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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127458
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】キメラタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20240912BHJP
   C12N 9/20 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240912BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240912BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C12N15/55
C12N9/20 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/02
C07K19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036623
(22)【出願日】2023-03-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「脳とこころの研究推進プログラム/細胞内シグナル伝達系の光操作による革新的シナプス可塑性介入技術の研究開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】金 然正
(72)【発明者】
【氏名】大塚 稔久
(72)【発明者】
【氏名】濱田 駿
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QQ79
4B063QR51
4B063QS05
4B063QS38
4B063QS40
4B065AA91Y
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC48
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築するための分子を提供すること。
【解決手段】ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有することを特徴とする、キメラタンパク質である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有することを特徴とする、キメラタンパク質。
【請求項2】
ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを、この順で有する、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項3】
ホスホリパーゼCのX-Yリンカー配列を有さない、請求項1に記載のキメラタンパク質。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むことを特徴とする核酸。
【請求項5】
請求項4に記載の核酸を含むことを特徴とするベクター。
【請求項6】
請求項4に記載の核酸を含むことを特徴とする細胞。
【請求項7】
SsrAをコードする塩基配列を含む核酸を含む、請求項6に記載の細胞。
【請求項8】
請求項6に記載の細胞を培養する工程を含むことを特徴とするキメラタンパク質の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の細胞に青色光を照射することを含むホスホリパーゼCの制御方法。
【請求項10】
請求項6に記載の細胞に青色光を照射することを含むホスホリパーゼCを介したシグナル伝達の解析方法。
【請求項11】
請求項6に記載の細胞に青色光を照射することを含む化合物のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キメラタンパク質及びその製造方法、核酸、ベクター、細胞、ホスホリパーゼCの制御方法、ホスホリパーゼCを介したシグナル伝達の解析方法、並びに化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスホリパーゼC(PLC)は、生体のシグナル伝達経路において重要な役割を果たし、細胞内で様々な反応に関与することが知られている。
内在性PLCは、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)、成長因子受容体(RTK)、及び低分子量Gタンパク質の一種であるRacとRhoなどにより活性化されることが知られているが、PLCの自発的な活性化機構は未だ知られていない。
【0003】
近年光遺伝学の発展により光駆動型システムが開発されている。光駆動型システムを使用することにより、タンパク質の活性化を光を用いて制御することが可能である。前記光駆動型システムとして、非特許文献1には、エンバクのLOV2ドメインにSsrAペプチドを埋め込んだ、改良光誘導性二量体(iLID)が記載されている。前記iLIDは、青色光で活性化されると、LOV2ドメインのC末端ヘリックスがタンパク質から切り離され、SsrAペプチドがSspBに結合できるようになる。
PLCを活性化する光駆動型システムとしては、Opto-α1AR、Neuropsin、Magnet-Gq、Opto-RTK、PA-Rac、PA-Rhoなどが報告されている(非特許文献2~4など)。しかしながら、これらのPLCを活性化する光駆動型システムは、PLCのシグナル伝達の上流に位置するタンパク質を標的としており、PLCの特異性は低かった。
【0004】
したがって、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築するための分子が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】PNAS 2015 112:112-117
【非特許文献2】Nature 2009 458:1025-1029
【非特許文献3】Proc R Soc B 2013 280:20122987
【非特許文献4】Scientific Reports 2016 6:35777
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築するための分子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有するキメラタンパク質、前記キメラタンパク質をコードする塩基配列を含む核酸、前記核酸を含むベクター及び細胞、並びに、前記細胞を培養する工程を含むことを特徴とするキメラタンパク質の製造方法により、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築するための分子が提供でき、これらを用いたホスホリパーゼCの制御方法、ホスホリパーゼCを介したシグナル伝達の解析方法、及び化合物のスクリーニング方法が提供できることを知見した。
【0008】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下のとおりである。即ち、
<1> ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有することを特徴とする、キメラタンパク質である。
<2> 前記<1>に記載のキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むことを特徴とする核酸である。
<3> 前記<2>に記載の核酸を含むことを特徴とするベクターである。
<4> 前記<2>記載の核酸を含むことを特徴とする細胞である。
<5> 前記<4>に記載の細胞を培養する工程を含むことを特徴とするキメラタンパク質の製造方法である。
<6> 前記<4>に記載の細胞に青色光を照射することを含むホスホリパーゼCの制御方法である。
<7> 前記<4>に記載の細胞に青色光を照射することを含むホスホリパーゼCを介したシグナル伝達の解析方法である。
