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特開2024-127483溶融金属の精錬方法及び精錬用上吹きランス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127483
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】溶融金属の精錬方法及び精錬用上吹きランス
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/46 20060101AFI20240912BHJP
   C21C 5/32 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C21C5/46 101
C21C5/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036666
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】田村 鉄平
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070AB03
4K070BA05
4K070BD20
4K070CF02
4K070EA30
(57)【要約】
【課題】溶融金属の精錬において、フリップフロップノズルを備える上吹きランスから吹き出されるジェットの減速を抑制し、かつ、スピッティングを抑制する。
【解決手段】本開示の溶融金属の精錬方法は、フリップフロップノズルを有する上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、ジェットを上吹きすること、を含み、前記上吹きランスから吹き出される前記ジェットの自励振動数が、20Hz以上100Hz以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属の精錬方法であって、
フリップフロップノズルを有する上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、ジェットを上吹きすること、を含み、
前記ジェットの自励振動数が、20Hz以上100Hz以下である、
溶融金属の精錬方法。
【請求項2】
前記溶融金属の湯面から前記上吹きランスのノズル吹出口までの高さが、200mm以上5000mm以下である、
請求項1に記載の溶融金属の精錬方法。
【請求項3】
前記溶融金属が、溶鉄であり、
前記ジェットが、酸素ジェットである、
請求項1又は2に記載の溶融金属の精錬方法。
【請求項4】
精錬用上吹きランスであって、フリップフロップノズルを備え、
前記フリップフロップノズルは、ノズル吹出口から上吹きされるジェットの自励振動数が20Hz以上100Hz以下となるように構成されている、
精錬用上吹きランス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は溶融金属の精錬方法及び精錬用上吹きランスを開示する。
【背景技術】
【0002】
上吹きランスから溶融金属にジェットを吹きつけて吹錬を行う、溶融金属の精錬方法が知られている。ここで、溶融金属にジェットを吹きつけた際、スピッティング(火点から溶融金属粒が飛散すること)が問題となる。スピッティングが多いと、炉口に地金が付着して操業に支障をきたす虞があり、また、炉口から溶銑粒が飛散して歩留まりが悪化する虞がある。一方で、スピッティングを抑制するためにジェット流量を低位にした場合、生産性が悪化する虞がある。
【0003】
上記のスピッティングを低減するためには、上吹きランスからのジェットが溶融金属に衝突する火点の位置を動かしながら吹錬を行うことが有効である。例えば、機械的な駆動装置を用いて上吹きランスを回転・旋回させることや、2股ノズルの流量比を変えてジェットの方向を変えることがあり得る。しかしながら、これらを実現するためには設備の大幅な改造が必要である。
【0004】
駆動装置を使用することなくジェットを動かす方法として、ジェットを自励振動させる方法がある。ジェットを自励振動させる手段としては、特許文献1~3に開示されたようなフリップフロップノズルを採用することがあり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-143086号公報
【特許文献2】特開2005-113200号公報
