(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127522
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】構造物形成方法
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20240912BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240912BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20240912BHJP
E04B 1/35 20060101ALI20240912BHJP
E04G 21/02 20060101ALI20240912BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20240912BHJP
E04G 15/06 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y10/00
B29C64/40
E04B1/35 L
E04G21/02
E04G21/16
E04G15/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036722
(22)【出願日】2023-03-09
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大川 悠奈
(72)【発明者】
【氏名】坂上 肇
(72)【発明者】
【氏名】中村 允哉
(72)【発明者】
【氏名】金子 智弥
【テーマコード(参考)】
2E150
2E172
2E174
4F213
4G052
【Fターム(参考)】
2E150AA27
2E150BA13
2E150HF09
2E150MA51Z
2E172AA06
2E172CA33
2E172DE04
2E174AA03
4F213AH47
4G052DA01
4G052DB12
4G052DC05
4G052DC06
(57)【要約】
【課題】所望の形状の孔を効率的に形成する構造物形成方法を提供する。
【解決手段】壁は、ノズルを移動させながらノズルから吐出されるモルタルで形成される層を積み上げることにより形成した積層構造部15の面状部21,23,26を有する。面状部21,23,26に形成する孔31,32,33の形状に対応する形状を有する孔形成部材40は、上下方向に分割した複数の板状のパーツ部材41,42~46を有する。孔31~33が形成される高さにおける層を積み上げた後で、孔を形成する位置における層のモルタルを削った除去領域を形成する。この除去領域に、孔31~33の形状に対応する形状を有する孔形成部材40を配置した後、孔形成部材40を埋設する。そして、モルタルが硬化した後、孔形成部材40を除去する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルを移動させながら前記ノズルから吐出される造形材で形成される層を積み上げることにより形成した積層部を有する構造物の形成方法であって、
前記積層部に形成される孔の高さにおける前記層の少なくとも1層分を積み上げた後で、孔を形成する位置における前記層の前記造形材を削った除去領域を形成し、
前記除去領域に、前記孔の形状に対応する形状を有する孔形成部材を配置した後、前記孔形成部材を埋設し、
前記造形材が硬化した後、前記孔形成部材を除去することを特徴とする構造物形成方法。
【請求項2】
前記孔形成部材は、積層高さに応じて上下方向に分割された複数の板状のパーツ部材を有し、
前記パーツ部材が配置される高さに対応する複数の前記層が積み上がった状態で、前記パーツ部材に対応する領域の前記造形材を除去し、前記パーツ部材を、前記孔を形成する領域に配置することを繰り返すことにより、前記孔形成部材を埋設することを特徴とする請求項1に記載の構造物形成方法。
【請求項3】
前記孔形成部材は、離間した複数の前記積層部に渡る長さを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動するノズルから吐出される造形材を積層させて形成した積層部を有する構造物の構造物形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物を形成する場合、3次元(3D)プリンタ装置を利用することがある。この3Dプリンタ装置においては、ノズルから材料を吐出させながらノズルを移動させて層を形成する。そして、この形成した層を積み重ねることにより立体形状を有する構造物を形成する。このような構造物において、コンクリート等のセメント系材料は、高い圧縮強度を有するが、引張強度は低い。