(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127574
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240912BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240912BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240912BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20240912BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/66 A
H01M10/058
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036812
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】507317502
【氏名又は名称】エリーパワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】古谷 亮太
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017EE01
5H017EE04
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL12
5H029AM07
5H029CJ16
5H029HJ04
5H029HJ17
5H029HJ19
5H050AA02
5H050BA16
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB12
5H050HA04
5H050HA17
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた充放電効率を有する非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】本発明の非水電解質二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極集電シートを含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、イオン液体及びリチウム塩を含む電解質とを備え、前記負極集電シートは、リチウムと合金を作らない金属層を含み、前記正極は、前記負極の単位面積あたりの前記正極の容量が0.29mAh/cm
2以上6.05mAh/cm
2以下となるように前記正極活物質を含み、前記電解質に含まれるリチウムイオンの少なくとも一部は、電池の初回の充電により前記金属層上に金属リチウムとして直接析出する又はすでに直接析出していることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極集電シートを含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、イオン液体及びリチウム塩を含む電解質とを備え、
前記負極集電シートは、リチウムと合金を作らない金属層を含み、
前記正極は、前記負極の単位面積あたりの前記正極の容量が0.29mAh/cm2以上6.05mAh/cm2以下となるように前記正極活物質を含み、
前記電解質に含まれるリチウムイオンの少なくとも一部は、電池の初回の充電により前記金属層上に金属リチウムとして直接析出する又はすでに直接析出していることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記電解質に含まれるリチウムイオンの少なくとも一部は、前記負極における電流密度を0.007mA/cm2以上0.15mA/cm2以下として前記非水電解質二次電池の初回の充電を行うことにより前記金属層上に金属リチウムとして直接析出する又はすでに直接析出している請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記金属層上に直接析出した金属リチウムの層の厚さは、0.8μm以上29.3μm以下である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記イオン液体Xに対する前記リチウム塩Yのモル比(Y/X)は、(20/80)以上(60/40)未満である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記金属層は、リチウムと合金を作らない金属のシート又は支持部材表面に形成されている、リチウムと合金を作らない金属の層である請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記イオン液体は、カチオン成分とアニオン成分とを含み、
前記カチオン成分は、イミダゾリウム骨格を含む化学構造又はピロリジニウム骨格を有する化学構造を有し、
前記アニオン成分は、ビス(フルオロスルホニル)アミドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドイオン又は(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)アミドイオンであり、
前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド又はリチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)アミドである請求項1~5のいずれか1つに記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
正極活物質を有する正極と、負極集電シートを含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、イオン液体及びリチウム塩を含む電解質とを備える非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記負極集電シートは、リチウムと合金を作らない金属層を含み、
前記正極は、前記負極の単位面積あたりの前記正極の容量が0.29mAh/cm2以上6.05mAh/cm2以下となるように前記正極活物質を含み、
