(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024127579
(43)【公開日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/18 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
B62D1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023036818
(22)【出願日】2023-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】中村 彰伸
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC27
3D030DC29
3D030DC32
(57)【要約】
【課題】ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することのできるステアリング装置を提供すること。
【解決手段】一端にステアリングホイール取付部82aを有し、ステアリングホイール81から入力されるトルクにより回転するステアリングシャフト82と、ステアリングシャフト82が内側に配置され、ステアリングシャフト82を回転自在に支持するハウジング20と、ハウジング20の内側に配置され、ステアリングシャフト82の回転に伴う物理量を検出するトルクセンサ50と、ステアリングシャフト82における、トルクセンサ50が配置される位置よりもステアリングホイール取付部82a寄りの位置で、ステアリングシャフト82の外周面82bに一周に亘って形成される排水ガイド90と、排水ガイド90に対応する位置に設けられ、ハウジング20の内側と外側とを連通するドレイン孔41と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にステアリングホイールが取り付けられるステアリングホイール取付部を有し、前記ステアリングホイールから入力されるトルクにより回転するステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトが内側に配置され、前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するハウジングと、
前記ハウジングの内側に配置され、前記ステアリングシャフトの回転に伴う物理量を検出するセンサと、
前記ステアリングシャフトにおける、前記センサが配置される位置よりも前記ステアリングホイール取付部寄りの位置で、前記ステアリングシャフトの外周面に一周に亘って形成される凹部または凸部を有する排水ガイドと、
前記排水ガイドに対応する位置に設けられ、前記ハウジングの内側と外側とを連通するドレイン孔と、
を備えるステアリング装置。
【請求項2】
前記ハウジングは、水平方向に延びる回動軸を中心として前記ステアリングシャフトと一体となって回動自在に車両に取り付けられ、
前記ドレイン孔は、前記回動軸を中心とする前記ハウジングの回動範囲内のいずれの回動状態においても、前記排水ガイドの重力方向下方に位置する請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記ステアリングシャフトには、前記ステアリングシャフトの回転を規制するロック装置が有するキーロックカラーが取り付けられ、
前記排水ガイドは、前記キーロックカラーが取り付けられる位置よりも前記ステアリングホイール取付部寄りの位置にある請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記排水ガイドは、前記ステアリングシャフトの前記外周面に一周に亘って凹む溝部を有する請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記外周面における前記溝部の前記ステアリングホイール取付部側の部分には、凹凸の高さが前記溝部の深さよりも低い複数の凹凸が設けられる請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記外周面における前記溝部の前記ステアリングホイール取付部側の部分には、塗布された撥水剤を有する請求項4に記載のステアリング装置。
【請求項7】
前記排水ガイドは、前記ステアリングシャフトの前記外周面に一周に亘って凸となっている鍔部により形成される請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項8】
前記排水ガイドは、前記ステアリングシャフトの前記外周面に一周に亘って凸となって配置される環状部材である請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項9】
前記環状部材は、角リングである請求項8に記載のステアリング装置。
【請求項10】
前記ステアリングシャフトは、
中空箇所を有する円筒形状で形成されて一端に前記ステアリングホイール取付部を有するアッパシャフトと、
前記アッパシャフトに対して前記ステアリングホイール取付部が位置する側の反対側に配置されると共に、前記アッパシャフト寄りの部分が前記アッパシャフトの内側に入り込んで前記アッパシャフトに連結されるロアシャフトとを有し、
前記アッパシャフトと前記ロアシャフトとは、軸方向に相対変位が可能に組み合わされ、
前記排水ガイドは、前記ロアシャフトに設けられる請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項11】
前記排水ガイドは、前記ロアシャフトの外周面に一周に亘って凸となって設けられる鍔部を有し、
前記アッパシャフトの剛性は、前記鍔部の剛性より高い請求項10に記載のステアリング装置。
【請求項12】
前記アッパシャフトの内周面の一部は、
前記ロアシャフトの外周面の一部と当接する請求項10または11に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のステアリング装置では、ステアリングホイールの高さ位置や前後位置を調整することができるものが知られている。例えば、特許文献1に記載されたステアリング装置は、アッパシャフトと中間シャフトと駆動シャフトとを備えるコラム軸と、コラム軸を回転可能に収容するステアリングコラムとを備えており、コラム軸における車両後方側端部にステアリングホイールが連結されている。このうち、コラム軸は、アッパシャフトと中間シャフトとが一体回転可能、且つ、軸方向に相対移動可能に連結されており、これにより、ステアリング装置は、ステアリングホイールの前後位置を調整することができる。また、ステアリングコラムは、車両幅方向に貫通した軸孔内に挿入されるボルト周りで回動することができ、これにより、ステアリング装置は、ステアリングホイールの高さ位置を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、コラム軸は、ステアリングホイールに連結される側の端部がステアリングコラムから露出し、それ以外の部分はステアリングコラムに収容されると共に、回転可能に支持されている。このため、ステアリングコラムにおける、コラム軸がステアリングコラムの内側から露出している部分では、ステアリングコラムとコラム軸との間に僅かながら隙間が形成されている。これにより、ステアリングホイール付近に不意に水等の液体がかかった場合、液体がステアリングコラムとコラム軸との間の隙間からステアリングコラムの中に浸入することがある。
【0005】
コラム軸は、通常、ステアリングホイールが連結される側の端部から、車両の前後方向における前側に向かいながら下側に向かう方向に、水平方向に対して傾斜して配置されている。このため、ステアリングコラム内に浸入した液体は、コラム軸を伝わって前側の方に流れていく。その際に、ステアリングコラム内には、トルクセンサ等の電装機器が配置されていることがあるが、電装機器は水等の液体が付着すると故障の原因になるため、ステアリングコラムには、内側に浸入した液体を外に排出するドレイン孔が形成されている。
【0006】
しかしながら、コラム軸を伝わって流れる液体をドレイン孔から排出するためには、コラム軸を伝わって流れる液体をドレイン孔の上方でコラム軸から落下させる必要があるが、液体を任意の位置で落下させることは困難なものとなっている。このため、ステアリングコラムにドレイン孔を形成したとしても、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出するのは困難なものとなっていた。
【0007】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することのできるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のステアリング装置は、一端にステアリングホイールが取り付けられるステアリングホイール取付部を有し、前記ステアリングホイールから入力されるトルクにより回転するステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトが内側に配置され、前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するハウジングと、前記ハウジングの内側に配置され、前記ステアリングシャフトの回転に伴う物理量を検出するセンサと、前記ステアリングシャフトにおける、前記センサが配置される位置よりも前記ステアリングホイール取付部寄りの位置で、前記ステアリングシャフトの外周面に一周に亘って形成される凹部または凸部を有する排水ガイドと、前記排水ガイドに対応する位置に設けられ、前記ハウジングの内側と外側とを連通するドレイン孔と、を備える。
