IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 明成化学工業株式会社の特許一覧

特開2024-127514処理剤及びそれに用いる樹脂粒子の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127514
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】処理剤及びそれに用いる樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20240912BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20240912BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20240912BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20240912BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20240912BHJP
   D06M 15/227 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
D06P5/00 104
D06M15/507
D06M13/395
D06M13/17
D06M15/53
D06M15/227
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036712
(22)【出願日】2023-03-09
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】591018051
【氏名又は名称】明成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】前田 博光
【テーマコード(参考)】
4H157
4L033
【Fターム(参考)】
4H157AA01
4H157CB09
4H157CC01
4H157DA28
4L033AA02
4L033AB04
4L033AC15
4L033BA14
4L033BA69
4L033CA12
4L033CA45
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いる処理剤であって、捺染記録後の画像が鮮明で、洗濯耐久性及び摩擦堅牢度に優れる捺染用被記録材料が得られ、保管時の経時安定性に優れる処理剤を提供する。
【解決手段】天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いる処理剤であって、水を主体とする媒体中に、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子と架橋剤を含有する処理剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いる処理剤であって、水を主体とする媒体中に、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子と架橋剤を含有する処理剤。
【請求項2】
カルボキシ基を有するポリエチレンの酸価が5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である請求項1に記載の処理剤。
【請求項3】
架橋剤がブロックイソシアネート系架橋剤またはオキサゾリン系架橋剤である、請求項1または2に記載の処理剤。
【請求項4】
請求項1に記載される処理剤が含有する樹脂粒子の製造方法であって、水を主体とする媒体中で、界面活性剤の存在下でカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを乳化する工程を有する樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
乳化時の温度が、カルボキシ基を有するポリエチレンの融点及びポリエステルの融点よりも高い温度である、請求項4に記載の樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの質量比が10:90~90:10の範囲にある、請求項4または5に記載の樹脂粒子の製造方法。
【請求項7】
界面活性剤が、HLB値が下記の範囲内のノニオン性界面活性剤である、請求項4または5に記載の樹脂粒子の製造方法。
HLB値の範囲: {11+4×(x÷100)}±1
(xは、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの合計量に対するカルボキシ基を有するポリエチレンの量の割合(質量%)である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いる処理剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛などの繊維製品に文字や図柄などを印刷する方法として、繊維製品に直接に印刷を行うダイレクト捺染や、繊維製品とは別の転写媒体を用い、転写媒体から文字や図柄などを転写することにより印刷を行う昇華転写捺染が知られている。これらの捺染方法においては、スクリーン捺染、ローラー捺染、ロータリー捺染、インクジェット捺染などが用いられ、特に昇華転写捺染においては、インクジェットプリンターを用いて転写媒体上に文字や図柄が形成されることが多い。
【0003】
このような昇華転写捺染に使用可能な色材染料は限られており、しかもその染料は、ポリエステル繊維との結合は強いものの、例えば綿のような天然繊維との結合は弱いことから、昇華転写捺染により天然繊維を含む繊維製品に図柄等を印刷しても、印刷画像の鮮明性や堅牢度に劣るという問題があった。
