(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127576
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】耐震壁およびその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
E04B2/56 643A
E04B2/56 643F
E04B2/56 645F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036814
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 健司
(72)【発明者】
【氏名】原田 卓
(72)【発明者】
【氏名】上原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
(72)【発明者】
【氏名】増田 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】貞広 修
【テーマコード(参考)】
2E002
【Fターム(参考)】
2E002EB13
2E002FA04
2E002FA09
2E002FB02
2E002FB07
2E002FB24
2E002HA02
2E002HB06
2E002HB07
2E002HB14
2E002JA01
2E002JB06
2E002JB07
2E002JB14
2E002MA12
2E002MA19
2E002MA37
(57)【要約】
【課題】木質面を現しとすることができ、低コストで施工性に優れた耐震壁およびその施工方法を提供する。
【解決手段】上下の梁状部材12と、左右の柱状部材14に対して、上下左右の四辺がそれぞれ固定される耐震壁10であって、コンクリートまたは鉄筋コンクリートからなり、上側の前記梁状部材12から下方に延びる垂れ壁16と、この垂れ壁16の両面に設けられ、上下左右の四辺が上下の前記梁状部材12と、左右の前記柱状部材14に対してそれぞれ固定される木質の壁パネル18とを備え、前記垂れ壁16の下辺と下側の前記梁状部材12との間、および、前記垂れ壁16の側辺と左右の前記柱状部材14との間には、それぞれスリット24,26が設けられるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下の梁状部材と、左右の柱状部材に対して、上下左右の四辺がそれぞれ固定される耐震壁であって、
コンクリートまたは鉄筋コンクリートからなり、上側の前記梁状部材から下方に延びる垂れ壁と、この垂れ壁の両面に設けられ、上下左右の四辺が上下の前記梁状部材と、左右の前記柱状部材に対してそれぞれ固定される木質の壁パネルとを備え、前記垂れ壁の下辺と下側の前記梁状部材との間、および、前記垂れ壁の側辺と左右の前記柱状部材との間には、それぞれスリットが設けられることを特徴とする耐震壁。
【請求項2】
請求項1に記載の耐震壁を施工する方法であって、
前記木質の壁パネルを、前記垂れ壁のコンクリートを打設する型枠として兼用することを特徴とする耐震壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震壁およびその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)を壁パネルとして用いたCLT耐震壁が知られている(例えば、特許文献1を参照)。CLT耐震壁は、接合金物を介してRC(鉄筋コンクリート)/S(鉄骨)躯体と接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CLT耐震壁を集合住宅の戸境壁として使用する場合、区画壁としての耐火性能および遮音性能が要求されることから、CLT耐震壁を強化石膏ボード等で仕上げる必要が生じる。このような制約から、CLTパネルの木質面を現しとすることは難しい。また、躯体とCLT耐震壁の接合部が煩雑で施工性が悪く、接合金物に要するコストも高いという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、木質面を現しとすることができ、低コストで施工性に優れた耐震壁およびその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る耐震壁は、上下の梁状部材と、左右の柱状部材に対して、上下左右の四辺がそれぞれ固定される耐震壁であって、コンクリートまたは鉄筋コンクリートからなり、上側の前記梁状部材から下方に延びる垂れ壁と、この垂れ壁の両面に設けられ、上下左右の四辺が上下の前記梁状部材と、左右の前記柱状部材に対してそれぞれ固定される木質の壁パネルとを備え、前記垂れ壁の下辺と下側の前