(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127555
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電源システム
(51)【国際特許分類】
B60L 1/00 20060101AFI20240912BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240912BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20240912BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240912BHJP
B60L 7/14 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
B60L1/00 L
H02J7/00 P
B60L58/12
B60L50/60
B60L7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036775
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺西 憲
【テーマコード(参考)】
5G503
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA04
5G503AA07
5G503BA02
5G503BB01
5G503DA04
5G503DA08
5G503DA17
5G503DA18
5G503DB02
5G503EA08
5G503FA06
5G503GB03
5G503GD06
5H125AA01
5H125AC12
5H125BB09
5H125BC25
5H125BC29
5H125CB02
5H125DD01
5H125EE16
5H125EE27
5H125EE52
5H125EE62
(57)【要約】
【課題】電源供給に異常が発生した場合に、バッテリの残容量が不足して、車両走行中に走行に関係する補機が機能停止になることを防ぐ電源システムを提供する。
【解決手段】駆動用モータに電力を供給する高電圧バッテリを備えた車両に搭載される電源システムは、低電圧バッテリ1と、電源供給部10と、コントローラ20とを備え、コントローラ20は、低電圧バッテリ1のSOCを算出し、電源供給部10に異常が発生したか否か判定し、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合には、低電圧バッテリ1の下限SOC閾値と算出されたSOCとのSOC差が小さいほど、車両の減速度を高く設定して、車両を減速させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動用モータに電力を供給する高電圧バッテリを備えた車両に搭載される電源システムであって、
前記車両の走行に関する車載機器を少なくとも含む負荷に接続され、前記高電圧バッテリよりも低い電圧を有する低電圧バッテリと、
前記低電圧バッテリを充電するための充電電圧を供給する電源供給部と、
前記車両を制御するコントローラを備え、
前記コントローラは、
前記低電圧バッテリのSOCを算出し、
前記電源供給部に異常が発生したか否か判定し、
前記電源供給部に異常が発生したと判定した場合には、前記低電圧バッテリの下限SOC閾値と算出された前記SOCとのSOC差が小さいほど、前記車両の減速度を高く設定して、前記車両を減速させる電源システム。
【請求項2】
請求項1記載の電源システムにおいて、
前記コントローラは、
前記電源供給部に異常が発生したと判定した場合には、前記車両の走行に関係しない前記負荷の機能を停止する電源システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電源システムにおいて、
前記コントローラは、
前記電源供給部に異常が発生したと判定した場合に、前記車両の車速が所定値より高いときには、前記車両の車速が所定値以下であるときと比較して、前記減速度を高く設定する電源システム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の電源システムにおいて、
前記コントローラは、
前記電源供給部に異常が発生したと判定した場合に、前記車両が下り勾配をもつ道路を走行しているときには、勾配の大きさに応じて前記減速度を設定する電源システム。
【請求項5】
請求項1又は2記載の電源システムにおいて、
前記コントローラは、