そこで、セメント系材料を積層して形成し、高い引張強度を有する構造物を形成するための技術が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この文献に記載の構造物は、孔部を有し構造物の外形を構成する外形成体と、外形成体の孔部に第2モルタルを注入して形成される内構造体とを備える。外形成体は、3Dプリンタ装置のノズルから第1モルタルを吐出させながら経路に沿って移動させることにより、奇数層部及び偶数層部を交互に積層させて形成する。内構造体は、外形成体を構成する第1モルタルよりも高強度の部材を構成する第2モルタルで構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したモルタルを積層して構築した構造物の壁等に、配線や配管を通すために、水平方向に延在する横孔を設けることがある。この場合、横孔が小さい場合には、モルタルを積層した後に、手やドリル等を用いて、くり抜いて横孔を形成していた。しかしながら、横孔が大きい場合には、この方法では、作業時間に時間が掛かるため、非効率であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する構造物形成方法は、ノズルを移動させながら前記ノズルから吐出される造形材で形成される層を積み上げることにより形成した積層部を有する構造物の形成方法であって、前記積層部に形成される孔の高さにおける前記層の少なくとも1層分を積み上げた後で、孔を形成する位置における前記層の前記造形材を削った除去領域を形成し、前記除去領域に、前記孔の形状に対応する形状を有する孔形成部材を配置した後、前記孔形成部材を埋設し、前記造形材が硬化した後、前記孔形成部材を除去する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、所望の形状の孔を効率的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の孔を形成した壁の構成を説明する斜視図である。
【
図2】実施形態において孔を形成するために用いる孔形成部材の斜視図である。
【
図3】実施形態において壁のモルタル積層部を形成する3Dプリンタの構成の説明図である。
【
図4】実施形態におけるハードウェア構成の説明図である。
【
図5】実施形態における壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する流れ図である。
【
図6】実施形態の壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する説明図である。
【
図7】実施形態の壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する説明図である。
【
図8】実施形態の壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する説明図である。
【
図9】実施形態の壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する説明図である。
【
図10】実施形態の壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する説明図である。
【
図11】実施形態の壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する説明図である。
【
図12】実施形態の壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する斜視図である。
【
図13】実施形態の壁に孔を形成する構造物形成方法において、円筒部材を設置した状態における水平方向における断面図である。
【
図15】第1変更例において斜めに形成された積層部に孔を形成する構造物形成方法において、円筒部材を設置した状態における水平方向における断面図である。
【
図16】第2変更例の壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する説明図である。
【
図17】第2変更例の壁に孔を形成する構造物形成方法を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1~
図14を用いて、構造物形成方法を具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、構造物として、モルタル積層部を有した建物の壁を説明する。この壁の内部空間には、200mm程度の大きな孔を形成する。また、モルタル積層部は、3Dプリンタ装置のノズルからモルタル(造形材)を吐出させながら、このノズルを移動させることにより、壁の外形状を形作る層を積み上げて形成する。
【0009】
(建物の壁10の構成)
図1に示すように、壁10は、積層構造部15を有し、躯体領域11及び設備配置領域12を備える。
