフロー図を用いて、ガラス振動子の製造工程を説明する。ステップS10において、チラー設備42から循環配管41に熱媒を常時循環させることで、ヒートシンク40を恒温状態にする。またプレート10の表面10sに、成形型20を設置する。
【0023】
ステップS20において、成形型20の上面20sに石英板30を配置する。このとき、中心軸CAと石英板30の中心とが一致するように位置決めする。制御部70からの信号により負圧発生手段81は、第1連絡孔10c1の真空引きを行う。これにより、貫通孔20eを介して穴部20hも真空引きされ、石英板30が成形型20の上面20sに吸着固定される。これにより、
図1および
図2に示す状態となる。
【0024】
ステップS30において、制御部70は、放射温度計60による支柱20pの温度の測定を開始する。ステップS40において、制御部70は、バーナ50に着火する。着火は、バーナ先端部50sが石英板30の表面から十分に離れている退避位置において行われる。
【0025】
ステップS50において制御部70は、可動機構53を制御することによりバーナ50を下降させて、バーナ先端部50sと石英板30との距離を小さくする。これにより、火炎による石英板30の加熱工程が開始される。
【0026】
下降を開始するタイミング、および、バーナ先端部50sと石英板30との距離は、様々な態様で制御することが可能である。例えば、ステップS40でバーナ50に着火してから予め設定した時間が経過することに応じて下降を開始し、バーナ先端部50sと石英板30とが予め定めた距離まで近づくことによって下降を停止してもよい。また例えば、放射温度計60で支柱20pの温度を計測し、温度フィードバック制御により、下降タイミングやバーナ先端部50sと石英板30との距離を決定してもよい。
【0027】
石英板30には、大気圧と穴部20h内の負圧との差圧による分布荷重が印加されている。よって、石英板30が軟化温度(約1600℃)まで加熱されることに応じて、穴部20hに入り込むように石英板30を溶融変形させることができる。溶融変形の具体的内容については、後述する。
【0028】
ステップS60において、石英板30の溶融変形が完了したと判断されると(S60:YES)、ステップS70へ進む。加工終点の検出方法は様々であって良い。例えば、支柱20pの温度が、加工終点を示す温度まで上昇したことを検出してもよい。また例えば、所定時間の経過を検出してもよい。
【0029】
ステップS70において制御部70は、可動機構53を制御し、バーナ50を上昇させる。ステップS80において制御部70は、可動機構53を制御することにより、バーナ50の上昇を停止する。また火炎を消火する。
【0030】
ステップS90において制御部70は、冷却の完了を待機する。冷却が完了すると、制御部70は、負圧発生手段81を停止する。これにより穴部20hが大気開放される。ステップS100において、溶融成形された石英板30を成形型20から取り外す。石英板30の外周の未成形領域(羽部30h)をCMP法やレーザーカット法などによって除去することで、ガラス振動子が完成する。
【0031】
(ガラス振動子の構成)
図4のフローで溶融成形された石英板30の構造を説明する。
図5に、ガラス振動子30vが成形された石英板30の斜視図を示す。
図6に、
図5のVI-VI線における断面図を示す。なお、
図5の斜視図では、ガラス振動子30vの成形部において厚みを考慮した図示になっていない。
【0032】
石英板30は、羽部30hおよびガラス振動子30vを備えている。羽部30hは、もとの石英板30の状態を保ち、溶融成形に寄与されていない箇所である。ガラス振動子30vは、石英板30の一部が溶融成形で引き伸ばされた箇所である。ガラス振動子30vは、石英板30の中央部に作製されている。
【0033】
ガラス振動子30vは、柱部PP、接続部CP、周囲部SP、を備えている。本明細書では、溶融成型時に成形型20の支柱20pに接触することで形成された領域を、柱部PPと定義している。すなわち、上端PPuよりも下側の領域が、柱部PPである。また、ガラス振動子30vの頂点を、外周CPcと定義している。外周CPcは、振動子中心軸VAを中心とした円形状を備えている。そして、上端PPuから外周CPcまでの領域を、接続部CPと定義している。また、外周CPcよりも外側の領域を、周囲部SPと定義している。すなわちガラス振動子30vは、柱部PPと周囲部SPとが、接続部CPによって接続されている構造を備えている。また柱部PP、接続部CP、周囲部SPは、ガラス材料によって一体に形成されている。