前記電源供給部に異常が発生したと判定した場合には、前記車両が停止した後に、前記車両の走行に関係する前記負荷の機能を停止する電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載される蓄電池を用いた車両用電源システムが知れている(例えば、特許文献1)。特許文献1記載の車両用電源システムは、設定電圧の電源電圧を電源ラインへ供給する電源部と、リチウムイオン電池を用いて構成され、設定電圧より高い満充電電圧を有する蓄電池と、電源部から出力された電源電圧に基づき蓄電池を充電する充電部と、直列接続された複数のダイオードと、電源ラインに印可された電圧を検出する電圧検出部と、複数のダイオードのうち一つを除いた残余のダイオードを短絡するよう接続されたスイッチング素子を備える。複数のダイオードは、蓄電池から電源ラインへ向かう方向が順方向になるように、蓄電池と電源ラインとの間に接続される。電圧検出部により検出された電圧が閾値電圧を下回る条件を満たした場合には、電源部による電源供給が不足していると判定して、スイッチング素子がオンなることによって、蓄電池の出力電流は、複数のダイオードをパイパスして流れる。複数のダイオードでの電圧降下が減少するため、電源ラインに印可される電圧が、補機の動作可能な電源電圧範囲となり、補機を動作できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電源システムでは、電源部による電源供給が不足した場合には、蓄電池の出力電圧で補機を動作させているが、蓄電池の電力で補機の動作を継続させると、蓄電池の残容量が確保できず、走行に関係する補機が機能停止になるという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、電源供給に異常が発生した場合に、バッテリの残容量が不足して、車両走行中に走行に関係する補機が機能停止になることを防ぐ電源システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、低電圧バッテリと、電源供給部と、コントローラとを備え、低電圧バッテリ1のSOCを算出し、電源供給部に異常が発生したか否か判定し、電源供給部に異常が発生したと判定した場合には、低電圧バッテリ1の下限SOC閾値と算出されたSOCとのSOC差が小さいほど、車両の減速度を高く設定して、車両を減速させることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両走行中に走行に関係する補機が機能停止になることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る電源システムの構成概略図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す電源システムに含まれる低電圧バッテリの特性を示すグラフである。
【
図3】
図3(а)は、低電圧バッテリの出力電圧の特性を示すグラフであり、(b)は比較例の車両状態を説明する図であり、(c)は本実施形態における車両状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る電源システムの実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る電源システム100の構成概略図である。本実施形態では、電源システムは、駆動用モータに電力を供給する高電圧バッテリを備えた車両に搭載される。車両は、エンジンで発電した電力と高電圧バッテリに蓄えた電力を用いて、走行用モータを駆動させるハイブリッド車両である。なお、電源システム100は、ハイブリッド車両に限らず、エンジンを有していない電気自動車にも適用可能である。
【0011】
図1に示すように、電源システム100は、低電圧バッテリ1、電流センサ2、スイッチ3、負荷4、駆動モータ(M)5、インバータ(INV)6、電源供給部10、及びコントローラ20を備えている。なお、車両のパワートレインは、
図1に示す構成に加えて、エンジン、トランスミッション、ブレーキ機構などを有している。
【0012】
低電圧バッテリ1は、補器類などの負荷4を動作させるためのバッテリである。低電圧バッテリ1の定格電圧は高電圧バッテリ11の定格電圧より低く、低電圧バッテリの電池容量も高電圧バッテリ11の電池容量より低い。低電圧バッテリ1は、例えば12Vバッテリである。低電圧バッテリ1はスイッチ3を介して負荷4に接続されている。低電圧バッテリ1は、リチウムイオンバッテリ又は鉛バッテリ等の二次電池である。なお、低電圧バッテリ1に鉛バッテリを使用した場合には、スイッチ3を省いてもよい。
【0013】
