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特開2024-127501送信源位置速度標定装置及び送信源位置速度標定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127501
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】送信源位置速度標定装置及び送信源位置速度標定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/04 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01S5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036689
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】溝口 陸
(72)【発明者】
【氏名】越後貫 智也
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062BB03
5J062BB09
5J062CC14
5J062DD23
(57)【要約】
【課題】本開示は、状態方程式及び観測方程式を備える状態空間モデルを適用したうえで、送信源の位置標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源の位置の標定値が送信源の実際の移動に追従できるようにすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、状態空間モデルを適用するにあたり、送信源Bの位置のみならず速度にも関する状態方程式として、送信源Bが移動する移動予測モデルを適用する。そして、ある時刻における送信源Bの位置の標定値が飛びを生じたときに、当該時刻における送信源Bの位置及び速度の標定値を無視し、当該時刻の前の時刻における送信源Bの位置及び速度の標定値を維持し、送信源Bの位置の標定値が飛びを生じないようにする。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信源の位置及び速度に関する状態方程式と、前記送信源からの受信波の到来方向及び前記送信源の位置に関する観測方程式と、を備える状態空間モデルを適用するために、
ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻における実測値と、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻の前の時刻における予測値と、を取得する到来方向取得部と、
前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の実測値から、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測値を減算し、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測誤差を算出する予測誤差算出部と、
前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測誤差に、前記送信源の位置及び速度に対する補正ゲインを乗算し、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記前の時刻における予測値に対する補正量を算出する補正量算出部と、
前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の予測値に、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の予測値に対する補正量を加算し、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記ある時刻における標定値を算出する標定値算出部と、
前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値と、前記状態空間モデルが備える前記状態方程式と、に基づいて、前記ある時刻の後の時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記ある時刻における予測値を算出する状態値予測部と、
前記後の時刻における前記送信源の位置の予測値と、前記状態空間モデルが備える前記観測方程式と、に基づいて、前記後の時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻における予測値を算出する観測値予測部と、を備え、
前記標定値算出部は、前記ある時刻における前記送信源の位置の標定値が、前記前の時刻における前記送信源の位置の標定値と比べて、移動距離に対する閾値以上に渡って移動したときに、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値として、前記ある時刻ではなく前記前の時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値を維持し、
前記補正量算出部は、前記ある時刻における前記送信源の位置の標定値が、前記前の時刻における前記送信源の位置の標定値と比べて、前記移動距離に対する閾値以上に渡って移動したときに、前記送信源の位置及び速度に対する補正ゲインとして、前記ある時刻ではなく前記前の時刻における前記送信源の位置及び速度に対する補正ゲインを維持する
ことを特徴とする送信源位置速度標定装置。
【請求項2】