【0004】
しかし、近年、ダイレクト捺染や昇華転写捺染によって天然繊維を含む繊維製品に鮮明性や堅牢度に優れる図柄等を印刷可能にすべく、種々の試みがなされている(特許文献1~8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-235288号公報
【特許文献2】特開2003-268682号公報
【特許文献3】特開2015-157358号公報
【特許文献4】国際公開第2016/027835号
【特許文献5】特表2018-505970号公報
【特許文献6】特開2019-90149号公報
【特許文献7】特開2019-90150号公報
【特許文献8】特表2020-524757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2には、ポリエステル樹脂を有機溶剤に溶解させた処理剤で天然繊維を含む繊維製品に前処理を行うことにより、昇華転写捺染によって天然繊維を含む繊維製品に鮮明性や堅牢度に優れる図柄等を印刷可能とすることが開示されている。しかしながら、これらに記載される方法では、前処理時に有機溶剤の揮発が起こることから、作業環境の悪化による作業員への健康被害が発生する虞があった。
【0007】
特許文献3~8には、ポリエステル樹脂を水系の媒体に分散させた処理剤で天然繊維を含む繊維製品に前処理を行うことにより、ダイレクト捺染や昇華転写捺染によって天然繊維を含む繊維製品に鮮明性や堅牢度に優れる図柄等を印刷可能とすることが開示されている。これらに記載される方法では、前処理時の作業環境の悪化の可能性は低いものの、繊維製品の使用条件によっては、印刷画像の鮮明性や堅牢度は満足できないことがあり、更には、処理剤保管時の経時により処理剤中でポリエステル樹脂の分散粒子が沈降・凝集してしまい、前処理時の処理剤の使用に支障をきたすという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いる処理剤であって、捺染記録後の画像が鮮明で、洗濯耐久性及び摩擦堅牢度に優れる捺染用被記録材料が得られ、保管時の経時安定性に優れる処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いる処理剤であって、水を主体とする媒体中に、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子と架橋剤を含有する処理剤により基本的に解決される。
【0010】
ここで、カルボキシ基を有するポリエチレンの酸価が5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることが好ましい。また、架橋剤がブロックイソシアネート系架橋剤またはオキサゾリン系架橋剤であることが好ましい。
【0011】
また、上記課題は、本発明の処理剤が含有する樹脂粒子の製造方法であって、水を主体とする媒体中で、界面活性剤の存在下でカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを乳化する工程を有する樹脂粒子の製造方法によっても基本的に解決される。
【0012】
ここで、乳化時の温度が、カルボキシ基を有するポリエチレンの融点及びポリエステルの融点よりも高い温度であることが好ましい。また、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの質量比が10:90~90:10の範囲であることが好ましい。更には、界面活性剤が、HLB値が下記の範囲内のノニオン性界面活性剤であることが好ましい。
HLB値の範囲: {11+4×(x÷100)}±1
xは、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの合計量に対するカルボキシ基を有するポリエチレンの量の割合(質量%)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いる処理剤であって、捺染記録後の画像が鮮明で、洗濯耐久性及び摩擦堅牢度に優れる捺染用被記録材料が得られ、保管時の経時安定性に優れる処理剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の処理剤は、天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いるものである。
本発明の処理剤は、水を主体とする媒体中に、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子と架橋剤を含有する。
【0015】
水を主体とする媒体とは、水を50質量%以上含有する液状媒体のことであり、使用する水としては、不純物を除いて精製した水を使用することが好ましい。水を主体とする媒体は、水に加えて他の液状媒体を含有していてもよい。水以外の液状媒体としては、モノアルコール、多価アルコール、グリコールエーテル、グリコールエステル等の水溶性有機溶媒が挙げられ、揮発蒸気による作業環境の悪化が起こり難いものから必要に応じて選ぶことができる。水以外の液状媒体は、1種であってもよく、2種以上の組合わせであってもよい。
【0016】
カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子とは、粒子形状の樹脂組成物のことであり、その組成成分としてカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する。本発明の処理剤が含有する上記樹脂粒子は、個々の粒子がカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを共に含んでいるものであり、処理剤にカルボキシ基を有するポリエチレンからなる粒子とポリエステルからなる粒子を、単に混合して添加したものではない。カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルは、それぞれ1種であってもよく、2種以上の組合せであってもよい。