躯体領域11は、建物の躯体を構成する部分であって、躯体内構造部16を備える。躯体領域11及び設備配置領域12の積層構造部15は、それぞれ水平断面が略四角枠形状を有し、面状部23を共通に有している。
【0010】
積層構造部15は、積層可能な硬化性を有するモルタル(セメント系材料)を積層させて形成される部分であって、面状に立設した面状部21,22,23,24,25,26,27を有している。積層構造部15は、
図3の3Dプリンタ50を用いて形成される。
【0011】
各面状部21~27は、隣接する2つのモルタル積層部がそれぞれ垂直方向に当接することにより構成されている。具体的には、例えば、面状部21,26の内側及び面状部23の躯体領域11側の積層部21a,23a,26aと、面状部21,26の外側及び面状部23の設備配置領域12側の積層部21b,23b,26bとがそれぞれ当接して配置されている。
【0012】
躯体領域11は、面状部21,22,23,24を有する。そして、躯体領域11には、面状部21~24で囲まれた略直方体の内部空間S1内に躯体内構造部16が形成されている。
【0013】
躯体内構造部16は、面状部21~24よりも高強度の補強材(充填造形材)で構成される。高強度の補強材としては、例えば、スリムクリート(登録商標)等、金属繊維を混合したセメント系材料(繊維補強コンクリート材料)を用いる。躯体内構造部16は、面状部21~24の内部に形成された内部空間S1に、スリムクリートを充填した後に硬化することにより、面状部21~24に当接した状態で一体化される。
【0014】
設備配置領域12は、従来では躯体の完成後に行なわれる仕上げ工事によって付加される設備を配置する領域であって、面状部23,25,26,27を有する。設備配置領域12には、面状部23,25~27で囲まれた略直方体の内部空間S2が形成されている。この設備配置領域12の内部空間S2には、配線等が配置される。
【0015】
更に、壁10には、壁10を貫通する横孔30が形成されている。この横孔30は、垂直断面が円形状の孔であって、面状部21,23,26に形成された孔31,32,33と、躯体内構造部16に形成された孔34とを有する。孔31~34は、水平方向に延在する線上に整合して形成されている。そして、孔31~34は、孔形成部材40を用いて形成される。
【0016】
(孔形成部材40の構成)
図2に示すように、本実施形態で用いられる孔形成部材40は、全体としては円柱形状であって、孔31~33の垂直断面の円形状に対応する円形状の断面を有し、上下方向に複数に分割されている。本実施形態では、この孔形成部材40は、発泡スチロールの一種であるスタイロフォーム(登録商標)を用いて構成されている。そして、孔形成部材40の軸方向の長さは、壁10の奥行(面状部21から面状部26までの距離)より長い長さを有する。
【0017】
具体的には、本実施形態では、孔形成部材40は、板形状となるように上下方向に6個に分割されている。孔形成部材40は、6個のパーツ部材41,42,43,44,45,46を下から順番に積み上げられることにより構成される。本実施形態では、各パーツ部材41~46は、円柱形状を、軸線を含む面及びこれに平行な面で均等に分割した形状をそれぞれ有し、モルタルの層L1の3層分の高さをそれぞれ有する。
【0018】
(ハードウェア構成例)
図4は、
図3の3Dプリンタ50等として機能する情報処理装置H10のハードウェア構成例である。
【0019】
情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を有する。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアを有していてもよい。
【0020】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインタフェースである。
入力装置H12は、利用者等からの入力を受け付ける装置である。表示装置H13は、各種情報を表示する装置である。
【0021】
記憶装置H14は、3Dプリンタ50の後述する制御装置60の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する記憶部である。
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、制御装置60における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、例えばCPUやMPU等がある。
【0022】
(3Dプリンタ50の構成)
図3に示すように、3Dプリンタ50は、吐出部としてのノズル51、圧送ポンプ53、取付部54、ロボットアーム55及び制御装置60を備える。
【0023】
ノズル51は、その先端部が開口した吐出口51aを有している。本実施形態では、吐出口51aは、下方を向いている。ノズル51の吐出口51aと反対側の端部には、ホース52の端部が接続されている。ホース52は、圧送ポンプ53に接続されている。この圧送ポンプ53の圧力により、ホース52を介してノズル51に供給されたモルタルは、吐出口51aから下方に吐出される。
