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特開2024-127531球状金属Siフィラー、及びその製造方法、並びに樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127531
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】球状金属Siフィラー、及びその製造方法、並びに樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20240912BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240912BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C01B33/02 Z
C08L101/00
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036741
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡部 拓人
(72)【発明者】
【氏名】恒吉 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】深澤 元晴
【テーマコード(参考)】
4G072
4J002
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072BB07
4G072DD03
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH01
4G072JJ09
4G072JJ50
4G072LL06
4G072MM40
4G072RR13
4G072RR25
4G072TT05
4G072TT19
4G072UU09
4J002BB031
4J002BB121
4J002BN071
4J002BN121
4J002BN151
4J002CC031
4J002CC181
4J002CD001
4J002CF031
4J002CF161
4J002CF211
4J002CG001
4J002CM041
4J002CN011
4J002CN031
4J002CP031
4J002DA116
4J002FA086
4J002FD090
4J002FD130
4J002FD140
4J002FD150
4J002FD160
4J002FD206
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】化学的安定性、特に耐酸性に優れた球状金属Siフィラー、及びその製造方法、並びにその球状金属Siフィラーを含む化学的安定性、特に耐酸性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、Siの溶出量が100ppm以下である、球状金属Siフィラーとする。粒子表面にN-Si結合が存在し、X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Siが0.04以上であることが好ましい。平均円形度が0.82以上であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、Siの溶出量が100ppm以下である、球状金属Siフィラー。
【請求項2】
粒子表面にN-Si結合が存在し、X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Siが0.04以上である、請求項1に記載の球状金属Siフィラー。
【請求項3】
X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Siが0.08以上である、請求項1又は2に記載の球状金属Siフィラー。
【請求項4】
平均円形度が0.82以上である、請求項1又2に記載の球状金属Siフィラー。
【請求項5】
比表面積が0.4m/g以下である、請求項1又2に記載の球状金属Siフィラー。
【請求項6】
JIS Z8729による色差b*値が1.5以上かつ7未満である、請求項1又2に記載の球状金属Siフィラー。
【請求項7】
Feの含有量が3000ppm以下である、請求項1又は2に記載の球状金属Siフィラー。
【請求項8】
樹脂と、請求項1又は2に記載の球状金属Siフィラーとを含む、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状金属Siフィラー、及びその製造方法、並びに樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5G高速通信下での通信量の増大に伴い通信機器の発熱量が増加しているなど、より高性能な各種放熱部材が求められている。放熱部材に用いる樹脂充填剤(フィラー)として、アルミナフィラー等の酸化物フィラーや、窒化アルミニウムや窒化ケイ素等の窒化物フィラーが広く用いられている。
【0003】