【特許文献3】特開2019-190695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の新たな知見によると、フリップフロップノズルを有する上吹きランスから溶融金属に向かってジェットを吹き付ける場合、ジェットが減速してソフトブローとなる場合がある。従来技術においては、溶融金属の精錬において、上吹きランスから吹き出されるジェットの減速を抑制し、かつ、スピッティングを低減することについて、改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
溶融金属の精錬方法であって、
フリップフロップノズルを有する上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、ジェットを上吹きすること、を含み、
前記ジェットの自励振動数が、20Hz以上100Hz以下である、
溶融金属の精錬方法。
<態様2>
前記溶融金属の湯面から前記上吹きランスのノズル吹出口までの高さが、200mm以上5000mm以下である、
態様1の溶融金属の精錬方法。
<態様3>
前記溶融金属が、溶鉄であり、
前記ジェットが、酸素ジェットである、
態様1又は2の溶融金属の精錬方法。
<態様4>
精錬用上吹きランスであって、フリップフロップノズルを備え、
前記フリップフロップノズルは、ノズル吹出口から上吹きされるジェットの自励振動数が20Hz以上100Hz以下となるように構成されている、
精錬用上吹きランス。
【発明の効果】
【0008】
本開示の技術によれば、溶融金属の精錬において、フリップフロップノズルを備える上吹きランスから吹き出されるジェットの減速が抑制され、かつ、スピッティングが抑制され易い。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】溶融金属の精錬における上吹きランスと溶融金属とジェットとの位置関係の一例を概略的に示している。
図2】上吹きランスに備えられるフリップフロップノズルの構成の一例を概略的に示している。
図3】フリップフロップノズルを備える上吹きランスから上吹きされるジェットの自励振動数と、ジェットの最大流速平均値との関係を示すグラフである。
図4】フリップフロップノズルを備える上吹きランスから上吹きされるジェットの自励振動数と、スピッティング発生指数との関係を示すグラフである。
図5】フリップフロップノズルを備える上吹きランスから上吹きされるジェットの自励振動数と、脱炭酸素効率低下率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.溶融金属の精錬方法
図1に、溶融金属の精錬における上吹きランスと溶融金属とジェットとの位置関係の一例を概略的に示す。また、図2に、上吹きランスに備えられるフリップフロップノズルの構成の一例を概略的に示す。図1及び2に示されるように、一実施形態に係る溶融金属の製造方法は、フリップフロップノズル10を有する上吹きランス100から、前記溶融金属20の湯面20xに向けて、ジェット30を上吹きすること、を含む。ここで、前記ジェット30の自励振動数は、20Hz以上100Hz以下である。
【0011】
1.1 上吹きランス
上吹きランス100は、少なくとも1つのフリップフロップノズル10を備える。図2に示されるように、フリップフロップノズル10は、スロート部10aを備える。スロート部10aは、ガスの流れ方向に直交する断面の開口形状が長方形状であってもよい。図2に示されるように、フリップフロップノズル10は、スロート部10aよりも下流側、かつ、スロート部10aの2つの長辺側において、ジェットが側壁に付着する性質(コアンダ効果)を利用するための振動用側壁10dを各々有しており、各々の振動用側壁10dの上流側に開口部10cが設けられ、開口部10c同士が連結管10gで接続されることでジェットを自励振動させる機能を有するものである。すなわち、ジェットが2つの振動用側壁10dの片方にコアンダ効果によって付着した後、付着した側の開口部10cの圧力が低下し、圧力差によって連結管10g内に流れが発生することでジェットが片方の振動用側壁10dから剥がれ、もう片方の振動用側壁10dに付着することを繰り返す。つまり、図2に白抜き矢印で示されるように、フリップフロップノズル10から噴出するジェット30は、スロート部10aの長辺側の2つの振動用側壁10d、10dの間で自励振動する。
【0012】
