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特開2024-127536コンプレッサ制御装置、および、防振装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127536
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】コンプレッサ制御装置、および、防振装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/20 20060101AFI20240912BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20240912BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F04B49/20
F16F15/08 V
F16F15/08 E
F25B1/00 361A
F25B1/00 371F
F25B1/00 371Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036750
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】522297236
【氏名又は名称】株式会社プロスパイラ
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】岡村 侑児
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】植木 哲
(72)【発明者】
【氏名】林 康平
【テーマコード(参考)】
3H145
3J048
【Fターム(参考)】
3H145AA27
3H145AA42
3H145BA38
3H145CA09
3H145DA05
3J048AA01
3J048BA02
3J048BA21
3J048CB22
3J048DA01
3J048DA07
3J048EA09
(57)【要約】
【課題】暖機が早い防振制御装置、および、防振装置を提供する。
【解決手段】ヒートポンプ装置1は、加振源としてのコンプレッサ30を備える。コンプレッサ30を含むモジュール20は、防振部材50(ゴム製のブッシュ51、52)を介して、車両フレーム40に弾性的に支持されている。コンプレッサ30の回転に起因して、モジュール20は、振動する。コンプレッサ30の回転数が共振回転数であるとき、モジュール20は、共振周波数で振動する。共振周波数において、防振部材50は自らの弾性により共振し、大きく変形する。防振部材50の大きい変形は、防振部材50の内部発熱による暖機を促進する。制御装置は、所定の運転条件が成立すると、コンプレッサ30を共振回転数で運転する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性をもつ防振部材(50)によって弾性的に支持されており、共振周波数において前記防振部材の変位を共振させる電動コンプレッサ(30)の回転数を制御するコンプレッサ制御装置において、
前記電動コンプレッサの回転に起因する振動が、前記共振周波数となるように、前記電動コンプレッサの回転数を共振回転数に調節する共振運転モードを有するコンプレッサ制御装置。
【請求項2】
前記共振運転モードは、前記防振部材の使用温度範囲のうち、低温範囲において実行される請求項1に記載のコンプレッサ制御装置。
【請求項3】
前記共振運転モードは、前記防振部材の温度(Tb)に応じて前記電動コンプレッサの前記共振回転数を設定するように実行される請求項1または請求項2に記載のコンプレッサ制御装置。
【請求項4】
前記共振運転モードにおける前記電動コンプレッサの回転数は、前記温度を入力変数とし、前記共振回転数を出力変数とするマップによって設定される請求項3に記載のコンプレッサ制御装置。
【請求項5】
前記防振部材は、前記電動コンプレッサ、または、前記電動コンプレッサを含むモジュールを車両に支持している請求項1または請求項2に記載のコンプレッサ制御装置。
【請求項6】
前記防振部材は、損失正接(tanδ)が0.1以下の低ロス材料である請求項1または請求項2に記載のコンプレッサ制御装置。
【請求項7】
さらに、前記防振部材の使用温度範囲のうち、低温範囲において、ヒートポンプ装置の熱出力を大きくするために前記電動コンプレッサの回転数を前記共振回転数より高める高能力運転モードを有する請求項1または請求項2に記載のコンプレッサ制御装置。
【請求項8】
前記熱出力によって温度調節される室内温度(Tr)が第1温度(Th1)以下であり、かつ、前記防振部材の温度(Tb)が第2温度(Th2)と前記第2温度より高い第3温度(Th3)との間にある場合に、前記共振運転モードを実行し、
前記熱出力によって温度調節される室内温度(Tr)が前記第1温度(Th1)以下であり、かつ、前記防振部材の温度(Tb)が前記第2温度(Th2)以下である場合に、前記高能力運転モードを実行し、
前記熱出力によって温度調節される室内温度(Tr)が前記第1温度(Th1)以下であり、かつ、前記防振部材の温度(Tb)が前記第3温度(Th3)以上である場合に、前記高能力運転モードを実行する請求項7に記載のコンプレッサ制御装置。
【請求項9】
弾性をもつ防振部材(50)によって電動コンプレッサ(30)、または、前記電動コンプレッサを含む機器(20)を弾性的に支持する防振装置において、
前記電動コンプレッサの回転数の調節可能範囲の一部において、前記電動コンプレッサの回転に起因する振動の周波数が、前記防振部材の変位が共振する共振周波数とほぼ一致している防振装置。
【請求項10】
前記電動コンプレッサの回転に起因する振動の周波数の範囲と、
前記防振部材の使用温度範囲のうち、低温範囲における前記共振周波数の範囲とが重複している請求項9に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、コンプレッサ制御装置、および、防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、加振源であるコンプレッサの防振装置を開示する。特許文献1では、コンプレッサを支える支持台を、損失係数の温度特性の異なるゴム材料からなるゴム部材を組み合わせた構成としている。
【0003】
特許文献2は、冷凍サイクル、とりわけヒートポンプサイクルを構成する複数の要素のいくつかを、モジュールとしてひとまとまりに組み立てる構造を提案している。
【0004】
先行技術文献の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-170584号公報
【特許文献2】特開2022-190675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術文献の構成では、ゴム温度の広い範囲にわたって、または、外気温度の広い範囲にわたって、装置の起動直後から良好な防振性能を得ることが困難な場合がある。例えば、装置は、防振装置が所定の温度において良好な防振性能を発揮するように計画される場合がある。この場合、防振装置の温度が計画温度より高い場合、または、低い場合には、期待される防振性能が得られない場合がある。例えば、外気温度が低い冬季の起動時において、十分な防振性能が発揮されない場合がある。
【0007】
さらに、特許文献2に見られるような装置を支持する防振装置は、この種の装置に想定されていた重量より格段に重い荷重において、所期の防振性能を発揮することが求められる。とりわけ、冬季など低温時に大きい熱出力を期待されるヒートポンプサイクルでは、コンプレッサの回転に起因する振動が問題となる。振動は、それ自身が、または、振動に起因する騒音が、利用者を不快にさせる場合がある。
【0008】
上述の観点において、または言及されていない他の観点において、コンプレッサ制御装置、および、防振装置にはさらなる改良が求められている。
