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特開2024-127510燃料電池用電極触媒及びそれを備える固体高分子型燃料電池
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  • 特開-燃料電池用電極触媒及びそれを備える固体高分子型燃料電池 図1
  • 特開-燃料電池用電極触媒及びそれを備える固体高分子型燃料電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127510
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】燃料電池用電極触媒及びそれを備える固体高分子型燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20240912BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M4/92
H01M4/90 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036704
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 瞭
(72)【発明者】
【氏名】堀 彰宏
(72)【発明者】
【氏名】松村 祐宏
(72)【発明者】
【氏名】米内 翼
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 仁彦
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB05
5H018BB13
5H018BB16
5H018BB17
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE10
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】高活性及び高耐久を同時に有する燃料電池用電極触媒を提供する。
【解決手段】本発明は、カーボン担体と、該カーボン担体に担持されているPt又はPt合金からなる触媒金属粒子とを含む燃料電池用電極触媒であって、前記カーボン担体のBET比表面積、微細孔面積、及びラマン分光分析における1340cm-1付近(Dバンド)及び1580cm-1付近(Gバンド)ピークの強度比R値(=D/G)が特定されている電極触媒に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン担体と、該カーボン担体に担持されている白金(Pt)又はPt合金からなる触媒金属粒子とを含む燃料電池用電極触媒であって、
前記カーボン担体では、
(i)BET比表面積が600m/g~740m/gであり、
(ii)微細孔面積が15m/g~40m/gであり、かつ
(iii)ラマン分光分析における1340cm-1付近(Dバンド)及び1580cm-1付近(Gバンド)ピークの強度比R値(=D/G)が1.8以下である、
燃料電池用電極触媒。
【請求項2】
アノード触媒層と、カソード触媒層と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された固体高分子電解質膜とを有する膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池であって、
前記アノード触媒層及び/又はカソード触媒層の電極触媒が、請求項1に記載の燃料電池用電極触媒である
固体高分子型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極触媒及びそれを備える固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池として固体高分子型燃料電池がエネルギー源として注目されている。固体高分子型燃料電池は、室温作動が可能であり、出力密度も高いため、自動車用途などに適した形態として、活発に研究されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池では、一般に、電解質膜である固体高分子電解質膜の両面に、それぞれ、触媒層からなる電極(燃料極(アノード触媒層)及び空気極(カソード触媒層))を接合してなる膜電極接合体(「燃料極-固体高分子電解質膜-空気極」)(以下、「MEA」ともいう)が使用される。また、MEAの両面には、さらにガス拡散層が接合されることもあり、これは、膜電極ガス拡散層接合体(「ガス拡散層-MEA-ガス拡散層」)(以下、「MEGA」ともいう)と呼ばれる。