しかし、酸化物フィラー及び窒化物フィラーは、熱伝導率が低いため、樹脂との混合物として高い熱伝導率を達成することが難しい。熱伝導率に優れる金属フィラーも検討されているが、金属の特性として、化学的安定性、特に耐酸性に問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、化学的安定性、特に耐酸性に優れた球状金属Siフィラー、及びその製造方法、並びにその球状金属Siフィラーを含む化学的安定性、特に耐酸性に優れた樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、Siの溶出量が100ppm以下である球状金属Siフィラーであれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、Siの溶出量が100ppm以下である、球状金属Siフィラー。
[2]粒子表面にN-Si結合が存在し、X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Siが0.04以上である、[1]に記載の球状金属Siフィラー。
[3]X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Siが0.08以上である、[1]又は[2]に記載の球状金属Siフィラー。
[4]平均円形度が0.82以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の球状金属Siフィラー。
[5]比表面積が0.4m/g以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の球状金属Siフィラー。
[6]JIS Z8729による色差b*値が1.5以上かつ7未満である、[1]~[5]のいずれかに記載の球状金属Siフィラー。
[7]Feの含有量が3000ppm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の球状金属Siフィラー。
[8]樹脂と、[1]~[7]のいずれかに記載の球状金属Siフィラーとを含む、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、化学的安定性、特に耐酸性に優れた球状金属Siフィラー、及びその製造方法、並びにその球状金属Siフィラーを含む化学的安定性、特に耐酸性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。本開示において数値範囲についての「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。
【0008】
[球状金属Siフィラー]
本実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、Siの溶出量が100ppm以下である。25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、Siの溶出量が100ppm以下であることにより、本実施形態に係る球状金属Siフィラーは、化学的安定性、特に耐酸性に優れている。それにより、化学的安定性、特に耐酸性に優れた樹脂組成物を与えることができる。本明細書において「フィラー」とは、充填剤を意味する。本明細書において「球状金属Siフィラー」とは、充填剤として用いられる球状金属Si粒子単体及びその集合体の両方を意味する。すなわち、「球状金属Siフィラー」は物質として球状金属Si粒子と同じものを意味する。本明細書において、「球状」とは、走査型電子顕微鏡を用いて10,000倍で観察したときに円形状又は丸みを帯びた粒形状に観察されることを意味する。
【0009】
(Si溶出量)
Si溶出量は、塩酸水溶液に対してICP発光分析装置を用いた定量分析によって測定することができる。25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、塩酸水溶液中に溶出するSi溶出量(以下、単に「Si溶出量」ともいう)が100ppm以下であることにより、フィラー自体及びそれにより樹脂組成物の化学的安定性を高めることができる。Si溶出量を100ppm以下に調整する方法としては、例えば、金属Si粒子の球状化処理の際に、球状金属Si粒子表面にN-Si結合を生じさせることが挙げられる。球状化金属Si粒子のX線光電子分光法により分析した原子組成比N/Siが高いほど、Si溶出量が少なくなる傾向にある。
一実施形態に係る球状金属Siフィラーは、上記Si溶出量が、95ppm以下であることが好ましく、90ppm以下であることがより好ましく、85ppm以下であることがさらに好ましく、80ppm以下であることが特に好ましい。
【0010】
球状金属Si金属フィラーは、原料である金属Siを球状化して得られる。原料金属Siは、不純物を含み得るが、純度が98%以上のものが好ましく、純度が99%以上のものがより好ましく、純度が99.5%以上のものがさらに好ましく、純度が99.9%以上のものであってもよい。球状化の方法については後述する。
【0011】
(X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Si)