低電圧バッテリ1に使用されるリチウムイオンバッテリの特性について、
図2を参照して説明する。
図2は、リチウムイオンバッテリの電池特性(SOC-OCV)を示すグラフである。横軸はSOC(State of Charge:充電状態)を、縦軸はOCV(Open Circuit Voltage:開放電圧)を示す。グラフаは、正極材にLMO(マンガン酸リチウム)を使用し負極材にLTO(チタン酸リチウム)を使用したバッテリの特性を示す。グラフbは正極材にNMC(ニッケル/マンガン/コバルト)を使用し負極材にLTO(チタン酸リチウム)を使用したバッテリの特性を示す。グラフcは正極材にLFP(オリビン構造のリン酸鉄リチウム)を使用し負極材にグラファイトを使用したバッテリの特性を示し、グラフdは正極材にLMO(マンガン酸リチウム)を使用し負極材にグラファイトをしたバッテリの特性を示す。
【0014】
従来から補機用のバッテリに使用される鉛電池は環境面から避けることが好ましく、近年ではリチウムイオンバッテリが補機用のバッテリに使用されることもある。また鉛電池はリチウムイオンバッテリよりも重いという点からも、近年では車載バッテリには、リチウムイオンバッテリが使用される。リチウムイオンバッテリの材料について、LFPは他の材料と比較して価格を抑制できるというメリットがある。
図2のグラフа、bのように、LMO-LTOやNMC-LTOのバッテリは、SOCの変化に対するOCVの傾きが大きい。そのため、OCVとSOCの相対関係からSOCを演算する際には、LMO-LTOやNMC-LTOのバッテリであれば、OCVの変化からSOCの変化を把握できる。一方、LFPリチウムバッテリは、他のリチウムイオンバッテリや鉛バッテリに比べ、SOCに対するOCVの変化が少ない。そのため、バッテリの残容量が少なくなってもOCVが一定値で推移する。OCVとSOCの相対関係からSOCを演算する方法では、バッテリのSOCの変化を把握することが難しい。さらに、LFPリチウムバッテリでは、SOC(10~20%)の時に、電圧が急激に低下する。つまり、例えばSOC(10~20%程度)を下限値としてバッテリを使用した場合に、バッテリSOCが下限値近くになり、さらにバッテリを使用すると、SOCが急激に低下する。
【0015】
ところで、車両の走行中、バッテリの充電機構(発電機で発電した電力で充電する機構、強電バッテリの電力で充電する機構)に異常が生じた場合に、バッテリの電圧低下を検出して、負荷の動作に制限をかけたり、車両に制動をかけたりすることでバッテリを保護する保護制御が知られている。このような保護制御は、
図2のグラフаやbのような電池特性をもつバッテリには有効である。一方、グラフcのように、SOC-OCVの電池特性でフラットな部分を含むようなリチウムイオンバッテリ(例えば、LFPのリチウムイオンバッテリ)は、バッテリの電圧変化からSOCの変化を把握することが難しく、かつ、SOCの下限値近くで急激な電圧低下があるため、上記の保護制御では、バッテリを保護することが難しい。さらに、電圧低下を検出して負荷等に制限をかけたとしても、電圧低下を検出したときには、バッテリの残容量が不足し車両の走行や停車に必要な負荷に対してバッテリから十分に電力供給できない可能性もある。そこで、本実施形態では、電源システム100は、電源供給に異常が発生した場合に、低電圧バッテリ1の残容量が不足して、車両走行中に走行に関係する補機が機能停止になることを防ぐ。なお、電源システム100の電源構成として、低電圧バッテリ1には、
図2のグラフcのような、SOC-OCVの電池特性でフラットな部分を含むようなリチウムイオンバッテリ(例えば、LFPのリチウムイオンバッテリ)が使用されるとよい。電源システム100の電源構成(低電圧バッテリ1)は必ずしもLFPのリチウムイオンバッテリである必要なく、グラフа、b、dのような特性をもつバッテリを使用してもよい。
【0016】
図1に戻り、電流センサ2は、低電圧バッテリ1の充放電電流を検出する。電流センサ2の検出値はコントローラ20に出力される。なお、
図1では図示を省略しているが、電圧センサを低電圧バッテリ1に接続してもよい。スイッチ3は、低電圧バッテリ1と負荷4との間、及び、低電圧バッテリ1と電源供給部10との間の、電気的な導通と遮断を切り替える。スイッチ3は、通常時はオンになっている。例えば、DCDCコンバータ13に異常が生じて、電源供給部10から出力される電圧が過剰に高くなった場合には、低電圧バッテリ1を保護するために、コントローラ20がスイッチ3をオフに切り替える。
【0017】