【0004】
各電極は、触媒層から形成され、触媒層は、触媒層中に含まれる電極触媒によって電極反応をおこなわせるための層である。電極反応を進行させるためには、電解質、電極触媒及び反応ガスの三相が共存する三相界面が必要であることから、触媒層は、一般に、電極触媒と、電解質とを含む層からなっている。また、ガス拡散層は、触媒層への反応ガスの供給及び電子の授受をおこなうための層であり、多孔質かつ電子伝導性を有する材料が用いられる。
【0005】
このような固体高分子型燃料電池に用いる電極触媒として、例えば、特許文献1には、(i)一次金属又は一次金属を含む合金若しくは混合物と、(ii)一次金属又は一次金属を含む合金若しくは混合物用の導電性カーボン担体材料とを含む触媒において、カーボン担体材料が、(a)100~600m/gの比表面積(BET)を有し、(b)10~90m/gの微細孔面積を有することを特徴とする触媒が開示されている。
【0006】
特許文献2には、ポアを有する導電性担体と、前記導電性担体のポアに白金合金が担持される触媒と、を含み、前記触媒は、ポア直径と容積との関係をプロットしたときに、ポア直径2~6nmの範囲におけるピーク値が1cm/gを超え、かつBET比表面積が1300m/gである、燃料電池用カソード電極が開示されている。当該燃料電池用カソード電極では、前記導電性担体は、ラマン分光法による、1340cm-1付近(Dバンド)及び1580cm-1付近(Gバンド)ピークの強度比R値(=D/G)が0.7よりも大きく、1.8よりも小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2014-534052号公報
【特許文献2】国際公開第2013/129417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
長距離運転が想定される商用車向けの燃料電池車両(FCEV)を実現するために、高耐久性を有する電極触媒が求められている。同時に、積載可能範囲の観点からスタックの小型化、さらに高性能化(高活性化)も同時に求められている。しかしながら、性能と耐久性とは背反の関係であり、両立することは困難であった。
【0009】
したがって、本発明は、高活性及び高耐久を同時に有する燃料電池用電極触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
電極触媒の耐久性及び性能には、カーボン担体の比表面積が相関している。耐久性向上のためには、カーボン担体の比表面積を低減することが必要であり、一方で、性能向上のためには比表面積を増加させることが必要である。つまり、それぞれがトレードオフの関係になっているため、高性能かつ高耐久を両立することが困難である。したがって、従来では、耐久性に影響するカーボン担体の比表面積を抑制しつつ、性能を維持する物性範囲が提示されてきた。
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、燃料電池用電極触媒における触媒金属粒子を担持させる担体粒子として、高い微細孔面積と高い比表面積とを有するカーボン担体を高温黒鉛化処理したものを使用することによって、得られた燃料電池用電極触媒が高活性及び高耐久を同時に有することを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)カーボン担体と、該カーボン担体に担持されている白金(Pt)又はPt合金からなる触媒金属粒子とを含む燃料電池用電極触媒であって、
前記カーボン担体では、
(i)BET比表面積が600m/g~740m/gであり、
(ii)微細孔面積が15m/g~40m/gであり、かつ
(iii)ラマン分光分析における1340cm-1付近(Dバンド)及び1580cm-1付近(Gバンド)ピークの強度比R値(=D/G)が1.8以下である、
燃料電池用電極触媒。
(2)アノード触媒層と、カソード触媒層と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された固体高分子電解質膜とを有する膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池であって、
前記アノード触媒層及び/又はカソード触媒層の電極触媒が、(1)に記載の燃料電池用電極触媒である