一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、X線光電子分光法により測定したN1sピーク強度から算出した半定量値とSi2sピーク強度から算出した半定量値のN/Si比が0.04以上であることが好ましい。X線光電子分光法により測定したN1sピーク強度から算出した半定量値とSi2sピーク強度から算出した半定量値のN/Si比が0.04以上であることにより、一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、Si溶出量をより少なくすることができる。その結果、化学的安定性、特に耐酸性により優れたフィラーにすることができ、樹脂に配合した際に化学的安定性、特に耐酸性により優れた樹脂組成物を与えることができる。
本明細書において、「X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Si」とは、シャーリー法でバックグラウンドを取り、N1s及びSi2sピーク強度から算出した半定量値を算出し、N1s/Si2s比を算出することにより求められる値を意味する。
本明細書において、「シャーリー法」とは、バックグラウンドの原因となる非弾性散乱電子に対し、エネルギー依存性は無いこと、又、非弾性散乱する電子数はピーク強度に比例するということを仮定して、差し引かれるバックグラウンドの形状を決定する方法を意味する。
【0012】
一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Siが0.05以上であることがより好ましく、0.06以上であることがさらに好ましく、0.07以上であることがさらにより好ましく、0.08以上であることが特に好ましい。X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Siの上限は特に限定されないが、1以下であってよく、0.5以下であってよく、0.25以下であってよく、0.1以下であってよい。
X線光電子分光法により分析した原子組成比N/Siを効率よく0.04以上とする方法として、原料である金属Siを、(1)溶融後に滴下しながら窒素ガスを含むガスを噴射することにより球状化する方法(アトマイズ法)、(2)粉砕後に窒素ガスを含むプラズマガスを用いて溶融球状化する方法(熱プラズマ法)が挙げられる。これら(1)及び(2)のいずれかの方法により、球状金属Si金属フィラーの粒子表面にN-Si結合を生じさせることができる。(1)の方法において、特に、N-Si結合の生じ易さ及び平均円形度の高い粒子を得る観点から、窒素ガスあるいは窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いることが好ましい。混合ガスを用いる場合の窒素ガスの含有割合は、20~100体積%であることが好ましく、60~100体積%であることがより好ましい。(2)の方法において、N-Si結合の生じ易さ、プラズマの安定化及び平均円形度の高い粒子を得る観点から、プラズマガス種として、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを用いることが好ましい。混合ガスを用いる場合の窒素ガスの含有割合は、10~80体積%であることが好ましく、20~50体積%であることがより好ましい。(1)及び(2)の方法において、窒素ガスの含有割合が高くなるほど、原子組成比N/Siも高くなりやすい。
【0013】
(平均円形度)
一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、平均円形度が0.82以上であることが好ましい。平均円形度が0.82以上であることにより、樹脂への高充填が可能となり、熱伝導性に優れた樹脂組成物を与えることができる。一実施形態に係る球状窒化ホウ素粒子は、平均円形度が、0.85以上であることがさらに好ましく、0.9以上であることがさらにより好ましく、0.95以上であることが特に好ましい。平均円形度の調整は、例えば、上記の(1)及び(2)の方法におけるガスの流速、上記の(1)の方法におけるノズル形状、上記の(2)の方法における原料金属Si粉末の形状等を調整することにより行うことができる。例えば、上記の(1)及び(2)の方法におけるガス流速を高くすることにより、粒子同士の凝結が抑制され、平均円形度が高くなりやすい。
【0014】
本明細書において「平均円形度」とは、以下の方法で測定される値を意味する。球状金属Siフィラーをカーボンテープで試料台に固定した後、オスミウムコーティングを行う。その後、走査型電子顕微鏡で撮影した画像から、粉末の投影面積(S)と投影周囲長(L)を算出してから、下記の式(1)より円形度を算出する。任意の200個の粉末について円形度を算出し、その平均値を平均円形度とする。
円形度=4πS/L・・・(1)
【0015】
(比表面積)
一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、比表面積が0.4m/g以下であることが好ましい。比表面積が0.4m/g以下であると、各粒子の表面に付着物が少なく、化学的安定性、特に耐酸性をより向上させることができる。一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、比表面積が0.35m/g以下であることがより好ましく、0.3m/g以下であることがさらに好ましく、0.25m/g以下であることがさらにより好ましく、0.2m/g以下であることがより特に好ましい。
