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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127561
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】再生熱可塑性樹脂の処理方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20240912BHJP
   B29B 17/04 20060101ALI20240912BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
B29B17/02
B29B17/04 ZAB
C08J5/00 CER
C08J5/00 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036794
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩
【テーマコード(参考)】
4F071
4F401
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AG28
4F071BB06
4F401AA09
4F401AA10
4F401AC20
4F401BA06
4F401CA02
4F401CA49
4F401CA89
4F401CB01
4F401DC04
4F401EA46
4F401FA02Z
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂成形体回収品、特にペットボトルのキャップに使用されている回収物から臭気を低減する処理方法の提供。
【解決手段】揮発性臭気成分を含み、熱可塑性樹脂成形体回収品の粉砕物を主成分とする原料100質量部に対して、10~400質量部の水を混合、加熱処理を行うことによる再生熱可塑性樹脂の処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性臭気成分を含み、熱可塑性樹脂成形体回収品の粉砕物を主成分とする原料100質量部に対して、10~400質量部の水を混合、加熱処理を行うことによる再生熱可塑性樹脂の処理方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂成形体回収品がペットボトルのキャップである請求項1記載の処理方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がエチレン系重合体である請求項1に記載の処理方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂がプロピレン系重合体である請求項1に記載の処理方法。
【請求項5】
加熱処理を実施するときの気圧を74~1014hPaとする請求項1記載の処理方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の内のいずれか1項に記載の処理方法により得られた再生熱可塑性樹脂を使用する成形材料。
【請求項7】
請求項1乃至5の内のいずれか1項に記載の処理方法により得られた再生熱可塑性樹脂を使用する成形体の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生熱可塑性樹脂の処理方法に関する。特に、本発明はボトルのキャップに使用されている熱可塑性樹脂成形体などの回収品の再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になってPETボトルの水平リサイクルが事業化され、多くのPETトボトル飲料では、水平リサイクルされたPETを用いたボトルになっている。
【0003】
このようなPETボトル飲料に使用されるペットボトルキャップにはポリエチレン、ポリプロピレンが多く使用されている。しかしながら、ボトルキャップはリサイクルの実態把握が進んでおらず、回収・リサイクルの実態把握や方法の確立が課題となっている。ボトルキャップはポリオレフィンから構成され、PETボトル同様に、回収され再生樹脂として用いられてはいるものの飲料中の臭気成分や腐敗臭などの揮発性の臭気成分が樹脂中に浸透し臭気を放つため多くは焼却処理されたり、埋立・投棄されたり、リサイクル品として使用された場合でもカスケードリサイクルにとどまり臭気が問題視されない用途例えば園芸用品、土木建築用品などへの展開にとどまっている。こうした中で使用済み樹脂製品の海洋投棄等によるマイクロプラスチック問題などが国際的な問題となっている。