負荷4は、低電圧バッテリ1及び電源供給部10から供給される電力により動作する負荷である。負荷4は、少なくとも、ワイパー、ヘッドライト、EPS等の走行に関する車載機器を含んでいる。また負荷4は、エアーコンディショナー、オーディオシステム等の走行に関係ない負荷を含んでもよい。なお、車両の走行に関する車載機器は、例えば自律運転制御で走行する場合には、カメラ等、車両の周辺環境を検出るセンサを含んでもよく、例えば手動運転で走行する場合には、ドライバによる運転操作に関する車載機器を含んでもよい。つまり負荷4は、車両の走行(減速)をするために必要な機能をもつ負荷を少なくとも含んでいる。
【0018】
駆動用モータ5は、インバータ6を介して高電圧バッテリ11及び発電機12に接続されている。駆動用モータ5は車輪と連結しており、高電圧バッテリ11の電力及び/又は発電機12の発電電力で駆動する。
【0019】
インバータ6は、高電圧バッテリ11及び発電機12から供給される電力を変換し、高電圧バッテリ11に供給する電力変換器である。インバータ6はコントローラ20により制御される。配線ボックス7は電源供給部10から流れる電流の電流経路を、低電圧バッテリ1に流す経路と、負荷4に流す経路に分岐する。
【0020】
電源供給部10は、低電圧バッテリ1を充電するための充電電圧を供給し、低電圧バッテリ1に接続されている。また電源供給部10は、負荷4に電力を供給し、負荷4に接続されている。また電源供給部10は、インバータ6を介して駆動用モータ5に接続されており、駆動用モータ5に電力を供給する。電源供給部10は、高電圧バッテリ11、発電機12、及びDCDCコンバータ13を備えている。電源供給部10は、車両の走行状態及び高電圧バッテリ11の残容量(SOC)に応じて、高電圧バッテリ11の電力と発電機12の発電電力を、駆動用モータ5に供給する。電源供給部10は、駆動用モータ5の駆動中に、負荷4及び/又は低電圧バッテリ1に電力を供給することも可能である。
【0021】
高電圧バッテリ11は、直列及び/又は並列に接続された複数の二次電池(リチウムイオンバッテリ)を備えている。高電圧バッテリ11の定格電圧及び電池容量は、低電圧バッテリ1よりも高い。高電圧バッテリ11は、インバータ6を介して駆動用モータ5に接続されている。また高電圧バッテリ11は、DCDCコンバータ13を介して、低電圧バッテリ1及び負荷4に接続されている。
【0022】
発電機12は、エンジンによる回転駆動機構(図示しない)により発電する。発電した電力は、駆動用モータ5の駆動用電源、負荷4の動作電源、低電圧バッテリ1及び/又は高電圧バッテリの充電にそれぞれ使用される。発電機12は、インバータ6を介して駆動用モータに接続され、DCDCコンバータ13を介して低電圧バッテリ1及び負荷4に接続されている。また発電機12は高電圧バッテリ11にも電気的に接続されている。DCDCコンバータ13は、直流電圧を別の直流電圧に変換する電圧変換回路であり、高電圧バッテリ11及び/又は発電機12から入力される電圧を変換し、変換した電圧を低電圧バッテリ1及び負荷4に出力する。
【0023】
コントローラ20は、車両を制御するコントロールユニットである。なお、車両には、バッテリコントロールユニット、エンジンコントロールユニットなど複数のECUが設けられているが、本実施形態では、複数のECUをコントローラ20として説明する。コントローラ20は、1つのコントロールユニットである必要はなく、複数のコントロールユニットでもよい。コントローラ20は、低電圧バッテリ1の状態を管理する機能、電源供給部10の状態を管理する機能、車両の走行を制御する機能、及び負荷4を制御する機能を有している。なおコントローラ20は、その他の機能として、高電圧バッテリ11を管理する機能等を有してもよい。またコントローラ20の一部の機能又は全ての機能は、低電圧バッテリに内蔵されるユニットに格納されてよい。
【0024】
次に、コントローラ20の各機能について説明する。コントローラ20は、低電圧バッテリ1の状態を管理するために、低電圧バッテリ1の現在のSOCを算出する。コントローラ20は、電流センサ2から低電圧バッテリ1の充電電流又は放電電流の電流値(検出値)を取得し、電流値積算により現在の残容量を算出する。コントローラ20は、算出した現在の残容量を低電圧バッテリ1の満充電容量で割ることでSOC(%)を算出する。なお、コントローラ20は、低電圧バッテリ1の劣化度を算出し、劣化度に応じて満充電容量を補正した上で、SOCを算出してもよい。
【0025】
