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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127437
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20240912BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20240912BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240912BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20240912BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240912BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20240912BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C33/78 Z
F16J15/3232 201
F16J15/3256
F16J15/447
B60B35/02 L
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036592
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 晃
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
3J216
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE28
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE46
3J006CA01
3J042AA09
3J042AA12
3J042CA10
3J042DA10
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA06
3J043DA07
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC25
3J216CC35
3J216CC43
3J216CC68
3J216DA01
3J216DA11
3J216EA03
3J216EA05
(57)【要約】
【課題】低トルク化を図りつつ耐泥水性を向上することができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】インナー側シール部材10においては、シール部材12は、芯金11の側板部11bからスリンガ14の外嵌部14a側へ延出し、外嵌部14aと接触するグリースリップ122およびラジアルリップ123と、芯金11の側板部11bからスリンガ14の円環部14b側へ延出するとともに外径側へ傾斜し、軸方向において円環部14bと隙間をもって対向する第1サイドリップ124とを有し、弾性部材15は、第1サイドリップ124よりも内径側において、スリンガ14の円環部14bから芯金11の側板部11b側へ延出するとともに外径側へ向けて傾斜し、軸方向において側板部11bと隙間をもって対向するシールリップ154を有し、第1サイドリップ124の基端部124bとシールリップ154の先端部154aとは径方向において隙間をもって対向している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
ハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材※とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記密封装置は、
前記外方部材の内周に嵌合される内嵌部と、前記内嵌部の軸方向他端部から内径側へ延びる側板部とからなる芯金、および前記芯金に一体的に接合されるシール部材を有するシール板と、
前記内方部材の外周に嵌合される外嵌部と、前記外嵌部の軸方向一端部から外径側へ延び、軸方向において前記側板部と対向する円環部と、前記円環部の外径側端部から前記側板部側へ向けて突出する外径部とを有するスリンガと、
前記スリンガに一体的に接合される弾性部材とを備え、
前記シール部材は、前記芯金の前記側板部から前記スリンガの前記外嵌部側へ向けて延出し、前記外嵌部と接触する接触リップと、前記芯金の前記側板部から前記スリンガの前記円環部側へ向けて延出するとともに外径側へ傾斜し、軸方向において前記円環部と隙間をもって対向する第1シール部材側シールリップとを有し、
前記弾性部材は、前記第1シール部材側シールリップよりも内径側において、前記スリンガの前記円環部から前記芯金の前記側板部側へ向けて延出するとともに外径側へ向けて傾斜し、軸方向において前記側板部と隙間をもって対向する弾性部材側シールリップを有し、
前記第1シール部材側シールリップの基端部と、前記弾性部材側シールリップの先端部とは、径方向において隙間をもって対向している車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記第1シール部材側シールリップの基端部における前記弾性部材側シールリップの先端部と対向する面、および前記弾性部材側シールリップの先端部における前記第1シール部材側シールリップの基端部と対向する面は、互いに平行な面である請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記シール部材は、