【0009】
この構成によれば、ハウジングにおけるステアリングホイール寄りの部分からステアリングコラム内に水等の液体が浸入した際に、液体が、排水ガイドの位置からセンサが位置する側に流れないようにすることができると共に、液体を排水ガイドの位置から落下させることができる。また、ハウジングおける排水ガイドに対応する位置には、ドレイン孔が形成されているため、排水ガイドの位置から落下した液体は、ドレイン孔からハウジングの外に排出することができる。この結果、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる。
【0010】
望ましい形態として、前記ハウジングは、水平方向に延びる回動軸を中心として前記ステアリングシャフトと一体となって回動自在に車両に取り付けられ、前記ドレイン孔は、前記回動軸を中心とする前記ハウジングの回動範囲内のいずれの回動状態においても、前記排水ガイドの重力方向下方に位置する。
【0011】
この構成によれば、ドレイン孔は、ハウジングの回動状態に関わらず、排水ガイドの位置から落下した液体を排出することができる。この結果、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる。
【0012】
望ましい形態として、前記ステアリングシャフトには、前記ステアリングシャフトの回転を規制するロック装置が有するキーロックカラーが取り付けられ、前記排水ガイドは、前記キーロックカラーが取り付けられる位置よりも前記ステアリングホイール取付部寄りの位置にある。
【0013】
この構成によれば、ハウジングの内側に浸入した液体を、キーロックカラーよりもステアリングホイール取付部寄りの位置で、排水ガイドによって落下させることができる。このため、例えば、キーロックカラーがセンサの近傍に配置されている場合でも、ステアリングシャフトにおける、ハウジングにドレイン孔を形成し易い位置に対応する位置に排水ガイドを設けることにより、排水ガイドの位置から落下した液体を、ドレイン孔から排出することができる。これにより、キーロックカラーがセンサの近傍に配置されている場合でも、ハウジングの内側に浸入した液体がセンサに付着することを抑制することができる。この結果、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる。
【0014】
望ましい形態として、前記排水ガイドは、前記ステアリングシャフトの前記外周面に一周に亘って凹む溝部を有する。
【0015】
この構成によれば、排水ガイドは溝部を有するため、排水ガイドをステアリングシャフトに容易に設けることができる。この結果、ステアリングコラム内に浸入した液体を、容易に適切に排出することができる。
【0016】
望ましい形態として、前記外周面における前記溝部の前記ステアリングホイール取付部側の部分には、凹凸の高さが前記溝部の深さよりも低い複数の凹凸が設けられる。
【0017】
この構成によれば、凹凸の高さが溝部の深さよりも低い複数の凹凸が溝部に隣接して設けられるため、排水ガイドの位置に流れた液体を、複数の凹凸によって重力方向における下方に流れ易くすることができる。これにより、排水ガイドの位置に流れた液体を、溝部における下側寄りの部分に溜め易くすることができ、液体を排水ガイドの位置から落下させ易くすることができる。この結果、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる。
【0018】
望ましい形態として、前記外周面における前記溝部の前記ステアリングホイール取付部側の部分には、塗布された撥水剤を有する。
【0019】
この構成によれば、排水ガイドの位置に流れた液体を、撥水剤によって重力方向における下方に流れ易くすることができる。これにより、排水ガイドの位置に流れた液体を、溝部における下側寄りの部分に溜め易くすることができ、液体を排水ガイドの位置から落下させ易くすることができる。この結果、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる。
【0020】
望ましい形態として、前記排水ガイドは、前記ステアリングシャフトの前記外周面に一周に亘って凸となっている鍔部により形成される。
【0021】
この構成によれば、排水ガイドの位置に到達した液体を、鍔部によって遮ることができる。このため、排水ガイドの位置に到達した液体は、鍔部の位置からセンサが位置する側には流れることができなくなる。鍔部によってセンサが位置する側への流れが遮られた液体が多くなった場合は、これらの液体は、鍔部の外周部における、上下方向において下側に位置する部分に溜まる。鍔部の外周部における下側の部分に多くの液体が溜まった場合には、液体は、自重によって重力方向下方に落下し、ドレイン孔から排出される。これにより、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる。
【0022】
望ましい形態として、前記排水ガイドは、前記ステアリングシャフトの前記外周面に一周に亘って凸となって配置される環状部材である。
【0023】
この構成によれば、排水ガイドの位置に到達した液体を、環状部材によって遮ることができる。これにより、排水ガイドの位置に到達した液体を、環状部材で落下させてドレイン孔から排出することができるため、ステアリングコラム内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0024】
望ましい形態として、前記環状部材は、角リングである。
【0025】
この構成によれば、角リングはステアリングシャフトの外周面に対して略垂直となる面を有して外周面から突出するため、環状部材に角リングを用いることにより、排水ガイドの位置に到達した液体を遮り易くすることができる。これにより、排水ガイドの位置に到達した液体を、重力方向下方に落下させてドレイン孔から排出し易くなるため、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる。
【0026】
望ましい形態として、前記ステアリングシャフトは、中空箇所を有する円筒形状で形成されて一端に前記ステアリングホイール取付部を有するアッパシャフトと、前記アッパシャフトに対して前記ステアリングホイール取付部が位置する側の反対側に配置されると共に、前記アッパシャフト寄りの部分が前記アッパシャフトの内側に入り込んで前記アッパシャフトに連結されるロアシャフトとを有し、前記アッパシャフトと前記ロアシャフトとは、軸方向に相対変位が可能に組み合わされ、前記排水ガイドは、前記ロアシャフトに設けられる。
【0027】
この構成によれば、ステアリングコラムに、ステアリングホイールの前後位置の調整を行う機能を持たせつつ、ステアリングシャフトに排水ガイドを形成することにより、ハウジングの内側に浸入した液体を排水ガイド90の位置から落下させることができる。この結果、ステアリングホイールのテレスコピック位置の調整が可能なステアリングコラムにおいて、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる。
【0028】
望ましい形態として、前記排水ガイドは、前記ロアシャフトの外周面に一周に亘って凸となって設けられる鍔部を有し、前記アッパシャフトの剛性は、前記鍔部の剛性より高い。
【0029】
この構成によれば、事故等によって車両に大きな衝撃が作用し、この衝撃によってアッパシャフトとロアシャフトとが縮む方向に軸方向に相対変位した場合、アッパシャフトによって鍔部を破壊することができる。これにより、アッパシャフトとロアシャフトとが縮む方向への軸方向の相対変位を鍔部が規制することを抑制することができ、車両に大きな衝撃が作用した場合に、運転者に大きな衝撃が加わることを抑制することができる。
【0030】
望ましい形態として、前記アッパシャフトの内周面の一部は、前記ロアシャフトの外周面の一部と当接する。
【0031】
この構成によれば、アッパシャフトの内周面の一部が、ロアシャフトの外周面の一部と当接することにより、アッパシャフトとロアシャフトとを、連続する部材として配置することができる。これにより、アッパシャフトを伝わって流れる液体をアッパシャフトからロアシャフトにスムーズに流すことができ、ロアシャフトに形成される排水ガイドの位置から液体を落下させることができる。この結果、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる。
【発明の効果】
【0032】
本開示に係るステアリング装置は、ステアリングコラム内に浸入した液体を適切に排出することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、実施形態に係るステアリング装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るステアリングコラムの要部断面図である。
【
図4】
図4は、ハウジングの内側に液体が入り込んだ際における液体の流れを占めす説明図である。