コントローラ20による、電源供給部10の状態管理機能について説明する。コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したか否か判定する。コントローラ20は、車両の走行制御において、DCDCコンバータ13の出力電圧が目標値(指令値)になるよう、DCDCコンバータ13を制御する。コントローラ20は、DCDCコンバータ13の出力電圧と目標値を比較し、出力電圧が目標値に達しているか否か判定する。DCDCコンバータ13の出力電圧と目標値より低い場合には、DCDCコンバータ13に異常が生じていると判定する。
【0026】
コントローラ20は、DCDCコンバータ13の診断機能を利用して、異常発生の有無を判定してもよい。DCDCコンバータ13は、同期をとりつつ電圧変換を行うが、その電圧変換回路が動作しない場合には、異常発生と診断する。コントローラ20は、DCDCコンバータ13から診断結果を取得することで、DCDCコンバータ13に異常が発生したか否か判定する。コントローラ20は、高電圧バッテリ11の状態を管理し、高電圧バッテリ11の異常を検出することで、電源供給部10に異常が発生したと判定してもよい。また、コントローラ20は、低電圧バッテリ10のSOCに基づき、電源供給部10の異常を判定してもよい。例えば、低電圧バッテリ10のSOCが想定しているSOC(充電用の目標SOC)の値よりも低い場合には、電源供給部10が正常に動作していないものとみなして、コントローラ20は電源供給部10に異常が発生したと判定してもよい。
【0027】
コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合には、警告灯を点灯させて異常発生を乗員に通知する。
【0028】
次に、コントローラ20による車両制御機能について説明する。コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合には、低電圧バッテリ1のSOCに応じた減速度を設定して、車両を停車させるために、設定した減速度で車両を減速させる。まず、コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合に、低電圧バッテリ1の現在のSOCと、低電圧バッテリの下限SOC閾値との差分をとることで、SOC差を算出する。コントローラ20は、SOC差が小さいほど車両の減速度が高くなるように、車両の減速度を設定する。なお、コントローラ20は、SOC差が小さいほど車両の減速度が高くなるように車両の減速度を設定する際には、次のように減速度を設定すればよい。例えば、コントローラ20は、SOC差が小さいほど減速度が連続的に小さくなるように、減速度を設定してもよく、減速度を段階的に小さくしてもよい。コントローラ20は、SOC差が小さい場合には、SOC差が大きい場合と比較して減速度が大きくなるように減速度を設定してよい。下限SOC閾値は予め設定されている値である。例えば低電圧バッテリ1にLFPのリチウムイオンバッテリを使用した場合には、下限SOC閾値は、SOC低下に対してOCVが急激に低下する変化点に合わせて設定されればよく、例えば10~20%の間に設定される。また、下限SOC閾値は、低電圧バッテリ1の使用可能なSOC範囲の下限値でもよい。
【0029】
コントローラ20は、低電圧バッテリ1のSOCに応じた減速度を設定し、設定した減速度で車両を減速させるように、車両のパワートレイン(駆動機構)を制御する。減速度は、車両停車時に、低電圧バッテリ1のSOCが下限SOCより高い値になるように、設定される。そのため、SOC差が小さい場合には、減速度は高い値に設定される。
【0030】
電源供給部10に異常が生じた場合には、電源供給部10から低電圧バッテリ1及び負荷4への電力供給は遮断されている。一方、電源供給部10の異常が発生し、車両の減速が開始した時には、低電圧バッテリ1のSOCは下限SOC閾値よりも高い状態であり、車両の減速中、低電圧バッテリ1のSOCは下限SOC閾値より高い値をキープする。そのため、負荷4に含まれる車載装置のうち、車両の走行に関する車載装置への電力供給は、低電圧バッテリ1の電力でカバーできる。また車両の減速中に加えて、車両を停車した時も、低電圧バッテリ1の残容量及び電圧が過剰に低くなるような状態を回避できる。
【0031】
また、本実施形態では、電源供給部10に異常が発生した時の低電圧バッテリ1のSOCが低い場合には、低電圧バッテリ1のSOCが下限SOCに達する前に、車両を停車するために、コントローラ20は、減速度を高い値に設定する。これにより、電源供給部10に異常が発生した時点から車両停止までの時間を短縮化し、負荷4を動作させるための、低電圧バッテリ1の電力消費を抑えることができる。
【0032】