前記弾性部材側シールリップよりも内径側において、前記芯金の前記側板部から前記スリンガの前記円環部側へ向けて延出するとともに外径側へ傾斜し、軸方向において前記円環部と隙間をもって対向する第2シール部材側シールリップを有し、
前記弾性部材側シールリップの基端部と、前記第2シール部材側シールリップの先端部とは、径方向において隙間をもって対向している請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記弾性部材側シールリップの基端部における前記第2シール部材側シールリップの先端部と対向する面、および前記第2シール部材側シールリップの先端部における前記弾性部材側シールリップの基端部と対向する面は、互いに平行な面である請求項3に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
弾性部材側シールリップは、磁性を有しない素材にて形成されている請求項1または請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記弾性部材は、前記スリンガにおける前記円環部の軸方向一側面に接合され、磁性を有する素材にて形成されたエンコーダ部を有し、
弾性部材側シールリップは、磁性を有する素材にて形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
前記弾性部材は、前記スリンガにおける前記円環部の軸方向一側面に接合され、磁性を有する素材にて形成されたエンコーダ部を有し、
弾性部材側シールリップは、磁性を有しない素材にて形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項8】
前記弾性部材の前記エンコーダ部は、前記スリンガの前記外嵌部よりも内径側に突出する突起を有している請求項6または請求項7に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぎ、泥水等の異物の入り込みを防止する密閉装置が設けられている。また、近年では、車両の燃費または電費を向上させるために、車輪用軸受装置に用いられる密閉装置の低トルク化が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される密封装置は、外方部材である外輪の内周に嵌合される嵌合部と、嵌合部から内径側へ延びる円環部とからなる芯金、および芯金に一体的に接合されるシール部材と、内方部材である内輪の外周に嵌合されるスリンガ嵌合部と、外嵌部から外径側へ延びる立板部と、立板部の外径側端部から円環部側へ向けて突出する円筒部とを有するスリンガと、を備えている。
【0004】
シール部材は、スリンガのスリンガ嵌合部に接触するラジアルリップおよびグリースリップと、スリンガの立板部および円筒部に近接してラビリンスを構成するアキシャルリップとを有している。
【0005】
このように、アキシャルリップとスリンガとでラビリンスを構成することで、泥水等が車輪用軸受装置の内部に入り込むことを抑制するとともに、ラジアルリップおよびグリースリップのみがスリンガと接触する構成とすることで、密封装置の低トルク化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-51597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の密封装置においては、泥水等がアキシャルリップとスリンガとで構成されたラビリンスを通り抜けると、直ぐにラジアルリップに到達する構成となっているため、さらに耐泥水性を向上する余地がある。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、低トルク化を図りつつ、耐泥水性を向上することができる車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、ハブ輪と、前記ハブ輪に連結された軌道面形成部材とからなり、前記ハブ輪および前記軌道面形成部材に前記外側軌道溝に対向する内側軌道溝が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、前記密封装置は、前記外方部材の内周に嵌合される内嵌部と、前記内嵌部の軸方向他端部から内径側へ延びる側板部とからなる芯金、および前記芯金に一体的に接合されるシール部材を有するシール板と、前記内方部材の外周に嵌合される外嵌部と、前記外嵌部の軸方向一端部から外径側へ延び、軸方向において前記側板部と対向する円環部と、前記円環部の外径側端部から前記側板部側へ向けて突出する外径部とを有するスリンガと、前記スリンガに一体的に接合される弾性部材とを備え、前記シール部材は、前記芯金の前記側板部から前記スリンガの前記外嵌部側へ向けて延出し、前記外嵌部と接触する接触リップと、前記芯金の前記側板部から前記スリンガの前記円環部側へ向けて延出するとともに外径側へ傾斜し、軸方向において前記円環部と隙間をもって対向する第1シール部材側シールリップとを有し、前記弾性部材は、前記第1シール部材側シールリップよりも内径側において、前記スリンガの前記円環部から前記芯金の前記側板部側へ向けて延出するとともに外径側へ向けて傾斜し、軸方向において前記側板部と隙間をもって対向する弾性部材側シールリップを有し、前記第1シール部材側シールリップの基端部と、前記弾性部材側シールリップの先端部とは、径方向において隙間をもって対向している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、密封装置の低トルク化を図りつつ、さらに耐泥水性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図2】インナー側シール部材を示す側面断面図である。
