(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127543
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】放熱性及び鋳造性に優れたマグネシウム合金及びそれを用いた放熱部材
(51)【国際特許分類】
C22C 23/02 20060101AFI20240912BHJP
C22C 23/00 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C22C23/02
C22C23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036759
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】附田 之欣
(72)【発明者】
【氏名】桐本 雄市
(72)【発明者】
【氏名】近藤 夏萌
(72)【発明者】
【氏名】伊東 瑞葵
(57)【要約】
【課題】熱伝導性及び鋳造性に優れたマグネシウム合金の提供を目的とする。
さらに、上記マグネシウム合金を用いた赤外線領域での放射率向上、及び耐食性に優れた放射部材の提供を目的とする。
【解決手段】以下質量%にて、Al:5.5~6.5%、Ca:3.5~5.0%、残部がMg及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下質量%にて、Al:5.5~6.5%、Ca:3.5~5.0%、残部がMg及び不可避的不純物からなることを特徴とする放熱性及び鋳造性に優れたマグネシウム合金。
【請求項2】
以下質量%にて、Al:5.5~6.5%、Ca:3.5~5.0%、Mn:0.1~0.3%、希土類元素:0.1~0.8%、残部がMg及び不可避的不純物からなることを特徴とする放熱性及び鋳造性に優れたマグネシウム合金。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマグネシウム合金を用いた鋳造材の表面に黒色層が形成されていることを特徴とする放熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性、鋳造性に優れたマグネシウム合金及びそれを用いた放熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
輸送機器、通信機器、電子機器等の分野では、航続距離の長距離化、使用時間の延長、高出力等の要求から、電動モーターの高効率化、蓄電池の高出力化が求められている。
例えば、ドローンのような無人輸送機器においては、リチウムイオン電池等の二次電池が搭載されているが、この二次電池を収容する電池ケース等には、高い放熱性や軽量化が要求され、マグネシウム合金が注目されている。
【0003】
特許文献1には、優れた耐熱性を有する以下質量%で、Mg-3.0%Al-3.0%Ca合金が開示されている。
特許文献2には、鋳造割れのない優れた耐熱性を有するMg-6.0%Al-2.95%Ca合金が開示されている。
非特許文献1には、優れた熱伝導性を有するMg-(x+2)at%Al-xat%Ca合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-8160号公報
【特許文献2】特開平9-291332号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yoshihito Kawamura1 et.al 「Materials Transactions」 Vol. 63, No. 2 (2022) pp. 118 - 127
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、ドローンに採用されている二次電池は、高い負荷のもとで使用することが前提の設計になっているため、発熱量も大きい。
したがって、このような条件の下で電池の収容に用いられる電池ケースには、優れた放熱性が要求される。
放熱性を向上させるには、熱伝導性及び赤外線領域の放射率の向上が必要となる。
また、電池ケースには軽量化も求められ、薄肉化を図るには高い鋳造性が要求されるとともに、絶縁性や耐食性も必要となる。
そこで本発明は、熱伝導性及び鋳造性に優れたマグネシウム合金の提供を目的とする。