前記標定値算出部は、前記ある時刻における前記送信源の速度の標定値が、移動速度に対する閾値以上として算出されたときに、前記ある時刻における前記送信源の速度の標定値として、前記移動速度に対する閾値を上限とする前記送信源の速度の標定値を出力する
ことを特徴とする、請求項1に記載の送信源位置速度標定装置。
【請求項3】
前記標定値算出部は、前記送信源の位置及び速度の標定の初期段階において、前記ある時刻における前記送信源の位置の標定値が、前記前の時刻における前記送信源の位置の標定値と比べて、前記移動距離に対する閾値以上に渡って移動したかどうかによらず、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値を出力する
ことを特徴とする、請求項1に記載の送信源位置速度標定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の送信源位置速度標定装置が備える各処理部が行う各処理ステップを、この順序で繰り返しコンピュータに実行させるための送信源位置速度標定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、送信源の位置及び速度を標定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
送信源の位置を標定する技術が、特許文献1、2等に開示されている。特許文献1、2では、潮流で移動するブイ等に搭載される送信源の位置を標定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5730473号公報
【特許文献2】特許第5730506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の送信源位置標定処理の概要を図1に示す。送信源Bは、潮流で移動するブイ等に搭載される。受信機Aは、空中で飛行する航空機等に搭載される。送信源Bの位置に関する状態方程式(送信源Bが固定される固定点モデル)と、送信源Bからの受信波の到来方向及び送信源Bの位置に関する観測方程式と、を備える状態空間モデル(カルマンフィルタ等)を適用することにより、送信源Bの位置を標定する。
【0005】
時刻Tにおける送信源Bの位置の標定値は、xk|kである。送信源Bが固定される固定点モデルが適用されるため、時刻Tk+1における送信源Bの位置の予測値は、xk+1|k(=xk|k)である。時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向の予測値は、φk+1である。時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向の実測値は、θk+1である。時刻Tk+1における送信源Bの位置の標定値は、xk+1|k+1である。
【0006】
時刻Tk+2においても、時刻Tk+1と同様に、標定処理が実行される。送信源Bが固定される固定点モデルが適用されるため、時刻Tk+2における送信源Bの位置の予測値は、xk+2|k+1(=xk+1|k+1)である。時刻Tk+2における送信源Bからの受信波の到来方向の予測値は、φk+2である。時刻Tk+2における送信源Bからの受信波の到来方向の実測値は、θk+2である。時刻Tk+2における送信源Bの位置の標定値は、xk+2|k+2である。
【0007】
ここで、送信源Bの位置標定処理が長時間も実行されたときに、送信源Bの位置に関する状態方程式が信用されるため、送信源Bの位置の標定指標が小さくなり、送信源Bの位置の補正量も小さくなる。しかし、送信源Bの位置に関する状態方程式として、送信源Bが固定される固定点モデルが適用されるため、送信源Bの位置標定処理が長時間も実行されたときに、送信源Bの位置の標定値が送信源Bの実際の移動に追従できない。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、状態方程式及び観測方程式を備える状態空間モデルを適用したうえで、送信源の位置標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源の位置の標定値が送信源の実際の移動に追従できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、状態空間モデルを適用するにあたり、送信源の位置のみならず速度にも関する状態方程式として、送信源が移動する移動予測モデルを適用する。
【0010】
ここで、受信機を搭載される航空機等の姿勢変化等に応じて、送信源と受信機との間のマルチパス等が生じることがあり、送信源からの受信波の到来方向の実測値が乱れることがあり、送信源の位置及び速度の標定値が乱れることがある。そして、送信源が移動する移動予測モデルを適用するときには、送信源が固定される固定点モデルを適用するときと比べて、送信源の位置及び速度の標定値が乱れやすく収束しにくく発散しやすい。
【0011】
そこで、ある時刻における送信源の位置の標定値が飛びを生じたときに、当該時刻における送信源の位置及び速度の標定値を無視し、当該時刻の前の時刻における送信源の位置及び速度の標定値を維持し、送信源の位置の標定値が飛びを生じないようにする。
【0012】
具体的には、本開示は、送信源の位置及び速度に関する状態方程式と、前記送信源からの受信波の到来方向及び前記送信源の位置に関する観測方程式と、を備える状態空間モデルを適用するために、
ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻における実測値と、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻の前の時刻における予測値と、を取得する到来方向取得部と、