<8> 前記<4>に記載の細胞に青色光を照射することを含む化合物のスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築するための分子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、マウスPLCβ3の活性中心の立体構造を示す図である。
図1B図1Bは、SspBドメインを付加したマウスPLCβ3の活性中心の立体構造の予測図である。
図2図2は、PLCタンパク質の構造と光駆動型PLCタンパク質のデザインを示す模式図である。
図3A図3Aは、PLCを介したシグナル伝達経路の一例を示した模式図である。
図3B図3Bは、試験例1のウェスタンブロットの結果を示す図である。
図3C図3Cは、試験例1のリン酸化PKD1についてのバンド強度を示す図である。
図3D図3Dは、試験例1のリン酸化ERKについてのバンド強度を示す図である。
図4A図4Aは、PLCタンパク質の構造と光駆動型PLCタンパク質のデザインを示す模式図である。
図4B図4Bは、試験例2のウェスタンブロットの結果を示す図である。
図4C図4Cは、試験例2のリン酸化PKD1についてのバンド強度を示す図である。
図4D図4Dは、試験例2のリン酸化ERKについてのバンド強度を示す図である。
図5A図5Aは、試験例3の照射前の蛍光輝度を示した写真である。
図5B図5Bは、試験例3の照射後の蛍光輝度を示した写真である。
図5C図5Cは、試験例3の蛍光輝度の経時変化をプロットした図である。
図6A図6Aは、PLCによる脂質組成の変動の一例を示した模式図である。
図6B図6Bは、試験例4-1の照射前の蛍光輝度を示した写真である。
図6C図6Cは、試験例4-1の照射後の蛍光輝度を示した写真である。
図6D図6Dは、試験例4-2の照射前の蛍光輝度を示した写真である。
図6E図6Eは、試験例4-2の照射後の蛍光輝度を示した写真である。
図6F図6Fは、試験例4-3の照射前の蛍光輝度を示した写真である。
図6G図6Gは、試験例4-3の照射後の蛍光輝度を示した写真である。
図6H図6Hは、試験例4-4の照射前の蛍光輝度を示した写真である。
図6I図6Iは、試験例4-4の照射後の蛍光輝度を示した写真である。
図6J図6Jは、試験例4の細胞質側の蛍光輝度の経時変化をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(キメラタンパク質)
前記キメラタンパク質は、ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有し、さらにその他の配列を有することができる。
これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記キメラタンパク質は、ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを、この順で有するものが好ましく、ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを、N末端側からこの順で有するものがより好ましい。
【0012】
-ホスホリパーゼC-
ホスホリパーゼC(PLCとも称する)、生体膜の主要成分であるリン脂質のグリセロールとリン酸の間のエステル結合を加水分解する酵素である。
前記リン脂質としては、例えば、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリンなどが挙げられる。
【0013】
前記ホスファチジルイノシトールには、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトール一リン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)が含まれる。
前記ホスファチジルイノシトール一リン酸(PIP)としては、PI(3)P(ホスファチジルイノシトール-3-一リン酸)、PI(4)P(ホスファチジルイノシトール-4-一リン酸)、PI(5)P(ホスファチジルイノシトール-5-一リン酸)が挙げられる。
前記ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)としては、PI(3,4)P2(ホスファチジルイノシトール-3,4-二リン酸)、PI(3,5)P2(ホスファチジルイノシトール-3,5-二リン酸)PI(4,5)P2(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸)が挙げられる。
【0014】
前記ホスホリパーゼCは、前記PI(4,5)P2(ホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸)を、セカンドメッセンジャーである、ジアシルグリセロール(DAG)とイノシトール3リン酸(IP)に分解する。
【0015】
前記ホスホリパーゼCとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PLCβ1、PLCβ2、PLCβ3、PLCβ4等のPLCβ、PLCγ1、PLCγ2等のPLCγ、PLCδ1、PLCδ3、PLCδ4等のPLCδ、PLCε1等のPLCε、PLCη1、PLCη2等のPLCη、PLCζ1等のPLCζなどが挙げられる。
これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、PLCβが好ましく、PLCBβ3がより好ましい。
【0016】
前記ホスホリパーゼCは、EFハンドモチーフドメイン、TIMドメイン(Xドメインとも称する)、バレルドメイン(Yドメインとも称する)、及びC2ドメインを有する。
前記TIMドメイン(Xドメインとも称する)とバレルドメイン(Yドメインとも称する)の間の配列をX-Yリンカー配列と称する。
前記ホスホリパーゼCは、PLCζを除き、pleckstrin homology(PH)ドメインを有する。
【0017】
前記ホスホリパーゼCの由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真核生物、原核生物が挙げられる。
これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、真核生物が好ましい。
前記真核生物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、動物、植物、菌類、原生生物などが挙げられる。
これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、動物が好ましく、哺乳類動物がより好ましい。
【0018】
図2の1段目、又は図4Aの1段目にPLCβ3遺伝子の構造を示した。
【0019】
<ホスホリパーゼCのTIMドメイン>
前記ホスホリパーゼCのTIMドメインのアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、配列番号1で表されるアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するものが好ましく、85%以上の配列同一性を有するものがより好ましく、90%以上の配列同一性を有するものがさらに好ましく、95%以上の配列同一性を有するものがよりさらに好ましく、97%以上の配列同一性を有するものが特に好ましく、99%以上の配列同一性を有するものが最も好ましい。
【0020】
<SspBドメイン>
前記SspBは、SsrA(SsrA標識とも称する)ペプチドに結合するアダプター分子である。
【0021】
前記SspBの由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真核生物、原核生物が挙げられる。
これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、原核生物が好ましい。
前記原核生物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、古細菌、細菌などが挙げられる。
これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、細菌が好ましく、大腸菌がより好ましい。
【0022】