前記負極における電流密度を0.007mA/cm2以上0.15mA/cm2以下として前記非水電解質二次電池の初回の充電を行うことにより金属リチウムを前記金属層上に直接析出させるステップを含む非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項8】
前記充電における前記負極の単位面積あたりの充電電気量は0.165mAh/cm2以上6.05mAh/cm2以下である請求項7に記載の非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、非水電解質二次電池の普及が急速に拡大している。特にエネルギー密度が高いリチウムイオン電池は、スマートフォンやノートパソコンなどの小型電子機器のみならず、電気自動車や非常用電源などの大型装置にも搭載されている。
一般的なリチウムイオン電池の電解質には、可燃性の有機液体にリチウム塩を溶解させた有機電解液が用いられている。また、リチウムイオン電池は過充電や正極-負極間の短絡などに起因して異常発熱する場合がある。このため、リチウムイオン電池には発火や燃焼の危険性がある。
リチウムイオン電池の発火や燃焼を防止するために、リチウムイオン電池の電解質として、イオン液体にリチウム塩を溶解させたイオン液体電解液を用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2)。イオン液体はアニオン成分とカチオン成分とから構成される液体であり、一般的に不燃性又は難燃性である。このため、イオン液体電解液を用いることにより、リチウムイオン電池の安全性を向上させることができる。
【0003】
また、イオン液体電解液と、負極活物質である金属リチウムを含む負極とを有するリチウム二次電池が知られている(例えば、特許文献3参照)。金属リチウムは、比容量(3862mAh/g)が大きく反応電位も低いため、高エネルギー密度を有する負極活物質として期待されている。なお、炭素系負極活物質の比容量は372mAh/gである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-195129号公報
【特許文献2】特開2018-116840号公報
【特許文献3】特開2021-125416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
金属リチウムを負極活物質とするリチウムイオン電池では、負極における金属リチウムの析出溶解反応において、デンドライト状に析出した金属リチウムに起因する正極-負極間の短絡、デッドリチウムの生成、充電時の副反応への電気量消費などにより充放電効率の低下が引き起こされてしまう。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、優れた充放電効率を有する非水電解質二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、正極活物質を有する正極と、負極集電シートを含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、イオン液体及びリチウム塩を含む電解質とを備え、前記負極集電シートは、リチウムと合金を作らない金属層を含み、前記正極は、前記負極の単位面積あたりの前記正極の容量が0.29mAh/cm2以上6.05mAh/cm2以下となるように前記正極活物質を含み、前記電解質に含まれるリチウムイオンの少なくとも一部は、電池の初回の充電により前記金属層上に金属リチウムとして直接析出する又はすでに直接析出していることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の非水電解質二次電池は、優れた充放電効率を有する。このことは、本願発明者が行った実験により明らかになった。この理由は明らかではないが、負極の単位面積あたりの正極の容量を0.29mAh/cm2以上とすることにより、初回の充電で析出させた金属リチウムにより負極の金属層の表面を覆うことができ、金属リチウムと電解液の反応由来のSEI(Solid electrolyte interphase)を形成することができる。このことにより、初回以降の充電時に副反応が進行することを抑制できると考えられる。また、負極の単位面積あたりの正極の容量を6.05mAh/cm2以下とすることにより、充電時に析出したデンドライト状の金属リチウムが正極に到達し、正負極間で短絡することを抑制することができる。
また、負極の金属層の材料にリチウムと合金を作らない金属を用いることにより、負極が合金化することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】初回充電前における本発明の一実施形態の非水電解質二次電池の概略断面図である。
【
図2】初回充電後における本発明の一実施形態の非水電解質二次電池の概略断面図である。
【
図3】(a)~(f)は充放電試験で測定された充放電曲線を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の非水電解質二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極集電シートを含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、イオン液体及びリチウム塩を含む電解質とを備え、前記負極集電シートは、リチウムと合金を作らない金属層を含み、前記正極は、前記負極の単位面積あたりの前記正極の容量が0.29mAh/cm2以上6.05mAh/cm2以下となるように前記正極活物質を含み、前記電解質に含まれるリチウムイオンの少なくとも一部は、電池の初回の充電により前記金属層上に金属リチウムとして直接析出する又はすでに直接析出していることを特徴とする。
【0010】
前記電解質に含まれるリチウムイオンの少なくとも一部は、前記負極における電流密度を0.007mA/cm2以上0.15mA/cm2以下として前記非水電解質二次電池の初回の充電を行うことにより前記金属層上に金属リチウムとして直接析出する又はすでに直接析出していることが好ましい。このことにより、非水電解質二次電池が優れた充放電効率を有することができる。また、充電時間が長くなりすぎることを抑制することができる。