前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の実測値から、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測値を減算し、前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測誤差を算出する予測誤差算出部と、
前記ある時刻における前記送信源からの受信波の到来方向の予測誤差に、前記送信源の位置及び速度に対する補正ゲインを乗算し、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記前の時刻における予測値に対する補正量を算出する補正量算出部と、
前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の予測値に、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の予測値に対する補正量を加算し、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記ある時刻における標定値を算出する標定値算出部と、
前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値と、前記状態空間モデルが備える前記状態方程式と、に基づいて、前記ある時刻の後の時刻における前記送信源の位置及び速度に関する、前記ある時刻における予測値を算出する状態値予測部と、
前記後の時刻における前記送信源の位置の予測値と、前記状態空間モデルが備える前記観測方程式と、に基づいて、前記後の時刻における前記送信源からの受信波の到来方向に関する、前記ある時刻における予測値を算出する観測値予測部と、を備え、
前記標定値算出部は、前記ある時刻における前記送信源の位置の標定値が、前記前の時刻における前記送信源の位置の標定値と比べて、移動距離に対する閾値以上に渡って移動したときに、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値として、前記ある時刻ではなく前記前の時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値を維持し、
前記補正量算出部は、前記ある時刻における前記送信源の位置の標定値が、前記前の時刻における前記送信源の位置の標定値と比べて、前記移動距離に対する閾値以上に渡って移動したときに、前記送信源の位置及び速度に対する補正ゲインとして、前記ある時刻ではなく前記前の時刻における前記送信源の位置及び速度に対する補正ゲインを維持する
ことを特徴とする送信源位置速度標定装置である。
【0013】
この構成によれば、状態方程式及び観測方程式を備える状態空間モデルを適用したうえで、送信源の位置速度標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源の位置及び速度の標定値が送信源の実際の移動に追従できるようにすることができる。
【0014】
そして、送信源からの受信波の到来方向の実測値が乱れたとしても、送信源の位置及び速度の標定値が乱れにくく収束しやすく発散しにくくすることができる。
【0015】
また、本開示は、前記標定値算出部は、前記ある時刻における前記送信源の速度の標定値が、移動速度に対する閾値以上として算出されたときに、前記ある時刻における前記送信源の速度の標定値として、前記移動速度に対する閾値を上限とする前記送信源の速度の標定値を出力することを特徴とする送信源位置速度標定装置である。
【0016】
この構成によれば、送信源の位置の標定初期値が送信源の実際の位置と大きく異なるときでも、送信源の位置のその後の標定値が飛びを生じにくいため、当該時刻における送信源の位置及び速度の標定値を無視することなく、標定初期処理を開始することができる。
【0017】
また、本開示は、前記標定値算出部は、前記送信源の位置及び速度の標定の初期段階において、前記ある時刻における前記送信源の位置の標定値が、前記前の時刻における前記送信源の位置の標定値と比べて、前記移動距離に対する閾値以上に渡って移動したかどうかによらず、前記ある時刻における前記送信源の位置及び速度の標定値を出力することを特徴とする送信源位置速度標定装置である。
【0018】
この構成によれば、送信源の位置の標定初期値が送信源の実際の位置と大きく異なるときに、送信源の位置のその後の標定値が飛びを生じたとしても、当該時刻における送信源の位置及び速度の標定値を無視することなく、標定初期処理を開始することができる。
【0019】
また、本開示は、以上に記載の送信源位置速度標定装置が備える各処理部が行う各処理ステップを、この順序で繰り返しコンピュータに実行させるための送信源位置速度標定プログラムである。
【0020】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本開示は、状態方程式及び観測方程式を備える状態空間モデルを適用したうえで、送信源の位置標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源の位置の標定値が送信源の実際の移動に追従できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来技術の送信源位置標定処理の概要を示す図である。
図2】本開示の送信源位置速度標定処理の概要を示す図である。
図3】本開示の送信源位置速度標定装置の構成を示す図である。
図4】本開示の送信源位置速度標定処理の手順を示す図である。
図5】本開示の送信源位置飛び防止処理の概要を示す図である。
図6】本開示の送信源位置標定初期処理の概要を示す図である。
図7】本開示の送信源位置飛び防止処理の手順を示す図である。