【0009】
開示されるひとつの目的は、暖機が早いコンプレッサ制御装置、および、防振装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここに開示されたコンプレッサ制御装置は、弾性をもつ防振部材(50)によって弾性的に支持されており、共振周波数において防振部材の変位を共振させる電動コンプレッサ(30)の回転数を制御するコンプレッサ制御装置において、電動コンプレッサの回転に起因する振動が、共振周波数となるように、電動コンプレッサの回転数を共振回転数に調節する共振運転モードを有する。
【0011】
ここに開示されたコンプレッサ制御装置は、に電動コンプレッサの回転数を制御する。電動コンプレッサは、弾性をもつ防振部材によって弾性的に支持されている。よって、防振部材の弾性に起因して、共振周波数において防振部材の変位が共振する。電動コンプレッサは、回転するときに、加振源となる。コンプレッサ制御装置は、共振運転モードを有する。共振運転モードにおいて、電動コンプレッサの回転数は、共振回転数に調節される。共振回転数において、電動コンプレッサの回転に起因する振動の周波数が、共振周波数となる。この結果、電動コンプレッサの回転数を調節することにより、防振部材を共振させ、共振時の内部摩擦によって防振部材を発熱させて暖機を早めることができる。
【0012】
ここに開示された防振装置は、弾性をもつ防振部材(50)によって電動コンプレッサ(30)、または、電動コンプレッサを含む機器(20)を弾性的に支持する防振装置において、電動コンプレッサの回転数の調節可能範囲の一部において、電動コンプレッサの回転に起因する振動の周波数が、防振部材の変位が共振する共振周波数とほぼ一致している。
【0013】
ここに開示された防振装置によると、電動コンプレッサは、弾性をもつ防振部材によって弾性的に支持されている。よって、防振部材の弾性に起因して、共振周波数において防振部材の変位が共振する。電動コンプレッサは、回転するときに、加振源となる。コンプレッサ制御装置は、共振運転モードを有する。共振運転モードにおいて、電動コンプレッサの回転数は、所定の調節可能範囲において調節可能である。一方、防振部材の変位は、共振周波数において共振する。調節可能範囲の一部において、電動コンプレッサの回転に起因する振動の周波数が、共振周波数とほぼ一致している。この結果、共振周波数において、防振部材が共振し、内部摩擦によって防振部材が発熱して暖機を早める。
【0014】
この明細書において開示された複数の形態は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態の部分との対応関係を例示的に示すものであって、技術的範囲を限定することを意図するものではない。この明細書に開示される目的、特徴、および効果は、後続の詳細な説明、および添付の図面を参照することによってより明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るヒートポンプ装置のブロック図である。
図2】モジュールを示す模式的な側面図である。
図3】防振部材の温度と外気温度との関係を示すグラフである。
図4】防振部材の温度と材料特性との関係を示すグラフである。
図5】防振部材のロス(損失正接tanδ)と変形量との関係を示すグラフである。
図6】防振部材の温度と共振周波数との関係を示すグラフである。
図7】演算式を示す表である。
図8】制御装置の作動を示すフローチャートである。
図9】制御モード、防振材料温度、および、車内音の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
複数の実施形態が、図面を参照しながら説明される。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に、対応する部分および/または関連付けられる部分には、同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/または関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0017】
第1実施形態
図1において、ヒートポンプ装置1は、乗り物用の温度調節装置を提供する。ヒートポンプ装置1は、この開示における防振制御装置、および、防振装置を提供する。ヒートポンプ装置1は、冷媒を循環させ、冷媒の相変化を利用して熱を輸送する。ヒートポンプ装置1は、冷凍サイクル装置とも呼ばれる場合がある。ヒートポンプ装置1は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルである。温度調節装置は、温度調節対象物に冷熱、および/または、温熱を供給することにより、温度調節対象物の温度を調節する。温度調節装置が冷熱のみを提供する場合、ヒートポンプ装置1は、冷凍サイクル装置と呼ばれる場合がある。温度調節対象物は、空気、または、水等の液体の場合がある。温度調節対象物は、電気回路、または、バッテリ等の機器の場合がある。例えば、温度調節装置は、空調装置である。例えば、温度調節装置は、機器の冷却装置である。温度調節装置は、機器の加熱装置の場合がある。
【0018】
この実施形態では、ヒートポンプ装置1は、乗り物に適用されている。これに代えて、ヒートポンプ装置1は、ヒトが乗らない無人の移動体に適用されてもよい。さらに、移動体は、車両、船舶、および、航空機である場合がある。ヒートポンプ装置1は、土地に固定された建物に適用されてもよい。
【0019】
図1において、ヒートポンプ装置1は、空調装置2と、温度調節装置3とを提供する。空調装置2は、乗り物の一例としての車両の室内を空調する。空調装置2は、室内の温度を加熱、または、冷却する。空調装置2は、室内の温度を設定温度に調節する。さらに、空調装置2は、室内の湿度を調節する。温度調節装置3は、バッテリ16の温度を調節する。バッテリ16は、車両の駆動用のモータに電力を供給する高電圧二次電池である。温度調節装置3は、バッテリ16の温度を、バッテリ16が所期の機能を発揮できる温度範囲に調節する。温度調節装置3は、バッテリ16の温度を充電と放電とに適した温度帯に調節する。
【0020】
図1において、ヒートポンプ装置1は、制御装置4を備える。制御装置4は、電子制御装置(ECU)である。制御装置4は、制御対象としての構成部品を制御することによりヒートポンプ装置1を制御する。制御装置4は、予め定められた制御特性に基づいて、ヒートポンプ装置1を制御する制御方法を実行する。制御装置、または制御システムは、(a)if-then-else形式と呼ばれる複数の論理としてのアルゴリズム、または(b)機械学習によってチューニングされた学習済みモデル、例えばニューラルネットワークとしてのアルゴリズムによって提供される。
【0021】
制御装置は、少なくともひとつのコンピュータを含む制御システムによって提供される。制御システムは、データ通信装置によってリンクされた複数のコンピュータを含む場合がある。コンピュータは、ハードウェアである少なくともひとつのプロセッサ(ハードウェアプロセッサ)を含む。ハードウェアプロセッサは、下記(i)、(ii)、または(iii)により提供することができる。
【0022】
(i)ハードウェアプロセッサは、少なくともひとつのメモリに格納されたプログラムを実行する少なくともひとつのプロセッサコアである場合がある。この場合、コンピュータは、少なくともひとつのメモリと、少なくともひとつのプロセッサコアとによって提供される。プロセッサコアは、CPU:Central Processing Unit、GPU:Graphics Processing Unit、RISC-CPUなどと呼ばれる。メモリは、記憶媒体とも呼ばれる。メモリは、プロセッサによって読み取り可能な「プログラムおよび/またはデータ」を非一時的に格納する非遷移的かつ実体的な記憶媒体である。記憶媒体は、半導体メモリ、磁気ディスク、または光学ディスクなどによって提供される。プログラムは、それ単体で、またはプログラムが格納された記憶媒体として流通する場合がある。