前記SspBドメインのアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、配列番号2で表されるアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するものが好ましく、85%以上の配列同一性を有するものがより好ましく、90%以上の配列同一性を有するものがさらに好ましく、95%以上の配列同一性を有するものがよりさらに好ましく、97%以上の配列同一性を有するものが特に好ましく、99%以上の配列同一性を有するものが最も好ましい。
【0023】
<ホスホリパーゼCのbarrelドメイン>
前記ホスホリパーゼCのbarrelドメインのアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、配列番号3で表されるアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するものが好ましく、85%以上の配列同一性を有するものがより好ましく、90%以上の配列同一性を有するものがさらに好ましく、95%以上の配列同一性を有するものがよりさらに好ましく、97%以上の配列同一性を有するものが特に好ましく、99%以上の配列同一性を有するものが最も好ましい。
【0024】
<その他の配列>
前記その他の配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、pleckstrin homology(PH)ドメイン、EFハンドモチーフドメイン、X-Yリンカー配列、C2ドメイン、近位C末端ドメイン(近位CTD)、遠位C末端ドメイン(遠位CTD)、タグ配列などが挙げられる。
これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記キメラタンパク質は、前記EFハンドモチーフドメイン、及び前記C2ドメインを有するものが好ましく、前記pleckstrin homology(PH)ドメイン、前記EFハンドモチーフドメイン、及び前記C2ドメインを有するものがより好ましく、前記pleckstrin homology(PH)ドメイン、前記EFハンドモチーフドメイン、前記C2ドメイン、及び前記タグ配列を有するものがより好ましい。
【0025】
前記キメラタンパク質が、前記EFハンドモチーフドメイン、及び前記C2ドメインを有する場合は、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記キメラタンパク質は、前記EFハンドモチーフドメイン、前記ホスホリパーゼCのTIMドメイン、前記SspBドメイン、前記ホスホリパーゼCのbarrelドメイン、及び前記C2ドメインを、この順で有するものが好ましく、前記EFハンドモチーフドメイン、前記ホスホリパーゼCのTIMドメイン、前記SspBドメイン、前記ホスホリパーゼCのbarrelドメイン、及び前記C2ドメインを、N末端側からこの順で有するものがより好ましい。
【0026】
前記キメラタンパク質が、前記pleckstrin homology(PH)ドメイン、前記EFハンドモチーフドメイン、及び前記C2ドメインを有する場合は、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記キメラタンパク質は、前記pleckstrin homology(PH)ドメイン、前記EFハンドモチーフドメイン、前記ホスホリパーゼCのTIMドメイン、前記SspBドメイン、前記ホスホリパーゼCのbarrelドメイン、及び前記C2ドメインを、この順で有するものが好ましく、前記キメラタンパク質は、前記pleckstrin homology(PH)ドメイン、前記EFハンドモチーフドメイン、前記ホスホリパーゼCのTIMドメイン、前記SspBドメイン、前記ホスホリパーゼCのbarrelドメイン、及び前記C2ドメインを、N末端側からこの順で有するものがより好ましい。
【0027】
前記キメラタンパク質が、前記pleckstrin homology(PH)ドメイン、前記EFハンドモチーフドメイン、前記C2ドメイン、及び前記タグ配列を有する場合は、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記キメラタンパク質は、前記pleckstrin homology(PH)ドメイン、前記EFハンドモチーフドメイン、前記ホスホリパーゼCのTIMドメイン、前記SspBドメイン、前記ホスホリパーゼCのbarrelドメイン、前記C2ドメイン、及び前記タグ配列を、この順で有するものが好ましく、前記pleckstrin homology(PH)ドメイン、前記EFハンドモチーフドメイン、前記ホスホリパーゼCのTIMドメイン、前記SspBドメイン、前記ホスホリパーゼCのbarrelドメイン、前記C2ドメイン、及び前記タグ配列を、N末端側からこの順で有するものがより好ましい。
【0028】
前記キメラタンパク質は、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記X-Yリンカー配列、前記近位C末端ドメイン(近位CTD)、及び前記遠位C末端ドメイン(遠位CTD)の少なくともいずれかを有さないものが好ましく、前記X-Yリンカー配列、前記近位C末端ドメイン(近位CTD)、及び前記遠位C末端ドメイン(遠位CTD)を有さないものがより好ましい。
【0029】
前記X-Yリンカー配列を有さないものの具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、配列番号4で表されるアミノ酸配列を有さないものが好ましく、配列番号5で表されるアミノ酸配列を有さないものがより好ましい。
【0030】
<<pleckstrin homology(PH)ドメイン>>
前記pleckstrin homology(PH)ドメインとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記ホスホリパーゼCのpleckstrin homology(PH)ドメインが好ましい。
【0031】
<<EFハンドモチーフドメイン>>
前記EFハンドモチーフドメインとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記ホスホリパーゼCのEFハンドモチーフドメインが好ましい。
【0032】
<<C2ドメイン>>
前記C2ドメインとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記ホスホリパーゼCのC2ドメインが好ましい。
【0033】
<<タグ配列>>
前記タグ配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Flagタグ、ヒスチジンタグ、Mycタグ、蛍光タンパク質などが挙げられる。
【0034】
前記キメラタンパク質のアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、配列番号6で表されるアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するものが好ましく、85%以上の配列同一性を有するものがより好ましく、90%以上の配列同一性を有するものがさらに好ましく、95%以上の配列同一性を有するものがよりさらに好ましく、97%以上の配列同一性を有するものが特に好ましく、99%以上の配列同一性を有するものが最も好ましい。
【0035】
(核酸)
前記核酸は、前記キメラタンパク質をコードする塩基配列を含み、さらにその他の塩基配列を含むことができる。
前記キメラタンパク質は、上述の(キメラタンパク質)に記載のとおりである。
【0036】
<キメラタンパク質をコードする塩基配列>
前記キメラタンパク質をコードする塩基配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、配列番号7で表される塩基配列と、80%以上の配列同一性を有するものが好ましく、85%以上の配列同一性を有するものがより好ましく、90%以上の配列同一性を有するものがさらに好ましく、95%以上の配列同一性を有するものがよりさらに好ましく、97%以上の配列同一性を有するものが特に好ましく、99%以上の配列同一性を有するものが最も好ましい。
【0037】
<その他の塩基配列>