【0004】
また、このような地球規模の環境破壊問題を背景にプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律が施行され、成形体製品廃棄物の再資源化の要求が高まりプラスチック製品の製造事業者による自主回収の促進が求められてきている。こうした中でエコキャップ回収を標榜した地方自治や任意団体が数多く存在し、ボトルのキャップを回収、リサイクルして得た利益を社会還元するなど、リサイクル意識を高める一助を担っている。
【0005】
しかしながら、ペットボトルキャップは、前記したように製品の特性上、様々な飲料中の臭気成分が移行したり、付着した飲料の腐敗による低級脂肪酸の成形品への浸透などによる臭気が強いため、再生利用を難しくしている。
【0006】
こうしたリサイクル原料の臭気問題への対応として特許文献1では、界面活性剤洗浄による臭気成分の除去の提案がなされている。また非特許文献1においてもアルカリ溶液、界面活性剤、有機溶剤による洗浄で臭気成分を除去することが報告されている。
【0007】
しかしながら、界面活性剤やアルカリ溶液、有機溶剤を用いる洗浄方法では臭気低減処理後の廃液の処理が問題となる。例えば界面活性剤や有機溶剤は焼却処理で対応する考えがあるが、水溶液から、これらを分離させ、焼却を行うことになるため多大な石油エネルギの消費等を伴うことになり炭酸ガス排出増大につながるため、リサイクルする一方で環境負荷を増大させることになってしまう。
【0008】
また、特許文献2には廃棄プラスチックに水蒸気吹付による洗浄、特許文献3には界面活性剤を用いて洗浄してリサイクルすることが提案されているが、両文献共にリサイクル工程でプラスチックに付着している油脂、食品残渣などの厨芥を除去することにより食品残渣が発する臭気を除去する方法を示しているものであり、樹脂中に浸透した臭気を低減・除去を行うものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2022-161673号公報
【特許文献2】特開2003-251627号公報
【特許文献3】特開2008-000908号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Deodorization of post-consumerplastic waste fractions A comparison of different washing media, Science of theTotal Environment, 2022, 812, 152467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ペットボトルのようにペットボトルキャップを水平リサイクルができれば、リサイクル効率やマイクロプラスチック低減などの観点で効果が高い。そのためには、臭気を低減させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の状況を考慮しながら、本発明の発明者は、ボトルキャップなどの熱可塑性樹脂成形体回収品に吸着されている臭気の低減に関する検討を行った。そして、鋭意検討の結果、ボトルキャップなどの熱可塑性樹脂成形体回収品の粉砕品と水を混ぜ、その後の加熱により水溶性臭気成分を混合した水に溶出させ、その他臭気成分を水蒸気と同伴させて蒸留抽出水として除去すること(以下水蒸気蒸留処理)によって臭気を短時間で大幅に低減できることを見出した。
本発明の構成は以下の通りである。
[1]揮発性臭気成分を含み、熱可塑性樹脂成形体回収品の粉砕物を主成分とする原料100質量部に対して、10~400質量部の水を混合、加熱処理を行うことによる再生熱可塑性樹脂の処理方法。
[2]熱可塑性樹脂成形体回収品がペットボトルのキャップである[1]の処理方法。
[3]熱可塑性樹脂がエチレン系重合体である[1]または[2]の処理方法。
[4]熱可塑性樹脂がプロピレン系重合体である[1]~[3]の処理方法。