固体高分子型燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高活性及び高耐久を同時に有する燃料電池用電極触媒が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】比較例及び実施例において使用したカーボン担体の比表面積(SSA)と微細孔面積の関係を示すグラフである。
図2】比較例1、6及び10並びに実施例1の単セルにおける、電流密度とセル電圧の関係を示すグラフである。
図3】比較例1、4、6及び9~12並びに実施例1の単セルにおける、電流密度とセル電圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本発明の燃料電池用電極触媒及びそれを備える固体高分子型燃料電池は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者がおこない得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0016】
本発明は、カーボン担体と、該カーボン担体に担持されているPt又はPt合金からなる触媒金属粒子とを含む燃料電池用電極触媒であって、前記カーボン担体のBET比表面積、微細孔面積、及びラマン分光分析における1340cm-1付近(Dバンド)及び1580cm-1付近(Gバンド)ピークの強度比R値(=D/G)が特定されている電極触媒に関する。
【0017】
ここで、触媒金属粒子は、白金及び/又は白金合金からなり、膜電極接合体の電極での反応
空気極(カソード触媒層):O+4H+4e→2H
水素極(アノード触媒層):2H→4H+4e
において触媒作用を示すものであれば限定されるものではなく、当該技術分野で公知のものを使用することができる。
【0018】
白金合金としては、限定されないが、例えば、白金とコバルト、ニッケル、鉄、マンガン、銅、チタン、タングステン、スズ、ガリウム、ジルコニウム、クロム、ガドリニウム、テルビウム、イッテルビウム、ハフニウム、及びオスニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属を含む合金であってもよい。
【0019】
これらの中でも、白金、白金-コバルト合金、及び白金-ニッケル合金などであってもよく、特に白金-コバルト合金であってもよい。
【0020】
触媒金属粒子は、形状が粒子上である金属粒子であってもよい。触媒金属粒子の粒径は、限定されないが、通常1nm~10nmであってもよい。触媒金属粒子の粒径は、TEM、XRD、3D-TEMなどで測定することができる。
【0021】
触媒金属粒子としての白金合金は、例えば国際公開第2016/063968号に基づいて、調製することができる。
【0022】
例えば、触媒金属粒子の製造方法は、以下の通りである。触媒金属粒子の製造方法は、(1)カーボン担体に白金又は白金と白金以外の金属Mを担持する担持工程を含み、必要に応じて、(2)カーボン担体に担持された白金と白金以外の金属(例えばコバルトなど)とを合金化する合金化工程、及び(3)カーボン担体に担持された白金、又は白金合金を酸処理する酸処理工程などを含んでいてもよい。白金以外の金属Mとしては、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン、銅、チタン、タングステン、スズ、ガリウム、ジルコニウム、クロム、ガドリニウム、テルビウム、イッテルビウム、ハフニウム、及びオスニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上の金属などが挙げられる。(1)の担持工程では、カーボン担体に白金、又は白金と白金以外の金属Mを、例えば白金:M=3:1~7:1のモル比で担持させる。以下で説明する酸処理工程において白金以外の金属Mの一部が除去されるため、担持工程では、完成品の触媒における白金と白金以外の金属Mとの所定のモル比と比較して、白金以外の金属Mを多く担持する。このようなモル比を採用して製造された触媒を使用することによって、燃料電池の発電の初期性能及び燃料電池の耐久性能をさらに向上させることができる。(2)の合金化工程では、白金と白金以外の金属Mとを700℃~900℃、又は750℃~850℃で合金化する。このような合金化温度を採用して製造された触媒を使用することによって、燃料電池の発電の初期性能及び燃料電池の耐久性能をさらに向上させることができる。(3)の酸処理工程では、カーボン担体に担持された白金又は白金合金を、例えば70℃~90℃、又は75℃~85℃で酸処理する。このような混度で酸処理することによって、反応に寄与しない白金以外の金属Mを十分に除去することができる。これにより、白金以外の金属Mの溶出を抑制することができる。酸処理工程において使用する酸としては、例えば、無機酸(硝酸、リン酸、過マンガン酸、硫酸、及び塩酸など)、有機酸(酢酸、マロン酸、シュウ酸、ギ酸、クエン酸、及び乳酸など)を挙げることができる。