前記その他の塩基配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プロモーター配列、抗生物質耐性タンパク質をコードする塩基配列などが挙げられる。
【0038】
(ベクター)
前記ベクターは、前記核酸を含むことができる。
前記核酸は、上述の(核酸)に記載のとおりである。
【0039】
前記ベクターとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスミド、コスミド、ラムダファージ、人工染色体などが挙げられる。
【0040】
(細胞)
前記細胞は、前記核酸を含み、さらにその他の要素を含むことができる。
前記核酸は、上述の(核酸)に記載のとおりである。
【0041】
<その他の要素>
前記その他の要素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記核酸以外のその他の核酸などが挙げられる。
【0042】
前記その他の核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、SsrAをコードする塩基配列を含む核酸などが挙げられる。
【0043】
<<SsrAをコードする塩基配列を含む核酸>>
前記SsrAの由来としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、真核生物、原核生物が挙げられる。
これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、原核生物が好ましい。
前記原核生物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、古細菌、細菌などが挙げられる。
【0044】
前記SsrAのアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、配列番号8で表されるアミノ酸配列と、70%以上の配列同一性を有するものが好ましく、75%以上の配列同一性を有するものがより好ましく、80%以上の配列同一性を有するものがさらに好ましく、85%以上の配列同一性を有するものがよりさらに好ましく、90%以上の配列同一性を有するものが特に好ましく、95%以上の配列同一性を有するものが最も好ましい。
【0045】
前記SsrAとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、エンバクのLOV2ドメインにSsrAペプチドが埋め込まれた配列(iLID)であることが好ましい。
【0046】
前記エンバクのLOV2ドメインにSsrAペプチドが埋め込まれた配列(iLID)のアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、配列番号9で表されるアミノ酸配列と、80%以上の配列同一性を有するものが好ましく、85%以上の配列同一性を有するものがより好ましく、90%以上の配列同一性を有するものがさらに好ましく、95%以上の配列同一性を有するものがよりさらに好ましく、97%以上の配列同一性を有するものが特に好ましく、99%以上の配列同一性を有するものが最も好ましい。
【0047】
前記SsrAをコードする塩基配列を含む核酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、プレニル化ペプチドであるCAAXをコードする塩基配列を含むものが好ましい。
【0048】
前記CAAXのアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、配列番号10で表されるアミノ酸配列と、70%以上の配列同一性を有するものが好ましく、75%以上の配列同一性を有するものがより好ましく、80%以上の配列同一性を有するものがさらに好ましく、85%以上の配列同一性を有するものがよりさらに好ましく、90%以上の配列同一性を有するものが特に好ましく、95%以上の配列同一性を有するものが最も好ましい。
【0049】
前記SsrAをコードする塩基配列を含む核酸は、タグ配列をコードする塩基配列を含むことが好ましい。
前記タグ配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Flagタグ、ヒスチジンタグ、Mycタグ、蛍光タンパク質などが挙げられる。
【0050】
前記細胞は、前記核酸を含むベクターを、宿主細胞に導入することで得ることができる。
【0051】
前記宿主細胞としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、真核細胞が好ましく、動物細胞がより好ましく、哺乳類細胞がさらに好ましい。
【0052】
(キメラタンパク質の製造方法)
前記キメラタンパク質の製造方法は、細胞を培養する工程を含み、さらにその他の工程を含むことができる。
前記細胞は、上述の(細胞)に記載のとおりである。
【0053】
<細胞を培養する工程>
前記細胞を培養する工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞を培養培地にて培養する工程などが挙げられる。
【0054】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記細胞を培養する工程で得られた培養細胞から、前記キメラタンパク質を抽出する工程、前記キメラタンパク質を精製する工程などが挙げられる。
【0055】
(ホスホリパーゼCの制御方法)
前記ホスホリパーゼCの制御方法は、前記細胞に青色光を照射することを含む。
前記細胞は、上述の(細胞)に記載のとおりである。これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記細胞は、前記SsrAをコードする塩基配列を含む核酸を含む細胞が好ましい。
【0056】
<青色光>
前記青色光としては、一般に青色光と呼ばれる波長域(例えば、380nmから530nmなど)を含む光である限り、特に制限はなく、前記波長域内の単波長光でもよいし、前記波長域の少なくとも一部乃至全部を含む光(例えば、太陽光など)でもよい。
【0057】
前記青色光の照射時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1秒間以上30分間以下が好ましく、1秒間以上20分間以下がより好ましく、1秒間以上10分間以下がさらに好ましく、5秒間以上15分間以下が特に好ましい。
【0058】
前記青色光の照射強度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μW/mm以上100μW/mm以下が好ましく、1μW/mm以上50μW/mm以下がより好ましく、5μW/mm以上30μW/mm以下がさらに好ましく、10μW/mm以上30μW/mm以下が特に好ましい。
【0059】
(ホスホリパーゼCを介したシグナル伝達の解析方法)
前記ホスホリパーゼCを介したシグナル伝達の解析方法は、前記細胞に青色光を照射することを含む。
前記細胞は、上述の(細胞)に記載のとおりである。これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記細胞は、前記SsrAをコードする塩基配列を含む核酸を含む細胞が好ましい。
前記青色光は、上述の、(ホスホリパーゼCの制御方法)に記載のとおりである。
【0060】
(化合物のスクリーニング方法)
前記化合物のスクリーニング方法は、前記細胞に青色光を照射することを含む。
前記細胞は、上述の(細胞)に記載のとおりである。これらの中でも、PLCの活性化を特異的に制御できる光駆動型システムを構築する点から、前記細胞は、前記SsrAをコードする塩基配列を含む核酸を含む細胞が好ましい。
前記青色光は、上述の、(ホスホリパーゼCの制御方法)に記載のとおりである。
【0061】
前記化合物のスクリーニング方法により、PLCシグナルが介在する疾患において、治療薬の探索を行うことができ、脳神経科学、アレルギー、骨髄増殖、免疫、癌などを標的とした医学・生命科学分野の研究および創薬に有用である。
【0062】