前記金属層上に直接析出した金属リチウムの層の厚さは、0.8μm以上29.3μm以下であることが好ましい。金属リチウムの層の厚さを0.8μm以上とすることにより、金属リチウムで負極の金属層を覆うことができ、金属リチウムと電解液の反応由来のSEIを形成することができる。このことにより、初回以降の充電時に副反応が進行することを抑制することができる。金属リチウムの層の厚さを29.3μm以下とすることにより、充電時に析出したデンドライト状の金属リチウムが正極に到達し、正負極間で短絡することを抑制することができる。
【0011】
前記イオン液体Xに対する前記リチウム塩Yのモル比(Y/X)は、(20/80)以上(60/40)未満であることが好ましい。モル比(Y/X)を(20/80)以上とすることにより、充電時に金属リチウムがデンドライト状に析出することを抑制することができ、正極-負極間の短絡やデッドリチウムの生成を抑制することができる。また、充電時などに副反応が進行することを抑制することができる。また、モル比(Y/X)を(60/40)未満とすることにより、すべてのリチウム塩をイオン液体に溶解させることができ、残渣が残ることを抑制することができる。
前記金属層は、リチウムと合金を作らない金属のシート又は支持部材表面に形成されている、リチウムと合金を作らない金属の層であることが好ましい。このことにより、負極集電シートとリチウムイオンとが反応し合金化することを抑制することができる。リチウムと合金を作らない金属は、リチウムと合金を作らなければ特に限定されないが、例えば、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、鉄合金、ステンレス鋼などである。
【0012】
好ましくは、前記イオン液体は、カチオン成分とアニオン成分とを含み、前記カチオン成分は、イミダゾリウム骨格を含む化学構造又はピロリジニウム骨格を有する化学構造を有し、前記アニオン成分は、ビス(フルオロスルホニル)アミドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドイオン又は(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)アミドイオン(FTA)であり、前記リチウム塩は、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド又はリチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiFTA)である。このことにより、非水電解質二次電池が優れた充放電特性および優れた安全性を有することができる。
【0013】
本発明は、正極活物質を有する正極と、負極集電シートを含む負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、イオン液体及びリチウム塩を含む電解質とを備える非水電解質二次電池の製造方法も提供する。この非水電解質二次電池において、前記負極集電シートは、リチウムと合金を作らない金属層を含み、前記正極は、前記負極の単位面積あたりの前記正極の容量が0.29mAh/cm2以上6.05mAh/cm2以下となるように前記正極活物質を含む。本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、前記負極における電流密度を0.007mA/cm2以上0.15mA/cm2以下として前記非水電解質二次電池の初回の充電を行うことにより金属リチウムを前記金属層上に直接析出させるステップを含む。この製造方法により、優れた充放電効率を有する非水電解質二次電池を製造することができる。
前記金属リチウム層を析出させるための充電における前記負極の単位面積あたりの充電電気量は0.165mAh/cm2以上6.05mAh/cm2以下であることが好ましい。充電電気量を0.165mAh/cm2以上とすることにより、充電で析出させた金属リチウムにより負極の金属層の表面を覆うことができ、充電時に副反応が進行することを抑制できる。充電電気量を6.05mAh/cm2以下とすることにより、充電時に析出したデンドライト状の金属リチウムが正極に到達し、正負極間で短絡することを抑制することができる。
【0014】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0015】
図1は初回充電前における本実施形態の非水電解質二次電池の概略断面図であり、
図2は、初回充電後のおける本実施形態の非水電解質二次電池の概略断面図である。
本実施形態の非水電解質二次電池20は、正極活物質を有する正極2と、負極集電シート11を含む負極3と、正極2と負極3との間に配置されたセパレータ4と、イオン液体及びリチウム塩を含む電解質5とを備え、負極集電シート11は、リチウムと合金を作らない金属層を含み、正極2は、負極3の単位面積あたりの正極2の容量が0.29mAh/cm
2以上6.05mAh/cm
2以下となるように正極活物質を含み、電解質5に含まれるリチウムイオンの少なくとも一部は、電池20の初回の充電により前記金属層上に金属リチウムとして直接析出する又はすでに直接析出していることを特徴とする。
【0016】
非水電解質二次電池20は、金属リチウムを負極活物質とする電池である。
非水電解質二次電池20は、コイン型電池であってもよく、パウチ型電池であってもよく、金属缶型電池であってもよい。また、正極2と、負極3と、セパレータ4とから構成される電極積層体は、スタック構造を有してもよく、巻回構造を有してもよい。
非水電解質二次電池20がコイン型電池である場合、非水電解質二次電池20は、正極缶16、負極缶17、ガスケット18などを含むことができる。
【0017】
正極2は、正極集電シート6と、正極集電シート6の一方又は両方の主要面上に設けられた多孔質の正極活物質層7とを有する。
正極集電シート6は、正極活物質層7を設けるための基材となるシートであり、正極電池端子と正極活物質層7とを電気的に接続する導電体である。正極集電シート6は、例えば、アルミニウム箔、ステンレス箔などである。
【0018】