【0034】
柱部PPは、振動子中心軸VAを有する管形状を有している。柱部PPは、成形型20の支柱20pの形状が転写されて形成されている。従って、振動子中心軸VAに垂直な断面における柱部PPの径は、柱部底面PPbから上端PPuへ向かって曲線状に増加している。すなわち柱部PPの径は、下側よりも上側の方が大きい。また柱部PPの内壁PPiは、第1粗さの表面粗さを有している。第1粗さは、支柱20pの表面粗さに応じて決まる粗さである。
【0035】
接続部CPは、柱部PPの上端PPuから上方へ延びている。接続部CPは、中心軸CAを中心とした円管形状を備えている。接続部CPの振動子中心軸VAに垂直な方向の径は、上端PPuから上方へいくほど大きくなっている。接続部CPには、ガラス材料の最薄部THが形成されている。
【0036】
接続部CPの内壁CPiは、第1粗さよりも小さい第2粗さの表面粗さを有している。これは、接続部CPの内壁CPiは支柱20pに接触していないため、支柱20pの表面粗さが転写されていないためである。従って、内壁の粗さを振動子中心軸VAに沿って測定することで、上端PPuおよび柱部PPを特定することが可能である。そして特定した柱部PPが、下側の径よりも上側の径の方が大きい形状を有しているか否かによって、本実施例の成形型20を用いて形成されたか否かを特定することができる。
【0037】
周囲部SPは、接続部CPの外周CPcから下方へ延びている。周囲部SPは、振動子中心軸VAを中心とした中空の略半球形状を備えている。周囲部SPの振動子中心軸VAに垂直な方向の径は、外周CPcから下方へ行くほど大きくなっている。振動子中心軸VA方向(+z方向)からみたときに、柱部PPの上端PPu、最薄部TH、接続部CPの外周CPcは、振動子中心軸VAを中心とした同心円形状に配置されている。
【0038】
(課題)
ジャイロセンサの感度を高めるためには、ガラス振動子30vの励振振動の周波数と検出振動の周波数との差(Δf)を小さくする必要がある。そして本発明者らは、柱部PPと周囲部SPとの間に形成されている接続部CPの真円性に着目した。真円性とは、接続部CPの形状が、振動子中心軸VAを中心とした円にどの程度近いかを示す指標である。そして接続部CPの真円性が高いほど、Δfを減少させることができることを突き止めた。より具体的には、接続部CPには、振動子中心軸VAを中心とした略円形の最薄部THが形成されている。この最薄部THの振動子中心軸VAに対する真円性が高いほど、Δfを減少させることができることを見出した。
【0039】
しかし、従来のガラス振動子の製造方法では、接続部CPの真円性を高めることが困難であった。以下にその理由を説明する。
図7-
図10に、従来の溶融成形装置1001における断面側面図を示す。従来の溶融成形装置1001は、中心軸CA方向において径が一定である支柱1020pを備えている。その他の構成は、
図1の溶融成形装置1と同様である。
図7は、加熱工程(ステップS50)の初期状態を示している。
図8および
図9は、石英板30の溶融変形中の状態を順番に示している。
図10は、溶融変形の完了時(ステップS60)の状態を示している。
図7-
図10の断面図は、
図1の断面図と同様の図である。なお
図7-
図10は、支柱1020p近傍の拡大図であり、バーナ50などの記載を省略している。
【0040】
図7に示す加工初期では、石英板30と支柱1020pの支柱上面TSとは、ギャップGA1を介して離間している(対向している)。そのため、バーナ50で石英板30を加熱した直後は、石英板30の中央(中心軸CA近傍)が最も高温になり、その外周側に行くほど低温となる温度分布を持つ。
【0041】
石英板30の中央が軟化点を超えると、負圧発生手段81の差圧により、溶融変形が開始される。
図8に示すように、石英板30の中央部が支柱上面TSに接触する。石英板30の中央部の熱が、支柱1020pを介して排熱されるため、中央部の温度が急激に低下し、中央部の変形が停止する。
【0042】
継続される加熱により、石英板30の中央部の周囲温度が、軟化点以上の温度に維持される。よって
図9に示すように、支柱上面TSの周囲の石英板30が、穴部20hの内部に入り込むように下方側へ変形する。このため、支柱1020pの側面と石英板30との接触領域は、時間とともに増加しながら下側へ移動していく。
【0043】