次に、コントローラ20による負荷制御機能について説明する。コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合には、負荷4のうち、車両の走行に関係しない負荷4の機能を停止してもよい。例えば、オーディオシステムやエアーコンディショナー等の負荷4は動作していなくても、車両の走行には影響しない。また電源供給部10の異常発生時は、低電圧バッテリ1の電力消費をできる限り少なくして、車両停止までの走行距離を延長したり、停車後の機能(ハザードランプの点灯等)の継続時間を長くすることができる。そのため、本実施形態では、車両の走行に関係しない負荷4の機能を停止して、車両の減速中における電力消費を抑えている。また、コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合には、車両が停止した後に、車両の走行に関係する負荷4の機能を停止するとよい。これにより、車両停車後に、低電圧バッテリ1の電圧が下がることを防止できる。
【0033】
図3を参照し、低電圧バッテリ1の電圧特性と車両の状態について、本実施形態を比較例と比較しつつ説明する。
図3(а)は、低電圧バッテリ1の出力電圧の特性を示すグラフであり、(b)は比較例の車両状態を説明する図であり、(c)は本実施形態における車両状態を説明する図である。なお、
図3(а)の電圧は、負荷4に接続されているハーネスの電圧に相当する。
【0034】
比較例では、低電圧バッテリ1の電圧が所定の電圧閾値(Vth)以下となった場合に、車両コントローラは、警告灯を点灯させて上で、車両を停車させるように、パワートレインを制御する。なお、本実施形態及び比較例共に、低電圧バッテリ1には、LFPリチウムバッテリを用いている。時間t1に、電源供給部10の異常が発生する。電源供給部10の異常発生前、低電圧バッテリ1のSOCは下限SOC閾値より高い。
【0035】
電源供給部10の異常発生が発生すると、コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したことを判定し、時間t
1の時点でのSOC差に応じて減速度を設定し、車両を減速させる(
図3(c)を参照)。一方、比較例では、時間t
1の時点で、低電圧バッテリ1の電圧が電圧閾値(V
th)より高いため、車両を停車させる制御は実行されず、時刻t
1の時点での車速が維持される。
【0036】
時間t1以降、車両の走行中は、低電圧バッテリ1の電力は負荷4により消費され、負荷4のうち、少なくとも車両の走行に関する車載機器(負荷)は継続して動作する(走行機能継続)。低電圧バッテリ1であるLFPリチウムバッテリは、SOCが減っても電圧変化が小さい電圧特性を有している。そのため、比較例及び本実施形態共に、低電圧バッテリ1の電圧降下は小さい。
【0037】
本実施形態では、時間t2の時点で車両は停車する。車両の停車時、低電圧バッテリ1のSOCは下限SOC閾値よりも高く、低電圧バッテリ1の電圧は電圧閾値(Vth)より高い。そのため、車両停車時でも、低電圧バッテリ1は、少なくとも車両の走行に関係する負荷を制御に機能させるための電力を確保できる。
【0038】
一方、比較例において時間t2の時点では、時間t1から時間t2までの電力消費により、低電圧バッテリ1のSOCは時間t1の時よりも低くなっているが、低電圧バッテリ1の出力電圧は、LFPリチウムバッテリの電池特性より大きく低下しない。比較例では、車両の走行が継続され、低電圧バッテリ1のSOCはさらに低下する。LFPリチウムバッテリの電池特性により、SOCが下限SOCより低くなると、電圧が急激に低下する。時間t3では、SOCが下限SOCより低くなり電圧が急激に低下することで、低電圧バッテリ1の電圧は電圧閾値(Vth)以下になる。この時点で、比較例の車両コントローラは、警告灯を点灯させて、車両を停車する制御(フェール制御)を開始する。比較例では、低電圧バッテリ1の電圧は電圧閾値(Vth)以下になった時点(時間t3)では、低電圧バッテリ1の残容量が十分に残っていない。そのため、低電圧バッテリ1は、車両の走行に関係する負荷4に対して十分な電力を供給できず、車両走行中に車両の走行機能は停止する(走行機能停止状態)。そして、比較例では、車両の走行機能を停止した状態で、車両が停車する(時間t4)。
【0039】
比較例では、電源供給部10の異常発生が発生した時点(時間t1)から車両が停車する時点(時間t4)まで長い時間を要する。一方、本実施形態では、電源供給部10の異常発生が発生した時点から車両が停車する前の時間(時間t1から時間tまでの時間)が短い。つまり本実施形態では、電源供給部10の異常発生を判定した時から車両が停車するまでの時間を短縮化できる。
【0040】