【0023】
触媒金属粒子の含有量は、限定されないが、燃料電池用電極触媒の全重量に対して、通常5重量%~70重量%、好ましくは10重量%~60重量%である。
【0024】
カーボン担体は、当該技術分野で公知のカーボン担体原料粒子を以下で詳細を説明する高温黒鉛化処理して製造することができ、限定されない。カーボン担体原料粒子としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、メソ多孔カーボン(例えば、特開2021-84852号を参照)又はこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
【0025】
カーボン担体のBET比表面積は、600m/g~740m/g、好ましくは650m/g~740m/gである。
【0026】
ここで、BET比表面積は、BET法により求められた比表面積であり、当業者に公知である。BET比表面積の単位は、カーボン担体1g当たりの面積(m/g)である。
【0027】
カーボン担体が高いBET比表面積を有することにより、燃料電池の性能を向上することができる。
【0028】
カーボン担体の微細孔面積は、15m/g~40m/g、好ましくは25m/g~40m/g、より好ましくは30m/g~40m/gである。
【0029】
ここで、微細孔面積は、微細孔に関連した表面積をさす。微細孔は、2nm未満の内部幅の細孔として定義される。微細孔面積は、BET法などにおける窒素吸着等温線から生成されるt-プロットの使用により決定される。t-プロットは、標準多層厚tの関数としてプロットされる吸着されたガスの体積を有し、t値は、厚さの式、この場合Harkins-Juraの式において、吸着等温線からの圧力値を使用して計算される。0.35nmから0.5nmの間の厚さ値におけるt-プロットの直線部分の傾きを使用して、外部表面積、すなわち、微細孔を除く全ての細孔に関連した表面積が計算される。次いで、BET表面積から外部表面積を差し引くことにより、微細孔面積が計算される。微細孔面積の単位は、カーボン担体1g当たりの面積(m/g)である。
【0030】
カーボン担体の微細孔面積を低く抑えることにより、下記で説明するラマン分光分析における低いR値による高結晶化と合わせて、カーボン担体の耐久性を確保することができる。
【0031】
カーボン担体粒子のラマン分光分析における1340cm-1付近(Dバンド)及び1580cm-1付近(Gバンド)ピークの強度比R値(=D/G)(本明細書等では、単に「R値」ともいう)は、1.8以下、好ましくは、0.8~1.8である。
【0032】
ここで、ラマン分光分析におけるR値は、励起光として波長532nmのレーザー光を用いたラマン分光測定において、試料に照射するビーム径を1μm直径の円形とし、同じ試料に対する任意の50測定点について、1352cm-1付近のDバンドと、1580cm-1付近のGバンドと、1620cm-1付近のD’バンドとをそれぞれフォークト関数で分離し、DバンドとGバンドのピーク強度を解析し、計算することで求めることができる。
【0033】
カーボン担体のラマン分光分析におけるR値を低くすることにより、高結晶化が実現され、カーボン担体の耐久性を確保することができる。
【0034】
したがって、本発明の燃料電池用電極触媒において、触媒金属粒子を、前記範囲のBET比表面積、微細孔面積、及びラマン分光分析におけるR値を有するカーボン担体に担持させることによって、高比表面積により燃料電池反応場が確保され、性能が向上すると共に、抑制された微細孔面積及び高結晶化によりカーボン担体の劣化のもととなるカーボンの腐食耐性が向上し、耐久性もまた向上する。
【0035】
カーボン担体は、カーボン担体原料粒子を以下に記載する高温黒鉛化処理により、前記で説明した通りのBET比表面積、微細孔面積、及びR値になるよう調節することで調製することができる。
【0036】