正極活物質層7は、正極集電シート6の片面上に設けられてもよく、正極集電シート6の両面上にそれぞれ設けられてもよい。正極活物質層7は、複数の正極活物質粒子がバインダにより接着された多孔質層である。このことにより、正極活物質層7は、正極活物質粒子間に細孔を有することができる。この細孔は電解質5で満たされ、正極活物質粒子の表面において電極反応が進行する。例えば、リチウムイオン電池を充電する際には、正極活物質粒子中のリチウム原子がリチウムイオン(Li+)として電解質中に放出され、リチウムイオン電池を放電する際には、電解質中のリチウムイオンがリチウム原子として正極活物質粒子中に挿入される。
【0019】
正極活物質は、正極における電荷移動を伴う電子の受け渡しに直接関与する物質である。正極活物質は、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNixMnyO2(x+y=1)、LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)、LiNixCoyAlzO2(x+y+z=1)、Li2MnO3、LiMnO2、LiNixMnyO2(x+y=1)、LiFePO4、LiMnxFeyPO4(x+y=1)などである。正極活物質層7は、これらの正極活物質を1種単独で又は複数種混合で含むことができる。
【0020】
正極2は、負極3の単位面積あたりの正極2の容量(理論容量)が0.29mAh/cm2以上6.05mAh/cm2以下となるように正極活物質を含む。このことにより、非水電解質二次電池20が優れた充放電効率を有することができる。このことは、本願発明者が行った実験により明らかになった。この理由は明らかではないが、負極3の単位面積あたりの正極2の容量を0.29mAh/cm2以上とすることにより、初回の充電で析出させた金属リチウム層12により負極集電シート11の金属層の表面を覆うことができ、金属リチウムと電解液の反応由来のSEI(Solid electrolyte interphase)を形成することができる。このことにより、初回以降の充電時に副反応が進行することを抑制できる。また、負極3の単位面積あたりの正極2の容量を6.05mAh/cm2以下とすることにより、充電時に析出したデンドライト状の金属リチウムが正極に到達し、正負極間で短絡することを抑制することができる。
【0021】
負極3の単位面積あたりの正極2の容量は、負極3の単位面積あたりの充電電気量を表し、この容量が小さいほど負極3の表面への金属リチウムの析出量が少なくなり金属リチウム層12の厚さが薄くなり、この容量が大きいほど負極3の表面への金属リチウムの析出量が多くなり金属リチウム層12の厚さが厚くなると考えられる。
【0022】
負極3の単位面積あたりの正極2の容量は、例えば、次の式(1)を用いて算出することができる。
負極3の単位面積あたりの正極2の容量(mAh/cm2)=正極活物質層7の重さ(g)×正極活物質層7における正極活物質の割合(wt%)×正極活物質の比容量(mAh/g)÷負極3の有効面積(cm2)・・・(1)
負極3の有効面積は、負極3の表面積のうち、充放電反応が進行する面積である。例えば、ボタン型電池の場合、充電の際、負極集電シート11の一方の主要面にのみ金属リチウムが析出し、放電の際、この金属リチウムが電解質に溶出するため、負極3の有効面積は負極集電シート11の一方の主要面の面積となる。電極積層体がスタック構造又は巻回構造を有する場合、充電の際、負極集電シート11の両方の主要面(表及び裏)に金属リチウムが析出し、放電の際、この金属リチウムが電解質に溶出するため、負極3の有効面積は負極集電シート11の両方の主要面(表及び裏)の合計面積となる。また、負極集電シート11の表面のうち必要ないところ(充放電反応を進行させない部分)は、負極反応面として機能しないように絶縁テープや絶縁コーティングで覆うことにより、負極3の有効面積をコントロールすることもできる。
【0023】
正極活物質粒子は、その表面に導電皮膜を有することができる。このことにより、電極反応が進行する粒子表面の導電性を向上させることができ、正極2の内部抵抗を低減することができる。導電皮膜は、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラックなどの炭素皮膜である。
【0024】
正極活物質層7は、導電剤を含むことができる。このことにより、正極活物質層7の導電性を向上させることができ、正極の内部抵抗を低減することができる。導電剤は、例えば、黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、カーボンブラックなどである。
【0025】
正極活物質層7は、バインダを含むことができる。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン・ブタジエンゴム、アクリロニトリルゴム、ポリアクリル酸などである。また、正極活物質層7は、増粘剤を含むことができる。増粘剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースなどである。
【0026】
正極活物質層7の厚さは、特に限定されるものではないが、10~300μmであることが好ましい。正極活物質層7の厚さを10μm以上とすることにより、正極に含まれる正極活物質の量を多くすることができ、非水電解質二次電池の容量を大きくすることができる。また、正極活物質層7を塗工により容易に形成することが可能になる。正極活物質層7の厚さを300μm以下とすることにより、正極活物質層7の厚み由来の内部抵抗の影響を受けにくい条件で、充放電を行うことができる。
【0027】
正極2の作製方法は、例えば、正極活物質粒子と、導電剤と、バインダとを混合した正極合剤を分散媒に分散させて正極スラリーを調製する。この正極スラリーを正極集電シート6上に塗布し、分散媒を揮発させ、プレス処理することにより正極2を作製することができる。スラリーの調製に用いる分散媒は、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどである。
【0028】
負極3は、リチウムと合金を作らない金属層を含む負極集電シート11を備える。負極集電シート11の表面のうち反応に関与しない部分は、絶縁テープや絶縁コーティング等で覆うことにより負極反応面として機能しないように保護することが好ましい。
初回の充電を行う前の非水電解質二次電池20に含まれる負極3は、金属リチウム層12を有していない。この場合、例えば、非水電解質二次電池20は、
