(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127494
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】送信源位置速度標定装置及び送信源位置速度標定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 5/04 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01S5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036682
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】溝口 陸
(72)【発明者】
【氏名】越後貫 智也
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062BB03
5J062BB09
5J062CC14
5J062DD23
(57)【要約】
【課題】本開示は、状態方程式及び観測方程式を備える状態空間モデルを適用したうえで、送信源の位置標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源の位置の標定値が送信源の実際の移動に追従できるようにすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、状態空間モデルを適用するにあたり、送信源Bの位置のみならず速度にも関する状態方程式として、送信源Bが移動する移動予測モデルを適用する。状態値予測部7は、ある時刻における送信源Bの位置及び速度の標定値と、状態空間モデルが備える状態方程式(送信源Bが移動する移動予測モデル)と、に基づいて、ある時刻の後の時刻における送信源Bの位置及び速度に関する、ある時刻における予測値を算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信源の位置及び速度に関する状態方程式と、前記送信源からの受信波の到来方向及び前記送信源の位置に関する観測方程式と、を備える状態空間モデルを適用するために、
ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻における実測値と、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻の前の時刻における予測値と、を取得する到来方向取得部と、
前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の実測値から、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測値を減算し、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測誤差を算出する予測誤差算出部と、
前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測誤差に、前記送信源の位置及び速度に対する補正ゲインを乗算し、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記前の時刻における予測値に対する補正量を算出する補正量算出部と、
前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の予測値に、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の予測値に対する補正量を加算し、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記ある時刻における標定値を算出する標定値算出部と、
前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値と、前記状態空間モデルが備える前記状態方程式と、に基づいて、前記ある時刻の後の時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記ある時刻における予測値を算出する状態値予測部と、
前記後の時刻における前記送信源の位置の予測値と、前記状態空間モデルが備える前記観測方程式と、に基づいて、前記後の時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻における予測値を算出する観測値予測部と、
を備えることを特徴とする送信源位置速度標定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の送信源位置速度標定装置が備える各処理部が行う各処理ステップを、この順序で繰り返しコンピュータに実行させるための送信源位置速度標定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、送信源の位置及び速度を標定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
送信源の位置を標定する技術が、特許文献1、2等に開示されている。特許文献1、2では、潮流で移動するブイ等に搭載される送信源の位置を標定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5730473号公報
【特許文献2】特許第5730506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の送信源位置標定処理の概要を
図1に示す。送信源Bは、潮流で移動するブイ等に搭載される。受信機Aは、空中で飛行する航空機等に搭載される。送信源Bの位置に関する状態方程式(送信源Bが固定される固定点モデル)と、送信源Bからの受信波の到来方向及び送信源Bの位置に関する観測方程式と、を備える状態空間モデル(カルマンフィルタ等)を適用することにより、送信源Bの位置を標定する。
【0005】
時刻Tkにおける送信源Bの位置の標定値は、xk|kである。送信源Bが固定される固定点モデルが適用されるため、時刻Tk+1における送信源Bの位置の予測値は、xk+1|k(=xk|k)である。時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向の予測値は、φk+1である。時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向の実測値は、θk+1である。時刻Tk+1における送信源Bの位置の標定値は、xk+1|k+1である。
【0006】
時刻Tk+2においても、時刻Tk+1と同様に、標定処理が実行される。送信源Bが固定される固定点モデルが適用されるため、時刻Tk+2における送信源Bの位置の予測値は、xk+2|k+1(=xk+1|k+1)である。時刻Tk+2における送信源Bからの受信波の到来方向の予測値は、φk+2である。時刻Tk+2における送信源Bからの受信波の到来方向の実測値は、θk+2である。時刻Tk+2における送信源Bの位置の標定値は、xk+2|k+2である。