特許文献1~3に開示されているようにフリップフロップノズルの基本構造については公知である。上吹きランス100においても、基本構造としては、公知のフリップフロップノズルと同様の構成を採用すればよい。例えば、フリップフロップノズル10の各々のスロート部10aが短辺及び長辺を有する長方形状の開口形状を有することで、ジェットの自励振動が可能である。特に、上記短辺と長辺とのアスペクト比が2以上である場合に、ジェットを自励振動させ易い。当該アスペクト比の上限は特に限定されるものではないが、例えば、20以下であってもよい。
【0013】
図2に示されるように、フリップフロップノズル10は、スロート部10aのほか、当該スロート部10aよりも上流側に末細部10eを有していてもよく、当該スロート部10aよりも下流側に末広部10b、開口部10c及び振動用側壁10dを有していてもよい。末広部10bは適宜省略してもよい。末細部10eにおける上流から下流に向かっての開口面積の縮小率や末細部10eの長さ、スロート部10aの長さ、末広部10bにおける上流から下流に向かっての開口面積の拡大率や末広部10bの長さ、開口部10cの大きさ、振動用側壁10dにおいて上流から下流に向かっての拡大率や振動用側壁10dの長さ等については、フリップフロップノズル10として機能し得るものであれば特に限定されない。図2に示されるように、スロート部10aから振動用側壁10dに向かって、開口形状の短辺のみ拡大していてもよい。すなわち、スロート部10aの開口形状のアスペクト比が、スロート部10aよりも下流側の開口形状のアスペクト比よりも小さくてもよい。
【0014】
尚、上吹きランス100に対して複数のフリップフロップノズル10を設置する場合は、ランス100における冷却水流路等との兼ね合いもあって、ノズル10の設置個所について自ずと制約を受ける。例えば、あまりに多くのノズル10を設けることや、あまりに大きなノズル10を設けることは、ランス100におけるフリップフロップノズル10の設置の制約上、不可能である。この点、スロート部10aの大きさ等は、ランス100への設置の制約を考慮して、適当な大きさに設定されればよい。
【0015】
上述の通り、フリップフロップノズル10は、ジェット30を自励振動させるための連結管10g等を有する。ここで、ジェット30の自励振動数は、連結管10gの長さや太さによって変化し得る。例えば、連結管10gが長いほど、ジェット30の自励振動数が小さくなる。また、連結管10gが太いほど、ジェット30の自励振動数が小さくなる。ここで、本実施形態においては、ジェット30の自励振動数が20Hz以上100Hz以下であることが重要である。100Hz以下の自励振動数を達成するためには、連結管10gを長くしたり、太くしたりすることが有効である。すなわち、本実施形態においては、フリップフロップノズルの設置の制約上は不利となる構成(フリップフロップノズル10の連結管10gを長くしたり太くしたりすること)を敢えて採用することで、ジェット30の自励振動数を所定以下に制御している。
【0016】
上吹きランス100は、上述の通り、フリップフロップノズル10の連結管10gを長くしたり、太くしたりすることで、ジェット30の自励振動数が20Hz以上100Hz以下となるように構成されていればよい。上吹きランス100において、フリップフロップノズル10以外の構成については従来と同様としてもよい。例えば、上吹きランス100の全体としての形状は、柱状であってよい。具体的には、円柱状であってもよいし、角柱状であってもよいし、テーパーを有するような柱状であってもよい。
【0017】
上吹きランス100に備えられるフリップフロップノズル10の数の上限は、フリップフロップノズル10として機能させることが可能な数であればよい。フリップフロップノズル10の数が多過ぎると、上吹きガスの圧力の減衰が大きくなることから、上吹きガスの供給圧力を過剰に高圧とする必要がある。また、上吹きランス100における設置の制約上、上吹きランス100に設置可能なフリップフロップノズル10の数には自ずと上限がある。上吹きランス100に備えられるフリップフロップノズル10の数は、1以上であり、2以上又は3以上であってもよく、また、8以下、7以下又は6以下であってもよい。
【0018】
上吹きランス100の下面は、ランス中心軸に沿って下向きに凸となるような形状であってもよいし、或いは、平面状であってもよい。ランス中心軸に沿って下向きに凸となる形状の具体例としては、例えば、錐状が挙げられる。この場合、錐の中心軸をランス中心軸と一致させてもよい。例えば、上吹きランス100が円柱状である場合、ランス100の下面は、下向きに凸となる円錐状であってもよい。上吹きランス100の下面が錐状である場合、その頂角は特に限定されるものではない。
【0019】
1.2 溶融金属