【
図5】
図5は、排水ガイドに対するドレイン孔の配置位置についての説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係るステアリング装置の変形例であり、排水ガイドに撥水剤を塗布する形態を示す説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係るステアリング装置の変形例であり、排水ガイドが鍔部により形成される形態を示す説明図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係るステアリング装置の変形例であり、排水ガイドが環状部材により形成される形態を示す説明図である。
【
図9】
図9は、環状部材に角リングが用いられる状態を示す説明図である。
【
図10】
図10は、排水ガイドの上端面側に液体が溜まり難い形状の説明図である。
【
図11】
図11は、排水ガイドの上端面側に液体が溜まりやすい形状の説明図である。
【
図12】
図12は、排水ガイドの下端面を液体が伝わり難い形状の説明図である。
【
図13】
図13は、排水ガイドの下端面を液体が伝わり易い形状の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0035】
[実施形態]
図1は、実施形態に係るステアリング装置80の模式図である。
図1に示すように、ステアリング装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、ステアリングコラム10と、電動モータ111と、減速装置112と、ユニバーサルジョイント101と、中間シャフト102と、ユニバーサルジョイント103と、を備えピニオンシャフト104に接合されている。以下の説明においては、ステアリングシャフト82の中心軸AXに沿った方向を「軸方向」と称し、軸方向に交差(直交)する方向を「径方向」と称する。また、以下の説明では、ステアリング装置80が搭載される車両の通常の使用状態における上側をステアリング装置80においても上側として説明し、車両の通常の使用状態における下側をステアリング装置80においても下側として説明し、車両の通常の使用状態における水平方向をステアリング装置80においても水平方向として説明する。
【0036】
ステアリングコラム10には、ステアリングシャフト82とトルクセンサ50とが配置される。ステアリングシャフト82は、アッパシャフト83と、ロアシャフト84(
図2参照)と、出力軸85と、トーションバー86(
図2参照)と、を備える。ステアリングコラム10については、詳細に後述する。
【0037】
中間シャフト102は、ユニバーサルジョイント101とユニバーサルジョイント103とを連結している。中間シャフト102は、一方の端部がユニバーサルジョイント101に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント103に連結される。ピニオンシャフト104は、一方の端部がユニバーサルジョイント103に連結され、他方の端部がステアリングギヤ105に連結される。ユニバーサルジョイント101及びユニバーサルジョイント103は、例えばカルダンジョイントである。ステアリングシャフト82の回転が中間シャフト102を介してピニオンシャフト104に伝わる。従って、中間シャフト102はステアリングシャフト82と共に回転可能である。
【0038】
ステアリングギヤ105は、ピニオンギヤ105aと、ラックバー105bとを備える。ピニオンギヤ105aは、ピニオンシャフト104に連結される。ラックバー105bは、ピニオンギヤ105aに噛み合う。ステアリングギヤ105は、ピニオンギヤ105aに伝達された回転運動をラックバー105bで直進運動に変換する。ラックバー105bは、タイロッド106に連結される。ラックバー105bが移動することで車輪の角度が変化する。即ち、ステアリング装置80は、ラックアンドピニオン式の電動パワーステアリング装置である。
【0039】
ステアリング装置80は、ECU(Electronic Control Unit)110と、車速センサ115と、を更に備える。電動モータ111、車速センサ115及びトルクセンサ50は、ECU110と電気的に接続される。減速装置112は、電動モータ111に取り付けられる。トルクセンサ50は、ステアリングシャフト82に伝達された操舵トルクをCAN(Controller Area Network)通信によりECU110に出力する。車速センサ115は、ステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。車速センサ115は、車体に備えられ、車速をCAN通信によりECU110に出力する。
【0040】
ECU110は、電動モータ111の動作を制御する。ECU110は、トルクセンサ50及び車速センサ115のそれぞれから信号を取得する。ECU110には、イグニッションスイッチ116がオンの状態で、電源装置117(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。ECU110は、操舵トルク及び車速に基づいて補助操舵指令値を算出する。ECU110は、補助操舵指令値に基づいて電動モータ111へ供給する電力値を調節する。ECU110は、電動モータ111の誘起電圧の情報または電動モータ111に設けられたレゾルバ等から出力される情報を取得する。ECU110が電動モータ111を制御することで、ステアリングホイール81の操作に要する力が小さくなる。
【0041】
次に、ステアリングコラム10について説明する。
図2は、実施形態に係るステアリングコラム10の要部断面図である。ステアリングコラム10は、ハウジング20と、ステアリングシャフト82と、トルクセンサ50とを有している。ステアリングシャフト82は、一端にステアリングホイール81(
図1参照)が取り付けられるステアリングホイール取付部82aを有し、ステアリングホイール81から入力されるトルクにより回転可能に配置される。ステアリングシャフト82は、アッパシャフト83と、ロアシャフト84と、出力軸85と、トーションバー86とを有しており、アッパシャフト83とロアシャフト84と出力軸85とトーションバー86とは、同軸上に配置されている。
【0042】
ステアリングコラム10は、車両の平面視においてステアリングシャフト82の軸方向が車両の前後方向に沿い、ステアリングホイール81が位置する側が車両の前後方向における後ろ側となり、ステアリングホイール81からステアリングシャフト82が前側に延びる向きで車両に搭載される。
【0043】
アッパシャフト83は、中空箇所を有する円筒形状のシャフトになっている。本実施形態では、アッパシャフト83は、軸方向における位置によって径が異なりつつ、全体的に中空となった略円筒形の形状で形成されている。ステアリングシャフト82が有するステアリングホイール取付部82aは、アッパシャフト83に設けられており、アッパシャフト83の一端に形成されている。
【0044】
ロアシャフト84は、中実軸になっており、アッパシャフト83に対して、ステアリングホイール取付部82aが位置する側の反対側に配置されている。ロアシャフト84は、アッパシャフト83寄りの部分がアッパシャフト83の内側に入り込んで、アッパシャフト83に連結されている。これらのアッパシャフト83とロアシャフト84とは、アッパシャフト83の内周面83cの一部と、ロアシャフト84の外周面84bの一部とが当接することにより、軸方向に相対変位が可能で、且つ、相対回転が不可となって組み合わされている。本実施形態では、アッパシャフト83とロアシャフト84とは、ロアシャフト84におけるアッパシャフト83の内側に入り込んでいる部分の外周面84bと、アッパシャフト83の内周面83cとをスプライン係合させることにより、アッパシャフト83とロアシャフト84とは、軸方向に相対変位が可能で、且つ、相対回転が不可となって組み合わされている。即ち、相対回転が不可となって組み合わされるアッパシャフト83とロアシャフト84とは、軸方向に伸縮することが可能になっている。
【0045】
出力軸85は、ロアシャフト84におけるアッパシャフト83に連結される側の反対側に配置されており、ロアシャフト84と出力軸85とは、トーションバー86を介して連結されている。トーションバー86は、軸方向に延びる中実状の弾性部材になっており、ロアシャフト84と出力軸85とには、それぞれトーションバー86が入り込む孔が形成されている。トーションバー86は、一方の端部がロアシャフト84に挿入されてロアシャフト84に固定されており、他方の端部が出力軸85に挿入されて出力軸85に固定されている。これにより、ロアシャフト84と出力軸85とは、トーションバー86を介して連結されている。
【0046】
ハウジング20は、ステアリングシャフト82を内側に配置して、ステアリングシャフト82を回転自在に支持する。ハウジング20は、アッパコラム30とロアコラム40とギヤハウジング45とを有している。アッパコラム30とロアコラム40とは、それぞれ筒状の部材になっており、ステアリングシャフト82は、筒状に形成されるアッパコラム30及びロアコラム40の内側に配置される。ギヤハウジング45は、減速装置112のハウジング20になっている。
【0047】