さらに、上記マグネシウム合金を用いた赤外線領域での放射率向上、及び耐食性に優れた放射部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るマグネシウム合金は、以下質量%にて、Al:5.5~6.5%、Ca:3.5~5.0%、残部がMg及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
詳細は後述するが、MgにAl又はCaを単独で添加すると熱伝導率が低下するが、AlとCaとを複合的に添加すると、優れた熱伝導率を示す領域があることが明らかになった。
【0008】
マグネシウム合金を例えば電池ケースに適用する場合に、平均肉厚が1mm程度の薄肉で箱状の複雑な形状を想定すると、それにはAl成分が5.5%以上であるのが好ましい。
その一方でAlが過剰になると、逆に熱伝導率が低下するので、Al:5.5~6.5%の範囲に設定した。
Alの含有量をこの範囲に設定すると、最適なCa成分の範囲は3.5~5.0%であり、さらに好ましくは3.5~4.5%の範囲である。
【0009】
Mgに所定のAlとCaとを複合的に添加することで熱伝導率が向上するが、例えばダイカスト鋳造等にて肉厚1mm以下の電池ケース等を製造する場合には、離型性や耐食性の向上を目的に、Mnを0.1~0.3%程度添加される場合がある。
AlとCaの合金であってもMnを添加すると、熱伝導率が下がる。
その場合に、希土類元素を添加すると、熱伝導率が向上する。
そこで、以下質量%にて、Al:5.5~6.5%、Ca:3.5~5.0%、Mn:0.1~0.3%、希土類元素:0.1~0.8%、残部がMg及び不可避的不純物からなるようにしてもよい。
より好ましくは、希土類元素0.1~0.4%である。
ここで、希土類元素はミッシュメタルであってもよい。
希土類元素は、熱伝導率を低下させることなく、強度や耐食性の向上が期待できる。
また、本発明において不可避的不純物は、トータルとして0.1%未満である。
【0010】
上記マグネシウム合金を用いて電池ケース等の放熱部材を得るには、重力鋳造法、低圧鋳造法、ダイカスト鋳造法等にて製造した鋳造材の表面に、黒色層が形成されているのが好ましい。
表面を黒色層にすることで、赤外線領域の放射率が向上する。
黒色層は塗装や化成処理でもよいが、例えばプラズマによる陽極酸化等の陽極酸化皮膜で形成すると、耐食性とともに絶縁性も向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るマグネシウム合金は、Al:5.5~6.5%と、Ca:4.5~5.5%を複合的に添加したので、熱伝導率80W/m・K以上を有する。
例えば、Mg-6%Al-4%Ca合金では、86W/m・Kの高い特性が得られる。
また、鋳造性や耐食性の向上にMnを添加した場合には、希土類元素を添加することでMn等の第三元素の添加による熱伝導率の低下を抑えることができる。
また、本発明に係るマグネシウム合金を用いて鋳造し、表面処理にて表面に黒色層を形成することで、赤外線領域における放射率が向上した放熱部材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】Mg-Al-Ca系合金の熱伝導率測定結果を示す。
【
図3】Mg-Al、Mg-Al-Ca系合金のミクロ組織写真例を示す。
【
図7】MgにAl単独又はCu単独で添加した場合の熱伝導率変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
マグネシウム合金の組成を変化させて鋳造材を作成し、比較評価したので、以下説明する。
【0014】
出発原料として、99.9%高純度マグネシウム、99.9%高純度アルミニウム、Mg-30%Ca母合金を用いた。
Mnに関しては、AM60B(Mg-6%Al-0.2%Mn)を用いて組成を調査し、希土類元素については、99%純度のミッシュメタルプリケットを用いた。
所定の原材料をSUS430製坩堝に投入し、Arガスフローした電気炉内で溶解し、円柱状の金型にて鋳造した。
鋳造したマグネシウム合金は、高さ約180mmの円柱状部分を切り出し、旋盤により端面加工した。
熱伝導率は、室温にて非定常平面熱源法により測定し、5~10回の平均値を用いた。
また、走査型電子顕微鏡にて、ミクロ組織の観察、エネルギー分散型分光法による組成の分析、X線回折により結晶相の同定を行った。
【0015】
まず、MgにAlを単独で添加した合金及びMgにCaを単独で添加した合金の熱伝導率を測定し、その結果を
図7のグラフに示す。