【0023】
(ii)ハードウェアプロセッサは、ハードウェア論理回路である場合がある。この場合、コンピュータは、プログラムされた多数の論理ユニット(ゲート回路)を含むデジタル回路によって提供される。デジタル回路は、ロジック回路アレイ、例えば、ASIC:Application-Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、SoC:System on a Chip、PGA:Programmable Gate Array、CPLD:Complex Programmable Logic Deviceなどとも呼ばれる。デジタル回路は、プログラムおよび/またはデータを格納したメモリを備える場合がある。コンピュータは、アナログ回路によって提供される場合がある。コンピュータは、デジタル回路とアナログ回路との組み合わせによって提供される場合がある。
【0024】
(iii)ハードウェアプロセッサは、上記(i)と上記(ii)との組み合わせである場合がある。(i)と(ii)とは、異なるチップの上、または共通のチップの上に配置される。これらの場合、(ii)の部分は、アクセラレータとも呼ばれる。
【0025】
制御装置と信号源と制御対象物とは、多様な要素を提供する。それらの要素の少なくとも一部は、ブロック、モジュール、またはセクションと呼ぶことができる。さらに、制御システムに含まれる要素は、意図的な場合にのみ、機能的な手段と呼ばれる。
【0026】
図1において、ヒートポンプ装置1は、制御システムを提供するための複数のセンサと、複数のアクチュエータとを備える。複数のセンサは、空調運転を開始する指令を入力するスイッチを含む場合がある。複数のセンサは、少なくとも室内の空気温度を検出する温度センサを含む場合がある。複数のセンサは、少なくとも防振部材の温度を検出する温度センサを含む場合がある。複数のアクチュエータは、加振源としてのコンプレッサを回転させるモータ31を含む場合がある。複数のアクチュエータは、コンプレッサを回転させるモータ31の回転数を制御するインバータ回路等を含む制御装置4を含む場合がある。
【0027】
図1において、ヒートポンプ装置1は、少なくともひとつの冷却出力を提供する。さらに、ヒートポンプ装置1は、ひとつの冷却出力(冷熱)と、ひとつの加熱出力(温熱)とを提供することが望ましい。さらに、この実施形態では、ヒートポンプ装置1は、空調のためのひとつの冷却出力と、空調のためのひとつの加熱出力と、機器の温度調節のためのひとつの温度調節出力(冷熱、または、温熱)を提供する。温度調節出力は、冷却出力、または、加熱出力とすることができる。
【0028】
図1において、ヒートポンプ装置1は、非利用熱交換器としての室外熱交換器5を備える。室外熱交換器5は、コンデンサ、または、放熱器とも呼ばれる。室外熱交換器5は、室外の空気と、冷媒との熱交換を提供する。
【0029】
図1において、ヒートポンプ装置1は、複数の利用側熱交換器のひとつとしての第1室内熱交換器6を備える。第1室内熱交換器6は、蒸発器、または、冷却器とも呼ばれる。第1室内熱交換器6は、空調装置2の空調ケース7内に収容されている。空調ケース7は、送風ファンを含み、空調のための空気が流れるダクトを形成している。第1室内熱交換器6は、空調のための空気と冷媒との熱交換を提供する。空気は、室内に向けて送風される空気である。第1室内熱交換器6は、室内に供給される空気を冷却し、除湿する。第1室内熱交換器6は、ヒートポンプ装置1が提供する複数の熱出力のうち、空調のための冷却出力を提供する。
【0030】
この実施形態では、第1室内熱交換器6は、温度調節対象である空気と冷媒とを直接的に熱交換させる。これに代えて、第1室内熱交換器6は、後述の加熱媒体系統のように間接的な熱交換を提供するように構成されてもよい。この場合、第1室内熱交換器6は、空気と熱交換する熱媒体と熱交換するように構成される。
【0031】
図1において、ヒートポンプ装置1は、複数の利用側熱交換器のひとつとしての第1媒体熱交換器8を備える。第1媒体熱交換器8は、凝縮器、または、加熱器とも呼ばれる。第1媒体熱交換器8は、加熱媒体系統9を循環する熱媒体と冷媒との熱交換を提供する。加熱媒体系統9は、水等の熱媒体を循環させる循環系統である。加熱媒体系統9は、熱媒体を循環させるポンプ10を備える。加熱媒体系統9は、第2室内熱交換器11を備える。第2室内熱交換器11は、加熱器とも呼ばれる。第2室内熱交換器11は、空調装置2の空調ケース7内に収容されている。第2室内熱交換器11は、空調のための空気と熱媒体との熱交換を提供する。第2室内熱交換器11は、室内に供給される空気を加熱する。この結果、ヒートポンプ装置1は、加熱媒体系統9により室内に供給される空気を間接的に加熱する。加熱媒体系統9は、ヒートポンプ装置1が提供する複数の熱出力のうち、空調のための加熱出力を提供する。
【0032】
図1において、第1室内熱交換器6は、第2室内熱交換器11より上流側に配置されている。第2室内熱交換器11は、第1室内熱交換器6の下流側に配置されている。第1室内熱交換器6を通過した空気の少なくとも一部が第2室内熱交換器11を通過する。室内への吹き出し空気の温度は、加熱媒体系統9における熱媒体の流量によって調節することができる。また、室内への吹き出し空気の温度は、空調ケース7内に配置されたエアミックスドアにより調整されてもよい。エアミックスドアは、第2室内熱交換器11を通過する空気量と、第2室内熱交換器11をバイパスする空気量とを調節する。
【0033】
図1において、ヒートポンプ装置1は、複数の利用側熱交換器のひとつとしての第2媒体熱交換器12を備える。第2媒体熱交換器12は、チラー、蒸発器、または、冷却器とも呼ばれる。第2媒体熱交換器12は、冷却媒体系統13を循環する熱媒体と冷媒との熱交換を提供する。冷却媒体系統13は、水等の熱媒体を循環させる循環系統である。冷却媒体系統13は、熱媒体を循環させるポンプ14を備える。冷却媒体系統13は、機器熱交換器15を備える。機器熱交換器15は、冷却器とも呼ばれる。機器熱交換器15は、温度調節対象としてのバッテリ16と熱的に結合するように配置されている。機器熱交換器15は、直接的に、または、間接的にバッテリ16と熱媒体との熱交換を提供する。機器熱交換器15は、バッテリ16を冷却する。この結果、ヒートポンプ装置1は、冷却媒体系統13によりバッテリ16を間接的に冷却する。冷却媒体系統13は、ヒートポンプ装置1が提供する複数の熱出力のうち、機器のための冷却出力を提供する。
【0034】
なお、第2媒体熱交換器12は、ヒートポンプ装置1の凝縮器、または、加熱器として機能してもよい。この場合、冷却媒体系統13は、バッテリ16を冷却、または、加熱するから、温度調節媒体系統13とも呼ばれる。この結果、ヒートポンプ装置1は、温度調節媒体系統13によりバッテリ16の温度を間接的に調節する。温度調節媒体系統13は、ヒートポンプ装置1が提供する複数の熱出力のうち、機器のための冷却出力、および、加熱出力を提供する。
【0035】
図1において、ヒートポンプ装置1は、ヒートポンプを構成するためのサイクル機器を含むモジュール20を備える。モジュール20は、サイクル機器を接続するための管路22を少なくとも含み、管路モジュールとも呼ばれる。例えば、モジュール20は、管路22を提供するアルミニウム製のダイカスト部品を有する。サイクル機器は、ヒートポンプ装置1を構成するための複数の機器を含む。サイクル機器は、例えば、コンプレッサ、弁装置、アキュムレータ、内部熱交換器、および、媒体熱交換器の少なくともひとつを含む場合がある。
【0036】
モジュール20において、管路22とサイクル機器とは、溶接、または、ロウ付けといった分解不能な連結部材によって連結される場合がある。さらに、モジュール20において、管路22とサイクル機器とは、ボルト、配管継手、または、スナップフィットといった分解可能な連結部材によって連結される場合がある。いずれにおいても、モジュール20は、ひとまとまりの部品として作業者が取り扱い可能な形態を備えている。