精錬対象である溶融金属20の種類は、特に限定されるものではない。溶融金属20は、例えば、溶鉄であってもよいし、溶鉄以外の溶融金属であってもよい。例えば、溶融金属20が溶鉄であり、後述のジェット30が酸素ジェットである場合、本実施形態に係る精錬方法によって、当該溶鉄の脱炭等を行うことができる。溶鉄は、例えば、高炉溶銑等の溶銑であってもよいし、スクラップや還元鉄等のその他の鉄源からなるものであってもよいし、これら溶銑や鉄源を含むものであってもよい。溶融金属20の精錬時、溶融金属20の湯面20xには、スラグ等が存在していてもよい。
【0020】
1.3 ジェット
本実施形態に係る精錬方法においては、ジェット30が、溶融金属20の湯面に向けて上吹きされる。図2に示されるように、溶融金属の精錬においては、例えば、上吹きランス100の内部において、ガス供給路10fからフリップフロップノズル10の末細部10eへと上吹きガスが流れ込む。当該上吹きガスは、スロート部10a、末広部10b、開口部10c及び振動用側壁10dを経て上吹きランス100のノズル吹出口からジェット30として噴出し、炉内の溶融金属20の湯面20xに衝突する等して火点が生じる。この際、フリップフロップノズル10から噴出したジェット30が上記のメカニズムで自励振動することによって、火点の位置が経時的に移動する。フリップフロップノズル10からのジェット30の噴出方向は、特に限定されるものではない。
【0021】
本実施形態に係る精錬方法においては、ジェット30の自励振動数が20Hz以上100Hz以下であることが重要である。ジェット30の自励振動数が小さ過ぎると、溶融金属20の湯面において上記の火点が1つの箇所に留まる時間が長くなるなどして、スピッティングの発生を十分に低減することが難しくなる。一方、ジェット30の自励振動数が大き過ぎると、ジェット30が溶融金属20の湯面20xに到達する前に、ジェット30が大きく減速してソフトブローとなり易い。ジェット30がソフトブローとなった場合、溶融金属20の精錬効率が低下する。例えば、溶融金属20が溶鉄であり、ジェット30が酸素ジェットであり、溶鉄の湯面に酸素ジェットを吹き付けることで当該溶鉄の脱炭等を行う場合、当該酸素ジェットがソフトブローとなると、溶鉄の脱炭酸素効率が低下する。ジェット30の自励振動数は、20Hz以上100Hz以下であり、30Hz以上、40Hz又は50Hz以上であってもよく、90Hz以下、80Hz以下、70Hz以下又は60Hz以下であってもよい。ジェット30の自励振動数は、上述の通り、フリップフロップノズル10の連結管10gの長さや太さによって制御できる。
【0022】
本実施形態に係る精錬方法において、ジェット30の種類は、特に限定されるものではない。ジェット30は、例えば、酸素ジェットであってもよいし、酸素ジェット以外のジェットであってもよい。酸素ジェットとは、酸素を含むジェットをいう。
【0023】
本実施形態に係る精錬方法においては、ジェット30の自励振動数が所定の範囲に制御される限りにおいて、ジェット30の流速等のその他の条件は、従来の溶融金属の精錬において採用される条件と同様であってよい。ジェット30は、フリップフロップノズル10において自励振動するような流量や流速であって、精錬を行うのに適した流量や流速であればよい。上吹きガスの流速は、フリップフロップノズル10の流路内において、超音速となっていてもよい。
【0024】
1.4 その他
本実施形態に係る精錬方法において、上述の上吹きランス10と溶融金属20の湯面20xとの位置関係は、精錬を適切に実施できる限りにおいて、特に限定されるものではない。溶融金属20の湯面20xから上吹きランス10のノズル吹出口(フリップフロップノズル10の出口)までの高さは、溶融金属の精錬において通常採用される高さと同様であってよい。例えば、溶融金属20の湯面20xから上吹きランス10のノズル吹出口までの高さは、200mm以上5000mm以下であってもよい。下限は、250mm以上であってもよく、上限は、4000mm以下、3000mm以下、2000mm以下、1000mm以下、750mm以下、500mm以下、400mm以下、又は、350mm以下であってもよい。
【0025】
本実施形態に係る精錬方法において採用される精錬炉の種類は、特に限定されるものではない。精錬炉は、溶製すべき溶融金属20の種類や量等に応じて、適切な炉が選択されればよい。精錬炉は、例えば、転炉であってもよいし、電気炉であってもよいし、これら以外の炉であってもよい。転炉は、上吹き転炉及び上底吹き転炉のいずれであってもよい。
【0026】
2.精錬用上吹きランス