高温黒鉛化処理とは、カーボン担体原料粒子を1500℃より高い温度で熱処理することを指す。熱処理温度が低すぎると、黒鉛化が不十分となるため、熱処理温度は、1500℃超が好ましい。さらに、熱処理温度は、好ましくは1700℃以上であり、さらに好ましくは1800℃以上である。一方、熱処理温度を必要以上に高くしても、効果に差がなく、実益がない。したがって、熱処理温度は、好ましくは2300℃以下であり、より好ましくは2200℃以下である。
【0037】
本発明の燃料電池用電極触媒は、燃料電池におけるカソード触媒層用及び/又はアノード触媒層用の電極触媒として使用することができる。本発明の燃料電池用電極触媒は、燃料電池におけるカソード触媒層用の電極触媒として使用することが好ましい。本発明の燃料電池用電極触媒をカソード触媒層用の電極触媒として使用することにより、貴金属、特に白金及び/又は白金合金が溶出する可能性のあるカソード触媒層における貴金属の溶出を抑制し、燃料電池の耐久性を向上することができる。
【0038】
本発明の燃料電池用電極触媒は、カーボン担体として、前記の通りのBET比表面積、微細孔面積、及びラマン分光分析におけるR値を有するカーボン担体を使用すること以外は、公知の方法により製造することができる。
【0039】
本発明の燃料電池用電極触媒は、例えば、以下のように調製することができる。
(1)特定のBET比表面積、微細孔面積、及びラマン分光分析におけるR値を有するカーボン担体粒子と、白金前駆体、例えばジニトロジアミン白金硝酸溶液とを、溶剤、例えば純水中に懸濁させて、懸濁液を得る。
(2)(1)で得られた懸濁液における白金前駆体を、通常室温(約20℃)~100℃で、還元剤、例えばエタノールや水素化ホウ素ナトリウムなどにより、貴金属に還元して、分散液を得る。
(3)(2)で得られた分散液をろ過し、得られたケーキを通常80℃~120℃で、通常1時間~12時間乾燥させて、粉末を得る。
(4)(3)で得られた粉末を、不活性雰囲気下、例えば窒素又はアルゴン雰囲気下、通常100℃~1200℃で、通常1時間~8時間焼成して、触媒金属粒子担持粒子を得る。
(4)の焼成は燃料電池用電極触媒の高温での使用における耐久性向上のために実施される。当該焼成は担体粒子の細孔径、細孔容量が変化しない範囲内で実施される。
また、(4)で得られた触媒金属粒子担持粒子に、(2)で添加された金属などの不純物が含まれる場合、(4)で得られた触媒金属粒子担持粒子を酸や塩基などを含む溶液中に添加し、当該不純物を溶解除去することができる。
さらに、燃料電池用電極触媒中の貴金属を白金合金にする場合、前記の通り、触媒金属粒子担持粒子に、合金に含まれる金属、例えばコバルトをイオン形態で含む溶液を添加し、焼成(合金化)することで白金を白金コバルトに合金化させ、最後に酸処理を実施する。
【0040】
本発明は、本発明の燃料電池用電極触媒を備える燃料電池、すなわち、アノード触媒層と、カソード触媒層と、前記アノード触媒層と前記カソード触媒層との間に配置された固体高分子電解質膜とを有する膜電極接合体を備える固体高分子型燃料電池であって、前記アノード触媒層及び/又はカソード触媒層の電極触媒が、本発明の燃料電池用電極触媒である固体高分子型燃料電池にも関する。
【0041】
ここで、固体高分子電解質膜は、プロトン伝導性を有する電解質膜が好ましい。プロトン伝導性を有する電解質膜としては、当該技術分野で公知のプロトン伝導性を有する電解質膜を使用することができ、限定されないが、例えば、電解質であるスルホン酸基を有するフッ素樹脂(ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(AGC社製)、及びアシプレックス(旭化成社製)など)から形成される膜などを使用することができる。
【0042】
固体高分子電解質膜の厚さは、限定されないが、プロトン伝導性の機能を向上させるために、通常5μm~50μmである。
【0043】
アノード触媒層は、燃料極、すなわち水素極になるものであり、カソード触媒層は、空気極(酸素極)になるものであり、各触媒層は、電極触媒及び電解質を含む。
【0044】
アノード触媒層及び/又はカソード触媒層は、電極触媒として、本発明の燃料電池用電極触媒を含み、本発明の燃料電池用電極触媒は、前記に記載したとおりである。
【0045】
アノード触媒層又はカソード触媒層が、電極触媒として、本発明の燃料電池用電極触媒を含まない場合、電極触媒としては、当該技術分野で公知の電極触媒を使用することができる。
【0046】
本発明の固体高分子型燃料電池において、カソード触媒層は、本発明の燃料電池用電極触媒を含むことが好ましい。カソード触媒層が、本発明の燃料電池用電極触媒を含むことにより、貴金属、特に白金及び/又は白金合金が溶出する可能性のあるカソード触媒層における貴金属の溶出を抑制し、燃料電池の耐久性を向上することができる。