【0037】
図1において、この実施形態では、モジュール20は、少なくともコンプレッサ30を含む。コンプレッサ30は、冷媒を圧縮し、冷媒を循環させる機器である。コンプレッサ30は、コンプレッサ30を回転させるモータ31を含む。コンプレッサ30とモータ31とは、電動コンプレッサと呼ばれる場合がある。さらに、モジュール20は、弁装置を備える場合がある。弁装置は、冷媒を蒸発させるための膨張弁を含む場合がある。さらに、弁装置は、サイクル内における冷媒の流れを制御する開閉弁、3方切替弁、開度調節弁などを含む場合がある。さらに、モジュール20は、サイクルにおける冷媒溜りを提供するアキュムレータを備える場合がある。さらに、モジュール20は、第1媒体熱交換器8を備える場合がある。さらに、モジュール20は、第2媒体熱交換器12を備える場合がある。
【0038】
モジュール20の形態、および、モジュール20に含まれるサイクル機器に関して、特開2022-190675号公報(特許文献2)を参照することができる。特開2022-190675号公報の記載内容は、この明細書における技術的要素の説明として、参照により援用される。
【0039】
図2は、モジュール20の模式的な側面図である。以下の説明において、モジュール20の語は、複数のサイクル機器を含む一体化された機器を指している。モジュール20は、モジュールボディ21内に形成された複数の管路22を有する。モジュールボディ21は、アルミニウム製のダイカスト部品、または、配管を埋設した樹脂部品によって提供されている。複数の管路22は、ヒートポンプサイクルのための冷媒通路を提供する。複数の管路22は、モジュール20に配置された複数の機器を流体的に接続している。
【0040】
図2において、モジュール20は、コンプレッサ30を備える。モジュール20は、コンプレッサ30を支持するためのブラケット23を備える。モジュール20は、複数のブラケット23を備える。一方、コンプレッサ30も支持用のブラケット32を備える。コンプレッサ30は、複数のブラケット32を備える。ブラケット32は、コンプレッサ30の回転軸AXから径方向へ延びだしている。ブラケット32は、コンプレッサ30の円柱状ボディから径方向へ突出するように延びだしている。この結果、コンプレッサ30の回転に伴う振動は増幅されてモジュール20に伝達される場合がある。コンプレッサ30は、ブラケット32とブラケット23とが機械的に連結されることによって、モジュール20に支持されている。
【0041】
図2において、ブラケット23とブラケット32との間には、防振部材50としてのゴム製のブッシュ51が配置されている。ブッシュ51は、モジュール20とコンプレッサ30との間における振動の伝達を抑制する弾性部材である。ブッシュ51は、主として、コンプレッサ30の回転に伴う振動のモジュール20への伝達を抑制するために設けられている。よって、コンプレッサ30は、モジュール20に弾性的に支持されている。
【0042】
図2において、モジュール20は、モジュール20とコンプレッサ30とを流体的に連結する配管24を備える。配管24内の通路は、モジュール20内の管路22に流体的に連結されている。モジュール20は、冷媒を貯留する冷媒容器25を備える。冷媒容器25は、アキュムレータとも呼ばれる。モジュール20は、モジュール20と冷媒容器25とを流体的に連結する配管26を備える。配管26内の通路は、モジュール20内の管路22に流体的に連結されている。モジュール20は、弁装置27を備える。モジュール20は、複数の弁装置27を備える。弁装置27は、例えば、冷媒を膨張させる膨張弁である場合がある。さらに、モジュール20は、第2媒体熱交換器12を備える。
【0043】
図2において、コンプレッサ30をはじめとするサイクル機器は、モジュールボディ21にボルトなどの連結部材によって連結されている。この結果、ひとかたまりの部品として取り扱い可能なサイクルモジュールが提供されている。
【0044】
図2において、モジュール20は、ブラケット28を備える。ブラケット28は、モジュールボディ21の一部として、モジュールボディ21と連続する材料によって提供されている。ブラケット28は、固定対象としての車両フレーム40にモジュール20を固定するための固定部を提供している。車両フレーム40も、ブラケット41を備える。モジュール20は、ブラケット28とブラケット41とが機械的に連結されることによって、車両フレーム40に支持されている。
【0045】
図2において、ブラケット28とブラケット41との間には、防振部材50としてのゴム製のブッシュ52が配置されている。ブッシュ52は、モジュール20と車両フレーム40との間における振動の伝達を抑制する弾性部材である。ブッシュ52は、主として、コンプレッサ30の回転に伴う振動の車両フレーム40への伝達を抑制するために設けられている。よって、コンプレッサ30は、車両フレーム40に対して、ブッシュ51とブッシュ52とを介して、弾性的に支持されている。また、モジュール20は、車両フレーム40に対して、ブッシュ52を介して、弾性的に支持されている。
【0046】
この実施形態では、防振部材50は、ゴム製である。これに代えて、防振部材50は、エラストマ製、金属製のスプリング等によって提供されてもよい。ブッシュ51、52は、板状、円柱状、円筒状等の多様な形状によって提供することができる。
【0047】
以下の説明において、防振部材50は、主としてブッシュ52を指している。モジュールボディ21に対するコンプレッサ30の振動を論ずる場合は、防振部材50は、主としてブッシュ51を指す。防振部材50は、自らの弾性的な特性に起因して共振し、共振状態において相対的に大きく変形しうる弾性体である。これに対して、コンプレッサ30、および、車両フレーム40は、格段に変形しにくく、その変形量をゼロ(0)とみなすことができる剛体である。
【0048】
図2において、コンプレッサ30は、弾性をもつ防振部材50によって弾性的に支持されている。コンプレッサ30は、共振周波数frにおいて防振部材50の変位を共振させる。コンプレッサ30の振動に起因する防振部材50の変位は、共振することで最大化される。この実施形態では、防振部材50による支持構造が防振装置を提供する。防振装置は、コンプレッサ30、または、コンプレッサ30を含む機器としてのモジュール20は、弾性をもつ防振部材50によって弾性的に支持している。
【0049】
図1において、ヒートポンプ装置1は、運転されると、複数の運転モードを提供する。複数の運転モードは、例えば、車室内を冷房する冷房モードを含む。複数の運転モードは、例えば、車室内を冷房すると同時に、バッテリ16を冷却する冷房冷却モードを含む。複数の運転モードは、例えば、車室内を暖房する暖房モードを含む。複数の運転モードは、例えば、車室内を暖房すると同時に、バッテリ16を冷却する暖房冷却モードを含む。複数の運転モードは、例えば、バッテリ16を冷却するだけの冷却モードを含む。さらに、複数の運転モードは、例えば、冷房、または、暖房に代えて、冷房除湿、または、暖房除湿を提供するモードを含む場合がある。
【0050】
これら複数の運転モードのそれぞれにおいて、コンプレッサ30が運転される。コンプレッサ30が運転される運転モードにおいて、図1に図示されたモータ31が回転し、コンプレッサ30の冷媒圧縮機構が回転する。このモータ31の回転、および、冷媒圧縮機構の回転は、コンプレッサ30の回転と呼ばれる。コンプレッサ30の回転に起因して、コンプレッサ30が振動する。コンプレッサ30は、加振源である。
【0051】
図2において、コンプレッサ30は、モジュール20において、モジュールボディ21の上にブッシュ51を介して弾性的に支持されている。コンプレッサ30の振動は、コンプレッサ30からブッシュ51を経由してモジュール20に伝達される。コンプレッサ30とモジュールボディ21とはブッシュ51によって弾性的に連結されている。よって、コンプレッサ30は、モジュールボディ21に対して相対的に振動する。さらに、コンプレッサ30は、ブッシュ51の弾性に起因して、モジュールボディ21に対して共振的に振動する場合がある。