[5]加熱処理を実施するときの気圧を74~1014hPaとする[1]~[4]の処理方法。
[6][1]~[5]の処理方法により得られた再生熱可塑性樹脂を使用する成形材料。
[7][1]~[5]の処理方法により得られた再生熱可塑性樹脂を使用する成形体の成形方法。
【発明の効果】
【0013】
プラスチックが発する臭気成分の量はppm、ppbオーダーの量でヒトが感じるものであり非常に微量成分であることや、本発明では、使用するのは水であり、従来より提案されているような樹脂粉砕品等を界面活性剤やアルカリ、有機溶剤などの多量の薬剤を用いない方法であるため廃液の処理にかかる環境負荷が圧倒的に少なくなり、環境負荷もきわめて小さい。
本発明の処理を実施することで、有効に回収品から、臭気低減できる。このため本発明によれば、高付加価値リサイクルとして、たとえばボトルキャップ回収品を水平リサイクルによるボトルキャップへのリサイクルが可能になり再生樹脂使用の範囲の拡大ができる上に、廃棄物自体を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】水蒸気蒸留法で使用される装置の一態様を示す概要図である。
図2】各実施例、比較例のGCMSによるテルペン類の分析結果を示す。
図3】各実施例、比較例のGCMSによる低級脂肪酸などの分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、臭気を軽減した成形材料を提供するための方法と成形材料(成形方法)に関するものである。
以下、本発明の実施形態について、説明する。
本発明は、熱可塑性樹脂成形体回収品の粉砕物を主成分とする原料100質量部に対して、10~400質量部の水を混合、加熱処理を行うことによる再生熱可塑性樹脂の処理方法である。
【0016】
本発明における熱可塑性樹脂成形体回収品は、揮発性成分及び熱可塑性樹脂を含む。成形体回収品としては、揮発性成分を含有する組成物に使用された包装容器を含むものが挙げられる。本発明では、PETボトルのボトルキャップが好ましい。PETボトルの回収率は高く、水平リサイクルが推進されているが、これに対して、ボトルキャップはリサイクルの実態把握が進んでおらず、水平リサイクルが進めば産業上の利用可能性が高い。高付加価値リサイクルとしての水平リサイクルによるボトルキャップからボトルキャップへのリサイクルが可能になれば、再生樹脂使用の範囲の拡大ができる。
【0017】
本発明における処理されるボトルキャップ回収品の粉砕材料としては市場から回収される使用済みの再生材(以下PCR)を用いることも可能であるし、製品製造段階から回収される未使用品の再生時(以下PIR)を使用することも可能である。PCRの場合は各種の臭気が製品に浸透しているための本発明による方法で臭気の軽減が可能であるしPIRにおいて食品臭や腐敗臭の原因物質の付着はないものの加工過程で付着する種々の臭気成分から発する臭気を軽減するのにも本発明は有効である。
【0018】
本発明における揮発性成分としては、例えば、内容物に含まれる原材料に由来する成分や、および分解および腐敗によって生じた成分などが挙げられる。揮発性成分は特に限定されないが、たとえば、柑橘類に含まれるリモネン、A-テルピオネールなどのテルペン類、酢酸、酪酸、吉草酸、3-メチル-2-ヘキセン酸などの低級脂肪酸などが挙げられる。 また、樹脂成形体に含まれる、可塑剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、相溶化剤、ガスバリア剤、帯電防止剤等や、包装容器の内容物に含まれる界面活性剤や香料等も揮発性成分に含まれる。
【0019】
ボトルキャップは、一般的なペットボトルキャップの製造法(コンプレッション成形やインジェクション成形)で製造されたものであり、エチレン系重合体やポリプロピレン系重合体などの熱可塑性樹脂を使用されている。
【0020】
ペットボトルキャップ由来の回収品は、回収されたペットボトルキャップを公知の方法で粉砕等したものや、さらに必要に応じてペレットにしたものを使用できる。より具体的には、回収したペットボトルキャップを赤外線分光(IR)等の分光法でポリエチレン系とポリプロピレン系などに分別し、分別されたボトルキャップを粉砕したのち、必要に応じて水などで洗浄した後、押出機で溶融混練してペレット化したものであってもよい。
【0021】