【0007】
ここで、送信源Bの位置標定処理が長時間も実行されたときに、送信源Bの位置に関する状態方程式が信用されるため、送信源Bの位置の標定指標が小さくなり、送信源Bの位置の補正量も小さくなる。しかし、送信源Bの位置に関する状態方程式として、送信源Bが固定される固定点モデルが適用されるため、送信源Bの位置標定処理が長時間も実行されたときに、送信源Bの位置の標定値が送信源Bの実際の移動に追従できない。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、状態方程式及び観測方程式を備える状態空間モデルを適用したうえで、送信源の位置標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源の位置の標定値が送信源の実際の移動に追従できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、状態空間モデルを適用するにあたり、送信源の位置のみならず速度にも関する状態方程式として、送信源が移動する移動予測モデルを適用する。
【0010】
具体的には、本開示は、送信源の位置及び速度に関する状態方程式と、前記送信源からの受信波の到来方向及び前記送信源の位置に関する観測方程式と、を備える状態空間モデルを適用するために、
ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻における実測値と、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻の前の時刻における予測値と、を取得する到来方向取得部と、
前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の実測値から、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測値を減算し、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測誤差を算出する予測誤差算出部と、
前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測誤差に、前記送信源の位置及び速度に対する補正ゲインを乗算し、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記前の時刻における予測値に対する補正量を算出する補正量算出部と、
前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の予測値に、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の予測値に対する補正量を加算し、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記ある時刻における標定値を算出する標定値算出部と、
前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値と、前記状態空間モデルが備える前記状態方程式と、に基づいて、前記ある時刻の後の時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記ある時刻における予測値を算出する状態値予測部と、
前記後の時刻における前記送信源の位置の予測値と、前記状態空間モデルが備える前記観測方程式と、に基づいて、前記後の時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻における予測値を算出する観測値予測部と、
を備えることを特徴とする送信源位置速度標定装置である。
【0011】
この構成によれば、状態方程式及び観測方程式を備える状態空間モデルを適用したうえで、送信源の位置速度標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源の位置及び速度の標定値が送信源の実際の移動に追従できるようにすることができる。
【0012】
また、本開示は、以上に記載の送信源位置速度標定装置が備える各処理部が行う各処理ステップを、この順序で繰り返しコンピュータに実行させるための送信源位置速度標定プログラムである。
【0013】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本開示は、状態方程式及び観測方程式を備える状態空間モデルを適用したうえで、送信源の位置標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源の位置の標定値が送信源の実際の移動に追従できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】従来技術の送信源位置標定処理の概要を示す図である。
【
図2】本開示の送信源位置速度標定処理の概要を示す図である。
【
図3】本開示の送信源位置速度標定装置の構成を示す図である。
【
図4】本開示の送信源位置速度標定処理の手順を示す図である。
【
図5】本開示の送信源位置速度標定処理の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0017】
(本開示の送信源位置速度標定処理の概要)
本開示の送信源位置速度標定処理の概要を
図2に示す。送信源Bは、潮流で移動するブイ等に搭載される。受信機Aは、空中で飛行する航空機等に搭載される。送信源Bの位置及び速度に関する状態方程式(送信源Bが移動する潮流予測モデル)と、送信源Bからの受信波の到来方向及び送信源Bの位置に関する観測方程式と、を備える状態空間モデル(カルマンフィルタ等)を適用することにより、送信源Bの位置及び速度を標定する。
【0018】
時刻Tkにおける送信源Bの位置の標定値は、xk|kである。送信源Bが移動する潮流予測モデルが適用されるため、時刻Tk+1における送信源Bの位置の予測値は、xk+1|k(≠xk|k)である。時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向の予測値は、φk+1である。時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向の実測値は、θk+1である。時刻Tk+1における送信源Bの位置の標定値は、xk+1|k+1である。
【0019】
時刻Tk+2においても、時刻Tk+1と同様に、標定処理が実行される。送信源Bが移動する潮流予測モデルが適用されるため、時刻Tk+2における送信源Bの位置の予測値は、xk+2|k+1(≠xk+1|k+1)である。時刻Tk+2における送信源Bからの受信波の到来方向の予測値は、φk+2である。時刻Tk+2における送信源Bからの受信波の到来方向の実測値は、θk+2である。時刻Tk+2における送信源Bの位置の標定値は、xk+2|k+2である。