図1に示したような断面を有する。初回の充電を行った後の非水電解質二次電池20に含まれる負極3は、負極集電シート11の金属層上に直接析出させた金属リチウム層12を有する。この場合、例えば、非水電解質二次電池20は、
図2に示したような断面を有する。
金属リチウム層12は、負極集電シート11の一方又は両方の反応面上に、電池内で初回充電時に析出させた金属リチウムの層であり、この析出・溶解する金属リチウムが負極活物質として機能する。初回充電時に初めて現れる層であり、初回充電前は存在しない層である。
これにより、製造時に取扱いの難しい金属リチウムの使用を避けることができる。また、電池のエネルギー密度を上げることができる。
【0029】
負極集電シート11は、金属リチウム層12を析出させるための基材となるシートであり、負極反応の進行に伴い電流(電子)が流れる金属層を含むシートである。非水電解質二次電池20の初回の充電によりこの金属層上に金属リチウムが直接析出し金属リチウム層12が形成される。また、この金属層は、リチウムと合金を作らない金属の層である。金属層の材料としては、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄、鉄合金、ステンレス鋼などが挙げあれる。このことにより、負極集電シート11とリチウムイオンとが反応し合金化することを抑制することができる。
金属層は、リチウムと合金を作らない金属の箔であってもよい。この場合、この金属箔が負極集電シート11となる。
また、金属層は、支持部材の表面に形成されている、リチウムと合金を作らない金属の層であってもよい。この場合、負極集電シート11は、支持部材と、支持部材上に設けられた金属層とを有する。支持部材の材料には、樹脂、金属、炭素繊維等、が使用でき、非水電解質二次電池20の内部において化学的に安定であれば特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂、金属、炭素繊維等が使用できる。支持部材の形状は、表面が平坦なシート状が好ましい。平坦な表面の方が、充電時にデンドライト状の金属リチウムが析出することを抑制することができる。負極集電シート11の表面の金属層は、例えば、蒸着、メッキ、クラッディング等により形成することができる。また、負極集電シート11は、支持部材と金属層とを貼り合わせたクラッド材であってもよい。負極集電シート11の表面の金属層の厚さは例えば、0.5μm以上である。
金属層が銅層である場合、銅層に含まれる銅の純度は98%以上であってもよく、好ましくは99%以上である。また、銅層は、銀、スズ、クロム、ニッケル、ジルコニウム、鉄、ケイ素などを少量含んでもよい。また、銅層はその表面に酸化皮膜を有することができる。
【0030】
非水電解質二次電池20の初回充電後における金属リチウム層12の厚さは、例えば、0.8μm以上29.3μm以下である。金属リチウム層12の厚さを0.8μm以上とすることにより、負極集電シート11(金属層)の負極反応が進行する表面の全体を金属リチウム層12で覆うことができ、金属リチウムと電解液の反応由来のSEIを形成することにより、初回以降の充電時に副反応が抑制される。金属リチウム層12の厚さを29.3μm以下とすることにより、充電時に析出したデンドライト状の金属リチウムが正極2に到達し、正負極間で短絡することを抑制することができる。
【0031】
金属リチウム層12は、負極3における電流密度(負極の単位面積に単位時間に流れる電流)を0.007mA/cm2以上0.15mA/cm2以下として非水電解質二次電池20の初回の充電を行い金属リチウムを負極集電シート11の金属層上に直接析出させることにより形成する。このことにより、非水電解質二次電池20が優れた充放電効率を有することができる。また、充電時間が長くなりすぎることを抑制することができる。このことは、本願発明者が行った実験により明らかになった。この理由は明らかではないが、金属リチウム層12の構造が、凹凸の少ない平坦な状態になり、リチウムのデンドライト析出を抑制することができると考えられる。初回充電時にリチウムのデンドライト析出ができにくい構造を作ることにより、2回目以降の充電時のデンドライト析出の抑制に効果的であると考えられる。
充電時の負極3における電流密度は、例えば、次の式(2)を用いて算出することができる。
電流密度=正極活物質層の質量(g)×正極活物質層における正極活物質の割合(wt%)×正極活物質の比容量(mAh/g)×充電レート(C)÷負極の有効面積(cm2)・・・(2)
【0032】
金属リチウム層12を形成するための初回充電における負極3の単位面積あたりの充電電気量は、例えば、0.165mAh/cm2以上6.05mAh/cm2以下である。充電電気量を0.165mAh/cm2以上とすることにより、充電で析出させた金属リチウムにより負極3の表面を覆うことができ、金属リチウムと電解質の反応由来のSEIを形成することができる。このことにより、初回以降の充電時に副反応を抑制することができる。充電電気量を6.05mAh/cm2以下とすることにより、負極3上に析出した金属リチウムが正極2に到達することで発生する正極-負極間の短絡やデッドリチウムの生成を抑制できる。
【0033】
セパレータ4は、正極2と負極3との間に配置される。セパレータ4を設けることにより、正極2と負極3との間に短絡電流が流れることを防止することができる。また、セパレータ4は、多数の細孔を有し、この細孔が電解質5で満たされる。このことにより、正極2と負極3との間の電解質5を伝導するリチウムイオンがセパレータ4を透過することができ、非水電解質二次電池の内部抵抗を低減することができる。
セパレータ4は、例えば、ポリオレフィン製の多孔性フィルム、耐熱ゴム製の多孔性フィルム、耐熱性樹脂製の多孔性フィルム、不織布セパレータ、積層セパレータ、固体電解質セパレータなどである。また、セパレータ4は、ポリオレフィン製の多孔性フィルムの主要面上に無機物層が設けられたものであってもよい。
【0034】
電解質5は、正極-負極間のリチウムイオン伝導媒体であり、リチウムイオンを含む。電解質5が正極2の細孔、負極3の細孔及びセパレータ4の細孔を満たすことにより、正極2と負極3との間をリチウムイオンが伝導することができる。
電解質5は、イオン液体及びリチウム塩を含む。イオン液体は一般的に不燃性又は難燃性であるため、電解質5がイオン液体を含むことにより、リチウムイオン電池の安全性を向上させることができる。