【0047】
各触媒層における電極触媒の含有量は、限定されないが、触媒層の全重量に対して、通常5重量%~70重量%である。
【0048】
電解質としては、限定されないが、アイオノマーが好ましい。アイオノマーは、陽イオン交換樹脂とも称され、アイオノマー分子から形成されるクラスターとして存在する。アイオノマーとしては、当該技術分野で公知のアイオノマーを使用することができ、限定されないが、例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂材料などのフッ素樹脂系電解質、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどのスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質、又はそれらの2種以上の混合物などを使用することができる。
【0049】
各触媒層の厚さは、限定されないが、発電に必要な触媒の量を確保し、かつプロトン抵抗を低く保つために、通常1μm~20μmである。
【0050】
本発明の固体高分子型燃料電池は、当該技術分野で公知の方法により製造することができる。
【0051】
本発明の固体高分子型燃料電池は、例えば、以下のように調製することができる。
(1)本発明の燃料電池用電極触媒と、電解質、例えば固体高分子電解質膜と同一成分を有する電解質とを、溶剤、例えば純水中に懸濁させて、触媒インクを調製する。この際、均一な触媒インクを得るために、超音波分散などを利用してもよい。
(2)(1)で得られた触媒インクを、剥離可能な基材、例えばテフロン(登録商標)シート等の上に散布・付着させて、触媒層前駆体を形成する。散布・付着には、例えば重力、噴霧力、又は静電力を利用する方法がある。
(3)基材上の触媒層前駆体を乾燥させて、基材上に触媒層を調製し、基材から触媒層を剥離することにより触媒層を得る。
ここで、(2)~(3)では、触媒インクを基材上に散布・付着させ、その後、乾燥・剥離することにより触媒層を得ているが、触媒インクを固体高分子電解質膜の表面上に直接散布・付着させ、その後乾燥させることにより触媒層を調製することもできる。
(4)(3)で得られた触媒層を空気極として使用し、燃料極としては、例えば(3)で得られた触媒層又は(1)の本発明の燃料電池用電極触媒の代わりに市販のPt/C触媒を用いて調製した触媒層を使用する。固体高分子電解質膜を中心に、一方の面に空気極を配置し、もう片方の面に燃料極を配置して、層集合体を得る。場合により、空気極及び燃料極それぞれの外側に拡散層、例えば導電性多孔質シート、例えばカーボンクロス、カーボンペーパーなどの通気性、あるいは通液性を有する材料から形成されたシートを配置してもよい。
(5)(4)により得られた(拡散層-)空気極-固体高分子電解質膜-燃料極(-拡散層)のように配置された層集合体を、ホットプレスにより、通常100℃~200℃、例えば140℃で、通常5秒間~600秒間、例えば300秒間圧着させて、膜電極接合体又はMEGAを得る。
(6)(5)により得られた膜電極接合体又はMEGAの両面に、ガスを流通させるセパレータを配置させて、単セルを得る。当該単セルを複数積層することで固体高分子型燃料電池を得る。
【0052】
本発明の固体高分子型燃料電池は、本発明の燃料電池用電極触媒に由来する高活性及び高耐久を同時に有する。
【実施例0053】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0054】
1.試料調製
以下の表に示す特性を有するカーボン担体を使用して、電極触媒を調製した。なお、カーボン担体は、以下の通り調製した。
【0055】
カーボン担体は、鋳型となるメソ多孔シリカを準備する第1工程と、前記メソ多孔シリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、メソ多孔シリカ/カーボン複合体を作製する第2工程と、前記複合体からメソ多孔シリカを除去する第3工程とを含む方法により調製した。なお、カーボン担体の製造方法には、前記第3工程の後に、得られたカーボンを1500℃より高い温度で熱処理する第4工程をさらに含めた。
【0056】
第1工程では、まず、鋳型となるメソ多孔シリカを作製した。メソ多孔シリカ及びその製造方法の詳細については、特開2021-84852号に記載の通りである。