【0017】
カルボキシ基を有するポリエチレンとしては、ポリエチレンを空気酸化または熱分解してカルボキシ基を導入したもの、エチレンと(メタ)アクリル酸等のビニル系カルボン酸とを共重合したもの、ポリエチレンをマレイン酸でグラフト化したもの等を挙げることができる。
【0018】
カルボキシ基を有するポリエチレンの分子量は、1000~5000の範囲にあることが好ましい。また、融点は90~135℃の範囲にあることが好ましく、95~110℃の範囲にあることがより好ましい。融点がこのような範囲にあると、後述する樹脂粒子の製造方法において、乳化性に優れるため好ましい。分子量は、粘度法で測定することができる。融点は、DSC法で測定することができる。
【0019】
また、カルボキシ基を有するポリエチレンは、酸価が5~100mgKOH/gの範囲にあることが好ましく、10~70mgKOH/gの範囲にあることがより好ましい。酸価とは、適当な溶媒に溶解したカルボキシ基を有するポリエチレンを水酸化カリウム等のアルカリで滴定して得られる数値であり、カルボキシ基の含有量を示す指標となる値である。酸価がこのような範囲にあると、後述する樹脂粒子の製造方法において、乳化性に優れるため好ましい。酸価は、JIS K0070:1992に規定の方法で測定することができる。
【0020】
ポリエステルの組成としては、例えば多価カルボン酸類と多価アルコール類とを縮重合した樹脂が挙げられる。多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸類、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、アルケニル無水コハク酸、アジピン酸などの脂肪族カルボン酸類、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式カルボン酸類が挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリンなどの脂肪族のジオールやポリオール類、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールAなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの芳香族ジオール類が挙げられる。多価カルボン酸類及び多価アルコール類は、それぞれ1種であってもよく、2種以上の組合せであってもよい。
【0021】
一般的に昇華転写捺染においては、200℃程度の加熱温度で色材染料の昇華転写が行われる。この加熱時に捺染用被記録材料の表面に存在するポリエステルが溶融状態になることにより、色材染料がポリエステルに取り込まれて堅牢度に優れる印刷画像が得られることから、本発明の処理剤が含有する樹脂粒子に含まれるポリエステルの融点の上限値は200℃前後であることが好ましく、下限値としては、得られる捺染用被記録材料の表面が常温で粘着性を帯びない程度の値が選択される。
【0022】
カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子の粒子形状としては、特に限定されず、例えば、真球状、柱状、針状あるいは不定形等が挙げられる。処理剤中の固形分(水を主体とする媒体以外の不揮発性成分)100質量部に占めるカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子の量は、50~99質量部の範囲であることが好ましく、70~95質量部の範囲であることがより好ましい。樹脂粒子におけるカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの質量比は10:90~90:10の範囲であることが好ましく、12:88~50:50の範囲であることがより好ましい。
【0023】
通常、カルボキシ基を有するポリエチレンやポリエステルは粉体またはワックス状などの固体である。このような樹脂の粒子が処理剤中で沈降や凝集を起こし難く、保管時の経時安定性に優れる処理剤とするためには、水を主体とする媒体中で安定した懸濁状態を保つように、これらの樹脂成分を乳化した状態にすることが好ましい。本発明の処理剤は、上記樹脂粒子及び架橋剤が、水を主体とする媒体中に乳化されている乳化物であることが好ましい。そこで、本発明の処理剤が含有するカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子の製造方法として、水を主体とする媒体中で、界面活性剤の存在下でカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを乳化する工程を有する方法が好ましい。上記の乳化の工程を行うことによって、水を主体とする媒体中にカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子を含有する水系乳化物が得られる。このようにして得られた樹脂粒子は、通常、個々の粒子がカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを共に含んでいる。そして、得られた樹脂粒子を含有する水系乳化物を用いて処理剤とした場合に、処理剤中で樹脂粒子が沈降や凝集を起こさず、保管時の経時安定性により優れる処理剤が得られる。本発明の処理剤が含有する上記樹脂粒子の製造方法であって、水を主体とする媒体中で、界面活性剤の存在下でカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを乳化する工程を有する樹脂粒子の製造方法も、本発明の一つである。水を主体とする媒体、ポリエステル及びカルボキシ基を有するポリエチレンに関しては、本発明の処理剤の形態に関して述べた通りである。