図8】本開示の送信源位置飛び防止処理の手順を示す図である。
図9】本開示の送信源位置速度標定処理の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0024】
(本開示の送信源位置速度標定処理の概要)
本開示の送信源位置速度標定処理の概要を図2に示す。送信源Bは、潮流で移動するブイ等に搭載される。受信機Aは、空中で飛行する航空機等に搭載される。送信源Bの位置及び速度に関する状態方程式(送信源Bが移動する潮流予測モデル)と、送信源Bからの受信波の到来方向及び送信源Bの位置に関する観測方程式と、を備える状態空間モデル(カルマンフィルタ等)を適用することにより、送信源Bの位置及び速度を標定する。
【0025】
時刻Tにおける送信源Bの位置の標定値は、xk|kである。送信源Bが移動する潮流予測モデルが適用されるため、時刻Tk+1における送信源Bの位置の予測値は、xk+1|k(≠xk|k)である。時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向の予測値は、φk+1である。時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向の実測値は、θk+1である。時刻Tk+1における送信源Bの位置の標定値は、xk+1|k+1である。
【0026】
時刻Tk+2においても、時刻Tk+1と同様に、標定処理が実行される。送信源Bが移動する潮流予測モデルが適用されるため、時刻Tk+2における送信源Bの位置の予測値は、xk+2|k+1(≠xk+1|k+1)である。時刻Tk+2における送信源Bからの受信波の到来方向の予測値は、φk+2である。時刻Tk+2における送信源Bからの受信波の到来方向の実測値は、θk+2である。時刻Tk+2における送信源Bの位置の標定値は、xk+2|k+2である。
【0027】
ここで、送信源Bの位置速度標定処理が長時間も実行されたときに、送信源Bの位置のみならず速度にも関する状態方程式が信用されるため、送信源Bの位置及び速度の標定指標が小さくなり、送信源Bの位置及び速度の補正量も小さくなる。しかし、送信源Bの位置のみならず速度にも関する状態方程式として、送信源Bが移動する潮流予測モデルが適用されるため、送信源Bの位置速度標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源Bの位置及び速度の標定値が送信源Bの実際の移動に追従できるようになる。
【0028】
(本開示の送信源位置速度標定装置の構成)
本開示の送信源位置速度標定装置の構成を図3に示す。本開示の送信源位置速度標定処理の手順を図4に示す。送信源位置速度標定装置Lは、到来方向取得部1C、1S、2C、2S、予測誤差算出部3C、3S、補正量算出部4、標定値算出部5、時間遅延部6及び状態値予測部7を備える。送信源位置速度標定装置Lは、図4、7、8に示した送信源位置速度標定プログラムをコンピュータにインストールし実現することができる。
【0029】
到来方向取得部1C、1Sは、時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向に関する、時刻Tにおける実測値cоsθ、sinθを取得する(ステップS1)。時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向の実測値cоsθ、sinθは、受信機Aの複数空中線間の受信位相差と、送信源Bの送信周波数と、に基づいて算出される。
【0030】
到来方向取得部2C、2Sは、時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向に関する、時刻Tk-1における予測値cоsφ、sinφを取得する(ステップS1)。時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測値cоsφ、sinφは、時刻Tにおける送信源Bの位置の予測値xk|k-1と、受信機Aの航法データ(位置及び姿勢)と、状態空間モデルが備える観測方程式と、に基づいて算出される(ステップS6)。
【0031】
予測誤差算出部3Cは、時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向の実測値cоsθから、時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測値cоsφを減算し、時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測誤差cоsθ-cоsφを算出する(ステップS2)。予測誤差算出部3Sは、時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向の実測値sinθから、時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測値sinφを減算し、時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測誤差sinθ-sinφを算出する(ステップS2)。
【0032】
補正量算出部4は、時刻Tにおける送信源Bからの受信波の到来方向の予測誤差(cоsθ-cоsφ、sinθ-sinφ)に、送信源Bの位置及び速度に対する補正ゲインKを乗算し、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度に関する、時刻Tk-1における予測値(xk|k-1、vk|k-1)に対する補正量(数1)を算出する(ステップS3)。
【数1】
【0033】