本開示の技術は精錬用上吹きランスとしての側面も有する。すなわち、図1及び2に示されるように、一実施形態に係る精錬用上吹きランス100は、フリップフロップノズル10を備える。前記フリップフロップノズル10は、ノズル吹出口から上吹きされるジェット30の自励振動数が20Hz以上100Hz以下となるように構成されている。上述の通り、ジェット30の自励振動数は、フリップフロップノズル10の連結管10gの長さや太さによって決定され得る。上吹きランス100の構成そのものは、上述の通りであり、ここでは詳細な説明を省略する。
【0027】
3.作用・効果
上底吹き型転炉等の精錬炉を用いて高炉溶銑等の溶融金属の精錬を行う場合において、溶融金属の精錬を短時間で行うためには、上吹きランスから溶融金属に吹き付けるジェットの供給を高めて、高速吹錬を行うことが有効である。ここで、高速吹錬では、ジェットが溶融金属に吹き付けられる際に溶融金属粒が飛散する現象であるスピッティングを抑制することが課題である。高速吹錬によってスピッティングが激化することで、炉口に地金が付着して操業に支障を生じ、炉口から溶融金属粒が飛散して歩留りを悪化させる。一方で、スピッティングを抑制するために、ジェット流量を低位にした場合、精錬効率が低下し、生産性が悪化するなどの支障が出る。
【0028】
これに対し、本開示の精錬方法のように、上吹きジェットを自励振動させて、火点の位置を動かしながら吹錬を行うことでスピッティングを低減させることが可能である。また、本開示の精錬方法においては、ジェットの自励振動数が所定範囲内に制御されることで、ジェットの減速(ソフトブロー化)が抑えられ、精錬効率を向上させることができる。本開示の精錬方法においては、ジェットを動かすための機械的な駆動装置も不要である。
【実施例0029】
以下、実施例を示しつつ本開示の技術による効果等について、より詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
1.ジェットの自励振動数とジェットの流速との関係
フリップフロップノズルを備える上吹きランスから上吹きされるジェットの自励振動数と、ジェットの流速との関係を確認した。
【0031】
先端にフリップフロップノズルを1つ有する単孔ランスに酸素を流し、ジェットの流速を熱線流速計で測定した。ここで、転炉などの精錬設備のランスは、ノズル内に飛散粒鉄などが入り込むことを抑制するため、ガスがスロートでチョークする超音速条件にて使用することが一般的であり、本検討においても、超音速条件にて実験を行った。
【0032】
本実施例で採用したフリップフロップノズルのスロート部の断面形状は、長辺が36mm、短辺が2.7mmの長方形である。その他の構成についてはフリップフロップノズルの既報文献を参考に、ジェットがスロート部でチョークする超音速となるようにした。ここで、連結管形状を調整して、ジェットの自励振動数が20Hzとなるように構成された単孔ランスB、50Hzとなるように構成された単孔ランスC、100Hzとなるように構成された単孔ランスD、200Hzとなるように構成された単孔ランスE、300Hzとなるように構成された単孔ランスF、400Hzとなるように構成された単孔ランスGを各々作製した。具体的には、フリップフロップノズルの連結管の長さは、単孔ランスBは14.2m、単孔ランスCは4.0m、単孔ランスDは1.5m、単孔ランスEは0.58m、単孔ランスFは0.33m、単孔ランスGは0.22mとした。また、連結管内径は全て32mmとした。
【0033】
また、比較のため、上記フリップフロップノズルとノズルスロート断面積が同じである長方形ノズルを有する単孔ランスAについてもジェットの流速を測定した。すなわち、単孔ランスAから吹き出されるジェットの自励振動数は0Hzである。
【0034】
以下の実験では、ジェットがスロート部で超音速となるように、ランス前圧がゲージ圧で0.1MPa以上であり、上記スロート形状において、ランス前圧が0.1MPa以上となる、酸素流量3.0Nm/minにて測定を行った。
【0035】
ランスから吹き出されるジェットの流速は、熱線流速計によって測定した。熱線流速計はノズル中心軸上のジェット下流側、かつ、ノズル吹出口から300mm離れたランス中心軸と垂直な平面位置に10mm間隔でジェットが通過する範囲に設置し、自励振動しないジェットの最大流速(単孔ランスAの場合)や、自励振動によって常に位置が動くジェットの最大流速(単孔ランスB~Gの場合)を測定し、その時間平均値を求めた。
【0036】