【0024】
ノズル51には、取付部54を介してロボットアーム55が取り付けられる。ノズル51は、このロボットアーム55に支持され、このロボットアーム55の動きに従って水平方向や上下方向に移動する。ロボットアーム55は、制御装置60の制御部61からの指示によって移動が制御される。本実施形態の制御部61は、移動時においてもノズル51からのモルタルの吐出方向が常に下方になるように、ロボットアーム55を制御する。
【0025】
(制御装置60の構成)
制御装置60は、構造物形成処理を実行する制御部61及び吐出経路記憶部62を備える。そのため、記憶部に格納された構造物形成プログラムを実行することにより、制御部61は、積層管理部611、移動制御部612及び吐出量制御部613として機能する。
【0026】
積層管理部611は、積層させるモルタルの経路及び高さを管理する処理を実行する。積層管理部611は、積み上げたレイヤ(層)の数をカウントし、現在のモルタルの積層数を記憶し、構造物の最終的な積層数の層を形成した場合にノズル51の移動を停止する。
【0027】
移動制御部612は、経路に応じてノズル51を移動させるロボットアーム55の動きを制御する処理を実行する。
吐出量制御部613は、圧送ポンプ53の稼働を制御して、ノズル51から吐出されるモルタルの吐出量を制御する処理を実行する。
【0028】
吐出経路記憶部62には、面状部21~27を形成するノズル51の吐出経路データが記録される。この吐出経路データは、経路を決定した場合に記録される。吐出経路データには、構造物識別子、レイヤ識別子毎の経路等に関するデータが含まれる。
【0029】
構造物識別子データ領域には、面状部21~27を備えた構造物(ここでは壁10)を特定するための識別子が記録される。
レイヤ識別子データ領域には、各レイヤの階層数に関するデータが記録される。
経路データ領域には、この階層(レイヤ)における3Dプリンタ50のノズル51の移動経路が記録される。この移動経路は、始点から終点までの一筆書きで示される経路である。経路データには、移動経路を特定するための3次元座標が含まれる。
【0030】
(構造物形成方法)
次に、
図5~
図14を用いて、上述した壁10の構造物形成方法を説明する。
まず、
図5に示すように、モルタル積層部を形成する(ステップS11)。具体的には、3Dプリンタ50を用いて、積層構造部15を形成する。この場合、積層構造部15は、ノズル51の吐出口51aからモルタルを吐出しながら、一筆書き形状の経路に沿ってノズル51を動かすことにより各層を形成する。各層を形成する経路の一筆書き形状は、各層の始点と終点とが同じになる閉空間を構成する形状である。
【0031】
本実施形態の経路は、
図1に示す積層部21b,21a、面状部22の内側、積層部23a、面状部24の内側及び外側、積層部23b、面状部25の内側及び積層部26aの順に直線状で繋がっている。更に、この経路は、積層部26aに続くように、面状部27の内側及び外側、積層部26b、面状部25の外側及び面状部22の外側の順に直線状で繋がっている。これにより各層の経路に沿ってノズル51の吐出口51aからモルタルが吐出されて積層されることにより、積層部21bの開始点と面状部22の外側の終点とが同じ位置になる。
【0032】
そして、1層が形成されると、ノズル51を1層の高さ分上昇させて、形成した1層の上に、その層の経路に沿ってノズル51を動かすことを繰り返す。
このようにモルタルを吐出するノズル51を移動させながらモルタルの複数の層L1を積み上げる途中で、孔形成部材40を挿入する。
【0033】
(モルタルの積層途中における孔形成部材40の挿入)
次に、
図6~
図12を用いて、上述したモルタル積層部の形成途中において実行する孔形成部材の挿入処理について説明する。
【0034】
図6に示すように、横孔30の下端部の高さまでモルタルを積層した後、更に、孔形成部材40の最下部を構成するパーツ部材41の高さに対応する3層分のモルタルの層L11,L12,L13を積層する。
【0035】
そして、
図7に示すように、パーツ部材41を配置する除去領域において、パーツ部材41の形状に対応する層L11,L12,L13の部分を取り除く。これにより、除去領域に対応する窪みS41が形成される。
【0036】
次に、
図8に示すように、形成した窪みS41に、パーツ部材41を挿入することにより、パーツ部材41を配置する。
その後、
図9に示すように、パーツ部材41の上に、モルタルを積層する。この場合、既に配置しているパーツ部材41の直上に載置するパーツ部材42の高さに対応する3層のモルタルの層L21,L22,L23を積層する。
【0037】
そして、
図10に示すように、パーツ部材42を配置する除去領域において、パーツ部材42の形状に対応する層L21,L22,L23の部分を取り除く。これにより、除去領域に対応する窪みS42が形成される。