グラフ中、Mg-A%Alは、MgにAlを単独で添加した場合、Mg-X%CaはMgにCaを単独で添加した場合を示す。
また、Mg-C%Cuは、MgにCuを単独で添加した場合を示す。
純マグネシウムは、154W/m・Kの熱伝導率を有していたが、Al又はCaを単独で添加すると、熱伝導率が大きく低下することが分かる。
このように、2元系合金ではMgへの添加元素の増加とともに、熱伝導率が低下する。
【0016】
これに対して、MgにAlとCaとを複合的に添加した場合の熱伝導率の測定結果を
図1のグラフに示す。
グラフ中、Mg-3%Al-X%Caは、Mg-3%AlにCaの添加量を変化させたものである。
同様に、Mg-6%Al-X%Ca、Mg-9%Al-X%Ca、Mg-14%A-X%Caはそれぞれ、Mg-6%Alベース、Mg-9%Alベース、Mg-14%AlベースにCaを添加したものである。
この結果から、Mg-3%AlベースにCaを添加した場合及びMg-6%AlベースにCaを添加した場合に、Ca:3.5~5.0%の間にピーク値を有していた。
熱伝導率の向上の観点からは、Mg-3%Alベースの方がMg-6%Alベースよりも優れているものの、鋳造性との両立を図る点でAl:5.5~6.5%が必要であり、本発明はMg-6%Alベースを選択した。
【0017】
図2に、Mg-6%Alベース合金として、Mg-6%Al-4%Caの合金のX線回折結果を示す。
この合金では、純Mg、Al
2Ca、Mg
2Ca、(Mg,Al)
2Ca、及びMg
3N
2のピークが観察された。
図3に、SEMによるミクロ組織写真を示す。
AX6は、Mg-6%Alベースに、Caが0%、AX61はCaが1%、同様にAX63、AX64、AX65、AX66、AX612は、それぞれCaが3%、4%、5%、6%、12%含有していることを示す。
これらの写真から、Mg-6%Al合金にCaを添加すると、粒界にネットワーク状の晶出物が形成されている。
Caの増加により、この晶出物は粗大化する傾向が認められた。
走査型電子顕微鏡のエネルギー分散型分光法による元素分析の結果、ネットワーク組織の粒内にはMg、粒界にはAlとCaが多く分布しているのが確認できた。
以上のことから、Mg-Al合金に対して第三元素としてCaを添加すると、AlとCaはAl
2Ca、Mg
2Ca、(Mg,Al)
2Caとして粒界を構成することで、熱伝導率の高い高純度のMg相を晶出させ、熱伝導率が向上したと推察される。
また、粒内はAl
2Caが板状に析出しており、このCaの減少も初晶Mgの高純度化に寄与している。
【0018】
Mg合金においては、鋳造性、耐食性の向上にMnを添加することが多い。
これは、Mg-Al系合金にMnを添加することで、Al-Mn化合物が形成され、FeがMnサイトを置換固溶し、耐食性が改善され、鋳造時の離型性が向上することからである。
そこで、下記の表1に示す合金組成(質量%)を調整し、鋳造したサンプルを用いて評価した。
【表1】
【0019】
表1中、Mmはミッシュメタルの添加量を示す。
図5に熱伝導率の測定結果を示す。
AM60Bは、Mg-Al合金にMnを0.30%添加したサンプルを示し、熱伝導率が大きく低下している。
また、AXM6402は、Mg-6%Al-4%Ca系合金に、Mnを約0.2%添加したサンプルの熱伝導率を示すが、AX64の熱伝導率よりも低い値になっている。
これに対してAXME6400は、Mg-6%Al-4%Ca系合金にMn:0.22%及びミッシュメタル0.334%添加されたものであり、熱伝導率がAXM6402よりも改善されていることが分かる。
【0020】
図6に、鋳造材の表面に黒色の陽極酸化処理した場合のJIS規格に準じて、塩水噴霧試験を96hr実施した後の表面腐食率のレイティングナンバー(RN)を示す。
RNは、耐食性のレベルを示す相対比較であり、RN10は腐食していないことを示す。
AXE6403,AXE6408のように、Mnの添加量が少ないとミッシュメタルの影響を受けて耐食性がやや低下していることから、熱伝導率を向上させつつ耐食性を維持するには、Al:5.5~6.5%、Ca:3.5~5.0%の他に、Mn:0.1~0.3%の添加と希土類元素の添加0.1~0.8%、好ましくは希土類元素0.1~0.4%添加がよいことが分かる。
【0021】
上記、AXME6400合金を用いて金型鋳造によりケース体を試作し、熱伝導率を測定した結果、87W/m・Kの値を示し、黒色の陽極酸化処理により放射率が処理前の0.15から処理後には0.8まで向上していた。