記梁状部材との間、および、前記垂れ壁の側辺と左右の前記柱状部材との間には、それぞれスリットが設けられることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る耐震壁の施工方法は、上述した耐震壁を施工する方法であって、前記木質の壁パネルを、前記垂れ壁のコンクリートを打設する型枠として兼用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る耐震壁によれば、上下の梁状部材と、左右の柱状部材に対して、上下左右の四辺がそれぞれ固定される耐震壁であって、コンクリートまたは鉄筋コンクリートからなり、上側の前記梁状部材から下方に延びる垂れ壁と、この垂れ壁の両面に設けられ、上下左右の四辺が上下の前記梁状部材と、左右の前記柱状部材に対してそれぞれ固定される木質の壁パネルとを備え、前記垂れ壁の下辺と下側の前記梁状部材との間、および、前記垂れ壁の側辺と左右の前記柱状部材との間には、それぞれスリットが設けられるので、木質面を現しとすることができ、低コストで施工性に優れた耐震壁を提供することができるという効果を奏する。
【0009】
また、本発明に係る耐震壁の施工方法によれば、上述した耐震壁を施工する方法であって、前記木質の壁パネルを、前記垂れ壁のコンクリートを打設する型枠として兼用するので、低コストで施工性に優れた耐震壁の施工方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明に係る耐震壁およびその施工方法の実施の形態を示す部分透視正面図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る耐震壁およびその施工方法の実施の形態を示す側断面図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態の変形例の要部拡大図であり、(1)は水平断面図、(2)は正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る耐震壁およびその施工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
図1および
図2に示すように、本発明の実施の形態に係る耐震壁10は、上下のRC製の梁状部材12と、左右のRC製の柱状部材14に対して、正面から見て上下左右の四辺がそれぞれ固定される壁であって、垂れ壁16と、木質の壁パネル18とを備える。なお、梁状部材12には、RC製の床材20、木質の天井材22が設けられる。本実施の形態では、壁高3m程度、壁幅7m程度、壁厚300mm程度の耐震壁を想定しているが、これ以外の壁寸法であってもよい。
【0013】
垂れ壁16は、上側の梁状部材12から下方に延びる矩形板状のRC製の壁であり、専ら耐震壁10の耐火性能および遮音性能を満足するために2枚の壁パネル18の間に配置される。垂れ壁16の下および左右の三辺には、スリット24、26が設けられる。具体的には、スリット24は、垂れ壁16の下辺と下側の梁状部材12との間に設けられ、スリット26は、垂れ壁16の側辺と左右の柱状部材14との間にそれぞれ設けられる。これらのスリット24、26には、耐火性能および遮音性能を備えた発泡合成樹脂等からなる細板状の耐震スリット材28が配置される。スリット24、26の寸法等については、壁パネル18との剛性バランスを考慮して設定することが望ましい。また、垂れ壁16は、RC製に限るものではなく、鉄筋を含まないコンクリート製(例えば、繊維補強コンクリートなど)で構成してもよい。垂れ壁16は、現場で打設されるコンクリートでもよいし、プレキャストコンクリートであってもよい。垂れ壁16の厚さは、例えば100mm程度に設定することができる。
【0014】
壁パネル18は、垂れ壁16の表裏両面にそれぞれ密接配置された矩形板状のCLTパネルである。この壁パネル18は、梁状部材12と柱状部材14により形成される柱梁フレームに打込むだけで高剛性・耐力を発揮する仕様のものである。壁パネル18は、下側の梁状部材12の上面に敷設したモルタルの上に配置され、左右および上側の三辺にモルタルやエポキシ樹脂を充填せずに、梁状部材12と柱状部材14の柱梁フレームに打込むことにより、上下左右の四辺が柱梁フレームに固定される。モルタルやエポキシ樹脂を非充填とすることで、施工性が向上する。壁パネル18は、CLTパネルに限るものではなく、耐震性を有する木質の壁状体であればいかなる構造でもよい。例えば、壁パネルをLVL(単板積層材)等で構成してもよい。壁パネル18は、垂れ壁16のコンクリートを打設する際の型枠として兼用してもよいし、兼用しなくてもよい。例えば、垂れ壁16がプレキャストコンクリートの場合には、型枠として兼用しなくてよい。なお、壁パネル18の座屈防止のため、壁パネル18は垂れ壁16と部分的に接合することが好ましい。また、壁パネル18と垂れ壁16の間で地震時応力が伝達しないような構造とすることが好ましい。壁パネル18の厚さは、例えば100mm程度に設定することができる。また、壁の見付け形状に応じ、RC柱梁架構の内側に間柱を設けて壁パネル18を左右に分割したり、または、周辺の柱状部材14、梁状部材12との間に鋼材によるシアキーを設けるなどして、耐震壁10の性能を向上させることもできる。