図3に、単孔ランスA~Gの各々から吹き出されるジェットの最大流速の平均値とジェットの自励振動数との関係を示す。図3に示されるように、ジェットが自励振動しない単孔ランスAを用いた場合に比べて、自励振動する単孔ランスB~Gを用いた場合、ジェットの最大流速平均値はほぼ同程度か、又は低下することが分かる。具体的には、自励振動数が100Hz以下である場合の最大流速平均値は、自励振動しない場合のそれとほぼ同程度であるが、自励振動数が100Hzを超えると最大流速平均値が大きく低下した。自励振動数が100Hzを超えると、ジェットの振動方向の移動が速くなり、その分、ジェットの勢いが弱くなり、流速が低下したものと考えられる。以上の結果から、ジェットのソフトブロー化を避けるためには、ジェットの自励振動数を100Hz以下とすることが有効と考えられる。
【0037】
2.実機試験
以下、2.5t上底吹き転炉での実施例を示す。
【0038】
2.1 吹錬条件
2.5t上底吹き転炉に溶銑2.0tを装入した。溶銑に対して塊生石灰等のフラックスを添加後、上吹きランスを用いて炭素濃度が0.1mass%となるまで吹錬を行った。吹錬時の上吹きランスの高さ(溶銑の湯面からランスのノズル吹出口までの高さ)は300mm、酸素流量は3.0Nm/minとした。上吹きランスは上述の流速測定で用いたのと同じ単孔ランスA~Gを用いた。上述の通り、自励振動数は連結管の長さを変更して調整した。ランス高さ及び酸素流量は全条件一定で調査を行った。
【0039】
2.2 スピッティングの評価条件
吹錬中の炉口付近をビデオカメラで撮影し、撮影した動画から30秒毎に画像を抽出し、画像に写っているスピッティングの画素数をカウントし、吹錬中のスピッティング画素数を積算した。単孔ランスB~Gを用いた場合のスピッティング量を、単孔ランスAを用いた場合のスピッティング量で割った数値(スピッティング発生指数(%))を求めた。結果を図4に示す。
【0040】
2.3 脱炭酸素効率の評価
脱炭酸素効率は、上吹きした酸素が溶銑中の炭素と反応する効率であり、溶銑中の炭素と反応しない酸素は二次燃焼等に使用されることとなる。本実施例では、単孔ランスAを用いた場合の脱炭酸素効率を基準として、単孔ランスB~Gを用いた場合の脱炭酸素効率がどの程度低下したか(脱炭酸素効率低下率)を指数化して評価した。具体的には、溶銑中炭素濃度が1.0mass%以上の高炭素濃度域において、吹錬中に2回、サブランスを用いて溶銑サンプリングを行い、分析で得られた溶銑中炭素濃度の減少幅とその間の上吹き酸素量から脱炭酸素効率を求め、上記の通り指数化して評価した。結果を図5に示す。
【0041】
2.4 評価結果
図4及び5に示されるように、自励振動しない単孔ランスAを用いた場合と比較し、フリップフロップノズルを有する単孔ランスE~Gを用いた場合は、スピッティングが60%以上低減されたものの、自励振動数が過大でジェットがソフトブロー化したため、脱炭酸素効率が5%以上低下した。これに対し、単孔ランスB~Dを用いた場合は、自励振動しない単孔ランスAを用いた場合と比較し、スピッティングが40%以上低減されるとともに、自励振動数が20Hz以上100Hz以下でありジェットの減速を抑えることができたため、脱炭酸素効率の大幅な低下が抑制された。
【0042】
3.補足
尚、上記の実施例では、上吹きランスとして単孔ランスを用いた場合を例示したが、上吹きランスのノズルの数は1つに限定されるものではない。上吹きランスが多孔ランスである場合においても、少なくとも1つのノズルから吹き出されるジェットの自励振動数を20Hz以上100Hz以下に制御することで、上記と同様の効果が奏されるものと考えられる。
【0043】
上記の実施例では、上底吹き転炉において溶銑の脱炭精錬を行う場合を例示したが、炉の種類、溶融金属の種類及び精錬の種類については、これに限定されるものではない。本開示の技術は、溶融金属の湯面に向けてジェットを上吹きする種々の精錬処理に適用可能である。
【0044】
4.まとめ
以上の結果から、以下の要件(1)及び(2)を満たす溶融金属の精錬方法によれば、フリップフロップノズルを備える上吹きランスから吹き出されるジェットの減速を抑制し、かつ、スピッティングを低減することができるものといえる。
(1)溶融金属の精錬方法は、フリップフロップノズルを有する上吹きランスから、前記溶融金属の湯面に向けて、ジェットを上吹きすること、を含む。
(2)溶融金属の精錬方法において、前記ジェットの自励振動数が、20Hz以上100Hz以下である。
【符号の説明】
【0045】
10 フリップフロップノズル
10a スロート部
10b 末広部
10c 開口部
10d 振動用側壁
10e 末細部
10f ランス内の上吹きガス供給路
10g 連結管
20 溶融金属
20x 湯面
30 ジェット
100 精錬用上吹きランス
図1
図2
図3
図4
図5