【0038】
次に、
図11に示すように、形成した窪みS42に、パーツ部材42を配置する。この場合、直下のパーツ部材41の上に、パーツ部材42を載置する。
以上の処理を繰り返すことにより、積層されたモルタルを徐々に取り除きながら、パーツ部材41~46を、下から順次、積層することにより、モルタルに埋設する。
図12には、孔形成部材40の最上部のパーツ部材46まで配置した状態を示している。その後、所定高さまでモルタルを積層した後、モルタルが硬化するまで待機する。
【0039】
(モルタルの硬化後における孔形成部材の取出し)
図5に示すように、上述したようにモルタルが硬化することによりモルタル積層部の形成が終了した後、孔形成部材を取り出す(ステップS12)。
具体的には、
図12に示す状態で配置されているパーツ部材41~46を、上から順次、横方向からスライドさせることにより、面状部21,23,26から取り出す。
【0040】
(紙ボイドの挿入)
次に、コンクリート打設時に用いる紙ボイドを挿入する(ステップS13)。
具体的には、
図13に示すように、孔形成部材40を取り除いた壁10には、孔31,32,33が形成されている。孔31~33は、離間した面状部21,23,26において、整合するように、それぞれ形成されている。
【0041】
そして、中空の固い紙製の円筒部材71を、壁10の面状部21側から挿入する。この円筒部材71としては、表面が滑らかな紙製の円筒体を用いる。そして、円筒部材71を、面状部21,23の孔31,32に渡るように配置する。ここで、円筒部材71の両端部までの長さは、面状部21の外側から面状部23の外側までの長さとほぼ同じである。
【0042】
そして、
図13及び
図14に示すように、面状部21,23と、この内部に挿入された円筒部材71の両端部との間に、ノロ止めシール72を配置する。このノロ止めシール72は、コーキング材等で構成されている。更に、円筒部材71の両端は、柔らかい紙等で構成されるノロ止め73で覆われている。
【0043】
更に、
図13に示すように、ノロ止め73の外側には、パッカー74を介して、略長方形の板状の押さえ型枠75を配置する。ここで、パッカー74は、水等の漏れを抑制するゴム製のシールである。円筒部材71、ノロ止め73及び押さえ型枠75を両ねじボルト77が貫通している。両ねじボルト77の端部は、ワッシャ78を介してナット79が螺合している。ナット79によって、円筒部材71の両側が、孔31,32の周囲の面状部21,23に、押さえ付けられる。
【0044】
(高強度の補強材の充填)
次に、高強度の補強材を充填する(ステップS14)。具体的には、円筒部材71を挿入して固定した後、面状部21~24で囲まれた内部空間S1にスリムクリートを充填する。この場合、円筒部材71は、固さのために、スリムクリートの重量によって変形せずに、形状を維持する。
その後、内部空間S1に充填されたスリムクリートが硬化すると、内部空間S1に孔34が形成される。
【0045】
(紙ボイドの除去)
次に、紙ボイドを除去する(ステップS15)。具体的には、両ねじボルト77からナット79及びワッシャ78を取り外す。そして、両ねじボルト77、押さえ型枠75、パッカー74、ノロ止め73及びノロ止めシール72を取り外した後、円筒部材71を、孔31,32,34から取り出す。以上により、横孔30が形成された壁10が完成する。その後、形成した横孔30の孔31,32,34に渡るように、配管を設置する。
【0046】
(作用)
孔31~33を形成する高さのモルタルの層L1を積み上げた際に、孔31~33を形成する位置におけるモルタルを除去する。この除去した領域に、孔31~33の形状に対応する形状の孔形成部材40を配置した後、孔形成部材40を埋設する。そして、モルタルが硬化した後、孔形成部材40を除去する。
【0047】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、孔31~33を形成する高さのモルタルの層L1を積み上げた際に、孔31~33を形成する位置におけるモルタルを除去する。この除去した領域に、孔31~33の形状に対応する形状の孔形成部材40を配置した後、孔形成部材40を埋設する。そして、モルタルが硬化した後、孔形成部材40を除去する。これにより、孔形成部材40に対応する部分のモルタルを除去しながら、孔形成部材40の上にモルタルを積層して面状部21,23,26を形成することができる。従って、モルタルの硬化前に孔31~33の形状に応じてモルタルを除去するので、効率的に孔31~33を形成することができる。更に、モルタルを除去した部分に孔形成部材40を配置するので、その上にモルタルを効率的に積層することもできる。
【0048】