【0024】
本発明においては、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルとを溶融混合した後、乳化物とすることが好ましい。例えば、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルと適当な乳化剤を水に混合し、撹拌しながら加熱する方法や、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの混合物を適当な乳化剤と共に加熱溶融し、それを水へ滴下して撹拌しながら加熱する方法、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの混合物を適当な乳化剤と共に加熱溶融し、そこへ温水を滴下して撹拌して乳化する、いわゆる転相乳化法などを用いることができる。このように本発明においては、乳化時の温度が、カルボキシ基を有するポリエチレンの融点及びポリエステルの融点よりも高い温度であることが好ましい。
【0025】
乳化に際しては、樹脂の酸価により適量の中和剤を使用し、アニオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤を乳化剤として使用し、超音波乳化分散機、ホモミキサー、ホモジナイザー等の撹拌機を用いて乳化することができる。あるいは、中和剤を使用せず、カチオン性界面活性剤を乳化剤として使用し乳化を行うこともできる。
【0026】
この樹脂粒子の製造方法で原料として用いられるカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの性状としては、得られる樹脂粒子が水系乳化物の状態となるものであれば、粉体または固体状であってもよく、既に水系乳化物の状態であるものでもよい。既に水系乳化物の状態であるものとしては、界面活性剤を用いず水を主体とする媒体中に乳化した自己乳化型ポリエステルなどを用いることもできる。また、市販や公知のカルボキシ基を有するポリエチレンやポリエステルも好ましく用いることができ、カルボキシ基を有するポリエチレンとしては、三井化学株式会社製のハイワックス(登録商標)シリーズやエクセレックス(登録商標)シリーズが挙げられる。市販のポリエステルとしては、例えば、三菱ケミカル株式会社製のダイヤクロン(登録商標)シリーズが挙げられる。また、特開2015-157358号公報に記載されるポリエステル樹脂部分解重合体粉末も好ましく用いることができる。水を主体とする媒体に添加するカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの質量比(カルボキシ基を有するポリエチレン:ポリエステル)は、10:90~90:10の範囲であることが好ましく、より安定した水系乳化物が得られることから、12:88~50:50の範囲であることがより好ましい。乳化時の、水を主体とする媒体中のカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの合計の濃度は、1~50質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
この樹脂粒子の製造方法で乳化剤として用いられる界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸のアルカリ金属塩、高級アルコール硫酸エステルのアルカリ金属塩、高級アルキルエーテル硫酸エステルのアルカリ金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、α-オレフィンスルホン酸のアルカリ金属塩等のアニオン性界面活性剤;高級アミン、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;ノニオン性界面活性剤等が挙げられ、それらの中でもノニオン性界面活性剤が好ましく、HLB値が下記の範囲内のノニオン性界面活性剤であることがより好ましい。
HLB値の範囲: {11+4×(x÷100)}±1
xは、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの合計量に対するカルボキシ基を有するポリエチレンの量の割合(質量%)である。
【0028】
例えば、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの質量比が10:90の場合、xは10質量%であるため、ノニオン性界面活性剤のHLB値は、10.4~12.4の範囲にあることが好ましく、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの質量比が50:50の場合、xは50質量%であるため、ノニオン性界面活性剤のHLB値は、12.0~14.0の範囲にあることが好ましく、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの質量比が90:10の場合、xは90質量%であるため、ノニオン性界面活性剤のHLB値は、13.6~15.6の範囲にあることが好ましい。このようなHLB値を有するノニオン性界面活性剤には、その様なHLB値を有するノニオン性界面活性剤を単独で用いてもよいし、異なるHLB値を有する複数のノニオン性界面活性剤を混合して、それらの質量比によりHLB値を調整して用いてもよい。本発明において、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値は、グリフィン法で求められるHLB値である。
【0029】