アッパコラム30は、ロアコラム40に対して、軸方向において、ロアシャフト84に対してアッパシャフト83が配置される側に配置されている。つまり、アッパコラム30は、ロアコラム40に対して、軸方向においてアッパシャフト83に形成されるステアリングホイール取付部82aが位置する側に配置されている。アッパコラム30の内側に配置されるアッパシャフト83は、ステアリングホイール取付部82a寄りの部分がアッパコラム30の内側から露出して配置されている。ステアリングホイール81(
図1参照)は、このようにアッパシャフト83における、アッパコラム30の内側から露出しているステアリングホイール取付部82aに取り付けられる。
【0048】
アッパコラム30の内側には、軸方向におけるアッパシャフト83が露出している端部寄りの位置に、軸受35が配置されている。軸受35は、アッパコラム30の内周面とアッパシャフト83の外周面との間に配置されている。これにより、アッパコラム30は、軸受35を介してアッパシャフト83を回転自在に支持している。
【0049】
ロアコラム40は、アッパコラム30における、軸方向においてアッパシャフト83が露出する側の端部の反対側の端部寄りの部分を覆っている。即ち、アッパコラム30は、軸方向においてアッパシャフト83が露出する側の端部の反対側の端部寄りの部分が、ロアコラム40の内側に挿入されている。ロアコラム40の内側に一部が挿入されるアッパコラム30は、ロアコラム40に対して、軸方向に相対移動することが可能になっている。このため、ステアリングコラム10が有するハウジング20は、アッパコラム30とロアコラム40とが軸方向に相対移動をすることにより、軸方向に伸縮することが可能になっている。これにより、アッパコラム30とロアコラム40とは、アッパシャフト83とロアシャフト84とが軸方向に伸縮する際には、アッパシャフト83とロアシャフト84との伸縮に合わせて、アッパコラム30とロアコラム40も軸方向に伸縮することができる。
【0050】
つまり、アッパシャフト83とロアシャフト84とは、軸方向における相対移動が可能になっており、アッパコラム30とロアコラム40とも、軸方向における相対移動が可能になっている。一方、ロアシャフト84は、ロアコラム40に対して軸方向における相対移動が不可となって配置されており、アッパシャフト83は、アッパコラム30に対して軸方向における相対移動が不可となって配置されている。これらのため、アッパシャフト83がロアシャフト84に対して軸方向に伸縮する際には、ロアシャフト84に対するアッパシャフト83の伸縮に合わせて、アッパコラム30もロアコラム40に対して軸方向に伸縮する。
【0051】
ギヤハウジング45は、軸方向における、ロアコラム40に対してアッパコラム30が位置する側の反対側に配置され、取付ボルト46によりロアコラム40に取り付けられている。このため、ギヤハウジング45は、主にステアリングシャフト82の出力軸85を覆っている。ギヤハウジング45の内側には、減速装置112が有するウォームホイール114が配置される。減速装置112は、ウォーム(図示省略)と、ウォームと噛み合うウォームホイール114とからなり、ウォームは、電動モータ111(
図1参照)の駆動軸に直接、或いは間接的に取り付けられる。ウォームホイール114は、ステアリングシャフト82が有する出力軸85に圧入されることにより、出力軸85に取り付けられる。
【0052】
このため、電動モータ111で発生した駆動力は、ウォームを介してウォームホイール114に伝達され、出力軸85に伝達される。その際に、ウォーム及びウォームホイール114は、電動モータ111で発生した駆動力の回転速度を減速し、トルクを増大させる。減速装置112は、このように、電動モータ111で発生した駆動力を、トルクを増大させて出力軸85に伝達し、出力軸85に補助操舵トルクを与えることが可能になっている。即ち、本実施形態に係るステアリング装置80は、ステアリングシャフト82に補助操舵トルクが付与されるコラムアシスト方式の電動パワーステアリング装置になっている。
【0053】
軸方向におけるウォームホイール114の両側には、2つの軸受61、62が配置されており、出力軸85は、2つの軸受61、62によって支持されている。一方の軸受61は、ウォームホイール114に対して、軸方向においてロアシャフト84が位置する側に配置されており、ロアコラム40と出力軸85との間に位置している。また、他方の軸受62は、ウォームホイール114に対して、軸方向においてロアシャフト84が位置する側の反対側に配置されており、ギヤハウジング45と出力軸85との間に位置している。これにより、出力軸85は、2つの軸受61、62を介して、ロアコラム40及びギヤハウジング45に対して、回転自在に支持されている。即ち、ステアリングシャフト82は、アッパコラム30との間に配置される軸受35と、ロアコラム40との間に配置される軸受61と、ギヤハウジング45との間に配置される軸受62とにより、ハウジング20に対して回転自在に支持されている。
【0054】
これらのように、ステアリングシャフト82を回転自在に支持するハウジング20は、水平方向に延びる回動軸Rを中心として、ステアリングシャフト82と一体となって回動自在に車両に取り付けられる。詳しくは、ギヤハウジング45には、ピボットブラケット47が設けられており、ピボットブラケット47には、水平方向に向かって開口する挿通孔47aが形成されている。ピボットブラケット47の挿通孔47aには枢支ボルト(図示省略)が通され、枢支ボルトは、車体側の固定部材(図示省略)に螺合する。これにより、ハウジング20は、ピボットブラケット47の挿通孔47aに通される枢支ボルトを中心として車両に対して回動することが可能となり、回動自在に車両に取り付けられる。つまり、ハウジング20は、水平方向に延びる枢支ボルトの軸心、或いは、ピボットブラケット47の挿通孔47aの軸心を回動軸Rとし、水平方向に延びる回動軸Rを中心として回動自在に車両に取り付けられる。
【0055】
トルクセンサ50は、ハウジング20の内側に配置されており、ステアリングシャフト82の回転に伴う物理量を検出するセンサになっている。トルクセンサ50は、磁石51とステータ52とを有している。磁石51とステータ52とは、ハウジング20の内側における、ロアシャフト84と出力軸85とが連結される付近に配置されており、出力軸85を回転自在に支持する軸受61よりも、軸方向においてロアシャフト84が位置する側に配置されている。磁石51は、環状の形状で形成され、ロアシャフト84に固定されている。ステータ52は、軸方向における位置が磁石51と同じ位置となる部分を有し、径方向において磁石51の外側に配置されて出力軸85に固定されている。
【0056】
さらに、トルクセンサ50は、集磁ヨーク(図示省略)とホールIC(図示省略)とを有しており、集磁ヨークとホールICとは、ロアコラム40に取り付けられている。集磁ヨークは、磁石51からステータ52に作用する磁束の変化を検出するための部材になっており、ステータ52の近傍に配置される。ホールICは、集磁ヨークに作用する磁束密度の変化を検出し、検出した磁束密度の変化を電気信号に変換して電気信号として出力することが可能になっている。ホールICで検出する磁束密度は、操舵トルクの大きさに応じて変化するため、トルクセンサ50は、磁束密度の変化を変換した電気信号をECU110に出力することにより、検出した操舵トルクの大きさをECU110に伝達する。
【0057】
また、ステアリングシャフト82には、ステアリングシャフト82の回転を規制するロック装置(図示省略)が有するキーロックカラー70が取り付けられている。キーロックカラー70は、スリーブ状の形状になっており、ロアシャフト84におけるトルクセンサ50が配置されている位置の近傍で、軸方向におけるステアリングホイール取付部82a寄りの位置に配置されている。キーロックカラー70は、ロアシャフト84に対して相対回転不可となって取り付けられている。ロック装置は、例えば、車両の運転者がキーを抜くと、ロアコラム40からキーロックカラー70に向かってピンが突出し、ピンがキーロックカラー70に嵌合する。これにより、ロアコラム40とロアシャフト84とが相対回転できないように固定されるので、キーが抜かれた状態ではステアリングホイール81の操作をすることができなくなる。
【0058】
さらに、ステアリングシャフト82には、ステアリングシャフト82における、トルクセンサ50が配置される位置よりもステアリングホイール取付部82a寄りの位置に、排水ガイド90が設けられている。排水ガイド90は、後述するように、ステアリングシャフト82の外周面82bに一周に亘って形成される凹部または凸部を有する。本実施形態では、排水ガイド90はロアシャフト84に設けられており、排水ガイド90は、ロアシャフト84における、キーロックカラー70が取り付けられる位置よりもステアリングホイール取付部82a寄りの位置に形成されている。
【0059】
図3は、
図2に示す排水ガイド90の詳細図である。本実施形態では、排水ガイド90は、ステアリングシャフト82の外周面82bに一周に亘って凹む凹部である溝部92を有している。つまり、ロアシャフト84に形成される排水ガイド90は、ロアシャフト84の外周面84bに一周に亘って凹んで形成される溝部92により設けられている。
【0060】