粉砕物の粒子径は特に制限されないが、平均粒子径が通常500~5000μmであればよい。粉砕手段も特に限定されず、公知の粉砕方法を特に制限なく採用できる。
【0022】
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂を使用することができ、エチレン系重合体、プロピレン系重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体が使用され、これらの混合物であっても他樹脂を含むものであってもよい。
【0023】
エチレン系重合体は、エチレンから導かれる構成単位を有し、炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構成単位を有することができる。前記炭素数3~20のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。エチレン系重合体中の炭素数3~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0~2質量%であり、エチレン単独重合体であることが好ましい。エチレン単独重合体は、低密度ポリエチレン(LDPE)、リニア低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等を挙げることができる。
【0024】
エチレン・α-オレフィン共重合体としては、 エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体である。エチレン・α-オレフィン共重合体は、 エチレンに由来する構成単位を50~95モル%、好ましくは55~90モル%の範囲内で含有し、前記α-オレフィンに由来する構成単位を5~50モル%、好ましくは10~45モル%の範囲内で含有する。 α-オレフィンは前記した通りである。
【0025】
このようなエチレン系重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレンおよびα-オレフィンを、立体規則性重合触媒、例えばチーグラー・ナッタ触媒やメタロセン触媒の存在下に重合させることによって製造することができる。
【0026】
プロピレン系重合体は、プロピレンから導かれる構成単位を有し、エチレンまたは炭素数4~20のα-オレフィンから導かれる構成単位を有することができる。プロピレン系重合体は、エチレンまたは炭素数4~20のα-オレフィンから導かれる構成単位の含有量が0~2質量%であり、さらにはプロピレン単独重合体であることが好ましい。前記炭素数4~20のα-オレフィンとしては、前記した通りである。
プロピレン・α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0027】
ランダム共重合体は、プロピレンとエチレンまたはα-オレフィンとをランダム共重合することにより得られる重合体であれば特に制限はない。このなかでもプロピレン・α-オレフィン共重合体としては、プロピレンとエチレンとの二元ランダム共重合、またはプロピレンとエチレンと1-ブテンとの三元共重合が好ましい。そのような重合体は、立体規則性重合触媒と同様の立体規則性重合触媒を用い、公知の重合条件および重合方法と同様の重合条件および重合方法を用いて製造することができる。
【0028】
プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体の組成としては、100質量%中の、プロピレン由来の構成単位の量(プロピレン含有量)が、95.5~97.0質量%であることが好ましく、95.7~96.8質量%であることがより好ましく、96.1~96.6質量%であることが特に好ましい。また、エチレンまたはα-オレフィン由来の構成単位の量(まとめてα-オレフィン含有量)が、3.0~4.5質量%であることが好ましく3.2~4.3質量%であることがより好ましく、3.4~3.9質量%であることが特に好ましい。
【0029】
ブロック共重合体は、プロピレン単独重合体部とプロピレン・α-オレフィン共重合体部とからなり、プロピレン単独重合体とプロピレン・α-オレフィン共重合体とを混合(例えば溶融混練)することにより製造することができる。たとえば、プロピレン系ブロック共重合体が、前記プロピレン単独重合体部として、前記プロピレン系重合体60~99質量%、および、前記プロピレン・α-オレフィン共重合体部として、プロピレンに由来する構成単位55~90モル%と、プロピレン以外の炭素数2~20のα-オレフィンに由来する構成単位10~45モル%とを含有するプロピレン・α-オレフィン共重合体1~40質量%を含む(重合体の合計量を100モルとする)ことが好ましい。