図3】インナー側シール部材の第2実施形態を示す側面断面図である。
図4】インナー側シール部材の第3実施形態を示す側面断面図である。
図5】インナー側シール部材の第4実施形態を示す側面断面図である。
図6】第2実施形態に係る車輪用軸受装置を示す一部側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0013】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態であり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。
【0014】
以下の説明において、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸心Xに沿った方向を表す。また、インナー側とは、軸方向一端側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、軸方向他端側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。
【0015】
車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、アウター側シール部材9と、インナー側シール部材10とを具備する。内輪4は、ハブ輪に連結された軌道面形成部材の一例である。
【0016】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材10が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材9が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。
【0017】
インナー側シール部材10がインナー側開口部2aに嵌合されることにより、外方部材である外輪2と内方部材であるハブ輪3および内輪4とによって形成された環状空間Sのインナー側の開口端が塞がれている。アウター側シール部材9がアウター側開口部2bに嵌合されることにより、環状空間Sのアウター側の開口端が塞がれている。
【0018】
インナー側シール部材10およびアウター側シール部材9は、環状空間Sの開口端を塞ぐ密封装置である。このように、インナー側シール部材10およびアウター側シール部材9により環状空間Sのインナー側およびアウター側の開口端を塞ぐことで、泥水等の異物が車輪用軸受装置1の内部へ浸入することを抑制している。
【0019】
外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが形成されている。外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。車体取り付けフランジ2eには、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔2fが設けられている。
【0020】
ハブ輪3の外周面におけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、複数のボルト孔3fが形成されている。ボルト孔3fには、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルトが圧入可能である。
【0021】
ハブ輪3においては、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材9が摺接する摺接面3dが形成されている。ハブ輪3の外周面には、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。つまり、内方部材のアウター側には、ハブ輪3によって内側軌道面3cが構成されている。
【0022】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入およびかしめ加工によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。ハブ輪3のインナー側端部には、内輪4のインナー側端面4bにかしめられたかしめ部3hが形成されている。内輪4は、かしめ部3hにより軸方向に固定されている。かしめ部3hは、小径段部3aのインナー側端部を外径側に塑性変形させることにより形成されている。内輪4は、転動列であるインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6に予圧を付与している。
【0023】
内輪4の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道面2cと対向するようにインナー側の内側軌道面4aが設けられている。つまり、内方部材のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。
【0024】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。