(2)本実施形態では、孔形成部材40は、孔31~33の上下方向に分割した複数の各パーツ部材41~46を有する。そして、パーツ部材41を配置する高さに対応するモルタルを積層した後、パーツ部材41を配置する部分を除去した窪みS41に、パーツ部材41を配置する。更に、その上に、パーツ部材42を配置する高さに対応するモルタルを積層した後、パーツ部材42を配置する部分を除去した窪みS42に、パーツ部材42を配置する。以上の処理を繰り返すことにより、孔形成部材40を埋設する。これにより、大きな孔31~33を形成する場合においても、各パーツ部材41~46に対応するモルタルを硬化しないうちに取り除いて、対応するパーツ部材41~46を配置することができる。
【0049】
(3)本実施形態では、パーツ部材41(42)の高さに対応するモルタルの3層L11~L13(L21~L23)を積層した後、除去領域を除去してパーツ部材41(42)を配置する。この場合、各パーツ部材41(42)の高さが積層高さに対応するため、モルタルを積層するノズル51の吐出口51aが、パーツ部材41(42)よりも常に高い位置で移動する。従って、ノズル51を水平方向に移動させる際に、配置したパーツ部材41(42)と干渉することなく、円滑にモルタルを積層することができる。
【0050】
(4)本実施形態では、孔形成部材40は、壁10の奥行(面状部21から面状部26までの距離)より長い長さを有する。このため、孔形成部材40を配置することにより、離間した面状部21,23,26にそれぞれ形成する孔31,32,33を、整合した状態で一度に形成することができる。
【0051】
(5)本実施形態では、孔31,32を形成した後、取り除いた孔形成部材40の代わりに、ノロ止めシール72を介して両端にノロ止め73を配置した円筒部材71を配置する。これにより、孔31,32を形成した面状部21,23の内部空間S1にスリムクリートを充填する際に、孔31,32から漏れ出ないようにすることができるとともに、躯体内構造部16に孔34を形成することができる。
【0052】
(6)本実施形態では、円筒部材71の両側に押さえ型枠75を配置し、貫通する両ねじボルト77とナット79で円筒部材71を固定する。これにより、充填されるスリムクリートの圧力によって円筒部材71の位置ずれ等を抑制することができる。
【0053】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態においては、面状部21,23,26の延在方向に対して直交する方向に延在する孔31,32,33を設けた。モルタル積層部に形成される孔は、モルタル積層部の延在方向に対して直交する方向に限られない。
【0054】
例えば、
図15に示すように、モルタル積層部M1,M2を傾斜して構成する。そして、モルタル積層部M1の孔36から、内部空間S3を介してモルタル積層部M2までに延在するように円筒部材81を配置する。この場合、円筒部材81の両側を、モルタル積層部M1,M2の面と平行となるように傾斜して形成する。
【0055】
そして、孔36,37と円筒部材81との間にノロ止めシール72を配置するとともに、円筒部材81の両側部にノロ止め73を配置する。更に、ノロ止め73の外側には、パッカー74を介して、押さえ型枠75及びキャンバー86を配置する。このキャンバー86は、モルタル積層部M1,M2の傾斜に対して両ねじボルト77の軸方向に直交する方向でナット79を締め付けるために、角度を調整するスペーサである。そして、円筒部材71、ノロ止め73、押さえ型枠75及びキャンバー86を両ねじボルト77が貫通している。このようにすることにより、傾斜したモルタル積層部M1,M2の間の内部空間S3に充填造形材を充填することができる。更に、離間した隣接するモルタル積層部の面が平行でない場合においても、キャンバーの形状を変更することにより、紙ボイドを配置して孔を形成することもできる。
【0056】
・上記実施形態においては、孔形成部材40を上下方向に分割した各パーツ部材41~46のそれぞれが配置されるモルタルを積層した後、配置するパーツ部材41~46の形状に対応する部分を除去した。これに限らず、パーツ部材41~46を配置するモルタル層の一部を取り除いて、そのパーツ部材を配置した後、その上にモルタル層を順次、積層してもよい。
【0057】
例えば、
図16に示すように、パーツ部材41が配置される最下層の層L11が積層された際に、この層L11の一部を取り除いて、パーツ部材41の最下部を、層L11に埋設する。
【0058】
その後、
図17に示すように、モルタルを吐出しながら移動するノズル51がパーツ部材41も通過する。この場合、ノズル51がパーツ部材41の上方を通過する場合に、パーツ部材41より吐出口51aが上となるように、ノズル51を上昇させる。そして、パーツ部材41の上に、モルタルが吐出された領域A1が形成される。
【0059】
次に、この領域A1等、パーツ部材41の上に積層されたモルタルを除去する。更に、この領域A1のために、パーツ部材41の周囲において、不足していた領域B1にモルタルを供給する。これにより、パーツ部材41を載置した層から、1層上の層の高さ分、パーツ部材41の下部が埋設した状態となる。