【0030】
以上の重合体は、バイオマス由来モノマー(エチレン、プロピレン、α-オレフィン)、および/またはケミカルリサイクル由来モノマー(エチレン、プロピレン、α-オレフィン)を含んでいてもよい。重合体を構成するモノマーがバイオマス由来モノマーのみでもよいし、ケミカルリサイクル由来モノマーのみでもよく、さらにバイオマス由来モノマーおよび/またはケミカルリサイクル由来モノマーと化石燃料由来モノマーのいずれも含んでもよい。
【0031】
バイオマス由来モノマーとは、菌類、酵母、藻類および細菌類を含む、植物由来または動物由来などの、あらゆる再生可能な天然原料およびその残渣を原料としてなるモノマーで、炭素として14C同位体を10-12程度の割合で含有し、ASTM D 6866に準拠して測定したバイオマス炭素濃度(pMC)が100(pMC)程度である。バイオマス由来モノマーは、従来から知られている方法により得られる。
【0032】
ケミカルリサイクル由来モノマーは、廃プラスチックなどの重合体を解重合、熱分解等でエチレンなどのモノマー単位にまで戻したモノマーである。ケミカルリサイクル由来モノマーは従来から知られている方法により得られる。
【0033】
以上の重合体がバイオマス由来モノマーを含むことは環境負荷低減(主に温室効果ガス削減)の観点から好ましい。また、以上の重合体がケミカルリサイクル由来モノマーを含むことは環境負荷低減(主に廃棄物削減)の観点から好ましい。これらのモノマーを使用しても重合用触媒、重合プロセス重合温度、などの重合体製造条件が同等であれば、分子構造は、化石燃料由来モノマーからなるエチレン・α-オレフィン共重合体と同等である。
【0034】
熱可塑性樹脂成形体回収品の粉砕物には、前記揮発性成分の他に、界面活性剤、可塑剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、相溶化剤、ガスバリア剤、帯電防止剤、顔料、染料など、熱可塑性樹脂以外の成分を含んでいてもよい。
本発明では、熱可塑性樹脂成形体回収品の粉砕物100質量部に対して、10~400質量部の水を混合、加熱処理を行う。水の量は好ましく30~300質量部、さらに好ましくは50~200質量部であり、この範囲であれば効率的に揮発性成分などを除去できる。
【0035】
加熱処理は、常圧以下の圧力下で行われることが好ましい。常圧以下の圧力下で加熱して蒸留を行う処理を「水蒸気蒸留処理」という。
【0036】
水蒸気蒸留処理において、反応器は内圧によって沸点が変わるため減圧・昇圧に耐える圧力容器を使用することで様々な温度帯で水蒸気蒸留処理が可能になる。水蒸気処理は多少なりとも加熱操作が必要になるが加熱の方式としてはスチーム加熱や熱媒、電熱による処理容器自体の加熱でも回収品の粉砕物と混合する水をマイクロ波で誘電加熱する方式のどちらでも良く、両加熱方式を兼ね備えたものでもよい。使用する水についても精製水など純度が高く夾雑物が少ない水を使う必然はなく必要に応じて水洗浄することができるため飲料用水、工業用水等を使用することが可能である。
【0037】
なお、鉄粉や浮遊物が多い水を使用すると、回収品中に夾雑物と存在することになるため、これを除去する為に洗浄回数を増やすなどの工数が必要になる。このため、市販のフィルターなどを使用して水中の異物は取り除いておくことが好ましい。
【0038】
水蒸気蒸留処理の際に、気圧を74~1014hPとすることが好ましい。
また、加熱処理時の気圧を制御することで、蒸留温度が決まってくる。たとえは、反応装置の内圧を74hPaとすることで水の沸点は40℃となり、常圧の1014hPaでは水の沸点は100℃になりこの範囲での加熱処理が有効である。74hPaより減圧すると沸点が低下するため、揮発性成分の樹脂から水中への移動が低下するために、臭気の除去も効果的ではない。
【0039】
常圧を超える場合、すなわち加圧条件では、水の沸点も100℃より高くなるが、加熱方式によっては装置では局所的な過熱で熱可塑性樹脂が溶融・固着したり、回収効率や運転効率が低下し、反応装置自体も高圧に耐える設備を用いることが必要になり汎用性を欠いたものになる。