また、排水ガイド90には、溝部92の他に微小凹凸部93が設けられている。微小凹凸部93は、凹凸の高さが溝部92の深さよりも低い複数の凹凸が一周に亘って設けられており、例えば、微小凹凸部93はローレット加工により形成されている。このように形成される微小凹凸部93は、ステアリングシャフト82の外周面82b、即ち、ロアシャフト84の外周面84bにおける、溝部92のステアリングホイール取付部82a側の部分に、溝部92に隣接して設けられている。溝部92に隣接する微小凹凸部93は、ステアリングシャフト82の軸方向における幅が、例えば溝部92の幅と同程度の幅で形成されている。
【0061】
一方、ハウジング20には、排水ガイド90に対応する位置に、ハウジング20の内側と外側とを連通するドレイン孔41が設けられている。詳しくは、ドレイン孔41は、ハウジング20における、排水ガイド90の重力方向下方の位置に形成されている。排水ガイド90は、ロアシャフト84に設けられているため、これに伴いドレイン孔41は、ロアシャフト84の大部分を覆うハウジング20であるロアコラム40に形成されている。
【0062】
また、ハウジング20は、回動軸Rを中心としてステアリングシャフト82と一体となって回動可能になっているが、ドレイン孔41は、回動軸Rを中心とするハウジング20の回動範囲内のいずれの回動状態においても、排水ガイド90の重力方向下方に位置する大きさで形成されている。つまり、ステアリングシャフト82に形成される排水ガイド90と、ハウジング20に形成されるドレイン孔41とは、ハウジング20がステアリングシャフト82と一体となって回動をした際には、水平方向における相対的な位置が変化をする。
【0063】
換言すると、回動軸Rを中心としてハウジング20が回動をした際には、ハウジング20における排水ガイド90の重力方向下方に位置する部分は、ハウジング20の回動角度に応じてステアリングシャフト82の軸方向に変化する。ハウジング20における排水ガイド90の重力方向下方に位置する部分は、このようにハウジング20の回動角度に応じて変化するため、ドレイン孔41は、ハウジング20が回動することができる角度の範囲において、いずれの回動角度であっても排水ガイド90の重力方向下方に位置することができる範囲に、軸方向に延びて形成されている。
【0064】
次に、ステアリング装置80の作用について説明する。ステアリング装置80が搭載される車両の運転時に、ステアリングホイール81が操作をされた場合は、ステアリングホイール81に付与された操舵力は、ステアリングホイール81からステアリングシャフト82に伝えられる。ステアリングシャフト82に伝えられた操舵力は、操舵トルクとしてステアリングシャフト82から中間シャフト102に伝達され、中間シャフト102からピニオンシャフト104を経てピニオンギヤ105aに伝達される。これにより、ピニオンギヤ105aを有するステアリングギヤ105は、ピニオンギヤ105aから伝達された回転運動を、ラックバー105bの直線運動に変換し、タイロッド106を動作させる。
【0065】
また、本実施形態に係るステアリング装置80は、運転者の操舵をアシストする補助操舵トルクを発生させる電動モータ111を有している。電動モータ111は、ステアリングシャフト82のロアシャフト84と出力軸85と間に亘って配置されるトルクセンサ50により検出した操舵トルクに基づいて補助操舵トルクを発生する。
【0066】
トルクセンサ50は、ステアリングホイール81からステアリングシャフト82に付与された操舵トルクを、ロアシャフト84と出力軸85とが相対回転した際における相対回転の角度に基づいて検出する。即ち、ロアシャフト84と出力軸85とは、トーションバー86を介して連結されているため、ステアリングホイール81が取り付けられるアッパシャフト83を介してロアシャフト84に操舵トルクが付与された際には、ロアシャフト84と出力軸85との間では、トーションバー86を介して操舵トルクが伝達される。その際に、トーションバー86が僅かに捩じれることにより、ロアシャフト84と出力軸85とは、僅かに相対回転をする。
【0067】
トルクセンサ50は、磁石51がロアシャフト84に取り付けられ、ステータ52が出力軸85に取り付けられることにより、ロアシャフト84と出力軸85とが相対回転をした際には、トルクセンサ50が有する磁石51とステータ52も、相対的に回転をする。磁石51とステータ52と相対回転の角度は、ロアシャフト84と出力軸85との間で作用する操舵トルクが大きくなるに従って相対回転の角度が大きくなる。
【0068】
磁石51とステータ52とが相対回転した場合は、磁石51からステータ52に作用する磁束が変化する。ステータ52の近傍に配置される集磁ヨークは、磁石51からステータ52に作用する磁束の変化を検出することが可能になっている。このため、ロアシャフト84と出力軸85との相対回転に伴って磁石51とステータ52が相対回転をした際には、ステータ52の近傍に配置される集磁ヨークは、磁石51からステータ52に作用する磁束の変化を検出することができる。
【0069】
このように、集磁ヨークで検出する、磁石51からステータ52に対して作用する磁束は、磁石51とステータ52との相対回転の角度に応じて変化する。トルクセンサ50が有するホールICは、集磁ヨークによって検出した磁石51とステータ52との相対回転の角度に応じて変化する磁束を、ホール素子で検出すると共に出力回路で電気信号に変換し、トルクセンサ50からの出力信号としてECU110に伝達する。つまり、トルクセンサ50は、磁石51からステータ52に作用する磁束の変化を集磁ヨークとホールICとで検出することにより、ステアリングホイール81からアッパシャフト83を経てロアシャフト84に付与された操舵トルクを検出し、検出した操舵トルクを電気信号としてECU110に伝達する。
【0070】
ECU110は、トルクセンサ50から伝達された電気信号に基づいて電動モータ111を作動させ、電動モータ111に補助操舵トルクを発生させる。つまり、トルクセンサ50のホールICからECU110に伝達された電気信号は、磁石51とステータ52との相対回転の角度に応じて変化し、ロアシャフト84と出力軸85との間で作用する操舵トルクに基づいて変化する。このため、ECU110は、トルクセンサ50のホールICから伝達された電気信号を、ロアシャフト84及び出力軸85に作用する操舵トルクによって変化する情報として使用し、ホールICから伝達される電気信号に基づいて電動モータ111へ供給する電力値を調節し、電動モータ111に補助操舵トルクを発生させる。
【0071】
即ち、ECU110は、トルクセンサ50から操舵トルクの信号を取得し、車速センサ115から車両の車速信号を取得し、さらに、電動モータ111に設けられた回転検出装置から電動モータ111の動作情報を取得し、これらの動作情報と操舵トルクと車速信号とに基づいて電動モータ111に補助操舵トルクを発生させる。電動モータ111で発生した補助操舵トルクは、電動モータ111の駆動軸に取り付けられるウォームとウォームホイール114を介してステアリングシャフト82の出力軸85に伝達される。これにより、運転者がステアリングホイール81に付与した操舵力は、電動モータ111で発生した補助操舵トルクによりアシストされる。
【0072】
また、ステアリング装置80が有するステアリングコラム10は、ステアリングホイール81の高さ位置や前後位置を調整することが可能になっている。即ち、ステアリングコラム10は、ステアリングホイール81のチルト位置やテレスコピック位置を調整することが可能になっている。ステアリングホイール81の高さ位置の調整や前後位置の調整は、電動または手動によって行われる。ステアリングホイール81の高さ位置の調整や前後位置の調整が電動により行われる場合は、これらの位置の調整時にステアリングコラム10を動作させるための駆動力を発生する電動モータ(図示省略)がステアリングコラム10に搭載される。
【0073】
ステアリングシャフト82に取り付けられるステアリングホイール81の高さ位置を調整する際には、水平方向に延びる回動軸Rを中心として、ハウジング20とステアリングシャフト82とを一体で回動させる。これにより、ステアリングシャフト82の一端に取り付けられるステアリングホイール81も回動軸Rを中心として回動するため、ステアリングホイール81の高さ位置、即ち、チルト位置を調整することができる。換言すると、チルト位置の調整は、回動軸Rを中心としてステアリングコラム10を回動させることにより、ステアリングコラム10が車両に搭載された状態における、水平方向に対するステアリングシャフト82の中心軸の傾斜角を変化させることによって、ステアリングホイール81の高さ位置を調整することができる。本実施形態では、チルト位置の調整を行う際における、水平方向に対するステアリングシャフト82の中心軸の傾斜角は、63°~67°の範囲内で調整することが可能になっている。
【0074】
ステアリングシャフト82に取り付けられるステアリングホイール81の前後位置を調整する際には、ステアリングホイール81が取り付けられるアッパシャフト83を、ロアシャフト84に対して軸方向に相対移動させる。これにより、ステアリングホイール81をアッパシャフト83と共に前後方向に移動させることができ、ステアリングホイール81の前後位置、即ち、テレスコピック位置を調整することができる。
【0075】