ノニオン性界面活性剤の例としては、(ポリ)オキシエチレン基を有さないノニオン性界面活性剤と(ポリ)オキシエチレン基を有するノニオン性界面活性剤が挙げられる。(ポリ)オキシエチレン基を有さないノニオン性界面活性剤として、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセライド、ショ糖脂肪酸エステル、高級アルコールなどが挙げられ、(ポリ)オキシエチレン基を有するノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンアルキルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシブチレンアルケニルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシアルキレンアルケニルエーテル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、プルロニック型界面活性剤等が挙げられる。中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(アルキルは、好ましくは炭素数10~20のアルキル)が好ましい。カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの合計量100質量部に対する界面活性剤の量は、1~50質量部の範囲であることが好ましい。
【0030】
このようにして得られたカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子を含有する水系乳化物に、下記の架橋剤や、必要に応じて添加される添加剤、更に水を主体とする媒体を添加するなどして、本発明の処理剤を得ることができる。本発明の処理剤においては、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子が沈降や凝集を起こし難く、処理剤が保管時の経時安定性に優れる。架橋剤は反応性の化合物であることから、それを予め含む処理剤の粘度が変化する場合があるので、繊維基材に付着処理を行う少し前に、架橋剤を含有しない樹脂粒子の水系乳化物に架橋剤を添加し、固形分濃度を調整するなどして処理剤とすることもできる。この場合には、樹脂粒子の水系乳化物と架橋剤のそれぞれが保管時の経時安定性に優れることで、本発明の処理剤は保管時の経時安定性に優れるものとして長期間に亘って使用できるものになる。
【0031】
本発明の処理剤が含有する架橋剤としては、水を主体とする媒体に添加することから、アルデヒド系架橋剤、エポキシ系架橋剤、N-メチロールメラミン系架橋剤、ブロックイソシアネート系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤などが挙げられる。アルデヒド系架橋剤としては、グリオキザール、グルタールアルデヒドなどが挙げられる。N-メチロールメラミン系架橋剤としては、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどが挙げられる。ブロックイソシアネート系架橋剤は公知の方法により、2官能以上のイソシアネートと適当なブロック剤を反応させることで得られる。2官能以上のイソシアネートとしては、4,4’ビスイソシアナトフェニルメタン、トルエンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジイソシアネートの3量体やトリメチロールプロパンアダクト体などが挙げられる。
【0032】
イソシアネートのブロック剤としては、例えば、アルコール系化合物、アルキルフェノール系化合物、フェノール系化合物、活性メチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系化合物、酸イミド系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、ピリミジン系化合物、グアニジン系化合物、トリアゾール系化合物、カルバミン酸系化合物、尿素系化合物、オキシム系化合物、アミン系化合物、イミド系化合物、イミン系化合物、ピラゾール系化合物、重亜硫酸塩等などが挙げられる。通常、ブロックイソシアネート系架橋剤は公知の方法により、界面活性剤を用いて乳化・乳化分散されたものが使用される。また、予め全イソシアネート基の70~95%をブロック剤と反応させてブロックした後に、適当な分子量のポリアルキレングリコール、特にポリエチレングリコールを残イソシアネート基と反応させることで、ブロックイソシアネート系架橋剤は自己乳化性を示し、処理剤の経時安定性の向上に対し効果を示す。
【0033】
オキサゾリン系架橋剤はオキサゾリン基の反応性を利用する架橋剤であり、高分子鎖の側鎖にオキサゾリン基を有する化合物などが挙げられる。高分子鎖としては、アクリル系重合体やスチレン-アクリル系共重合体や、前記重合体又は共重合体に、更にポリアルキレンオキサイドの構造がグラフト重合された共重合体等が挙げられ、数平均分子量は5千~30万程度であることが好ましい。これらの架橋剤の中でも、ブロックイソシアネート系架橋剤またはオキサゾリン系架橋剤であることが好ましく、オキサゾリン系架橋剤であることがより好ましい。ブロックイソシアネート系架橋剤としては、TDI系ブロックイソシアネートまたはHDI系のブロックイソシアネートを好ましく用いることができる。オキサゾリン系架橋剤としては市販や公知のものを好ましく用いることができ、市販品としては株式会社日本触媒製のエポクロス(登録商標)シリーズが挙げられる。本発明の処理剤の固形分(水を主体とする媒体以外の不揮発性成分)100質量部に占める架橋剤の量は、特に制限されないが、1~20質量部であることが好ましい。
【0034】