【0025】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3及び内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
[インナー側シール部材]
【0026】
図2に示すように、インナー側シール部材10は、外輪2に嵌装される芯金11および芯金11に一体的に接合されるシール部材12を有するシール板13と、内輪4に嵌装されるスリンガ14と、スリンガ14に一体的に接合される弾性部材15とを備えている。
【0027】
芯金11は、例えば鋼板により構成されており、外輪2のインナー側開口部2aにおける内周に嵌合される円筒状の内嵌部11aと、内嵌部11aのアウター側端部から内径側へ延びる円環状の側板部11bとからなっている。
【0028】
シール部材12は、例えば合成ゴムによって形成されており、芯金11に加硫接着によって一体的に接合されている。シール部材12を形成する合成ゴムとしては、例えばNBRゴム、HNBRゴム、およびフッ素ゴムを用いることができる。
【0029】
シール部材12は、芯金11に加硫接着される基部121と、基部121から延出し、それぞれ円環状に形成されるグリースリップ122、ラジアルリップ123、第1サイドリップ124、および第2サイドリップ125とを有している。
【0030】
基部121は、内嵌部11aの内周面、インナー側端面、および外周面におけるインナー側の部分、ならびに側板部11bの軸方向一側面であるインナー側面、内径側端面、および軸方向他側面であるアウター側面の内径側の部分に接合されている。
【0031】
グリースリップ122は、芯金11における側板部11bの内径側端部から内径側かつアウター側へ向けて延出している。ラジアルリップ123は、芯金11における側板部11bの内径側端部から内径側かつインナー側へ向けて延出している。グリースリップ122およびラジアルリップ123は、接触リップの一例である。
【0032】
第1サイドリップ124は、ラジアルリップ123よりも外径側に位置しており、芯金11の側板部11bからインナー側へ向けて延出するとともに外径側へ傾斜している。第1サイドリップ124は、第1シール部材側シールリップの一例である。
【0033】
第2サイドリップ125は、径方向において第1サイドリップ124とラジアルリップ123との間に位置しており、芯金11の側板部11bからインナー側へ向けて延出するとともに外径側へ傾斜している。第2サイドリップ125は、第2シール部材側シールリップの一例である。
【0034】
スリンガ14は、例えば鋼板により構成されており、内輪4のインナー側端部における外周面4cに嵌合される円筒状の外嵌部14aと、外嵌部14aのインナー側端部から外径側へ延びる円環状の円環部14bと、円環部14bの外径側端部から側板部11b側となるアウター側へ向けて突出する外径部14cとを有している。
【0035】
外径部14cは、径方向において、芯金11の内嵌部11aと、シール部材12の第1サイドリップ124との間に位置している。外径部14cは、軸方向において、シール部材12の基部121と隙間をもって対向している。スリンガ14の円環部14bは、軸方向において芯金11の側板部11bよりもインナー側に位置しており、円環部14bと側板部11bとは、軸方向において対向している。
【0036】
弾性部材15は、例えば磁性を有する素材にて形成されている。磁性を有する素材は、例えばフェライト等の磁性体粉が混入された合成ゴムである。弾性部材15を形成する磁性体粉が混入された合成ゴムとしては、NBRゴム、HNBRゴム、およびフッ素ゴム等の磁性ゴムを用いることができる。弾性部材15は、スリンガ14に加硫接着によって一体的に接合されている。弾性部材15は、例えばスリンガ14とともにインサート成形することによって、スリンガ14に加硫接着される。
【0037】
弾性部材15は、スリンガ14における円環部14bのインナー側面に接合されるエンコーダ部151と、スリンガ14における外径部14cを覆う円筒部152と、スリンガ14における円環部14bのアウター側側面に接合される側面部153およびシールリップ154とを有している。シールリップ154は、弾性部材側シールリップの一例である。
【0038】
エンコーダ部151と、円筒部152と、側面部153と、シールリップ154とは一体的に形成されており、それぞれ同じ素材にて形成されている。このように、円筒部152、側面部153、およびシールリップ154とを、エンコーダ部151と同様の磁性を有する素材にて形成することで、弾性部材15を容易に形成することが可能となっている。
【0039】
エンコーダ部151には、周方向に交互に等ピッチで磁極Nと磁極Sとが着磁されている。軸方向においてエンコーダ部151と対向するように回転速度センサを配置することで、回転速度センサによってエンコーダ部151の磁束密度の変化を検出して、内輪4の回転速度を検出することが可能となっている。
【0040】
円筒部152は円筒状に形成されており、軸方向においてシール部材12の基部121と隙間をもって対向している。円筒部152の内周面152aは、軸方向と平行な面に形成されている。
【0041】
シールリップ154は、第1サイドリップ124よりも内径側において、スリンガ14の円環部14bから芯金11の側板部11b側へ向けて延出するとともに外径側へ向けて傾斜している。シールリップ154は、径方向においてシール部材12の第1サイドリップ124と第2サイドリップ125との間に位置している。
【0042】