本発明により、PLCが関わるシグナル伝達を時空間的に顕密に制御することが可能となる。この利点は、特定の細胞及び組織に光駆動型PLCを選択的に発現させることはもちろん、青色光を用いた厳密な刺激時間を制御することが可能であることを意味する。自然界のPLC関連シグナル経路は受容体を起点とするためシグナル間のクロストークが発生するが、光駆動型PLCを利用することによりシグナルクロストークからPLCの経路を切り離すことが可能となる。これらの利点を踏まえ、PLCの生理的意義を究明する研究に応用できることはもちろん、PLC関連の細胞モデル及び動物モデルの作製が可能となり、アレルギー、骨髄増殖、免疫疾患、癌、神経変性疾患、運動系疾患など、幅広い疾患モデルへの応用と治療技術の開発に繋がる。
【実施例0063】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
<参考例1 マウスPLCβ3の活性中心の立体構造>
マウスPLCβ3の活性中心の立体構造は、すでに報告されている(protein databank PBD: 7SQ2)。
マウスPLCβ3の活性中心の立体構造を図1Aに示した。
【0065】
<参考例2 SspBドメインを付加したマウスPLCβ3の活性中心の立体構造>
SspBドメインを付加したマウスPLCβ3(配列番号6で表されるアミノ酸配列)の活性中心の立体構造を予測した。
立体構造は、人工知能基盤のAlphafold2 (ColabFold v1.5.2.https://colab.research.google.com/github/sokrypton/ColabFold/blob/main/AlphaFold2.ipynb#scrollTo=kOblAo-xetgxにより予測した。詳細なパラメーターは、template mode: pdb70, msa: mmseq2_uniref_envとし、予測データの最もランクが高い立体構造を採用した。
青色光照射時の、SspBドメインを付加したマウスPLCβ3の活性中心の立体構造の予測図を図1Bに示した。
【0066】
図1A及び図1Bの結果より、マウスPLCβ3の活性中心の立体構造は、SspBドメインの付加により変動されないことが推測された。
【0067】
1.opto-α1AR
(比較例1 opto-α1-adrenergic receptor(opto-α1AR)発現ベクターの製造)
opto-α1AR発現ベクターは、Addgeneから購入したpcDNA3.1/opto-a1AR-EYFPプラスミド(Plasmid #20947. Airan, Raag D., et al. “Temporally precise in vivo control of intracellular signalling.” Nature 458.7241(2009):1025-1029.)のopto-a1ARコード領域をPCRで増幅し、pcDNA5に挿入した。挿入する際、C末端領域にFlagタグを付加した。DNA断片の挿入にはIn-fusionシステム(Clontech)を用いた。
【0068】
2.opto-plcb3
光駆動型PLCの作製おいて、PLCと細胞形質膜との相互作用及び自己抑制をどのように制御するかが重要である。
内在性PLCβ3は三量体Gタンパク質のなかでαサブユニットのGq及びGβγ複合体との相互作用により活性化される。Gqは、PLCの立体構造を変動させるだけでなく、PLCと細胞形質膜との相互作用を媒介する。Gqは近位C末端ドメイン(近位CTD)に結合する。この際、遠位C末端ドメイン(遠位CTD)はPLCと細胞膜の相互作用およびGq結合を助ける。
【0069】
本発明の光駆動型PLCでは、PLCを細胞膜へ動員させるために、iLID-SspBのモジュール(PNAS 2015 112:112-117)を用いた。iLIDにはRas4BのCAAXモチーフをC末端に付加し、光照射によりSspBを有するPLCの膜への局在を誘導できるよう設計した。内在性Gqによる活性化を防ぐため、近位CTD及び遠位CTDを欠失させた。
【0070】
(比較例2 plcb3Δ847発現ベクターの製造)
plcb3Δ847は近位CTD及び遠位CTDが欠失された領域である。plcb3Δ847のコード領域(アミノ酸1-847)を、C末端Flagタグつきのプライマーを用い、PCRで増幅し、pcDNA5 FRT vector(Invitrogen社)に挿入し、plcb3Δ847発現ベクターを製造した。DNA断片の挿入にはIn-fusionシステム(Clontech)を用いた。
図2の1段目にPLCβ3タンパク質のドメイン構造を示し、図2の2段目にplcb3Δ847タンパク質のドメイン構造を示した。
図4Aの1段目にPLCβ3タンパク質のドメイン構造を示し、図4Aの2段目にplcb3Δ847タンパク質のドメイン構造を示した。
【0071】
(実施例1 plcb3(ΔX-Y)-SspB発現ベクターの製造)
光駆動型PLCの製造において、SspBを付加する場所は、形質膜へ動員する役割と自己抑制、又は活性を損なわないために、極めて重要である。X-Yリンカー配列は構造を持たない天然変性領域であるがbarrel側には酸性アミノ酸のパッチ領域(acid)と活性中心を蓋のように被っているヘリックス構造(TDEGT配列、Lid)を有する。
比較例2のplcb3Δ847遺伝子に代えて、plcb3Δ847遺伝子のX-Yリンカー配列を全て削除しSspBを挿入した、plcb3(ΔX-Y)-SspB遺伝子を使用した以外は、比較例1と同様の方法で、plcb3(ΔX-Y)-SspB発現ベクター(配列番号11)を製造した。
SspB遺伝子は、配列番号2で表されるSspBのアミノ酸配列に相当する遺伝子配列を化学合成した(gBlock, IDT)。
図2の1段目にPLCβ3タンパク質のドメイン構造を示し、図2の3段目にplcb3(ΔX-Y)-SspBタンパク質のドメイン構造を示した。
図4Aの1段目にPLCβ3タンパク質のドメイン構造を示し、図4Aの4段目にplcb3(ΔX-Y)-SspBタンパク質のドメイン構造を示した。
【0072】
(比較例3 plcb3(ΔX-Y)-SspB-lid発現ベクターの製造)
実施例1において、X-Yリンカー配列のC末端(barrel側)の11アミノ酸(配列番号4:活性中心を蓋のように被っているヘリックス構造(TDEGT配列、Lid))を残した以外は、実施例1と同様の方法で、plcb3(ΔX-Y)-SspB-lid発現ベクターを製造した。
図2の1段目にPLCβ3タンパク質のドメイン構造を示し、図2の4段目にplcb3(ΔX-Y)-SspB-lidタンパク質のドメイン構造を示した。
【0073】
(比較例4 plcb3(ΔX-Y)-SspB-acid発現ベクターの製造)
実施例1において、X-Yリンカー配列のC末端(barrel側)の21アミノ酸(配列番号5:酸性アミノ酸のパッチ領域(acid)及び活性中心を蓋のように被っているヘリックス構造(TDEGT配列、Lid))を残した以外は、実施例1と同様の方法で、plcb3(ΔX-Y)-SspB-acid発現ベクターを製造した。
図2の1段目にPLCβ3タンパク質のドメイン構造を示し、図2の5段目にplcb3(ΔX-Y)-SspB-acidタンパク質のドメイン構造を示した。
【0074】
(比較例5 plcb3ΔX-Y発現ベクターの製造)
実施例1において、SspBを挿入しなかった以外は、実施例1と同様の方法で、plcb3ΔX-Y発現ベクターを製造した。
図4Aの1段目にPLCβ3タンパク質のドメイン構造を示し、図4Aの3段目にplcb3ΔX-Yタンパク質のドメイン構造を示した。
【0075】
(製造例1 muGFP-iLID-CAAX発現ベクターの製造)
iLID-SspBのモジュールのiLID用に、muGFP-iLID-CAAX発現ベクターを作製した。
CMVプロモーター配列と、muGFP-iLID-CAAX配列(配列番号12で表されるアミノ酸配列に相当する遺伝子配列:PNAS 2015 112:112-117に記載される蛍光タンパク質領域をVenusからmuGFPに置換したもの)と、を含む配列を、pcDNA5 FRT vector (Invitrogen社)に挿入し、muGFP-iLID-CAAX発現ベクター(配列番号13)を製造した。
CAAXは、Ras4BのCAAXモチーフを用いた。
muGFP-iLID-CAAX配列は、配列番号12で表されるアミノ酸配列に相当する遺伝子配列を化学合成した(gBlock, IDT)。