また本発明の処理剤や、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子を含有する水系乳化物は、本発明の効果を生じる限りにおいて任意の添加剤を含んでもよい。添加剤としては例えば、界面活性剤、無機系滑脱防止剤、柔軟剤、SR剤、防しわ剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱剤等の繊維用薬剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、金属粉顔料、レオロジーコントロール剤、硬化促進剤、消臭剤、抗菌剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行う際に使用する本発明の処理剤の加工液に含まれる固形分(水を主体とする媒体以外の不揮発性成分)濃度としては、加工方法や目的とする固形分付着量に応じて適宜調整することができ、例えば0.1~50質量%程度が挙げられる。
【0035】
本発明の処理剤は、天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いる処理剤である。すなわち、本発明の処理剤により付着処理される基材は、天然繊維または再生繊維を含有する。天然繊維としては、綿、麻、竹、大麻、ジュート、亜麻、木材などのセルロース系繊維や、羊毛、絹、皮革などの動物由来の繊維が挙げられる。再生繊維としては、セルロース系繊維に化学的処理を行って繊維状としたレーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセルなどの繊維が挙げられる。本発明の処理剤により付着処理される基材は、少なくとも天然繊維または再生繊維を含有するものであって、天然繊維と再生繊維の両方を含むものであってもよいし、天然繊維または再生繊維がポリエステル、ナイロン、アクリル、スパンデックス等の合成繊維と混紡された繊維(例えば、T/C混紡繊維:ポリエステルと綿の混紡繊維)を含むものであってもよいが、繊維成分中に天然繊維または再生繊維を50質量%以上含有するものであることが好ましい。これらの中でも、基材が綿を含む場合において、より顕著に本発明の作用効果が奏される。基材の形態、形状に制限はなく、ステープル、フィラメント、トウ、糸等の様な原材料形状に限らず、織物、編み物、詰め綿、不織布、紙、シート、フィルム等の多様な加工形態のものも本発明の処理剤の処理可能な対象となる。
【0036】
本発明の処理剤を用いた基材への付着処理は、公知の方法で行うことができる。処理方法としては例えば、連続法又はバッチ法等が挙げられる。基材への付着処理には、本発明の処理剤を用いた加工液を使用することができる。本発明の処理剤をそのまま加工液として使用してもよく、または処理剤を水で希釈して加工液を調製することもできる。加工液を調製する際、水の他にも任意的に前述の各種の薬剤等を添加することも好ましい。連続法では、加工液で満たされた含浸装置に、基材を連続的に送り込み、基材に加工液を含浸させた後、不要な加工液を除去する。含浸装置としては特に限定されず、パッダ、キスロール式付与装置、グラビアコーター式付与装置、スプレー式付与装置、フォーム式付与装置、コーティング式付与装置等が好ましく採用でき、特にパッダ式が好ましい。続いて、乾燥機を用いて基材に残存する水を除去する操作を行う。乾燥機としては、特に限定されず、ホットフルー、テンター等の拡布乾燥機が好ましい。該連続法は、基材が織物等の布帛状の場合に採用するのが好ましい。バッチ法は、基材を加工液に浸漬する工程、処理を行った基材に残存する水を除去する工程からなる。該バッチ法は、基材が布帛状でない場合、例えば、バラ毛、トップ、スライバ、かせ、トウ、糸等の場合、または編物等連続法に適さない場合に採用するのが好ましい。浸漬する工程においては、例えば、ワタ染機、チーズ染色機、液流染色機、工業用洗濯機、ビーム染色機等を用いることができる。水を除去する操作においては、チーズ乾燥機、ビーム乾燥機、タンブルドライヤー等の温風乾燥機、高周波乾燥機等を用いることができる。本発明の処理剤を付着させた基材には、乾熱処理を行うことが好ましい。乾熱処理の温度としては、100~180℃が好ましい。乾熱処理の時間としては、10秒間~3分間が好ましい。乾熱処理の方法としては、特に限定されないが、基材が布帛状である場合にはテンターが好ましい。このように付着処理を行って、捺染用被記録材料を得ることができる。
【0037】
このようにして得られた捺染用被記録材料に対しては、公知の捺染方法により文字や図柄など画像を印刷することができる。それらの方法の中でも、昇華転写捺染で印刷を行う場合に、本発明の作用効果が顕著に奏される。昇華転写捺染の方法としては、紙等のシート状の中間転写媒体に、昇華性染料を含むインク(昇華転写用インク)を用いてインクジェット方式等による印刷を行った後、布帛等の捺染用被記録材料に中間転写媒体を重ねて、加熱により昇華転写する方法が挙げられる。
【0038】
昇華転写用インクとしては、液状媒体中に昇華性染料と、必要に応じて、分散剤、表面張力調整剤、粘度調整剤、防腐防黴剤、pH調整剤、キレート試薬、防錆剤、紫外線吸収剤、消泡剤、湿潤剤等の添加剤を含むものが挙げられ、液状媒体としては、有害な揮発性有機溶媒を含まない、水を主体とする媒体が用いられることが多くなっている。
【0039】
昇華性染料としては、例えば、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.ディスパースブルー19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、111等の、加熱により昇華する性質を有する分散染料や溶剤染料等が用いられている。
【0040】
インクジェット方式に用いられる昇華転写用インクであれば、用いられるインクジェットプリンターのインクジェットヘッドノズルからの吐出安定性や吐出応答性等を安定化させるために、前記の各種添加剤を用いるなどして、表面張力や粘度が適宜調整される。
【0041】
中間転写媒体としては、例えば、上質紙やPPC用紙等の非塗工紙や、コート紙やアート市等の塗工層を有する印刷用紙、インクジェット記録用のインク受容層が設けられたインクジェット記録媒体等を用いることができ、これらの中でも、シリカやアルミナ等の無機微粒子とバインダー樹脂で構成されるインク受容層を有するインクジェット記録媒体が好ましく用いられており、昇華転写捺染の中間転写媒体として専用に使用されるインクジェット記録媒体も多く市販されている。