【0052】
図2において、コンプレッサ30を含むモジュール20は、車両において、車両フレーム40の上にブッシュ52を介して弾性的に支持されている。コンプレッサ30を含むモジュール20の振動は、ブッシュ52を経由して、車両フレーム40へ伝達される。コンプレッサ30を含むモジュール20と車両フレーム40とはブッシュ52によって弾性的に連結されている。よって、コンプレッサ30を含むモジュール20は、車両フレーム40に対して相対的に振動する。さらに、コンプレッサ30を含むモジュール20は、ブッシュ52の弾性に起因して、車両フレーム40に対して共振的に振動する場合がある。
【0053】
図2において、コンプレッサ30の振動は、それ自身の振動、または、それに起因する騒音が、車両の利用者に不快感を与える場合がある。また、コンプレッサ30の振動に起因するモジュール20の振動は、それ自身の振動、または、それに起因する騒音が、車両の利用者に不快感を与える場合がある。さらに、コンプレッサ30の振動に起因する車両フレーム40の振動は、それ自身の振動、または、それに起因する騒音が、車両の利用者に不快感を与える場合がある。加えて、コンプレッサ30の振動に起因する各部の共振も、車両の利用者に不快感を与える場合がある。
【0054】
図2において、ブッシュ51、52を含む防振部材50は、弾性的に変形することにより振動の伝達を抑制する。防振部材50の性質は、弾性、または、粘弾性と呼ばれる場合がある。この実施形態では、粘弾性を含めて弾性と呼ぶ。防振部材50の振動に対する変形しやすさ、振動に対する柔らかさは、温度特性を有している。一般的に、防振部材50は、低温時に変形しにくく、高温時に変形しやすい。
【0055】
図3は、防振部材の温度Tbと外気温度Tamとの関係を示す。ヒートポンプ装置1の起動時における防振部材50の温度Tbは、外気温度Tamに依存していると考えられる。このため、外気温度Tamが低い地方、または、冬季などの低温時には、ヒートポンプ装置1が起動された直後において、防振部材50が所期の防振効果を発揮しない場合がある。さらに、ヒートポンプ装置1が起動された直後は、比較的大きい熱出力が求められることがある。例えば、ヒートブースト運転モードなどと呼ばれる最大暖房能力を発揮させる運転モードが実行される場合がある。最大暖房能力を発揮させる運転モードにおいては、コンプレッサ30が比較的高い回転数で運転される。ひとつの例では、コンプレッサ30は最高回転数Nmで運転される。この場合、コンプレッサ30の振動が、ブッシュ51、52によって減衰されることなく伝達され、振動、または、騒音が、利用者に感得されやすい。
【0056】
図4は、防振部材の温度Tbと材料特性Kとの関係を示す。実線は、高ロス材料Hの特性を示す。破線は、低ロス材料Lの特性を示す。材料特性は、剛性である。剛性は、静的バネ定数として評価される場合がある。ロスは、損失正接tanδであって粘弾性を評価する指標である。高ロス材料Hは、低ロス材料Lよりロスが高い材料である。防振部材50は、温度Tbが低くなるほど、高い剛性Kを示す。材料特性としての剛性Kは、低温ほど高くなる特性を有している。同じ温度Tbであれば、低ロス材料Lよりも高ロス材料Hのほうが、高い剛性Kを発揮する。このことから、剛性Kが高い領域では、防振部材50は十分に振動減衰効果を発揮することができない。
【0057】
外気温度Tamが低く、防振部材50の温度Tbが低くなりやすい状態では、防振部材50の温度Tbを上昇させる必要がある。この実施形態では、コンプレッサ30の回転に伴う振動による共振的な振動によって、防振部材50を比較的大きく変形させる。この結果、防振部材50の内部における摩擦熱によって防振部材50の温度が上昇し、振動減衰能力が高められる。共振的な振動は、コンプレッサ30の挙動として現れる場合がある。また、共振的な振動は、コンプレッサ30を含むモジュール20の挙動として現れる場合がある。
【0058】
図5は、防振部材50のロス(損失正接tanδ)と変形量Wとの関係を示す。防振部材50は、ロスが高いほど、変形量Wが小さい。すなわち、ロスL1の材料は、変形量がW2である。これに対して、ロスがより低いロスL2の材料は、変形量がW1である。このため、ロスが低い材料を利用することで、共振に伴って大きな変形量を得ることができ、内部摩擦によって大きな温度上昇を得ることができる。しかも、図4で説明したように、ロスが高い材料(高ロス材料H)は、低温になるほど、剛性Kが急激に増加する。このため、ロスが低い材料は、低温のときにも大きな変形量を得ることができる。よって、ロスが比較的低い材料を利用することが望ましい。具体的には、損失正接tanδ=0.1以下の材料が望ましい。
【0059】
図6は、防振部材の温度Tbと共振周波数frとの関係を示す。実線は、高ロス材料Hの特性を示す。破線は、低ロス材料Lの特性を示す。防振部材50は、温度Tbが低くなるほど、高い共振周波数frを示す。例えば、防振部材50の温度TbがTb1とTb2との間において変化した場合を想定する。この場合、高ロス材料Hの共振周波数frの変動幅fHは、低ロス材料Lの共振周波数frの変動幅fLより格段に大きい。温度変化に対する高ロス材料Hの共振周波数frの変動幅は、温度変化に対する高ロス材料Hの共振周波数frの変動幅より大きい。このため、共振周波数frを変化させる範囲が過度に広くなる。加振源としてのコンプレッサ30の回転数Ncの調整可能範囲は、限られている。このため、共振周波数frの変動幅は、小さいことが望ましい。この観点から、低ロス材料Lの利用が望ましい。
【0060】
ここで、防振部材50は、予め想定された使用温度範囲において使用されることを想定して選定されている。使用温度範囲は、例えば、極低温としての-50°Cから、高温としての+60°Cの範囲である。なお、使用温度範囲は、任意に設定することができる。この使用温度範囲のうち、低温範囲において防振部材50を共振させることで、防振部材50の暖機が促進される。コンプレッサ30の回転に起因する振動の周波数は、コンプレッサ30の回転数に依存して所定の範囲において調節可能である。よって、コンプレッサ30の回転に起因する振動の周波数の範囲と、防振部材50の使用温度範囲のうち、低温範囲における共振周波数frの範囲とが重複している。防振部材50は、この重複範囲をもつことにより、コンプレッサ30の振動を利用して、共振的に暖機を促進することができる。
【0061】
図7の式1は、共振周波数frの演算式である。式1は、fr=1/(2π)√(K/M)とも表記できる。式1は、fr=1/(2π)(K/M)^1/2とも表記できる。変数Kは防振部材50の静的バネ定数(N/m)(剛性)である。変数Mは、対象物の重量(Kg)である。対象物の重量(Kg)には、ブッシュ51について検討する場合には、コンプレッサ30の重量があてられる。また、対象物の重量(Kg)には、ブッシュ52について検討する場合には、コンプレッサ30を含むモジュール20の重量があてられる。この実施形態では、重量Mは、モジュール20に含まれる複数のサイクル機器の合計重量である。モジュール20の重量は、10Kg以上50Kg以下の範囲とすることができ、20Kg以上40Kg以下の範囲とすることができる。複数のサイクル機器には、コンプレッサ30が含まれている。一般的な電動コンプレッサの重量が10Kg以下であることを考慮すると、この実施形態では、格段に重いモジュール20が防振部材50によって弾性的に支持されている。この実施形態では、ブッシュ52を共振により大きく変形させ、ブッシュ52の温度上昇を促進するように防振装置、および、コンプレッサ制御装置が設計されているからである。