電解質5は、イオン液体とリチウム塩とから構成されてもよく(不純物を除く)、イオン液体とリチウム塩と添加物(例えば、被膜形成剤や希釈剤)とから構成されてもよい。電解質5が添加物を含む場合、イオン液体とリチウム塩の合計割合は、例えば、90wt%以上である。
【0035】
電解質5におけるイオン液体Xに対するリチウム塩Yのモル比(Y/X)は、例えば、(20/80)以上(60/40)未満である。モル比(Y/X)を(20/80)以上とすることにより、充電時に金属リチウムがデンドライト状に析出することを抑制することができ、正極-負極間の短絡やデッドリチウムの生成を抑制することができる。また、充電時などに副反応が進行することを抑制することができる。また、モル比(Y/X)を(60/40)未満とすることにより、すべてのリチウム塩をイオン液体に溶解させることができ、残渣が残ることを抑制することができる。
【0036】
電解質5に含まれるイオン液体は、カチオン成分とアニオン成分とを含む。
イオン液体のカチオン成分は、イミダゾリウム骨格を含む化学構造又はピロリジニウム骨格を有する化学構造を有することができ、具体的には、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムイオン(MPP)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン(EMI)などである。
イオン液体のアニオン成分は、例えば、ビス(フルオロスルホニル)アミドイオン(FSA)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドイオン(TFSA)、(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)アミドイオン(FTA)などである。
電解質5に含まれるイオン液体は、例えば、MPPFSA、MPPTFSA、EMIFSA、EMITFSAなどである。
【0037】
電解質5に含まれるリチウム塩は、例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiTFSA)、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(LiFTA)などである。
【0038】
リチウムイオン電池(リチウム電池)1~4の作製
[電池1]
92.5質量%のLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(正極活物質、比容量:200mAh/g)と、アセチレンブラック(導電剤)と、ポリフッ化ビニリデン(バインダ)とを混合した正極合剤をN-メチル-2-ピロリドン(分散媒)に分散させて正極スラリーを調製した。そして、この正極スラリーをカーボンでコーティングされたアルミニウム箔(正極集電シート、直径1.5cm、正極の有効面積:1.77cm2、0.0063g)の片面上に塗布し、分散媒を揮発させ、プレス処理することにより正極を作製した。正極の質量は、0.0422gであった。
負極には、直径1.6cmの銅箔(負極集電シート、負極の有効面積:2.01cm2)を用いた。
50mol%のリチウムビス(フルオロスルホニル)アミド(LiFSA、リチウム塩)を50mol%の1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)アミド(EMIFSA、イオン液体)に溶解させ電解液を調製した。
上記の正極、負極、セパレータ、電解液を用い、CR2032型リチウムイオン電池(コイン型電池)を作製した。
【0039】
正極の重さなどに基づき、正極活物質層の質量、及び負極の単位面積あたりの正極の容量(mAh/cm2)を算出した。具体的には、次のように算出した。
正極活物質層の質量=(0.0422g(正極の質量)-0.0063g(正極集電シートの重さ))÷1.77cm2(正極の有効面積)=2.03g/mm2
負極の単位面積あたりの正極の容量=(0.0422g(正極の重さ)-0.0063g(正極集電シートの重さ))×0.925(正極活物質の割合)×200mAh/g(正極活物質の比容量)÷2.01cm2(負極の有効面積)=3.30mAh/cm2
この算出結果は、表1にも示している。
【0040】
[電池2~4]
電池2、3、4を電池1と同じように作製した。電池2の正極の質量は、0.0390gであり、電池3の正極の質量は、0.0384gであり、電池4の正極の質量は、0.0396gであった。電池2、3、4についても正極活物質層の質量、及び負極の単位面積あたりの正極の容量(mAh/cm2)を算出した。算出結果を表1に示す。
【0041】
【0042】
充放電試験1
作製した電池1を用いて、0.01Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(初回)を行い、その後、0.1Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(初回)を行った。充電時の負極における電流密度(負極の単位面積に単位時間に流れる電流)は0.03mA/cm2である。電流密度は次のように算出した。
電流密度=(0.0422g(正極の質量)-0.0063g(正極集電シートの重さ))×0.925(正極活物質の割合)×200mAh/g(正極活物質の比容量)×0.01C(充電レート)÷2.01cm2(負極の有効面積)=0.03mA/cm2
充放電試験の測定結果から算出した充電容量、放電容量及び充放電効率を表1に示す。表1には、充電時の負極における電流密度及び充電レートも示している。
【0043】
作製した電池2を用いて、0.025Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(初回)を行い、その後、0.1Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(初回)を行った。充電時の負極における電流密度は0.08mA/cm2である。充放電試験の測定結果から算出した充電容量、放電容量及び充放電効率を表1に示す。