標定値算出部5は、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度の予測値(xk|k-1、vk|k-1)に、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度の予測値(xk|k-1、vk|k-1)に対する補正量(数1)を加算し、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度に関する、時刻Tにおける標定値(xk|k、vk|k)(数2)を算出する(ステップS4)。
【数2】
【0034】
状態値予測部7は、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度の標定値(xk|k、vk|k)と、状態空間モデルが備える状態方程式(送信源Bが移動する潮流予測モデル)と、に基づいて、時刻Tk+1における送信源Bの位置及び速度に関する、時刻Tにおける予測値(xk+1|k、vk+1|k)(数3)を算出する(ステップS5)。ここで、Δtは、時刻Tと時刻Tk+1との間の時間である。
【数3】
【0035】
観測値予測部(不図示)は、時刻Tk+1における送信源Bの位置の予測値xk+1|kと、受信機Aの航法データ(位置及び姿勢)と、状態空間モデルが備える観測方程式と、に基づいて、時刻Tk+1における送信源Bからの受信波の到来方向に関する、時刻Tにおける予測値(cоsφk+1、sinφk+1)を算出する(ステップS6)。
【0036】
なお、時間遅延部6は、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度の標定値(xk|k、vk|k)を、時間Δtだけ遅延して出力する。また、状態値予測部7は、送信源Bの位置及び速度の標定の初期段階における、送信源Bの位置及び速度の初期値(x0|0、v0|0)を入力する。よって、ステップS1~S6の各フィードバックサイクルが繰り返される。
【0037】
(本開示の送信源位置飛び防止処理の概要)
本開示の送信源位置飛び防止処理の概要を図5に示す。図5の左欄では、受信機Aを搭載される航空機等の姿勢変化等に応じて、送信源Bと受信機Aとの間のマルチパス等が生じることがあり、送信源Bからの受信波の到来方向の実測値が乱れることがあり、送信源Bの位置及び速度の標定値が乱れることがある。そして、送信源Bが移動する潮流予測モデルを適用するときには、送信源Bが固定される固定点モデルを適用するときと比べて、送信源Bの位置及び速度の標定値が乱れやすく収束しにくく発散しやすい。
【0038】
図5の右欄では、ある時刻における送信源Bの位置の標定値が飛びを生じたときに、当該時刻における送信源Bの位置及び速度の標定値を無視し、当該時刻の前の時刻における送信源Bの位置及び速度の標定値を維持し、送信源Bの位置の標定値が飛びを生じないようにする。よって、送信源Bからの受信波の到来方向の実測値が乱れたとしても、送信源Bの位置及び速度の標定値が乱れにくく収束しやすく発散しにくくすることができる。
【0039】
本開示の送信源位置標定初期処理の概要を図6に示す。図6の左欄では、送信源Bの位置の標定初期値x0|0が送信源Bの実際の位置と大きく異なるときに、送信源Bの位置のその後の標定値x1|1が飛びを生じやすいため、当該時刻における送信源Bの位置及び速度の標定値x1|1、v1|1を無視してしまい、標定初期処理を開始することができない。
【0040】
図6の中欄では、送信源Bの速度の標定初期値v0|0に上限vthを設ける。そして、送信源Bの位置の標定値x1|1が飛びを生じたときに、当該時刻における送信源Bの速度の標定値v1|1に上限vthを設ける。よって、送信源Bの位置の標定初期値x0|0が送信源Bの実際の位置と大きく異なるときでも、送信源Bの位置の標定値x1|1、x2|2が飛びを生じにくいため、当該時刻における送信源Bの位置及び速度の標定値x1|1、v1|1、x2|2、v2|2を無視することなく、標定初期処理を開始することができる。
【0041】
図6の右欄では、送信源Bの位置及び速度の標定の初期段階において、送信源Bの位置の標定値x1|1が飛びを生じたかどうかによらず、当該時刻における送信源Bの位置及び速度の標定値x1|1、v1|1を無視せず更新して出力する。よって、送信源Bの位置の標定初期値x0|0が送信源Bの実際の位置と大きく異なるときに、送信源Bの位置の標定値x1|1が飛びを生じたとしても、当該時刻における送信源Bの位置及び速度の標定値x1|1、v1|1を無視することなく、標定初期処理を開始することができる。
【0042】
(本開示の送信源位置飛び防止処理の手順)
本開示の送信源位置飛び防止処理の手順を図7に示す。図7では、図5の右欄及び図6の中欄に示したような、送信源位置飛び防止処理を実行する。
【0043】
図6の左欄のように、特に送信源Bの位置及び速度の標定の初期段階において、時刻Tにおける送信源Bの速度の標定値vk|kが、移動速度に対する閾値vth以上として算出されることがある(ステップS7、YES)。ここで、移動速度に対する閾値vthは、経験的に想定される移動速度又は標定処理で測定された移動速度に基づいて、設定される。
【0044】
すると、図6の中欄のように、標定値算出部5は、時刻Tにおける送信源Bの速度の標定値vk|kとして、移動速度に対する閾値vthを上限とする送信源Bの速度の標定値を出力する(ステップS8)。つまり、標定値算出部5は、時刻T、Tk+1における送信源Bの位置の標定値xk|k、xk+1|k+1の間の飛びを緩やかにする(無視はしていない)。
【0045】
図6の左欄であっても、時刻Tにおける送信源Bの速度の標定値vk|kが、移動速度に対する閾値vth以上として算出されないこともある(ステップS7、NO)。すると、標定値算出部5は、ステップS8を実行せず、図4のステップS4を実行する。
【0046】