共振周波数frの設定は、モジュール20に含まれる一部のサイクル機器だけで実施されてもよい。例えば、モジュールボディ21と一部のサイクル機器だけが、防振部材50(ブッシュ52)上において振動可能なモジュール20の共振の支配的な要素となる場合がある。
【0062】
図7の式2は、コンプレッサ30の回転数Ncにおけるn次成分周波数fnを示す。次数nは、1以上の自然数である。式2は、fn=Nc/60×nとも表記できる。コンプレッサ30の振動成分のうち主要なn次成分周波数fnを共振周波数frに一致させることにより、n次成分周波数fnを利用して、防振部材50を比較的大きく振動させることができる。例えば、次数nは、1とすることができる。また、次数nは、高調波における共振を対象として、2、3、4などに設定されてもよい。この結果、防振部材50の比較的大きい振動による内部摩擦によって防振部材50の温度Tbを急速に高めることができる。
【0063】
図7の式3は、防振部材50における変形量、すなわち振幅xを評価する演算式である。式3は、x=a/(2πf)^2とも表記できる。aは、加速度(m/s^2)である。ここでは、aは実験的に求めた一定値があてられる。fは、振動の周波数(Hz)である。
【0064】
コンプレッサ30を所定の目標回転数Ntgで運転することにより、コンプレッサ30の振動のn次成分周波数fnと、共振周波数frとをほぼ一致させることができる。これにより、防振部材50の振幅をほぼ最大化することができる。
【0065】
図6に戻り、防振部材50の温度Tbが徐々に上昇する場合、共振周波数frは徐々に低下する。よって、長い期間にわたって共振状態を維持するためには、防振部材50の温度Tbの変化(上昇)に追従して、コンプレッサ30の目標回転数ftを変化させる必要がある。
【0066】
コンプレッサ30の回転数Ncは、最低回転数Nminから最高回転数Nmaxにわたる調節可能範囲において調節可能である。最低回転数Nminと最高回転数Nmaxとは、ヒートポンプ装置1を機能させることが可能な回転数として設定されている。この実施形態では、調節可能範囲の一部において、コンプレッサ30の回転に起因する振動の周波数が、防振部材50の変位が共振する共振周波数frとほぼ一致している。この「ほぼ一致」は、コンプレッサ30の回転に起因する振動が、防振部材50を共振させる誤差範囲を許容している。
【0067】
図8は、制御装置4の作動を示すフローチャートである。制御装置4は、この開示におけるコンプレッサ制御装置を提供する。制御装置4は、コンプレッサ30の回転数を制御する。フローチャートは、ヒートポンプ装置1の運転開始から繰り返し実行される。ステップ100において、ヒートポンプ装置1の運転が開始されると、制御装置4がプログラムの実行を開始する。
【0068】
制御装置4は、ステップ101において、複数のセンサから、ヒートポンプ装置1の運転状態を示す入力信号を取得する。入力信号には、室内温度Trを示す信号が含まれている。入力信号には、防振部材50の温度Tbを示す信号が含まれている。なお、温度Tbは、直接的に検出されてもよいし、間接的に推定されてもよい。例えば、防振部材50に直接的に温度センサを設けることができる。これに代えて、例えば、防振部材50の温度Tbは、外気温度Tamを起点として、所定の安定温度まで徐々に上昇するように推定されてもよい。さらに、入力信号には、コンプレッサ30の回転数を示す信号が含まれている。なお、回転数は、直接的に検出されてもよいし、間接的に推定されてもよい。例えば、コンプレッサ30に直接的に回転数センサを設けることができる。これに代えて、例えば、モータ31を駆動するインバータ回路の駆動信号から回転数を推定してもよい。
【0069】
制御装置4は、ステップ102において、車内温度Trと第1温度Th1とを比較する。ここでは、車内温度Trが第1温度Th1より高いか否かが判定される。第1温度Th1は、急速な暖房が必要か否かを判定するための温度である。急速な暖房は、例えば、ヒートブースト運転モードと呼ばれる最大の暖房能力によって提供される。車内温度Trが第1温度Th1より高い場合(Th1<Tr)、処理はステップ103へ進む。車内温度Trが第1温度Th1以下である場合(Th1≧Tr)、処理はステップ105へ進む。
【0070】
制御装置4は、ステップ103において、必要な熱出力を演算し、その必要な熱出力を得るためのコンプレッサ30の回転数を設定する。必要な熱出力を得るためのコンプレッサ30の回転数は、熱出力回転数と呼ばれる。熱出力回転数は、空調のための熱出力をえるために必要な回転数ばかりではなく、バッテリ16の温度を適切に維持するための熱出力を含む。また、熱出力には、冷熱の供給と、温熱の供給との両方が含まれている。
【0071】
制御装置4は、ステップ104において、ヒートポンプ装置1を通常運転する。ここでは、ステップ103で設定された熱出力回転数でコンプレッサ30が運転される。これにより、ヒートポンプ装置1は、快適な室内空間へ接近させ、維持する空調制御と、バッテリ16の温度制御とを実行する。
【0072】
ステップ102からステップ105へ分岐した場合、制御装置4は、ステップ105において、防振部材50の温度Tbと、第2温度Th2、および、第3温度Th3とを比較する。ここでは、温度Tbが、第2温度Th2と第3温度Th3との間にあるか否かが判定される。第3温度Th3は、第2温度Th2より高い(Th2<Th3)。温度Tbが、第2温度Th2と第3温度Th3との間にある場合(Th2<Tb<Th3)、処理はステップ106へ進む。温度Tbが、第2温度Th2と第3温度Th3との間にない場合(Th2≧Tb、または、Tb≧Th3)、処理はステップ108へ進む。
【0073】
制御装置4は、ステップ106において、防振部材50の温度Tbと、図6、および、図7の式1とに基づいて共振周波数frを設定する。図6、および、図7の式1は、マップとして制御装置4に格納することができる。この場合、マップは、防振部材50の温度Tbを入力変数とし、共振周波数frを出力変数とする温度-共振周波数マップである。ステップ106では、温度-共振周波数マップを参照することにより、温度Tbに応じた共振周波数frが設定される。この場合、共振運転モードにおけるコンプレッサ30の回転数Ncは、温度Tbを入力変数とし、共振回転数Nrを出力変数とするマップによって設定される。
【0074】
ステップ106は、図6に示される防振部材50の温度依存性を温度-特性マップとして制御装置4に格納する場合がある。この場合、制御装置4は、温度-特性マップから、防振部材50の静的バネ定数K(N/m)を設定する。さらに、制御装置4は、式1の演算を実行することにより共振周波数frを設定する。
【0075】
さらに、制御装置4は、ステップ106において、共振周波数frが、コンプレッサ30の振動成分のうち主要なn次成分周波数fnとほぼ一致するように、コンプレッサ30の共振回転数Nrを設定する。共振周波数frと、n次成分周波数fnとは、完全に一致することが望ましいが、防振部材50を加熱する効果が認められる範囲で誤差を有していてもよい。次数nは、防振部材50を加熱する効果を勘案して選定される。
【0076】
制御装置4は、コンプレッサ30の回転数Ncに、共振周波数frに相当するうなり成分を重畳してもよい。例えば、コンプレッサ30の回転数Ncを、10Hzから100Hz程度の低周波によって変調することにより、モジュール20に共振周波数frの振動を発生させることができる。コンプレッサ30の回転数Ncを過度に低くすると、熱出力が損なわれる。これに対して、うなり成分を重畳することにより、共振周波数frの挙動を発生させる場合には、熱出力を維持しながら、防振部材50の暖機を促進することができる。
【0077】