【0016】
本明細書における「比表面積」は、JIS Z8830:2013「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」の記載に準拠し、比表面積測定装置を用い測定される値を意味し、窒素ガスを使用したBET一点法を適用して算出される値である。
【0017】
(JIS Z8729による色差b*値)
一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、JIS Z8729による色差b*値が1.5以上かつ7未満であることが好ましい。JIS Z8729による色差b*値が1以上かつ7未満である球状金属Siフィラーは、Si溶出量がより少ない傾向にある。それにより、化学的安定性、特に耐酸性により優れたフィラーにすることができ、樹脂に配合した際に、化学的安定性、特に耐酸性により優れた樹脂組成物を与えることができる。一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、JIS Z8729による色差b*値が1以上かつ7未満であることがより好ましく、JIS Z8729による色差b*値が1以上かつ6未満であることがさらに好ましく、JIS Z8729による色差b*値が1以上かつ5未満であることがさらにより好ましく、JIS Z8729による色差b*値が2以上かつ4未満であることが特に好ましい。色差b*値の調整方法は、製造方法によって異なる。例えば、上記した(2)熱プラズマ法によって製造された球状金属Si金属フィラーは、粒径(平均粒子径)が1μm未満の微粒子を除去することによって、色差b*値が低くなりやすい。一方、上記した(1)アトマイズ法により製造された球状金属Si金属フィラーは、微粒子の除去の有無に関わらず、色差b*値が低くなりやすい。
JIS Z8729による色差b*値は、市販の色差計により測定可能である、色差計により正反射光除去モードで測定されるCIE 1976 L***色空間におけるb*値である。
【0018】
(Fe含有量)
一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、Feの含有量が3000ppm以下であることが好ましく、2800ppm以下であることがより好ましく、2600ppm以下であることがさらに好ましい。一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、Feの含有量の下限が10ppm以上であることが好ましく、25ppm以上であることがより好ましく、50ppm以上であることがさらに好ましい。Feの含有量が3000ppm以下であることにより、化学的安定性、特に耐酸性により優れた樹脂組成物を与えることができる。
【0019】
(Al含有量)
一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、Alが添加されていてもよい。Alの含有量が、球状金属Siフィラーの総量に対して、0.1~10重量%であることが好ましく、1~5重量%であることがより好ましい。Alの含有量が0.1~10重量%であることにより、一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、Si溶出量がより少い傾向にある。それにより、化学的安定性、特に耐酸性により優れたフィラーにすることができ、樹脂に配合した際に、化学的安定性、特に耐酸性により優れた樹脂組成物を与えることができる。
【0020】
(平均粒子径)
本実施形態に係る球状金属Si金属フィラーの平均粒子径(D50、メジアン径)は、樹脂への充填性の観点から、1~100μm以下であることが好ましく、1~80μm以下であることがより好ましく、10~60μm以下であることがさらに好ましく、20~50μm以下であることが特に好ましい。球状金属Si金属フィラーの平均粒子径(D50)は、特定の分散処理、例えばホモジナイザー処理を実施した後、レーザー回折散乱法にて評価した体積基準累積径(D50)を指す。
「体積基準累積径(D50)」は、レーザー回折散乱法により測定される体積基準の累積粒度分布において、累積値が50%に相当する粒子径のことを意味する。累積粒度分布は、横軸を粒子径(μm)、縦軸を累積値(%)とする分布曲線で表される。
【0021】
(熱伝導率)
一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、樹脂あるいは樹脂及び球状金属Si金属以外のフィラーとの混合物として、熱拡散率T(m/s)、密度D(kg/m)及び比熱容量C(J/(kg・K))の測定値を用いて、H=T×D×Cの計算式から算出される熱伝導率H(W/(m・K))が、5W/m・K以上であることが好ましく、5.5W/m・K以上であることがより好ましく、6W/m・K以上であることがさらに好ましい。25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、Siの溶出量が100ppm以下である球状金属Si金属フィラーは、樹脂との混合物として熱伝導率が5.8W/m・K以上の優れた熱伝導性を実現することができる。