また、このようにロアシャフト84に対してアッパシャフト83を軸方向に相対移動させる際には、アッパシャフト83と共にアッパコラム30も、ロアコラム40に対して軸方向に相対移動をする。アッパシャフト83は、軸受35を介してアッパコラム30によって回転自在に支持されているため、アッパシャフト83と共にアッパコラム30も軸方向に移動することにより、アッパシャフト83は、アッパコラム30によって回転自在に支持される状態が維持される。これにより、ステアリングコラム10は、ステアリングシャフト82を回転自在に支持する状態を維持しつつ、ステアリングホイール81の前後位置を調整することができる。
【0076】
ここで、ステアリングシャフト82におけるステアリングホイール81側の部分付近は、軸受35を介してアッパコラム30によって回転自在に支持されているため、軸受35が配置されている部分には、ハウジング20の内側の空間と外側の空間とを連通する僅かな隙間が形成されている。つまり、軸受35は、外輪と、内輪と、外輪と内輪との間に配置される複数の転動体とを有して構成されているため、転動体同士の間の部分は、ハウジング20の内側の空間と外側の空間とを連通する隙間になっている。
【0077】
また、ステアリングコラム10が車両に搭載されている状態では、ステアリングコラム10は、出力軸85側よりもアッパシャフト83側の方が上側に位置するように、ステアリングシャフト82が水平方向に対して傾斜する向きで車両に取り付けられている。つまり、ステアリング装置80は、ステアリングホイール81よりも、ステアリングギヤ105の方が下側に位置して車両に搭載される。このため、ステアリングコラム10は、アッパシャフト83側よりも出力軸85側の方が下側に位置するように、ステアリングシャフト82が水平方向に対して傾斜する向きで配置される。即ち、本実施形態では、ステアリングシャフト82が水平方向に対して63°~67°の範囲内で傾斜する向きで配置される。このため、例えば、ステアリングホイール81の付近に水等の液体がかかり、軸受35の隙間からハウジング20の内側に液体が浸入した場合は、ハウジング20内に液体は、重力によって下側の方向に向かって流れる。
【0078】
図4は、ハウジング20の内側に液体Fが入り込んだ際における液体Fの流れを占めす説明図である。軸受35の隙間からハウジング20の内側に液体Fが入り込んだ場合、液体Fは、ステアリングシャフト82を伝わりながら重力によって下側の方向に向かって流れる。このため、ハウジング20の内側に入り込んだ液体Fは、まず、アッパシャフト83を伝わりながら、ロアシャフト84が位置する側に向かって流れる。アッパシャフト83を伝って流れる液体Fがロアシャフト84の位置まで流れたら、液体Fは、ロアシャフト84に伝わる。
【0079】
ロアシャフト84に伝わった液体Fは、さらに、ロアシャフト84を伝わりながら出力軸85が位置する方向に流れる。このため、アッパシャフト83からロアシャフト84に伝わり、ロアシャフト84を伝わりながら出力軸85が位置する方向に流れる液体Fは、ロアシャフト84に形成される排水ガイド90の位置に到達する。
【0080】
排水ガイド90は、ロアシャフト84の外周面84bに一周に亘って形成される溝部92により形成されているため、排水ガイド90の位置に到達した液体Fは、溝部92を渡ることができなくなり、溝部92によって遮られる。このため、排水ガイド90の位置に到達した液体Fは、溝部92の位置から出力軸85が位置する側には流れることができなくなる。
【0081】
このように、排水ガイド90の位置に到達して、溝部92によって出力軸85が位置する側への流れが遮られる液体Fが多くなった場合は、液体Fは、溝部92の幅方向両側の縁部のうち、アッパシャフト83が位置する側の縁部における、上下方向において下側に位置する部分に溜まる。溝部92の縁部に多くの液体Fが溜まった場合には、液体Fは、自重によって重力方向下方に落下する。
【0082】
また、排水ガイド90には、溝部92のステアリングホイール取付部82a側の部分に、微小凹凸部93が設けられている。このため、微小凹凸部93の位置に到達した液体Fは、微小凹凸部93に形成される微小な凹部を伝わって、自重によって下側の方向に流れ易くなる。これにより、排水ガイド90の位置に到達した液体Fは、微小凹凸部93を伝わって下側の方向に流れ易くなるため、液体Fは、溝部92のアッパシャフト83が位置する側の縁部における、下側に位置する部分に溜まり易くなる。従って、排水ガイド90の位置に到達した液体Fは、重力方向下方に落下し易くなる。
【0083】
一方、ハウジング20には、排水ガイド90の重力方向下方にドレイン孔41が形成されている。このため、排水ガイド90から落下した液体Fは、ドレイン孔41を通ってハウジング20の内側から外側に排出される。これにより、アッパシャフト83を支持する軸受35の隙間からハウジング20の内側に浸入した液体Fは、排水ガイド90に対してステアリングホイール81が位置する側の反対側に位置するトルクセンサ50の位置には流れ難くなる。従って、ハウジング20の内側に液体Fが浸入した場合でも、液体Fがトルクセンサ50に付着することが抑制される。
【0084】
また、ステアリングコラム10は、ステアリングホイール81の高さ位置を調整するため、回動軸Rを中心として回動することが可能になっているが、ドレイン孔41は、回動軸Rを中心とするハウジング20の回動範囲内のいずれの回動状態においても、排水ガイド90の重力方向下方に位置する大きさで形成されている。ここで、ハウジング20の回動範囲内のいずれの回動状態においても、排水ガイド90の重力方向下方に位置することのできるドレイン孔41の配置位置について説明する。
【0085】
図5は、排水ガイド90に対するドレイン孔41の配置位置についての説明図である。本実施形態に係る排水ガイド90は、溝部92の縁部のうち、アッパシャフト83が位置する側の縁部における、上下方向において下側に位置する部分から液体Fが落下するため、この部分を液体落下点Pとする。また、液体落下点Pからハウジング20に延びる面法線と、ハウジング20とが交わる点をD0とし、液体落下点PとD0との距離をLとする。また、ステアリングコラム10が回動することによって、水平方向に対するステアリングシャフト82の角度が最小となる角度を最小角度θ1とし、水平方向に対するステアリングシャフト82の角度が最大となる角度を最大角度θ2とする。本実施形態では、ステアリングコラム10は、63°~67°の範囲内でチルト位置の調整が可能なため、本実施形態では最小角度θ1は63°となり、最大角度θ2は67°となる。
【0086】
このように定義される場合において、ステアリングコラム10の回動状態が、ステアリングシャフト82の角度が最小角度θ1となる状態である場合は、液体落下点Pからハウジング20に対する液体Fの落下箇所D1とD0との距離W1は、W1=Ltan(θ1)となる。このため、ドレイン孔41における、軸方向においてステアリングホイール81が位置する側の端部は、最小角度θ1での落下箇所D1を含んで形成されれば良い。
【0087】
また、ステアリングコラム10の回動状態が、ステアリングシャフト82の角度が最大角度θ2となる状態である場合は、液体落下点Pからハウジング20に対する液体Fの落下箇所D2とD0との距離W2は、W2=Ltan(θ2)となる。このため、ドレイン孔41における、軸方向においてステアリングホイール81が位置する側の反対側の端部は、最大角度θ2での落下箇所D2を含んで形成されれば良い。
【0088】
従って、軸方向におけるドレイン孔41の幅W3は、W3=W2-W1=L(tan(θ2)-tan(θ1))となる。ハウジング20に形成されるドレイン孔41は、落下箇所D1と落下箇所D2とを含み、軸方向における幅がW3以上の幅で形成されることにより、回動軸Rを中心とするハウジング20の回動範囲内のいずれの回動状態においても、排水ガイド90の重力方向下方に位置する大きさで形成されることになる。これにより、ドレイン孔41は、ハウジング20の回動範囲内のいずれの回動状態においても、排水ガイド90から落下した液体Fを排出することができる。
【0089】
以上のように、本実施形態に係るステアリング装置80では、ステアリングシャフト82には、トルクセンサ50が配置される位置よりもステアリングホイール取付部82a寄りの位置に排水ガイド90が設けられ、ハウジング20には、排水ガイド90に対応する位置に、ハウジング20の内側と外側とを連通するドレイン孔41が形成されている。これにより、ハウジング20におけるステアリングホイール81寄りの部分からステアリングコラム10内に水等の液体Fが浸入した際に、液体Fが、排水ガイド90の位置からトルクセンサ50が位置する側に流れないようにすることができると共に、液体Fを排水ガイド90の位置から落下させることができる。また、ハウジング20おける排水ガイド90の重力方向下方には、ドレイン孔41が形成されているため、排水ガイド90の位置から落下した液体Fは、ドレイン孔41からハウジング20の外に排出することができる。この結果、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0090】
また、ドレイン孔41は、回動軸Rを中心とするハウジング20の回動範囲内のいずれの回動状態においても、排水ガイド90の重力方向下方に位置する大きさで形成されている。このため、ドレイン孔41は、ハウジング20の回動状態に関わらず、排水ガイド90の位置から落下した液体Fを排出することができる。この結果、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0091】