【0042】
転写捺染工程においては、インクジェット方式等による印刷を行って昇華転写用インクが付与された中間転写媒体を、捺染用被記録材料と対向させた状態で加熱し、昇華転写用インクを構成する昇華性染料を捺染用被記録材料に転写させることにより、捺染記録物が得られる。加熱温度は、150~230℃程度の範囲が用いられ、170~210℃の範囲がより好ましく用いられる。中間転写媒体と捺染用被記録材料を対向させた状態において、20~80kPa程度で加圧して密着させることも好ましく行われる。加熱時間は、加熱温度にもよるが、20~150秒の範囲が好ましく用いられ、40~100秒の範囲がより好ましく用いられる。
【0043】
本明細書には、以下の内容が開示されている。
〔1〕天然繊維または再生繊維を含有する基材に付着処理を行うことにより捺染用被記録材料を得るために用いる処理剤であって、水を主体とする媒体中に、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子と架橋剤を含有する処理剤。
〔2〕カルボキシ基を有するポリエチレンの酸価が5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である上記〔1〕に記載の処理剤。
〔3〕架橋剤がブロックイソシアネート系架橋剤またはオキサゾリン系架橋剤である、上記〔1〕または〔2〕に記載の処理剤。
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載される処理剤が含有する樹脂粒子の製造方法であって、水を主体とする媒体中で、界面活性剤の存在下でカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを乳化する工程を有する樹脂粒子の製造方法。
〔5〕乳化時の温度が、カルボキシ基を有するポリエチレンの融点及びポリエステルの融点よりも高い温度である、上記〔4〕に記載の樹脂粒子の製造方法。
〔6〕カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの質量比が10:90~90:10の範囲にある、上記〔4〕または〔5〕に記載の樹脂粒子の製造方法。
〔7〕界面活性剤が、HLB値が下記の範囲内のノニオン性界面活性剤である、上記〔4〕~〔6〕のいずれかに記載の樹脂粒子の製造方法。
HLB値の範囲: {11+4×(x÷100)}±1
(xは、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの合計量に対するカルボキシ基を有するポリエチレンの量の割合(質量%)である。)
【実施例0044】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。なお実施例において、特に断りがない限り「%」は質量%を意味する。
【0045】
<材料の説明>
・ハイワックス4202E:カルボキシ基を有するポリエチレン
三井化学株式会社製
分子量2600、融点100℃、酸価17mgKOH/g、粉体
・ハイワックス1105A:カルボキシ基を有するポリエチレン
三井化学株式会社製
分子量1500、融点104℃、酸価60mgKOH/g、粉体
・ダイヤクロンFC-1588:ポリエステル
三菱ケミカル株式会社製
融点98℃、酸価9mgKOH/g、粉体
・DEO-1:ポリオキシエチレンドデシルエーテル
ノニオン性界面活性剤、HLB値11.7、成分濃度100%の液体
ドデシルアルコールにエチレンオキサイドを付加して合成した。
・DEO-2:ポリオキシエチレンドデシルエーテル
ノニオン性界面活性剤、HLB値15.0、成分濃度100%の液体
ドデシルアルコールにエチレンオキサイドを付加して合成した。
・DEO-3:ポリオキシエチレンドデシルエーテル
ノニオン性界面活性剤、HLB値15.8、成分濃度100%の液体
ドデシルアルコールにエチレンオキサイドを付加して合成した。
・メイカフィニッシュSRM-42T:自己乳化型ポリエステル粒子含有水系乳化物
明成化学工業株式会社製、ポリエチレン不含
・メイバインダーNS:自己乳化型ポリエステル粒子含有水系乳化物
明成化学工業株式会社製、ポリエチレン不含
・メイカテックスHP-600:カルボキシ基を有するポリエチレン粒子含有水系乳化物
明成化学工業株式会社製、ポリエステル不含
・メイカネートTP-10:TDI系ブロックイソシアネートの水系乳化物
明成化学工業株式会社製
・HDIBI:ブロックイソシアネートの水系乳化物
HDI系ポリイソシアネートにブロック剤を付加して合成し、水系媒体中に乳化して得た。
・エポクロスWS-500:オキサゾリン系架橋剤の水系溶液
株式会社日本触媒製
【0046】
<カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子の作製と評価>
(実施例1-1)
容量1Lのステンレス製耐圧乳化釜に、73.0gのハイワックス4202E、163.0gのダイヤクロンFC-1588、33.0gのDEO-1、8.0gのDEO-2、2.6gの水酸化カリウム(特級)及び520gのイオン交換水を入れて密閉した。撹拌しながら昇温して液温135~140℃にて約30分間、高圧下で高速攪拌して乳化した。その後、液を放冷し、液温が75~85℃で130gのイオン交換水を加え、室温まで放冷して、実施例1-1の、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子の水系乳化物を得た。実施例1-1の樹脂粒子の水系乳化物は白色の液体状であった。
【0047】
(実施例1-2~1-11及び比較例1-1~1-3)