シール部材12のグリースリップ122は、芯金11の側板部11bからスリンガ14の外嵌部14a側へ向けて延出している。グリースリップ122は、径方向においてスリンガ14の外嵌部14aと対向しており、グリースリップ122の先端部は外嵌部14aと摺動可能に接触している。
【0043】
シール部材12のラジアルリップ123は、芯金11の側板部11bからスリンガ14の外嵌部14a側へ向けて延出している。ラジアルリップ123は、径方向においてスリンガ14の外嵌部14aと対向しており、ラジアルリップ123の先端部は、外嵌部14aと摺動可能に接触している。
【0044】
シール部材12の第1サイドリップ124は、スリンガ14の円環部14b側へ向けて延出している。第1サイドリップ124は、軸方向においてスリンガ14の円環部14bと対向しており、第1サイドリップ124の先端部124aは、円環部14bと隙間をもって対向している。第1サイドリップ124の先端部124aは、径方向においてスリンガ14の外径部14cと隙間をもって対向している。
【0045】
また、第1サイドリップ124の先端部124aは、軸方向においてスリンガ14に接合される弾性部材15の側面部153と隙間をもって対向している。第1サイドリップ124の先端部124aと、弾性部材15の側面部153(スリンガ14の円環部14b)とで、ラビリンスシールを形成している。
【0046】
第1サイドリップ124の先端部124aは、径方向においてスリンガ14に接合される弾性部材15の円筒部152と隙間をもって対向している。第1サイドリップ124の先端部124aにおける外周面124cは、軸方向と平行な面に形成されており、外周面124cは、径方向において円筒部152の内周面152aと対向している。第1サイドリップ124の外周面124cと円筒部152の内周面152aとは互いに平行な面であり、外周面124cと内周面152a(スリンガ14の外径部14c)とでラビリンスシールを形成している。
【0047】
第1サイドリップ124の基端部124bにおける内周面124dは、軸方向と平行な面に形成されている。
【0048】
弾性部材15のシールリップ154は、軸方向において、芯金11の側板部11bと対向しており、シールリップ154の先端部154aは、側板部11bと隙間をもって対向している。
【0049】
また、シールリップ154の先端部154aは、軸方向において、側板部11bに接合されるシール部材12の基部121と隙間をもって対向している。シールリップ154の先端部154aと、シール部材12の基部121(芯金11の側板部11b)とで、ラビリンスシールを形成している。
【0050】
シールリップ154の先端部154aは、径方向において、第1サイドリップ124の基端部124bと隙間をもって対向している。シールリップ154の先端部154aにおける外周面154cは、軸方向と平行な面に形成されており、外周面154cは、径方向において第1サイドリップ124の基端部124bにおける内周面124dと対向している。シールリップ154の外周面154cと、第1サイドリップ124の内周面124dとは互いに平行な面であり、外周面154cと内周面124dとでラビリンスシールを形成している。
【0051】
シールリップ154の基端部154bにおける内周面154dは、軸方向と平行な面に形成されている。
【0052】
シール部材12の第2サイドリップ125は、シールリップ154よりも内径側において、スリンガ14の円環部14b側へ向けて延出している。第1サイドリップ124は、軸方向においてスリンガ14の円環部14bと対向しており、第2サイドリップ125の先端部125aは、円環部14bと隙間をもって対向している。
【0053】
また、第2サイドリップ125の先端部125aは、軸方向においてスリンガ14に接合される弾性部材15の側面部153と隙間をもって対向している。第2サイドリップ125の先端部125aと、弾性部材15の側面部153(スリンガ14の円環部14b)とで、ラビリンスシールを形成している。
【0054】
第2サイドリップ125の先端部125aは、径方向においてシールリップ154の基端部154bと隙間をもって対向している。第2サイドリップ125の先端部125aにおける外周面125cは、軸方向と平行な面に形成されており、外周面125cは、径方向においてシールリップ154の基端部154bにおける内周面154dと対向している。第2サイドリップ125の外周面125cとシールリップ154の内周面154dとは互いに平行な面であり、外周面125cと内周面154dとでラビリンスシールを形成している。
【0055】
インナー側シール部材10の内部においては、シール部材12の第1サイドリップ124と、弾性部材15のシールリップ154と、スリンガ14の円環部14b(より詳しくは、円環部14bに接合された弾性部材15の側面部153)とで囲まれた空間S1が形成されている。また、弾性部材15のシールリップ154と、シール部材12の第2サイドリップ125と、芯金11の側板部11b(より詳しくは、側板部11bに接合されたシール部材12の基部121)とで囲まれた空間S2が形成されている。空間S1および空間S2は、周方向から見た断面において、略三角形状に形成されている。
【0056】
このように構成されるインナー側シール部材10においては、芯金11の内嵌部11aとスリンガ14の外径部14cとの間からインナー側シール部材10の内部に浸入した泥水等の異物は、第1サイドリップ124と、スリンガ14に接合される弾性部材15との間に形成されるラビリンスシールによって、それ以上内部側へ浸入することが抑制される。
【0057】