作製した電池3を用いて、0.05Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(初回)を行い、その後、0.1Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(初回)を行った。充電時の負極における電流密度は0.15mA/cm2である。充放電試験の測定結果から算出した充電容量、放電容量及び充放電効率を表1に示す。
作製した電池4を用いて、0.08Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(初回)を行い、その後、0.1Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(初回)を行った。充電時の負極における電流密度は0.25mA/cm2である。充放電試験の測定結果から算出した充電容量、放電容量及び充放電効率を表1に示す。
【0044】
電池1~4の構成はほぼ同じであり、充電レートが異なる。このため、電池1~4では、充電時の負極における電流密度が異なる。充電時には、電解液中のリチウムイオンが負極から電子を受取り、負極の表面に金属リチウム(負極活物質)が析出するため、この電流密度は、金属リチウムの析出速度を表す。
【0045】
充電時の負極における電流密度を0.15mA/cm2以下とした電池1~3では充放電効率が80%以上であったのに対し、充電時の負極における電流密度を0.25mA/cm2とした電池4では、充放電効率が40.6%以上であった。電池4では、金属リチウムがデンドライト析出し、デッドリチウムの生成又は正極-負極間の短絡が生じていると考えられる。電池1~3では、充電時に金属リチウムがデンドライトとして析出することが抑制されていると考えられる。
【0046】
リチウムイオン電池(リチウム電池)5~9の作製
正極集電シート上に塗布する正極スラリーの量を変えたこと以外は、電池1と同じように電池5~9を作製した。
電池5の正極の質量は0.007gであり、電池6の正極の質量は0.009gであり、電池7の正極の質量は0.0133gであり、電池8の正極の質量は0.0390gであり、電池9の正極の質量は0.0572gであった。電池5~9についても正極活物質層の質量、及び負極の単位面積あたりの正極の容量(mAh/cm2)を算出した。算出結果を表1に示す。
【0047】
充放電試験2
作製した電池5~9を用いて、0.025Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(初回)を行い、その後、0.1Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(初回)を行った。電池5~9のそれぞれに含まれる正極活物質の量が異なるため、充電時の負極における電流密度も異なる。具体的な電流密度は表1に示す。また、充放電試験の測定結果から算出した充電容量、放電容量及び充放電効率を表1に示す。また、電池5~9の充放電曲線を示したグラフを
図3(a)~(e)に示す。
図3に示したグラフの横軸は充電容量又は放電容量であり、縦軸は端子電圧である。
【0048】
電池5~9は、正極活物質層の質量が異なること以外はほぼ同じである。このため、電池5~9では、負極の単位面積あたりの正極の容量(mAh/cm2)が異なる。負極の単位面積あたりの正極の容量は、負極の単位面積あたりの充電電気量を表し、この容量が小さいほど負極表面への金属リチウムの析出量が少なくなり金属リチウム層の厚さが薄くなり、この容量が大きいほど負極表面への金属リチウムの析出量が多くなり金属リチウム層の厚さが厚くなると考えられる。
【0049】
負極の単位面積あたりの正極の容量を0.29mAh/cm
2以上とした電池6~9では充放電効率が69%以上であったのに対し、負極の単位面積あたりの正極の容量を0.09mAh/cm
2とした電池5では充放電効率が15.3%であった。また、
図3(a)に示した電池5の充電曲線は、
図3(b)~(e)に示した電池6~9の充電曲線と明らかに異なる傾向を示した。このことは、電池5の充電時において金属リチウムの析出反応とは異なる副反応が進行していることを示していると考えられる。副反応としては、金属リチウムと電解液との反応、負極集電体である銅箔表面の酸化銅の還元反応などが考えられる。電池5では、充電時における負極表面への金属リチウムの析出量が少ないため、充電時に形成される金属リチウム層が負極集電体の有効面積の全体を覆っておらず、副反応が進行しやすくなると考えられる。
また、負極の単位面積あたりの正極の容量を0.29mAh/cm
2以上とすることにより、充電時における副反応が進行することを抑制することができることがわかった。
【0050】
また、電池5~9では、正極活物質層の質量が異なるため、充電時の負極における電流密度が異なる。充電時の負極における電流密度を0.007mA/cm2以上とした電池6~9では充放電効率が69%以上であったのに対し、充電時の負極における電流密度を0.002mA/cm2とした電池5では充放電効率が15.3%であった。このため、充電時の負極における電流密度を0.007mA/cm2以上とすることにより、非水電解質二次電池が優れた充放電効率を有することがわかった。
【0051】
リチウムイオン電池(リチウム電池)10~13の作製
正極集電シート上に塗布する正極スラリーの量を変えたこと以外は、電池1と同じように電池10~13を作製した。
電池10の正極の質量は0.0422gであり、電池11の正極の質量は0.0564gであり、電池12の正極の質量は0.0720gであり、電池13の正極の質量は0.0941gであった。電池10~13について正極活物質層の質量、及び負極の単位面積あたりの正極の容量(mAh/cm2)を算出した。算出結果を表1に示す。
【0052】
充放電試験3
作製した電池10~13を用いて、0.01Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(初回)を行い、その後、0.1Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(初回)を行った。電池10~13のそれぞれに含まれる正極活物質の量が異なるため、充電時の負極における電流密度も異なる。具体的な電流密度は表1に示す。また、充放電試験の測定結果から算出した充電容量、放電容量及び充放電効率を表1に示す。
【0053】