また、排水ガイド90は、キーロックカラー70が取り付けられる位置よりもステアリングホイール取付部82a寄りの位置にあるため、ハウジング20の内側に浸入した液体Fを、キーロックカラー70よりもステアリングホイール取付部82a寄りの位置で、排水ガイド90によって落下させることができる。これにより、キーロックカラー70がトルクセンサ50の近傍に配置されている場合でも、ハウジング20の内側に浸入した液体Fがトルクセンサ50に付着することを抑制することができる。
【0092】
つまり、ステアリングシャフト82に取り付けられるキーロックカラー70は、ステアリングシャフト82の外周面82bから突出するため、ハウジング20の内側に浸入してステアリングシャフト82を伝わる液体Fは、キーロックカラー70によっても遮ることができる。しかし、キーロックカラー70がトルクセンサ50の近傍に配置されている場合、キーロックカラー70の重力方向下方にドレイン孔41を形成するのが困難になる場合がある。この場合、キーロックカラー70によって遮り、キーロックカラー70の位置で落下した液体Fは、ハウジング20の内周面に対して落下することになり、ハウジング20の内周面に落下した液体Fは、ハウジング20を伝わってトルクセンサ50の位置まで流れることが考えられる。トルクセンサ50の位置まで液体Fが流れ、トルクセンサ50に液体Fが付着した場合、トルクセンサ50による操舵トルクの検知に、誤検知が発生する可能性がある。
【0093】
これに対し、本実施形態では、排水ガイド90は、キーロックカラー70よりもステアリングホイール取付部82a寄りの位置にあるため、キーロックカラー70がトルクセンサ50の近傍に配置されている場合でも、ハウジング20の内側に浸入した液体Fを排水ガイド90によって落下させることができる。このため、ステアリングシャフト82における、ハウジング20にドレイン孔41を形成し易い位置に対応する位置に、排水ガイド90を設けることにより、排水ガイド90の位置から落下した液体Fを、ドレイン孔41から排出することができ、液体Fがトルクセンサ50に付着することを抑制できる。この結果、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0094】
また、排水ガイド90は、ステアリングシャフト82の外周面82bに一周に亘って凹む溝部92を有するため、排水ガイド90をステアリングシャフト82に容易に設けることができる。この結果、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを、容易に適切に排出することができる。
【0095】
また、溝部92のステアリングホイール取付部82a側の部分には、微小凹凸部93が溝部92に隣接して設けられるため、排水ガイド90の位置に流れた液体Fを、微小凹凸部93によって重力方向における下方に流れ易くすることができる。これにより、排水ガイド90の位置に流れた液体Fを、溝部92における下側寄りの部分に溜め易くすることができ、液体Fを排水ガイド90の位置から落下させ易くすることができる。この結果、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0096】
また、ステアリングシャフト82は、ステアリングホイール取付部82aを有するアッパシャフト83と、アッパシャフト83に連結されるロアシャフト84とを有し、アッパシャフト83とロアシャフト84とは、軸方向に相対変位が可能に組み合わされており、排水ガイド90は、ロアシャフト84に設けられている。このため、ステアリングコラム10に、ステアリングホイール81の前後位置の調整を行う機能を持たせつつ、ステアリングシャフト82に排水ガイド90を設けることにより、ハウジング20の内側に浸入した液体Fを排水ガイド90の位置から落下させることができる。この結果、ステアリングホイール81のテレスコピック位置の調整が可能なステアリングコラム10において、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0097】
また、アッパシャフト83の内周面83cの一部は、ロアシャフト84の外周面84bの一部と当接するため、アッパシャフト83とロアシャフト84とを、連続する部材として配置することができる。これにより、アッパシャフト83を伝わって流れる液体Fをアッパシャフト83からロアシャフト84にスムーズに流すことができ、ロアシャフト84に設けられる排水ガイド90の位置から液体Fを落下させることができる。この結果、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0098】
[変形例]
なお、上述した実施形態では、排水ガイド90が有する溝部92におけるステアリングホイール取付部82a側の部分には、微小凹凸部93が設けられているが、溝部92に隣接する部分には、微小凹凸部93以外を設けてもよい。
図6は、実施形態に係るステアリング装置80の変形例であり、排水ガイド90に撥水剤94を塗布する形態を示す説明図である。排水ガイド90には、
図6に示すように、ステアリングシャフト82の外周面82b、即ち、ロアシャフト84の外周面84bにおける、溝部92のステアリングホイール取付部82a側の部分に、塗布された撥水剤94を有していてもよい。撥水剤94は、ステアリングシャフト82の軸方向における幅が、例えば溝部92の幅と同程度の幅で、溝部92に隣接して塗布される。
【0099】
撥水剤94は、液体Fを弾くことにより、ステアリングシャフト82の外周面82bで液体Fを流れ易くすることができるため、溝部92に隣接する位置に撥水剤94を塗布することにより、排水ガイド90の位置に流れた液体Fを、撥水剤94によって重力方向における下方に流れ易くすることができる。これにより、排水ガイド90の位置に流れた液体Fを、溝部92における下側寄りの部分に溜め易くすることができ、液体Fを排水ガイド90の位置から落下させ易くすることができる。この結果、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0100】
また、上述した実施形態では、排水ガイド90は溝部92を有しているが、排水ガイド90は溝部92以外によって設けられていてもよい。
図7は、実施形態に係るステアリング装置80の変形例であり、排水ガイド90が鍔部96により形成される形態を示す説明図である。排水ガイド90は、例えば、
図7に示すように、ステアリングシャフト82の外周面82bに一周に亘って、径方向における外側に向かって凸となっている凸部である鍔部96により形成されていてもよい。鍔部96は、ロアシャフト84と一体となって形成され、ロアシャフト84の外周面84bに一周に亘って、外周面84bから径方向における外側に突出して形成される。
【0101】
排水ガイド90を鍔部96により形成した場合、アッパシャフト83側から排水ガイド90の位置に到達した液体Fは、鍔部96によって遮られる。このため、排水ガイド90の位置に到達した液体Fは、鍔部96の位置からトルクセンサ50や出力軸85が位置する側には流れることができなくなる。鍔部96によってトルクセンサ50や出力軸85が位置する側への流れが遮られた液体Fが多くなった場合は、これらの液体Fは、鍔部96の外周部における、上下方向において下側に位置する部分に溜まる。鍔部96の外周部における下側の部分に多くの液体Fが溜まった場合には、液体Fは、自重によって重力方向下方に落下し、ドレイン孔41から排出される。これにより、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0102】
なお、このように排水ガイド90をロアシャフト84に鍔部96によって形成した場合は、アッパシャフト83の剛性は、鍔部96の剛性より高いことが望ましい。アッパシャフト83の剛性を鍔部96の剛性より高くすることにより、事故等によって車両に大きな衝撃が作用し、この衝撃によってアッパシャフト83とロアシャフト84とが縮む方向に軸方向に相対変位した場合、アッパシャフト83によって鍔部96を破壊することができる。これにより、アッパシャフト83とロアシャフト84とが縮む方向への軸方向の相対変位を鍔部96が規制することを抑制することができ、車両に大きな衝撃が作用した場合に、運転者に大きな衝撃が加わることを抑制することができる。
【0103】
また、排水ガイド90を凸部によって形成する場合は、凸部はステアリングシャフト82に対して別部材によって設けてもよい。
図8は、実施形態に係るステアリング装置80の変形例であり、排水ガイド90が環状部材97により形成される形態を示す説明図である。排水ガイド90は、例えば、
図8に示すように、ステアリングシャフト82の外周面82bに一周に亘って、径方向における外側に向かって凸となって配置される環状部材97であってもよい。環状部材97は、例えば、いわゆるOリングが用いられる。
【0104】
排水ガイド90を、環状部材97により設ける場合は、ステアリングシャフト82の外周面82bにおける環状部材97を配置する位置に、外周面82bの一周にかけて溝を形成し、溝に環状部材97を配置する。その際に、環状部材97が外周面82bから突出するように、環状部材97の線径を溝の深さよりも大きくする。或いは、溝の深さを、環状部材97の線径よりも浅くする。これにより、環状部材97がステアリングシャフト82の外周面82bから径方向における外側に向かって凸となる状態で、環状部材97を配置することができる。