【0020】
ここで、送信源Bの位置速度標定処理が長時間も実行されたときに、送信源Bの位置のみならず速度にも関する状態方程式が信用されるため、送信源Bの位置及び速度の標定指標が小さくなり、送信源Bの位置及び速度の補正量も小さくなる。しかし、送信源Bの位置のみならず速度にも関する状態方程式として、送信源Bが移動する潮流予測モデルが適用されるため、送信源Bの位置速度標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源Bの位置及び速度の標定値が送信源Bの実際の移動に追従できるようになる。
【0021】
(本開示の送信源位置速度標定装置の構成)
本開示の送信源位置速度標定装置の構成を
図3に示す。本開示の送信源位置速度標定処理の手順を
図4に示す。送信源位置速度標定装置Lは、到来方向取得部1C、1S、2C、2S、予測誤差算出部3C、3S、補正量算出部4、標定値算出部5、時間遅延部6及び状態値予測部7を備える。送信源位置速度標定装置Lは、
図4に示した送信源位置速度標定プログラムをコンピュータにインストールし実現することができる。
【0022】
到来方向取得部1C、1Sは、時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向に関する、時刻Tkにおける実測値cоsθk、sinθkを取得する(ステップS1)。時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向の実測値cоsθk、sinθkは、受信機Aの複数空中線間の受信位相差と、送信源Bの送信周波数と、に基づいて算出される。
【0023】
到来方向取得部2C、2Sは、時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向に関する、時刻Tk-1における予測値cоsφk、sinφkを取得する(ステップS1)。時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測値cоsφk、sinφkは、時刻Tkにおける送信源Bの位置の予測値xk|k-1と、受信機Aの航法データ(位置及び姿勢)と、状態空間モデルが備える観測方程式と、に基づいて算出される(ステップS6)。
【0024】
予測誤差算出部3Cは、時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向の実測値cоsθkから、時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測値cоsφkを減算し、時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測誤差cоsθk-cоsφkを算出する(ステップS2)。予測誤差算出部3Sは、時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向の実測値sinθkから、時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測値sinφkを減算し、時刻Tkにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測誤差sinθk-sinφkを算出する(ステップS2)。
【0025】
補正量算出部4は、時刻T
kにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測誤差(cоsθ
k-cоsφ
k、sinθ
k-sinφ
k)に、送信源Bの位置及び速度に対する補正ゲインK
kを乗算し、時刻T
kにおける送信源Bの位置及び速度に関する、時刻T
k-1における予測値(x
k|k-1、v
k|k-1)に対する補正量(数1)を算出する(ステップS3)。
【数1】
【0026】
標定値算出部5は、時刻T
kにおける送信源Bの位置及び速度の予測値(x
k|k-1、v
k|k-1)に、時刻T
kにおける送信源Bの位置及び速度の予測値(x
k|k-1、v
k|k-1)に対する補正量(数1)を加算し、時刻T
kにおける送信源Bの位置及び速度に関する、時刻T
kにおける標定値(x
k|k、v
k|k)(数2)を算出する(ステップS4)。
【数2】
【0027】
状態値予測部7は、時刻T
kにおける送信源Bの位置及び速度の標定値(x
k|k、v
k|k)と、状態空間モデルが備える状態方程式(送信源Bが移動する潮流予測モデル)と、に基づいて、時刻T
k+1における送信源Bの位置及び速度に関する、時刻T
kにおける予測値(x
k+1|k、v
k+1|k)(数3)を算出する(ステップS5)。ここで、Δtは、時刻T
kと時刻T
k+1との間の時間である。
【数3】
【0028】
観測値予測部(不図示)は、時刻Tk+1における送信源Bの位置の予測値xk+1|kと、受信機Aの航法データ(位置及び姿勢)と、状態空間モデルが備える観測方程式と、に基づいて、時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向に関する、時刻Tkにおける予測値(cоsφk+1、sinφk+1)を算出する(ステップS6)。
【0029】
なお、時間遅延部6は、時刻Tkにおける送信源Bの位置及び速度の標定値(xk|k、vk|k)を、時間Δtだけ遅延して出力する。また、状態値予測部7は、送信源Bの位置及び速度の標定の初期段階における、送信源Bの位置及び速度の初期値(x0|0、v0|0)を入力する。よって、ステップS1~S6の各フィードバックサイクルが繰り返される。
【0030】
(本開示の送信源位置速度標定処理の結果)
本開示の送信源位置速度標定処理の結果を
図5に示す。
図5の左欄では、従来技術を示し、送信源Bの位置に関する状態方程式として、送信源Bが固定される固定点モデルが適用されている。
図5の右欄では、本開示技術を示し、送信源Bの位置及び速度に関する状態方程式として、送信源Bが移動する潮流予測モデルが適用されている。
【0031】
すると、
図5の左欄では、送信源Bの位置標定処理が長時間も実行されたときに、送信源Bの位置の標定値が送信源Bの実際の移動に追従できないことが分かった。一方で、
図5の右欄では、送信源Bの位置速度標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源Bの位置及び速度の標定値が送信源Bの実際の移動に追従できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本開示の送信源位置速度標定装置及び送信源位置速度標定プログラムは、潮流で移動するブイ等に搭載される送信源の位置を標定する目的で適用することができる。
【符号の説明】
【0033】
A:受信機
B:送信源
L:送信源位置速度標定装置
1C、1S、2C、2S:到来方向取得部
3C、3S:予測誤差算出部
4:補正量算出部
5:標定値算出部
6:時間遅延部
7:状態値予測部