【0040】
水蒸気蒸留法を実施する際に使用される装置の一態様の概要を図1に示す。図中、1は水蒸気蒸留装置、2は蒸留槽、3はマイクロ波加熱装置、4は撹拌翼、5は気流流入管、6は蒸留物流出管、7は冷却装置、8は加熱制御装置、9は減圧ポンプ、10は圧力調整弁、11は圧力制御装置、12は蒸留対象物、13は回収水をそれぞれ示す。
【0041】
この装置1では、蒸留対象物12となる原料(本発明では熱可塑性樹脂成形体回収品の粉砕および水)を蒸留槽2中に入れ、撹拌翼4で撹拌しながら、蒸留槽2の上面に設けられたマイクロ波加熱装置3からマイクロ波を放射し、原料を加熱する。なおマイクロ波加熱装置は、蒸留層の下面に設けられていてもよい。この蒸留槽2は、気流流入口5および蒸留物流出管6と連通されている。気流流入管5は、空気あるいは窒素ガス等の不活性ガスを反応槽2中に導入するものであり、この気流は、反応槽2の下部から導入される。また、蒸留物流出管6は、原料からの蒸留物を、反応槽2の上部から外に導出するものである。
【0042】
上記反応槽2内部は、これに取り付けられた温度センサおよび圧力センサ(共に図示せず)により温度および圧力が測定されるようになっており、加熱制御装置8および圧力制御装置11、圧力調整弁10を介してそれぞれ調整されるようになっている。
【0043】
また、蒸留物流出管6を介して蒸留槽2から流出した気体状の蒸留物は、冷却装置7により凝縮され、抽出物13として得られる。この抽出物13には、水および揮発性成分が含まれている。
【0044】
また、蒸留時間は、特に制限されないが、0.2ないし8時間程度、好ましくは、0.4ないし6時間程度とすれば良い。この範囲にあれば、十分に蒸留が進行し、効率が高く、また樹脂が変質することもない。
【0045】
更に、蒸留槽2内に導入する気体としては、特に制限されず、空気、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましく、その流量としては、1分当たりの流量が、蒸留槽2の0.001ないし0.1容量倍程度とすれば良い。
前記水蒸気蒸留処理を行った後に、回収物を必要に応じて造粒してもよいし、脱水処理や乾燥処理を行って製品の成型を行ってもよい。造粒するにあたって、単軸押し出し機、二軸押し出し機、バンバリーミキサー、ロール等種々の混練押し出し機を使用することができ、特に限定するものではない。また目的の製品仕様によって再生材に他樹脂、充填剤、添加剤を混合して品質調整してもよい。
【0046】
本方法はポリエチレン、ポリプロピレン単体に限定される処理方法ではなくこれらの混合物であっても他樹脂が混入していても水蒸気蒸留処理を行うことは可能であり臭気を低減させることができる。また臭気を低減させた回収品をリサイクルするにあたってリサイクルの要求品質に応じてポリエチレンやポリプロピレンなどの同種の樹脂を追加してコンパウンドにより品質調整を行うことが可能である。また用途展開される製品の品質要求により酸変性樹脂、ポリアミド、ABS、エチレン-プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ブチルゴム、スチンブタジエンゴム、ニトリルゴム等の他種類の樹脂とのブレンドすることも可能である。また、タルク、炭酸カルシウム、ガラスファイバー、炭素繊維、セルロース繊維、木粉といった無機・有機の充填剤と複合することも可能であり、耐久性を付与するために酸化防止剤、耐熱老化剤、耐候剤、帯電防止剤、造核剤等の種々添加剤を配合して、耐久性能を向上させることも可能である。
【0047】
本発明の処理方法で得られた再生熱可塑性樹脂を水平リサイクルとしてボトルキャップを成形することも好ましい態様である。
【0048】
ボトルキャップの形状及び構造はそれ自体公知の任意のものであってよい。、たとえばボトルキャップは、圧縮成形や射出成形で形成され、天面部とその周囲から垂下するスカート部とから成り、天面部内面にはボトル口部と当接するシール部を有し、スカート部内周にはボトル口部外周のネジと係合するネジを備え、且つスカート部の下部には開封明示機構を備えているものに好適に適用できる。このようなボトルキャップはワンピース型とツーピース型とがある。詳細については、特開2007-161881号公報の記載を参考できる。