図5の左欄のように、特に受信機Aを搭載される航空機等の姿勢変化等に応じて、時刻Tにおける送信源Bの位置の標定値xk|kが、時刻Tk-1における送信源Bの位置の標定値xk-1|k-1と比べて、移動距離に対する閾値xth以上に渡って移動することがある(ステップS9、YES)。ここで、移動距離に対する閾値xthは、経験的に想定される移動距離又は標定処理で測定された移動距離に基づいて、設定される。
【0047】
すると、図5の右欄のように、標定値算出部5は、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度の標定値xk|k、vk|kとして、時刻Tではなく時刻Tk-1における送信源Bの位置及び速度の標定値xk-1|k-1、vk-1|k-1を維持する(ステップS10)。つまり、標定値算出部5が、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度の標定値xk|k、vk|kを無視したことから、標定値算出部5は、時刻Tk-1、Tにおける送信源Bの位置の標定値xk-1|k-1、xk|kの間の飛びを無視したことになる(緩やかにしたのみではない)。
【0048】
そして、補正量算出部4は、送信源Bの位置及び速度に対する補正ゲインKとして、時刻Tではなく時刻Tk-1における送信源Bの位置及び速度に対する補正ゲインKk-1を維持する(ステップS11)。つまり、標定値算出部5が、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度の標定値xk|k、vk|kを無視したことから、補正量算出部4も、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度に対する補正ゲインKを無視する必要がある。
【0049】
図5の左欄であっても、時刻Tにおける送信源Bの位置の標定値xk|kが、時刻Tk-1における送信源Bの位置の標定値xk-1|k-1と比べて、移動距離に対する閾値xth以上に渡って移動しないこともある(ステップS9、NO)。すると、標定値算出部5及び補正量算出部4は、ステップS10、11を実行せず、図4のステップS4、S3を実行する。
【0050】
本開示の送信源位置飛び防止処理の手順を図8にも示す。図8では、図5の右欄及び図6の右欄に示したような、送信源位置飛び防止処理を実行する。
【0051】
図6の右欄のように、送信源Bの位置及び速度の標定指標(標定の誤差の指標)が所定程度まで小さくなるまででは、送信源Bの位置及び速度の標定は初期段階にある(ステップS12、YES)。すると、標定値算出部5は、時刻Tにおける送信源Bの位置の標定値xk|kが、時刻Tk-1における送信源Bの位置の標定値xk-1|k-1と比べて、移動距離に対する閾値xth以上に渡って移動したかどうかによらず、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度の標定値xk|k、vk|kを出力する(図4のステップS4)。
【0052】
図5の右欄のように、送信源Bの位置及び速度の標定指標(標定の誤差の指標)が所定程度まで小さくなってからでは、送信源Bの位置及び速度の標定は定常段階にある(ステップS12、NO)。すると、標定値算出部5は、時刻Tにおける送信源Bの位置の標定値xk|kが、時刻Tk-1における送信源Bの位置の標定値xk-1|k-1と比べて、移動距離に対する閾値xth以上に渡って移動したかどうかに応じて、時刻Tにおける送信源Bの位置及び速度の標定値xk|k、vk|kを無視又は出力する(ステップS13~S15)。なお、図8のステップS13~S15は、図7のステップS9~S11と同様である。
【0053】
(本開示の送信源位置速度標定処理の結果)
本開示の送信源位置速度標定処理の結果を図9に示す。図9の左欄では、従来技術を示し、送信源Bの位置に関する状態方程式として、送信源Bが固定される固定点モデルが適用されている。図9の中欄では、本開示技術を示し、送信源Bの位置及び速度に関する状態方程式として、送信源Bが移動する潮流予測モデルが適用されているが、送信源Bの位置の飛びを防止する処理は適用されていない。図9の右欄では、本開示技術を示し、送信源Bの位置及び速度に関する状態方程式として、送信源Bが移動する潮流予測モデルが適用されており、送信源Bの位置の飛びを防止する処理も適用されている。
【0054】
すると、図9の左欄では、送信源Bの位置標定処理が長時間も実行されたときに、送信源Bの位置の標定値が送信源Bの実際の移動に追従できないことが分かった。そして、図9の中欄では、送信源Bの位置速度標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源Bの位置及び速度の標定値が送信源Bの実際の移動に追従できるが、送信源Bの位置の標定値が飛びを生じることが分かった。さらに、図9の右欄では、送信源Bの位置速度標定処理が長時間も実行されたときでも、送信源Bの位置及び速度の標定値が送信源Bの実際の移動に追従できるし、送信源Bの位置の標定値が飛びを生じないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示の送信源位置速度標定装置及び送信源位置速度標定プログラムは、潮流で移動するブイ等に搭載される送信源の位置を標定する目的で適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
A:受信機
B:送信源
L:送信源位置速度標定装置
1C、1S、2C、2S:到来方向取得部
3C、3S:予測誤差算出部
4:補正量算出部
5:標定値算出部
6:時間遅延部
7:状態値予測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9