制御装置4は、ステップ107において、共振運転モードでコンプレッサ30を運転する。このとき、コンプレッサ30は、ヒートポンプ装置1として利用可能な最高回転数Nmより低い共振回転数Nrで運転される(Nm>Nr)。コンプレッサ制御装置としての制御装置4は、共振運転モードを有している。制御装置4は、共振運転モードにおいて、コンプレッサ30の回転に起因する振動が、共振周波数frとなるように、コンプレッサ30の回転数Ncを共振回転数Nrに調節する。共振運転モードは、防振部材50の使用温度範囲のうち、低温範囲において実行される。しかも、共振モードは、防振部材50が暖機されていない起動初期においてのみ実行される。この実施形態では、防振部材50の使用温度範囲のうち、低温範囲は、防振部材50の温度Tbが第1温度Th1未満であって、かつ、使用温度範囲の最低温度(例えば、-50°C)より高い範囲である場合がある。さらに、上記低温範囲は、防振部材50の温度Tbが0°C以下の範囲である場合がある。
【0078】
共振運転モードは、温度Tbが第2温度Th2と第3温度Th3との間にある期間に実行される。例えば、温度Tbが第2温度Th2から徐々に上昇して、第3温度Th3に到達するまでの期間において、共振運転モードが実行される。この共振運転モードの期間において、共振回転数Nrは、温度Tbの上昇に伴って更新され続ける。共振運転モードは、防振部材50の温度Tbに応じてコンプレッサ30の共振回転数Nrを設定するように実行される。この結果、共振運転モードが継続される期間にわたって、防振部材50が比較的大きく振動し、内部発熱によって加熱され続ける。よって、防振部材50の温度Tbを、第2温度Th2から第3温度Th3に到達するまでの範囲において急速に上昇させることができる。
【0079】
この実施形態では、防振部材50の温度Tbが第2温度Th2と第3温度Th3との間にある期間において、温度Tbが変化しても、温度Tbに応じた共振回転数が設定される。防振部材50の特性、特に剛性などは、温度Tbの変化にしたがってずれる。この実施形態では、温度Tbに応じた共振回転数が繰り返して設定される。よって、防振部材50(ブッシュ52)は、所定の期間にわたって、共振的な振動を許容し続ける。防振部材50(ブッシュ52)は、共振による比較的な大きい変形によって、自己発熱し、防振部材50の温度上昇を促進する。しかも、防振部材50は、共振状態を継続的に維持する。この結果、防振部材50は、高い防振効果を発揮しうる第3温度Th3以上の温度帯へ早期に暖機される。
【0080】
防振部材50の温度Tbが第2温度Th2以下である場合、制御装置4は、ステップ108において、高能力運転モードを実行する。高能力運転モードでは、コンプレッサ30の目標回転数Ntgがその時点で利用可能な最高回転数Nmaxに設定される。高能力運転モードは、例えば、車室内の温度を急速に高める急速暖房を提供する。高能力運転モードは、例えば、ヒートブースト運転モードとも呼ばれる。したがって、車室内温度Trが第1温度Th1より低く、かつ、防振部材50の温度Tbが第2温度Th2以下である場合、制御装置4は、共振運転モードを実行することなく、高能力運転モードを実行する。
【0081】
防振部材50の温度Tbが第3温度Th3以上である場合、制御装置4は、ステップ108において、高能力運転モードを実行する。したがって、車室内温度Trが第1温度Th1より低く、かつ、防振部材50の温度Tbが第3温度Th3以上である場合、制御装置4は、共振運転モードを実行することなく、高能力運転モードを実行する。このように、コンプレッサ制御装置としての制御装置4は、高能力運転モードを有する。高能力運転モードは、防振部材50の使用温度範囲のうち、低温範囲において、ヒートポンプ装置1の熱出力を大きくするためにコンプレッサ30の回転数Ncを共振回転数Nrより高める。
【0082】
制御装置4は、熱出力によって温度調節される室内温度Trが第1温度Th1以下であり(ステップ102)、かつ、防振部材50の温度Tbが第2温度Th2と第2温度より高い第3温度Th3との間にある場合に、共振運転モードを実行する。制御装置4は、熱出力によって温度調節される室内温度Trが第1温度Th1以下であり、かつ、防振部材50の温度Tbが第2温度Th2以下である場合に、高能力運転モードを実行する。制御装置4は、熱出力によって温度調節される室内温度Trが第1温度Th1以下であり、かつ、防振部材50の温度Tbが第2温度Th2より高い第3温度Th3以上である場合に、高能力運転モードを実行する。高能力運転モードにおいて共振運転モードを実行することで、高能力運転モードによる熱出力の効果と、共振運転モードによる暖機促進による低騒音化の効果とを両立することができる。
【0083】
ステップ102は、空調対象である室内空気の低温環境であることを判定する制御装置4の機能を提供する。ステップ102は、空調、特に暖房運転における初期であることを判定する制御装置4の機能を提供する。ステップ105は、防振部材50の温度Tbが所定温度(第3温度Th3)未満の低温状態にあるか否かを判定する制御装置4の機能を提供する。さらに、ステップ105は、防振部材50の温度Tbが所定温度(第2温度Th2)未満の極低温状態にあるか否かを判定する制御装置4の機能を提供する。外気温度Tamは、車内温度Tr、および、防振部材50の温度Tbの両方に影響する。暖房の開始時には、車内温度Trが外気温度Tamに等しく、防振部材50の温度Tbも外気温度Tamに等しくなる場合がある。このため、車内温度Trが第1温度Th1以下となるような低温環境では、防振部材50の温度Tbも第3温度Th3未満の低温状態にある場合が想定される。この場合、防振部材50の温度Tbが第2温度Th2未満の極低温状態では、外気温度Tamも極低温であると考えられるから、振動または騒音を許容しても、暖房を促進するためにステップ108が実行される。一方、防振部材50の温度Tbが第2温度Th2以上第3温度Th3未満の低温状態では、外気温度Tamも低温であるか、または、防振部材50が暖機過程にあると考えられるから、暖房能力の低下を許容して、振動または騒音の抑制を図るようにステップ107が実行される。また、第1温度Th1は、高能力運転の要否を判定するための閾値でもある。この場合、第2温度Th2を第1温度Th1以下に設定することで、高能力運転を実行した後に、共振運転を実行し、再び高能力運転を実行できる。これに代えて、第2温度Th2と第3温度Th3との両方を第1温度Th1以下に設定してもよい(Th2<Th3≦Th1)。
【0084】
なお、車内温度Trと、防振部材50の温度Tbとは、車内温度Trと温度Tbとが外気温度Tamに対して平衡している状態(例えば、Tam=Tr=Tb)から変化する場合に、相関関係を有する場合がある。例えば、外気温度Tamが暖房を必要とするほどに低温である場合を考えることができる。外気温度Tamが暖房を必要とするほどに低温である場合は、防振部材50の使用温度範囲のうちの低温範囲とされる場合がある。この場合、車内温度Trは暖房が開始されてから徐々に上昇し、常温付近における利用者によって設定された設定温度において安定する。一方で、温度Tbは、防振部材50自身の発熱、および、周囲の機器からの受熱によって徐々に上昇し、外気温度Tamに応じて決まる平衡温度において安定する。よって、車内温度Trと温度Tbとの変化は、低温から徐々に上昇する傾向に関して、相関関係を有しているといえる。このような相関関係は、予め実験的に計測することにより把握することができる。この実施形態では、車内温度Trと温度Tbとが相関関係を有する場合に、防振部材50の暖機を促進して振動伝達の抑制、騒音の抑制が図られるように、第1温度Th1、第2温度Th3、および、第3温度Th3が設定されている。
【0085】
このように、防振部材50の温度Tbが特定範囲にある場合にのみ、共振運転モードが提供される。防振部材50の温度Tbが特定範囲にない場合、共振運転モードが提供されることなく、高能力運転モードが提供される。よって、共振現象の利用による防振部材50の加熱効果が提供されない範囲では、高能力運転モードにより車内の暖房を優先することができる。また、別の観点では、防振部材50の加熱効果が得られる範囲のみにおいて、共振現象の利用により防振部材50を効率的に加熱することができる。
【0086】