使用する材料を表1及び表2に記載する材料及び量に変えた以外は実施例1-1と同様にして実施例1-2~1-11、比較例1-1~1-3の各々の、カルボキシ基を有するポリエチレン及び/またはポリエステルを含有する樹脂粒子の水系乳化物を得た。得られた各々の水系乳化物は白色の液体状であった。参考のため表1及び表2には、各水系乳化物で用いたカルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの量に応じて下記式から算出したノニオン性界面活性剤の好ましいHLB値の範囲を記載した。
HLB値の範囲: {11+4×(x÷100)}±1
xは、カルボキシ基を有するポリエチレンとポリエステルの合計量に対するカルボキシ基を有するポリエチレンの量の割合(質量%)である。
【0048】
(樹脂粒子乳化物の経時安定性の評価)
水系乳化物作製直後、各水系乳化物100mLを容量150mLのガラス製サンプル瓶に入れ、栓をして静置し、1日後と10日後の様子を観察した。結果を表1及び表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1及び表2の結果より、少なくともポリエステルを含有する実施例1-1~1-11と比較例1-1を対比すると、本発明により得られたポリエチレンとポリエステルを含有する樹脂粒子の乳化物は、経時安定性に優れるものであることが分かる。
【0052】
<処理剤、捺染用被記録材料及び捺染記録物の作製と評価>
(実施例2-1~2-9、比較例2-1~2-15の処理剤、捺染用被記録材料及び捺染記録物の作製)
各種樹脂粒子含有水系乳化物や、上記で得られた実施例や比較例の各水系乳化物に、架橋剤等と水道水を表3~6に記載する固形分濃度となるように加えて混合し、各処理剤を得た。基材布として綿100%布(綿ブロード)を用い、各々の処理剤に基材布を浸漬し、2本のゴムローラーの間で布を絞ってウェットピックアップを100%とした。次に、ピンテンターを用いて110℃で90秒間乾燥して捺染用被記録材料を得た。なお、比較例1-1の水系乳化物は樹脂粒子が沈降しやすいため、比較例2-3、2-6及び2-7の処理剤は、基材布を浸漬する直前によく攪拌した上で浸漬処理を行った。
【0053】
一方、市販の昇華転写捺染用中間転写媒体専用インクジェット記録媒体に、水系昇華転写用インクを用いたインクジェットプリンターで、各種のカラーイラスト図柄と黒ベタと青ベタのパターンを有する画像を印刷して、昇華転写用パターン紙を得た。得られた捺染用被記録材料と、得られた昇華転写用パターン紙のパターン面を重ね合わせ、ヒートプレス機を用いて、200℃、50kPa、80秒間の条件で転写捺染し、その後、パターン紙を取り除いて捺染記録物を得た。また、処理剤による処理を行わなかった綿100%布に、同様にして転写捺染して捺染記録物を得た(比較例2-1)。
【0054】
(転写濃度の評価)
得られた捺染記録物(表3~6及び後記の表7~8では初期と記す)と、それを洗濯したもの(表3~6及び後記の表7~8ではHL-5と記す)のそれぞれについて、パターン非転写部と黒ベタパターン転写部の色差ΔEを分光式色差計「SE2000」(日本電色工業株式会社製)を用いて測定し、転写濃度とした。洗濯は、JIS L 0217:1995の103号法に従い、家庭における洗濯5回相当の洗濯を行った。結果を表3~6に示す。転写濃度は、初期で50以上であり、HL-5で40以上であると実用に供することができる。
【0055】
(摩擦堅牢度の評価)
得られた捺染記録物の青ベタパターン転写部の摩擦堅牢度(乾式、湿式)について、JIS L 0849:2013のII形法に従って評価した。結果を表3~6に示す。なお、評価結果において、例えば、「2-3」は評価値2と評価値3の中間の評価値であり、「2+」は評価値2よりも優れるが「2-3」よりも劣り、「3-」は評価値3よりも劣るが「2-3」より優れることを示す。摩擦堅牢度は、乾式で「2-3」以上であり、湿式で2以上であると実用に供することができる。因みに、比較例において顕著に見られることであるが、捺染記録物の転写濃度が低い場合には記録物に転写されたインク量が少ないため、摩擦堅牢度試験においては摩擦用白綿布の着色も少なくなることから、見かけ上、摩擦堅牢度の評価値が高くなることがある。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
(実施例3-1、3-2、比較例3-1、3-2の捺染用被記録材料及び捺染記録物の作製と評価)
基材布を綿100%布(綿ブロード)から、羊毛100%布(ウールモスリン)あるいはレーヨン100%布(レーヨンタフタ)に変更した以外は実施例2-2と同様にして捺染用被記録材料及び捺染記録物を作製し、上記の各評価を行った。また、処理剤による処理を行わなかった各基材布についても捺染記録物を作製し評価を行った(比較例3-1及び3-2)。結果を表7に示す。
【0061】
【表7】
【0062】
(実施例4-1~4-4の処理剤、捺染用被記録材料及び捺染記録物の作製と評価)
表8に記載する組み合わせ及び固形分濃度で、本発明の各水系乳化物に架橋剤等と水道水を加えて混合し、各処理剤を得た。基材布として綿100%布(綿ブロード)を用い、各々の処理剤に基材布を浸漬し、2本のゴムローラーの間で布を絞ってウェットピックアップを70%とした。次に、ピンテンターを用いて110℃で90秒間乾燥して捺染用被記録材料を得た。得られた捺染用被記録材料と、各種のカラーイラスト図柄と黒ベタと青ベタのパターンを有する昇華転写用パターン紙のパターン面を重ね合わせ、ヒートプレス機を用いて、200℃、50kPa、120秒間の条件で転写捺染し、その後、パターン紙を取り除いて捺染記録物を得、上記の各評価を行った。結果を表8に示す。
【0063】
【表8】
【0064】
表3~8の結果より、実施例と比較例を対比すると、本発明の処理剤を用いて得られた捺染用被記録材料及び捺染記録物は、捺染記録後の画像が鮮明で、洗濯耐久性及び摩擦堅牢度に優れることが分かる。