【0022】
[用途]
本実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、樹脂に充填した際に、熱伝導性により優れた樹脂組成物を与えることができる。そのため、樹脂材料用の充填剤として好適に利用できる。
【0023】
[球状金属Siフィラーの製造方法]
一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーの製造方法は、(1)熱プラズマ法により金属Siの球状化をすることを含むことが好ましく、さらに(2)分級により粒径1μm未満の微粒を除去することを含むことがより好ましい。(1)及び(2)の方法を組み合わせることにより、真球度及び均一性の高い球状金属Si金属が得られやすく、樹脂に充填した際に、化学的安定性により優れた樹脂組成物を与えることができる。
【0024】
(原料準備工程)
球状化工程に先立ち、必要に応じて、原料Siを準備することを有していてよい。原料Siとしては、市販の金属Si粉末や金属Siインゴット等が挙げられ、これらから選択された1以上を用いることが好ましい。
【0025】
一実施形態において、原料金属Siは、粉末形状の金属Siであることが好ましい。粉砕後の粒子の体積基準の平均粒子径(D50)は、10~100μmであることが好ましく、20~80μmであることがより好ましく、30~60μmであることがさらに好ましい。平均粒子径(D50)の測定方法は、上記のとおりである。
【0026】
一実施形態において、原料Siには、Alが配合されていてもよい。Alを配合することによって、Si溶出量がより少ない球状金属Si金属フィラーを得ることができる。配合するAlとしては、粉末形状の金属AlやAl酸化物が好ましい。Alの配合量は、原料Siの総量に対して0.1~10重量%であることが好ましく、0.1~5重量%であることがより好ましい。
【0027】
(球状化工程)
熱プラズマ法により金属Siを球状化する方法は、例えば、直流アークプラズマ、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ、低周波交流プラズマ、のいずれか、または、これらのプラズマの重畳したもの、または、直流プラズマに磁場を印加した電気的な方法により生成するプラズマ、大出力レーザーの照射により生成するプラズマ、大出力電子ビームやイオンビームにより生成するプラズマ等、を適用することにより行いことができる。いずれの熱プラズマを用いる場合においても、10000~15000Kの高温部を有する熱プラズマであり、特に、微粒子の生成時間を制御できるプラズマであることが好ましい。
一実施形態において、原料粉末が分散されたキャリアガスを熱プラズマ炎中に供給することと、熱プラズマ炎の終端部に、冷却用ガスを供給して、粒子を生成することとを有することが好ましい。熱プラズマ炎は、球状金属Si金属フィラーの表面へのN-Si結合の生じ易さの観点から、プラズマガスとしてアルゴンと窒素の混合ガス由来するものを用いることが好ましい。
【0028】
(分級工程)
分級により粒径1μm未満の微粒を除去する方法は、限定されず、市販の湿式又は乾式の分級装置や水簸分級等によって行うことができる。一実施形態に係る球状金属Si金属フィラーの製造方法において、湿式の分級装置を用いて粒径1μm未満の微粒を除去することが好ましく、粒径2μm以下の微粒を除去することがより好ましい。
【0029】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂と、前述の球状金属Si金属フィラーとを含む。球状金属Si金属フィラーの詳細については上記のとおりである。
樹脂組成物中の球状金属Si金属フィラーの含有量は特に限定されず、目的に応じて適宜調整し得る。例えば、放熱部材に用いる場合は、樹脂組成物の総質量に対して、1~95質量%の範囲で配合してもよく、より好ましくは10~80質量%の範囲であり、さらに好ましくは20~70質量%の範囲であり、特に好ましくは30~60質量%の範囲である。
【0030】
(樹脂)
本実施形態に係る樹脂組成物に用いられる樹脂は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択し得る。例えば、ポリエチレン樹脂;ポリプロピレン樹脂;エポキシ樹脂;シリコーン樹脂;フェノール樹脂;メラミン樹脂;ユリア樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;フッ素樹脂;ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等のポリアミド系樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂;全芳香族ポリエステル樹脂;ポリスルホン樹脂;液晶ポリマー樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリカーボネート樹脂;マレイミド変性樹脂;ABS樹脂;AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン)樹脂;AES(アクリロニトリル-エチレン-プロピレン-ジエンゴム-スチレン)樹脂;炭化水素系エラストマー樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;芳香族ポリエン系樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態に係る樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、硬化剤、硬化促進剤、離型剤、カップリング剤、着色剤、難燃剤、イオン補捉剤等を配合してもよい。