また、泥水等の異物が第1サイドリップ124と弾性部材15とで形成されたラビリンスシールを通り抜けた場合、泥水等の異物は、第1サイドリップ124とシールリップ154と弾性部材15の側面部153とで囲まれた空間S1に貯溜されるため、ラジアルリップ123に到達することが抑制される。
【0058】
さらに、シールリップ154の先端部154aと第1サイドリップ124の基端部124bとの間にはラビリンスシールが形成されているため、空間S1における泥水等の異物の貯溜量が増大した場合であっても、それ以上内部側へ浸入することが抑制される。これにより、インナー側シール部材10の耐泥水性を向上することが可能となっている。
【0059】
この場合、シールリップ154の先端部154aにおける外周面154cと、第1サイドリップ124の基端部124bにおける内周面124dとは、互いに平行な面に形成されているため、先端部154aと基端部124bとが干渉することを抑制しながら、高い封止効果を奏することが可能となっている。
【0060】
また、泥水等の異物が第1サイドリップ124とシールリップ154とで形成されたラビリンスシールを通り抜けた場合、泥水等の異物は、シールリップ154と第2サイドリップ125とシール部材12の基部121とで囲まれた空間S2に貯溜されるため、ラジアルリップ123に到達することが抑制される。
【0061】
さらに、第2サイドリップ125の先端部125aとシールリップ154の基端部154bとの間にはラビリンスシールが形成されているため、空間S2における泥水等の異物の貯溜量が増大した場合であっても、それ以上内部側へ浸入することが抑制される。これにより、インナー側シール部材10の耐泥水性を向上することが可能となっている。
【0062】
この場合、第2サイドリップ125の先端部125aにおける外周面125cと、シールリップ154の基端部154bにおける内周面154dとは、互いに平行な面に形成されているため、先端部125aと基端部154bとが干渉することを抑制しながら、高い封止効果を奏することが可能となっている。
【0063】
また、インナー側シール部材10においては、シール部材12におけるグリースリップ122およびラジアルリップ123のみがスリンガ14と接触する構成であるため、インナー側シール部材10の低トルク化を図ることが可能となっている。このように、インナー側シール部材10においては、低トルク化を図りつつ、耐泥水性を向上することが可能である。
【0064】
[インナー側シール部材の第2実施形態]
インナー側シール部材10は、図3に示すインナー側シール部材10Aのように構成することもできる。インナー側シール部材10Aは、弾性部材15に代えて弾性部材15Aを備えている点で、インナー側シール部材10と異なっている。インナー側シール部材10Aのその他の構成は、インナー側シール部材10と同様である。
【0065】
弾性部材15Aは、エンコーダ部151Aと、円筒部152Aと、側面部153Aと、シールリップ154Aとを有している。弾性部材15Aにおいては、エンコーダ部151Aと円筒部152Aとが一体的に形成され、側面部153Aとシールリップ154Aとが一体的に形成されており、エンコーダ部151Aおよび円筒部152Aと、側面部153Aおよびシールリップ154Aとは、別体に形成されている。
【0066】
エンコーダ部151Aおよび円筒部152Aは、磁性を有する素材にて形成されている。磁性を有する素材は、例えばフェライト等の磁性体粉が混入された合成ゴムである。エンコーダ部151Aおよび円筒部152Aを形成する磁性体粉が混入された合成ゴムとしては、NBRゴム、HNBRゴム、およびフッ素ゴム等の磁性ゴムを用いることができる。
【0067】
側面部153Aおよびシールリップ154Aは、磁性を有しない素材にて形成されている。磁性を有しない素材は、例えば磁性体粉が混入されていない合成ゴムである。側面部153Aおよびシールリップ154Aを形成する合成ゴムとしては、NBRゴム、HNBRゴム、およびフッ素ゴムを用いることができる。弾性部材15Aのその他の構成は、弾性部材15と同様である。
【0068】
このように、エンコーダ部151Aおよび円筒部152Aと、側面部153Aおよびシールリップ154Aとを異なる素材にて形成することで、磁性が必要となるエンコーダ部151Aを含む部分については磁性を有する素材を用いて、磁性を必要としないシールリップ154Aを含む部分については磁性を有しない素材を用いることができる。これにより、弾性部材15Aにおける磁性を有する素材の使用量を低減することができ弾性部材15Aを構成する素材の低コスト化を図ることができる。
【0069】
なお、弾性部材15のように、エンコーダ部151と、円筒部152と、側面部153と、シールリップ154とを一体的に形成する場合においても、エンコーダ部151を含む部分が磁性を有する素材にて形成され、シールリップ154を含む部分が磁性を有しない素材にて形成された構成とすることが可能である。
【0070】
[インナー側シール部材の第3実施形態]
インナー側シール部材10は、図4に示すインナー側シール部材10Bのように構成することもできる。インナー側シール部材10Bは、弾性部材15に代えて弾性部材15Bを備えている点で、インナー側シール部材10と異なっている。インナー側シール部材10Bのその他の構成は、インナー側シール部材10と同様である。
【0071】
弾性部材15Bは、円筒部152Bと、側面部153Bと、シールリップ154Bとを有している。つまり、弾性部材15Bは、弾性部材15が有するエンコーダ部151を有していない。弾性部材15Bにおいては、円筒部152Bと側面部153Bとシールリップ154Bとは一体的に形成されている。