図2の6段目にmuGFP-iLID-CAAX配列の構造を示した。
【0076】
<試験例1:タンパク質のリン酸化の検出>
図3Aに示したとおり、PLCは、ホスファチジルイノシトールを、セカンドメッセンジャーである、ジアシルグリセロール(DAG)とイノシトール3リン酸(IP)に分解する酵素である。PLCにより産生されるジアシルグリセロールとイノシトール3リン酸はPKCを活性化し、その基質であるPKD1のリン酸化とERKの活性化を促す。これらのシグナル伝達経路を利用して、PLCの活性をウェスタンブロット法で検出した。
【0077】
(製造例2 HAタグ付加PKD1(HA-PKD1)発現ベクターの製造)
HAタグ付加PKD1(HA-PKD1)発現ベクターは、マウス脳のcDNAを鋳型としPKD1をコードする領域をPCR増幅し、pCMV-HAベクター(clontech)に挿入し、取得した。DNA断片の挿入にはIn-fusionシステム(Clontech)を用いた。
【0078】
<<試験例1-1>>
比較例1で製造したopto-α1AR発現ベクター、及び製造例2で製造したHA-PKD1発現ベクターをHEK293T細胞に導入して共発現させた。
24時間後に、暗所に静置した細胞(青色LED光を照射しなかった細胞:暗状態)、及び20.3μW/mm強度の青色LED光を5分間照射した細胞(明状態)から、タンパク質抽出液を調製し、ウェスタンブロット法により、リン酸化PKD1(pS744/748:Phospho-PKD(S744/748)抗体#2054、Cell signaling technology社)、HA-PKD1(HA-Tag 抗体#3724、Cell signaling technology社)、リン酸化ERK(pT202/pY204:Phospho-p44/p42 MAPK 抗体#4370、Cell signaling technology社)、ERK(p44/42 MAPK抗体#4695、Cell signaling technology社)、Flag(DDDDK-tag抗体M185-3L、MBL社)、及びmuGFP-iLID-CAAX(GFP抗体598、MBL社)を検出した。
【0079】
結果を図3Bの左から1番目のレーン(暗状態)及び左から2番目のレーン(明状態)に示した。
図3Cの左から1番目のバー(暗状態)及び左から2番目のバー(明状態)に、リン酸化PKD1についてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、明状態におけるリン酸化PKD1のバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
図3Dの左から1番目のバー(暗状態)及び左から2番目のバー(明状態)に、リン酸化ERKについてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、明状態におけるリン酸化ERKのバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
【0080】
<<試験例1-2>>
比較例1で製造したopto-α1AR発現ベクターに代えて、比較例2で製造したplcb3Δ847発現ベクター、及び製造例1で製造したmuGFP-iLID-CAAX発現ベクターを使用した以外は、試験例1-1と同様の方法で、ウェスタンブロットを行った。
【0081】
結果を図3Bの左から3番目のレーン(暗状態)及び左から4番目のレーン(明状態)に示した。
図3Cの左から3番目のバー(暗状態)及び左から4番目のバー(明状態)に、リン酸化PKD1についてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例1-1(opto-α1AR発現ベクター)の明状態におけるリン酸化PKD1のバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
図3Dの左から3番目のバー(暗状態)及び左から4番目のバー(明状態)に、リン酸化ERKについてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例1-1(opto-α1AR発現ベクター)の明状態におけるリン酸化ERKのバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
【0082】
<<試験例1-3>>
比較例1で製造したopto-α1AR発現ベクターに代えて、実施例1で製造したplcb3(ΔX-Y)-SspB発現ベクター、及び製造例1で製造したmuGFP-iLID-CAAX発現ベクターを使用した以外は、試験例1-1と同様の方法で、ウェスタンブロットを行った。
【0083】
結果を図3Bの左から5番目のレーン(暗状態)及び左から6番目のレーン(明状態)に示した。
図3Cの左から5番目のバー(暗状態)及び左から6番目のバー(明状態)に、リン酸化PKD1についてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例1-1(opto-α1AR発現ベクター)の明状態におけるリン酸化PKD1のバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
図3Dの左から5番目のバー(暗状態)及び左から6番目のバー(明状態)に、リン酸化ERKについてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例1-1(opto-α1AR発現ベクター)の明状態におけるリン酸化ERKのバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
【0084】
<<試験例1-4>>
比較例1で製造したopto-α1AR発現ベクターに代えて、比較例3で製造したplcb3(ΔX-Y)-SspB-lid発現ベクター、及び製造例1で製造したmuGFP-iLID-CAAX発現ベクターを使用した以外は、試験例1-1と同様の方法で、ウェスタンブロットを行った。
【0085】
結果を図3Bの左から7番目のレーン(暗状態)及び左から8番目のレーン(明状態)に示した。
図3Cの左から7番目のバー(暗状態)及び左から8番目のバー(明状態)に、リン酸化PKD1についてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例1-1(opto-α1AR発現ベクター)の明状態におけるリン酸化PKD1のバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
図3Dの左から7番目のバー(暗状態)及び左から8番目のバー(明状態)に、リン酸化ERKについてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例1-1(opto-α1AR発現ベクター)の明状態におけるリン酸化ERKのバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
【0086】
<<試験例1-5>>
比較例1で製造したopto-α1AR発現ベクターに代えて、比較例4で製造したplcb3(ΔX-Y)-SspB-acid発現ベクター、及び製造例1で製造したmuGFP-iLID-CAAX発現ベクターを使用した以外は、試験例1-1と同様の方法で、ウェスタンブロットを行った。
【0087】
結果を図3Bの左から9番目のレーン(暗状態)及び左から10番目のレーン(明状態)に示した。
図3Cの左から9番目のバー(暗状態)及び左から10番目のバー(明状態)に、リン酸化PKD1についてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例1-1(opto-α1AR発現ベクター)の明状態におけるリン酸化PKD1のバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
図3Dの左から9番目のバー(暗状態)及び左から10番目のバー(明状態)に、リン酸化ERKについてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例1-1(opto-α1AR発現ベクター)の明状態におけるリン酸化ERKのバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