制御装置4は、ステップ101-108の処理を繰り返すことにより、ヒートポンプ装置1を適切に運転制御する。
【0087】
図9は、制御モード、防振材料温度、および、車内音の変化を示す。グラフは、上段から、車内に伝達されて利用者の耳に届く可聴音である車内音S、防振部材50の温度Tb、および、制御モードMODEを示している。制御モードMODEの数列は、図8のステップ104、107、108を示している。実線は、この実施形態による挙動を示す。破線は、ステップ105、106、および、107を備えない比較例の挙動を示す。すなわち、比較例は、室内温度Trが第1温度Th1に到達するまで、高能力運転モードだけを継続する。
【0088】
時刻t0において、ヒートポンプ装置1の運転が開始された場合が図示されている。ヒートポンプ装置1は、車内温度Trが、第1温度Th1より低く、しかも、第3温度Th3より低い低温環境において起動されている。時刻t0において制御装置4が制御を開始すると、制御処理はステップ108に進む。ステップ108では、高能力運転モードが実行される。例えば、コンプレッサ30は、利用可能な最高回転数Nmで運転される。最高回転数Nmは、例えば、10000rpmである。コンプレッサ30の回転数は、最高回転数Nmに向けて徐々に上昇してゆく。
【0089】
コンプレッサ30が最高回転数Nmで運転されると、コンプレッサ30の振動によってブッシュ51、および、ブッシュ52が振動し、徐々にブッシュ51、および、ブッシュ52の温度、すなわち、防振部材50の温度が上昇する。比較例では、防振部材50の温度が徐々にゆっくりと上昇する。一方で、車内音Sも上昇し、やがて車内音Sの目標音圧Stgを超える。目標音圧Stgは、例えば、利用者を不快にしない程度の音圧レベルに設定されている。
【0090】
この実施形態では、時刻t1において、防振部材50の温度が第3温度Th3を超える。この結果、制御処理はステップ106、107に進む。ステップ107では、共振運転モードが開始される。共振運転モードが開始されると、コンプレッサ30の回転数は、最高回転数Nmより低い共振回転数Nrに抑制される。しかも、共振回転数Nrにおける防振部材50の振動は、最高回転数Nmにおける防振部材50の振動よりも大きい振幅を提供する。このため、共振回転数Nrにおける防振部材50の温度Tbの上昇傾斜は、最高回転数Nmにおける防振部材50の温度Tbの上昇傾斜よりも大きい。この結果、防振部材50の温度Tbは、急速に上昇し、防振部材50は迅速に振動伝達を減衰させる能力を獲得する。
【0091】
防振部材50の温度Tbは、時刻t1から、比較例よりも大きい上昇傾斜をもって、急激に上昇している。やがて、防振部材50の温度は、飽和温度に到達する。このような温度Tbの変化に伴う防振部材50の振動減衰能力の変化に伴い、車内音Sは変動する。図示の例では、車内音Sは、上昇する期間だけでなく、減少する期間すら有している。
【0092】
時刻t2において、防振部材50の温度Tbが第2温度Th2を超える。この結果、制御処理は、再び、ステップ108に進む。ステップ108では、再び、高能力運転モードが実行される。ただし、このとき、防振部材50の温度Tbは、十分に上昇しており、飽和温度に到達している。この結果、車内音Sは、目標音圧Stgをわずかに超えるか、目標音圧Stg以下に抑制される。また、車内音Sが上昇しても、その上昇期間は、短い期間に制限される。
【0093】
やがて、時刻t3において、車内温度Trが第1温度Th1を超える。この結果、制御処理は、ステップ104に進む。ステップ104では、通常運転モードが実行される。通常運転モードでは、コンプレッサ30は、熱負荷に応じた熱出力を実現するように設定された熱出力回転数で運転される。このとき、車内温度Trは第1温度Th1を超えており、ヒートポンプ装置1が最高能力を発揮しなくても、設計上の通常能力によって熱負荷に応えることができる状態である。例えば、通常運転モードにおけるヒートポンプ装置1の熱的な能力は、高能力運転モードより低く、例えば、設計上の定格能力とも呼ばれる。よって、熱出力回転数は、最高回転数Nmよりも低い回転数である。
【0094】
以上に述べた実施形態によると、ヒートポンプ装置1は、加振源としてのコンプレッサ30を備える。コンプレッサ30を含むモジュール20は、防振部材50(ゴム製のブッシュ51、52)を介して、車両フレーム40に弾性的に支持されている。コンプレッサ30の回転に起因して、モジュール20は、振動する。コンプレッサ30の回転数は、最高回転数から最低回転数にわたる所定の範囲において可変である。この可変範囲は、少なくともひとつの共振周波数を含んでいる。コンプレッサ30の回転数が共振回転数であるとき、モジュール20は、共振周波数で振動する。共振周波数において、防振部材50は自らの弾性により共振し、大きく変形する。防振部材50の大きい変形は、防振部材50の内部発熱による暖機を促進する。制御装置4は、所定の運転条件が成立すると、コンプレッサ30を共振回転数で運転する。この結果、制御装置4が提供する防振制御装置は、所定の条件が成立すると、防振部材50を内部発熱させ、防振部材50の暖機を促進する。
【0095】
以上に述べた実施形態によると、防振部材50の温度Tbに応じて共振周波数frが設定される。このため、温度Tbが変化しても、変化後の温度Tbに対応した共振周波数frを設定することができる。
【0096】
他の実施形態
この明細書および図面等における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形形態を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0097】
明細書および図面等における開示は、請求の範囲の記載によって限定されない。明細書および図面等における開示は、請求の範囲に記載された技術的思想を包含し、さらに請求の範囲に記載された技術的思想より多様で広範な技術的思想に及んでいる。よって、請求の範囲の記載に拘束されることなく、明細書および図面等の開示から、多様な技術的思想を抽出することができる。
【0098】
上記実施形態では、ヒートポンプ装置1が防振制御装置、および、防振装置を提供する。これに代えて、この開示にかかる防振制御装置、および、防振装置は、冷熱を供給するだけの冷凍サイクル装置によって提供されてもよい。
【0099】
上記実施形態では、ヒートポンプ装置1は、車両用のシステムを提供する。これに代えて、ヒートポンプ装置1は、事務所、または、住居の空調装置を提供してもよい。この場合、車両フレーム40は、事務所、または、住居の基礎、または、壁等の構造部材とされる。また、ヒートポンプ装置1は、食料、または、飲料水の温度を調節する装置を提供してもよい。
【0100】
上記実施形態では、制御装置4は、ヒートポンプ装置1の温度状態が所定の条件を満たすと、共振運転モードを実施した。これに代えて、ヒートポンプ装置1の起動時間の条件が満たされると、共振運転モードを実施してもよい。例えば、ヒートポンプ装置1の起動初期の短時間だけ、共振運転モードを実施してもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 ヒートポンプ装置、 2 空調装置、 3 温度調節装置、
4 制御装置、 5 室外熱交換器、 6 第1室内熱交換器、
7 空調ケース、
8 第1媒体熱交換器、 9 加熱媒体系統、
10 ポンプ、 11 第2室内熱交換器、
12 第2媒体熱交換器、 13 冷却媒体系統、
14 ポンプ、 15 機器熱交換器、
16 バッテリ、
20 モジュール、 21 モジュールボディ、 22 管路、
23 ブラケット、 24 配管、 25 冷媒容器、
26 配管、 27 弁装置、 28 ブラケット、
30 コンプレッサ、 31 モータ、 32 ブラケット、
40 車両フレーム、 41 ブラケット、
50 防振部材、 51 ブッシュ、 52 ブッシュ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9