【0072】
弾性部材15Bの円筒部152B、側面部153B、およびシールリップ154Bは、磁性を有しない素材にて形成されている。磁性を有しない素材は、例えば磁性体粉が混入されていない合成ゴムである。円筒部152B、側面部153B、およびシールリップ154Bを形成する合成ゴムとしては、NBRゴム、HNBRゴム、およびフッ素ゴムを用いることができる。弾性部材15Bのその他の構成は、弾性部材15と同様である。
【0073】
このように、弾性部材15Bが、磁性を必要とするエンコーダ部を有しない構成である場合は、弾性部材15Bを全体的に磁性を有しない素材で形成することができる。弾性部材15Bを磁性を有しない素材で形成することで、弾性部材15Bを構成する素材の低コスト化を図ることができる。
【0074】
[インナー側シール部材の第4実施形態]
インナー側シール部材10は、図5に示すインナー側シール部材10Cのように構成することもできる。インナー側シール部材10Cは、弾性部材15に代えて弾性部材15Cを備えている点で、インナー側シール部材10と異なっている。インナー側シール部材10Cのその他の構成は、インナー側シール部材10と同様である。
【0075】
弾性部材15Cは、エンコーダ部151Cと、円筒部152と、側面部153と、シールリップ154とを有している。つまり、弾性部材15Cは、エンコーダ部151に代えてエンコーダ部151Cを有している点で、弾性部材15と異なっており、弾性部材15Cのその他の構成は弾性部材15と同様である。
【0076】
弾性部材15Cにおいては、エンコーダ部151Cと、円筒部152と、側面部153と、シールリップ154とは一体的に形成されている。弾性部材15Cは、全体的に磁性を有する素材にて形成されている。磁性を有する素材は、例えばフェライト等の磁性体粉が混入された合成ゴムである。弾性部材15Cを形成する磁性体粉が混入された合成ゴムとしては、NBRゴム、HNBRゴム、およびフッ素ゴム等の磁性ゴムを用いることができる。
【0077】
弾性部材15Cのエンコーダ部151Cは、内径側の端部に、スリンガ14の外嵌部14aよりも内径側に突出する突起155を有している。突起155は内輪4の外周面4cに接触しており、突起155によって、スリンガ14の外嵌部14aと内輪4の外周面4cとの間が密封されている。これにより、スリンガ14と内輪4との間から車輪用軸受装置1の内部に泥水等の異物が浸入することを抑制することが可能となっている。
【0078】
なお、スリンガ14の外嵌部14aと内輪4の外周面4cとの間を密封する突起155を有する弾性部材15Cは、磁性を必要とするエンコーダ部151Cを有しない構成とすることもできる。この場合、弾性部材15Cは、全体的に磁性を有しない素材で形成することができる。磁性を有しない素材としては、例えば磁性体粉が混入されていないNBRゴム、HNBRゴム、およびフッ素ゴム等の合成ゴムを用いることができる。
【0079】
[車輪用軸受装置の第2実施形態]
車輪用軸受装置1は、図6に示す車輪用軸受装置1Aのように構成することもできる。車輪用軸受装置1Aは、ハブ輪3Aに連結される等速自在継手20を備えており、内輪4を備えていない。等速自在継手20は、ハブ輪に連結された軌道面形成部材の一例である。
【0080】
等速自在継手20は、駆動源からの駆動力が入力されるシャフトを支持するマウス部22と、マウス部22からアウター側へ向けて延びるステム部23とを備えている。ハブ輪3Aは、軸方向に貫通する貫通孔3eを有しており、貫通孔3eとステム部23とはスプライン嵌合している。
【0081】
マウス部22におけるアウター側端部の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cに対向する内側軌道溝28が形成されている。インナー側ボール列5は、外輪2のインナー側の外側軌道溝2cと、等速自在継手20におけるマウス部22の内側軌道溝28との間に転動自在に挟まれている。
【0082】
つまり、車輪用軸受装置1Aにおいては、外輪2の外側軌道溝2cに対向する内側軌道溝28を有する等速自在継手20が、内輪を兼ねる構成となっている。
【0083】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0084】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2a インナー側開口部
2b アウター側開口部
2c (インナー側の)外側軌道面
2d (アウター側の)外側軌道面
3 ハブ輪
3c 内側軌道面
4 内輪
4a 内側軌道面
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
10、10A、10B、10C インナー側シール部材
11 芯金
11a 内嵌部
11b 側板部
12 シール部材
13 シール板
14 スリンガ
14a 外嵌部
14b 円環部
14c 外径部
15、15A、15B、15C 弾性部材
20 等速自在継手
28 内側軌道溝
121 基部
122 グリースリップ
123 ラジアルリップ
124 第1サイドリップ
124a 先端部
124b 基端部
125 第2サイドリップ
125a 先端部
151、151A、151C エンコーダ部
154、154A、154B シールリップ
154a 先端部
154b 基端部
155 突起
図1
図2
図3
図4
図5
図6