【0088】
図3B図3C及び図3Dの結果より、実施例1で製造した、X-Yリンカー配列の代わりにSspBを挿入した発現ベクター(plcb3(ΔX-Y)-SspB)を導入した細胞において、顕著なPKD及びERKのリン酸化が検出された。一方、比較例2で製造した、SspBをコードする塩基配列を含まない発現ベクター(plcb3Δ847)や、比較例3及び比較例4で製造した、X-Yリンカー配列のC末端側アミノ酸配列の一部をコードする塩基配列を含む発現ベクター(plcb3(ΔX-Y)-SspB-lid及びplcb3(ΔX-Y)-SspB-acid)を導入した細胞では、光依存的PLC活性の顕著な上昇は見られなかった。この結果から、plcb3(ΔX-Y)-SspBをopto-plcb3と命名した。
以上より、ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有するキメラタンパク質により、ホスホリパーゼCの下流の分子の活性を光依存的に制御できることが分かった。
【0089】
<試験例2:PLCの自己抑制の検出>
PLCの自己抑制は活性制御において重要な指標である。X-Yリンカー配列はPLC活性の自己抑制に必要な天然変性領域であり、X-Yリンカー配列を欠失させたPLC変異体は恒常活性を示すことが知られている。
SspBの付加による自己抑制を解析するために、PLCにより産生されるジアシルグリセロールとイノシトール3リン酸により活性化されるPKCの基質であるPKD1とERKの、基底活性をウェスタンブロット法で検出した。
【0090】
<<試験例2-1>>
比較例5で製造したplcb3ΔX-Y発現ベクター、及び製造例2で製造したHA-PKD1発現ベクターをHEK293T細胞に導入して共発現させた。
24時間後に、タンパク質抽出液を調製し、ウェスタンブロット法により、リン酸化PKD1(pS744/748:Phospho-PKD(S744/748)抗体#2054、Cell signaling technology社)、HA-PKD1(HA-Tag 抗体#3724、Cell signaling technology社)、リン酸化ERK(pT202/pY204:Phospho-p44/p42 MAPK 抗体#4370、Cell signaling technology社)、ERK(p44/42 MAPK抗体#4695、Cell signaling technology社)、及びFlag(DDDDK-tag抗体M185-3L、MBL社)を検出した。
【0091】
結果を図4Bの左から2番目のレーンに示した。
図4Cの左から2番目のバーに、リン酸化PKD1についてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例2-1におけるリン酸化PKD1のバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
図4Dの左から2番目のバーに、リン酸化ERKについてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例2-1におけるリン酸化ERKのバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
【0092】
<<試験例2-2>>
比較例5で製造したplcb3ΔX-Y発現ベクターに代えて、比較例2で製造したplcb3Δ847発現ベクターを使用した以外は、試験例2-1と同様の方法で、ウェスタンブロットを行った。
【0093】
結果を図4Bの左から1番目のレーンに示した。
図4Cの左から1番目のバーに、リン酸化PKD1についてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例2-1におけるリン酸化PKD1のバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
図4Dの左から1番目のバーに、リン酸化ERKについてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例2-1におけるリン酸化ERKのバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
【0094】
<<試験例2-3>>
比較例5で製造したplcb3ΔX-Y発現ベクターに代えて、実施例1で製造したplcb3(ΔX-Y)-SspB発現ベクターを使用した以外は、試験例2-1と同様の方法で、ウェスタンブロットを行った。
【0095】
結果を図4Bの左から3番目のレーンに示した。
図4Cの左から3番目のバーに、リン酸化PKD1についてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例2-1におけるリン酸化PKD1のバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
図4Dの左から3番目のバーに、リン酸化ERKについてのウェスタンブロットのバンド強度を示した。バンド強度は、試験例2-1におけるリン酸化ERKのバンド強度を100%とした相対値を示した(n=4)。
【0096】
図4B図4C及び図4Dの結果より、比較例5で製造した、X-Yリンカー配列を削除した変異体をコードする塩基配列を含む発現ベクター(plcb3ΔX-Y)を導入した細胞(恒常活性体)において、自己抑制の機能不全により、その母体である、比較例2で製造した発現ベクター(plcb3Δ847)を導入した細胞と比較して、顕著なPKD及びERKのリン酸化が検出された。一方、実施例1で製造した、X-Yリンカー配列の代わりにSspBを挿入した発現ベクター(plcb3(ΔX-Y)-SspB)を導入した細胞では、恒常活性体に比べ、基底活性が著しく低下し、比較例2で製造した発現ベクター(plcb3Δ847)を導入した細胞と同等のリン酸化が検出された。
以上より、SspBの付加がX-Yリンカー配列の自己抑制機能を代替し、ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有するキメラタンパク質により、ホスホリパーゼCの自己抑制機能が再現されたことが分かった。
【0097】
<試験例3:細胞質カルシウムイオンの検出>
図3Aに示したとおり、PLCは、ホスファチジルイノシトールを、セカンドメッセンジャーである、ジアシルグリセロール(DAG)とイノシトール3リン酸(IP)に分解する酵素である。PLCにより産生されるイノシトール3リン酸は、小胞体のイノシトール3リン酸受容体に結合し、細胞質にカルシウムイオンを放出する。従って、PLC活性による細胞内カルシウムイオンの上昇は酵素活性の重要な指標である。
【0098】
(製造例3 jRCaMP1b発現ベクターの製造)
細胞内カルシウムイオンの変動を観察するための、jRCaMP1b(カルシウムセンサー)発現ベクターを作製した。
jRCaMP1b発現ベクターは、Addgeneから購入したpAAV.Syn.NES.jRCaMP1b.WPRE.SV40プラスミド(Plasmid #100851. Dana, Hod, et al. “Sensitive red protein calcium indicators for imaging neural activity.” elife 5 (2016): e12727.)のNES-jRCaMP1bのコード領域をPCRで増幅し、pcDNA5に挿入する方法で取得した。DNA断片の挿入にはIn-fusionシステム(Clontech)を用いた。
【0099】
<<試験例3>>
実施例1で製造したplcb3(ΔX-Y)-SspB発現ベクター、及び製造例3で製造したjRCaMP1b発現ベクターをHEK293T細胞に導入して共発現させた。
24時間後に、暗所に静置した細胞(青色光を照射しなかった細胞)、及び20.3μW/mm強度の青色光(473nm)を10秒間照射(10秒から20秒まで)した細胞について、135秒間、撮影した。蛍光輝度はimage J softwareを用いて計測した。jRCaMP1bの蛍光を撮影するために、559nmのレーザー光を利用した。
【0100】
結果を図5A(照射前の蛍光輝度を示した写真)、及び図5B(照射36.5秒後の蛍光輝度を示した写真)に示した。