【0105】
このように、排水ガイド90を、ステアリングシャフト82の外周面82bから凸となって配置される環状部材97により設けた場合も、アッパシャフト83側から排水ガイド90の位置に到達した液体Fを、環状部材97によって遮ることができる。これにより、アッパシャフト83側から排水ガイド90の位置に到達した液体Fを、環状部材97で落下させてドレイン孔41から排出することができるため、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0106】
図9は、環状部材97に角リング98が用いられる状態を示す説明図である。排水ガイド90を環状部材97により設ける場合は、
図9に示すように、環状部材97には角リング98を用いるのが好ましい。ここでいう角リング98は、Oリングと同様にゴム材料からなる環状の部材であり、周方向に見た断面形状が矩形状となる部材である。角リング98は、ステアリングシャフト82の外周面82bに対して略垂直となる面を有して外周面82bから突出するため、環状部材97に角リング98を用いることにより、排水ガイド90の位置に到達した液体Fを遮り易くすることができる。これにより、排水ガイド90の位置に到達した液体Fを、重力方向下方に落下させてドレイン孔41から排出し易くなるため、ステアリングコラム10内に浸入した液体Fを適切に排出することができる。
【0107】
ここで、ステアリングコラム10は、出力軸85側よりもアッパシャフト83側の方が上側に位置するように、ステアリングシャフト82が水平方向に対して傾斜する向きで車両に取り付けられている。このため、排水ガイド90が、鍔部96や環状部材97のようにステアリングシャフト82の外周面82bから凸となって形成される形状で設けられている場合、排水ガイド90の形状とステアリングシャフト82の角度と兼ね合いによって、排水ガイド90に液体Fが溜まってしまうことが考えられる。
【0108】
図10は、排水ガイド90の上端面90a側に液体Fが溜まり難い形状の説明図である。
図11は、排水ガイド90の上端面90a側に液体Fが溜まりやすい形状の説明図である。なお、
図10、
図11と、後述する
図12、
図13は、排水ガイド90の一部の形状についての説明図であるため、排水ガイド90は簡略化して説明に必要な一部のみを図示している。ステアリングシャフト82の外周面82bから凸となって形成される排水ガイド90における、ステアリングホイール81が位置する側の面を上端面90aとする場合、上端面90aが、
図10に示すように、径方向における内側から外側に向かうに従って上下方向における下側に向かう方向に傾斜している場合、液体Fは排水ガイド90に溜まり難くなる。
【0109】
これに対し、排水ガイド90における上端面90a側に、
図11に示すようにステアリングシャフト82とより形成される窪みがある場合、液体Fは排水ガイド90の窪みに溜まり易くなる。
図11に示すように、排水ガイド90の上端面90aとステアリングシャフト82とより形成される窪みに液体Fが溜まりやすいのは、排水ガイド90の上端面90aが、径方向における内側から外側に向かうに従って上下方向における上側に向かう方向に傾斜しているときである。
【0110】
液体Fが溜まり難い排水ガイド90の形状については、水平面に対する排水ガイド90の上端面90aの角度をθcとする場合、θcが最小となる時に上端面90aとステアリングシャフト82とより窪みが形成され易くなるため、水平方向に対するステアリングシャフト82の角度が最大角度θ2となるときの形状のみを考慮すればよい。
【0111】
つまり、水平面に対する排水ガイド90の上端面90aの角度θcが、
図10に示す形態を正とし、
図11に示す形態を負とする場合に、液体Fが溜まり難い排水ガイド90の形状は、水平方向に対するステアリングシャフト82の角度が最大角度θ2のときの、水平面に対する排水ガイド90の上端面90aの角度θcが、正になる形状であればよい。換言すると、排水ガイド90の上端面90aとステアリングシャフト82の外周面82bとでなす角度をθaとする場合、180°=θc+θa+θ2が成り立つ。このため、排水ガイド90の形状を、上端面90aに液体Fが溜まる窪みが形成されない形状にするためには、排水ガイド90の上端面90aの角度θcが、θc=180°-(θa+θ2)>0となるように形成すればよい。
【0112】
また、排水ガイド90が、鍔部96や環状部材97のようにステアリングシャフト82の外周面82bから凸となって形成される形状で設けられている場合、排水ガイド90の形状とステアリングシャフト82の角度と兼ね合いによって、液体Fが排水ガイド90を伝わって出力軸85側の方向に流れ易くなることが考えられる。
【0113】
図12は、排水ガイド90の下端面90bを液体Fが伝わり難い形状の説明図である。
図13は、排水ガイド90の下端面90bを液体Fが伝わり易い形状の説明図である。ステアリングシャフト82の外周面82bから凸となって形成される排水ガイド90における、出力軸85が位置する側の面を下端面90bとする場合、下端面90bが、
図12に示すように、径方向における内側から外側に向かうに従って上下方向における下側に向かう方向に傾斜している場合、液体Fは排水ガイド90の外周部90cから下端面90bには伝わり難くなる。
【0114】
これに対し、排水ガイド90の下端面90bが、
図13に示すように、径方向における内側から外側に向かうに従って上下方向における上側に向かう方向に傾斜している場合、液体Fは排水ガイド90の外周部90cを経て下端面90bに伝わり易くなり、下端面90bを伝って出力軸85が位置する側に流れ易くなる。液体Fが排水ガイド90の下端面90bを伝い難くなる形状については、水平面に対する排水ガイド90の下端面90bの角度をθdとする場合、θdが最小となる時に、液体Fが排水ガイド90の外周部90cから下端面90bに伝い易くなる形状になる。このため、液体Fが排水ガイド90の下端面90bを伝い難くなる形状については、水平方向に対するステアリングシャフト82の角度が最大角度θ2となるときの形状のみを考慮すればよい。
【0115】
つまり、水平面に対する排水ガイド90の下端面90bの角度θdが、
図12に示す形態を正とし、
図13に示す形態を負とする場合に、液体Fが外周部90cから下端面90bを伝い難い排水ガイド90の形状は、水平方向に対するステアリングシャフト82の角度が最大角度θ2のときの、水平面に対する排水ガイド90の下端面90bの角度θdが、正になる形状であればよい。換言すると、排水ガイド90の下端面90bと外周部90cとでなす角度をθbとする場合、180°=θb+θd+θ2が成り立つ。このため、排水ガイド90の外周部90cから下端面90bに液体Fが伝わり難くなる形状にするには、排水ガイド90の下端面90bの角度θdが、θd=180°-(θb+θ2)>0となるように形成すればよい。
【0116】
また、上述した実施形態では、排水ガイド90はロアシャフト84に設けられているが、排水ガイド90はアッパシャフト83に設けられていてもよい。排水ガイド90は、ハウジング20における、排水ガイド90の重力方向下方にドレイン孔41を形成することができる位置であれば、排水ガイド90を設けるステアリングシャフト82は、ロアシャフト84であってもアッパシャフト83であってもよい。
【0117】
また、上述した実施形態では、ステアリングコラム10にはトルクセンサ50が設けられているが、ステアリングコラム10に設けられるセンサは、トルクセンサ50以外であってもよい。ステアリングコラム10に設けられるセンサは、例えば、ステアリングシャフト82の回転角度を検出する舵角センサであってもよい。ステアリングコラム10に設けられるセンサは、ハウジング20の内側に配置され、ステアリングシャフト82の回転に伴う物理量を検出するセンサであれば、その種類は問わない。
【0118】
以上、本開示の好適な実施形態を説明したが、本開示は上記の実施形態に記載されたものに限定されない。実施形態や変形例として説明した構成は、適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0119】
10 ステアリングコラム
20 ハウジング
30 アッパコラム
35 軸受
40 ロアコラム
41 ドレイン孔
45 ギヤハウジング
46 取付ボルト
47 ピボットブラケット
47a 挿通孔
50 トルクセンサ
51 磁石
52 ステータ
61 軸受
62 軸受
70 キーロックカラー
80 ステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 ステアリングシャフト
82a ステアリングホイール取付部
82b 外周面
83 アッパシャフト
83c 内周面
84 ロアシャフト
84b 外周面
85 出力軸
86 トーションバー
90 排水ガイド
90a 上端面
90b 下端面
90c 外周部
92 溝部
93 微小凹凸部
94 撥水剤
96 鍔部
97 環状部材
98 角リング
101 ユニバーサルジョイント
102 中間シャフト
103 ユニバーサルジョイント
104 ピニオンシャフト
105 ステアリングギヤ
105a ピニオンギヤ
105b ラックバー
106 タイロッド
110 ECU
111 電動モータ
112 減速装置
114 ウォームホイール
115 車速センサ
116 イグニッションスイッチ
117 電源装置