【0031】
樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、各材料の所定量を撹拌、溶解、混合、分散させることにより製造することができる。これらの混合物の混合、撹拌、分散等の装置は特に限定されないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー等を用いることができる。またこれらの装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【実施例0032】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0033】
以下の手順により球状金属Siフィラーを作製した。
(1)原料Si種
原料Si種として、原料Si種(a):メジアン径が50μmの金属Si粉末〔日本NER株式会社製:高純度品シリコン〕と、原料Si種(b):メジアン径が30μmの金属Si粉末〔キンセイマテック株式会社製:♯200粗目品〕と、原料Si種(c):金属Siインゴット〔平野清左衛門商店社製〕とを用意した。
(2)実施例1-4、比較例1、2
原料Si種(a)及び(b)の金属Si粉末のそれぞれに対し、プラズマ処理装置を用いて、以下の条件で熱プラズマ法による球状化処理を行った。一部の金属Si粉末粒子の処理の際には、金属Alを金属Siに対して表1に示す量を添加してインゴットを作製し、粉砕してメジアン径50μmに調整したSi-Al合金粉末を使用した。
<熱プラズマ処理条件>
・キャリアガス種:アルゴンガス
・プラズマガス種:アルゴン(75体積%)と窒素(25体積%)の混合ガス
・原料供給速度:0.6kg/hr
・高周波出力:35kW
熱プラズマ法による球状化処理を施して得られた球状金属Si粒子50gに対し、純水を50g加え、超音波バス〔BRANSON社製〕にて2分処理後、10分間静置しデカンテーションを行った。これを3回繰り返し、水簸分級により微粒を除去し、得られた粒子を120℃-24時間乾燥後、実施例1-4及び比較例1、2に係る球状金属Si金属フィラーが得られた。
(3)比較例3
原料Si種(c)の金属Siインゴットをカーボン坩堝にいれ高周波炉で1500℃まで加熱し、溶融させた。溶融金属Siを、直径1.5mmを有するノズルを介して滴下させながら、噴射圧:6MPaの窒素ガスあるいはアルゴンガスを噴射することで溶湯を分散・噴霧させアトマイズ法による球状化処理を行い、比較例3に係る球状金属Si金属フィラーが得られた。
【0034】
実施例1-4及び比較例1-3に係る球状金属Si金属フィラーに対し、以下のように、原子組成比N/Si、平均円形度、平均粒子径、比表面積、色差b*値を測定した。又、球状金属Si金属フィラーのAl及びFeの含有量を、ICP分光分析装置〔Agilent Technologies社製:5110VDV〕を用いた定量分析にて求めた。
【0035】
[測定]
(原子組成比N/Si)
実施例1-4及び比較例1-3に係るSi金属フィラーを、X線光電子分光分析装置(サーモ社製、「K-Alpha型 X線光電子分析装置」、モノクロメータ付きAl-X線源、測定領域:400×200μm)を用い測定したスペクトルを、シャーリー法でバックグラウンドを取り、N1s及びSi2sピーク強度から算出した半定量値を算出し、N1s/Si2s比を算出した。
【0036】
(平均円形度)
球状金属Siフィラーをカーボンテープで試料台に固定した後、オスミウムコーティングを行った。その後、走査型電子顕微鏡〔日本電子株式会社製:JSM-7001FSHL〕で撮影した倍率500~10,000倍、解像度1280×1024ピクセルの画像をパソコンに取り込んだ。この画像を、画像解析装置〔日本ローパー株式会社製:Image-ProPremierVer.9.3〕を使用し、粉末の投影面積(S)と投影周囲長(L)を算出してから、下記の式(1)より円形度を算出した。任意の200個の粉末について円形度を算出し、その平均値を平均円形度とした。
円形度=4πS/L ・・・(1)
【0037】
(平均粒子径)
粒子径分布測定装置〔ベックマンコールター社製:LS 13 320〕を用いたレーザー回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により、実施例1-4及び比較例1-3に係る各球状金属Siフィラーの平均粒子径(D50、メジアン径)として求めた。測定に際しては、オートサンプラーに球状金属Siフィラー0.1gと、純水60mlとを混合し、前処理として、超音波ホモジナイザー〔BRANSON社製:SFX250〕を用いて、60秒間の分散処理を行った。分散処理を行った分散液、レーザー回折式粒度分布測定装置にスポイトで一滴ずつ添加し、所定量添加してから30秒後に測定を行った。純水の屈折率は1.33とし、球状金属Siフィラーの屈折率は4.2、複屈折率は0.1とした。