ずなわち、LFPリチウムバッテリのように、バッテリの電圧がSOC変化に対して平坦に推移し、かつ、SOCが下限SOC近くになるとバッテリの電圧が急激に低下するような特性を持つバッテリを、低電圧バッテリ1に使用した場合に、低電圧バッテリ1の電圧から、低電圧バッテリ1の容量不足を検知することが難しい。そのため、電源供給部10の異常発生が発生した場合には、比較例のような制御システムでは、車両を停車させるまでに時間がかかってしまう。また、比較例のように、低電圧バッテリ1の電圧が電圧閾値(Vth)以下になったタイミングで、警告灯を点灯させたとしても、それまでに低電圧バッテリ1の残容量はかなり減ってしまう。特に、比較例では、時間t1から時間t3までの間、乗員には電源供給部10の異常発生が通知されず、通知のタイミングが遅い。
【0041】
また比較例の制御システムにおいて、電源供給部10の異常発生時に、車両停止のためのフェール制御を行うことも考えられる。しかしながら、電源供給部10の異常発生時に低電圧バッテリ1のSOCが低い場合には、低電圧バッテリ1の電力消費を抑えるために、車両をできるだけ短時間で停車させるとよい。例えば、フェール制御時の減速度を固定値にすると、低電圧バッテリ1のSOCの大きさとは関係なく減速制御が行われるため、車両の減速中に、低電圧バッテリ1の電圧が急降下し、車両が走行機能停止状態になるおそれがある。また車両停車した時には、低電圧バッテリ1が残量不足になる可能性もある。本実施形態では、電源供給部10の異常発生時に、低電圧バッテリSOCが低い場合には、高い減速度が設定される。これにより、車両減速中、車両の走行機能を維持でき、車両停車した時に、低電圧バッテリ1が容量不足となることを防止できる。
【0042】
上記のように本実施形態に電源システムは、低電圧バッテリ1と、電源供給部10と、コントローラ20とを備え、コントローラ20は、低電圧バッテリ1のSOCを算出し、電源供給部10に異常が発生したか否か判定し、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合には、低電圧バッテリ1の下限SOC閾値と算出されたSOCとのSOC差が小さいほど、車両の減速度を高く設定して、車両を減速させる。これにより、電源供給に異常が発生した場合に、バッテリの残容量が不足して、車両走行中に走行に関係する補機が機能停止になることを防止できる。また、車両の走行中に電源供給に異常が生じた場合に、低電圧バッテリ1の容量(及び電圧)を維持しつつ車両を停止させることができ、車両停止までの時間を短縮させることができる。
【0043】
また本実施形態では、コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合には、車両の走行に関係しない負荷4の機能を停止する。これにより、車両の減速中に、負荷4の消費電力を抑制できる。
【0044】
また本実施形態では、コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合には、車両が停止した後に、車両の走行に関係する負荷4の機能を停止する。これにより、車両停車後に、低電圧バッテリ1の電圧が下がることを防止できる。
【0045】
なお、本実施形態の変形例として、コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合に、車両の車速が所定値より高いときには、車両の車速が所定値以下であるときと比較して、減速度を高く設定してもよい。車速が高い場合には、車両の減速までに時間がかかる。そのため、SOC差が大きい場合でも、減速度を高くすることで、車両停止までの時間を短縮する。なお、コントローラ20は、車速が高く、減速度を高い値に設定した場合でも、停車のために十分に車速を低くした場合には、コントローラ20は、減速度を小さくして、滑らかに車両が停車するように車両を制御するとよい。これにより、車両停車時に、乗員が車両から受ける物理的負荷を軽減できる。
【0046】
また本実施形態の変形例として、コントローラ20は、電源供給部10に異常が発生したと判定した場合に、車両が下り勾配をもつ道路を走行しているときには、勾配の大きさに応じて減速度を設定してもよい。コントローラ20は、勾配が大きいほど減速度が高くなるように、減速度を設定するとよい。これにより、車両が勾配のきつい下り坂を走行している場合でも、車両停止までの時間を短縮化できる。
【符号の説明】
【0047】
1 低電圧バッテリ
2 電流センサ
3 スイッチ
4 負荷
5 駆動モータ(M)
6 インバータ(INV)
7 配線ボックス
10 電源供給部
11 高電圧バッテリ
12 発電機
13 DCDCコンバータ
20 コントローラ
100 電源システム