変形が進むほど、熱源であるバーナ50との距離が増加して入熱量が減少するとともに、支柱1020pを介した排熱量が増加するため、加熱しにくくなる。すなわち、成形型20の底面20bに近くなるほど(深い部位ほど)、変形しにくくなる。その結果、成り行きで石英板30の変形が停止し、ガラス振動子30vが完成する(
図10)。
【0044】
図10に示すように、完成後のガラス振動子30vでは、柱部底面PPbから上端PPuまでの領域において、柱部PPが形成されている。また上端PPuから外周CPc(最下点)までの領域において、接続部CPが形成されている。接続部CPには、最薄部THが形成されている。そして上端PPuから外周CPc側に行くほど、石英板30と支柱1020pの側面とのギャップが広がっている(領域A1参照)。ギャップが広がるほど、支柱1020pによって形状が規制されにくくなるため、接続部CPの形状の自由度が高くなってしまう。すなわち、入熱量と排熱量のバランスによる成り行きでの変形停止により、接続部CPの形状が決まってしまう。そのため、接続部CPに形成されている最薄部THの真円性を高めることが困難であった。
【0045】
(効果)
図11に、本実施例の溶融成形装置1における断面側面図を示す。本実施例の溶融成形装置1は、支柱上面TSから支柱底面BSに向かって曲線状に径が増加する支柱20pを備えている。
図11は、
図10と同様にして、ガラス振動子30vの完成状態を示す図である。なお、
図11の完成状態に至るまでの加工経緯は、前述の
図7-
図9の各々における加工経緯と同様であるため、説明を省略する。
【0046】
本実施例では、成形型20の支柱20pの径が、支柱上面TSから支柱底面BSに向かって大きくなっている。これにより、石英板30と支柱側面とのギャップを、従来の支柱1020p(領域A1参照)に比して、本実施例の支柱20p(領域A2参照)の方を小さくすることができる。成形型20の底面20bに近い領域において(すなわち穴部20hの深い部位において)、石英板30を支柱20pの側面に接触させたり、支柱20pの側面に接近させることによって、石英板30の変形を停止させることができる。支柱20pの形状を転写することで接続部CPの形状を決定できるため、従来製法に比して、接続部CPの形状の自由度を制限することができる。よって、接続部CPの真円性、および、接続部CPに形成されている最薄部THの真円性を高めることが可能となる。
【0047】
上端PPuから最薄部THまでの領域は、成り行きで形成される形状の自由度が高い領域である。従って、上端PPuから最薄部THまでの距離D1が大きくなるほど、最薄部THの形状制御が困難になる。本実施例の技術では、支柱20pの径を支柱底面BSに向かって大きくしている。これにより、従来の支柱1020pの距離D1(
図10参照)よりも、本実施例の支柱20pの距離D1(
図11参照)の方を、小さくすることができる。よって、最薄部THの真円度を高めることが可能となる。
【0048】
溶融加工中、成形型20の支柱20pは最も熱が逃げにくいため、最も高温になってしまう。その結果、成形型20の劣化(すなわち支柱20pの痩せや焼失)が早くなり、成形型20の耐久性が低くなるという問題があった。本実施例の技術では、成形型20の支柱20pの径を、支柱上面TSから支柱底面BSに向かって大きくすることで、支柱20pの排熱量を増加させることができる。よって、支柱20pの痩せや焼失を抑制できるため、成形型20の耐久性を高めることが可能となる。
効果を説明する。ガラス振動子30vの頂点である円形の外周CPcの径が小さいほど(すなわち支柱径が小さいほど)、ジャイロセンサのQ値を高くすることができる。支柱220pでは、支柱中間面MSを備えることで、接続部CPが形成される支柱底面BSに近い領域(すなわち付け根近傍領域)のみ、支柱径を大きくすることができる。支柱径を可能な限り小さくしながら、本明細書の技術の効果を得ることが可能となる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
穴部20hの形状は円筒に限られず、様々であってよい。例えば、穴部20hの径が底面20bに向かって線形または非線形に減少するような、器形状を備えていてもよい。また、穴部20hの径が底面20bに向かって不連続に減少するような、階段形状の内壁を備えていてもよい。
成形型20の材料はグラファイトに限られない。所定の熱衝撃耐性や熱伝導率を有する材料であれば、窒化ホウ素など、様々な材料を用いることが可能である。また、振動子の材料は、溶融シリカに限られない。溶融変形する誘電体であれば、何れの材料であってもよい。