【0038】
(比表面積)
測定用セルに実施例1-4及び比較例1-3に係る球状金属Si金属フィラーをそれぞれ1g充填し、全自動比表面積径測定装置〔Mountech社製:Macsorb HM model-1201(BET一点法)〕を用いて、実施例1-4及び比較例1-3に係る各球状金属Si金属フィラーの比表面積を測定した。なお、測定前の脱気条件は、200℃、10分間とした。
【0039】
(色差b*値)
分光色差計〔日本電色社製:ZE-2000〕を用いて、実施例1-4及び比較例1-3に係る各球状金属Si金属フィラーのCIE LAB表色系でのb*値を測定した。
【0040】
(Al及びFeの含有量)
実施例1-4及び比較例1-3に係る各球状金属Si金属フィラーのAl及びFeの含有量を、ICP分光分析装置〔Agilent Technologies社製:5110VDV〕を用いた定量分析にて求めた。
【0041】
(Si溶出量)
実施例1-4及び比較例1-3に係る各球状金属Si金属フィラーを、25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に、2時間浸漬した。浸漬後の塩酸水溶液にICP分光分析装置〔Agilent Technologies社製:5110VDV〕を用いた定量分析を行い、各球状金属Si金属フィラーからのSi溶出量を算出した。
【0042】
また、以下のようにして樹脂組成物の粘度、及び熱伝導率を測定した。
(粘度)
ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量:184~194。三菱化学株式会社製:JER828)60体積%と、実施例1-4及び比較例1-3に係る各球状金属Siフィラー40体積%とを混合し、遊星式撹拌機〔株式会社シンキー製:あわとり練太郎(登録商標)AR-250、回転数2000rpm)にて混練し、各樹脂組成物を得た。
これら各樹脂組成物について、25℃での粘度を、回転式レオメーター〔アントンパール社製:MCR-302)を用いて以下の条件で測定した。
<条件>
・プレート形状:円形平板10mmφ
・試料厚み:1mm
・温度:25±1℃
・剪断速度:1.0/s
【0043】
(熱伝導率)
実施例1-4及び比較例1-3に係る各球状金属Siフィラーと球状アルミナフィラー〔デンカ株式会社製:「DAW-10」、「DAW-03」及び「ASFP-40」の混合物、(DAW-10):(DAW-03):(ASFP-40)=3/25/15(体積比)〕を57:43の体積比で混合して混合粉末を作成した。前記混合粉末をビスフェノールA型液状エポキシ樹脂〔エポキシ当量:184~194。三菱化学株式会社製:JER828〕に、前記混合粉末の割合が75体積%となるように充填して、遊星式撹拌機〔株式会社シンキー製:あわとり練太郎(登録商標)AR-250、回転数2000rpm〕にて混練した。予め80℃に加熱しておいたシリコーン製の型枠(2cm角×6mm厚)に得られた混合物を流し込み、真空加熱プレス機〔井元製作所社製:IMC-1674-A型〕で、80℃/1時間/3kN、150℃/1時間/5kN、200℃/0.5時間/7kNの順でプレス加熱硬化して、樹脂組成物を得た。
樹脂組成物の熱伝導率H(単位[W/(m・K)])は、熱拡散率T(単位[m/s])、密度D(単位[kg/m])、及び比熱容量C(単位[J/(kg・K)])の測定値を用いて、H=T×D×Cの計算式から算出した。熱拡散率は、前記硬化後の樹脂組成物を幅10mm×10mm×厚み1mmに加工し、レーザーフラッシュ法により求めた。測定装置はキセノンフラッシュアナライザ〔NETZSCH社製:LFA447 NanoFlash〕を用いた。比重はアルキメデス法を用いて求めた。比熱は、示差走査熱量計〔NETZSCH社製:DSC214〕を用いて測定した値を用いた。
以上の結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示されているように、実施例1-4に係る球状金属Si金属フィラーは、25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、Siの溶出量が100ppm以下であるため、化学的安定性、特に耐酸性により優れている。それにより、樹脂に配合した際に、化学的安定性、特に耐酸性により優れた樹脂組成物を与えることができる。
一方、比較例1-3に係る球状金属Si金属フィラーは、25℃、6mol/Lの塩酸水溶液に2時間浸漬した際に、Siの溶出量が100ppmより大きいため、本発明の構成を満たしていない。比較例1-3に係る球状金属Si金属フィラーを用いた樹脂組成物は、実施例1-4に係る球状金属Si金属フィラーを用いた樹脂組成物よりも化学的安定性、特に耐酸性に劣るということができる。
以上の結果より、本実施形態に係る球状金属Si金属フィラーは、化学的安定性、特に耐酸性に優れ、それにより、樹脂に配合した際に、化学的安定性、特に耐酸性により優れた樹脂組成物を与えることができることが確認できた。