以上の処理を繰り返すことにより、パーツ部材41に対応する部分のモルタルを取り除いて、パーツ部材41を埋設してもよい。
【0060】
・上記実施形態においては、円柱形状の孔形成部材40を用いた。孔形成部材として、中空の円筒部材を孔形成部材として用いてもよい。この孔形成部材においても上下方向に複数に分割したパーツ部材を用いる。そして、上述した説明と同様に、パーツ部材を順次、下から配置する。この場合、円筒形状のパーツ部材の内部に積層されるモルタルを除去しながら、複数のパーツ部材を順次配置する。
【0061】
・上記実施形態においては、面状部21,23,26が硬化してから孔形成部材40を取り除いた後、紙製の円筒部材71を配置した。円筒部材71を配置せずに、孔形成部材40をそのまま使用してもよい。この場合には、内部空間を充填する材料が、パーツ部材41~46で構成される孔形成部材40の隙間から漏れる可能性があるため、孔形成部材の隙間をシール部材等で覆う必要がある。そして、内部空間に充填した補強材等が硬化した後に、孔形成部材を取り除く。
・上記実施形態においては、面状部21,23,26が硬化してから取り除いた孔形成部材40の代わりに、紙製の円筒部材71を配置した。そして、この円筒部材71を用いて、スリムクリートを充填させて躯体内構造部16及び孔34を形成した後には、円筒部材71を取り除いた。これに代えて、円筒部材を壁10内に残してもよい。具体的には、紙製の円筒部材71を配置する代わりに、例えば、金属製の円筒体(スリーブ)を配置する。この場合、金属製の円筒体と、これを貫通して配置する孔との間に、シール材を充填する。そして、スリムクリートを充填させて躯体内構造部を形成した後には、金属製の円筒体を、取り除かずに、そのまま内部に残して構造物を完成させる。
【0062】
・上記実施形態においては、面状部21,26に跨る長さを有する孔形成部材40を用いて、面状部21,23,26に形成される孔31,32,33を一度に形成した。これに限られず、各モルタル積層部のそれぞれに、孔を個別に積層してもよい。この場合には、各モルタル積層部の幅に応じた長さを有する孔形成部材40を用いる。
【0063】
・上記実施形態においては、円筒部材71は、面状部21,23に渡るように配置した。例えば、内部空間S2に別の材料を充填する場合であって、壁10を貫通する孔を形成する場合には、壁10の外側面部となる面状部21,26及び内部空間S1,S2の長さを有する紙ボイドを用いて上述した手順と同様な手順で、貫通孔を形成してもよい。
【0064】
・上記実施形態においては、孔形成部材40を上下方向に6個に分割した。孔形成部材の上下方向に分割する数は、形成する孔の大きさや形状によって決めることが好ましい。この場合、分割するパーツ部材の数が少ないほうが取り扱いが容易であるが、各パーツ部材の高さ(厚み)が大きくなると、それに対応するモルタルの層の数が増えるため、モルタルが硬化して除去し難くなる。このため、モルタルの硬化時間を考慮して、分割するパーツ部材の高さや数を設定する。
【0065】
・上記実施形態においては、垂直断面が円形状の孔31~34を形成した。モルタル積層部に形成する孔の形状は、円筒形状に限られず、任意の形状で形成することができる。
【0066】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(a)前記パーツ部材は、前記造形材の複数層の高さを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物形成方法。
(b)前記孔形成部材を、前記複数の前記積層部から取り出した後、前記孔形成部材が配置されていた領域に、シール部材を介して円筒部材を配置し、前記離間した積層部の空間に、充填造形材を充填することを特徴とする請求項3に記載の構造物形成方法。
【符号の説明】
【0067】
A1,B1…領域、L1,L11,L12,L13,L21,L22,L23…層、M1,M2…モルタル積層部、S1,S2,S3…内部空間、S41,S42…除去領域に対応する窪み、10…壁、11…躯体領域、12…設備配置領域、15…積層構造部、16…躯体内構造部、21,22,23,24,25,26,27…面状部、21a,21b,23a,23b,26a,26b…積層部、30…横孔、31,32,33,34,36,37…孔、40…孔形成部材、41,42,43,44,45,46…パーツ部材、50…3Dプリンタ、51…ノズル、51a…吐出口、52…ホース、53…圧送ポンプ、54…取付部、55…ロボットアーム、60…制御装置、61…制御部、62…吐出経路記憶部、71,81…円筒部材、72…ノロ止めシール、73…ノロ止め、74…パッカー、75…型枠、77…ねじボルト、78…ワッシャ、79…ナット、…円筒部材、86…キャンバー、611…積層管理部、612…移動制御部、613…吐出量制御部。