【0049】
たとえば、圧縮成形では、押出機のホッパーに本発明の処理方法により得られた回収品を供給し、スクリューで溶融混練した後、ダイスを通してストランドの形に押出し、この押出物を一定の量になるように切断し、切断された溶融樹脂塊を開いた圧縮成形型中に投入し、圧縮成形型を圧力下に閉じることにより、圧縮成形を行うことができる。
【0050】
一方、射出成形の場合には、射出機のホッパーに本発明の処理方法により得られた回収品を供給し、スクリューで溶融混練した後、スクリューを前進させて、ノズル及びゲートを通して射出型中に射出させればよい。
【実施例0051】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0052】
[水蒸気蒸留処理方法]
市場回収したポリエチレン製ペットボトルキャップの粉砕品(進栄化成株式会社製)を、兼松エンジニアリング株式会社製減圧水蒸気蒸留装置(タンク容量200リットル)に装入し、水を加えて、粉砕品を水と混合して、実施例および比較例に示す所定の温度および圧力下に水蒸気蒸留処理を実施した。
実施例に示す方法で水蒸気蒸留して回収されたサンプルはガスクロマトグラフ質量分析装置(GCMS)で臭気成分を分析し、ピーク強さにより臭気成分の低減の程度を評価した。
【0053】
・臭気成分分析
回収物1gを20mL容量のガラスバイアル瓶に入れ密栓し、150℃で15分加熱後SPMEニードル(Carboxen/PDMS)を10分間挿入し臭気を捕集。
GCMS分析は島津製作所製QP-2010GCMS装置、測定用カラムDB-5MS(30m×0.32mm×0.50μm)を用いてカラム温度50℃(2分)→昇温速度10℃/分→250℃で分析を実施した。
【0054】
[実施例1]
粉砕品重量14kgと、14kgの水とを混合して74hPa(40℃)で減圧水蒸気蒸留処理を実施した。水蒸気蒸留処理は蒸留水回収量が12kgとなるまで実施した。水蒸気蒸留した回収品を乾燥して、残余水分を除去したのち、GCMSで臭気成分を分析し、ピーク強さにより臭気成分の低減程度を評価した。
【0055】
[実施例2]
粉砕品重量14kgと、14kgの水とを混合して474hPa(80℃)で減圧水蒸気蒸留処理を実施した。水蒸気蒸留処理は蒸留水回収量が11kgとなるまで実施した。水蒸気蒸留した回収品を乾燥して、残余水分を除去したのち、GCMSで臭気成分を分析し、ピーク強さにより臭気成分の低減程度を評価した。
【0056】
[実施例3]
粉砕品重量14kgと、14kgの水とを混合して1015hPa(100℃)で水蒸気蒸留処理を実施した。水蒸気蒸留処理は蒸留水回収量が11kgとなるまで実施した。水蒸気蒸留した回収品を乾燥して、残余水分を除去したのち、GCMSで臭気成分を分析し、ピーク強さにより臭気成分の低減程度を評価した。
【0057】
[実施例4]
粉砕品重量14kgと、14kgの水とを混合して474hPa(80℃)で減圧水蒸気蒸留処理を実施した。水蒸気蒸留処理は蒸留水回収量が11kgとなるまで実施した。水蒸気蒸留処理後の水蒸気蒸留した回収品を20Lの水で5回すすぎ洗いを実施した。その後、回収品を乾燥して、残余水分を除去したのち、GCMSで臭気成分を分析し、ピーク強さにより臭気成分の低減程度を評価した。
【0058】
[比較例1]
実施例1で使用した粉砕品を水蒸気蒸留処理することなしにGCMSで臭気成分を分析し、比較例1のピーク強さを臭気成分量の基準とした。
各実施例、比較例の臭気成分分析結果を、テルペン類については図2、飽和炭化水素類および低級脂肪酸については図3にまとめて示す。
【0059】
図2から、GCMS分析結果、比較例1と比較し実施例1,2,3,4は水蒸気蒸留処理によりリモネンを主体とするテルペン類のピークが弱くなり臭気成分量が低減されていることがわかる。
図3から、GCMS分析結果、比較例1と比較し実施例1,2,3,4は水蒸気蒸留処理によりテルペン類の他、低級脂肪酸のピークが弱くなり臭気成分量が低減されていることがわかる。
【符号の説明】
【0060】
1・・・水蒸気蒸留装置
2・・・蒸留槽
3・・・マイクロ波加熱装置
4・・・撹拌翼
5・・・気流流入管
6・・・蒸留物流出管
7・・・冷却装置
8・・・加熱制御装置
9・・・減圧ポンプ
10・・・圧力調整弁
11・・・圧力制御装置
12・・・蒸留対象物
13・・・回収水
図1
図2
図3