電池10~13は、正極活物質層の質量が異なること以外はほぼ同じである。このため、電池10~13では、負極の単位面積あたりの正極の容量(mAh/cm2)が異なる。
負極の単位面積あたりの正極の容量を6.05mAh/cm2以下とした電池10~12では充放電効率が80%以上であったのに対し、負極の単位面積あたりの正極の容量を8.08mAh/cm2とした電池13では充放電効率が44.3%であった。電池13で充放電効率が低下した理由は明らかではないが、負極集電シート上に析出する金属リチウムの量が多いため、充電時にデンドライト状の金属リチウムが析出し正極-負極間に短絡が生じたこと又は放電時にデンドライト状の金属リチウムが負極から脱離しデッドリチウムが生成したことなどが考えられる。
また、負極の単位面積あたりの正極の容量を6.05mAh/cm2以下とすることにより、正極-負極間の短絡やデッドリチウムの生成を抑制することができることがわかった。
【0054】
リチウムイオン電池(リチウム電池)14~18の作製
電解液に含まれるリチウム塩とイオン液体の混合割合を変えたこと以外は、電池1と同じように電池14~18を作製した(混合割合については表1を参照)。
また、40mol%のEMIFSA(イオン液体)に60mol%のLiFSA(リチウム塩)を溶解させた電解液の調製も試みたが、LiFSAのすべてをEMIFSAに溶解させることはできなかった。
電池14の正極の質量は0.0345gであり、電池15の正極の質量は0.0357gであり、電池16の正極の質量は0.0334gであり、電池17の正極の質量は0.0339gであり、電池18の正極の質量は0.0390gであった。電池14~18について正極活物質層の質量、及び負極の単位面積あたりの正極の容量(mAh/cm2)を算出した。算出結果を表1に示す。
【0055】
充放電試験4
作製した電池14~18を用いて、0.025Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(初回)を行い、0.1Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(初回)を行った。その後、0.025Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(二回目)を行い、0.5Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(二回目)を行った。充放電試験の測定結果から算出した初回充電容量、初回放電容量、初回充放電効率及び二回目放電容量を表1に示す。
【0056】
電池14~18の初回充放電効率は80%以上であり、電池14~18は優れた初回充放電効率を有していた。しかし、イオン液体Xに対するリチウム塩Yのモル比(Y/X)が(20/80)以上である電池15~18の二回目の放電容量は150mAh/gであったのに対し、イオン液体Xに対するリチウム塩Yのモル比(Y/X)が(10/90)である電池14の二回目の放電容量は109.8mAh/gであった。
電池14の二回目の放電容量が低下した理由は明らかではないが、電解液中のリチウム塩の割合が小さいために金属リチウムがデンドライト状に析出し正極-負極間の短絡が生じていること、放電時にデンドライト状の金属リチウムが負極から脱離しデッドリチウムが生成したこと、金属リチウムと電解液との反応、負極集電体である銅箔表面の酸化銅の還元反応などの副反応が進行したことなど考えられる。
【0057】
リチウムイオン電池(リチウム電池)19の作製
電解液に含まれるイオン液体に1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(フルオロスルホニル)アミド(MPPFSA、イオン液体)を用いたこと以外は、電池1と同じように電池19を作製した。
電池19の正極の質量は0.036gであった。電池19について正極活物質層の質量、及び負極の単位面積あたりの正極の容量(mAh/cm2)を算出した。算出結果を表1に示す。
【0058】
充放電試験5
作製した電池19を用いて、0.025Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(初回)を行い、0.1Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(初回)を行った。その後、0.025Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(二回目)を行い、0.5Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(二回目)を行った。充放電試験の測定結果から算出した初回充電容量、初回放電容量、初回充放電効率及び二回目放電容量を表1に示す。
電池19の初回充放電効率は87.2%であり、電池19は優れた初回充放電効率を有していた。また、電池19の二回目の放電容量は178.8mAh/gであり、電池19は優れた二回目放電容量を有していた。
【0059】
リチウムイオン電池(リチウム電池)20の作製
ポリエチレンテレフタレートシート(PETシート)上に蒸着銅層を形成した負極集電シートを用いたこと以外は電池1と同じように電池20を作製した。
電池20の正極の質量は0.028gであった。電池20について正極活物質層の質量、及び負極の単位面積あたりの正極の容量(mAh/cm2)を算出した。算出結果を表1に示す。
【0060】
充放電試験6
作製した電池20を用いて、0.025Cの電流値で端子電圧が4.35Vになるまで定電流充電(初回)を行い、0.1Cで端子電圧が2.5Vにまるまで定電流放電(初回)を行った。充放電試験の測定結果から算出した充電容量、放電容量及び充放電効率を表1に示す。また、電池20の充放電曲線を示したグラフを
図3(f)に示す。
電池20の初回充放電効率は74.4%であり、電池20は優れた初回充放電効率を有していた。また、電池20の充放電曲線は通常の挙動を示した。このため、PETシート上に蒸着銅層を形成した負極集電シートを用いた電池も優れた充放電効率を有することがわかった。
【符号の説明】
【0061】
2:正極 3:負極 4:セパレータ 5:電解質 6:正極集電シート 7:正極活物質層 11:負極集電シート 12:金属リチウム層 16:正極缶 17:負極缶 18:ガスケット 20:非水電解質二次電池