【0057】
次に、第2工程では、メソ多孔シリカのメソ細孔内にカーボンを析出させ、メソ多孔シリカ/カーボン複合体を作製した。メソ細孔内へのカーボンの析出は、具体的には、(a)メソ細孔内にカーボン前駆体を導入し、(b)メソ細孔内において、カーボン前駆体を重合及び炭化させることにより行った。
【0058】
ここで、カーボン前駆体とは、熱分解によって炭素を生成可能なものをいう。このようなカーボン前駆体として、具体的には、(1)常温で液体であり、かつ、熱重合性のポリマー前駆体(例えば、フルフリルアルコール、アニリンなど)、(2)炭水化物の水溶液と酸の混合物(例えば、スクロース(ショ糖)、キシロース(木糖)、グルコース(ブドウ糖)などの単糖類、あるいは、二糖類、多糖類と、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などの酸との混合物)、(3)2液硬化型のポリマー前駆体の混合物(例えば、フェノールとホルマリン等)、などを使用した。なお、これらの中でも、ポリマー前駆体は、溶媒で希釈することなくメソ孔内に含浸させることができるので、相対的に少数回の含浸回数で、相対的に多量の炭素をメソ孔内に生成させることができた。また、重合開始剤が不要であり、取り扱いも容易であるという利点があった。
【0059】
液体又は溶液のカーボン前駆体を用いる場合、1回当たりの液体又は溶液の吸着量は、多いほど良く、メソ孔全体が液体又は溶液で満たされる量とした。また、カーボン前駆体として炭水化物の水溶液と酸の混合物を用いる場合、酸の量は、有機物を重合させることが可能な最小量とした。さらに、カーボン前駆体として、2液硬化型のポリマー前駆体の混合物を用いる場合、その比率は、ポリマー前駆体の種類に応じて、最適な比率を選択した。
【0060】
次に、重合させたカーボン前駆体をメソ孔内において炭化させた。カーボン前駆体の炭化は、非酸化雰囲気中(例えば、不活性雰囲気中、真空中など)において、カーボン前駆体を含むメソ多孔シリカを所定温度に加熱することにより行った。加熱温度は、具体的には、500℃以上1200℃以下とした。加熱温度が500℃未満であると、カーボン前駆体の炭化が不十分となる。一方、加熱温度が1200℃を超えると、シリカと炭素が反応するので好ましくない。加熱時間は、加熱温度に応じて、最適な時間を選択した。
【0061】
なお、メソ孔内に生成させる炭素量は、メソ多孔シリカを除去した時に、カーボン粒子が形状を維持できる量以上とした。したがって、1回の充填、重合及び炭化で生成する炭素量が相対的に少ない場合には、これらの工程を複数回繰り返した。この場合、繰り返される各工程の条件は、それぞれ、同一又は異なるものとした。また、充填、重合及び炭化の各工程を複数回繰り返す場合、各炭化工程は、相対的に低温で炭化処理を行い、最後の炭化処理が終了した後、さらにこれより高い温度で、再度、炭化処理を行った。最後の炭化処理を、それ以前の炭化処理より高い温度で行うと、複数回に分けて細孔内に導入されたカーボンが一体化しやすくなった。
【0062】
次に、第3工程として、複合体から鋳型であるメソ多孔シリカを除去した。これにより、カーボンが得られた。メソ多孔シリカの除去方法としては、具体的には、(1)複合体を水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液中で加熱する方法、(2)複合体をフッ化水素酸水溶液でエッチングする方法、などで行った。
【0063】
次に、第4工程として、得られたカーボンを1500℃より高い温度で熱処理した。メソ多孔シリカのメソ細孔内において炭素源を炭化させる場合において、シリカと炭素の反応を抑制するためには、熱処理温度を低くせざるを得ない。そのため、炭化処理後のカーボンの黒鉛化度は低い。高い黒鉛化度を得るためには、鋳型を除去した後、メソ多孔カーボンを高温で熱処理するのが好ましい。熱処理温度が低すぎると、黒鉛化が不十分となる。したがって、熱処理温度は、1500℃超とした。一方で、熱処理温度を必要以上に高くしても、効果に差がなく、実益がなかったため、熱処理温度は、2300℃以下とした。
【0064】
【表1】
【0065】
図1に、比較例及び実施例において使用したカーボン担体の比表面積(SSA)と微細孔面積の関係を示す。
【0066】
図1より、比較例において使用したカーボン担体では、比表面積及び微細孔面積は、比例していた。一方で、実施例において使用したカーボン担体の比表面積及び微細孔面積は、当該比較例におけるカーボン担体の比表面積及び微細孔面積の比例直線上にのらなかった。これは、比較例におけるカーボン担体と、実施例におけるカーボン担体とでは、粒子表面上に存在する微細孔分布が異なることを示していると考えられる。