【0015】
例えば、柱際において
図3のような構造を採用してもよい。この図に示すように、柱状部材14の側面の中央部に、垂れ壁16に向けて突出する凸部30が形成されている。柱状部材14は鉄筋32を有するRC躯体であり、凸部30の厚さは、垂れ壁16と同厚である。耐震スリット材28は、垂れ壁16と凸部30との間に形成されたスリット26に配置される。壁パネル18の柱際部分は、凸部30の前後面を覆うように配置される。この柱際部分で壁パネル18と凸部30を連結材34で連結する。連結材34は、上下方向に間隔をあけて複数設ける。このようにすることで、地震時などに柱状部材14と壁パネル18が、
図1の紙面左右方向に離れようとする挙動に対するずれ止め(シアキー)として効かせることが可能である。連結材34としては、木質構造用ビス(細径で長尺の特殊ねじ)、ラグスクリュー(太径の木ねじ)などCLTパネルとコンクリートのシアコネクタとしての性能が確認されたものを用いることができる。
【0016】
上記の耐震壁10を施工する手順について、壁パネル18を、垂れ壁16のコンクリートを打設する際の型枠として兼用する場合を例にとり説明する。具体的には、まず、下側の梁状部材12と左右の柱状部材14を施工し、その後、下側の梁状部材12の上面、柱状部材14の左右側面に耐震スリット材28を取り付け、これらに囲まれた凹状の領域に鉄筋を配置する。この領域を両面から挟むように、2枚の壁パネル18を梁状部材12と柱状部材14の間に打込み配置する。その後、上側の梁状部材12の型枠および鉄筋を配置する。そして、2枚の壁パネル18と梁状部材12と柱状部材14をコンクリート打設用の型枠として使用し、上方からコンクリートを流し込む。これにより、垂れ壁16、上側の梁状部材12および耐震壁10を施工することができる。
【0017】
本実施の形態によれば、壁パネル18と垂れ壁16をそれぞれ適切な壁厚に設定することにより、必要な耐火性能および遮音性能を確保することができる。また、長期荷重は、垂れ壁16付きのRC柱梁架構で負担され、壁パネル18に高い耐火性能が要求されないので、壁パネル18の木質面を現しで使用することができる。また、従来のCLT耐震壁と比較して、簡易な接合方法により施工することができる。このため、施工性が向上し、コストダウンを図ることができる。したがって、壁パネル18の木質面を現しとすることができ、低コストで施工性に優れた耐震壁を提供することができる。この耐震壁は、例えば集合住宅などの戸境壁として好適である。
【0018】
以上説明したように、本発明に係る耐震壁によれば、上下の梁状部材と、左右の柱状部材に対して、上下左右の四辺がそれぞれ固定される耐震壁であって、コンクリートまたは鉄筋コンクリートからなり、上側の前記梁状部材から下方に延びる垂れ壁と、この垂れ壁の両面に設けられ、上下左右の四辺が上下の前記梁状部材と、左右の前記柱状部材に対してそれぞれ固定される木質の壁パネルとを備え、前記垂れ壁の下辺と下側の前記梁状部材との間、および、前記垂れ壁の側辺と左右の前記柱状部材との間には、それぞれスリットが設けられるので、木質面を現しとすることができ、低コストで施工性に優れた耐震壁を提供することができる。
【0019】
また、本発明に係る耐震壁の施工方法によれば、上述した耐震壁を施工する方法であって、前記木質の壁パネルを、前記垂れ壁のコンクリートを打設する型枠として兼用するので、低コストで施工性に優れた耐震壁の施工方法を提供することができる。
【0020】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る耐震壁およびその施工方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「13.気候変動に具体的な対策を」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上のように、本発明に係る耐震壁およびその施工方法は、集合建物の戸境壁などに有用であり、特に、木質面を現しとする耐震壁において施工性を向上するのに適している。
【符号の説明】
【0022】
10 耐震壁
12 梁状部材
14 柱状部材
16 垂れ壁
18 壁パネル
20 床材
22 天井材
24,26 スリット
28 耐震スリット材