蛍光輝度(ΔF/F)の経時変化を図5Cに示した。ΔF/Fは、蛍光輝度の変動量を標準化したものである。ΔFはF-F0(特定時間の蛍光輝度-初期蛍光輝度)であり、これを特定時間の蛍光輝度で割ることで蛍光輝度が異なる細胞の反応を標準化し検出することができる。したがって、ΔF/Fは(特定時間の蛍光輝度-初期蛍光輝度)/特定時間の蛍光輝度を意味する。図5Cにおいて、「0μW/mm」は青色光(473nm)照射なしの細胞の経時変化を表し、「20.3」は20.3μW/mm強度の青色光(473nm)を10秒間照射した細胞の経時変化を表す(n=22)。
【0101】
図5A図5B図5Cの結果より、実施例1で製造した、X-Yリンカー配列の代わりにSspBを挿入した発現ベクター(plcb3(ΔX-Y)-SspB)を導入した細胞では、光照射により著しいカルシウム上昇が観察されることが分かった。
試験例3では、jRCaMP1bがカルシウムイオンと結合することで蛍光輝度が増加することを利用した。jRCaMP1bの蛍光を撮影するために、559nmのレーザー光を利用しているが、473nm青色光の照射をしない状態で559nmによる撮影だけではカルシウムイオンの上昇は見られなかったことから、plcb3(ΔX-Y)-SspBの光波長選択性が示された。
以上より、ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有するキメラタンパク質により、細胞内カルシウム濃度を光依存的に、又、時空間的に制御できることが分かった。
【0102】
<試験例4:脂質組成の変動の検出>
図6Aに示したとおり、PLCは、ホスファチジルイノシトール4,5ビスリン酸(PIP2)を、セカンドメッセンジャーである、ジアシルグリセロール(DAG)とイノシトール3リン酸(IP)に分解する酵素である。
PLCdeltaのPHドメインに蛍光タンパク質であるmScarletを付加したものをPIP2センサーとして使用し、PKCgammaのC1Aドメインに蛍光タンパク質であるmScarletを付加したものをDAGセンサーとして使用し、PLC活性による脂質組成の変動を可視化した。
【0103】
(製造例4 PIP2センサー発現ベクターの製造)
PIP2の変動を観察するための、PIP2センサー発現ベクターを作製した。
PIP2センサー発現ベクターは、PLCdeltaのPHドメインに蛍光タンパク質であるmScarletを付加したアミノ酸配列(配列番号14)に対応するDNA配列を化学合成(gBlock, IDT)し、pcDNA5 vectorに挿入する方法で取得した。
【0104】
(製造例5 DAGセンサー発現ベクターの製造)
DAGの変動を観察するための、DAGセンサー発現ベクターを作製した。
DAGセンサー発現ベクターは、PKCgammaのC1Aドメインに蛍光タンパク質であるmScarletを付加したアミノ酸配列(配列番号15)に対するDNA配列を化学合成し、pEGFP-C1のNheIとBamHIサイトに挿入する方法で取得した。
【0105】
<<試験例4-1>>
実施例1で製造したplcb3(ΔX-Y)-SspB発現ベクター、及び製造例4で製造したPIP2センサー発現ベクターをHEK293T細胞に導入して共発現させた。
24時間後に、20.3μW/mm強度の青色光(473nm)を10秒間照射(10秒から20秒まで)した細胞について、共焦点顕微鏡で135秒間、細胞質側の蛍光輝度を計測した。蛍光輝度はimage J softwareを用いて計測した。
【0106】
結果を図6B(照射前の蛍光輝度を示した写真)、及び図6C(照射31.892秒後の蛍光輝度を示した写真)に示した。
細胞質側の蛍光輝度(ΔF/F)の経時変化を図6Jに示した(◎:plcb3(ΔX-Y)-SspB PH-PLCδ-mScarlet(PIP2センサー)。ΔF/Fは、蛍光輝度の変動量を標準化したものである。ΔFはF-F0(特定時間の蛍光輝度-初期蛍光輝度)であり、これを特定時間の蛍光輝度で割ることで蛍光輝度が異なる細胞の反応を標準化し検出することができる。したがって、ΔF/Fは(特定時間の蛍光輝度-初期蛍光輝度)/特定時間の蛍光輝度を意味する。
【0107】
<<試験例4-2>>
実施例1で製造したplcb3(ΔX-Y)-SspB発現ベクターに代えて、比較例2で製造したplcb3Δ847発現ベクターを使用した以外は、試験例4-1と同様の方法で、細胞質側の蛍光輝度を計測した。
【0108】
結果を図6D(照射前の蛍光輝度を示した写真)、及び図6E(照射31.892秒後の蛍光輝度を示した写真)に示した。
細胞質側の蛍光輝度の経時変化を図6Jに示した(△:plcb3Δ847 PH-PLCδ-mScarlet(PIP2センサー)。
【0109】
<<試験例4-3>>
製造例4で製造したPIP2センサー発現ベクターに代えて、製造例5で製造したDAGセンサー発現ベクターを使用した以外は、試験例4-1と同様の方法で、細胞質側の蛍光輝度を計測した。
【0110】
結果を図6F(照射前の蛍光輝度を示した写真)、及び図6G(照射31.892秒後の蛍光輝度を示した写真)に示した。
細胞質側の蛍光輝度の経時変化を図6Jに示した(○:plcb3(ΔX-Y)-SspB CA1-PKCγ-mScarlet(DAGセンサー)。
【0111】
<<試験例4-4>>
実施例1で製造したplcb3(ΔX-Y)-SspB発現ベクターに代えて、比較例2で製造したplcb3Δ847発現ベクターを使用した以外は、試験例4-3と同様の方法で、細胞質側の蛍光輝度を計測した。
【0112】
結果を図6H(照射前の蛍光輝度を示した写真)、及び図6I(照射31.892秒後の蛍光輝度を示した写真)に示した。
細胞質側の蛍光輝度の経時変化を図6Jに示した(n=48、□:plcb3Δ847 CA1-PKCγ-mScarlet(DAGセンサー))。
【0113】
図6Bから図6Jの結果より、実施例1で製造した、X-Yリンカー配列の代わりにSspBを挿入した発現ベクター(plcb3(ΔX-Y)-SspB)を導入した細胞では、光照射によりPIP2センサーは形質膜から細胞質へ移動し、DAGセンサーは細胞質から形質膜へ移動することが分かり、さらにこれらの脂質組成の変動は一過性であり、再配置も確認できた。一方、比較例2で製造した、SspBをコードする塩基配列を含まない発現ベクター(plcb3Δ847)を導入した細胞では、光照射による脂質組成の変動は観察されなかった。
以上より、ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有するキメラタンパク質により、脂質組成を光依存的に、又、時空間的に制御できることが分かった。
【0114】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを有することを特徴とする、キメラタンパク質である。
<2> ホスホリパーゼCのTIMドメイン、SspBドメイン、及びホスホリパーゼCのbarrelドメインを、この順で有する、前記<1>に記載のキメラタンパク質である。
<3> ホスホリパーゼCのX-Yリンカー配列を有さない、前記<1>又は<2>に記載のキメラタンパク質である。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のキメラタンパク質をコードする塩基配列を含むことを特徴とする核酸である。
<5> 前記<4>に記載の核酸を含むことを特徴とするベクターである。
<6> 前記<4>記載の核酸を含むことを特徴とする細胞である。
<7> SsrAをコードする塩基配列を含む核酸を含む、前記<6>に記載の細胞である。
<8> 前記<6>に記載の細胞を培養する工程を含むことを特徴とするキメラタンパク質の製造方法である。
<9> 前記<6>又は<7>に記載の細胞に青色光を照射することを含むホスホリパーゼCの制御方法である。
<10> 前記<6>又は<7>に記載の細胞に青色光を照射することを含むホスホリパーゼCを介したシグナル伝達の解析方法である。
<11> 前記<6>又は<7>に記載の細胞に青色光を照射することを含む化合物のスクリーニング方法である。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図6J
【配列表】
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