【0067】
なお、カーボン担体への触媒金属粒子の担持は、以下の通り実施した。
まず、表1の物性を有するカーボン担体を純水に分散させた。続いて、カーボン担体分散液に、白金前駆体としてのジニトロジアミン白金硝酸溶液(白金:1.0g)を滴下し、カーボン担体と十分に馴染ませた。白金前駆体とカーボン担体を十分に馴染ませたら、還元剤としてのエタノール(3.2g)を添加し、還元担持を行った。次に、還元担持を行った分散液を、濾過洗浄し、得られた粉末を乾燥させ、白金担持触媒を得た。続いて、得られた白金担持触媒の表面上の酸素量を4重量%以下まで低減させ、完成品の電極触媒におけるPtとCoとの好ましいモル比と比較して、Coが多くなるように、Pt:Co=7:1のモル比になるように、コバルトを担持させた。コバルトは、コバルトをイオン形態で含む溶液を添加することで担持させた。次に、得られた粉末を、アルゴン雰囲気下で、800℃で合金化処理した。最後に、得られたカーボン担体に担持されたPtCo合金を、通常70℃~90℃で、硝酸で処理し、反応に寄与しないCoを十分に除去した。
【0068】
2.MEA評価
比較例及び実施例の白金コバルト合金担持カーボン電極触媒について、以下の方法でMEA評価を実施した。
【0069】
(電流密度とセル電圧の関係)
まず、実施例及び比較例で製造した電極触媒を有機分溶媒に分散させ、分散液をテフロン(登録商標)シートへ塗布して電極を形成した。続いて、電極を、それぞれ高分子電解質膜を介してホットプレスによって貼り合わせ、その両側に拡散層を配置して固体高分子形燃料電池用の単セルを作製した。
【0070】
セル温度を60℃、両電極の相対湿度を80%とし、スモール単セル評価装置システム(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、IV測定を行った。
【0071】
IV測定については、0.01A/cm~4.0A/cmの範囲で任意に電流を制御した。0.2A/cm時の電圧値を活性と定義した。
(耐久(腐食)試験)
耐久試験は、セル温度80℃、バブラー温度80℃(100%RH)の条件下、1.2Vで電位保持することで実施した。
【0072】
表2に腐食試験の結果を示し、図2及び3に、電流密度とセル電圧の関係を示す。
【表2】
表2中、腐食試験において、絶対腐食及び比腐食率は、以下の通り算出した。
【0073】
(絶対腐食)
選択された触媒又はカーボンの電極を、1M HSO液体電解液中において、80℃で1.2V(vs.可逆水素電極(RHE))に保持し、腐食電流を24時間にわたり監視した。カーボンをCOガスに変換する4電子プロセスを仮定して実験の間通過した電荷を積分し、除去されたカーボンを計算するために使用した。試験の最初の1分は、この期間中に通過した電荷が電気化学二重層の充電に起因し、したがって腐食プロセスによるものではないため、含まれないものとした。24時間試験の間に失われたカーボンの質量を、電極の最初のカーボン含量のパーセンテージとして表現した。
(比腐食率)
比腐食率は、腐食したカーボンの量を、表面カーボン原子の数のパーセンテージとして表現することにより決定した。3.79×1019原子m-2のカーボン、及び4電子プロセスを仮定して、カーボンの1つの単分子層を除去するために必要な最大電荷を決定した。カーボン腐食に関連した実験的に決定された電荷を、単分子層のパーセンテージとして表現し、比腐食率を得た。
【0074】
表2並びに図2及び3から以下のことがわかった。
比較例では、比較例1は、耐久性が高いが、性能が低く、比較例8及び9は、性能が高いが耐久性が低く、比較例10~13は、性能が最も高いが耐久性が著しく低いという結果になり、性能と耐久性の両立が難しいことがわかった。一方で、実施例では、実施例1及び2は、比較例10~13に匹敵する高い性能を示しつつ、高い耐久性を示すことがわかった。したがって、白金又は白金合金を担持させるための高比表面積及び高微細孔面積を有するカーボン担体を高温黒鉛化処理することにより、当該カーボン担体の比表面積を600m/g~740m/gに調整し、微細孔面積を15m/g~40m/gに調整し、さらに、ラマン分光分析におけるR値(結晶性)を1.8以下に調整することによって、高い性能を示しつつ高い耐久性を発現する電極触媒及びそれを備える燃料電池を製造できることがわかった。
図1
図2
図3